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どこで勉強?

10月28日(水)

Sさんが飛ばしています。先学期、初級クラスで受け持った学生ですが、文法と作文の成績が不合格でしたから、進級させませんでした。そのSさん、傍若無人の振る舞いが見られると、今学期の先生がおっしゃっていました。

Sさんは大学進学を目指していて、毎日塾に通っています。勉強熱心なのはいいのですが、塾が生活の中心になり、学校の勉強にまじめに取り組もうとしません。どんなに注意しても、EJUの問題を解く受験のテクニックを覚えることに一生懸命で、日本語を基礎からきちんと身に付けていこうとはしません。KCPはビザをもらうための隠れ蓑で、KCPで勉強する気はないのです。

塾とKCPとでは求めているものが違い、SさんにとってはKCPの勉強は生ぬるく、塾の勉強こそ自分の目標に合致しているのでしょう。そう思うのはSさんの勝手であり、塾で留学ビザが取れるなら、SさんはKCPに入学することなく塾で勉強したに違いありません。そういうことをしたい学生は、Sさんだけに留まるとは思えません。

日本の大学もなめられたものです。テクニックだけで入れるって思われちゃってるんですからね。実際、テクニックだけで入ったとしか思えない留学生がいるって、有名大学に進学したKCPの卒業生が言っています。そんなことをしているようじゃ、日本の大学の国際競争力は下がる一方でしょう。

今週、Sさんは第二志望校への出願を済ませました。第一志望校は来週です。どちらも留学生誰もが行きたいと思う大学です。Sさんが受かったら、KCPは、当然、合格者実績としてカウントすることでしょう。それを次の学生募集につなげていくことでしょう。でも、私の本心は、Sさんはカウントしたくないですね。

明日、試験

10月24日(土)

今週から受験講座や選択授業が始まり、また、クラブ活動も再開し、今学期も定常運転に入りつつあります。10月期はEJUとJLPTがあり、大学・専門学校の受験シーズンでもあり、上級ほど落ち着かない雰囲気があります。私のパソコンにも志望理由書を直してくれとか、面接の受け答えはこれでいいかとかという学生からのメールが連日入ってきます。今学期のうちに行き先が決まってしまえば、最後の学期は日本語の勉強が楽しめることでしょう。

夏の入り口ぐらいに始まった日本語教師養成講座は、今日が私の担当講義の最終回。そして、明日が日本語教育能力検定試験です。それに向けての対策をびしびしやったわけではありませんから、合格の見込みがどのくらいかは見当がつきません。でも、受講初期に比べると、確実に日本語教師の発想ができるようになっていると思います。講義の中での私の質問に対して、最初のころは見当はずれな答えばかりでしたが、最近はかなりレベルの高い答えが出てくるようになりました。文法や語彙などで議論ができるようになりました。

それに比べると、私のところに入ってくる志望理由書などは、もう少し歯ごたえがほしいところです。進歩してないわけじゃありませんが、もっと大またで歩いてもらいたいところです。1段飛ばしで階段を駆け上がるくらいの勢いが感じられないところがじれったいです。受験講座で理科の過去問も解説を聞いている学生たちも、うなずくポイントがちょいと基礎側に寄ってるんじゃないかな。

世間では学問の秋と言いつつも、日本語学校にとっては受験の秋です。受験生の頭の中を熟成する時間がほしいですが、戦場に送り出さなければなりません。まずは、明日ですね。

ノートを取らせる

10月21日(水)

選択授業が始まりました。今学期は、また、身近な科学を担当します。水曜日は聴解関係の選択授業ということなので、単に私がしゃべるのではなく、ノートを取らせてそのノートを提出してもらうことにしました。大学や大学院に進学したら、教授の講義を聴いて、要点をノートしなければならないのですから、その練習です。

授業が終わって、そのノートを集め、点検してみると、まず、90分ノートを取り続けるのは大変らしく、中だるみが見られる学生が数名。パワーポイントをそのまま写そうとして失敗していたり、要点じゃないところを写していたりというのも数名。本人にはわかるのかもしれませんが、私には判読不能な地の学生が1名、初めから全くノートを取らなかったのが1名。その一方で、実にポイントを押さえたノートを取っている学生、絵入りで見た目もわかりやすくしている学生、明らかに読みやすさを意識しながらまとめている学生など、進学先でも十分にやっていけそうなノートの学生もいました。日本語力は同じぐらいなんだけど、ずいぶん差がつくものだと思いました。

きれいなノートの代表はOさん。美術系の大学進学が決まっているくらいですから、ノートにもデザイン性が感じられます。ノートの落書きも芸術的で、感心させられました。要点をとらえたノートの代表はLさん。私自身が自分の話の要点を再確認させられるくらいでした。でも、Lさんは自分の考えを作文にすることが苦手です。情報を受信する力だけでなく、発信する力もつけていってもらいたいです。

今学期の身近な科学はこんな調子でやっていきます。学生に、つまらなすぎてノートを取る気も起きなかった、なんて言われないような授業を心がけます。

また始まりました

10月19日(月)

受験講座が始まりました。今学期は受講者のレベルなどの関係から、私の担当する物理と化学2クラス体制です。今日は物理がありました。

まず、この11月に勝負をかける学生たちのクラス。こちらはEJUまでひたすら過去問です。今年から出題傾向が少し変わりましたから、そちらの話も少し。でも、根幹は変わっていませんから、少しだけ。

その後、今学期から勉強を始める学生たちのクラス。こちらは、物理の基礎から説き起こします。大学で教える事項でも、大学入試に役立ちそうなことは教えていきます。EJUは時間との勝負ですから、答えを出すまでの時間短縮につながるのなら、大学の知識だってどんどん応用させます。

前半のクラスは1年近く付き合ってきた学生ですから、気心も知れています。後半の学生は初めて顔を合わせる学生ばかりですから、これから関係を築いていきます。今学期は初級ですが、1年後は上級で、私のクラスにいるかもしれません。その時に、「おっ、やっと上がってきたな」って言いながら、肩でもたたける仲になっていたいです。

何年か前は理科系の学生に個別面接をしていたのですが、最近は日本語の授業が忙しくて、そういう時間がなかなか取れません。先週、今学期から理科を取る学生たちを集めてオリエンテーションをしました。その時に、この受験講座のポリシーから進路選択の基本的な考え方まで話しましたが、こういうことは1回こっきりでは真意が伝わるものではありません。個別面接があると個々の学生に強く訴えかけられるんですがね。

今日の授業で、先週末に届いたEJUの受験票を各学生に渡しました。理科について言えば、EJUまで各科目とも3回です。新しい学生にばかり力を入れるのではなく、11月勝負クラスも土俵際で1問拾う力をつけさせていきたいです。

もう一度KCPに入りたい

10月17日(土)

夕方、去年の夏にKCPをやめて帰国したJさんが来ました。国で勉強して、再来日し、専門学校に進学しようか大学に入ろうか迷っているとのことで、その相談が目的でした。

在籍中のJさんは早起きが苦手で、遅刻・欠席が多かったです。学校へ来れば授業に積極的に参加するし、日本語に対するカンも鋭いし、クラスメートに刺激を与える学生でした。でも、いかんせん朝が弱すぎて、退学を決意したのです。

実は、先週、Jさんからメールをもらっていたのですが、文面に誤字脱字がなく、とても驚きました。この調子なら、もしかすると大学にも手が届くかなって思えるほどでした。実際に顔を合わせて話をしてみても、1年余りのブランクは感じられませんでした。

Jさんの今の心配事は、KCP在学中の出席率が低いことです。これがビザを取るときに悪影響を及ぼさないかと悩んでいます。悩んでみても出席率の数字が変わるわけではありません。だから、もう一度KCPに入り直して、今度はまじめに学校に通って、出席率を少しでも上げたいと言いますが、これは無理な相談。なまじKCPに多少在籍したがために、入学してもすぐに出て行かなければならないのです。

去年KCPにいたときに出席率が悪かったのは、Jさん自身の目標がはっきりしていなかったという面もあると思っています。今はそれが明確になったのに、前回の出席率が足を引っ張りかねない状況です。Jさんは日本へ来るのがちょっと早すぎたんじゃないかな。後悔先に立たずといいますが、自分の将来像を固めてからでも遅くなかったと思います。今、KCPに在籍している学生の中にも、なんとなく来ちゃった組がいます。そういう学生を早く何とかしなくちゃって思いながら、Jさんの話を聞いていました。

今日で最後と、もう1年半

9月16日(水)

Lさんは参加しているプログラムの都合で、今日が授業を受ける最終日でした。昨日の宿題をチェックすると、きちんとやってきていました。友達のを写したと思われる学生もいたのに、Lさんは自分のオリジナルの文を考えてきて、それが正しいかどうか私に確かめようとしていました。最後まで衰えぬ向学心は、他の学生にも是非見習ってもらいたいです。来学期もKCPにいて、同級生にいい影響を与えてもらいたいです。

その一方でUさんは全くやる気が感じられません。ぎりぎりの成績で進級してきたこともあり、Uさんにとっては、今学期は最初から難しい勉強内容でした。それだったらそれを乗り越えるべく、人の2倍も3倍も勉強すべきところ、勉強時間はゼロに近いのが実情です。本人から話を聞いた先生によると、勉強も嫌いだし、日本も嫌いだし、日本にはいたくないそうです。

じゃあ、何で日本にい続けるのかというと、親の意思です。入学時に借りたアパートは、親が1年分の家賃を払ったそうです。親としては、子供に少しでもいい教育を受けさせようと、高い費用をかけて留学させたわけですが、Uさんの現状をご覧になったら、Uさんの真情をお聞きになったら、このままでいいとは思わないでしょう。

Uさんとご両親がどの程度意思疎通を図っているかはわかりませんが、卒業まであと1年半これが続いたら、Uさんの人生に大きな影を落とす結果となるに違いありません。

日本から逃れたくてたまらないUさんと、向学心に燃え未練を残しつつ帰国するLさん。どうして逆にならないんでしょうね。理不尽なものだと思います。Lさんが明日の期末テストですばらしい成績を取ることを祈っております。まあ、私なんかが祈らなくても、Lさんなら好成績を取るでしょうけどね。

医者の卵? 卵の殻?

9月3日(金)

初級のクラスに入ると、文法もきっちり教えなければならないのですが、語彙もいろいろと教えたくなります。みんなの日本語や漢字の教科書に出てくる語彙だけでは、受験にしても働くにしても到底足りないからです。文法は、みんなの日本語2冊の内容をきちんと使いこなせれば、たいていの場面は通用します。しかし、単語の数は全然不十分です。だから、教科書の内容に関係のある言葉を積極的に紹介します。

例えば、「卵」という漢字を勉強するとき、今使っている教科書には「卵黄」「卵白」「産卵」「(医者の)卵」などという用例は出ていますが、「卵の殻」はありません。これは子供でも知っている言葉ですから、学生たちが知らないとなると、進学先で相当恥ずかしいんじゃないかな。

そういう、いわば留学生だけが知らない日本語を少しずつ集めています。擬音語擬態語はそれなりの学習書が出るようになりましたが、この手の単語は「習うより慣れろ」的に放置されているのが現状です。集めていますとは言いましたが、日本語の教科書には載ってなくても日本人にとっては常識以前の単語っていうのは、頭で考えて思い浮かぶもんじゃありませんから、思いついたときに記録しておかないと、すぐどこかへ行ってしまいます。それゆえ、なかなかうまく集まりません。

明日は上級の授業です。上級は上級なりの、やっぱり知らないと相当恥ずかしい単語がありますから、それを入れていきます。こういう単語や表現が勉強できることが、ネイティブの教師に習う真の意味であり、現地で勉強する最大の利点です。同時に、ネイティブ教師にとってはそういうのを教えるところに真骨頂があるのだと思っています。

360点

9月2日(水)

初級のSさんはK大学への進学を考えています。それに向けて、塾にも通っています。塾ではEJUの読解や聴解の問題を特訓しているようです。それは非常に結構なのですが、問題を解くテクニックの習得に傾きすぎているきらいがあります。だから、KCPの勉強には身が入りません。そのあげく、中間テストの文法は不合格でした。

今日の文法テストも、細かいミスが積み重なり、結局合格点を少し超える程度の成績止まりでした。文法が全然わかっていないわけではありませんが、正確には使えませんし、そもそも今まで勉強してきたはずの内容に抜け落ちがあります。こんな調子では、テクニックを駆使してK大学に入ったとしても、そこでいい勉強はできないでしょう。

来年6月のEJUの日本語で360点取るのが目標だと言います。360点といえば、間違えられるのはせいぜい2問です。単にテクニックだけではなく、相当な集中力も必要です。しかし、授業中のSさんの態度を見る限り、集中力がありそうな感じはしません。

私たちは、どういう測り方をされても高く評価されるような日本語力を学生につけさせようと思っています。そういう日本語力があれば、どんな方向に進んだとしても、学生自身の人生に真に寄与する学問や仕事ができます。それこそが学生の人生を豊かにするものと信じています。“いい大学”に入るには迂遠な方法かもしれませんが、インスタントの日本語力で挫折するよりは、最終的にはより高いところに立てると信じています。

Sさんは私との面接もそこそこに、塾へ急いで行きました。毎日明け方の4時ごろまで勉強するそうです。その努力は多としますが、ぜひとも無駄な努力にならないように、自分自身を大局的に見てほしいものです。

末期症状

8月12日(水)

私のクラスは5名の欠席でした。授業後その5名に電話を掛けるとOさんにつながりました。

「今日は学校を休みましたが、どうしたんですか」

「明日は中間テストですから、うちでずっと漢字の勉強をしました」

「今日は文法と聴解で大切なことをしましたよ」

「でも私は漢字のほうが下手(=苦手)ですから」

「じゃあ、文法は勉強しなくても大丈夫なんですね」

「いいえ…」

「うちで勉強するから休んでもいいという考え方は間違っていると思います」

…と、まあ、コミュニケーションが成り立っているのかいないのか、若干わかりにくいやりとりをしました。

毎学期、こういう学生がいます。私はそういう学生を見ると、末期症状だなと思います。KCPの定期試験ごときで、しかも初級レベルで学校を休まなきゃならないほど追い込まれていたら、日本で日本語を使って何かをしようなんて、到底無理ですよ。

こういう学生は、本当に目先のことしか見えていないのです。Oさんの場合、漢字がわからないとなったら、今勉強している文法の重要度など吹っ飛んでしまったのでしょう。初級の半ばぐらいまで来てサバイバル文法から脱皮して、小技を利かせて細かいところまで表現できる言い方を勉強しているのに、それが目に入らなくなっています。今日授業でやった「~ています」なんて、日本人が口癖のように使っている表現ですよ。それを勉強・練習するチャンスを捨ててしまったのです。

KCPは学校でクラス授業を受けることを前提にカリキュラムを組み、それを実施しています。中間テストの前日に休んで漢字の勉強をする学生のことなど、1ミリも考えていません。ですから、今日欠席して「~てしまいます」がすっぽり抜けてしまったOさんのような学生は非常な不利を被ります。

Oさん、明日のテストで学校を休んでまでも勉強した甲斐が感じられる成績が取れるでしょうか。

誤答に気づかず

8月11日(火)

昨日提出したSさん、Wさん、Yさんの宿題の答えが同じでした。正答が同じなのは当然なのですが、数個あった誤答が全く同じなのです。しかも、他の学生とは違う間違え方です。どう考えても、3人のうちの誰かのを他の2人が写したとしか考えられません。成績的に考えて、WさんのをSさんとYさんが写したのでしょう。

今日担当のB先生にこの3人に話を聞くように頼んでおきました。予想通り、Wさんの宿題が大本で、Sさんは写したことを認めたそうです。しかし、Yさんは頑として認めませんでした。また、Yさんは授業後に受けた漢字の再試験の最中に、スマホをいじっていたそうです。B先生が注意すると、答えを見ていなかったから構わないだろうという言いっぷり。教室内は携帯電話禁止だということは知っているはずだと迫ったら、文法の再試もあったのに、ふてくされて帰ってしまったそうです。

Yさんは、去年私のクラスにいて、結局やめてしまったOさんに似ているところがあります。授業中すぐ電話をいじる、教師に話を直接理解しようとせず友達に母語で聞く、勉強する気が感じられない、などという点です。まだ中間テスト前ですが、Yさんは授業についていけません。これもOさんと同じです。Oさんは自分が勉強に向いていないことがよくわかっていて、すっぱりと留学をあきらめて転進しましたが、Yさんは今のところそんなそぶりはありません。

宿題や再試でのやり取りからわかるように、Yさんには素直さがありません。自分の非を認めず、教師からの指導を受け入れようとしません。これでは日本語の上達はおろか、大人への脱皮もできないでしょう。この調子では、日本での進学なんて、望むべくもありません。

素直に非を認めたSさんにしたって、Wさんの誤答を見抜けないようじゃ先は明るくありません。中間テストの結果が出たあたりでこの2人に引導を渡すのが、私の今学期の大仕事になるのでしょうか。