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原石発見

12月15日(金)

先学期の始めから、かれこれ半年間、上級の大学進学希望の学生たちには、志望理由書、小論文、面接など、出願から入試にいたるまでの進学指導をしてきました。私以外にも上級担当の先生方があれこれと手を尽くしてくださっていますから、漏れや抜け落ちはないと思っていました。ところが、細かい網の目をどうかいくぐったか知りませんが、天然のダイヤ原石が発見されました。

Lさんは新年早々C大学の入試が控えています。それで、初めての面接練習に臨みました。「Lさんはどうして本学を志望したのですか」「はい。C大学は結構有名だし、先輩が推薦してくださったし、いいと思いました」「はあ、そうですか。では、本学で何を勉強しようと思っていますか」「精密機械工学科です」「精密機械工学科で何を勉強するつもりですか」「機械について勉強します」「じゃあ、卒業したらどうしたいですか」「エンジニアみたいな仕事がしたいです」…。

絶句したい気持ちをどうにか抑えて質問を続けましたが、どこから指導したらいいかわからないほどの受け答えばかりでした。しかも、日ごろのLさんの癖で、口をあまり大きく開けずに早口で話すものですから、Lさんのこういう話し方を知っている私だからこそかろうじて理解できたものの、初対面のC大学の面接官には、絶対にわかってもらえないでしょうね。

Lさんは、根は悪い学生ではなく、学習意欲も専門に対するセンスもありますが、こんな答え方ではそういった美質が大学側に伝わりません。今週末の宿題をいっぱい抱えて帰りました。来週、また練習すると言っていますが、どこまで軌道修正してきてくれるでしょうか。

未発見の原石は、もうないですよね。

不安と期待と頼もしさ

12月12日(火)

今学期も、日本語のクラス授業のほかに受験講座の理科の授業がたっぷりあり、火曜日は大学独自試験・口頭試問対策と、来年6月のEJUに備えるという、2クラスの科学の授業があります。

口頭試問対策は、学生にやさしい問題を解かせて説明させるというものです。知識が系統立てて頭の中に入っているか、それを聞き手にわかりやすく説明できるかがポイントです。EJUのように選択肢という形でヒントが与えられるわけではありませんから、知識は持っていても、きちんと整理されていないと、面接官が納得できるようには答えられません。また、学生は、最初の質問に答えられても、私が二の矢三の矢を飛ばしますから、それに答えるには一見かけ離れた事柄の関連性にも目を向けておく必要があります。

私のほうも、きっかけの質問の周辺事項を頭に入れておかないと、学生を追い込む質問ができません。一問一答では学生の力が付きませんから、学生に次々質問できるように、予習しておかなければなりません。ある程度ストーリーを作ってから授業に臨みますから、準備に労力がかかるのです。EJUが終わっても、気が休まる暇がありません。

そうは言っても、学生とこういうレベルの質疑応答ができるのは楽しいものです。受験講座に参加し始めたころと比べて知識が広がり深まった学生を見ていると、頼もしく思えてきます。でも、学生が個人的に力を伸ばしたとしても、受験は他人との戦いですから、ライバルたちを上回る成長を遂げねばなりません。それが実現できているかどうかとなると、私もちょっと自信が持てません。

来年6月組は、まだ種をまき始めたばかりです。1年後に口頭試問組の域まで達しているでしょうか。こちらもまた、楽しみでもあり、不安でもあります。

よかったね

12月5日(火)

MさんがK大学に受かりました。Mさんは先々学期私のクラスの学生で、少し頭の固いところもありますが、まじめでがんばり屋で、積極的に授業に参加していました。そういう努力が実って、本当によかったと思っています。

先々学期はまだ初級でしたが、私のところへよく進学相談に来ていました。最初は志望校として超有名校ばかり挙げていました。正直に言って、そういう学校には手が届きそうにありませんでした。大学で勉強したいことはとてもはっきりしていましたから、そういう方面ならK大学でもMさんが最初に挙げた大学と遜色のないレベルだと、薦めておきました。それを覚えていて、出願し、受かったようです。

もちろん、しっかり者のMさんのことですから、私の言葉だけで志望校にK大学を加えたわけではないでしょう。自分でも調べてみて、納得した上で出願したに違いありません。だから、合格を知らせに来たときの顔が心の底から喜んでいたのです。

Mさんの勝因は、初級の頃から自分の進路を真剣に考えてきたことです。そして、謙虚な姿勢で教師の言葉に耳を傾けたことです。自分の耳に心地よい返事が聞けるまで身の回りの教師に相談し続ける学生は、ただ単に背中を押してもらいたいだけで、自分の考えを変えるつもりはありません。そういう学生は、玉砕して、地獄に落ちて、こんなはずじゃなかったとショックを受けて、ようやく目が覚めるのです。その時に転進可能なら進学もできますが、クリティカルポイントを過ぎていたら、不本意な結末を甘んじて受けなければなりません。

真に力のある学生やMさんのように聞く耳を持っている学生から吉報が聞こえてきている一方で、まだ夢を追い続けている危険なにおいのする学生もいます。クリティカルポイントが、近づきつつあります。

万里の波濤

12月2日(土)

毎週火曜日に選択授業の小論文がありますが、火曜日と水曜日は受験講座が目一杯入っており、木金は、今週は面接が入っておりという具合で、読むのが土曜日になってしまいました。

私のクラスは、大学進学希望の学生が主力ですが、大学院進学希望の学生も数名います。この大学院進学組が、結構光る文章を書くんですねえ。4年間長く鍛えられたのは伊達じゃないなと感じさせられます。

どこが違うかというと、大学進学組は自分の視点が課題の中に埋没しがちなのに対して、大学院進学組は課題を俯瞰してもう一回り大きな世界での位置づけを書くことができる点です。読んでみて、採点者の立場を忘れて感心させられたことも、一再ならずあります。大学院進学組は、独自の視点が確立しているのに対して、大学進学組はそこまで至らず、ありきたりの捕らえ方にとどまっていることが多いようです。

大学院進学組が確固たる自分の視座を持つに至ったのは、大学4年間のうちにそういう訓練を受けてきたからではないでしょうか。これは、彼らが国の大学でしっかり勉強してきた証左でもあります。

大学院での研究計画書を作成するには、独自の物の見方が要求されます。同時に、それを日本語で表現できなければ意味がありません。KCP入学以来、もしかすると国にいたときから、この両者を追求してきたのです。また、彼らの年代で年が4つ違うことは、相当大きな成熟度の差をもたらします。それが文章の上に表れていると考えることもできます。

大学進学組も、進学したら日本人の大学1年生に比べると1~2歳、あるいはもっと年上です。しかも、幾多の困難を克服して入学しているのです。今度は、彼らが日本人の同級生に差をつける番です。

合格後

11月29日(水)

CさんはR大学の大学院に合格しています。来年3月の卒業まで、俗に言う“優雅な老後”を送ることができる身分です。しかし、大学院に進学してからのことを考え、KCP在学中に簿記の試験を受けることにして、インターネットの講義を聞きながら勉強しています。日本語の聴解の訓練にもなるし、一石二鳥というわけです。また、大学院には英語で行われる講義もあるらしく、それに備えて英語の勉強もしています。

Cさんは、専門的な話は専門用語を使いますからほぼ理解できます。しかし、テレビ番組のような日常語をたくさん使う会話は半分ぐらいしか聞き取れません。ですから、日常語を聞いたり話したりする訓練をしたいと、授業にリクエストを出してきました。

というように、Cさんは合格が決まった後も自分の能力を伸ばそうと、帰宅してから何時間も勉強しています。こんな貪欲に勉強していけば、大学院に入ってからも何でも吸収し、Cさん自身の人生の基礎を盤石なものとする有意義な留学となるでしょう。

AさんとKさんはT大学に合格しました。合格が決まってから、欠席が増えました。出席しても、授業中、いまひとつピリッとしません。テストの成績を見る限り、学校以外であまり勉強しているようには思えません。目標を達成してホッとしたと言えば実にその通りですが、こんな生活をあと4か月も続けたら、大学の授業が始まっても勉強モードにならないんじゃないかなあ。去年のWさんみたいに、どこかに受かった後も卒業式直前まで受験しまくる必要はありませんが、たがが緩みすぎると元に戻らなくなってしまいます。

Cさんは自分で動くエンジンを持っているのに対し、AさんとKさんは自分で目標を作れないのかもしれません。大学院進学の学生は学問のコツをつかんでいるのに対し、大学進学の学生は学問の厳しさを知らないとも言えます。そういう意味で、まだこどもなのでしょう。

十人十色

11月21日(火)

授業後、奨学金受給生との懇談会に参加しました。司会役のDさんの意向で、将来社会に対してどんな貢献をしようと思っているかについて、各学生に語ってもらいました。みんな、自分の将来についてしっかり考えていることに驚かされました。私は、大学に入るころは言うに及ばず、大学院進学時でさえ、将来に対するおぼろげなビジョンすら描いていませんでした。来年3月までのKCPを背負って立つ学生たちですから、また、それぐらいしっかりした考えの学生を選んで奨学金受給生にしていますから、当然のことなどかもしれません。いや、学生時代の私のようにぼんやりしていたら、グローバルな競争にはついていけないに違いありません。

時間ぎりぎりまで奨学金受給生の話を聞き、大急ぎで受験講座へ。先週からしている口頭試問の練習です。実際にホワイトボードを使って説明させてみると、予想通り頭の中の知識が素直に出てきません。抜け落ちだらけの説明だったり、突っ込みに口ごもってしまったりして、学生たちはまだまだ感を抱いて教室を後にしました。

授業直後、Jさんの志望理由書をチェックして、指定校推薦の学内面接をしました。Kさんは悪い学生ではありませんが、いまひとつ決め手に欠く感じが否めません。私たち面接官の心を揺さぶる、ほとばしるような意欲や目の輝きは見られませんでした。心の叫びを聞きたかったです。

それからすぐ、Sさんの面接練習。ハキハキ答えてくれたのですが、答えの内容に若干疑義があり、いくらか軌道修正することに。Sさんが勉強しようとしていることは、Sさんが抱いている夢の実現とは少し方向性が違うような気がしました。本番でそこを突かれるとぐだぐだになりそうでしたから、再考を促しました。

いやあ、いろんな人の話を聞いたものです。明日も、昼休みから息つく間もなく予定が詰まっています。受験シーズンのピークですから、しかたありません。正月休みを夢見ながら、歯を食いしばります。

頭を鍛える

11月13日(月)

「昨日のEJUはどうでしたか」「…」。私のクラスの学生たちは、昨日のEJUについて何も語ってくれませんでした。私も学生時代は、学校の平常テストから入学試験まで、過ぎ去ったテストのことは一切忘れ、出来や感想を聞かれても「まあまあ」としか答えませんでした。答えが間違っていたことがわかってもどうすることもできず、ただ落ち込むだけですから。学生たちがそこまで考えて無言だったのかどうかはわかりませんが、今ここでEJUの反省をするより、各大学の独自試験の対策を考えたほうが前向きであり、現実的です。

さて、その独自試験対策ですが、理科系の受験講座では、筆答試験や口頭試問に備える授業を始めました。どちらにしても、自分の思考の軌跡を明確かつ論理的に述べることが重要です。数式の羅列や独りよがりの演説では通りません。でも、EJUのマークシート方式の訓練を続けてきた学生たちは、答えを見つけるテクニックには長けているかもしれませんが、導き出す力はあまり磨いていません。

それから、大学に進学したら、数式を追いかけながら先人の足跡をたどったり、目の前の現象を数式や法則に落とし込んだりというように、演繹的にも帰納的にも論理思考が必須となります。そういう頭脳の基礎を今のうちから築いておきたいのです。大学院に進んだら、未知の世界を自分の脳みそで切り開いていかなければなりません。それにたえうる頭へと鍛えていきたいのです。

これが、私が学生たちにできる最後のご奉公だと思っています。

初スーツ

11月8日(水)

今週末、Jさんは入試の面接があります。その面接練習をするために午後職員室に現れたとき、買ったばかりのスーツも持っていました。スーツの着方がわからないので、そこから指導してほしいとのことです。

まず、ワイシャツ。スーツを買った店で一緒に買ったのですが、首回りがちょっときつそうでした。ワイシャツは袖の長さと首回りで選ぶという大原則も知らなかったようです。店も、首回りぐらい測ってくれなかったのでしょうか。

次はネクタイ。もちろん、締めるのは初めてなので、私が指導することに。でも、こちらは毎朝無意識に手を動かしていますから、教えるとなると戸惑ってしまいます。Jさんが見てよくわかるようにゆっくり実演しようと思っても、いつもとリズムが違うとこちらまでうまく結べなくなってしまいます。それでも何回か締めているうちに形が整ってきました。

新品のスーツを取り出し、タグなどをはずし、袖を通そうとしますが、センターベンツが仕付け糸で止まっています。ズボンのベルトも初めてのようで、長すぎる分だけ切ろうとすると、心配そうな顔に。

まあ何とか着られたところで、ようやく面接にと思いきや、面接室への入り方がわからないと言います。ノックや挨拶のしかたを教えました。面接室からの出方も練習しました。

やっと面接本番…にはなりませんでした。自分なりにまとめてきた志望理由を読んでくれと言います。絶対に他の受験生とかち合うことがない志望理由でしたが、強烈過ぎて上滑りするおそれも感じました。角を矯めて牛を殺してはいけませんから、Jさんらしさを消さない範囲でいくらかマイルドに書き直しました。

久しぶりに野生児登場という感じでした。そもそも、本番3日前から面接対策というあたりからして、大物ぶりを発揮しています。Jさんは実力的には合格の可能性が十分にありますから、あと2日のうちにどうにか形にしたいです。

1年経つと

10月28日(土)

ゆうべは今年の3月の卒業生といっしょに食事をしました。正確に言うと、私以外の卒業生と先生方はお酒も飲み、私は食事だけいただきました。

MSの卒業生ですから、集まった卒業生たちは全員それなり以上に名の通った大学・大学院に進学しています。ですから、みんな胸を張って自分のこの半年あまりの学生生活を語っていました。教室ではいつもドヨーンとした顔をしていたLさんは、とてもすっきりした明るい顔をしていました。レポートと発表に追い立てられて忙しいといいつつも、Yさんの目は輝いていました。理系大学に進学したWさんは、女子学生がいないと言いつつも、どこか誇らしげに見えました。

Kさんは、留学生向けの日本語の授業が簡単すぎて取らなかったそうです。KCPの最上級クラスで鍛えられていたんですから、そりゃ当然ですよ。そのKさんですら、入学当初は講義の日本語がよく聞き取れなかったとか。Kさんのしゃべりは日本人となんら変わるところがありませんから、在校生にそういう話をして刺激を与えてもらいたいところです。

KCPにいたときは出席状況に大いに問題のあったBさんも、進学先ではほとんど欠席していないとか。欠席したらその次から自分の席がなくなっていたという事件を経験し、それに懲りて休まずに通っているそうです。KCPもそれぐらい厳しくしなきゃいけないのかな。

幹事役のMさんは相変わらず生真面目な性格です。私のグラスが空くと、「先生、お飲み物は?」と気を回してくれました。将来は研究者を目指していますが、偉ぶらない態度は人望を集め、きっとすばらしい研究業績につながることでしょう。

今朝、私のパソコンにはCさんからの志望理由書が届いていました。Cさんも、1年後はゆうべの面々と同じくらいに成長しているのでしょうね。

やっぱり忙しい

10月20日(金)

金曜日は、私が担当する受験講座はありませんから、午後はいくらか時間ができるかと思ったら、そうは問屋が卸してくれませんでした。

まず、新学期の引継ぎ。昨日まで私だけ時間がなかったので、先学期私のクラスだった学生たちの状況を今学期の先生方に引き継ぐという、担任としての最後の仕事がまだでした。今学期の先生方に先学期の様子を話していると、何度注意しても一向に生活が改まらなかったSさん、Kさん、波が激しかったFさん、努力家のEさん、明るいけど詰めが甘いOさん、優秀だったAさん、Mさん、9月に出席率が落ちて気になっているZさん、Dさんなど、先学期の教室風景を久しぶりに思い出しました。そんな話をして職員室の外に出ると、同じクラスだったHさんが、「TOEFLの成績がよくなかったから志望校を変えました」と報告してくれました。

次は、Tさんの志望理由書。M先生のところに送られてきましたが、理系特有の部分は私が見ることに。約2000字に込められたTさんの思いを、M先生がかなり整理してくださいましたが、800字という制限をクリアするには、さらにもっと刈り込む必要があります。Tさんの情熱を最大限くみ、制限字数を守り、なおかつインパクトのある文章となると、いつもながら難しいものです。

NさんからはEJUの物理の問題に関する質問。本質的ではありますが、問題文をもう少し慎重に読んでもらえると私に聞くまでもなくわかるんですがねえ…。本番では自分で解決してくれると信じましょう。