Category Archives: 日本語

まな板は何をするのに使いますか

5月13日(金)

まな板は肉や野菜を切るのに使います。この例文は○ですか、×ですか。

みんなの日本語42課に、「のし袋はお祝いのお金を入れるのに使います」という練習があって、O先生がその応用で学生に作らせたら出てきた例文です。

肉や野菜を切るのは、やはり包丁ではないでしょうか。「まな板は肉や野菜を切る『とき』に使います」だったらいいでしょうが、『のに』だったら包丁の代わりにまな板を使うイメージがあります。

「『この』まな板は肉や野菜を切るのに使います」「『あの』まな板は魚を切るのに使います」というように、ある特定のまな板で、何かとの対比があれば、「のに」でもいいような気がします。また、まな板に調理以外の斬新な、意外な、みんなに知らせたい、注目してもらいたい用途があって、それを述べる際には、「のに」が適しています。

「のし袋はお祝いのお金を入れるのに使います」というのは、のし袋を初めて見る外国人には意味がある情報であり、ですから伝えるだけの価値があります。しかし、日本人に向かってそんなことを言っても、何をいまさらと思われるのが関の山でしょう。

まな板も同様で、まな板の上で肉や野菜を切ることを伝えても、新しい価値は生みません。だから、私はここをやる時には、身の回りの物の意外な用法、自分はこんなことに使っているというのの紹介をさせます。「AはBするのにも使えます」とか、「私はAをBするのに使っています」とかという文にしています。まあ、なかなかこれはっていう文は出てきませんけどね。

みんなの日本語も終わりが近づくと、単なる文型のまねごとではなく、意味のある情報を伝えることに重きが置かれるようになります。そう考えると、まな板は何をするのに使うのがいいのでしょう。

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久々のご対面

5月12日(木)

ちょっと事情があって、昨日から昔作った教材を見返しています。20年余り前に私がKCPに入ったばかりのころに作ったものもありました。これがアルバムなんかだと仕事を忘れて写真に見入ってしまいかねませんが、授業で学生に配ったプリントやテストなどだと、そこまでには至りません。中には、これは本当に私が作ったんだろうかと思う“作品”もありました。一緒に担当した先生方との共同作用もありましたから、その際にお作りになった先生から送られてきたものかもしれません。よく工夫して作ってあるなあと思えるテストもあれば、今すぐ手を入れて改訂版を出したくなるような教材もありました。20年前の自分をほめてやりたくなったり、顔から火が出そうになったり、忙しかったです。

読解のテキストや文法の例文などを見ると、時代を感じさせられます。サッカーのワールドカップが日本で開催されるとかというのがネタになっていたり、日本が世界第2位の経済大国だったり、フィルムのカメラがかろうじて生き残っていたり、今、これを使ったら学生はどんな顔をするだろうというのがけっこうありました。でも、中級や上級では、習った日本語を使って現在の日本や世界を語り論じることができて初めて意味を成すのです。教材は使い捨てが理想です。ミラーさんはスピーチコンテストで優勝してうれしかったに違いありません――などという文で満足していてはいけません。

いちばん懐かしさを誘われたのは、当時の学生の志望理由書です。そういう夢を抱いて進学した学生も、とっくの昔にその大学を卒業し、日本か自分の国か、はたまたどこか別の国かで、しかるべき地位を築いていることでしょう。その元学生に自分の書いた志望理由書を送ったら、どんな顔をして読んで、どんな気持ちになるんでしょうね。

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過ぎたるは

5月9日(月)

マイナンバーカードの手続きができるというので、昨日、家の近くの会場まで足を運びました。だいぶ前に番号をもらってからほったらかしにしてありました。マイナポイントとか保険証の代わりになるとか、よくわからないこともありますから、ついでに聞いて来ようと思いました。

会場の区民センターみたいなところは行ったことがありますから、すぐわかりました。案内に従ってそこの会議室に入ろうとすると、「マイナンバーカードのご申請のお手続きにいらっしゃられたのでしょうか」と声を掛けられました。うなずくと、「まず、お写真をお撮りします。こちらの椅子にお掛けになられてください。お荷物はそちらのかごに入れられて、マスクは取られてください」と指示されました。言われた通りにすると、「では、こちらの赤い点をご覧になられていただけますか」と新たな指示が。

写真の次は、書類作成。「こちらとこちらにご記入されてください。お写真の裏側にお名前と生年月日を書かれてください。そうしたら、お写真をお貼りになられてください。こちらののりを使われて大丈夫です。はい、では、こちらの封筒に入れられて、こちらにご住所とお名前を書かれてください」「はい、ありがとうございました。お帰りの際にポストにお出しになられてください。1か月ぐらいしましたら、区役所からご連絡がありますから、取りに行かれてください」

なあんだ、その場でもらえるのかと思ったら違うんだ。世の中、そんなに甘くないよね。写真代が浮いただけでも、よしとしなければ。

いかにもアルバイトという感じの若者が世話をしてくれましたが、言葉遣いには辟易しました。私のようなはるかに年上の人を相手にするのですから、失礼のないように丁寧に話さなければという気持ちは伝わりました。でも、居心地は悪かったですね。この人にマイナポイントとか聞いても絶対にわからないだろうと思い、あきらめました。

会場出口に立っていた案内の人に、「ここから一番近いポストはどこですか」と聞いたら、「少々お待ちください」と言って誰かに聞きに行ったきり、5分ぐらい戻ってきませんでした。会場でポストに投函と言っているんだから、ポストの位置ぐらい調べておけよ。

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思いを語る

5月2日(月)

JASSOの奨学金受給者として推薦する学生を決める面接をしました。学生の自己推薦を受け付ける形で募集し、出席率や成績などで一次選考し、そして面接です。

まずは初級の学生が2人。どちらも勉学の意欲があり、日本の大学・大学院に進学しようと一生懸命なのはわかりましたが、残念ながらそこまででした。自分の気持ちや考えを一方的に訴えることはできても、それに関連する質問をすると、その質問の意図がつかめず、話がかみ合わなくなりがちでした。私がジェスチャーを交えてかなりかみ砕いて質問内容を説明すると、ようやくそれっぽい答えが返ってきました。これじゃあちょっとね。

次は中級の学生たち。粒ぞろいだなと思っていたのですが、総じて期待外れでした。面接室に入った時から緊張している雰囲気でしたから、私が見つめるとそれがなお一層高じるのではないかと、あえて目をそらしたくらいです。その甲斐もなく、初級の学生よりいくらかいいかなという程度で終わってしまいました。

満を持して登場したのが上級のXさん。文法や語彙の間違いがないとは言えませんが、自分の意見を堂々と開陳していました。もともと積極的な性格だということもありますが、去年1年間、私も含めたKCPの教師からさんざんたたかれ鍛えられた経験がものを言っているのです。

初級・中級の学生たちは日本へ来たばかりと言ってもいいくらいですから、教師に囲まれて大学・大学院の志望理由や将来設計を聞かれたらビビる方が普通でしょう。そういう意味ではちょっと気の毒ですが、これからこういう場を次々と迎えるのですよ。ガンガン鍛えていきましょう。

3連休の後、6日(金)に、面接第2陣があります。

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卒業前に同級会?

4月18日(月)

午前クラスの授業が終わった時間に、Wさんが受付に姿を現しました。Wさんも去年のこの学期にレベル1で教えた学生です。その後順調に進級して、今学期はレベル6です。先週まで隔離期間でオンライン授業でしたが、今週から登校できるようになったのです。

オンラインの画面からは小柄な印象でしたが、実物のWさんはそれより一回り大きかったです。物理的に大きいことも確かですが、自分に自信を持っているのでしょうね。胸を張っている分、大きく見えるのかもしれません。Wさんには今週末の新規来日生のウェルカムパーティーで代表あいさつをお願いしています。私以降、レベル2・3・4の先生方も、Wさんの人柄と日本語力の伸び具合を評価しているからこそ、代表に推挙されたのです。

先週末のウェルカムパーティーで代表を務めたMさんも、1年前私のクラスでした。そして、演台に立ったMさんは、やはり大きく見えました。日本の空に向かってはばたく感じがしました。苦労してつかんだ留学のチャンスを絶対にものにしてみせようという意欲が感じられました。

こうしてみると、1年前のクラスは粒ぞろいだったと思います。2人のほかにも、Kさん、Cさん、Lさんなど、他の先生の信頼を勝ち得ている学生ばかりです。Tさんも独特のキャラクターで、すでに新KCPには欠かせない人材となっています。ご家庭の事情で勉強をあきらめざるを得なかったXさんも、この場にいればきっと多くの先生方に愛されたでしょう。

まだ国にいる学生がみんな来日したら、1年前のクラスの同級会を開きたいですね。

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寒かったです

4月14日(木)

寒い1日でしたね。日付が変わった直後に最高気温20.2度を記録してから気温は下がる一方で、午前10時以降はは11度台にとどまりました。昨日の日中に比べると、15度近く低いです。日中の気温を最高気温ととらえると、2月20日ごろと同じくらいです。しかし、夜中に記録した最高気温は、平年を1度上回ります。何か月か後で最高気温のデータだけ見ると、2022年4月14日はこの時期らしい暖かさだったということになってしまいます。

数字のデータが実態を表していないことは、よくあります。KCPで毎学期繰り返されるのは、JLPTのN1に合格しているのに、レベルテストで初級に判定された学生がクレームをつけてくることです。JLPTとKCPのレベルテストとでは、実力を測る物差しが違うというか、物差しの当て方が違うというか、日本語学習者をとらえる視点が違います。学習者の日本語力は球のようにどこから見ても同じ形をしていることはなく、どこか歪んでいるものです。その歪みは、とらえ方によって芸術品になったり未完成品になったりします。

N1合格とは、ある特定の角度から見た時には芸術品なのです。それは認めます。しかし、どこから見ても1級品というわけではなく、欠点があらわになる角度があることもまた事実です。KCPで未完成な箇所を手当てして初めて、上級とか超級とか呼ばれる実力者になるのです。日本語を使って学問を究めたり社会に貢献したりできる人物に成長するのです。

EJUにしたってそうです。受験のテクニックを駆使して高得点を挙げても、それを足場にしかるべき大学に進学しても、その学生の将来に資する学問が身に付くかどうかは別問題です。夜中に記録した気温をその日の最高気温だと称しても、その最高気温によってその日を記述することはできません。

天気予報によると、明日も寒々しい雨の日になりそうです。でも、明日は最高気温と最低気温で1日が語れそうです。

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成長を感じる

4月8日(金)

Tさんは1年前にオンラインクラスのレベル1で教えた学生です。まじめな学生でしたが、鋭さに欠ける感じがしました。基礎問題はできても、応用問題は解けないというタイプでした。成績はクラスの真ん中か少し下ぐらいで、レベル2には上がれても、その後順調に進級できるだろうかと密かに心配していました。

そのTさんが、今学期、日本へやって来ました。順調に進級を重ね、今学期はレベル5です。来学期からは上級ですよ。ナチュラルスピードで話しかけても応じてくれますからね。立派に成長したものです。そして、義理堅いことに、この1年間にお世話になった先生方に、国から持ってきたお土産を配ってくれました。私は、健康にいいという干したきのこ(?)をいただきました。かけらにお湯を注いで、しばらく経ってから飲むのだそうです。この稿を書き終えたら、帰宅する前に飲んでみようかな。

同じクラスだったMさんにも生で会えました。思ったより背が高く、自室で受けていたオンラインの時より髪型が整っていて、見違えてしまいました。Mさんは大変な努力家でした。字が汚いと指摘を受けると、丁寧にきれいに書くようにし、会話練習には誰よりも真剣に取り組んでいました。そのおかげなのか、私の軽口にも笑顔でこたえられるだけの日本語を身につけていました。

TさんもMさんも、日本で何を勉強するか目標が明確になっています。だからこそ、監視の目が弱いオンライン授業でも努力を続け、力を伸ばしてこられたのです。日本へ来ただけで安心してしまう人たちではありませんから、これからも期待しつつ厳しく指導していきたいです。

夕方、同じく1年前にレベル1だったJさんが入国し、待機場所のホテルに着いたという連絡が入りました。しばらく、楽しみな日々が続きそうな雰囲気です。

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新芽

3月31日(木)

4年前の卒業生Lさんが、進学した大学を卒業し、そのまま大学院に進むことになりました。理科系だったらごく普通の話ですが、Lさんの専門は日本語教育です。大学院で何を研究するかは聞いていませんが、外国人の視点で日本語教育を捕らえ、私たち日本語ネイティブの教師にも有意義な成果を挙げてくれることを期待しています。

Lさんは成績優秀で、大学時代は学科でトップを争い、たいていは勝利していたようです。日本語教育能力検定試験には、昨年一発合格しました。大学から奨学金ももらってましたから、タダとは言わないまでも、実質的にかなり安い学費で勉強できたと思います。そんな学生ですから、大学だって簡単に手放したくはないですよね。

そういえば、昨年のスピーチコンテストで審査員をお願いした時、とても大学生とは思えないほど詳細なコメントを付け加えてくれました。スピーチを聞いてその内容はもちろん、発音、文法、文章構成力など、多角的な解析を加え、スピーカーの日本語学習者としての力量をはじき出していました。それを短時間のうちに文章化しているのですから、驚くばかりでした。

最近、私は養成講座の資料の再編をしており、その一環として「みんなの日本語」を読み返しています。図らずも、初級で教えるべき事柄の復習をしています。本当はそれ以外の教科書にも目を通すべきなのでしょうが、今の私には「みんなの日本語」で手いっぱいです。Lさんなら、私がかつて使っていた初級教科書の最新版も含めて、網羅的に何か言えるんだろうなあと思いながら、仕事を進めています。

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もうすぐです

3月18日(金)

学期末が近づくと、次の学期の受験講座の準備が始まります。まず、新学期のレベル3になる進学コースの学生に対し、EJU各科目の対策講座のオリエンテーションをします。それから、進学コース以外の学生で受験講座を受講したい学生への説明会を開きます。最近は対象者のほとんどが海外でオンライン授業を受けている学生たちなので、こうしたオリエンテーション・説明会もオンラインです。

対面でもパワーポイントを使って話しますから、それをZOOMに乗せるだけなので、私にとっては大きな違いはありません。ただ、質問は対面の方が多いですね。対象が初級の学生ですから、やさしくゆっくりしゃべっても通じなかったのかなあと心配にもなります。

通じる通じない以前に、聞き取れていないおそれも感じます。パワーポイントのスライドにも明記したし、ゆっくり繰り返し話したのに、「○○について説明してください」という質問を受けることもあります。聴解力が伸びていないのでしょうかねえ。目と耳とを複合的に使って話し手の言わんとしていることを把握する力が、3年前より落ちている気がします。ある程度まとまった話を聞いて、内容を理解して、何かリアクションを起こすというのは、どこに進学しても求められる力です。KCPに受験講座は、これも自然に養えます。

夕方からの説明会に参加したHさんは、昨日来日したばかりの学生です。「受講料は日本へ来てから払ってください」と言ったら、Hさんの鼻が少し膨らんだような気がしました。画面に出ていた他の学生たちも、「そうだよね、もうすぐだよね」という顔をしていました。

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84万-145万

2月26日(土)

去年の日本の出生数は84万人で、死亡数は145万人だったそうです。人口の年間61万人減も大変な数字ですが、死亡数が出生数の1.7倍という方がショックです。感染症の影響で今年も生み控えが続き、その感染症によって毎日200~300人死亡数が上乗せされるとしたら、今年はダブルスコアになってしまうかもしれません。

リモートワークの広がりによって東京の人口が減りましたが、札幌も人口が減り始めたそうです。札幌はリモートワークによって人口が減ったとは考えにくいですから、こちらも自然減の拡大によるのではないでしょうか。もはや、日本中、人口が増える要素のある町はないのではないでしょうか。

この日本を上回る勢いで人口が減りそうなのが韓国です。出生率が0.81といいますから、あっという間に子どもがいなくなってしまいそうなペースです。中国も、国民の自主的な一人っ子政策が続いています。こちらも早晩人口減に転じるのは確かなようです。遠からず、人口世界第一位の座をインドに明け渡すことでしょう。

韓国や中国に限らず、日本語学習者の多い国々は少子化が進展しつつあります。そうなると、日本留学のお得意さんが軒並み市場縮小ということで、感染症に関して2019年以前に戻ったとしても、日本語教育界は明るさを取り戻せないかもしれません。

しかも、鎖国政策で世界中の若者の日本留学に対する意欲が衰えています。日中は春を思わせる暖かさでしたが、ちょっと先を見通すと、日本語学校の冬は当分続きそうです。86年前の雪の日のような…。

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