Category Archives: 日本語

しちがつよっか

6月21日(水)

7月期に入学する学生3名に、オンラインで面接をしました。プレースメントテストでほとんどの新入生のレベルは決定できるのですが、上のレベルと下のレベルのボーダーライン上だったり、各科目の成績がアンバランスだったりする場合には、新入生本人にインタビューしてレベルを決めます。新入生のレベルは、高すぎても低すぎてもいけません。レベルの見極めが大切です。

最初の学生はCさん。仮レベル4ですが、よく話せます。大学院進学希望とのことでしたから、専門的なこともちょっと聞いてみました。すると、答えられるかなと思って聞いたことにも、こちらの興味を引くような話をしてくれました。今学期受け持ったクラスもレベル4でしたが、そのクラスの中でも上位の学生と同等の会話ができました。4の終わりの学生と同じということは、新学期レベル5ですね。

次はKさん。こちらの判定はレベル5ですが、話した感じはCさんより少し劣りました。口の滑らかさはCさんですね。来日の日付を「さんじゅうがつ」なんて言ってしまうあたり、話し慣れていないのかな。その30日に来日し、毎日KCPに通えば、どうにかなるかもしれません。しかし、JLPTの成績は、CさんよりKさんの方が20点ぐらい上なんですね。プレースメントテストで測れる力はこちらの点数に近いですから、妥当な評価だったのでしょう。

最後のLさんは、レベル1にするか2にするかの判定です。独学で8か月やってきたとのことですから、その独学のやり方により、1にも2にもなります。「いつ、日本へ来ますか」と聞いたら、Lさんは「しちがつよっかです」と即答。「ななげつよんにち」とかという、独学の初級の学生が犯しがちなミスはせず、発音もきれいに答えてくれました。これは、レベル1に入れてひらがなの練習からさせたら気の毒かな。

入学式で、この3人に会うのが、今から楽しみです。

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発表練習

6月14日(水)

私が受け持っている中級クラスは、日本人ゲストをお呼びして、期末タスクの発表練習をしました。あさってが発表本番なので、その2日前に本格的な発表練習をし、前日に最終の修正をかけようという心づもりです。私も、学生たちの発表がどこまで進んだか見てみようと思っていました。

発表2日前なのに、ほとんどの学生が原稿を見っぱなしだったのが、何よりの不安材料となってしまいました。ゲストの方からもご指摘を受けましたが、原稿の日本語が難しすぎます。あちこち調べるのはいいのですが、調べた結果を吟味せずにそのまま発表原稿にしてしまっているのはいただけません。原稿が自分の言葉になっていないから、原稿を読み上げることになってしまうのです。

目が原稿に向かっていますから、パワーポイントの図表を活かして発表するという段階には至っていません。モニター画面を指し示しながら発表したのは、Dさん1人だけでした。これでは発表になりませんから、発表が終わった後で、こんなふうにするんだよと私が実演して見せました。

そもそも、声が小さいです。これまた原稿を読もうとするせいなのかもしれませんが、教室の一番後ろに立つと、蚊の鳴くような声しか聞こえてこない学生も数名いました。これじゃあ、原稿を黙読してもらった方が、発表者の考えが聴衆に伝わります。

ゲストの方からいただいた貴重なアドバイスも取り入れて、明日、手直しをしてもらいます。でも、考えてみれば、学生たちは自分にとって外国語である日本語でなにがしか発表しようと挑戦しているのです。足りない点を指摘しまくりましたが、心の中では立派なものだと秘かに感心しています。

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欠席するおそれがあります

6月7日(水)

朝、授業の準備をしていると、Tさんからメールが届きました。「昨日の食べた料理のせいで、お腹が痛くなって、寝られなくなりました。今日クラスを欠席するおそれがあります。」と書いてありました。

これを文法の時間に習った通りに素直に解釈すると、「欠席するかもしれない/欠席する可能性がある」となるでしょう。でも、常識的に考えて、Tさんは欠席届のつもりでこのメールを送ったことは明らかです。その証拠に、この文に続いて「ごめんなさい」という言葉がありました。KCPは欠席を厳しくとがめますから、思わず謝ってしまったに違いありません。

「~せいで」「~おそれがある」は、今学期クラスで勉強した文法表現です。Tさんは、おそらくお腹の痛みに耐えつつ文法の教科書を見ながら、その2つの文法を組み合わせて、このメールを作成し送信したのでしょう。それが、この文法を教えた私たち教師への礼儀であり、恩返しでもあると思っていたかもしれません。「お腹が痛いので学校を休みます」で十分なのにこんな文面にしたのには、そんな心情が隠されているような気がします。

Tさんのメールは、欠席届としてはふさわしくないですが、習ったばかりの文法を果敢に使おうとした点は評価してあげられます。向こう傷ですから、名誉の負傷です。翻訳ソフトが作った文よりは、よっぽど血が通っています。

メールの返信には「お大事に」としか書きませんでした。そんなところで文法の講義をしたら、腹痛に加えて頭痛まで抱えてしまうことになりかねません。明日、Tさんが元気になって学校へ来たら、特別講義をしてあげましょう。

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失脚

6月6日(火)

上級クラスで「失脚」という単語を扱いました。学生に意味を聞くと、「やめること」という答えが返ってきました。確かに、「汚職がばれて、社長が失脚した」という文なら、「~社長がやめた」でも意味は通ります。ところが、学生に書いた例文の中に、「解決策が完全に失敗して、課長が失脚した」というのがありました。やはり、失脚するのは社長であり、課長が失脚するなんておこがましい感じがします。ですから、失脚する人はある程度の地位、トップかそれに近い人物である必要があります。

辞書で失脚を調べてみると、だいたい「失敗して、それまでの地位・立場を失うこと」とまとめることができます。でも、これだと課長も失脚していいことになります。失脚には、「権力者がその権力を失う」とういイメージが伴うような気がします。それも、「権力争いに負けて」とか、「高い地位にふさわしい仕事がうまくいかなくて」とか、「下の立場の者からの信頼を失って」とかという要素も含まれているのではないでしょうか。

そうすると、学生の例文「首相の長子は不正な行為で失脚した」はどうでしょう。首相官邸でどんちゃん騒ぎをしたり、外国で公用車を使ってお土産を買いに行ったりして、秘書官更迭という罰を受けたことを指すことは明らかです。しかし、首相秘書官が失脚に値する地位かというと、どうでしょうか。次期首相が約束されていたのなら失脚でもいいと思いますが、実際の首相長男氏はそれほどの地位だったかなという気がします。いや、首相の周りでは「失脚」と言っているのかもしれません。

学生の例文を読むまでは、「失脚」という言葉についてこんなに深く考えたことはありませんでした。また、学生に勉強させてもらいました。

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実感できない

5月30日(火)

上級クラスのNさんは、美術系の大学進学を目指す学生です。第一志望校はA大学で、今度の日曜日に体験授業に参加します。A大学は体験授業参加型の入試がありますから、このまま順調にいけば合格の可能性は高いです。また、中間テストではどの科目もクラス平均以上の成績を挙げました。授業中はおとなしいですが、どんな課題にも真剣に取り組む様子がうかがわれます。

そんなNさんの面接をしました。授業後、毎日、図書室で6時まで予復習をすると言いますから、学業に対する姿勢には問題ありません。EJUが終わったらアルバイトを始めると言っていますが、Nさんならアルバイトにのめりこんで勉強がおろそかになることはないでしょう。

私が聞きたい話はだいたい聞き出せたので、最後に「ほかに何か質問はありますか」と聞きました。すると、「最近、自分の日本語力が伸びているか心配になります」と言い出しました。確かに、Nさんは地味なタイプの学生ですが、授業中の発言はいつも的確です。私が受け持っている中級クラスの一番優秀な学生と比べても、はっきり力の差を感じます。だからこそ、A大学の合格可能性が高いと言えるのです。

でも、実力の伸びが実感できないという気持ちも理解できます。レベル1や2の頃は、授業前にはできなかったことが、授業後にはできるようになっているということの繰り返しです。それゆえ、力が付いたことは学生自身にもよくわかるはずです。これが中級以上になると、そういう劇的な違いを感じる機会が非常に少なくなります。Nさんもそういう段階に至っているので、不安なのです。

もちろん、Nさんのようにまじめに勉強している学生の力が伸びていないなどということはありません。今学期だって、ディベートの授業を通して話す力をつけています。それを実感させられないのは、私たちの力不足です。励ますだけではなく、話せたとか読めたとか、具体的な形で学生に体感させたいものです。

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パソコンが壊れた?

5月29日(月)

先週、今年の1月に買ったパソコンが、突然電源が入らなくなってしまいました。こういう時は電源ボタンを長押ししてみるのが常道ですからそうしてみました。しかし、何の変化もありませんでした。前のパソコンを処分せずにとっておいたので、とりあえずそれを使って急場をしのぎました。

そして、昨日、メーカーのサポートセンターに電話を掛けました。日曜日の午後ですから、きっと長い時間待たされるだろうなと思いながら音声ガイダンスに従って1とか2とか入力していくと、わりとすんなりオペレーターにつながりました。

「お待たせしました」の「おま」ぐらいで“あ、この人、外国人”とわかり、しかも国籍まで見当がついちゃいました。外国人となると、早口でまくし立てても通じません。せいぜい中級クラスの学生向けの話し方で、「先週の木曜日から電源が入らないんですが、どうすればいいでしょうか」と聞きました。

「そのことについて、何かお心当たりはありますか」と、おそらくはマニュアル通りの質問がありました。「いいえ、全くありません」と答えてしまってから、“全く”よりも“全然”のほうがよかったかなと思い直しました。でも、通じたようで、その次の質問を繰り出してきました。

結局、私がしたよりもずっと長い時間の長押しをしたら、どうにか復旧しました。そう告げると「そのほか、お聞きになりたいことはありますか」と、これまたマニュアル通りらしき確認。「おかげさまで問題は解決しました。どうもありがとうございました」と答えると、一瞬、間があきました。ちょっと難しかったかな。

パソコンの細かいところの動作チェックをしながら、あの人はどんな日本語教育を受けてきたのだろうと思いました。発音はイマイチですが、やり取りのシチュエーションが限られるという面もあるでしょうが、聞き取りはきちんとできました。上級の力があると思ってもいいような気がしました。

ウチの学生も、専門知識があれば、このくらいの受け答えができるでしょうか。背後から日本人の声が聞こえましたから、サポートセンターは日本にあるのかもしれません。日本で働くとは、こういうことも含まれるのです。私のような素直な客ばかりとは限りませんよ。

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5月24日(水)

中間テストの結果をもとに中国出身のSさんの面接をしていたら、「先生、“的”の使い方がわかりません。教えてくださいませんか」と聞かれました。

中国語と日本語では、“的”の使い方に違いがあります。「美国“的”大統領」は「アメリカ“の”大統領」であって、現在はバイデンさんです名詞が名詞を修飾するときの“の”です。ところが、日本語で「アメリカ“的”大統領」といったら、バイデンさんは指さないでしょう。「アメリカの大統領と同じような権力を持った大統領」「アメリカ人のような発想をする、アメリカではない国の大統領」といったところではないでしょうか。

日本語での“的”は、「積極的」とか「具体的」とかというように、な形容詞を作る際に使うのが典型例ではないでしょうか。「実力“的”に十分合格可能」などというと、「実力の面から考えると」と、普通のな形容詞とは違った意味を担っています。

詳しく見ていくと“的”の意味はまだまだ出てくるでしょう。あんまりあれこれ教えるとSさんの頭がオーバーフローしてしまいかねませんから、このほかに日本語は形容詞に“的”をくっつけないという違いを取り上げただけにしました。「白“的”紙」ではなく、「白い紙」です。

はっきりいって、中級になってからこんな質問をするなんて、遅いです。こういう疑問は初級のうちに解決しておいてほしいです。とはいえ、聞くは一時の恥で、面接の場ですから他の学生もいないこともあり、長年の(?)疑問をすっきりさせようとしたSさんの姿勢はほめてあげたいです。今学期の進級は無理かなと思っていましたが、少し目が出てきた感じもしてきました。

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逆効果

5月1日(月)

昨日、家の前のショッピングモールにある靴屋の店先を通ると、2足で7000円以上の買い物をすると10%割引だと出ていました。私が旅行などで長距離を歩くときに履く靴(川越へも秩父へも履いて行きました)はめったにバーゲンになりませんから、チャンスと見て店に入りました。その靴の棚まで行き、そばにいた店員さんに聞きました。「同じ靴を2足でも割引になりますか」「はい、7000円以上でしたら10%引きになります」「じゃあ、この靴の26.0センチを2足ください」「はい、ありがとうございます。在庫をお調べします」。

店員さんはそう言って、商品のバーコードを読み取りました。「申し訳ございません。26.0センチは在庫がございません。25.5センチか26.5センチならあるのですが…」と、少し残念そうな顔つきで教えてくれました。まず、こいつ、本気で言ってるのかと、ちょっとムカつきました。私が買おうとした靴は、長距離を歩くためのウォーキングシューズです。サイズが違ったら靴擦れができかねません。そんなことぐらい、靴屋の店員なら常識だと思うのですが。

「じゃあ、結構です」と断って立ち去ろうとする私に、「そうですか。大丈夫ですか」とその店員。「大丈夫なわけないでしょう。欲しい靴がなかったんですから」と怒鳴りつけてやろうかと思いましたが、大人げないのでやめました。もちろん、店員の言いたいことはわかりますよ。「お買いにならなくても大丈夫ですか」「代わりの靴をお探ししなくても大丈夫ですか」というあたりでしょう。

でも、なかなか安くならない靴が安く手に入るかと思ったらそううまくいかなくてがっかりしていた私は、心理的には全く“大丈夫”ではありませんでした。そんなところに無神経に「大丈夫ですか」と声を掛けられたのですから、その前段階でサイズ違いならあると言われたことも相まって、怒り狂いたくなったのです。

私は以前から安易に使われる「大丈夫」に批判的な目を持っていましたが、これほどムカッと来たことはありませんでした。店員が「そうですか。申し訳ございません」「代わりの靴をお探ししましょうか」「こちらの靴も歩きやすさにかけては引けを取りませんよ」ぐらい言ってくれたら、ごく普通に店を出られたんですがね。

連休は、秩父にも履いて行った靴で、関西を歩き回ります。

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ピョウをください

4月26日(水)

今学期の学校行事・秩父旅行があさってに迫ってきましたから、私のクラスでは朝からテストを2つこなして、その後、旅行の説明をしました。遅刻や欠席がおおぜいいたらいやだなあと思っていましたが、今朝はYさん1名だけでした。

今回の旅行は、今までのバス旅行とは違って、電車旅行です。去年の川越も電車で行きましたが、現地集合でしたからみんなばらばらに行き、、電車旅行という雰囲気ではありませんでした。しかし、今回は池袋から特急ラビューで行きます。乗った瞬間から旅行です。川越へ行き時に乗った通勤型電車とは、高揚感も違うはずです。

でも、それにまつわる注意事項も増えました。まず、電車は絶対に待ってくれません。バスなら出発時刻に多少融通をつけてくれますが、電車はその点シビアです。下車駅でもそうです。短い停車時間の間にてきぱき動いて降りなければなりません。だらだらでれでれ動いていたら、各方面に迷惑が掛かります。

学生たちには当日の乗車券を配りました。外国人専用の(だから、教職員は対象外)、西武線全線が乗れるチケットです。その説明をし、絶対忘れるなと注意しました。ラビューの座席指定券も渡しました。現地に着いてからは原則クラスごとの行動ですから、そこでの注意もしました。

そこまでで、前半の授業が終わってしまいました。1階の職員室に引き上げようとしていたら、説明の時にいなかったYさんが来ました。「Yさん、どうしたんですか」「先生、すみません。寝坊しました」と、予想通りの遅刻理由。そのすぐ後に、「先生、ヒョウをください」とYさん。Yさんの言いたいことはわかっていましたが、「ヒョウ?」と聞き返しました。「電車のヒョウです」「電車のヒョウって何ですか」「…ピョウ」「電車のピョウ?」とさらに聞き返すと、Yさんは口頭での説明をあきらめ、指で四角を描きました。

「ヒョウでもピョウでもいいですが、それは日本語で何ですか」と聞くと、Yさんは黙ってうつむいてしまいました。“チケット きっぷ”とホワイトボードに書きました。“ヒョウ”とは“票”であり、“ピョウ”のほうが原語音に近いのです。Yさんの思考回路が中国語で回っていることが、はっきりわかりました。

それにしても、心配です。あさって、Yさんはラビューに乗れるのでしょうか…。

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うつむく学生たち

4月15日(土)

聴解系の問題をするときには、メモを取るのが定石です。こちらもそういう指導をしています。また、学生もそれが当然という顔をして問題に取り組みます。大筋でだれが何を言ったかぐらいなら、メモなしでも答えられるでしょうが、細かいところまで突っ込んで聞かれると、メモがなければどうしようもないでしょう。

日本語+で、EJUの聴読解・聴解の過去問をやりました。ダメ押しのつもりで、始める前にメモを取るように指示しました。しかし、メモを取ったのはごくわずかで、大半はうつむいて必死に耳を傾けていました。真剣に問題に取り組んでいる様子は伝わってきましたが、だからと言って問題に答えられるわけではありません。案の定、そういう学生の正答率は半分ほどでした。

EJUの聴読解・聴解は、先生が一方的にしゃべり、その内容について問うというパターンが多いです。大学の講義を意識したものですから、ノート=メモを取るのは当然です。たとえ国の言葉を使ったとしても、メモを取る力も聴解力の一部だという発想でしょう。これはその通りだと思います。学術的な話を聞き取って理解することは、大学生の主たる仕事だと言ってもいいでしょう。これができない留学生が日本の大学に門前払いを食らったとしても、文句は言えません。

今学期のこの授業は、今回初めてEJUを受ける学生が主力です。初級あたりの聴解ならメモなしでもどうにかなったのかもしれませんが、EJUといく大学入試の端くれとなると、そうは問屋が卸しません。メモが取れずにうつむいて聞いていた学生たちは、壁を感じていたのかもしれません。壁を感じていようといなかろうと、あと2カ月で本番です。

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