Category Archives: 学生

安全確実?

12月20日(水)

期末テストの試験監督から1階に戻ってくると、Fさんが職員室の前で待ち構えていました。昨日から進学相談がしたいと言われていたのですが、昨日の午後は代講でしたから、「明日、期末テストが終わったら1階まで来てね」ということにしていました。

まず、「先生、592点で入れる大学、ありますか」と聞かれました。592と点は、Fさんの6月のEJUの読解(記述を除く)+数学(コースⅡ)+物理・化学の成績です。A大学ならこの成績で十分勝負できるとして出願するのですが、さらに安全・確実な大学はどこかというわけです。

もうすぐ11月の成績が出るじゃないかと聞くと、今、自分が手にしている成績で確実なところを知りたいと言います。堅実なのか、11月の結果に自信がないのかわかりませんが、リクエストにお応えすることにしました。

データを見せながら、B大学やC大学など、いくつか紹介しました。そのたびにFさんが気にするのは、その大学を卒業すると東大や東北大など、一流大学の大学院に進学できるかということでした。入学したばかりの頃のAさんは、何が何でも東大と言っていました。それが収まり、現実的な選択ができるようになった、大人になったと思っていたら、根っこのところは全然変わっていませんでした。

確かに、私は「理科系は大学院入試でもう一度勝負できる」と言いました。だから、東大にこだわるなとアドバイスしました。しかし、それは学部生として入学する大学を東大大学院の予備校として考えろという意味ではありません。大学院は研究内容が合うかどうかが一番です。研究計画書が東大の先生の心をとらえられるかどうかです。それを無視して名前だけで大学院を判断したら、不幸な留学生活を送ることになるでしょう。

そもそも、「592点の大学」として私が提案したD大学、E大学は、志望理由書を書かなければならないから出願したくないなどと言っているようでは、東大の先生の心を動かす研究計画書など、100年かかっても書けるわけがありません。

さらに、これからA大学の出願書類を書くと言います。そのお手伝いならやぶさかではありませんでしたが、なんと、明日必着というではありませんか。何で先週のうちに仕上げておかないんだよと思いながら、履歴書から宛名カードまで、書き方を指導しました。

昨日の初級の代講以上にexhaustedでした。

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必死に聞く

12月19日(火)

午前中は養成講座の授業でした。落ち着いた雰囲気の中で、日本語教育の歴史を語りました。歴史となると脱線ネタがたくさんあります。しかし、午後の予定を考えると力をセーブしておく必要があったので、ほどほどのところで抑えておきました。

午後は、代講で初級クラスに入りました。会話のテストをしました。普段受け持っていないクラスですから、学生の顔と名前が一致しません。ですから、ロールプレイをしている様子は録画しておき、本来の授業担当のY先生に見ていただくことにしました。そう伝えると、学生も安心したようでした。

その場でペアを発表し、課題を与え、セリフを書き、それを練習し、そして発表という段取りです。ペアと各ペアの課題を発表すると、教室中が喧騒に包まれました。会話”テスト“ですから、教師を利用するのはご法度です。私は教室中をうろちょろ歩き回って、母語で相談していないか監視します。喧騒の中でも日本語以外の言葉は耳に違和感が残りますから、案外わかるものです。“Aさん、国の言葉が上手になりますよ”というと、学生は恥ずかしそうに下を向いて、再び顔を上げた時から日本語に切り替えます。

さて、発表です。自然な発話をしてもらうため、ノートやメモを読み上げるのは禁止です。そうすると、文法がまだそんなに複雑ではないこともありますが、多くの学生が自然な発話に近づきます。このクラスも、自分たちが作ったストーリーを、情感を込めて演技してくれました。観客側の学生も、友達の演技を少しでも理解しようと、真剣に耳を傾けていました。

発表は時間を10分オーバーしました。それだけ長く会話を続けられるようになったと評価したいです。学生たちには、その点は褒め、今のうちから日本語を日本語で聞き、日本語で考え、日本語で反応するように、要するに、母語を介在させるなとアドバイスしました。今のうちからそういう訓練を積んでいけば、上級になるころには素晴らしい日本語話者になっているはずだと励ましました。

授業が終わったら、やっぱりexhausted状態でした。

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12月18日(月)

9時のチャイムが鳴り終わり、「おはようございます。では、出席を取ります」と宣言した時には、Jさんの姿はありませんでした。全員の名前を呼び終わる少し前に教室に入ってきたので、かろうじて遅刻は免れました。やけにさわやかな顔をしていたので、週末の入試面接はうまくいったんだろうなと思いました。

JさんはR大学の面接で痛い目に遭っています。機先を制されたというのか、調子を狂わされたというのか、とにかく緊張させられっぱなしで、まるで実力が破棄できずに面接が終わってしまいました。話すことにかけては相当な自信を持っていたJさんですが、天狗の鼻を折られた感じでした。

ですから、その次のO大学の面接は、同じ轍を踏まないようにと、慎重に準備を進めていました。先週の金曜日に、面接の最終チェックということで、こういう場合はどう答えたらいいかなど、私にあれこれと質問してきました。私は、JさんのR大学でのことを考え、面接官のペースに乗せられるなとアドバイスしました。

その甲斐があったのかどうかはわかりませんが、私に向かって親指を立てて、「先生、今度は手ごたえがありました」とにこやかに報告してくれました。もっとも、授業が始まっていましたから、Jさんばかりをかまっているわけにはいきませんでしたが。

これから先も、G大学やK大学を受けると言っています。年が明けたらそれらの大学の出願があります。もう慣れていることでしょうから、私が世話を焼く必要はないと思います。こちらも、試験本番直前に面接練習の相手をするくらいでよさそうです。

O大学の合否は、年内ギリギリにわかります。

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志望理由書と学習計画書

12月14日(木)

MさんはK大学への出願準備を進めています。午前の授業後、志望理由書と学習計画書を見てほしいと、私のところへ来ました。志望理由書と学習計画書は、A4・1枚の願書の一部分に設けられたあまり広くない空白に記入することになっていました。

Mさんは、志望理由書は思うところがたくさんあるようで、私の老眼にはかなり厳しい細かい文字ですき間なく書かれていました。国で働いた経験からこういう学問が必要だと痛感し、それが勉強できるK大学を志望するに至ったということがよくわかりました。

一方、学習計画書は、私にも読めるサイズの字でしたが、講義名をそのまま書いたようで、志望理由書ほどの熱意は感じられませんでした。“計画”という言葉に惑わされて、何年生で何の授業を取るという羅列に終わってしまったようでした。

全体として、志望理由にある、Mさんが必要としている学問と、それをどのように勉強していくかという学習計画とが結びついていない感じがしました。志望理由書はMさんにしか書けない内容でしたが、学習計画書は誰にでも書けるものでしかありませんでした。

Mさんが語りたいことは、志望理由にあります。しかし、このままこの願書を提出すると、面接での質問が学習計画に集中するおそれがあります。それはMさんにとっては不本意でしょうから、志望理由書と学習計画書を有機的に関連付けるよう指導しました。

K大学にしたら、学習計画書には、講義名ではなく、こんなことを学びたいと書いてもらった方が、Mさんをどう育てるかという道筋が立てやすいでしょう。大学は、何を教えたらいいかわからない学生ではなく、自分たちの教育によって成長した姿の見える学生を合格者として選ぶものではないでしょうか。

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通訳

12月13日(水)

今学期、毎週水曜日の夕方は、初級の学生向けに大学進学そのものについての授業をしてきました。日本の大学の特徴とか、大学の留学生入試の仕組みとか、面接や志望理由書についてとか、大学進学の準備を始めたばかりの学生が知らないことを話してきました。

初級の学生が相手ですから、私が普通にしゃべったのでは話が通じませんから、毎週上級の学生に通訳を頼みました。自分も経験者ですから、パワーポイントを見ただけで話の内容がだいたい見当がつきます。だから、通訳の長さからすると、おそらく私の言葉になにがしか付け加えてくれていたものと思われます。

私の日本語を国の言葉にしてくれるだけにとどまらず、初級の学生からの質問を日本語にして私に伝えてくれます。そういう形で初級の学生たちと私とをつないでくれます。実に心強い援軍です。初級で入った学生が、通訳する側に立っている姿を見ると、立派になったなあと思わずにはいられません。

上級の学生は午前授業ですから、夕方まで学校にいるというのは、授業後図書室などで勉強している学生か、ラウンジあたりで友達とおしゃべりしたりタブレットかパソコンを見たりしている学生か、そんなあたりです。そういう学生を捕まえて通訳を頼むと、結構快く引き受けてくれます。

上級の学生にとても、通訳ができるということは、自分の日本語力に自信を持つきっかけになるのではないでしょうか。頼む立場としても、授業中ろくにしゃべらず、スマホばかりいじっている学生は敬遠します。話せても、こちらの話を聞こうとしない学生も、ご遠慮申し上げます。通訳に選ばれた時点で、コミュニケーション力が保証されたのです。

今学期話を聞いていた学生たちが、来年のこの学期、通訳する側に回っていてもらいたいですね。

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上手です

12月11日(月)

学期末が近づくと、アメリカのプログラムできている学生の面接(発話力テスト)があります。午前の授業後、2人の学生の面接をしました。

Rさんは日本で就職しようと考えています。だから、選択授業も私のクラス、ビジネス日本語を取っています。ビジネス場面で使われる日本語は特殊な表現が少なくなく、言外のニュアンスまで汲み取らなければならないところが難しいようです。リップサービスかもしれませんが、私の授業も役に立っているとのことでした。

Cさんは専門学校に進学し、そこを卒業後、やはり日本で就職ということも考えています。専門学校のプログラミングの模擬授業に参加したら、やっていることが簡単すぎたので、コンピューターグラフィックスに専攻を変えたそうです。相当できるのでしょうか。

2人とも最上級レベルの学生ですから、私が無茶苦茶な語順で話しかけてもきちんと内容を把握し、しかるべき返答をしてくれました。さすがと思いました。うっかりすると、日本人の友だちを相手にしているような感じでしゃべってしまいます。誤用が全くないとは言いませんが、日本語教師でなければ気づかないと思われる軽微なものしかありませんでした。TOEFLのスピーキングでも、多少の間違いがあっても満点が取れるそうですから、この2人の私の評価は満点にしました。Rさんなんかは、満点以上の点数をあげてもいいくらいでした。

2人に共通している点は日本への好奇心の強さです。単に日本の文化が好きだというにとどまらず、自ら動いてその“好きだ”という気持ちを満たそうとしています。それも、ネット検索で満足するのではなく。こういう点を、レベルの下の学生たちに残していってもらいたいです。

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上の空

12月8日(金)

9時5分前ぐらいに教室に入り、タブレットのwi-fi接続確認など諸々の準備をし、9字のチャイムが鳴り終わると出席を取ります。クラス全員の名前を呼び、顔を見て出欠を記録していくと、9時2分か3分ぐらいまでかかります。全員の出席を取り終わるか終わらないかのタイミングで、Lさんが駆け込んできました。ギリギリセーフということにしました。

連絡事項を伝え、授業を始めると、Lさんはいつになく落ち着きがありません。クラスの議論には加わらないし、教科書も見ているのかいないのかよくわからないし、時々スマホをいじっているみたいだし、明らかに心ここにあらずでした。授業の最後に、授業で扱った単語や表現を使って例文を書いてもらいました。Lさんも出しましたが、休憩時間にチェックすると、こちらの指示をまるっきり聞いていないようでした。

後半は選択授業で、Lさんは私のクラスにはいませんでした。しかし、授業後、忘れ物を取りに来たLさんを捕まえました。そして、「あんた、私の話、全然聞いてなかったでしょう」と追及すると、「先生、ごめんなさい。△▼X〇◆☆…」と訳のわからないことを言って、脱兎のごとく帰ってしまいました。

Lさんの周りの人の話を総合すると、どうやら入試の発表があったのか、午後からあるのかだったようです。受験シーズンには時折みられるパターンです。もし、発表があったのだとしたら結果が気になるところですが、現在まで何の連絡もありません。入試発表の場合、“便りがないのは悪い証拠”ですから、どうやら期待はできないようです。

月曜日は、慰めの言葉をかけるところから始まるのかな…。

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最後の1万円札

12月7日(木)

国、ヘアターバン、現金、動物実験、結婚、単一機能のアプリ、手紙、差別待遇、人種、インスタント食品、ジェンダー社会規範意識、時計、使い捨ての漆器、軍事武器、欲張り。これらは何だと思いますか。

月曜日、「なくてもいいもの」というテーマで作文を書いてもらいました。その作文で学生たちがとりあげたものです。中には、「なくてもいいもの」というより、「あってほしくないもの」「なくしていくべきもの」とした方がいいものも含まれていますが、学生たちは上述のものが現代社会には不要だと考えているようです。

複数の学生が取り上げたのが、現金でした。自分の国ではキャッシュレス化が進み、日本では現金しか受け付けない店も珍しくないことに驚いたと書いた学生もいました。財布が必要なこと、その財布がすぐ重くなることが嫌だという意見もありました。

振り返ってみると、私も現金はあまり使いません。買い物や食事をしてもICカードかクレジットカードで支払う場合がほとんどです。もしかすると、今週はまだ現金を使っていないかもしれません。でも、現金は好きです。もらったときのありがたみが違います。

来年夏に、新札が発行されます。渋沢栄一が1万円札です。聖徳太子、福沢諭吉に続き、3代目のお札の顔です。聖徳太子から福沢諭吉に変わったときは、まだ学生でした。たまたま発行初日と研究室のパーティーが重なり、気を利かせた参加者が回避を新札出払ってくれたおかげで、その日のうちに新札を拝むことができました。

でも、学生たちが言うように、キャッシュレス化が進んで現金の流通量が減っていくと、渋沢栄一の1万円札が最後の1万円札になるかもしれません…。

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通訳とは

12月6日(水)

今学期、水曜日の午後は初級の学生を対象に、進学の授業をしてきました。進学の授業とは、日本語やEJUの科目を教えるのではなく、日本の大学入試・大学進学の基礎知識を学んでもらう授業です。例えば、出願に必要な書類、EJUのしくみ、面接の内容、志望理由の書き方、合格後の入学手続きといった事柄を扱ってきました。毎週聞いてもらえれば、留学生入試の概略がわかってきます。

初級の学生が相手ですから、通訳が必要です。その通訳は、上級の学生に頼んでいます。Kさん、Sさん、Tさんなどが引き受けてくれました。私の日本語よりもだいぶ長く話していますから、きっと自分の経験も加えて、私の言葉をより実感の伴う話にしてくれているのでしょう。こういう通訳は、機械翻訳やAIにはできないと思います。

聞いている初級の学生たちも、通訳の学生の言葉を待ち構えています。学期末が近づいた今なら、初級とはいえ、私の言葉もだいぶわかるようになってきたと思います。こちらも語彙や文法を調節して、また板書やジェスチャーも交えて、少しでも初級の学生に伝わるようにしているつもりです。でも、通訳の学生が話す自分たちの母語のほうが、理解が深まるに違いありません。だから、信頼しきった眼で通訳の学生を見つめ、その声に耳を傾けるのです。

通訳の学生も、どこかいい気分なのでしょうね。1時間近く拘束されるのですが、授業が終わり、私が「どうもありがとう」と声をかけると、満足気に笑みをたたえて、「ありがとうございました。先生、さようなら」と返してくれます。この授業の時は、初級の学生も上級の学生も私も、効率性とは違った次元に生きているのです。

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10分遅延

12月5日(火)

月初めは、前の月の出席率が悪かった学生が欠席理由書を書く時期です。Rさんもその1人で、授業後に職員室に連れて来られました。担当のK先生は、欠席・遅刻した日付が記入された欠席理由書をRさんに渡して、欠席・遅刻をした理由を書くようにと言っています。しかし、Rさんはこの日とこの日とこの日と…は電車が遅れたから遅刻ではないと訴えています。

毎月の出席率が素晴らしくいい学生がある1日についてだけそう主張するなら、本当に電車が遅れたのだろうと信じられます(もっとも、そんな学生は欠席理由書など書きませんが)。しかし、Rさんは、上述のように“この日とこの日とこの日と…”と、何日も電車が遅れたと言っています。ということは、Rさんが通学に使っている路線はよく遅れるということで、その遅れを見越して家を早く出るなどの対策を取るべきです。K先生もそう説き聞かせようとしています。しかし、RさんはK先生の日本語がわからないのか、わかっていながら無視しているのか、自分の言い分を繰り返します。まあ、本当のところは寝坊でしょうがね。

最近は遅延証明書も電子的になり、スマホの画面を見せてくる学生が増えました。黄門様の印籠よろしく、「控えろ」と言わんばかりです。でも、ほとんどが5分遅れとか10分遅れとかです。1時間に1本しか来ない土地ではなく、東京ですよ。丸ノ内線なんか2分おきぐらいに走っている時間帯です。8:30に駅に着いたら8:20の電車が止まっていたというだけです。いつもより多少混んでいるかもしれませんが、乗り込めないほどではないでしょう。8:30には電車に乗っていなければならないのに、駅に着いたのが8:40で、10分遅れの8:30の電車に乗って、10分遅れで教室に入ってきたのです。遅延は電車ではなく、学生自身です。

Rさんは、結局、欠席理由書を書いたようですが、どんな理由をつけたのでしょう。この欠席理由書、入管への提出書類の一部なんですよ。

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