Category Archives: 進学

みすみすミスをする

10月15日(水)

朝の授業前に、Hさんが、最終チェックをしてほしいと、B大学に出す出願書類を持ってきました。今週末が出願締切です。水曜日は午後授業ですから、Hさんが授業を受けている時間に、その出願書類に目を通しました。

見てみると、問題なしと言えたのが写真票と国の高校からの書類ぐらいで、あとはこのままB大学に送ったら確実に門前払いされるだろうと思われるほどの、不備だらけの書類でした。すぐにHさんの教室の前で待ち構え、休み時間が始まるチャイムが鳴るや教室に踏み込み、Hさんを捕まえました。そして、記入漏れ、明らかな誤記、見当違いの記載などを指摘しました。

午後授業が始まる直前、Hさんが書き直した書類を持ってきました。うーん、まだありましたねえ。というか、せっかく記入漏れを記入したのに、記入した事柄が間違っていたなんていうのもありました。初級の学生ならともかく、Hさんは上級の学生ですから、ここまでミスを重ねるとは思いませんでした。

確かにHさんはうっかりミスをしでかすタイプの学生です。しかし、こんなにまでミスが多いとなると、他の学生たちは果たしてまっとうな出願書類を提出しているのだろうかと心配になってきました。数年前、日本語学校からの書類が不要なのをいいことに、KCPの教師に誰一人相談もなくこっそり出願した学生が、書類不備で書類が突き返されてきて、こちらに泣きついてきたことがありました。見てみると、事前に見せてくれたら、その場ですぐに指摘できるような初歩的なミスを犯していました。

外国人が記入する書類ですからそれなりの配慮がなされているのでしょうが、それでも受験生にとっては難しいんでしょうね。こういうのこそ、AIに面倒を見てもらいたいです。

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つながり

10月10日(金)

昨日のこの稿で取り上げたYさんが、朝、職員室へ来ました。どのように勉強していけば進学できるか見当がつかず、とても不安だと言います。また、今のクラスには自分と同じ方向に進む学生が見当たらないので、誰か紹介してほしいとも。

国は違いますが、Bさんなら近い方向に進み、しかも、すでに進学先が決まっています。入学した時から日本語の面でもずっと努力を重ねてきましたから、きっと実体験に基づいた役に立つアドバイスをしてくれるでしょう。今学期は私の担任クラスにいますから、授業の時に頼んでみることにしました。Yさんには、午前クラスの授業が終わる12:15過ぎに2回のラウンジにいるように言って、授業に臨みました。

Bさんにそういう話をすると、快諾してくれました。たまたま近くにいた、Yさんと同じ国のGさんが、通訳を引き受けてくれました。Gさんは入学式のお手伝いでYさんと顔を合わせていましたから、一肌脱いでくれる気になったのでしょう。

午前の授業後、2人を連れてラウンジに下りると、Yさんが待っていました。BさんにYさんを紹介して、あとは2人で話してもらうことにしました。私は仕事もあったので、1階へ。しばらく経ってからこっそりラウンジをのぞくと、まだ話をしている様子でした。

勉強に関するアドバイスは、本当はこういうふうに、教師ではなく学生にしてもらえると。後輩の学生にとってより有意義なもののなります。KCPでは、クラブ活動などを通しても、先輩後輩のつながりを築く環境を作っています。YさんとBさんがどんな話をしたかわかりませんが、BさんがYさんの心のよりどころになってくれればと願っています。

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2人目

10月9日(木)

Sさんは今学期も朝6時半少し前に学校へ来て、ラウンジで勉強しています。ラッシュを避けて登校し、授業が始まるまでその日の予習をするという勉強スタイルを貫いています。4月期からずっと続けていて、1日も休んでいません。こっそりラウンジを除いても、朝ご飯を食べながら勉強していることはあっても、爆睡などということは、今まで1日たりともありません。立派なものです。

そのSさんが「おはようございます」と挨拶して2階へ上がっていってしばらくしたころ(と言っても7時前ですが)、もう1人、職員室に顔を出しました。昨日授業をしたレベル1のクラスのYさんです。Sさんは上級の学生ですから、9時から授業が始まります。しかし、Yさんの授業は午後1時半からです。始まるまで6時間あまりあります。住所を調べると、学校まで歩いて来られる所ではありません。Sさんと同じように、ラッシュは外そうという考えなのかもしれません。昨日出した宿題について質問し、ラウンジへ上がりました。SさんとYさんは同国人ですから、ラウンジへ行ってSさんにYさんを紹介しました。

午前の授業を終えて職員室に戻ると、Yさんが来ました。私にメモを見せました。そこには志望校とEJUの必要科目と足切り点、独自試験の科目が書かれていました。レベル1の学生がネットで調べて一つ一つ書き写して、こういう大学に入るには、今からどんな勉強を始めればいいかと聞いてきました。半日かけて資料を作り、質問の言葉を練り上げ、私に聞いたのでしょう。翻訳アプリの日本語を私の目の前に突き出す学生が多い中、実に見上げた姿勢です。

今からどんな勉強をすればいいかと聞かれましたが、レベル1だったらまず日本語です。それ以外の科目は、国の高校で勉強した教科書で復習するのが、初級の学生にとってはベストの勉強法です。

Yさんはやる気満々です。期待しましょう。

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会話テスト不合格

9月17日(水)

レベル1は、今、授業中に会話テストをしています。1日に2ペアぐらいずつ、その場で課題の絵を見せて、会話を作り発表してもらいます。課題の絵と言っても、学生にとっては初めて見る絵ではなく教科書に載っている絵ですから、手も足も出ないなどということはありません。教科書丸暗記を披露するのではなく、自然な会話を聞かせてほしいのです。さらに、教科書にはないオリジナリティーが加わっていれば、高得点につながります。

こういう仕組みなら、誰でも好成績が挙げられそうですが、そうは問屋が卸しません。Fさんはその典型です。テストではそこそこの点を取るのですが、話すことに関してはからっきしだめです。授業中に自ら進んで発言することはなく、例えばます形を与えてて形を言わせるなどというのをやらせてみても、まともに答えられたためしがありません。指名されて漢字教科書の例文を読むのが精いっぱいの所です。

そのFさんの会話テストがありました。ペアの相手はTさんでした。昨日会話テストだったのに休んでしまったという負い目があるのか、Fさんをたきつけて会話を盛り上げようとしますが、Fさんにはそう簡単に火が付きません。結局、Tさんの闘志(?)が空回りして終わってしまいました。私の採点は、Tさんは合格点、Fさんは甘くつけても合格点には届きませんでした。

KCPでは会話を重視していますから、このままでは、Fさんは進級できないかもしれません。でも、進級させたら上級になっても話せない学生を生み出すことに直結してしまいます。面接試験が重視される留学生入試においては、非常に不利であることは言うまでもありません。でも、おそらく、Fさんには危機感などないんですよね。

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まだまだ夏ですが

9月9日(火)

九月九日、重陽の節句、菊の節句です。しかし、そんな雰囲気は微塵も感じられず、日中は太陽パワー全開です。10月1日から衣更えの予定ですが、本当にできるんでしょうか。

そして、帳尻を合わせるかの如く、冬が駆け足でやってくるのでしょう。11月にはコートを着込むことになるとしたら、秋はひと月ほどにすぎません。となると、秋は味わうのではなく単なる通過点になってしまいます。今年の中秋の名月は10月6日だそうですが、それまでにススキは穂を出すのでしょうか。

季節の歩みは牛歩のごとくですが、受験カレンダーはトントンと進んでいます。明日とあさってはSさんがK大学の大学院を受験します。YさんはH大学の出願に使う出席成績証明書を申し込みました。先学期受け持ったUさんはあちこちの大学に出願しているようで、時折相談に来ます。金曜日には指定校推薦の校内面接第2弾が控えています。まだ暑いからと言ってのんびり構えていては、受験戦争に負けてしまいます。

日本語プラスの時間に、Rさんの模擬面接をしました。受験日の一番近いRさんを、他の学生の見本にしようという算段です。先週予告しておきましたから準備してきたのでしょうか、こちらの質問にすらすら答えてくれました。文法や言葉の使い方などのミスが全くないわけではありませんでしたが、誤解が生じるような間違え方ではなく、スムーズなコミュニケーションができました。見ていた学生のいいお手本になりました。本番もこのくらいやってくれたら、合格の可能性がぐっと高まります。

東京の日没は17:58でした。太陽運行の上での秋は、着実に訪れています。

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よかったね

9月4日(木)

Sさんは、去年、新入生の学期に初級のレベル2で受け持った学生です。とてもやる気に満ちあふれていて、自分でどんどん勉強を進めていきました。語学のセンスもあったのだと思いますが、レベル2のテストは毎回満点に近く、次の学期はレベル4に、その次の学期はレベル6に上がりました。また、日本語プラスの受験科目の教師をつかまえては、あれこれ質問していました。

EJUでもしかるべき成績をあげ、去年の秋ごろから受験に臨みました。しかし、Sさんの志望する歯学部はどの大学も留学生をあまりとらないため、25年4月入学の入試はすべて失敗でした。理学部や工学部など普通の学部なら十分合格できたはずなのですが、一敗地に塗れることとなってしまいました。

そこでSさんは方針を変えました。何が何でも歯医者さんにならなければならないわけではありませんから、Sさんのしたい勉強ができて、留学生も入学しやすい学部を選ぶことにしました。そんな相談を受けたのが、先学期の中頃だったでしょうか。いくつか候補の大学を挙げ、Sさんに考えてもらうことにしました。

その中で、SさんはK大学を選びました。先週入試でしたから、夏休み直前に面接練習をしました。受け答えが今一つまとまっていませんでした。こうしたほうが印象が良くなる、簡潔ですっきりした答えになる、面接官の気を引くなど、山ほどコメントしてしまいました。

12:15に午前クラス終業のチャイムが鳴ると、選択授業のクラスの学生たちは帰っていきました。最後に残ったSさんが、帰り支度をしている私に「先生、K大学に合格しました」と報告してくれました。報告だけではなく、もうすぐ出願のY大学も受けたほうがいいかどうかという相談も兼ねていました。

1年遅れではありますが、まずはよかった、よかった。受験すべきかどうかは、どちらの大学のほうが、Sさんの勉強したいことが勉強できるかにかかっています。そういうヒントを出しておけば、Sさんならきっと最善の道を選び取ってくれるでしょう。

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不安材料

9月3日(水)

レベル1は中間テスト後の面接が真っ盛り。授業前にKさんとJさんの面接をしました。

Kさんは美術系の大学への進学を考えています。しかし、現状では日本語力が足りません。授業中はいつも一生懸命練習していますが、なかなか日本語力が伸びてきません。聞く力と話す力が問題です。詳しく話を聞いてみると、学校外でそういう練習をしていないようです。今は教科書に付いているQRコードから直接聴解教材にアクセスできますが、そういうのを存分に利用している形跡がありません。また、志望校についても、東京藝術大学しか出てこないようでは、研究が足りません。

2027年進学だとしても、留学生入試は来年の今頃です。残された時間は1年半ではなく、1年なのです。少しは焦ってもらわなければなりません。でも、そういう切迫感みたいなものは、Kさんからは漂ってきません。留学生活をエンジョイするのは結構ですが、進学にも目を向けないと、泣きを見ることになります。

Jさんは中間テストの成績がよく、レベル1から3にジャンプするのもありかなと思いました。しかし、本人はレベル2をしっかり勉強して、レベル2から4へのジャンプを狙うと言います。堅実です。こちらは大学で経済を勉強するそうですが、現時点では超有名大学を志望校に挙げています。本気でそこを狙うなら、来年の6月のEJUで高得点を取る必要があります。そのためには、2から4に進級するくらいの勢いで突き進んでもらいたいです。そういう意気込みが感じられましたから、有望株の1つとしておきましょう。

でも、何よりも心配なのは、Yさんです。授業後に面接の予定だったのですが、用事があると担任のM先生に連絡してきて、学校を休んでしまいました。どんな用事か知りませんが、レベル1のうちからこんな調子で気安く休んでいるようだと、将来は決して明るくはなりません。

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グラフは嫌い?

8月5日(火)

選択授業の小論文は、中間テストをしました。今学期の前半はグラフを読んで小論文を書くということを目指してきましたが、先週の小論文は書けている学生が少なかったですから、中間テストは別の題材にしました。

書けていない原因として、まず、全体的にグラフが読めていないという点が挙げられます。2つのグラフを組み合わせて何か情報を得るということをしてもらいたかったのですが、その域に達している学生は少なかったです。個人作業にせず、数人で話し合わせてから書かせればよかったのかもしれません。三人寄れば文殊の知恵といいますから、額を集めて議論すると、面白い見方ができたのではないかとも思っています。

このまま中間テストでもグラフにこだわったら赤点続出になりかねないと思い、普通の問題に差し替えました。そう宣言した時、表情が明るくなった学生が3人ぐらいいました。グラフって、そんなに嫌なのでしょうか。大学や大学院に進学したら、文献を読むたびにグラフにぶち当たります。そのグラフから筆者の言わんとするところを読み取り、自分の研究に役立てていくということの連続です。その準備段階として、こういう企画を立てたのですが、すべってしまったようです。

来週の火曜日は選択授業以外の各科目の中間テスト、その次の週は夏休みですから、その間に態勢を立て直して夏休み明けの選択授業を迎えたいです。そして、期末テストでは、何とかグラフを読み取って書く小論文を出題したいものです。

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張り出し

8月1日(金)

指定校推薦の一覧表が張り出されました。老眼の目には厳しい大きさの字でびっしり書き込まれた表が、各階の掲示板にかなりのスペースを使って掲示されました。早い大学は9月上旬に出願締切ですから、我こそはと思う学生には今から準備を始めてもらう必要があります。そういう大学に推薦する学生は夏休み前に決定して、夏休み中に書類をそろえ、夏休み明けにすぐ出願というスケジュールでいきたいところです。

でも、多くの学生はその手前であきらめざるを得なくなります。出席率の規定があるからです。学校としては、いい学生だからこそ推薦するのであり、いい学生の条件の1つに出席率があるのはごく自然な流れです。絵に描いたような“後悔先に立たず”の学生が毎年出るのですが、今年も私の見えないところでほぞをかんでいる学生がきっといることでしょう。

しかし、本当の困り者は、指定校推薦入試で合格してから出席率が落ちる学生です。単に気が緩むのか、受かってしまえば入学まで遊び放題だと勘違いするのか、崩れてしまう学生がたまにいます。励ましたり脅したりして多少なりとも回復すれば、学生にとっても学校にとってもハッピーエンドです。しかし、崩れっぱなしとなると、指定校推薦は学校対学校の話ですから、学校も連帯責任を取らなければなりません。最悪の場合、恥を忍んで指定校推薦入試合格取り消しを申し出ることまで考えなければなりません。

それだけではなく、入学してからもいい学生であり続けてもらわねばなりません。KCPという旗指物を背負って4年間の大学生活を送るようなものです。その期待とプレッシャーに耐えられそうな学生を選ぶことが、私たちに求められるというわけです。そうです。選ぶ方も、プレッシャーがかかるのです。

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目標を作る

7月31日(木)

授業後に、上級クラスの面接3連発。今学期は、EJUの結果も出たので、卒業後の進路に関する面接を前倒しして行うことにしました。

MさんとWさんは大学院進学。2人ともすらすらと志望校、研究科、専攻の名前をすらすらと書きました。だから安心できるというわけではありませんが、目標が定まっているということは、指導もしやすいということです。出願に向けての準備も、着々と進めているようです。

Pさんは大学進学。6月のEJU日本語で300点は取れると思っていたのに、それに遠く及ばない成績でした。どうしていいかわからず、夜も眠れません。「11月に頑張ります」と言いますが、11月の結果が使えないところがたくさんありますから、それじゃ手遅れです。11月の結果が出るまで、すなわち年内は何もしないというのでは、行ける大学がなくなってしまいます。

Pさんの場合、将来の計画がはっきりしていない点が最大の問題です。日本でちょっと働いて国へ帰るというのでは、学部や学科の選びようがありません。絶対こうなりたいというものがないと、志望理由書も書けなければ、面接で突っ込まれても答えられません。10年以上昔の話になると思いますが、成績優秀だったのにどこにも受からなかったKさんが、やはり無目標でした。

手を変え品を変え、6月の成績で勝負できそうなところに出願することが大切だと説得しまくって、手が届きそうな2校について詳しく調べてみるというところまでこぎつけました。しかし、教師はここで安心してはいけません。Pさんの気が変わらぬように、常に常に見張って尻を叩き続けなければなりません。

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