Category Archives: 勉強

大差

12月20日(火)

K先生がお休みだったので、最上級クラスの代講をしました。最上級クラスともなれば、長期間在籍している学生も多いですし、学校内のイベントでもけっこう活躍していますから、有名人が多いです。私の場合は、それに加えて受験講座で接点がある学生もいます。そんなわけで、コンスタントに授業に入っていたわけではありませんが、ほとんど何となく顔と名前が一致する学生たちでした。

さすがに最上級クラスで、誰を指名しても読解のテキストなどがスラスラ読めます。「声高」とか「喧騒」とか、特殊な読み方をする単語や見慣れない漢語は読み間違えたり立ち止まったりしましたが、それ以外はつっかえることはありませんでした。そうそう、意外に「種明かし」が読めず、意味もわかりませんでした。

私が担当している、上級でも下の方のクラス(の下の方の学生)は、うっかりするとカタカナ語でも間違えて読みますから、それとは大違いです。おそらく、文章を見ている範囲が違うのでしょう。私のクラスの学生は、極論すれば、テキストの文字を1つずつ拾い読みしています。だから、どこが単語の切れ目、意味の切れ目なのかわからずに読んでいます。それに対し、最上級クラスの学生は、少なくとも内容把握をしながら読んでいます。だから、次にどんな単語が現れるかある程度は予測がつき、その予測範囲内の単語が出てきたら、スムーズに読めるというわけです。

この両方のクラスの学生は何が違うのかと言えば、理解語彙の数です。読んでわかる、聞いてわかる単語の数の差が、読み方のスムーズさの差になって現れ、同時に読解力の差にもなっています。文章も、2~3行まとめて目を走らせていることでしょう。こうなると、私なんかの読み方とあまり変わりません。

どうやって鍛えれば、私のクラスの学生たちは、最上級クラスの学生たちに近づくのでしょうか。

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火がつかない?

12月7日(水)

「Dさんはこういうふうに言っていますが、Cさんはどう思いますか」「じゃ、Cさん、次の段落を読んでください」「3番の答えは、Cさん、ホワイトボードに書いてください」

…などというように、Cさんは指名されるたびに、周りの学生に聞きます。そして、何か答えたり教科書を読んだりします。おそらく何もわかっていないのだろうと思います。先学期のテストでぎりぎり合格点を取りましたから今学期このクラスにいますが、本当はこのクラスにいてはいけない学生なのです。

端的に言ってしまえば、聞き取りができないに違いありません。教師の指示や質問がわからないから周りに聞き、授業中の教師の説明がわからないから授業についていけず、クラスが何で盛り上がっているかわからないからみんなが笑っているときにあちこちきょろきょろするのです。

大学院の入試の準備をしていると言っていますが、日本語教師の発話も音声として耳から入って来ないとなると、入試の面接をパスするとは到底思えません。Cさん自身は自信を持っているようですが、その自信の源を見てみたいです。カラ元気ならぬカラ自信ではないかと思っています。

おそらく、初級のオンライン授業の時にいい加減な受け方をしてきたのでしょう。教室だったら声を出して教科書を読ませられるけれども、自分の部屋だったら読むふりだけだったとか、教師の目が届かないのをいいことにぼんやり話を聞いていたとか、そういうことの積み重ねが、ここへきて表れているのです。また、そういう授業の受け方が癖になって、もう直らないのでしょう。

最大の問題点は、Cさんにお尻に火がついている感覚がないことです。

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女子大に行きたい?

11月30日(水)

Kさんは文科系の数学の受験講座に出ています。来年の6月のEJUを目指すということで、基礎から始めています。しかし、文科系の学生がよくつまずくところを軽く乗り越え、因数分解などの計算もとても速いです。

「Kさんは数学がよくできるね」

「それほどでもないです。でも、私の町はほかの町と違って、数学がとても厳しかったんです。中学の時の高校の問題をしていました。友達は東大の理科系の大学院に入ろうと思って、国でオンラインの授業を受けています」

「Kさんも理科系に進んだら?」

「私の数学は友達と比べたら全然まだまだです。私の国には女子大がないので、日本では女子大に入りたいです。就職もいいそうですから」

女子大で勉強したいという夢をかなえさせてあげたいですが、1つ大きな問題があります。私立の女子大は、多くの場合、EJUの数学を見ません。Kさんが他の受験生に差をつけることができる科目が、入試の合否判定に用いられないのです。データサイエンス系の学部学科を創設した女子大が話題になっていましたが、そういうところを狙うと、一番有利に戦いを進められるのではないでしょうか。

中学生に高校数学を先取りさせて数学力をバリバリ鍛えるというのは、理系人間にとってはうれしい限りですが、実際に学んでいる中学生はどうなのでしょう。落ちこぼれは放置して前進あるのみというと、若者の可能性の芽を摘み取っているようにも感じられます。そういう教育に耐えて数学力を身に付けたとすると、Kさんはやはり優秀なのです。

どういう方面に向かわせてあげたら、Kさんにとって幸せなのでしょうか。

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3行上

11月25日(金)

KCPの学生、特に上級まで来ている学生は、多くが日本で進学します。となると、文系理系を問わず、進学してから必要な日本語力は、まず読解力です。教科書の内容が理解できなかったら、勉強も何もあったものではありません。1年生から2年生に進級できないでしょう。

金曜日のクラスでは、先週読解の予習のしかたを教えました。その予習がどのくらい浸透しているかと思ってふたを開けてみたら、全くでした。「“こうした”は何を指しますか」「この段落の“現場の教師”って、やさしい言葉で言うと何ですか」「“同様”って、何が同じなんですか」などと立て続けに聞きましたが、教室がお通夜よりも静まり返ってしまいました。先週熱弁したかいもむなしく、学生たちは単語を調べただけでよしとしてきたようです。

そして、本当に単語しか見ていないんですねえ。私に質問されて慌ててその前後を見渡しますが、せいぜい1行上までです。3行上の内容にかかわることは、お手上げ状態です。私の板書を感心しながらノートに書き写すだけでは、読解したことにはなりませんよ。

このクラスには、すでに大学院や大学に合格して、進学先が決まった学生もいます。そういった学生も、目先の単語しか見ていません。日本語学校を出たら、日本語をじっくり学ぶ機会はありません。進学先では、日本語を武器として学問を進めていきます。その武器が竹光だったら、留学失敗疑いなしです。

卒業式まであと4か月ほどです。これからよほどの奮起をしないと、夢が夢のままで終わってしまいます。

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学生に鍛えられる

11月22日(火)

Oさんは今学期の新入生で、2024年に大学進学を考えている学生です。大学ではITの勉強をしたいと言っています。だから、理科系の受験講座を取っていますが、まるっきり基礎からの勉強になっています。理科系の学部に進学希望の学生は、国の高校で理科や数学の勉強をしてきて、ある程度の自信を持っているというのが通常パターンです。基礎から勉強したいと言っていても、本当にそうすると話が簡単すぎて飽きてしまう場合がほとんどです。そうならないように、高校では教えない小ネタを仕込んでおいて、興味をそらさないようにします。

しかし、Oさんは掛け値なしで基礎からのようです。「数学の授業は何をしていますか」と聞くと「三角関数をしています」と答えてくれますが、同時に「授業のスピードがちょっと速いです」とも言います。担当のS先生によると、Oさんに合わせてだいぶレベルもペースも落としているそうですが…。物理も化学も、一緒に受けている学生に教えてもらったり、説明を飛ばすととたんにわからなさそうな顔をしたりします。

教える側からすると、これくらい常識だろうと思っても油断はできません。論理的にきちんと積み重ねて説明しないと理解してくれません。逆に言うと、筋道を通した教え方をすれば、うなずいてくれます。こちらの話をしっかり聞いて、自分のものにしていこうという姿勢が感じられます。今は基礎の基礎レベルですが、時間をかけてこういう勉強を続けていけば、6月のEJUまでには頭の中に理系のネットワークが構築できるでしょう。

そして、私もOさんに鍛えられています。化学式を書けば通じるとか、図示すればわかってもらえるとか、そういう甘えは許されません。レベル1のクラスに入ったつもりで、物理や化学を教えています。

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わかるわけがない

11月18日(金)

読解のプリントを配りました。「まず、黙読してください。辞書は使わないでください。わからない単語があったら、その単語の下に線を引いてください。5分、時間をあげます」と指示を出しました。分量的に5分では読み終わらないだろうと思いましたが、学生に辞書など引いている暇はないと思わせるために、あえて短い時間を言いました。

結果的に10分読ませましたが、みんな読み終わりませんでした。辞書を使うなといったにもかかわらず、スマホで調べていた学生が3名。普段の様子からすると、指示が伝わっていない可能性の高い学生たちでした。

次に音読させました。辞書を使わせませんでしたから、漢字の読み方がわからなくて立ち止まるのは大目に見るとして、カタカナ語でつまずいたり、語句の切れ目がわからず“弁慶がな、ぎなたを持って…”的な読み方になってしまったりとさんざんでした。そんな予感はありましたが、現実として目の当たりにすると、愕然とするものがありました。

「月曜日にこのプリントを詳しく読みますから、週末に予習しておいてください」と告げると、予想通り、「はい」と元気な返事が。そこで、「Aさん、どんな予習をしますか。予習のしかたを教えてください」と聞くと、「単語を調べます」と、これまた予想通りの答えが。「そうですね。さっき、わからない単語に線を引きましたね。それから?」とさらに踏み込むと、「………」。「じゃ、Bさんはどんな予習をしますか」「うちでもう一度読んで、わからない単語を調べます」。本人的には工夫した答えのつもりなのでしょう。

「Bさん、“もう一度読んで”と言いましたが、黙読ですか、声を出して読みますか」「黙読です」。“なんでそんなことを聞くの?”という顔つきでした。音読をしないからカタカナ語でつまずいたり、“弁慶がな、ぎなたを持って…”になったり、目で見て意味がわかるので“下位”を“げい”と発音したりするのです。

わからない単語の意味を調べただけでわかった気になってしまいますから、その単語を含んだ文の理解まで進まないのです。文の意味がわからないのですから、そういう文が集まった段落の内容はつかめず、当然、その文章での筆者の主張などに手が届きません。

そういう話をして、予習のしかたを訴えて、授業を終えました。

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暗雲

11月15日(火)

昨日の授業後、理系の受験講座を受けている初級のFさんに、ちょっと相談したいことがあると呼び止められました。日曜日のEJUの数学も理科もよくできなかったから、数学や理科の勉強に集中するために、来学期は進級しないで初級のままでいいかという話でした。進級しなくてもいいとなったら、中間テストはパスしようという魂胆でした。

もちろんそんなことは認められませんが、Fさんはかたくななところがありますから、頭ごなしにダメと言ったら逆効果です。日本語を話す力を伸ばすには初級のままではいけないと、Fさんの最大の弱点を突くなどして、昨日の段階では納得させました。

そして、中間当日を迎えました。お昼に玄関のあたりをうろちょろしていましたから、Fさんはテストを受けたようです。ただ、油断はできません。Fさんには、授業中、数学や理科の問題をやっていたという前科がありますから。初級のうちからそんなことをしていて志望校に受かった学生はいません。Fさんがそういう道を歩まぬよう、これからも見張っていかなければなりません。

私が採点担当の上級クラスの読解の答案にざっと目を通すと、Mさんの答案に目が留まりました。答えが書いてあるのは3問ほど。そのすべてが正解だとしても、15点くらいかな。確かに、難しめの問題でした。でも、クラスではMさんと同程度の成績の学生は、少なくともこたえようという意志の感じられる答案用紙です。勉強してきたとは、到底思えません。他の科目も同様だとしたら、Mさんは終わってしまったかもしれません。

明日はこのクラスの授業ですから、本人に聞いてみましょう。

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何が必要?

11月10日(木)

今度の日曜日がEJUの本番ですから、今週までの受験講座はそれに向けての授業をしてきました。過去問解説が中心ですが、問題を解くのに使う理論や公式や知識・常識について質問が出てくることもあります。この期に及んで基礎に戻って…というのはやりたくないのですが、質問されたら答えなければなりません。

Nさんは、先学期まではそういう質問をよくしてきましたが、今学期は全然しません。理解が進んだのか、丸暗記に頼っているのかわかりませんが、ひたすら私の話を聞いています。それに対して、今学期から受験講座を受けているAさんは、わりと遠慮なく質問します。説明が長くなりそうな場合は、授業後に残すこともありますが、嫌がらずに残って解説を最後まで聞いてから帰ります。

Aさんの話によると、国では「これはこういうものだ」という授業ばかりで、“これ”を裏付ける理論やその周辺事項や応用展開などには触れられることがなかったそうです。疑問に思っても、聞ける雰囲気ではなかったと言っていました。どうやら、日本へ来て初めて、Aさんは知的好奇心が満たされ始めたようです。

昨日の文科系数学では、2次方程式の解の公式を導出しました。これは、できない学生には暗記せよと言います。式の変形を見せても混乱するだけですから。でも、昨日の学生たちは筋がいいので、最後までついてきてくれました。解の公式の導出なんか、EJUには絶対に出ません。にもかかわらず興味を持ってくれたことが、とてもうれしかったです。

大学は、知的好奇心の強さがものをいうところです。今のうちから鍛えておいてほしいと思いながら、授業をしています。

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楽しい思い出

10月31日(月)

私のクラスでは、文法のテストがありました。クラス全員、25分の試験時間をフルに使っていました。苦しげな表情を見せる学生もいました。先週の金曜日が川越小旅行だったので少々お遊び気分が盛り上がりすぎてしまい、週末にあまり試験勉強をしなかったのでしょうか。

授業後、すぐに採点しました。一番上に載っていたAさんの答案を採点すると、選択肢の問題はすべて正解でした。幸先がいいと思いながら、これを模範解答として、他の学生たちの選択肢の問題を先に採点しました。すると、みんなどこか何か間違えているんですねえ。結局、選択肢満点だったのはAさんだけでした。それを一発で引き当てたのは、確かについていたのですが…。

文法テストですから、当然、短文を作る問題もあります。ざっと見ると、白い部分が目立ちました。答えが書けなかったのです。もう少し詳しく見ると、このクラスは漢字の上に読み方を書くルールになっているのですが、それが守られていませんでした。私は試験中2回、フリガナをつけるように注意しましたが、学生たちはその余裕さえなかったのかもしれません。試験時間が余らなかったんですからね。

その短文をじっくり読むと、問題をよく読んでいないことがよくわかりました。“感激にたえない”の前に何か核問題に、“教えてもらいました”的な、“感謝にたえない”ならぴったりくる答えが過半を占めました。「感」だけ見て、「激」は読まずに「感謝」と反応してしまったのでしょう。同様に、問題を読んでいないとしか思えない答えが続出しました。文法以前の問題です。

結局、最高点ですらAさんの77点でした。平均点は……お恥ずかしくてここには書けません。

本日唯一の救いは、授業の最後に川越の話題を出した時、学生たちの顔が一斉に輝いたことです。

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質問魔

10月27日(木)

またまた先週の登場人物が出てきます。受験講座物理を受けているFさんは国立大学を狙っています。Fさんの国では、“いい大学”に入るためには決められた範囲の知識をきっちり覚えることが何より大切なのだそうです。日本はそうではないので、各科目を深く勉強する楽しみがあると言っていました。

私に言わせると、EJUなんか知識の暗記比べの面が強いですよ。解いておもしろい問題が少ないです。何が悲しくてこんな七面倒くさい計算をしなければならないのだろうと感じさせられることがよくあります。そういう問題を解くための勉強でも、Fさんにしてみると楽しいようです。

私も意地で、知識を書き連ねるだけの模範解答にしないようにしています。受験のテクニックも教えますが、その背後や周辺にも触れます。学生によってはそれが無駄話に聞こえるでしょう。非効率的に映るかもしれません。しかし、受験において効率性だけを追求したら、進学後に苦労します。

Fさんは質問が好きなようです。先週に続いて、授業後に疑問点を私にぶつけてきました。相変わらず、その日本語を理解するのに苦労を伴うのが難点ですが、「これは覚えなければなりませんか」的な質問ではなかったところは評価しなければなりません。また、そういう点を伸ばしていきたいものです。

Fさんの質問に答えていたら、あっという間に1時間以上たってしまいました。1階に降りたら、明日の川越小旅行の職員最終打ち合わせが始まる直前でした。

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