Category Archives: 日本語

年に1回に

9月21日(土)

次の学期はEJUがありますから、ちょっと遅くなってしまいましたが、今年6月の過去問を仕入れて理科3科目の模範解答を作っておかねばと思い、過去問を出版している凡人社のサイトを見たら、発売された形跡がありません。EJUを実施しているJASSOのページを見ると、2024年度から過去問は年1回の出版になったと出ているではありませんか。今度の11月の分と合わせて、来年3月に出版予定だと書いてありました。

6月のEJUは、出願者数が国内外計26,088人、受験者数は22,688人でした。このうち過去問を買う人はどのぐらいでしょう。国内受験者は大半が日本語学校生でしょうから、個人で買う人はそんなにたくさんいるとは思えません。こう考えると、EJU過去問の販売部数は2,000冊とかというレベルではないでしょうか。この部数だと赤字かもしれません。また、EJUの対策本や練習問題集もあまり出ていません。紀伊国屋で探しても、顔なじみの本しかありません。作っても慈善事業になってしまうのでしょうね。

JLPTは、今年の7月のデータがまだ発表されていませんから去年の12月のデータで言うと、N1の受験者が45,000人強、N2は67.000人強です。こちらは、EJUの数倍の受験者がいて、ビジネスパーソンが個人で受験することも十分考えられます。ですから、過去問も対策本も問題集も、EJUとは比べ物にならないくらい種類が豊富です。こちらは事業的にペイするのでしょう。

国は外国人留学生を増やそうとしています。しかし、足元がこれだと、その努力が実るかどうか怪しいのではないでしょうか。

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9月12日(木)

レベル3のクラスの代講をしました。水曜日と木曜日にレベル4のクラスを担当していますが、ずいぶん差があるものだと感じました。期末テストまで2週間ですから、私のクラスの学生たちも今学期初めの頃はこんな程度の日本語力だったのです。普段、バカだのできないだのと言っていますが、レベル4の学生たちは、この2か月余りの間に、着実に力を付けてきているのです。

何よりも反応が違います。クラスの学生たちは私の話し方に慣れているからかもしれませんが、私の言葉を聞いて理解して、それに対して反応してくれます。しかし、この代講クラスの学生たちは、「???」という顔をしていました。言葉が届いていないのかなと思って、つい説明を付け加えてしまいました。

語彙もそうでした。レベルが1つ違うということは、授業3か月分の差があります。伸び盛りの中級付近でのこの差は、やはり厳然たるものがあります。レベル4ならすぐ出てくる単語が、レベル3ではなかなか出てきませんでした。この学生たち、来月からレベル4でやっていけるのだろうかと、心配になってしまいました。

今、レベル5のクラスに入ったら、同じことを私のクラスの学生たちに感じるでしょうね。“あいつら、レベル5じゃ通用しないだろうな”と思いながら、レベル5の学生たちを大したものだと心の中でほめることでしょう。

でも、同時にそれは、KCPの教育が機能していることを意味します。1学期ごとに、弱々しかった学生がたくましく育っていっているのですから。…と、自画自賛でこの稿を締めくくってみました。

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読み書きができても

9月6日(金)

漢字テストがありました。毎度のことですが、読み書きの問題は比較的できますが、教科書に出てきた漢字熟語の使い方となると、とたんに正答率が落ちます。正答率が落ちない学生は、日々の授業の予復習を欠かさず、勉強した熟語を例文や作文などで使ってみようという姿勢の持ち主です。

フランス語は、使用頻度の高い単語を1000語知っていれば、約80%理解できるそうです。2000語なら90%だそうです。これに対し日本語は、上位1000語で60%、2000語でも70%弱という話です。90%理解しようと思ったら、1万語ぐらい知っていないといけないようです。日本語は単語の数が多い言語なのです。

だから、授業でも、学生の理解語彙をちょっとでも増やそうと心がけています。そして、それを無理やりにでも使わせて、使用語彙に格上げさせようとも試みています。しかし、テストの結果を見る限り、これらが実を結んだとは言い難いのが現状です。

午後はEJU日本語の強化クラスを担当しました。読解でも聴解・聴読解でも、本文に書かれている言葉やスキットで使われた言葉が、選択肢中では言い換えられている例が多数あります。最低でも理解語彙を増やしておかないと、“いい学校”に手が届く成績は得られません。クラスの学生たちは、その言い換えに気づかなくて苦戦していました。

学生は、漢字以外にも覚えなければならないことがたくさんあり、時間も脳みその空き容量も余裕がないのかもしれません。でも、この秋に鍛えて語彙の壁を乗り越えない限りは、光明が見えてきません。

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快晴なのに

9月2日(月)

久しぶりに青空が広がりました。校舎の前から空を見上げてもビルの谷間の狭い範囲の空しか見えませんが、気象庁が観測した日照時間を見ても、雲一つない青空だったことがわかります。全国的に見ても、局所的に雷雲が発達した地域はありますが、一日中雨だったところはなかったようです。

しかし、KCPの中には暗雲が垂れ込めた学生がいました。

先週のこの稿に登場した、調理の専門学校に進むつもりのWさんは、日本語は心配ありませんが、数学(算数)は全く自信がありません。先週の専門学校フェアの際にも、簡単な計算問題ができなかったら、日本語ができても落ちるかもしれないと言われました。調理なら、塩分濃度の計算ぐらいはしなければなりませんからね。そこで、先週末、私に練習問題を作ってくれと頼んできました。というわけで、練習問題を作り、今朝、クラスの先生を通して渡してもらいました。

授業後にWさんが職員室に飛び込んできました。「先生、こんな問題、絶対無理です」と訴えてきました。“こんな問題”といっても、「税抜き1,645円の食料品は、税込みでいくらですか“ぐらいのレベルです。もちろん、食料品の税率8%は示してあります。その場は家でゆっくり考えろとなだめて帰しましたが、本当にこの程度の問題ができなかったら、食塩水の濃度計算など、はるかかなたの問題でしょう。

そのあと、S大学の指定校推薦応募者のEさんの面接をしました。「あなたの行きたい大学、学部、学科の名前を言ってください」と聞くと、「S′大学のT学部のUがつかです」と答えました。そもそも大学名が不正確だし、学部名は言葉足らずだし、学科名に至っては間違っているうえに“がつか”ですよ。思わず、「がっか。小さい“つ”」と直してしまいました。それには目をつぶって質問を続けても、さっぱり話がかみ合いませんでした。Eさんは7月のJLPTでN2に合格したのですが、その片鱗も感じさせない答えっぷりでした。

私が2人の相手をしているころ、東京は雲ひとつない青空で、最高気温34.1度を記録しました。

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質問魔

8月30日(金)

現在中級レベルのWさんは、専門学校に進学して調理の勉強をするという目標がしっかりと定まっています。おとといの専門学校進学フェアでも、志望校のブースでずいぶん長い時間話を聞いていました。

今の自分の日本語力では専門学校の授業についていけないと感じていますから、クラスの中で一番よく勉強しています。十二分に予習をしてきて、わからなかった点をガンガン質問します。毎日、10時半の休憩時間になると、質問事項を書き連ねたメモ帳を手に教卓まで来ます。Wさんの質問は、教師の気が付かない、学習者ならではの視点に基づいていますから、質問されるこちら側も勉強になります。それをヒントに、急遽授業の内容を組み換えることもあるくらいです。

また、Wさんは、間違いを恐れずに、習ったばかりの語彙や表現をどんどん使って話をしたり例文や作文を書いたりします。そういうのを見ると、単に誤用を指摘して直すだけでなく、上級で勉強するより高度な日本語に書き換えることもあります。時には、解説も加えます。Wさんならこれをしっかり受け止めてくれるだろうと思えますから、こちらもやる気が湧いてきます。

その一方で、Wさんが質問している間、一生懸命スマホを見ている学生もいます。授業中にされた質問には、クラスの全学生がわかるように答えます。それを聞かないことは、日本語力を伸ばすチャンスを自ら捨てていることになります。耳がこちらに向いていないのですから、聴解力が付かないのも当然です。

専門学校の出願は、9月早々に始まります。Wさんは第1期に出願する気満々です。

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90%と100%の違い

8月29日(木)

Mさんはまじめな学生です。いつも積極的に授業に参加し、宿題は必ずやってきて、どんな課題にも真正面から取り組みます。Mさんの発する質問はみんなの参考になりますから、教師も力を入れて答えます。時々力を入れ過ぎて、時間があっという間に過ぎてしまうのが困った点ではありますが。

そのMさんですが、中間テストは振るいませんでした。採点された自分の答案用紙を前にして、今までこんな点を取ったことがないと肩を落としていました。肩を落とすだけならどんな学生でもできます。Mさんの偉いところは、その間違え方を分析し、今後何をしていけばいいかというところまで考察した点です。

「私は90%理解すればもう大丈夫と思ってしまいます。でも、100%理解しないとテストで点が取れません」と、濁点がないために×になった漢字の答えを示しながら話してくれました。まさにその通りで、Mさんの漢字テストはどうしようもない間違いは少なく、正解の至近距離にある誤答が目立ちました。読解も同様で、頭の中ではわかっているのでしょうが、それを答案用紙上に表す際に言葉足らずで減点された問題が多く、合格点を割り込んでしまいました。

“詰めが甘い”というやつです。授業中は口頭で答えますから、勢いで教師も他の学生もそれでいいような感じになり、微妙なずれは見逃されています。たとえ間違いに気づいても、会話や議論の流れを優先して、その場で訂正しないこともあります。そんなことが積み重なって、こうなってしまったのかもしれません。

Mさんは、これからは細かいところにも注意して、期末テストでは立派な点数を取り、学期全体で合格の成績にすると誓いを立てました。こちらも間違いを厳しく指摘することで、Mさんの意気込みに応えていくことにします。

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道に沿って

8月7日(水)

「下井草駅南口から、線路に沿って新宿方向に3分ほど歩いてください」と指示されたら、どうすればいいかわかりますね。では、「下井草駅南口から、道に沿って新宿方向に3分ほど歩いてください」と指示されたらどうでしょう。「下井草駅南口から、道に沿ってきれいな花が植えられています」だったら、どういう情景か思い描けますね(本当に花が植えられているかどうかは知りませんが…)。

「道に沿って歩く」というと、私はどぶの中を歩くようなことを想像してしまいます。「道に沿って」と言ったら道そのものは含まれない、すなわち、歩く場所は道の外側であり、だからどぶの中を歩くイメージになるのです。同時に、道に沿って花を植えることは可能です。また、「線路に沿って歩く」とは線路の上を歩くのではなく、線路のわきか高架下の道を歩くのです。

先週の中級クラスのテストに、「○○○に沿ってまっすぐ行くと…」 の“○○○”に適当な言葉を入れるという問題がありました。「道に沿ってまっすぐ行くと…」という答えがかなりありました。私は自信を持って×にしました。しかし、Yさんは自分の例文を先生に「道に沿って…」と直されたと、その実物を出してきました。

とすると、上記の理屈は私だけのローカルなものなのでしょうか。考えすぎでしょうかね。結局、先週のテストは特別に「道に沿って」は認めるけれども、来週の中間テストでは×にするということにしました。

このおかげで再試にならずに済んだZさん、あなたは再試のために勉強し直したほうが良かったと思いますよ。中間の前日まで勉強しないつもりなんでしょ。

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職員室の学生

7月29日(月)

演劇部の“地下活動”に参加して職員室に戻ってくると、Gさんがいました。Gさんは追試や再試の対象者ではないし、授業中の態度が悪くて説教されるようなことも考えられません。もちろん、喫煙などの不始末をしでかすような学生でもありません。

ちらっと様子を見ると、来週月曜日のコトバデーでGさんも参加するスピーチコンテストで呼び出されたようでした。となると、私は審査員ですから、事前に接触し過ぎると審査の公平性に疑いを持たれかねません。ですから、「頑張ってね」と声をかけただけで、指導に当たるO先生に任せました。

夕方、Tさんが職員室でスピーチの練習をしていました。担当のK先生に長いとか難しすぎるとか言われて、原稿を手直ししていました。上級の学生ともなると、小論文などの長い文章を書き慣れていますから、スピーチの原稿でもついつい難しい書き言葉を使いがちです。書き言葉でスピーチすると、Tさんの同級生でも“???”となってしまうでしょう。ましてや中級以下の学生には何も伝わらないでしょう。K先生はそんなあたりを指摘したに違いありません。

午前中、私のクラスは6階のステージで音読と声優の練習をしました。このクラス、フォーメーションはできているみたいですが、声が小さすぎます。そして、棒読みそのものです。そこを指摘して、私も見本で熱演してしまいましたが、果たして伝わったでしょうか。

そうなんです。気が付いたら、コトバデーまでちょうど1週間なんです。学生たちもそうですが、私も一刻も早く演劇部のセリフを覚えなければなりません。

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1合目?

7月22日(月)

コトバデーまでちょうど2週間。そろそろ気合を入れて練習しないと、本番に間に合いません。最初のうちは、学生たちはいたってのんびりしており、教師が引っ張らねばなりません。

私が入ったクラスも、全然まだまだの状態でした。各クラス、音読チームと声優チームに分かれていますが、学生たちは自分がどのチームに属するかだけはわかっています。先週末に割り振りをしましたから。その際に各自のセリフも割り当てられています。しかし、実際に声を出してそのセリフを言うのは初めてという状況でした。

音読チームは棒読み以下でした。台本の文字を1つずつ拾い読みする学生が大半で、音読の全体像が全くつかめていません。しかたがありませんから、私が思い切り感情を込めて範読しました。読み終わると拍手が湧き上がりましたが、うれしくも何ともありません。こんなところで感心するのではなく、どうしたらそう読めるか、少しは研究しろと言いたいです。

声優チームは、動画とセリフが全く合いません。初回はそうでしょうね。セリフの速さに追い付けないのです。去年の各クラスは練習しているうちにだんだん追いついてきて、コトバデー本番では、審査に困るほどのすばらしい発表をしてくれました。

「明日も同じような練習をしますが、あさっては練習した後、それぞれのチームに発表してもらいますからね。そのつもりで自分のセリフをしっかり覚えてください」と、ちょっぴり脅しをかけました。実際に発表する感じで練習しないと、本番で力を発揮できませんからね。

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心のこもったお土産

7月6日(土)

お昼ごろ、仕事をしていると、Dさんが来ました。「先生、一時帰国のお土産です」と言って、小さな手提げ袋をくれました。国のいろいろなお菓子を買って、それを少しずつ詰め合わせてくれたようです。今まで教えてもらった先生ひとりひとりに配っていました。

袋の中を見てみると、パッケージの文字は読めませんが、絵を見ればどんなお菓子かいくらか見当がつきます。トウモロコシの絵の小袋は、とんがりコーンみたいなものでしょうか。手触りからするとおせんべいみたいなもののようですが、Dさんの国にはおせんべいはありませんから、一体何なんでしょう。小さなお菓子も入っていて、すき間なく詰まっていました。Dさんの手作り感があふれていて、心が温まりました。

さて、Dさんは、お菓子を配りにわざわざ学校へ来たのでしょうか。実は、明日のJLPTの受験票を取りに来たのです。学校で一括して出願したら、受験票が届いたのが期末テスト後になってしまい、学生にご足労願っていた次第です。Dさんは国で日本語を勉強していたのかなあ。お土産を配るときの日本語はそんなに怪しくなかったような気がしましたが、果たしてどうでしょう。

また、明日は都知事選挙の投票日でもあります。でも、このままいけば、私は候補者に1人も会わずに投票日を迎えることになります。56人も立候補したのに、実物を見ることはついぞないまま、選挙運動時間の終了時刻が近づいてきています。まあ、選挙公報を見れば入れるべき人は選べるでしょう。

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