Category Archives: 進学

知られざる大天才?

9月22日(土)

朝、パソコンを立ち上げると、Yさんからメールが来ていました。土曜日だから欠席の連絡じゃないし、何だろうと思いながら開くと、自分が書いた小論文を見てくれというものでした。Yさんは初級の学生ですが、1000字弱の文章を送ってきました。

内容は、日本人の言う「恥」について書かれていて、ユニークな切り口で考えさせられるところが多かったです。もちろん、文法や語彙の面では突っ込みどころが満載でしたが、発想そのものは興味深いものがありました。

Yさんは授業の時でも他の学生とは違った毛色の例文を書きます。教師が授業で示した文にちょっと手を加えただけの、安全運転の例文は書きません。日本語で日本の小説、それも芥川とか川端とかを読んでいるそうですが、その一場面を題材に選んだり、小説で覚えたと思われる単語を使ったりして例文を作ってくることもあります。今朝のメールは、その大掛かりなものだと考えれば自然な流れだと思います。

私はYさんのクラスの作文も見ていますが、Yさんは細かいところに気を使わなさ過ぎるところがあります。主張は立派なのですが、文法や表記のミスが多くて点数が伸びません。磨けば光るものを持っているのですが、Yさんには磨く気がないように思っていました。ですが、小論文を送ってきたところを見ると、何がしかの決意をしたのかもしれません。その決意を鈍らせないために、朝の予定を変更して、すぐに添削して返信しました。

Yさんも進学希望ですが、今年は受験しません。今から訓練を積んでいったら、Yさん固有の独創性と相まって、来年の受験期には読み手を引き付ける文章が書けるようになっていることでしょう。

出番なし

9月20日(木)

受験講座の時間が終わってもLさんはなかなか帰ろうとしません。私が帰り支度を進めていると、「先生、今からT大学に電話をかけます。ちょっと一緒にいてください」と声をかけてきました。Lさんは、今、ビザ更新中のため、手元に在留カードがありません。ですが、T大学の出願に在留カードのコピーが必要なのです。この場合、どうすればいいかということを聞こうとしているのです。

Lさんは上級の学生ですから、日本語で電話をかけたこともあるでしょうし、たとえかけたことがなくても教師が手伝ってやる必要などありません。でも、大学出願という一生がかかってくる手続きに関する問い合わせですから、いざというときの保険として教師を1人確保しておこうという気持ちもわかります。というわけで、しばらくそばで話を聞いていることにしました。

Lさんは少しびくつきながらも、話し方に多少強引なところもありましたが、在留カードがない場合はどうしたらいいかという一番肝心な質問の主旨は、きちんとT大学の担当者に伝えられていました。向こうからの返答を聞き取って理解するのに多少苦労していたようですが、住民票の写しで代替可能だということがわかり、ホッとしていました。すると今度は住民票の写しをもらうにはどうしたらいいかという疑問が湧いていましたが、これは私にでもどうにか答えられます。

最後まで私の出番はありませんでした。結構なことです。Lさんは初級から見てきており、会話がなかなかうまくならないと思っていましたが、この件に関しては当初の目的を立派に果たしました。成長を感じさせられました。

いつもと違う

9月11日(火)

朝、教室へ向かおうと外階段に出ると、スーツを着込んだSさんが私の後ろからついてきました。2人で一緒に教室に入ると、やはりスーツにネクタイのCさんが教室の隅に座っていました。そのCさんのそばには、ばっちりメイクをしてきたZさんがいます。午前の授業が終わったらすぐに、面接時の服装やメイクを指導してくれる特別講座があるのです。自分のファッションやお化粧について直接アドバイスしてもらおうと、馬子にも衣装みたいなスーツ姿で来たり、普段はスッピンに近い学生がきちんと口紅を塗ってきたりしているのです。

毎年、秋の衣替えが済んで、受験シーズンに差し掛かると、ネクタイの締め方を教えてくれという学生が数名私のところへ来ます。私は就職して以来何十年もネクタイを締めていますが、ネクタイの締め方は体で覚えてしまっていますから、改めて手取り足取り(いや、足は取りませんね、ネクタイなら)教えるとなると、戸惑ってしまいます。ましてやネクタイの選び方となると、自己流もはなはだしいですから、いくらオーソドックスに選ぼうと思っても、入試の面接の試験官の目には不自然に映るかもしれません。

そんなことなく、正統な着こなしや面接でのマナーを学んでほしいと思って、この講座が開かれたのです。私は学生指導などで講座の様子を直接見ることはできませんでしたが、参加した学生によると、ためになるアドバイスがもらえたとのことです。

人は中身だと言いつつも、見た目の第一印象でその人評価が決まる割合は50%を大きく上回るとか。志望理由書や研究計画書などの資料が豊富ですから、入試面接ではそこまで見た目の印象が占める割合は高くないとは思います。でも、決して無視し得ないほどの重さだと思います。

外見を整えるのも、面接官への気遣いであり、その学校への敬意の表れだと思います。今回の講座で得たことを生かして、合格に結びつけて、有意義な留学へとつなげていってほしいです。

期末に向けて

9月7日(金)

久しぶりにレベル1の授業。その前後に、そのクラスの学生の面接をしました。

Aさんは1学期だけ勉強して帰国する短期コースの学生です。期末テストの翌日に家族が来日し、富士山と関西を旅行して国へ帰るそうです。旅行をとても楽しみにしているようでした。国へ帰ったらすぐ仕事が始まります。大学卒業から入社までの休暇を利用して、KCPに留学したとのこと。日本はこういうことができないんですよね。私も修論の発表から入社式までの間に3週間ばかりヨーロッパ旅行しました。そのときの見聞が、今の私の根幹を成していると思っています。それよりもはるかに長い時間を、旅行者ではなく生活者として異国で暮らしてきたのですから、KCPでの留学がAさんの人生に与えるであろう影響は、かなりのものだと思います。

Cさんは日本で大学に進学するために、今KCPで勉強しています。でも、まだ、志望校どころか大学で何を勉強するかすら決まっていません。「経済ですか、文学ですか、化学ですか、もっと違う勉強ですか」と聞くと「経済」と答えましたが、もしかすると聞いてわかった単語が経済だけだったのかもしれません。受験が迫っている学生ばかりを相手にしていると、Cさんみたいな学生は何と間が抜けたと思ってしまいますが、レベル1に入学したばかりだとこちらが普通なのでしょう。鍛え甲斐があるとも考えられます。

授業後、Aさんは会話の練習の相手になってくれないかと言ってきました。残り少ない留学の日々を少しでも有効に使おうという意志を感じました。成績がいいCさんにはレベル3へのジャンプを勧めました。難しい課題に挑戦することで伸びていきそうな手応えを感じました。こういう経験ができるのが、一番下のレベルを教える醍醐味だと思います。

そろそろ

8月31日(金)

昼休みに、YさんがA大学の志望理由書を持ってきました。A大学全体や志望学部のホームページを読み込んでいることはわかりましたが、まだ自分の言葉になっていないところがあります。辞書で調べて固い表現を使おうとしているのはいい傾向ですが、その言葉が浮いているんですねえ。いかにも使いつけない単語をこねくり回しているという感じがします。誰にでも書ける文章ではないものの、インパクトがいまひとつという気がします。

Yさんの次はBさんが面接練習を申し込んできました。本番は3週間ほど先ですが、ちょっと内気なBさんが自分の光る部分を語れるようになるには、少々時間が必要です。来週から鍛えていくことにしました。

毎年、受験日直前になって、何を着ていったらいいかとか、ネクタイの結び方を教えてくれとか、靴下は黒じゃないとダメかとか、急に不安になった学生からあれこれいろいろと聞かれます。また、誰がどうひいき目に見ても絶対に似合っているとは言いかねる格好で試験場からKCPに寄る学生も少なくありません。今年は、服装関係の専門の方をお呼びして、面接試験を受けるときの服装の基本的なマナーについて講義していただくことにしました。その講義への参加者を募集したところ、講堂がサラッといっぱいになるくらいの人数になりました。

8月末日、締め切りが早い指定校推薦の校内選考の応募締め切りでした。クラスで「最終日」と聞いて私も応募したいと言ってきた学生が2名。しかし、2名とも志望学部が合わなかったため、応募には至りませんでした。

たった今、JASSOから6月のEJUの結果で奨学金の予約ができることになった学生への通知書が届きました。宛名を見ると、しかるべき学生がもらえることになったようです。

夏休みが終わり、8月も終わり、学校全体を受験モードにしていかなければなりません。

若いうちに

8月30日(木)

Sさんは今年の4月生で、T大学を第1志望校にしている初級の学生です。T大学は超難関校ですから、来年首尾よく入れるかどうかわかりません。その場合、どうするかという話になりました。要するに、T大学に入ることにこだわるか、1年でも早く進学することを優先するかです。

私は1年でも早く進学することを勧めました。Sさんは理科系の学生で、将来は研究者になろうと考えています。理科系の研究者は若いときにどれだけいい仕事をするかで人生が決まります。ですから、若くて柔軟な頭脳を1年間受験勉強というあまり創造的とは思えないことに縛り付けておくことには賛成できません。偏差値レベルとしてはT大学に劣る大学でも、そこに入って早く専門教育を受け、研究を進める力を身に付け、センスを磨き、1秒でも早く研究の第一線での競争に参戦することが、研究者としての人生をより実りあるものとすると思います。

また、理科系の場合、入りやすい大学に入って、大学院入試でいわゆる一流大学を狙うことも可能です。さらに、すでに故国を後にしている留学生なら、日本の大学から海外の大学院に進学することについても、日本人の大学生より壁が低いと思います。

KCPの営業的には2年勉強してもらったほうがいいです。でも、Sさんの理数系の実力をもってすれば、日本語の実力を順調に伸ばしていければ、年明けが独自試験となる国立大学なら、合格の芽もないわけではありません。だから、Sさんには1年で進学して、研究者として輝く道を進んでほしいのです。そういう意味で、Sさんは私にとって希望の星です。

亡霊

8月28日(火)

夕方、受験講座が終わって職員室に下りてくると、私のクラスのWさんがK先生と大学院の出願書類について相談していました。「先生、Wさんは授業中大学院の書類を書くなんていうことはしていませんでしたよね」とK先生。「ええ、全然そんなこと、ありませんでしたよ」と私。Wさんが授業中に書類作成するなんて、ありえなかったのです。午前中のクラス授業は欠席していたのですから。

Dさんは美大の大学院を目指す学生です。授業後に面接をすると、作品には自信があるけれども、面接官に何か聞かれたら上手に答えられるかどうかはわからないと言います。入学以来のDさんの成績を見ると、聴解がずっと悪いです。聞き取れないから答えられない、だから「読む」に力を入れてきてそれに頼り切って、その結果が上述の不安なのです。入学から1年余り、「読む」だけでテストの成績を整え進級を続けてきましたが、苦手の克服を怠ってきたツケが出願直前にいたって、覆い隠すべくもなく露になったのです。

先学期までのDさんは自信過剰で、聞き取れなくても話せなくても自分には実力があると思い込んでいました。しかし、今学期、いざ出願するに及んで、自分の作品のすばらしさも語れない、だから面接官にそれを伝えようもなく、日本語教師ではない一般の日本人が話す言葉がさっぱりわからないというコミュニケーション力のなさに愕然としています。

Wさんだって、一歩間違えればDさんです。授業をサボってどんなに立派な書類を完成させても、いや、書類が立派なら立派なほど、面接官はWさんの話す言葉とのギャップに愕然とするでしょう。最悪の場合、書類は自分で作ったのではないと判定されてしまうかもしれません。

学生たちはロングスパンの物の見方ができません。だから、学生が目先の事柄に捕らわれすぎていたら遠くを見させるのも教師の重要な役目です。明日からも面接が続きますが、熱に浮かされている学生を目覚めさせるのに苦労する毎日となるのでしょう。

覚悟を決めさせる

8月13日(月)

指定校推薦の推薦者を決める面接をしました。2名の学生が面接に臨みました。どちらの学生もまじめではあるのですが、いまひとつパンチに欠けます。

Mさんは、先学期まで受け持っていた先生方の話によると、いわゆるモラトリアム学生で、自分の進路を決め切れていません。指定校推薦の話を聞いて、自分は条件を満たしているので応募してみようかなというのが本音のようです。志望理由書にはそれらしいことが書いてありましたが、小手調べのツッコミにもたじたじとなってしまいました。志望校の研究も足りないし、志望学部についても深く調べた形跡がありませんでした。

Sさんは、Mさんよりは調べが進んでいる様子でしたが、話し方がたどたどしい感じで、このまま本番の面接に出すわけにはいきません。志望理由書には立派な文言が書かれていただけに、そのギャップが目立ってしまい、大学の面接官は不審を抱くのではないかと思いました。

2人とも、本人としてはいい加減な気持ちではないのでしょうが、私の目からは全然まだまだ。合格ラインははるかかなたです。推薦するにしても、志望理由から徹底的に鍛え直す必要があります。考え方が甘いので、そこを突き詰めて、真に自分の学びたいことを見つけさせた上で出願させようと思っています。これに耐えられないのなら、推薦に値しないとして、ばっさり切り捨てます。

指定校推薦の制度は、大学側とKCPとの間の信頼関係に基づいて成り立っています。楽な入試制度としてしか見ていない学生や、学問に対する考えが深まらない学生は、いくら枠が空いていても推薦するわけにはいきません。MさんとSさんはそういう学生ではないと信じていますが、本当に推薦するならこれから相当引っ張り上げていかねばなりません。その過程で2人の人生に対する覚悟が定まれば、これもまた推薦入学制度の効果の1つです。

懐かしい顔

8月10日(金)

「卒業生のDさんが来ています」と声をかけられても、そのDという名前に記憶がありませんでした。8月、大学が夏休みになると、春にKCPを卒業した学生が顔を見せてくれることがよくあります。今年の1月期は上級クラスを受け持ち、多くの卒業生を送り出しましたが、Dという名前には心当たりがありません。でも、呼ばれているとなったら出て行かざるを得ず、ロビーのカウンターまで行きました。

すると、そこに立っているのは、今春の卒業生ではなく、何年か前の卒業生のDさんではありませんか。メガネをかけるようになっていくらか顔つきが変わりましたが、それでも卒業時の面影が十分に残っていました。思わず目を見開き口を押さえ、最大限のビックリの表情をしてしまいました。「先生、4年生になりました」といいますから、さらにもっとビックリ。毎度のことですが、卒業生に会うと8時間軸がぐちゃぐちゃになります。

Dさんはレベル1で入学し、最上級クラスで卒業しました。在学中は努力を欠かさないまじめな学生でした。私は入学の学期と卒業の学期を受け持ちましたから、より一層思い出深い学生です。その努力が実り、ある豊かな歴史を誇る街の国立大学に進学しました。入学以来3年余り、東京の喧騒を懐かしむことなく勉学に打ち込み、大学院も推薦で進学できることがほぼ決定しているそうです。その大学のパンフレットに出ていると言いますから、後でインターネットで確かめたら、Dさんの後輩に向けた一言が、写真付きで載っていました。

アルバイトの時給が安いといいながらも、充実した学生生活を送っていることがよくわかりました。東京からは遠いけれども是非KCPの学生にも来てほしいと言っていました。大学のおすすめリストが、また1つ増えました。

卒業生の声

8月6日(月)

今朝、メールを開くと、おととい進学相談に来たJさんから、A大学に出す学習計画の下書きが届いていました。大筋の内容はできているのですが、ストーリーの持って行き方が拙く、読んだ後の印象が薄いです。やる気が湧(沸?)いているうちにどんどん準備を進めるべきですから、私もすぐに上述のような意見を書いて返信しました。

ところが、教室に入ると、Jさんの姿がないではありませんか。メールの受信日時が昨日の夜になっていましたから、精根尽き果てて休んでしまったのでしょうか。でも、それでは本末転倒です。出てきたら、厳重注意です。

授業後はYさんから進学相談を受けました。Yさんは、留学生にしてはちょっと珍しい法学部志望です。C大学とH大学を本命としているのですが、両大学とも法学部は看板学部ですから、そう簡単に入れてくれません。滑り止めというか、現実的に勝ち目がありそうなところはどこでしょうかというのが、相談の趣旨です。

こういうときに私が薦めるのは、進学した学生が満足している大学です。すべての大学の教育システムややカリキュラムやキャンパスの雰囲気や留学生支援体制などに精通できるわけがなく、パンフレットやホームページも目を通すことができるのはごく一部に過ぎず、ということで、頼りになるのは卒業生が遊びに来た時の声、実際に進学した学生たちからの生の情報です。

私が耳にしている声では、M大学、F大学、S大学あたりは、進学した卒業生がみんないい大学だと言っています。G大学も、進学した学生が愛着を持っています。逆に悪い評判を聞いているのは……こちらはイニシャルだけでもやめておきましょう。