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お前の目は節穴か

11月7日(水)

自分の間違いを自分で発見し、自分で直せるようになったら、一人前に一歩近づいたと言えるでしょう。学生たちのノートをチェックすると、同じレベルでもこの力の差がけっこう大きいことに気づかされます。

クラスでディクテーションをして、何人かの学生に答えをホワイトボードに書かせ、その正誤をみんなで判定し、間違った部分を赤で直し、全学生がその正答を確認しています。しかし、後日ノートを集めて点検すると、細かいところまできちんと直している人もいれば、明らかな間違いを放置している人もいます。学生の性格によるところもあるでしょうが、概して成績のよくない学生は間違い放置組みにいます。日本語がゼロに近い学生なら直してあげもしますが、そこそこ日本語がわかるはずのレベルの学生だと、「自己責任」を取らせたくなります。でも、そうするとその差がますます広がるばかりなので、あーあと思いながら赤を入れます。

間違いに気づかない学生は、自分の答えは絶対に間違っていないと信じ込んでいるのでしょうか。その面々を思い浮かべるに、そこまで傲慢な人たちだとは思えません。これも、社会心理学などでいう正常性バイアスの一種だと思います。教師が「ここはみんなが間違えやすいから気をつけろ」と言っても、自分は間違えることなどないだろうと勝手に決め付けてしまい、正しい判断をせず、したがってしかるべき処置もとらず、間違いが放置されるのです。教師がチェックして直せば、そして、その教師の指摘を受け入れれば、テストで減点されるなどの最悪の事態は免れます。しかし、そういうバイアスのかかった目で見ると、教師の入れた赤も学生の目には映らないことだってあるかもしれません。

今度の日曜日はEJU、来週の木曜日は中間テスト。今学期も時間がどんどん流れていきます。

赤からの出発

11月6日(火)

先週の選択授業で学生たちに書かせた小論文を返しました。でも、その前に、各学生の文章から1つずつ選んだ誤文を並べ、それを直させました。先週書き上げたときには、書いた本人は気がつかなかった間違いを、違った目で見て直すのです。

他人の間違いは蜜の味なのでしょうか、思いのほか真剣に取り組み、岡目八目なのでしょうか、わりと要領を得た答えが返ってきました。書いた本人にどこまで響いたかはなかなか測り難いのですが、同様のミスが少しでも減ってくれればやった甲斐があるというものです。

私が担当しているのは中級クラスで、前回が初めての小論文でした。ですから、まず、小論文の型ができているかどうかで成績をつけました。客観的な論理や深い考察があればそれに越したことはありませんが、いきなりそれを求めるのは無理というものですから、上級の文章を見る目は封印しました。

そんなふうに甘めの採点でしたが、ほとんどの学生は原稿用紙が血まみれになりました。前後を入れ換えたほうがいいとか言い方を変えたほうがいいとか、もちろん、誤字脱字とか、隙間なく赤が入って変わり果てた自分の小論文を見て、呆然としていた学生もいました。

ひとつ気になったのが、「~と思う」の多用です。日本語の限らずどんな言語でも、言い切りの形が主張を最も強く表現するものです。しかし、学生たちの小論文にはいたるところに「~と思う」があり、ひ弱な印象を受けました。上述の間違い探しにも入れ、読み手の印象を薄くする「~と思う」について解説しました。

もし、学生たちが批判を恐れて言い切りを使わなかったとしたら、由々しきことです。批判も起きないような意見は存在意義がありません。万人受けする意見は、毒にも害にもなりません。学生たちには、毒にも害にもなるスパイキーな小論文を書いてもらいたいです。

どこでもいい

11月5日(月)

受験講座の後、Lさんから絶対に合格できる大学はないかと聞かれました。LさんはすでにT大学に出願しています。また、以前、T大学以外にもいくつかの大学を紹介しています。その中から何校か出願するようですが、それだけでは不安なので、さらに安全確実な大学が知りたいということです。

Lさんは去年の1月に入学した学生ですから、今年の12月に卒業で、それまでにどこかに合格を決めなければなりません。年を越して受験することは認められません。そのため、焦っているのです。学部学科はどうでもいいから、とにかく受かる大学をと言い出す始末です。

最近、入管の指導が厳しくなり、1月入学生は翌年の12月に確実に出国しなければなりません。ですから、事実上、その後が受験日となる国立大学は受験できません。進学するなら、1年3か月で日本語学校を終えるようにという考えです。KCPはこの入管の考えに沿って学生を指導していますから、Lさんは、国立大学はきっぱりあきらめ、11月のEJUも受けず、6月の成績で合否が決まる年内に発表がある大学に照準を合わせています。

こういう入管の方針が、国外でどうもあまり理解されていないきらいがあります。入管も日本語学校のいろいろな方法で伝えてはいますが、周知徹底という段階には至っていません。1年3か月で進学しようと思ったら、1月に入学する学生は、中級ぐらいの日本語力をつけている必要があります。ところが実情はそうじゃないんですねえ。

ぼやいたところで規則は変わりません。Lさんを始めとする学生たちに、規則を守って後ろめたいところのない形で卒業進学させるのが、私たちの役目です。

何も見ずに

11月2日(金)

私が西立川駅に着いたのは8:20頃でしたが、すでにいつも朝早く学校へ来る学生が何名か開門を待っていました。昭和記念公園でBBQをするときいつも心配なのは、電車が止まることです。中央線が運転見合せなどということになったら、行事自体を中止しなければならないかもしれません。でも、そんなことはなく、三々五々、先生も学生も集まり始めました。

BBQが始まると、私はいつものように火付けお世話係です。火をつけるとみんなうちわであおぐのですが、炭に火が燃え移るまでは我慢しなければなりません。炎を吹き消してしまうことにもなりかねませんから。そして、炭が赤くなったら、真上から思い切りあおぎます。酸素をどんどん送り込んで、火勢を強くします。でも、ここで寝ている赤ちゃんに風を送るようにやさしくあおいでいるんですよね、学生たちは。私が腕がちぎれんばかりにあおぐと、みんな目を丸くして見ていました。

BBQ恒例の料理コンテストは、きのこ料理というお題で各クラスが腕を競いました。今年は予選があって、予選通過作品のみ本選審査員が賞味するということになっています。さすが、予選を勝ち抜いてきただけあって、私のところまで運ばれた料理は一流のものばかりでした。甲乙つけがたいところを無理やり順位付けをして、審査員が一斉に発表したところ、私が選んだ料理は多数決で敗れてしまいました。でも、お金を払ってでも食べたい一品、いや逸品料理でした。

料理コンテストが終わると、すぐにごみの分別チェックです。中には分別がまるでできていないクラスもあり、一緒に分別し直していたら、持って行った軍手がぬちゃぬちゃになってしまいました。ペットボトルのラベルをはがしてつぶして持って来たクラスもあったんですけどね。

気がついたら解散時刻。そういえば、園内の花や紅葉を全然見てなかったなと思ったのも、後の祭りでした。

学園祭で休み

11月1日(木)

午後、職員室で受験講座の準備をしていると、2人の学生がもじもじしながら声をかけてきました。そのちょっと前から職員室内のテーブルで何か書いていましたから、どこかのクラスの再試の学生かもしれません。私のクラスの学生ではありません。でも、私のそばに何人かの先生がいらしたにもかかわらず私に声をかけてきたということは、時節柄、進学相談かもしれません。「えっ、私?」と聞きながら2人の顔をよく見てみると、今年の3月に卒業したRさんとSさんではありませんか。さっきまで取り組んでいたのは、近況報告の用紙でした。

聞いてみると、学園祭で休みだからKCPまで顔を出しに来たそうです。週末まで、Rさんの大学は5連休、Sさんの大学は4連休です。

「そんなに休んじゃったら、高い授業料、もったいないじゃない」「あ、そういえばそうですね」「学園祭は何もしないの?」「はい、やる気になっているのはごく一部の学生で…」「RさんもSさんも一部じゃないほうなんだ」「ええ、まあ」

…というような会話を交わしながら2人の近況報告を読むと、理系のRさんはけっこう忙しそうですが、文系のSさんは“遊びと両立”なんて書いてあるくらいですから、そんなに忙しくもないようです。学生たちは、入試の面接練習の時には「勉強のほかにサークル活動もして…」などと言っていますが、実際には無所属が多いみたいです。日本人と交わるにしても、限られた範囲なのでしょう。

明日はKCPの学園祭みたいなBBQ大会です。各クラスでそれぞれ準備が進んでいます。お天気は心配ありませんが、料理の味はどうでしょうか…。

赤点

10月31日(水)

「はい、3時ですから15分休みましょう」と言って職員室へ帰りかけたところにKさんが来ました。「授業の後で先週の漢字テストの再試を受けてもいいですか」「はい、いいですよ」。

そして、授業後。発音チェックを受ける学生に混じって、Kさんが再試のテスト用紙をもらいにきました。制限時間10分ですが、発音チェックを2人こなした5、6分後に解答用紙を持って来ました。即、採点を始めると、Kさん、小さい声で「あっ!」。自分で自分の答えの間違いに気づきました。その間違いも含めて85点で、合格でした。

しかし、Kさんはまた新たな再試を抱えてしまいました。授業の最初に行った今週分の漢字テストでが、また不合格だったのです。どうやらKさんは漢字が徹底的に弱いようです。苦手意識が先立って、合格点を取るのをあきらめてしまっているのかもしれません。来週の水曜日もまた、再試を受けるのでしょう。

Mさんにも同じようなところがあります。Mさんは大学進学を考えていますが、EJUの成績が伸びません。話をさせると、難しい漢語も使って抽象的な話もかなりできます。ところが、読解問題は漢字が読めないので解けないと言います。だから、11月のEJUでは、読解は捨てて、聴解・聴読解で可能な限り高い点を取るという作戦に出ることにしています。

KさんもMさんも、漢字ができないことにへこたれず、自分の日本語力を必死に伸ばそうとしています。しかし、漢字をどうにかしない限り、その努力が、EJUの点数のように、目に見える形を成すことはないでしょう。KさんやMさんを直接見ている教師は、2人を力のある学生だと認めますが、大学の入試担当者は、数字を見て判断するでしょうね。気の毒ですが、これが現実です。

職員室への帰り道は、なんとなく足取りが重かったです。

お先真っ暗?

10月30日(火)

火曜日の選択授業は作文です先学期は初級クラスの作文を担当しましたが、今学期は中級クラスの小論文です。まだ小論文の基礎段階の学生たちですから、意見をまとめやすいテーマを選びました。

授業後、早速読んでみると、さすが中級、先学期の初級の作文に比べると、格段にすらすら読めます。もちろん、文法や語彙の誤りはありますが、何回読んでもいっこうに意味がつかめないという“作品”はありませんでした。

…といきたいところだったのですが、4人目ぐらいから雲行きが怪しくなり、8人目ぐらいは土砂降り状態でした。習った文法や語彙をどんどん使えと言ったのが裏目に出て、難しい表現を無理やり使おうとしたあげく、意味不明の文を産出している学生が続出しました。初級よりも文章が長い分だけたちが悪いとも言えます。

小論文ですから論理性を重視しているのですが、その論理に飛躍があり、私が置いてけぼりを食らったり、接続詞がいい加減でわけがわからなくなったり、段落の途中で話が急に変わってしまったりなど、“読解”を思う存分させていただきました。テーマとはまるで関係ない結論を出していた学生もいました。

この学生たちがこれから小論文試験のある大学を受けるのかと思うと、頭を抱えたくなります。EJUの記述はどうにか切り抜けられても、単にいい悪いとか好き嫌いではなく、社会性や論理性が求められる文章にはどう対応させていけばいいでしょうか。何とか合格したとしても、大学に入ってからのレポートはどうするのでしょうか。どうしようもない文章を書いていたTさんも、進学してから文章を書くのに非常に苦労したと言っていました。このクラスの学生の何名かはそういう道を歩むのでしょうね。

初めての志望理由書

10月29日(月)

朝、パソコンを立ち上げると、Hさんからのメールが来ていました。先週、K大学の志望理由書を見てもらいたいと言っていましたから、それが届いたのです。早速中を見てみると、文法や語彙の間違いはほとんどないのですが、書いてあることが一貫していません。前半と中盤と後半で、将来設計が微妙に違うのです。このままでは、何のためにK大学に入ろうと思っているのかわからないとされてもしかたがありません。

Hさんは先学期の新入生で、志望理由書を書くのも今回が初めてです。だから、いきなり上手な志望理由書が書けなかったとしてもしかたがありません。1年近く練習しても意味不明の志望理由書を書き続ける学生が山ほどいました。そういう人たちに比べれば、スタート地点がグッと高いと言えます。

調べてみると、K大学の出願締め切りは来月の半ば過ぎです。今から文章を練り上げていけば、立派な志望理由書になるに違いありません。また、その過程で自分自身がなぜK大学を目指すのか、K大学で勉強する意義を見つめ直すこともできるでしょう。そして、K大学がさらにもっと好きになることができたら、合格の可能性が上がることは疑いありません。

Hさんの場合、日本語の基本の部分がしっかりしていますから、「何も考えずにこれを書き写せ」などという強引な指導をする必要はありません。Hさん自身の言葉で志望理由を語ることができます。これは非常に大きな点で、意味不明な文章を書く学生は自分の思いを日本語で表現できないことが多いのです。私がどんなに感度を上げてその学生の気持ちになろうとしても、ギャップを完全に埋めることはできません。最初に述べた将来設計の部分さえきちんと書ければ、K大学の先生の心をつかむこともできるでしょう。

授業前に添削して返信しておきました。あさってあたりに第2弾が届くのではないかと期待しています。

永久に不滅

10月27日(土)

先週の土曜日に行われたEJUの模擬テストを欠席した学生に対して、欠席したことをその学生の学生カルテに入力しました。賞罰の罰の欄に“10.20EJU模試無断欠席”と書き入れました。コンピューターに入力しましたから、その学生が卒業するまではもちろんのこと、卒業後も半永久的に無断欠席の記録が残ります。

模擬テストの申し込みの時に、申し込んだら欠席できないと繰り返し注意しておいたのに、これらの学生は欠席しました。主催する専門学校との信頼関係に基づいて参加させてもらっているのだから、欠席はKCPの名前に傷を付けることになる、と伝えました。でも、とりあえず申し込んでおいて、気が進まなかったら休んでもいいや、という気持ちで申し込んだ可能性が否定できません。本当に具合の悪かった2名からは連絡をもらっています。

携帯電話が普及して以来、約束の重みが軽くなったと言われています。ケータイに連絡することで、気軽にドタキャンできるようになったからです。そして、いつのまにかドタキャンの連絡すら省略されるようになってしまいました。それではいけないということを教えようと、約束の重みを感じさせる指導をしてきているつもりですが、模擬テストの無断欠席のような行動を根絶するには程遠いのが現状です。

私は語学の教師に過ぎませんが、言葉の表面的な意味だけではなく、自分の発した言葉が受け手に与える影響や、自分が受け取った言葉に込められた送り手の心まで察することのできる学生を育てたいと思っています。だから、多少大人気ないかもしれませんが、“無断欠席”と入力しまくったのです。

郵便物

10月26日(金)

このところ毎日、どこかの大学から入学案内が届きます。私は、商売柄、大学の名前には詳しいほうだと思いますが、それでも知らない名前もあります。大学側は、日本語学校の一覧表か何かを見ながら機械的に発送しているのでしょう。入学案内を見て、1人でも受験し合格し入学したら、入学案内の作成・発送などにかかわる費用は元が取れてしまうのだと思います。

知っている大学なら、その大学について学生に語ることもできます。しかし、中身を知らない大学については、たとえ大学案内を見ても、語りようがありません。せいぜい大学の所在地についてあれこれ言うのが関の山です。これでは、KCPから受験者が現れるとは思えません。いただいたパンフレットに目を通して勉強できればいいのですが、今の私にはその時間がありませんから、私は学生を押す力にはなれません。

大学から担当者が来てくださると、様子ががらりと変わります。その大学の真のウリが見えてくるし、面と向かって話せば情も湧くし、その大学に対する親近感が全然違ってきます。条件の合いそうな学生に対して、その大学を推したくもなります。つまり、私がその大学の営業マンになったようなものです。もちろん、大学の担当者に会えば自動的に営業マンになるわけではありません。やっぱり、その人から何かを感じなければ心は動きません。

現在、日本には大学が768校あるそうです。この768校が減りつつある日本の高校生を奪い合い、優秀な留学生を確保すべく戦っています。その戦場の十字路にいると、勝ち残りそうなところとそうでもないところとが、戦いの砂塵の合間からぼんやり見えてきます。