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ねじを締める

5月21日(月)

先週金曜日の中間テストには全員顔をそろえたのに、今朝8:55頃、私が教室に入ると、まだ半分ぐらいしか来ていませんでした。その後の5分間でばたばたと来たのですが、9時の時点で5名が欠席。うち1名は出席を取り終わった直後に入室したので大目に見るとしても、マイナス4名。最終的には欠席は2名でしたが、気が緩んでいることは否めません。遅刻の言い訳が寝坊ですからね。中間テストは、終わりじゃなくて、まだもう半分残っている、文字通り中間点なんですがね。

中間テストまで来ると、各クラスのカラーが明確になってきます。今学期の私のクラスは、元気はいいのですが教師に頼りたがるきらいがあります。教師の問いかけが、誰もわからない答えられないとなると、教師が答えをいうのを期待する目の色になります。わからないながらも答えを探し続けるとか、考え抜くとか、そういう意志が弱いのです。ですから、後半戦は私も容易に答えを言わず、どうにか答えにたどり着く苦労を学ばせたいと思っています。

さて、その初日。読解で指示詞の指す内容を問いかけました。まず、セオリーどおり、指示詞の直前の文を答えてくる学生がいました。しかし、私が指示詞を直前の文に置き換えて読み上げると、意味不明であることが明らかになりました。こうなると、黙りこくってしまいます。時間がかかることを覚悟の上で、動作主を考えさせ、前段落からの文章の流れを把握させ、その中において問題となっている指示詞が何を示しているのか、まとめさせました。

比較的カンのいい学生は、答えが見えてきました。私のヒントを組み合わせて、不完全ながらも「内容」にたどり着いた道筋を語ってくれました。まあ、初回ですから、このくらいにしておきましょう。次のレベルにあがるまでには、もう少しどうにかなってなきゃね。

笑顔までには

5月15日(火)

毎年、この時期になると、4月に進学した卒業生がビザを更新するための書類を受け取りに学校へ来ます。KCP在学中は出席率がよくないことで教師からさんざん叱られていた学生たちも、「出席率100%ですよ」と偉そうな口をたたきます。そりゃそうですよ。進学先の授業が始まって1か月かそこらですから。

そういう学生は、ほぼ異口同音に、勉強したいことが勉強できるから休もうと思わないと、その理由を述べます。確かにKCPでの日本語の勉強は、最終到達目標地点ではなく、いわばそこに至るための乗り物であり、日本語は道を切り開くためのつるはしでありスコップに過ぎません。しかし、乗り物の性能が悪ければ燃料ばかり食ってさっぱり前に進まず、最悪の場合、故障して全く動かなくなってしまいます。学問に王道なしですから、へたれつるはしではほんのホッとした障害物も取り除くことができないでしょう。

偉そうな口をたたいた卒業生たちは、みんな結構日本語ができるのです。だからこそ、わずか1か月かもしれませんが、進学先の授業について行けているのであり、したがって、勉強したいことを勉強している実感が全身から湧いてくるのです。そうなのです。本当にどうしようもない学生は、私たちが引導を渡しているのです。進学して、にっこり笑って書類を取りに来る卒業生たちは、出席率が悪いといっても、最後の一線は踏み越えませんでした。それ以上向こうへ行ったら二度と戻れないということを自覚し、辛うじて踏みとどまりました。

今年も、CさんとかYさんとかWさんとか、私が知っているだけでも危なっかしい学生が数名います。皆さん、三途の川を渡っちゃいけませんよ。

映画に夢中

5月2日(水)

欠席した中級クラスのYさんに電話をかけると、ケータイをどこかに忘れたからアラームを鳴らせず、朝起きられなかったという言い訳が返ってきました。さらに問い詰めると、夜中の1時過ぎまで映画に夢中になっていたとか。今はスマホで何でもできちゃいますから、こんな始末になるのです。

そんなやり取りをK先生が聞いていました。「Yさんって、あのYさんですか」「はい、あのYさんです」「やっぱり…。初級でダメだったらずっとダメなんですよね」「まあ、今から劇的に改善するって、ちょっと考えにくいですね」

そもそも、Yさんは今学期の最初の4日ばかりを休んでいます。先学期の先生に厳しく言われていたのに、一時帰国から戻ってきたのが、学期が始まってからだったのです。入学から今学期まで、私も含めて多くの先生方から指導を受けてきたのですが、時間に対するルーズさというか、生活のいい加減差というか、そういうことを改めようという気配が全く感じられません。

TさんもYさんと同じ中級レベルの学生ですが、こちらは非常な努力家です。入学以来出席率は100%で、成績もきわめて優秀です。先学期、ひどい風邪をひいてとても辛そうなときもあったのですが、学校は休まず、平常テストの成績も落ちることはありませんでした。Yさんなら咳がちょっと出ただけでもこれ幸いと速攻で休んだことでしょう。Tさんは自分を厳しく律することができるのに対し、Yさんは易きにつくきらいが見られます。

Yさんもご他聞に漏れず有名大学への進学を希望していますが、今の生活を続けていたら到底無理です。私たちは手を変え品を変え本人の自覚を促すことはできますが、文字通り「促す」までです。本当に危機感を覚え、その危機から脱するための行動を取るかどうかは、最終的には本人次第なのです。

Tさんは午後の受験講座も必死に取り組み、わからない点はどしどし質問し、自分を伸ばそうとしていました。そのとき、Yさんは何をしていたのでしょう…。

物も言えず

4月21日(土)

先学期は養成講座の授業が土曜日にあったので、受験講座のEJUの担当はお休みしました。ですから、去年の11月のEJU直前から5か月ぶりぐらいの受験講座EJUでした。

初回は、問題を解かせることもそうですが、去年のEJUの結果をかいつまんで解説しました。KCPの学生の平均は、全受験生の平均と比べると日本語学習暦で3か月分ぐらい、KCPのレベルで1つ分ぐらい上回っています。それは喜ばしいことなのですが、6月と11月の両方を受けた学生について言うと、11月に成績を落とす例が見られます。6月は日本語がよくて総合科目などが悪く、11月は総合科目は伸びたものの日本語が落ちてしまい、出願の蔡にどちらの成績を使ったらいいだろうかという相談が後を絶ちませんでした。

上級の学生だと日本語能力が飽和状態ですから、勉強の期間が長くなったからといって必ずしもEJUの成績もそれに比例して上がるとは限りません。6月に挙げた高得点を維持するだけでもかなりの努力を要します。今まではこの意識付けが足りなかったので、今年はうんと強調しました。教室がシーンとなってしまったところを見ると、学生たちはやはり甘く考えていたようです。

EJUの成績には相対評価的な面もありますから、自分の実力の伸びが周りよりも小さいと、スコアとしては下がってしまうことがあります。去年の11月に最高点を取ったYさんは6月を受けていません。そういう受験生がひゅうっと現れて、6月から点の上積みを図ろうとしていた受験生の足元をすくってしまうのです。足元をすくわれないようにするには、同じく11月最高点のKさんのように緻密に勉強していかなければなりません。そんなところも、追い追い学生たちに伝えていきます。

ひらがなが書けなくても

4月20日(金)

Iさんは私が毎週金曜日に担当している初級クラスの学生です。先週は教卓のすぐそばに座っていましたが、今週は教卓から一番遠い窓際の席でした。先週はとにかく声が小さいという印象しかなかったので、教室の一番奥に座っているIさんを見て、声が聞こえるだろうかと心配になりました。

チャイムが鳴り出席を取ると、Iさんは大きな声で返事をする代わりに、思い切り右腕を真上に伸ばして存在をアピールしました。指名すると、教卓からでもかろうじて聞き取れる声でしたから、先週よりは大きな声を出しているようでした。ペアワークも楽しそうにこなしていました。少しずつ学校とクラスになじんできたのでしょう。

しかし、Iさんの課題は声が小さいことだけではありません。ひらがなカタカナも怪しいのです。みんながほぼ満点を取った語彙テストでも、合格点に遠く及ばない成績でした。その再試を授業後にしました。勉強はしてきたのでしょうが、できませんでした。答えを見ると、長音が特に弱いようです。「きょしつ」「デパト」ですからね。

再試でも間違えた問題は、その正答を5回書かせました。Iさんはそれを嫌がらず、おざなりではなく丁寧な字で書いていました。自分でも自分の状況を認識し、そこから何とか脱却しようとしていることがうかがわれました。長音が弱いということをIさんがわかる範囲の日本語で伝えると、真剣に耳を傾け盛んにうなずいていました。

レベル1の最初の10日ぐらいで再試を重ねるとなるとふてくされてしまう学生もいます。しかし、Iさんはどうにかはい上がって、国で思い描いた道に進もうとしています。Iさんと同じような学生でも殻を打ち破って大きく伸びた例も少なくありません。再試後の課題を出して帰る時のIさんの目からは、強い意志を感じました。Iさんがこの目を持っているうちは、私もIさんの力になってあげようと思いました。

ベンチの季節?

4月19日(木)

受験講座の教室へ行こうと外階段を上っていたら、校庭のベンチの上で寝ている学生が目に止まりました。直射日光をまともに浴びるわけでもなく、程よい強さの風が吹き、雨上がりで空気が澄んでいて、しかも気温が上がるとともに湿度も下がってきて、昼寝には絶好のコンディションです。とても気持ちよさそうで、うらやましくなりました。

あまりお行儀がよろしくないですから本当は注意しなければならないのかもしれませんが、すぐに授業が始まる時間だったし、何より快眠をむさぼるその学生からは、“起こすなオーラ”が強く発せられていました。でも、どうせ寝るなら芝生の上かなあ。そんなことを考えながら教室に向かいました。

今学期から理系の受験講座を受けているJさんは、D大学コンピューターの勉強をしたいと言っています。でも、国の高校では物理も化学もほとんど勉強していないそうです。今学期から受験講座を始めた学生のクラスに入れましたが、多くの学生が6月のEJUを受けるため、そのクラスもEJUを意識した授業をします。そうなると、Jさんにとっては厳しいかもしれません。

今は私が何を言っているのかわからないかもしれませんが、7月期、10月期と日本語のレベルも上がっていきますから、わかる部分が次第に増えてくるでしょう。門前の小僧習わぬ経を読むじゃありませんが、毎回少しでも何かをつかんでくれればと思っています。こちらにしても、毎回Jさんの頭に何かを残すとなると、授業内容や進め方を工夫しなければなりません。Jさんの印象に残る授業となれば、他の学生にも何かを残すことでしょう。これによって授業がいい方向に回転してくれればと思っています。

職員室に戻る時に校庭を見てみたら、さすがにベンチの学生はいませんでした。

スタート

4月18日(水)

今週から受験講座が始まっています。水曜日は、ひと通り勉強が終わった学生対象の化学と物理の時間です。今学期は、もちろん6月17日に控えたEJUに備え、過去問を中心に進めていきます。

さて、第1回ですが、化学も物理も目標時間より10分余計にかかってしまいました。決してできない学生たちではないのですが、時間を厳しく区切って問題を解く練習が足りません。EJUの難しさは、じっくり考えれば解ける問題を短時間に解かなければならないところにあります。そのためには、問題を見た瞬間に解き方が頭の中に浮かんでこなければなりません。物理だったら問題の図からただちに式が思い浮かび、それをパシパシと解いて答えを出すのです。化学なら問題文中のキーワードと頭の中の知識が結びつき、正誤を判断したり反応式を思い浮かべたりできることが求められます。

こうなるには、やっぱりかなりの訓練が必要です。毎年4月はこんなもんで、これから6月に向けて鍛えていって、どうにか目標の成績に手が届くようにします。運動神経を競うような問題の解き方をしてどうするんだと思わないでもありませんが、4月期にこうやって鍛えておくと、7月期に大学独自試験向けの勉強をするときに効いてくるのです。今は、ある種のひらめきみたいなものが生まれる素地を形成しているのだと思います。最終的には量より質ですが、質を生み出すためには量をこなすことも必要です。EJUの勉強にはそんな役目もあるのです。

約2か月の短期決戦です。6月に好成績を挙げておけば、その後の受験を有利な条件で進めることができます。力の限りを尽くしてもらいましょう。

上級になるには

4月16日(月)

今学期は中級のクラスを1つ持っています。私は上級を教えることが多いため、中級というと、そこから逆算して、今最低このくらいはできてほしいと考えてしまいます。7月期か10月期に私のクラスに入るんだったら、中級のうちにこのくらいはできるようにわかるようになっておいてほしい、という発想です。

例えば、読解のテキストに出てきた「見かける」。意味は中級でも十分に理解できます。目にしたり耳にしたりした時に、文脈の理解を妨げるようなことはないでしょう。しかし、自分で文を書いたりまとまった話をしたりするとき、この単語を使うことは絶対にないでしょう。「見かける」が正しく使えていたら、こいつなかなかやるなと思ってしまうくらいですから。中級と上級の差は、語彙力です。文法力よりも、知っている、使える単語の数の差です。それを埋めるべく今から動けば、押しも押されもせぬ超級話者になれることでしょう。

文章を読む時には、行間を読めとまでは言いませんが、単語の意味がわかったら終わりというレベルで止まってほしくはありません。せめて段落単位で文章を眺めて、単語の意味の総和以上の何物かをつかみ取ってもらいたいです。筆者が言わんとしていることを読み取ってほしいです。その補助線となる質問を、次から次へと繰り出していますから、それをヒントに読解の要領も身に付けていけば、上級での長文生教材に耐えうる力も養っていけます。進学希望ならその夢の実現に向けて歩みだすことでしょう。

今学期末にはEJUがあり、次の学期休み中にはJLPTがあり、新年度早々力を蓄え発揮することが求められます。留学の成否を決めかねない緊張の場面が続きます。教師にとっても…。

「えっ」じゃないよ

4月7日(土)

新入生たちは、昨日がプレースメントテストで、今朝から事務と教務のオリエンテーションでした。私はその後に行われた進学コースのオリエンテーションを担当しました。

進学コースのオリエンテーションでは、毎学期厳しいことを言います。いい加減な気持ちで勉強に取り掛かっても、ろくな結果が出ません。日本なら楽に進学できるだろうと思っていたら大間違いです。痛い目にあい、悔し涙を流すのは、ほかでもない学生自身です。

今回は、私に与えられた時間全てを使って、日本語をしっかり勉強せよと訴えました。最近、卒業生や大学関係者から、立て続けに日本語力の大切さを聞かされました。入学式の校長挨拶に回してもよかったのですが、進学を考えている人たちにこそ、真剣に考えてもらいたかったのです。

学生たちは、ペーパーテストの点数さえよかったらどうにかなると思いがちです。しかし、学んだことを生かして何かをするというところまで考えると、他人を動かすことが必要であり、その際に物を言うのはコミュニケーション力です。そのコミュニケーション力を支えるのは、言うまでもなく、日本語力です。

ですから、日本語力と言っても、話す力と相手の言葉を聞き取り理解する力が最重要です。そこまで話をすると、「えっ?」という顔をしていた学生が何人もいました。その人たちは、きっと、面接の受け答えはテクニックでどうにかして…という算段をしていたのでしょう。

進学したら日本語力をつける勉強をしている暇などありません。KCPにいるうちにできるだけ高いレベルにまで上っておかねばなりません。その戦いが、来週から始まります。

退学処分

3月19日(月)

おとといの桜の開花宣言に誘われたわけではないでしょうが、昼休みにおととしの卒業生のLさんが来ました。J大学法学部の、4月から3年生です。卒業に必要な単位は今年中に取れる見込みで、卒業を1年早めることもできるとか。大学院進学も視野に入れて勉強していくそうです。

Lさんはずっと法律の勉強をしようと思っていて、面接練習のときには志望理由や将来の夢を明確に語っていました。厳しい質問をしても、こちらが納得できる答えを返してきました。ペーパーテストが多少悪くても受かるという手応えを感じていましたが、まさにその通りになりました。

しかし、Lさんの周りには何となく法学部に入ってしまった学生がいるようです。そういう学生は授業についていけず、大学が定めた最低限の基準単位すら取れずに退学させられてしまいます。きっと、偏差値だけで志望校志望学部を決めたのでしょう。

日本人学生だったら、退学になっても、多少肩身は狭いでしょうが、日本から追い出されることはありません。しかし外国人留学生はそういうわけにはいきません。退学=帰国です。それを人生の試練として素直に受け入れられる人は少ないと思います。

私たちは学生の口から出てくる希望を第一に進路指導していきます。しかし、もう一歩踏み込んで、学生の適性を見極め、時には進路の変更を迫ることも必要です。名より実を取るように指導することもあります。Lさんの話を聞いて、進学競争が激しくなればなお一層のこと、学生の将来を考えた指導が必要だと思っています。