Monthly Archives: 8月 2018

土俵際

8月16日(木)

9:45、教室のドアがノックされたかと思うと、Jさんが入ってきました。私と目が合うと、ちょっと申し訳なさそうに小声で「おはようございます」と言いました。

10:45、後半の授業の出席をとり終わると同時ぐらいのタイミングで、Gさんが入ってきました。授業開始時のどさくさに紛れて席に着こうとしたのかもしれませんが、ちょっと遅かったですね。

授業後、2人に遅刻の理由を聞くと、2人とも「2時ごろまで宿題をしました」と言います。しかし、昨日の宿題は2時までかかるほどの分量ではありませんでした。何時から宿題をはじめたのかと尋ねると、11時からとか12時からとかという答えが返ってきました。「それまで何してたの」と聞くと、Jさんはゲーム、Gさんは何もしていなかったと、蚊の鳴くような声。要するに、勉強よりも遊びを優先したあげく、朝寝坊して、遅刻してしまったというわけです。

遊びっぱなしで寝てしまわなかっただけましかもしれません。今学期の初めごろだったら、宿題はしてこなかった可能性が強いです。少し進歩だなと思いましたが、ここではほめません。でも、JさんもGさんも、そろそろ辛い時期に入りつつあるのかなあとは思いました。

進学という目標は掲げていますが、そのゴールへの道のりははるかに遠く、また、入学当初の日本語ゼロに近かった頃のように自分の実力の伸びを実感できなくなってくるのもこの時期です。心が折れそうになるかもしれませんが、折れてしまったら文字通りの挫折です。折れてしまったら、ゲーム三昧、無気力生活、引きこもりで、奈落の底へ一直線です。

あさってから夏休みです。生活を建て直すチャンスでもあります。再来週また会うときは、吹っ切れて一回り成長していてもらいたいです。

テストができる

8月15日(水)

中間テストの採点をすると、やはり緻密に勉強している学生は成績がいいです。話すだけならクラスで一番のCさんも、筆答試験となるときちんと積み上げてきているBさんにはかないません。コミュニケーション力ならAさんがピカイチですが、試験の点数ではBさんに一歩譲ります。

ペーパーテストの場合、濁点を落としたり誤字を書いたりしたら、どんどん減点されます。会話力だったら勢いや強い印象が重要なポイントですが、中間テストなどでは正確さがそれ以上のポイントとなります。ですから、地味ですが理詰めで論理的な頭脳を持っているBさんのような学生が有利になります。注意力が勝負だとも言えますから、几帳面なBさんがなお有利です。

音声言語は録音しない限り後には残りませんが、文字言語はしっかり記録されます。そのため、間違いも解答用紙の上に固定化されます。逆に、正確な日本語も目に見える形で光り続けます。だから、よけいにBさんの上手さが焼き付けられ、高く評価したくなります。

Bさんはペーパーテストしかできない偏った学生だと言いたいわけではありません。むしろその逆で、話すインパクトは弱いけれどもよく聞けばすばらしいことを言っているし、それは実は文法や語彙の使い方の正確さに裏付けられていたのだと、改めて感心しています。

頭でっかちの学生は、テストで点を稼いで、言語不明瞭なまま進級していきます。例文レベルなら〇がもらえる程度のものが書けるけれども、作文となったら論旨を追うだけで疲れ果ててしまうような文章しかかけない学生も、思いつくだけで数名います。テストで測りきれない力を持っていることこそが、本当に「上手」な人なのです。その点で言えば、CさんもAさんも立派なものだと思います。

整理整頓

8月14日(火)

中間テスト。定期テストの日は、いつもとは違うクラスの試験監督をしますから、いつもとは違う教室のパソコンを使います。こういうときに私がすることは、デスクトップの整理です。私は、デスクトップ上にいろいろなアイコンが散らばっていると、気持ち悪くてなりません。自分が入るクラスの教室のパソコンは、週に1~2回チェックしますからデスクトップが満天の星状態になることはありません。しかし、中間テストや期末テストで入るクラスは、そうはいきません。好き勝手なところにショートカットやパワーポイントや動画や音声やワードなどが置かれ、このクラスの先生方はこれで平気なのだろうかと思わずにはいられません。

デスクトップにアイコンがたくさんあると、どれが本当に必要なものかわからなくなると思います。職員室の私のパソコンは、一目で把握できる程度の数のものしかデスクトップに置いてありません。画面左端から3行以内と自己規制しています。それよりも多くなったら、あまり使わないのをどこかにしまいます。たまに早々としまいすぎて、引っ張り出すのに時間を食ったり、またデスクトップに戻したりということもありますが、長期間の平均を取れば、片付けてしまったほうが効率的だと信じています。

じゃあ、ほかは何でも片付いているのかというと、決してそんなことはありません。パソコンの中の仮想的な机の上ではなく、リアルな机の上は書類が積み上がり、パソコンのモニターの横にはファイルが立ち並んでいます。こういうものを思い切って処分できたら気分がいいのでしょうが、なかなかそうもいかないところが辛いところです。

中間テストが終わり、採点すべき答案用紙や原稿用紙が、積み上がってしまいました。

覚悟を決めさせる

8月13日(月)

指定校推薦の推薦者を決める面接をしました。2名の学生が面接に臨みました。どちらの学生もまじめではあるのですが、いまひとつパンチに欠けます。

Mさんは、先学期まで受け持っていた先生方の話によると、いわゆるモラトリアム学生で、自分の進路を決め切れていません。指定校推薦の話を聞いて、自分は条件を満たしているので応募してみようかなというのが本音のようです。志望理由書にはそれらしいことが書いてありましたが、小手調べのツッコミにもたじたじとなってしまいました。志望校の研究も足りないし、志望学部についても深く調べた形跡がありませんでした。

Sさんは、Mさんよりは調べが進んでいる様子でしたが、話し方がたどたどしい感じで、このまま本番の面接に出すわけにはいきません。志望理由書には立派な文言が書かれていただけに、そのギャップが目立ってしまい、大学の面接官は不審を抱くのではないかと思いました。

2人とも、本人としてはいい加減な気持ちではないのでしょうが、私の目からは全然まだまだ。合格ラインははるかかなたです。推薦するにしても、志望理由から徹底的に鍛え直す必要があります。考え方が甘いので、そこを突き詰めて、真に自分の学びたいことを見つけさせた上で出願させようと思っています。これに耐えられないのなら、推薦に値しないとして、ばっさり切り捨てます。

指定校推薦の制度は、大学側とKCPとの間の信頼関係に基づいて成り立っています。楽な入試制度としてしか見ていない学生や、学問に対する考えが深まらない学生は、いくら枠が空いていても推薦するわけにはいきません。MさんとSさんはそういう学生ではないと信じていますが、本当に推薦するならこれから相当引っ張り上げていかねばなりません。その過程で2人の人生に対する覚悟が定まれば、これもまた推薦入学制度の効果の1つです。

懐かしい顔

8月10日(金)

「卒業生のDさんが来ています」と声をかけられても、そのDという名前に記憶がありませんでした。8月、大学が夏休みになると、春にKCPを卒業した学生が顔を見せてくれることがよくあります。今年の1月期は上級クラスを受け持ち、多くの卒業生を送り出しましたが、Dという名前には心当たりがありません。でも、呼ばれているとなったら出て行かざるを得ず、ロビーのカウンターまで行きました。

すると、そこに立っているのは、今春の卒業生ではなく、何年か前の卒業生のDさんではありませんか。メガネをかけるようになっていくらか顔つきが変わりましたが、それでも卒業時の面影が十分に残っていました。思わず目を見開き口を押さえ、最大限のビックリの表情をしてしまいました。「先生、4年生になりました」といいますから、さらにもっとビックリ。毎度のことですが、卒業生に会うと8時間軸がぐちゃぐちゃになります。

Dさんはレベル1で入学し、最上級クラスで卒業しました。在学中は努力を欠かさないまじめな学生でした。私は入学の学期と卒業の学期を受け持ちましたから、より一層思い出深い学生です。その努力が実り、ある豊かな歴史を誇る街の国立大学に進学しました。入学以来3年余り、東京の喧騒を懐かしむことなく勉学に打ち込み、大学院も推薦で進学できることがほぼ決定しているそうです。その大学のパンフレットに出ていると言いますから、後でインターネットで確かめたら、Dさんの後輩に向けた一言が、写真付きで載っていました。

アルバイトの時給が安いといいながらも、充実した学生生活を送っていることがよくわかりました。東京からは遠いけれども是非KCPの学生にも来てほしいと言っていました。大学のおすすめリストが、また1つ増えました。

正しい恐れ

8月9日(木)

台風13号は、東京地方には大きな被害を与えることなく、日本のはるか東へと遠ざかろうとしています。昨日のニュースや天気予報では、関東地方を直撃し、大変なことになるかもしれないと言っていました。KCPでも、午前中は休講にしようか、始業を1時間遅らせようかなどとうい話も出ました。でも、私は、各方面からの情報を見て、そこまでする必要はないだろうと判断し、授業は通常通りと決定しました。

今朝、私が家を出る時間でも雨風は収まっており、学生が登校する頃には無風に近く、蒸し暑くなってきました。私の天気予報はよく当たると言われます。それはKCP付近のピンポイントだからであり、関東地方、東京都区部などという広域の予報ではないからです。予報範囲が広がれば、ことに台風など災害が絡んでくる場合は、その範囲内の最悪のケースを予測して予報を発表します。報道機関はその最悪の数値をもとに警戒を呼びかけます。ですから、「それほどでもなかった」と思われることも多いです。

私は、KCP付近だけを考えればよく、銚子は強風、秩父は大雨かもしれないけど、新宿はそれほどでもないと考えたら、「大したことない」と言い切れてしまうのです。それゆえ、当たるように見えるわけです。気象庁などは見逃しを避けるために大げさな発表をし、私は空振りを極力排除するためにぎりぎりまで強気の予報をします。単にどうにかなると思い込むのではなく、上手に高をくくっているのです。適正範囲の恐れを抱くと言ってもいいです。

私の通勤鞄には、いつも折り畳み傘が入っています。毎日適正範囲の恐れを見積もるのが面倒くさく、常に雨に降られるという最悪を想定し、折りたたみを入れっぱなしにしているのです。偉そうなことを言いましたが、実はこんな程度なのです。

単語

8月8日(水)

日本語は語彙が多い言語で、欧米語の倍ぐらいの単語を覚えないと、新聞などが読めるようにはなりません。ですから、私は、初級のうちから教科書に載っていない単語も何かと関連付けて出しています。上級でも上級なりに取り上げたくなる単語があり、漢字でも文法でも読解でも、チャンスがあれば、学生の頭にあれこれ押し込みます。

N1の文法なんていったら、大人の日本人でも意味を取り違えたり、そもそも全然知らなかったりするものも少なくありません。しかし、知っている単語の数、使える単語の数は、そう簡単に留学生には負けません。KCPの学生たちが進学する大学・大学院の同級生のレベルに追いつくには、相当な努力が必要です。

学生たちの関心も、そういう方面に向いていることが多いです。上級ともなると耳も相当以上に発達していますから、日々の生活で聞きかじった単語を自分も使ってみたいと思うことも多いようです。それゆえ、単語の数を増やすことに興味を示すのです。

方言も学生たちにとっては近寄りがたくもありますが、魅力を感じる分野です。私は親の仕事や自分の就職先の関係で、東京を基準に北方面の言葉も西方面の言葉も、それなりに話せます。感情を込めるなら、むしろ方言のほうが話しやすくすらあります。そんなわけで、怒ったり驚いたり喜んだりすると、思わず出てくることがあります。それが学生に受けて、本来の怒りが伝わらなくなってしまうこともあります。

授業で1回扱ったくらいでは、単語は定着するものではありません。繰り返し触れさせて注意を向けさせていくことがどうしても必要です。

真っ赤

8月7日(火)

先週の作文を返しました。来週が中間テストですから、じっくりフィードバックしたかったのですが、他の科目の進み具合もあり、本当にエッセンスだけにとどめました。

私が担当しているクラスはまだ初級ですから、語彙が足りないのはやむを得ません。しかし、知っているはずの語彙を正しく使えないのは問題です。意味もそうですが、それよりももっとずっと手前の、例えば「ほんどに(←本当に)」などという、自分の普段の発音をそのままひらがなにしてしまうような間違いを指摘しました。

また、習った文法を使うべきところで使えないという例も多いです。今学期勉強した「~ので」とか様態の「そうです」とかを、ここぞというところで使ってくれないんですねえ。先学期勉強した「~てしまいます」など補助動詞はだいぶ使ってくれるようになりましたが、それでもタラちゃんのほうがきちんと使っているような気がします。

私が作文を採点すると、文法の間違いや誤字脱字などを厳しくチェックしますから、たぶん他のクラスより平均点が悪くなると思います。他の先生は「よく頑張りました」という意味の丸をどこかに描くのですが、私が見た原稿用紙は、その丸を描くスペースすらないほど真っ赤になります。それでも初級相手ですから多少は手加減しているつもりです。赤を入れすぎると、どこが真っ先に直すべきところかわからなくなってしまうとも思います。でも、指摘しておかないとそれでいいと思われてしまうのではないかと、半ば強迫観念に駆られて、どんどん赤くしてしまうのです。

来週は中間テストです。直す箇所が少ない作文を書いてくれることを祈っています。

卒業生の声

8月6日(月)

今朝、メールを開くと、おととい進学相談に来たJさんから、A大学に出す学習計画の下書きが届いていました。大筋の内容はできているのですが、ストーリーの持って行き方が拙く、読んだ後の印象が薄いです。やる気が湧(沸?)いているうちにどんどん準備を進めるべきですから、私もすぐに上述のような意見を書いて返信しました。

ところが、教室に入ると、Jさんの姿がないではありませんか。メールの受信日時が昨日の夜になっていましたから、精根尽き果てて休んでしまったのでしょうか。でも、それでは本末転倒です。出てきたら、厳重注意です。

授業後はYさんから進学相談を受けました。Yさんは、留学生にしてはちょっと珍しい法学部志望です。C大学とH大学を本命としているのですが、両大学とも法学部は看板学部ですから、そう簡単に入れてくれません。滑り止めというか、現実的に勝ち目がありそうなところはどこでしょうかというのが、相談の趣旨です。

こういうときに私が薦めるのは、進学した学生が満足している大学です。すべての大学の教育システムややカリキュラムやキャンパスの雰囲気や留学生支援体制などに精通できるわけがなく、パンフレットやホームページも目を通すことができるのはごく一部に過ぎず、ということで、頼りになるのは卒業生が遊びに来た時の声、実際に進学した学生たちからの生の情報です。

私が耳にしている声では、M大学、F大学、S大学あたりは、進学した卒業生がみんないい大学だと言っています。G大学も、進学した学生が愛着を持っています。逆に悪い評判を聞いているのは……こちらはイニシャルだけでもやめておきましょう。

アリの第一歩

8月4日(土)

今年は受験生の足が早まりそうだというのが、今まで私が接してきた留学生入試関係者の共通した意見です。これを受験生が大勢いるクラスでさんざん訴えてきましたから、KCPの進学志望の学生たちも、動きが速くなっています。午後から2人の学生の進学相談に乗りました。

2人とも東京の私立大学を狙っています。EJUがこの点数だとX大学は合格できそうか、Y大学はどうだろうかというのが主たる相談です。私はその大学の関係者ではありませんから、「絶対大丈夫」などとは口が裂けても言えません。でも、2人は何とかそれに近い言葉を私の口から聞き出そうと、手を替え品を替え迫ってきます。

そういう気持ちもわからないではありませんが、やっぱり志望校にほれ込んでもらいたいです。午前中第一志望校のオープンキャンパスに行ってきたというJさんは、その点は合格です。模擬授業にも参加し、入試に関する情報も手に入れてきたようですが、欲を言えばその大学について独自の目で取材してきてほしかったところですが…。模擬授業を聞いて、今まで以上に入りたくなったと言いますから、面接の際のネタには使えそうです。第一歩を踏み出すという観点からは、大成功でしょう。

合格ラインを盛んに気にしていたHさんにしても、自分なりに志望校について、少なくとも入試制度に関しては、よく調べていました。具体的にどのくらい頑張らなければいけないかは見えてきたようです。また、学風の違いにも目が向くようになりましたから、秋口に向けてどこに出願すべきかというイメージはできあがったことと思います。

暑い盛りの頃から動き出せば、必ずどこかに受かります。入試はアリの味方です。