ニュース速報

11月19日(金)

授業のネタを入手するために、私は学校のパソコンでいくつかの報道機関に会員登録をしています。その中の何社かは、事件か何かが起こると、ニュース速報的に画面の右下に通知を送ってきます。だいたい興味がなく邪魔くさいだけなので、現れたらすぐに消してしまいますが、今朝のニュースは、思わずそれをクリックしてしまいました。

大谷翔平選手がMVPに選ばれました。イチロー選手以来、20年ぶりだそうです。めでたい限りです。大谷選手は、シーズン後半の敬遠ラッシュがなければ、ホームラン王も取れたかもしれません。登板間隔の都合で10勝目を逃した時には残念な気がしましたが、MVP、それも満票での選出ですから、そんな小さな残念さなど、吹き飛んでしまいました。

“攻走守(最近は走攻守とも言うようです)三拍子揃った選手”とよく言われますが、大谷選手は“投攻走守四拍子揃った選手”ということになります。いや、野球界の万能の巨匠と評するべきでしょうか。ベーブルースとの比較がよくされていましたが、もはやレオナルド・ダ・ビンチの世界だと思います。

野球は野手と投手の間に画然と境界線が引かれているため、“エースで四番”はせいぜい高校野球までで、プロ野球で生まれることはありませんでした。でも、大谷選手ならそれが夢ではありません。そういう起用もあり得るような話がなされているようです。

イチロー選手がMVPを取った時には、“日本からアメリカへの最高品質の輸出品”とかって言われました。20年前に比べると、日本の輸出力はかなり衰えています。せめて優秀な人材を生み出すことで世界に貢献したいところですが、貧すれば鈍するで、それにも翳りが差してきそうです。お昼に入ったお店のテレビで大谷選手の輝かしい姿を見ているうちに、そんなことまで考えてしまいました。

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三線の音

11月18日(木)

授業の休み時間に職員室に下りると、ちょうどO先生がいらっしゃったところでした。わずかな時間しかありませんでしたから、軽く会釈して教室に戻りました。O先生はつい先日まで、数か月沖縄にいました。授業が終わってから、その話をたっぷり聞かせてもらいました。

沖縄と言っても、O先生がいたのは、本島ではなく、西表島でした。沖縄本島でも十分に東京とは違う空気を吸えますが、西表島ともなると、完全に文化の違いを感じるそうです。東京から直線距離で2000キロ、本島からでも500キロ近くあります。気候風土が大幅に違いますから、そこから紡ぎ出される文化も違って当然です。

マングローブや海に沈む夕日は、もう見飽きたと言っていました。街灯がないため、満月の明るさが存分に感じられるそうです。月明かりだけを頼りに歩くって、小説の中でしか知りません。前世紀末、まだこの仕事を始める前、中国の砂漠の端っこで満点の星を見上げましたが、それとはまたひと味違うのでしょうね。

O先生は持ち前のコミュ力を生かして、島の人と自然と社会から多くのことを吸収しました。島は人口が少ないため誰もが顔見知りなこと、よそ者のO先生にも気安く声をかけてくること、島外から運ばれるものは非常に高いこと、イリオモテヤマネコがヒトを含めた生態系の頂点に立っていることなど、興味深い話をたくさんしてくださいました。そして、島で覚えた三線を披露してくれました。「まだまだ」とのことでしたが、素人の私は、たっぷり沖縄情緒に浸れました。

話を聞いているうちに、うらやましくなりました。私は、旅行者として西表島を訪れることはあるかもしれませんが、O先生のように長期間滞在してこんなにも多くの得難い経験を手にすることはないでしょう。年齢とバイタリティーの差は、いかんともしがたいものがあります。せめて来年の夏休みこそは、3年ぶりに有意義に過ごしたいものです。これも感染状況次第ですが…。

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もうすぐなのに

11月17日(水)

国全体が外国人の入国に向けて少しずつ動いています。留学生もその例外ではなく、簡単に言えば長い間待たされた順番に入国できることになりました。その第一陣にXさんの名前がありました。国で仕事をしているXさん、午後のオンライン授業に遅刻することもたまにはありましたが、宿題や予習は忘れたことがなく、どんな課題にも果敢に全力で取り組んでいました。Xさんが入学した学期に教えましたが、優秀であるだけでなく、こういう勉強のしかたをしていればどんどん伸びていくだろうなと感じました。その希望の星のXさんがもうすぐ入国してくるとわかり、生のXさんに会って、上手になった日本語で話をするのを楽しみにしていました。

しかし、Xさんは第一陣で来られなくなりました。ご家庭の事情で、今学期いっぱいで一旦KCPをやめざるを得なくなったのです。私も残念ですが、Xさんの心中を察すると、慰める言葉も浮かびません。4月に再入学すると言っていますが、現時点では4月にすんなり入国できるか何とも言えません。

もちろん、Xさんの最終目標はKCPではありません。その先には大学院進学があります。もっと先には日本で働くという夢もあります。しかし、その夢が瀬戸際に来ています。日本への入国があまりにも遅れるようなら、日本留学をあきらめるという選択も現実味を帯びてきます。Xさんはイギリスの大学院を出ていますから、何が何でも日本に留学しなければならないという必然性、切迫感のようなものはありません。ただ、Xさんのような優秀な学生がわざわざ日本へ来てくれそうなのに、そのチャンスがつぶされるかもしれないというのがやりきれません。

ご家庭の事情はしかたありません。しかし、日本側の事情でXさんが日本留学を断念するなどということがないように、日本政府には動いてもらいたいです。すでに、日本留学をあきらめた若者が世界中にいるそうです。Xさんもその1人になってしまったら、とても悲しいです。

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観察眼

11月16日(火)

中間テスト。いつものレベルより1つ上のレベルの試験監督に入りました。名簿をざっと見渡すと、半分ぐらいの学生が1月期にちょっとだけ関わっています。3名が奨学金の面接で顔を合わせ、4名が受験講座で私の授業を受けています。その他、職員室で何かと話題になる有名人が何名かいました。

“こいつが出席不良でよく名前が挙がっているAか”“出願の時にひと悶着あったBって、わりとおとなしそうな顔をしてるな”“Cって、もしかすると、うちのクラスのDの恋人?”“東大を目指してるEって…なぁんだ、読解の問題、できてないじゃない”

学生を見て回る以外することがないというか、それが唯一最大の仕事である試験監督中は、学生観察が楽しみです。そんなわけで、教室内をうろうろしていたら、Fさんに呼び止められました。「先生、すみません。答えが書ききれないときは下に書いてもいいですか」と、ひそひそ声で、丁寧な物言いで聞いてきました。1月期のFさんはぶっきらぼうな口のきき方しかできず、内心しょっちゅうカチンと来ていました。それを思うと、ずいぶん成長したなと感じさせられました。

Gさんが試験の最中にトイレに行きたいと言い出しました。顔色が悪そうだったので、特別に認めました。しかし、何分経っても帰ってこず、ついに試験終了時刻となりました。そして次の科目の試験が始まるとき、ワクチンの副反応で具合が悪いと言いますから、早退を認めました。

試験終了後、担任のH先生が言うには、「ああ、I大学の発表を見ていたんですよ。私のところに何も報告がないということは、落ちたんですね。副反応じゃなくてショックで帰ったんですよ」。どうやら、だまされたようです。

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文法の向こう側

11月15日(月)

明日が中間テストですから、中級クラスの文法は復習兼まとめの授業でした。問題をさせて答え合わせをすると、次から次と質問が出てきました。例文を作る問題では、こういう文はどうかという声がそこかしこから上がりました。中には的外れなのもありましたが、概して鋭い質問、本質的な疑問でした。また、いくつもの文法項目を勉強したからこそ出てくる、微妙な違いを問う学生もいました。

文法は平常テストもやっていますが、本格的に振り返るのは中間テストが絶好の機会です。勉強を積み重ね、スパイラルに実力を向上させ、前の学期までに習ったことも含めて俯瞰できるようになったため、今まで気づかなかった疑問点が浮かび上がってくるのです。成長痛と言いましょうか、知恵熱と言いましょうか、力がついたからこそわからなくなることもあるものです。それを解決し、その壁を乗り越えた向こう側に、上級の地平が広がってくるのです。

午後、A大学のオンライン説明会に参加しました。そこで強調されたのは、コミュニケーション力です。入試の面接でコミュニケーション力を見る、入学後の授業でコミュニケーション力を伸ばすというように、ゼミに入る時点で日本人と議論ができるコミュニケーション力を持たせるとのことでした。コミュニケーション力のない学生は、例えば、協働して勉強を進める同じグループの学生にも悪影響を及ぼします。そんなことにならないように、大学側でも特に力を入れていると言っていました。

そういう話を聞くと、今学期前半の勉強内容の復習で妙に感心しているばかりではいけません。それは確かに進歩ですが、満足なレベルとは言い難いです。今の勉強は、進学してからの、留学本来の目標を達成するための土台です。この上にコミュニケーション力という前線基地を築くのです。

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終わりは始まり

11月13日(土)

明日が11月のEJU本番ですから、私が担当している受験講座の大半は今週までです。来週から暇になるかと言えば、決してそんなことはありません。今年は先学期から超過密スケジュールでしたから、仕事の積み残しや先送りがたくさんあります。まず、それをどうにかしなければなりません。そして、気が付けば11月中旬、受験シーズンたけなわですから、面接練習などが待ち構えています。

来週は、受験講座の資料の補修をします。不都合な箇所は見つけ次第直してきましたが、そろそろ全体調整をしなければなりません。科目によっては、資料そのもののリバイスも必要です。受講生にわかりやすい資料をと心掛けていますが、盛りだくさんになり過ぎている面もあります。また、EJUの模範解答も、スマートな解き方を見つけた問題がありますから、手を入れていきます。

進学資料の改訂も、今年は遅れてしまいました。必要最低限の資料やデータは揃えてありますが、学生を志望校に押し込むには、もうひと頑張り必要です。

日本語教師養成講座の教材作成も急がなければなりません。私が担当する諸々の科目間の調整を進めて、有機的に関連付けていきます。私は、養成講座の最大の役割は、日本語教師としての思考回路を形成することだと思っています。受講生の脳みその中に、普通の日本人とは違う、日本語教師特有の語彙や文法や発音などのネットワークを構築するお手伝いをするのが養成講座なのだという考えで講義をしています。そういうポリシーに照らし合わせて、講義や資料を見直します。

要するに、年末まで暇にならないということです。

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11月12日(金)

午前中、職員室で仕事をしていたら、宅配便屋さんが大きな段ボール箱の荷物を運んできました。「あっ」と言って、F先生が受け取りました。F先生のお父様からの、毎年この時期に届く荷物でした。「お世話になっている先生方へ」ということで、地元・長野のりんごを送ってくださるのです。

箱を開けると、ほのかな香りを放ちながら、真っ赤なりんごが並んでいました。今年はいつもの年より熟れているようです。去年あたりはうちへ持って帰ってから1週間ぐらい置いたような記憶がありますが、今年のりんごは今晩食べてもよさそうです。

私にりんごを見る目がないのか、単に安物だからいけないのか、毎年F先生のご実家からのに勝るりんごは食べていません。適度な歯ごたえと独特な舌触りと甘さだけではない味覚と、幾重にも楽しめます。年に1回のお祭りみたいなものですね。

私は東京生まれなので、Fさんにとってのりんごのような物がありません。東京バナナや雷おこしじゃ季節感が漂いませんしね。大昔なら浅草海苔という手もあったかもしれません。そういう意味で、誰もが納得する絶対の切り札を持っているのはうらやましいです。

そういう長野も油断はできません。温暖化が進むと、長野はりんごではなくみかんの産地になってしまうのだそうです。長野県は教育県ですから、いざとなったら栽培法の研究を進め、みかんを現在のりんごの地位にしてしまうことでしょう。愛媛みかんにも勝ってしまうかもしれません。でも、やっぱり、「長野みかん」ではなく「長野りんご」を食べ続けたいです。

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もうすぐです

11月11日(木)

私のクラスのHさんは、4月から国でオンライン授業を受けています。先学期のように全員がオンラインの時期もあれば、今学期のように対面授業にオンラインで加わることもありました。私たち教師は対面の学生とオンラインの学生の間に差が生じないように気を使っているつもりですが、完璧とは言い難いと思います。ネットの状態が悪い日もありましたし、教師の操作ミスで“???”となってしまったこともあったでしょう。カメラの切り替えを忘れて、教室の学生の顔を映したまま、ホワイトボードを使って説明を始めてしまうなどというのが代表例でしょうか。

そんな悪条件をものともせず、Hさんは、画面いっぱいに顔を映して、毎日授業に参加します。テストの際に顔をゆがめて問題に取り組んでいる様子が大写しになると、思わずヒントを出してあげたくなります。必死にノートを取り、大きく口を開けてコーラスし、チャンスを捕らえて発言し、誰よりも前向きに授業に参加しています。

そんなHさんに、ようやく入国のチャンスが巡ってきました。年内に入国できる線が見えてみたのです。それに関する校内の説明会が明日開かれます。もう通知は届いているはずですが、授業終了間際に画面を通してHさんに確認を取りました。「もうすぐ日本へ来られるね」と声をかけると、今まで見せたことのない笑顔でこっくりとうなずきました。本当に待ち焦がれていたのだなあと思いました。

東京の新規感染者は、先週より17名増えたとか。このまま、また急カーブで増加するなんてことはないでしょうね。国の方針が変わって鎖国に逆戻りしたら、Hさんだって心が折れてしまうかもしれません。明日は減少傾向に復帰することを祈っています。

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作文はきれいな字で

11月10日(水)

中級の作文ともなると、日本語の文章が書ければいいという問題ではありません。主張が明確かどうかが採点のポイントとなります。ここで言っている主張とは、“消費税増税に賛成か反対か”といった賛否を問うものばかりでなく、“来年挑戦してみたいこと”などという事柄を答える場合もあります。いずれにしても、テーマに対してきちんとした結論を出しているかが重要です。主張が明確な文章は構成がしっかりしていますから、書かせるときにその点を強調し、採点もそこを見ます。

同じ説明を聞いたはずなのに、提出された作文にはかなりの差が生じます。訴えたいことがすっと頭に入ってくる作文もあれば、何回読んでも“何が言いたいの?”と聞き返したくなる作文もあります。いや、作文などと言ってはいけません。日本語の文字の羅列です。文法や語彙の誤用が主張をぼやかすことはよくありますが、慣れてくるとそういうファクターを取り除いて、主張の明確さを見ることができるようになります。

ところが、私の採点には1つの傾向があります。それは、字のきれいな作文の点数が高いことです。見た目で作文を評価しているわけではありませんが、字がきれいだと一読して主張が理解できた気になってしまうようです。逆に、字が汚いと嫌悪感が先立ってしまいます。原稿用紙から無言の圧力を感じて心を閉ざしてしまい、主張を感じ取りにくくなっているのかもしれません。

これでは公平な評価とは言えません。そうはいっても、きれいな字を見て和んでしまう私の心を抑えることは、容易ではありません。入試の小論文を採点する先生方はどうなのでしょう。私ほどではないにしても、多少はそういう面があるのでしょうか。だからAIに採点を任せるという動きにつながっているんじゃないかな。

いまさら手遅れかもしれませんが、学生にはそんなことも伝えたいです。

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聞き覚えのある声

11月9日(火)

朝、仕事をしていたら、特徴のある声が聞こえてきました。今までずっとオンラインで授業を受けてきたJさんが初めて登校してきたのです。私も受験講座で接点があり、少し高めの声は耳に残っていました。顔を見ると、マスクで半分ぐらい隠れていますが、確かにZOOMの画面で見た面影があります。Jさんは、ご両親の仕事の関係で、普通の留学生とは違ってコースで入国してきました。待機期間が明けて、今朝、晴れて初登校となったのです。授業後は、1人きりのオリエンテーションを受けていました。

KCPでも、これから入国してきそうな留学生の受け入れ準備が始まっています。事務担当のNさんは、役所には何回電話をかけてもつながらないとぼやいていました。どこの学校も、来日する留学生への対応に追われているのでしょう。受け入れ側が遺漏なきよう万全を尽くしているのですから、健康な学生の入国はどんどん認めてもらいたいです。

今度の日曜日、14日は、EJUです。4月期以前から勉強してきた学生たちの受験講座は、今週が最終回です。ずっと国で受けてきたDさんもそんな学生の1人です。しかし、Dさんの来日はもう少し先になる見込みです。どうやら、今回のEJU受験は無理そうです。授業の最後に「今週で終わり」と告げたら、少し寂しそうな表情がうかがえました。今度は対面でみっちり鍛えたいです。

4月期にレベル1で、オンラインで教えた学生たちが、今学期レベル3で勉強しています。今学期は間に合わないかもしれませんが、来学期は会えることでしょう。その時はレベル4、中級です。そこは私のテリトリーですから、今度は生の学生たちに教えられることを、今から楽しみにしています。

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