Category Archives: 進学

やる気

8月9日(火)

Hさんは先学期から受験講座理科に登録していますが、先学期は勉強する気が湧かなかったとかで、欠席が目立ちました。来日したばかりで、中級に入ったとはいえ、何かとわからないことが多すぎたのでしょう。しかし、今学期は意欲的に出席しています。表情にも余裕が感じられます。何より、私に質問するようになったし、その質問もまるでわかっていないからしているのではなく、理解を深めるためになされています。この勢いが続けば、11月のEJUは期待できるかもしれません。

Tさんも先学期の受験講座は気が向いたら出る程度のものでしたが、今学期は非常に前向きです。何が何でも理解してやろうという意志が感じられます。Tさんの場合、日本語力が付いて受験講座の日本語がわかるようになり、授業がおもしろくなったのではないかと思います。漫然と板書を写すのではなく、自分なりに要点を強調しながらノートを取っているように見受けられます。また、Tさんは6月の結果が思わしくなかったので、尻に火が付いたという面もあります。

HさんとTさんは、いい時期に取り組みが積極的になったと思います。受験講座は先月から始まっていますが、その最初からきちんとやり直しているので、11月にはぎりぎり間に合うでしょう。これ以上遅れたら、やる気が空回りで力が付かないうちに受験ということにもなりかねません。でも、これは、途中でたるむことなく一気に突っ走らないといけないという意味でもあります。

指定校推薦の希望者受付が始まり、学生たちも受験シーズンが近づいてきたことを肌で感じています。残暑厳しき折、どこまで力を伸ばせるかが勝負です。

お買い得

8月3日(水)

F大学の方がお見えになり、いろいろと話を聞かせていただきました。F大学には数年前に卒業生・Bさんを送っています。Bさんが非常に活躍していたので、またそういう学生を送ってくださいということです。

BさんはF大学が第一志望ではありませんでした。他大学に落ちて私のところへ進路相談に来たとき、F大学を薦めたのです。F大学でもBさんが勉強しようと思っていたことが勉強できそうだということで、F大学に出願し、幸い受かったのです。

F大学は、少なくとも首都圏に住んでいる日本人なら知らない人がいないと思います。でも、留学生の間での知名度は著しく低いです。Bさんにしても、最初にF大学の名前を耳にしたときの反応は鈍いものでした。しかし、ネットなどで調べ、実際にF大学まで足を運び、F大学の研究を深めていくと、Bさん自身F大学に引かれていきました。

入学後、たびたびこちらに顔を出してくれましたが、いつもF大学の自慢でした。こんなすばらしい大学だから、是非、後輩にも薦めてくれと言っていました。私もそういう話を学生に伝えましたが、その後F大学を志望する学生は現れませんでした。入学した学生がすばらしいと言っているのですから、これほど確かな情報はないはずですが、なぜかF大学を志す学生は出てきません。

学生たちは、国立大学や早慶MARCHなど、ごく一部の大学を集中的に志望します。国へ帰ったときにそういう大学の卒業証書が必要だとあれば、それもやむをえないでしょう。しかし、何を学ぶか、どんな人間関係を築くか、もう少し大きく出で、自分の青春時代をいかに形作るかまで考えると、誰にとっても上述の大学が最高とは言えないでしょう。F大学は早慶MARCHほど有名ではありませんが、Bさんを見ているとそれに劣らぬ勉強も就職もできるのです。

今のところ、F大学を志望している学生はいません。それだけにF大学はお買い得だと思います。こういう大学を学生たちに紹介していきたいです。

主体性

7月27日(水)

6月のEJUの結果が届いてから、いろんな進路相談を受けています。「どこに出願したらいいでしょうか」は、学生たちの本心からの相談でしょうが、ちょっと主体性に欠ける質問だと思います。

思惑よりも成績が上がらなかった学生も、うろたえて弱気になって逃げを打つようなことでは、退却先からも再度退却する羽目に陥るでしょう。EJUが悪かった分を大学独自試験で取り戻したいが、そのためにはどうしたらいいかというくらい、前向きになってもらいたいです。二の矢をどこに向けて射るべきか、すぐに頭を切り替えて立て直しを図るべきです。

もちろん、強気ばかりではいけません。引くべきところは引かなければ、卒業式のころになっても無所属新人ということになりかねません。理想や夢は持ち続けなければなりませんが、私たちはおとぎの国に生きているのではありません。現実を冷静に分析する力もまた、最終的に夢を実現するためには必要です。

逆に、高得点で欲が出てきた学生もいます。それはいいことなのですが、自分の持ち点で受かりそうな大学で、一番偏差値の高いところはどこかというのも、いかがなものかと思います。そこには自分は何のために進学するのか、なぜ日本で勉強するのかという、留学の根本をなす発想、自分の人生に対する問題意識が忘れ去られています。こんな学生は面接で落とされるでしょうし、受かったとしても、大学生活は長続きしないでしょう。

微妙な点数の学生は、11月のEJUを受けたほうがいいかと聞いてきます。余裕で志望校に受かる点ではないけど、11月までEJUの勉強を続けるのも気が進まないのです。11月のほうが点が伸びる保証はありませんが、だからと言って受ける権利も確保しておかないのは、得策ではありません。権利はいつでも捨てられるけど、持っていなかったら捨てることすらできません。

迷える子羊の道案内で、バザーの品物を見る暇もありませんでした。

復活

7月26日(火)

Hさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでした。去年の11月よりは上がりましたが、ほんの数点でした。数十点上げて、余裕を持って第一志望のG大学に出願するという目論見は、もろくも崩れ去ってしまいました。第二志望のM大学に対しても、自信を失ってしまったようです。G大学やM大学よりもランクを落としたところには進みたくなく、それだったら国へ帰ると言い始めました。

「帰国したらどうするの?」「前に勤めていたところにまた勤めます」「そもそもHさんは、どうして日本に留学しようと思ったんですか」「前の仕事がおもしろくなかったから…」「それじゃあ、前の職場に戻ったら全然意味がないんじゃない?」「はい、そうですねえ」「何かをつかむために、変えるために日本へ来たんだったら、G大学やM大学じゃなくても、Hさんが勉強したいことができる大学を探すべきなんじゃないかな」

こんな会話を交わした後で、過去のG大学合格者のデータを見てみました。すると、Hさんと同じような成績で受かった人もいることがわかりました。もちろん、Hさんよりずっといい成績でも落ちた例もありました。ということは、G大学はEJUの成績が絶対ではないのです。自分のところでする試験や面接のほうを重視するのでしょう。M大学も、可能性がないわけではありません。Hさんは面接で点が稼げるタイプの学生ですから。

今にも国へ帰りかねない様子のHさんでしたが、どうにか11月のEJUの願書を買うまでに気持ちが前向きになりました。

根くらべ

7月19日(火)

今週から受験講座が始まりました。今までは毎学期学生に時間割や教室を通知するのに苦労していたのですが、今学期は新システムの時間割通知メール機能のおかげで、大きなトラブルもなく通知が済みました。先学期も同じ機能を使ったのですが、使う側もメールを受け取る学生の側も準備が不十分で、その機能を遺憾なく発揮するところには至りませんでした。

1学期間新システムを使ってみて、学生側に、学校からの連絡は学校からもらったメールアドレスに届くんだという意識が定着しました。そのメールを見ないと不利な扱いを受けることもある、見ると有用な情報が得られるから毎日必ずチェックしようという方向に動きました。それゆえ、今回もしかるべき時刻にしかるべき教室にしかるべき学生が集まりました。

しかし、スタートがよくても竜頭蛇尾ではいけません。最後まで続けさせることが大切です。そのためには、受講する学生の力に合わせた授業をすることも大切ですが、それだけでは学生の力は伸びません。難しいことを承知で、背伸びもさせなければいけません。

また、時には、引導を渡すこともしなければなりません。好きこそ物の上手なれと言いますが、受験に関しては好きなだけでは済みません。もう大人なのですから、単なる憧れで将来像を描くことは許されません。自分の能力と冷静に向き合って将来を決めることが求められます。受験講座の教師は、こういう役目も負うことがあるのです。

さて、今学期の学生はどこまでついてきてくれるでしょうか。彼らとも力くらべ、根くらべが始まります。

何のために進学?

7月13日(水)

Yさんは私立のG大学と国立のM大学を志望校として挙げています。どちらの大学も、就職しやすいと言われている商学部とか経済学部とかではない学部を狙っています。卒業したら日本で就職しようと思っていますが、就職を優先して学部を選ぶのはいやだという気持ちも強いのです。

Yさんが考えている学部は、学問的にはおもしろいと思います。そういう学部で自分の興味の赴くままに勉強し、充実したキャンパスライフを送りたいというのが、Yさんの近未来の構想です。「大学に残るつもりがなかったら、そんな学問より就職後に役に立つ勉強のほうが、結局Yさん自身のためになるよ」ってアドバイスも可能です。でも、Yさんにはそんなアドバイスはしたくなくなりました。

Yさんは、就職のためではなく、学問を通して自分の青春を楽しむために大学に進学しようと考えているのです。それだったら、本気で大学生活を味わい尽くせば、それが就職のときのアピールポイントになるのではないでしょうか。普通の留学生とは一味も二味も違う留学生活を通して得たものを企業の面接官の前に示せれば、きっと面接官の心を動かせるはずです。また、何ごとにも前向きなYさんなら、口先だけではなく、本当にそういう4年間を送ることでしょう。そう考えると、そう考えると、Yさんの計画がなおさら輝いてきました。

確かにG大学やM大学は簡単に入れる大学ではありませんが、入試面接でこういう考えを強く訴えれば、十分に勝ち目があります。Yさんの背中を強く押しました。

紫雲

7月12日(火)

昨日超級クラスの学生に書かせたスピーチコンテストの原稿を読みました。初級だったら日々の暮らしや自分の出身地の紹介で立派なスピーチと言えなくもありません。しかし、超級なら社会的な事象に対する自分の意見や、独自の視点から物事に切り込む姿勢が必要です。「日本人は親切です」でもいいですが、その結論に至るまでの過程において、ステレオタイプではない新鮮な議論を展開してほしいのです。

もちろん、これはたやすいことではなく、これができる人は限られていると思います。数多の在校生の中には、1人ぐらいは天性の鑑識眼が備わっている人もいるでしょう。そういう具眼の士ではなくても、社会を自分の皮膚で感じ取り、感じたことを材料にして考え続ける訓練をしていれば、他人とは一味違う香りを醸し出すことができるのではないでしょうか。

残念ながら、そういう風格の漂ってくる文章はありませんでした。私のクラスの学生は大半が大学進学希望で、高校出たてぐらいの人が多いですから、そこまで求めるのは酷かもしれません。しかし、明らかに何かのパクリだと思われる文章を書いていた学生がいたことには、いささかがっかりさせられました。

いや、オリジナリティがないわけではありません。あるんですが、オリジナルの部分はパクった部分よりも、文章的にも内容的にも数段落ちなので、言ってみれば、マイナスのオリジナリティでしかありません。そういう学生は、日本語の勉強はしているけれども、日本語の勉強しかしていないのでしょう。彼らが進もうとしている「大学」とは、日本語で学問を成すところです。将来に暗雲が立ちこめています。

私たちは、毎年こういう学生を鍛えて、曲がりなりにも大学の授業に耐えられるレベルにまで引き上げて、進学先に送り出しています。「進学先で困らないような日本語力」と言っていますが、その中には日本語でこうした思考ができることも含まれています。卒業式までと考えると、あと8か月ほどで彼らの目の前の雲を紫雲か斗雲にしなければなりません…。

懐かしい文字

7月11日(月)

私が担当する新しい超級クラスの名簿に、Lさんの名前がありました。Lさんは、新入学の学期に初級クラスで受け持った学生です。発言が多かったり成績がすばらしくよかったりしたわけではありませんが、授業に集中し、勉強したことを確実に物にしていくタイプの学生でした。その学生がこつこつと勉強を続けて、超級まで上り詰めたのです。

会うのを楽しみにしていたのですが、教室に入ってもLさんの姿がありません。チャイムが鳴り終わっても、全員の出席を取り終わっても、現れませんでした。Lさんのことを気にしつつオリエンテーションを進めていたら、Lさんは、20分後ぐらいに、遅延証明書を手に申し訳なさそうに入ってきました。そうだよね、Lさんがそう簡単に休んだり遅刻したりしないよねと安堵しました。

今学期は8月1日にスピーチコンテストが迫っているため、始業日にいきなりスピーチコンテストの原稿を書いてもらいました。週末にその旨を連絡しておいたのですが、多くの学生が自分の思いを原稿用紙上に表現するのに苦しんでいました。Lさんもそういう学生の1人で、授業中には書ききれず、図書室などで書いて持ってくるようにと伝えて授業を終えました。

午後の授業の後、机に戻ると、何人分かの原稿が置かれていました。その中に、懐かしい文字が。Lさんの原稿です。初級のときと全く変わらぬ、私より数倍上手で几帳面な楷書で埋められた原稿用紙がありました。初級からここまで、順調なことばかりではなかったでしょうが、その大波小波を乗り越えて、よく育ってくれたと思いました。

初級で教えた学生に中級や上級で再び出会うのは、教師として非常に大きな楽しみです。「初級の頃はいい学生だったのに…」とぼやきたくなる学生が少なくない中、順良な心を保っているLさんは、ひときわ光る存在です。そのLさんも、今学期は自分の大きな方針を決めなければならない学期です。今まで続けてきた努力で、もう1歩進んでもらいたいです。

嵐の前の

7月5日(火)

明日は新入生のレベルテストがあります。これ以降はてんてこ舞いになりますから、今日までが束の間の休息です。休息と言っても、もちろん仕事をしなかったわけではありません。学期が始まったら日々の授業に追われてできないことを、この期間にやるのです。

私は受験講座の理科を担当しているにもかかわらず、学期中は日本語教師としての働きが強く求められ、理科については教材の研究をする時間すらなかなか取れません。ですから、私の後ろの本棚に並んだまんまになっている理科の参考書に目を通しました。

理科の参考書、特に難易度があまり高くないものは、ただ単に理論を解説するのではなく、わかりやすさに命を懸けています。どうしても身に付けておかなければならない知識や解法などを読者に印象付けることに、力を入れています。ちょうどそのぐらいのレベルがEJUにぴったりで、私はそれをさらに外国人学生向けにアレンジして、授業に供しようというわけです。

また、学生にやらせる問題も吟味しておかなければなりません。11月のEJUを目指す学生はともかく、各大学の独自試験や口頭試問に臨む学生には、今学期から自分の考えを論理的に表す練習をさせていきます。それにふさわしい問題に目星を付けておこうと思っています。それと同時に、今学期と来学期の授業計画も、ざっと立てておく必要があります。

それから、学生に配るプリントも作りました。パワーポイントは、見栄えもよく、教えるほうも扱いやすいのですが、学生は必要なところをメモしなければなりません。ノートを取る習慣のない学生は、授業中に感心するだけで、何も残らないのです。残念なことに、そういう学生が増えていることは否めません。

明日は新入生がどっと押し寄せます。受験講座を受ける学生もいることでしょう。その学生たちの期待を裏切らないように、しっかり準備しておかなければ…。

答案を作る

6月22日(水)

受験講座物理は、EJU対策は一応卒業として、大学独自試験対策を始めました。大学独自試験では、答案を書くことが要求されます。過程はともかく強引にでも答えにたどり着ければそれでいいというEJUとは、かなり違ったセンスが必要です。相手が留学生ですから、答案の日本語での説明が多少不十分でも大目に見てもらえるかもしれませんが、式の羅列だけでは減点は免れないでしょう。

といっても、初回ですから、あまりハードなことはしませんでした。基本的な公式を使えば答えが導き出せる問題で、答案の構成要素や書き方の骨格を勉強しました。国でも答案を書いてきたという学生もいれば、答えさえ書けばよかったという学生もいて、答えだけ派は、やはり戸惑いの度合いが大きいようでした。

答えに至るまでの過程を詳述することは、自分の頭の中を書き表すことです。これは、進学してから、レポートを書くにも、研究計画を立てるにも、論文を作成するにも、一人前の研究者へと成長していくのに必須の素養です。数式を並べ立ててそれでOKとしていては、いずれ自分の思考の足跡を追うことすらできなくなります。

「数学も答案を書かなければなりませんか」と、答えだけ派最右翼のCさん。「マークシートの数学の試験をするような大学に進学しても、いい研究なんかできっこありません」と返しましたが、ちょっと言い過ぎだったかな。Cさんはうなだれてしまいました。でも、Cさんの志望校は、独自試験があります。

来学期の受験講座は、こんなことをやっていきます。答案を書く訓練をしていれば、EJUの問題を解く力もついていきます。6月が終わったからって、ほっとしている暇なんかありません。