Category Archives: 試験

プレッシャーに弱い

1月13日(水)

早朝、一人で仕事をしていると、Kさんが外から窓をたたきました。まだ暗いうちでしたが、志望理由書をチェックしてもらいに来たのです。急いで玄関のドアの鍵を開け、Kさんを招き入れました。そして、Kさんの書いてきたS大学の志望理由書を見ました。ややインパクトに書けるところはありますが、日本語としての間違いの少ないよくできた文章でした。

そういう感想を述べ、どんなことを付け加えればいいかを指摘しました。ところが、今思うと、Kさんの本題はここから先でした。S大学を始め、いくつかの大学に出願しようとしていますが、Kさんの最大の悩みはプレッシャーに弱いということでした。EJUの前などでも、体の震えが止まらないほどの緊張感を味わうそうです。今も、午前中の授業が終わるとすぐ帰宅して、夜の8時ごろまで寝て、それから夜を徹して朝まで勉強するそうです。だから、暗いうちから学校へ来られるのです。

確かに、KさんのEJUの成績は、周りの教師たちが感じるKさんの実力よりだいぶ低いものでした。緊張しやすい性質を矯正するのはなかなか難しいです。自信を持たせようとしても、実際の試験のことを思うと、こちらの小細工など消し飛んでしまうのです。私にできることは、Kさんの話をじっくり聞くことぐらいです。だから、1時間あまりKさんの話に耳を傾けました。

取り留めのない話と言ってしまえば身も蓋もありませんが、Kさんにとっては多少はカタルシスになったようです。朝ごはん(Kさんにとっては晩ごはん???)を取りに出たところを見かけた出勤途上のR先生は、ずいぶんすっきりした顔をしていたとおっしゃっていました。

プレッシャーに弱かろうとどうしようと、受験は容赦なく迫ってきます。それまでKさんを支え続けねば…。

Pさんの机の上の時計

12月22日(火)

気がついたら、期末テスト。午前中の試験監督のクラスで、Pさんは教室に入るなりかばんから小さなデジタル時計を出しました。小指の第2関節ぐらいまでの長さと太さの時計で、それを机の端っこに置いてテストに取り掛かりました。

この時計を見て、京大が今年から入試会場に時計類の持ち込みを一切禁止すると決定したことを思い出しました。腕時計型の端末によるカンニングを未然に防ぐためです。京大は何年か前に、携帯電話を使ってネット掲示板に入試問題を投稿するというカンニング事件を引き起こされていますから、その手の機器の持ち込みに関しては敏感なのでしょう。

Pさんの時計は明らかに計時機能しかありませんでしたから、そのまま受けさせました。よしんばその時計が漢字かなんかを記憶していて、Pさんに好成績をもたらしたとしても、Pさんが得る利益はKCPで次のレベルに進級するということだけです。それが見つかって私にたっぷり説教されるリスクを冒してでも手にしたくなるような利益ではありません。

とはいえ、腕時計型端末が誰もが持つほど普及したら、KCPも規制を考えなければならないでしょう。私がKCPに勤め始めたころは、紙の辞書が主力でした。それがあっという間に電子辞書になり、今では電子辞書すら持たず、もっぱらスマホを辞書に使う学生のほうが多数派です。作文の時間に辞書使用可とすると、ネットのどこぞのページを丸写ししたような文章が出てくるようになりました。

技術の発展に伴う悪用を見ていると、性悪説を信じたくなります。腕時計型端末どころか、ウェアラブルコンピューターが進んだら、試験会場でめがねの着用が禁止されるようになるのでしょうか…。

終夜運転

12月19日(土)

今朝、新宿御苑前駅で降りると、ホームの壁に大晦日の終夜運転の時刻表が張ってありました。ゆうべの帰宅時は張られていなかったように思いますから、終電後にでも張り出したのでしょう。毎年、これが現れると、ずいぶん押し詰まってきたなと感じさせられます。既に、学校の近くには、お正月の笹のお飾りが出ています。

学校と家との往復に終始する生活だと、クリスマスやお正月が近いことを実感するチャンスがありません。確かに、カレンダーを見ればあと1週間足らずでクリスマス、2週間足らずで新年です。でも、日々の生活にそういう雰囲気があるかといえば、授業をして、面接練習をして、教材を作って、進学相談に乗って、…という調子で、何の変化も季節感もありません。強いて言えば、おととい、卒業生のYさんがアイスクリームでサンタクロースを作って届けにきてくれたことぐらいでしょうか。だから、今朝、大晦日の終夜運転の時刻表を見つけたときに感動したのです。まあ、残念ながら、丸の内線の終夜運転には乗りませんがね。

Aさんが退学の挨拶に来ました。いったん国へ帰って、1月からは関西に居を構えて、関西の大学を集中的に受験するそうです。関西へ行っちゃうと面接練習が簡単にはできなくなるから、あれやこれやいろんな場合を想定した面接練習をしていきました。また、今までは同じ志の友人が身近にいましたが、1月からはそうはいきませんから、1人で勉強するに当たってのアドバイスも求めていきました。

退学してもKCPとの絆が切れてしまうわけではありません。メールでやり取りできますし、陰ながら応援していきます。松飾が取れる頃、Aさんは初陣を迎えます。

何もしていない

12月18日(金)

期末テストが来週の火曜日に迫っていますが、まだ1問も作っていません。こんなに問題作成が遅れたのは、初めてです。私が担当している超級は、毎学期授業内容が違うため、以前のテストの使い回しができません。だから、読解も文法も漢字も新たに作らねばならないのですが、それが全然進んでいないのです。

端的に言って、忙しすぎるというのがあります。通常のクラス授業のほかに、受験講座を抱えているのが大きいです。学期の最初は、日本語教師養成講座の授業も受け持っていました。志望理由書や想定面接問答の添削を求める学生がいつになく多かったです。志望校の過去問をやってきて、採点してくれという学生も何名かいます。また、今学期は土曜日が1日中会議になるパターンが多く、土曜日に仕事をやりためておくこともできませんでした。トドメは代講の多さです。

明日の土曜日こそは試験問題作成と思っていますが、朝から面接練習や進学相談などがあり、どうなることやら心配なことこの上もありません。土曜日出勤制度が始まったころは、土曜日にまとまった仕事ができましたが、最近は平日とあまり変わらないくらい諸事多端で、思うように能率が上がりません。学生が熱心に勉強するのは喜ばしいことなのですが、このままでは、うれしい悲鳴が本物の悲鳴に変わりかねません。

でも、試験当日になっても問題ができていなかったら、学生は喜ぶでしょうね、「テストを作っておくから、明日もう一度来い」なんて言わない限りは。まあ、最悪、こうすればいいという心積もりはありますから、そんなことにはしませんけど。

そうそう、私は年賀状もはがきを買っただけで、まだなんにもしていません。出すのは10通ちょっとなので毎年手書きですが、数年前に旅先のホテルで書いて投函したということもありました。来週の金曜日は仕事納め、土曜日は朝一番で東京を離れる予定を立てています。あと1週間ですから、期末テストの問題も、馬力で乗り切っちゃいたいです。

シャープペンシルの芯

12月17日(木)

A先生が嘆いています。昨日届いたEJUの成績通知を各学生に渡して、その成績を確認したのですが、それがひどいからです。点数が低いのなら、毎度のことですから、対処の方法もあります。しかし、話を聞いただけであきれてしまうようなことをやらかした学生がいるのです。

Bさんは文科系の学生ですが、「数学コース2」が80点という成績がついてきました。本人がびっくりするほどのひどい点数です。Bさんは、もちろん、解答用紙の「数学コース2」をマークした覚えはありません。でも、こういう成績表が送られてきたということは、きっと塗り間違えたのでしょう。「コースを間違えたのに80点も取れたなんて、すごいでしょう」って自慢していたそうですから、立ち直りが早いというか、反省の色が薄いというか…。

Cさんは理科系の学生ですが、数学の点がついていませんでした。A先生がCさんに事情を聞いたところ、「数学の時間、鉛筆がなくなりましたから」という答えが返ってきたとか。要するに、シャープペンシルの芯がなくなったということです。数学は理科系の要の科目です。数学の成績がつかなかったら、理系の学部・学科の受験はほぼ絶望的です。たかがシャープペンシルの芯がないくらいで、そんなことをしちゃうでしょうか。「シャープペンシルには予備の芯を入れておくこと」「万が一、芯がなくなっても、誰かにもらうなどして、決してあきらめないこと」こんなことまで注意しなければならないのかと、A先生は愚痴っていました。Cさんがどうしようもない、ねじが3本ぐらい抜けていそうな学生ならともかく、ふだんはまともな学生だから、A先生のショックもひとしおのようです。

学生が子どもになったと言われて久しいですが、シャープペンシルの芯の心配までしてやらねば、自分の将来を左右する大事な試験も受けられなくなってしまったのでしょうか。「電子レンジはペットを乾かすのに使ってはいけない」なんていう注意書きに似てきたなと思いました。

勝負‥‥できるかな?

12月16日(水)

午前中、11月のEJUの結果通知が届き、午後から、もらいに来た学生に渡し始めました。予想通りというか、予想以上に進学相談の学生が押し寄せ、仕事がほとんど進みませんでした。

自分の成績を見て出願大学を決めるのは当然のことですが、今年は昨年あたりに比べて、自分の点数では入れそうな大学はどこかという質問が多かったように感じました。ネームバリューのある大学に確実に入りたいという意識が強いのでしょうか。

国立大学の場合、2月25日の集中試験日に受ける大学1校と、それ以外の日に受けられる大学何校かを選ぶことになります。全部で数校ですが、その組み合わせが問題です。チャレンジ校はすぐ決められても、その次のランクの大学が学生にはよくわからないのです。自分の持ち点で受かりそうな大学、学部学科は替えてもいいからちょっとでも有名そうな大学に入りたい、そんな葛藤が実況中継で始まりました。

それをさらに複雑にするのが、出願は6月の成績でするか11月のでするかという選択です。どちらかが明らかによければ悩む必要もありませんが、6月で結構な点数を挙げてしまうと、11月はある科目は上がって、別の科目は下がってということにもなります。となると、大学がどの科目をどの程度重視するかを見極めねばなりません。留学生入試は日本人の一般入試とは違って、何にどの程度ウェートを置くかが発表されないことが多いです。だから、教師の経験とカンと推理が頼みの綱です。

年が明けたらすぐ国立大学の出願です。学生たちにしても、ゆっくりと迷っている暇はありません。明日以降も、悩める子羊が続々と訪れることでしょう。

シミュレーション

12月12日(土)

今シーズンは、学校で顔を合わせなくてもメールで受験関係の指導を求めてくる学生が多いです。ZさんやDさんはその常連で、面接での受け答えのシミュレーションを送ってきました。熱心なことは認めますが、それを全部暗記しちゃおうというのなら、少々問題です。丸暗記すると、忘れるからです。そして、忘れたら頭が真っ白になって、言葉が何も出てこなくなる危険があるからです。

人間、緊張すると、いろいろと想定外の事態を引き起こします。事前のシミュレーションでは完璧でも、その道筋を一歩でも外れたとき、緊張しているとパニックに陥るものです。平常心を持ち続けられれば、応用動作も利くでしょうが、なれない雰囲気に置かれると、その応用動作の範囲がぐっと狭くなるものです。覚えたはずのことを忘れて、どうしたらいいかわからなくなるなんて、その典型と言えます。

私が働いていた工場では、事故発生時などの非常時のマニュアルは覚えるなと教えられました。覚えたら、忘れるからです。非常時マニュアルのどこかを飛ばしたら、取り返しのつかないことになります。命にかかわることにもなりかねません。マニュアルで一つ一つ確認しながら動くのが、一番確実なのです。

ZさんやDさんに危うさを感じるのは、この点です。若い頭脳は暗記に耐えられちゃうんですよね。2人ともすでに何校か受験していますから、入試の面接がどういうものかはわかっているでしょう。だから、わざわざ面接の問答を文字化しなくても、とんでもないことにはならないと思います。でも、言い知れぬ不安やプレッシャーが、2人にシミュレーションを書かせるのでしょう。ろくに面接練習もしないで本番に臨む学生よりは、ずっと進学や自分の将来に対して真摯です。その真面目さが仇となることがあるのが、入試の怖いところです。

2人のメールには添削をして返信しましたが、「言葉が甘い」なんていうふうに、わざと足りない箇所を指摘するに留めたところもあります。はてさて、どうなるでしょうか。

珠玉の一言

11月28日(土)

S大学の入試を目前に控え、今週後半は面接練習や小論文のチェックなどをいろんな学生から頼まれました。今日も、土曜日なのに、朝8時半からYさんの面接練習、その後日中は会議で、会議終了後、日が暮れてから、Dさんの小論文チェックをしました。

YさんもDさんも、志望学部で勉強する学問内容についてよく研究しており、いつの間にかかなりの知識量になっています。惜しむらくは、その知識を十分活用しきっていない点です。私に指摘されて「ああそうか」と気付いているようじゃ、ちょっと心配です。

面接や小論文は、暗記した知識を放出する場ではありません。その知識を社会の現状と照らし合わせて自分の成すべきことを見出したり、知識を組み合わせてある問題への対処法を編み出したり、要するに、知識をベースに考える力が問われるのです。YさんもDさんも、知識そのものを答えようとしている節がうかがえます。そうじゃなくて、自分なりの一ひねりを加えなきゃ、S大学の面接官や採点官は満足しないんですよ。

今年のS大学は受験生が集中していると聞いていますから、YさんやDさんに限らず、みんな厳しい戦いを強いられるでしょう。知識だけでも、入りたいという気持ちだけでも、もちろんEJUの点数だけでも、勝ち抜けません。体からにじみ出てくるような、S大学の先生が思わず心を動かしてしまうような、珠玉の一言が必要です。Yさん、Dさん、あなたたちは、その一言を紡ぎ出す必要条件は備えています。最後の最後にそれを熟成して、十分条件に変えてください。

風邪、腹痛

11月18日(水)

中間テスト・期末テストというと、不思議と風邪を引いたりおなかが痛くなったりする学生がいます。Oさん、Pさんなどは、今日も早々に学校に連絡を入れてきてお休み。先生たちは誰も彼らのことばを信じていませんが、試験当日の忙しい時に、アホなやつのたわごとには付き合っていられませんから、そのまま聞き流します。

今日、中間テストを受けなくても、追試は明日ですから、メリットってほとんどありません。テストから逃げ回っているようなやつが、今晩一夜漬けをしたところで成績が見違えるようによくなるわけがありません。しょせん、みんながテストを受けている時、スマホでもいじって暇をつぶしているのが関の山なんですから。

それにしても、受けないでは済ませられないことがわかってて、どうして1日ポッキリ受ける日を遅らせようとするのでしょう。嫌なことはとっとと済ませたほうが、精神衛生上もいいと思うんですけど。Oさんなんかは、平常テストも決められた試験日に受けることがまれで、中間テストや期末テストの直前にまとめて受ける羽目に陥ります。そうやって受けたテストは、試験日当日に受けた場合と比べて低い評価にしかならず、成績的にも大損なんです。そういう痛い目に何度もあっているのに、なおかつ逃げようとする思考回路がどうしても理解できません。

先憂後楽ということばがあります。本来は為政者の心得ですが、先に心配事や苦労を片付けると後から楽ができるというレベルにまでかみくだくと、私たちの生活にも当てはまることばになります。今日、気安くサボった学生たちの耳には、このことばがどのように響くでしょうか。

テスト作り

11月11日(水)

来週の水曜日が中間テストなので、その試験範囲が発表されました。私が担当している超級レベルは、試験範囲といっても試験前日までやったところという、何の情報にもなっていない発表です。超級ですから、たとえ勉強していない問題が出されてもそれなりに解けなきゃだめですよ。

来週水曜が中間試験ということは、火曜日までに問題を作らなければならないということです。昨日から問題作りを始めたのですが、明日は授業後は面接練習がしこたま入っていて、明後日は受験講座で時間が取れず、土曜日は会議、月曜日は受験講座と、一体いつ作る暇があるんだろうかという感じです。範囲はいい加減でも、問題は気合を入れて作らねば、一生懸命勉強してくる学生たちに失礼です。

この時期は大学の出願もありますから、志望理由を見てあげなきゃいけない学生がたくさん出てきます。Cさんもその1人です。一生懸命書いてきたのはいいんですが、Cさん自身も途中で何を書いているのかわからなくなってしまったことが、文章の上にありありと表れています。カッコいいことを言おうとしているんですが、企画倒れ気味です。そういう文章を、本人に事情聴取しながら書き直すのですから、時間がかかることおびただしいです。

それから、Oさんの推薦状も書き上げました。Oさんは、いい意味で書くべきエピソードが豊富ですから、思ったほど時間がかかりませんでした。それでも小一時間はかかりました。

その他、Sさんの進学相談、AさんとJさんの出願書類チェック、ZさんとKさんの理科の勉強法相談、Lさんの面接練習、さらに、明日は急に実習生が私のクラスを見学することになり、そのために授業内容をちょいと変えることに。気合を入れて問題を作りたくても、気合を入れる時間すらありません。問題を作る時間がなかったから中間テストなしってなったら、学生は喜ぶでしょうけどね…。