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いい大学とは

7月9日(月)

R大学の留学生担当の方がいらっしゃって、大学生活や大学・大学院の入試について説明してくださいました。あいにく始業日前でしたからあまり学生が集まりませんでしたが、参加した学生たちは非常に有意義な話が聞け、耳寄りな情報が手に入ったと思います。私も学生に交じって話を聞かせていただきました。私ですら行きたくなったのですが、現役の学生はなおのこと興味が引かれたのではないでしょうか。

R大学は伝統のある大学ですが、最近とみに勢いが増してきた大学だとも思います。社会の変化に対応して新しい学部を次々につくってきました。既存の学部に学科を設けるより、新たな学部を創設するほうが、大学そのものがその学問・研究に真正面から対峙しようとする意気込みを感じます。対官公庁の書類作成や折衝にもかなりのエネルギーを要したことでしょう。それを乗り越えて新時代を担う若者を育てようという心意気に拍手を送りたいです。

何より、R大学は、KCPから進学した学生たちが異口同音にいい大学だから是非後輩にも勧めてくれと言っています。有名大学でも進学した学生の口からよからぬうわさを聞くことが多い中、R大学とS大学はそういう話を全く耳にしません。これだけ学生を満足させるには教職員の皆さんのご努力がいかほどのものなのか、多少は想像がつきますが、私などうかがい知れぬものがきっとあるものと推察します。

今年はどんな学生がR大学を志望するでしょうか。どんな学生を送り込もうかなあと、R大学の方がお帰りになってから、あれこれ考えてみました。

進学先

7月3日(火)

昨日休んだら、机の上に書類が山のように積みあがっていました。多くが専門学校や大学から送られてきた学校案内や募集要項、オープンキャンパスのポスターなどで、何となく去年より出足が早いような気がします。日本人の18歳人口が減り続けているにもかかわらず、高等教育機関は増え続け、各校は留学生の確保に走っているというのがもっぱらの噂です。

私は、日本人学生がいないからといって、その代わりを安易に留学生に求めるのは間違っていると思います。サポートの体制が整わないうちに留学生を受け入れると、留学生の人生をつぶしてしまいかねません。いわゆる出口の問題を大学・専門学校と国が力を合わせてどうにかしなければなりません。現状では高等教育機関が留学生につけさせた実力を日本の国が全体として有効に活用しているかといえば、決してそうとはいえません。サブカルを楽しむにはいい国だけど、自分の一生を捧げるには疑問を覚える国なんじゃないでしょうか、留学生にとって日本は。

そんな中、M大学の方が入試の説明に来てくださいました。M大学には何年か前にGさんが入学しました。その後しばらく経って、悩んだ顔をしてKCPへ来ました。みんなでよってたかって励まして、どうやら大学を続け、もうすぐ卒業というところまでたどり着きました。M大学の方の話によると、Gさんが悩んでいたことは前向きな形で解決し、着実に専門性をつけているようです。

そして、M大学は入学のときから出口も考えて指導していることがわかりました。誰もが、華々しい一流有名企業に就職できるわけではありませんが、本人の希望に沿ってやりたいことができる会社に送ってくれているようです。M大学では総合的な人間力を養うとおっしゃっていましたが、これは学生にとって一生の財産です。

抱負を語れますか

6月23日(土)

昼ごはんから帰ってきて眠気がピークに達してきた頃、「金原先生、先生と話したいという学生が来ています」と声を掛けられ、カウンターを見ると、Yさんが立っていました。

YさんはW大学の志望理由書に頭を悩ませています。物理や数学の筆記試験でいい成績を取れば志望理由書は関係なくなるかと聞いてきましたが、もちろんそんなことはありません。むしろ、筆記試験が非常によくても志望理由書がひどかったら、落とされても文句は言えません。

Yさんが書いてきた志望理由書は、ありきたりの無味乾燥の内容なしで、ダメな志望理由書の典型例として保存しておきたいほどでした。「コンピューターに興味がありますからこの学科を志望しました」「W大学は多様性がある大学ですから死亡しました」「1・2年生で基礎の勉強をして、3年生から専門の勉強をします」「将来はみんなの役に立ちたいです」…。こんな文なら、私だって書けます。

Yさんを追及してみると、どうやら深い志望理由はないようです。「有名だから」が最大の志望理由かもしれません。「日本の高校に入学して、日本人と同じ試験を受ければ志望理由書は要らなかったのに」と、冗談とも本音ともつかないことを口走っていました。実際、大量の外国人高校生を入学させ、徹底的に受験勉強をさせ、日本人の高校生と同じ試験で有名大学に送り込んでいる過疎地の高校があります。Yさんみたいな若者が増えると、日本語学校はそういう学校とも競い合わなければならなくなるかもしれません。

私は、大学に進学する前に自分の将来設計について真剣に考える機会を持つことは、非常に有意義だと思います。そういうチャンスを与えられた留学生は、日本人高校生より幸せだとも思います。Yさんには考えるヒントを与えて、月曜日にまた相談に乗る約束をしました。

耐久レース

6月1日(金)

今年の、主に私立大学の入試日程を調べています。「6月中旬発表」などというところが多いため、日程を完全に把握するには至っていませんが、いろいろと思うところがありました。

まず、改めて学部名が多彩になったと感じさせられました。工、理、医、薬、文、法、商など、漢字1文字の学部名が多かった私が受験生だった頃と違って、グローバル・コミュニケーション、キャリアデザイン、情報コミュニケーション、コミュニティ福祉など、カタカナ花盛りです。漢字1文字組も、デザイン工学部、システム理工学部、創造理工学部、情報理工学部、総合数理学部、化学生命工学部、生命医科学部などカタカナと組み合わせたり漢語を加えて一ひねりしたりしています。漢字にしても、総合政策学部、政策創造学部、総合文化政策学部、人間健康学部、人間福祉学部、総合人間科学部、地球社会共生学部など、名前が伸びる傾向があります。学科名はこれに輪をかけて複雑です。勉強内容を細分化明確化して受験生を引き付けようと考えているのでしょう。私たちも各学部で何が学べるのか、学生自身がどういう将来像が描けるのかきちんと研究して、進路指導していなければなりません。

それから、受験が長丁場になる例が相変わらず多いということも感じました。まだ残暑が厳しい頃に出願したのに、最終結果が出るのは年が明けてからという例もあります。11月のEJUの結果が出るのが12月29日ごろだというのも、その理由の一端だと思います。結果が出るまでは長丁場ではなくても、合否が決まってから入学まで半年もある例が見られます。ギャップイヤーのように有意義に過ごしてくれればいいですが、気が緩んでしまうのではないかと、心配になります。

今月は、上位校のオープンキャンパスがぼちぼち開催され、こちらにも学生を送り込みたいです。おとといの進学フェアで盛り上がった学生の意識レベルを保っていこうと思っています。

逃げを打つ

5月31日(木)

先週末に外部で行われたEJUの模擬テストの成績を受験した学生たちに伝えました。このテストは、成績を見て一喜一憂するのではなく、知らない会場で知らない顔に囲まれてテストを受けるという、いわばアウェーの雰囲気に浸ること、40分で読解問題25問をきっちり解くこと、そういったことを実体験して、本番に備えることに意義があります。慣らし運転などという言葉は最近聞かなくなりましたが、まさにそれだと思います。

Lさんは読解の時間が足りなかったと言います。10分かかった問題もあったそうです。40分で25問ですから、どう考えても時間の掛けすぎです。これじゃいけないと軌道修正するための模擬テストですから、本番で同じ失敗を繰り返さなければ、模試を受験した甲斐があったというものです。

Hさんは読解の本文に引かれてしまい、問題を解くのを忘れてしまったと言っていました。残念なことですが、入試の問題文は楽しんではいけません。興味がそそられても、内容がおもしろくても、問題なのだと割り切る必要があります。Hさんも自分の失敗に気付いていますから、本番はどうにかしてくれるでしょう。

さて、申し込んだ学生の9割はきちんと受けましたが、残りの1割は当日欠席しました。その1割の学生を呼び出しました。欠席の理由は、寝坊だったり試験があることを忘れていたりと、緊張感のかけらも感じられませんでした。さらにひどいのは、召喚に応じなかった学生たちです。Jさんにいたっては、授業には出ていたのに逃げ帰ってしまったようです。自分の行動に対してあまりにも無責任です。この模擬テストはKCPが単独で行うのではなく、T専門学校のご好意により参加させていただいているのだということを、学生たちには繰り返し伝えました。それでもしょうもない理由で休んだり、その理由を述べることすらどうにか避けようとしたりするなど、言語道断です。

これらの学生の行動は、記録簿にしっかり明記しておきました。卒業するまで、いや、卒業後もずっと残ります。KCPは、永久に不滅ですから…。

6階の満員電車

5月30日(水)

こういう日に限って、授業後に追試を受けたいとか質問があるとかいう学生が多く、一刻も早く進学フェアの会場へ行きたかったのに、結構時間を食ってしまいました。そんなわけで、私が会場に入ったときは満員電車状態。どの大学のブースも、学生が鈴なりでした。

迷える子羊状態の学生がいたら、その場であの大学に行けとかそっちの大学の話を聞いてこいとかアドバイスするつもりでしたが、そんな学生はほとんどいませんでした。フェアが終わった後で参加してくださった大学の方にお話を伺ったら、下調べをしてこのフェアに臨んだ学生が多かったと、異口同音におっしゃっていました。先週からそういう指導をしてきた甲斐がありました。

それからもう1つ、大学の方が強調なさっていたことは、日本語力の大切さです。日本語でコミュニケーションが取れなければ、大学や大学院に進学しても伸びません。授業がわからないのは論外ですが、教授も自分の指示が伝わらない学生は研究の手助けもできませんから、面倒を見たくないのだそうです。日本語学校の教師は日本語のわからない学生の面倒を見るのが仕事ですから、教師が学生側に1歩も2歩も踏み込んであれこれ手助けしますが、大学の先生方はそれが主たる業務ではありません。日本語がわからなくて研究の足を引っ張りかねない学生が敬遠されるのも当然のことです。

一番困るのは、資料だけをもらって、それで満足してしまった学生です。そういう学生は、資料を読みもしないことが多いです。なんだかそれっぽい学生を何人か見かけたことが、少し気懸かりです。

学生を幸せにする大学

5月29日(火)

Yさんは今の校舎を建てている時の、仮校舎時代の卒業生です。J大学とS大学に合格し、母国でも名の通っているJ大学に進学しろという親と大喧嘩した末、自分の勉強したいことが勉強できるS大学に進学しました。S大学で大学院まで進み、就職戦線も勝ち抜き、大手のK社から内定を取りました。生まれて初めて親に逆らってまでS大学に入ったことが、日本人学生も羨むような会社への就職に結び付いたのです。

YさんがJ大学を受けたのも、やっぱり有名大学の学生になりたかったからです。しかし、面接練習の受け答えには鋭さが欠けていました。Yさんの本心を知っていたからかもしれませんが、いかにも作り物の答えというにおいがぷんぷんしていました。それでもJ大学に受かってしまったのですから、優秀な頭脳を持っていたのだと思います。

S大学のときは、包み隠さず本心を吐露すればそれが面接の答えになりますから、実にのびのびとこちらの質問に答えていました。パンフレットを読み、現地を見て、どうしてもこの大学で学びたいという気持ちが募り、それも面接本番に表情やことばのはしばしからほとばしり出たのでしょう。

世間的には本命のJ大学、滑り止めのS大学ですが、Yさんにとっては世間体のJ大学、本命のS大学でした。YさんがS大学で大いに努力したことは確かですが、それを苦しいとか辛いとか思っていませんでした。勉強したいことを勉強している喜びのほうがはるかに大きく、KCPへ来た時はいつも生き生きとした顔をしていました。その延長線上に、K社への就職内定があるのです。

やっぱり大学は名前よりも学問の中身です。明日は校内進学フェアですが、そこまで考えて大学担当者の話を聞いてもらいたいです。

わずか1時間

5月28日(月)

授業後、クラスの学生の面接をしました。中間テストの結果をもとに成績、進路や生活について話を聞き、アドバイスをしたり相談に乗ったりします。時には説教もします。

Yさん、Gさん、Cさんの3人の話を聞きましたが、3人に共通していたことは、自宅学習が1時間ということです。今学期でKCPをやめて帰国するとか言うのなら大目に見てあげてもいいですが、3人とも大学院や大学への進学を希望しています。たった1時間では宿題も満足にできないかもしれません。いわんや、受験勉強なんかしていないに等しいです。Yさんは6月のEJUは受けずに11月で勝負すると言っていますし、Gさんも6月の成績はあまり期待していないと弱気な発言をしています。大学院志望のCさんも、7月に受けることになっているJLPTの勉強が進んでいる気配は感じられませんでした。

アルバイトで忙しいというのなら、好ましいことではありませんが、勉強時間が1時間というのも理解できます。しかし、3名はアルバイトをしていません。Yさんは宿題をしたらすぐ寝てしまい、日々の睡眠時間は12時間だそうです。Cさんは日本の音楽を聞いたり小説を読んだりしているそうですが、中間テストの読解が不合格では、その効果は疑わしい限りです。Gさんにいたってはさらに要領を得ず、毎日何となく時間が過ぎているそうです。

志望校にしても、大学院受験のCさんは自分の研究したいことができるところを2校見つけていますが、Yさんは特に根拠がなくN大学と言い、Gさんは全く何も決まっていない状況です。30日に行われる校内進学フェアで目を見開いてもらわねば、どうにもならなくなってしまいます。

受験講座に出ている学生たちはこんなことになっていませんが、私たちのチェック網をすり抜けている学生たちの動向が気になります。面接した3人みたいな学生が他のクラスにも同じようにいるとしたら、今年の進学はどうなってしまうのでしょう。

好印象

5月22日(火)

授業を終え、教室から外階段を下りて職員室に入ろうとすると、3月に卒業したGさんがいました。Gさんは進学先がなかなか決まらず、卒業式が過ぎて、期末テストの頃にS大学に合格しました。ですから、6月のEJUを申し込んでしまっていたのです。その受験票が先週末に学校に届き、それを受け取りに来たというわけです。

「EJU、受けるの?」「はい。大学の授業を聞いて受験勉強の内容がわかるようになってきたところもあるし、大学の授業を理解するために高校の教科書を勉強しなおしていますから」「大学の勉強はおもしろい?」「出席率100%ですよ」「当たり前だろ、まだ1か月ちょっとなんだから」「でもS大学は思っていたよりいい大学です。大学院進学や就職にも有利みたいだし」「そうだよね。S大学だったら日本だけじゃなくて世界に出ても勝負できるよ」「でも、出席を全然取らない授業もあるし、プリントを持ち込んでもいいテストもあるし、甘い感じもします」「自分で自分をコントロールできないと生きていけないんだよ。変に安心していたら、成績が出てから泣くぞ」

進学先に絶望して仮面浪人しているわけではなさそうなので、安心しました。1か月半で新入生の心を捕らえたのですから、S大学は大したものだと思います。でも、反面、授業の管理は私が学生のころとあまり変わっていないようでもあります。その後、T大学に進学したKさんから、スマホを使った厳密な出席管理の話を聞かされましたから、なおさらS大学のおおらかさが浮かび上がりました。

こういう情報をもとに、在学生の進路指導をしていきます。S大学は、大きなプラスポイントを得ました。

1年かけて

4月28日(土)

S大学に入ったKさんが、ビザ更新に必要な書類を申し込みに来ました。「大学、楽しい?」と聞いたところ、にっこり笑って「楽しい」と答えていましたから、本当に大学生活をエンジョイしているようです。でも、KさんにとってS大学は目標にしてきた大学ではありません。S大学は、私などからすると十分に“いい大学”ですが、KさんにとってはS大学生とは世を忍ぶ仮の姿に過ぎません。今年、I大学を受けると言います。

Kさんは大学院まで行くつもりでいます。だったら、S大学で4年間しっかり勉強し、大学院でI大学に進むべきです。時間がもったいないです。若いときの1年は、特に研究者にとっては、非常に貴重です。その1年を犠牲にしてまで、S大学ではなくI大学に進まなければならない理由が、私には見えません。I大学生え抜きでI大学大学院に入りたいのなら話は別ですが、そんなことに価値を置く人など、いまどき誰もいません。

研究にはひらめきと冒険心とタフな肉体と何でも吸収できる柔軟な頭脳及び精神が必要です。この5つが5つとも備わっているのは、若いときだけです。経験を保守的に利用するようになったら、研究者としての寿命は尽きたと言ってもいいでしょう。いつ寿命が尽きるかは、人それぞれです。だから、一刻も早く研究者としての実力を養い、第一線で活躍できる時間を少しでも長くしたほうがいいのです。

S大学なら、一流の研究者としての基礎教育を確実に受けることができます。今年1年かけてI大学に入り直し、また同じような基礎教育を受けるのは、時間の無駄に思えてなりません。

このような話をKさんにしました。でも、Kさんは仮面浪人するんだろうなあ…。