Category Archives: 勉強

疲れ目

10月30日(土)

1か月ぐらい前から、ドライアイがひどくて困っています。眼科で診てもらったら、目に塗る軟膏を処方されました。小さなチューブに入った軟膏ですが、薬剤師さんに塗り方を尋ねても、「さあ、どうやって塗るんでしょうかねえ」と言いながら、軟膏に添付されている説明書をくれました。その薬剤師さんも、実際に患者に目の軟膏を渡すのは初めてだったんでしょうね。

もらった説明書によると、あかんべえをして、その“あか”の部分を目がけてチューブから軟膏をほんの少し押し出し、軟膏が“あか”に載ったら瞬きをして伸ばすのです。やってみると、“あか”に軟膏を載せるのは、思ったよりずっと簡単でした。目に何かを入れるということに対して、初回は恐怖心を覚えましたが、今はもう平気です。しかし、軟膏を入れて瞬きをすると、目がかすんで視界がうすぼんやりとしてしまいます。そりゃあそうですよ、軟膏なんてしょせんは脂薬なんですから。だから、軟膏は寝る直前に入れることにしています。

そんな苦労をしてドライアイが改善したかというと、そうでもありません。日中はしょっちゅう目薬を差しています。ドライアイがよくならない最大の原因は、学生たちからの提出物です。テストの採点、例文や宿題のチェック、作文の添削など、日々目を酷使しています。きれいな字ならまだしも、汚くて乱暴な字を解読しなければならない場合がほとんどです。濁点があるのかないのか、漢字がきちんと書けているか、ふりがなは間違っていないか、文法的に正しいか、文脈がちゃんと通っているか、そういったことを細かく見ていき、誤りがあれば訂正していくとなると、目も疲れますよ。

さて、これからおとといの文法テストの採点再チェックです。それが終わったら、学生の出願書類のチェックが待っています。

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変心

10月21日(木)

「はい、じゃあ、15分休みましょう」と休憩を宣言するや否や、Sさんがやって来て、「先生、昨日の漢字テスト、今受けてもいいですか」と、追試を受けさせてくれと言うではありませんか。他の学生なら驚くほどのことではありませんが、Sさんが自ら進んでテストを受けようとするなんて、にわかに信じがたいことでした。

先学期のSさんは、興味のあることしかしようとしませんでした。その興味とは進学であり、進学に直接かかわりのあること、例えばEJUの勉強以外は、無視を決め込んでいたのです。平常テストは、まともに勉強したとは思えないような成績でした。オンライン授業中は、出席を取るとき以外、指名してもろくな反応が返ってきませんでした。おそらく授業とは無関係な問題集か何かに取り組んでいたのでしょう。ブレイクアウトセッションには、参加したためしがありませんでした。授業で扱うような話題について話す気などなく、グループ内に存在しているだけというありさまでした。

それが、先学期は一言もしゃべらなかった自己紹介で、ホワイトボードの前に立って1分ぐらい自分を語っていました。指名されても、的外れな答えをすることがなくなりました。ペアの会話練習では、ちゃんと相手の目を見て話していました。そして、“テストを受けてもいいですか”です。確かに、テストの日に欠席したのは褒められたことではありませんが、自分でその後始末をしようとしたのですから、大躍進です。

何がSさんをそうさせたのかよくわかりませんが、この前向きな精神状態をキープしたまま受験に臨んでもらいたいです。教師としては、うれしいやら、どこでこけるか気が気ではないやら、おっかなびっくり対処しています。この前向きな精神状態のままで、合格まで突っ走ってほしいと切に願っています。

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後輩の就職のために大けが

10月15日(金)

始業日に、作文についてさんざん嘆いたクラスの授業がまたやってきました。中2日で大きく変わるわけがありませんが、授業内でのやり取りを通して、学生がもう少しわかってくるのではないかと思いました。

「じゃあ、Nさん、最初の例文を読んでください」「後輩の就職のために骨を折った」「はい。じゃあ、Nさん、後輩の就職のために骨を折ったって、この人、何をしたんですか」「腕の骨、壊れました」「えっ、けがをしたんですか、この人?」「はい」「どうして?」「頑張り過ぎました」

上級だったらどこまでボケ倒せるかさらに突っ込み続けるところですが、Nさんは、表情からすると、明らかにボケているのではありません。また、他の学生もけが説に傾いています。これ以上、野放しにしては危険だと思い、「骨を折る」の解説をしました。

学生たちは、「後輩、就職、骨、折る」という単語の意味の確認をもって、この文を理解したつもりになっているのです。単語の意味の合計が文の意味として自然かどうかまでは、考えが至っていません。これが、このクラスの学生の現時点における実力です。

突き詰めて言うと、予習が足りないのです。学生たちの母語にも絶対に慣用句はあります。そこまで深く考えずに、先生に言われたからおざなりに意味を調べてきただけです。いや、それさえしてこなかった学生も一大派閥を形成していました。

他の科目も似たりよったりで、予習をしてきたとしても、やり方が甘いです。自分の部屋で授業を受けるのなら、授業中にこっそり検索して予習をサボった部分を糊塗することもできます。しかし、教室での授業となると、そういうわけにはいきません。勉強不足があらわになってしまいます。

それでも、Wさんなどは疑問点をまとめて質問してきましたから、一縷の望みを抱いてもよさそうです。来週に期待しましょう。

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お年寄りが多い

10月12日(火)

「中級の目標の1つは、さまざまな社会問題について日本語で話せるように、意見が言えるようになることです。じゃあ、Gさん、今の社会問題って、例えば何ですか」「…お年寄りの人の数が多いことです」

中級に上がったばかりの学生にとっては、ちょっと難しい質問だったかもしれません。「お年寄りの人の数が多いことです」と答えたGさん、社会問題の本質はわかっています。でも、この表現は、いかにも初級ですね。Gさん、教師にとっては絶妙の答え方をしてくれました。心の中で手を合わせました。

「はい、そうですね。お年寄りが増えたので、日本ではいろいろな問題が起きています。でも、中級は『お年寄りの人の数が多い』とは言いません。『高齢化が進んでいる』という表現を勉強します。この言葉、今は難しいと思いますが、ちゃんと勉強すれば、レベル4が終わるころには、誰でも使えるようになります。“ちゃんと勉強すれば”ですよ。勉強しなかったら3か月後も『お年寄りの人の数が多い』のままです」

中級の初日は、このぐらいガツンと言って、今の自分の足りなさ加減を認識させなければなりません。先学期受け持った学生たちも、レベル4の初日は似たようなものでした。しかし、期末タスクでは、「高齢化が進んでいる」ぐらい普通に使っていました。日本で進学したかったら、中級で語彙と文法のレベルを上げ、抽象的な議論に耐えられる日本語力を付けなければなりません。そして、上級では「高齢化が進展している」となるのです。

2か月以上ぶりの対面授業でした。やはり、学生からの圧力が違いますね。そして、学生とのやり取りがポンポン弾むのがうれしいところです。

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お誘い

10月11日(月)

受験講座の教材用に、EJUの数学の問題を解いています。マークシート方式にしなければならないという制約のせいかもしれませんが、解いていて面白みがありません。“14a+9b=147を満たす正の整数a,bを求めよう”などと意向形で誘われても、「そんなの求めたくねえよ」と言いたくなります。誘うなら、解く側の意欲を掻き立てるような問題にしてもらいたいです。

受験生は必死ですから、面白みがなくても意欲が掻き立てられなくても、大学に進学したい一心で解くのでしょう。留学生の心をおもちゃにしているなどと言ったら、EJUの問題を作った先生に対して失礼でしょうか。

でも、私のような年寄りからすると、問題のための問題は出してほしくないです。ひたすら式の変形をし続け、公式を当てはめ、そして正解にたどり着くというのは、注意力と反射力のテストのような気がしてなりません。日本の大学はそういう新入生が欲しいのかというと、決してそうだとは思いません。

今年も元日本人の方がノーベル賞を受賞しました。そういう研究は、注意力と反射力だけからは生まれてきません。数学の基礎的な計算力を否定するわけではありませんが、“14a+9b=147を満たす正の整数a,bを求めよう”が解ける勉強をし続けた学生から創造力が泉のごとく湧き出てくるとも思えません。東北大学や名古屋大学の日本人向け問題は、良問が多いです。そういう問題も、マークシート方式にすると輝きを失ってしまうのでしょうか。

愚痴をこぼしていても受験講座はできません。学生に力を付けさせることが先決です。

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特例措置はあるけれども

9月29日(水)

Cさんは、書類上のKCP入学は去年の4月ですが、実際に入国できたのは去年の年末、日本語の勉強を本格的に始められたのは今年になってからです。本来ならもう上級にいてもおかしくはなく、今ごろは受験準備に忙しいはずです。しかし、上述のように勉強のスタートが大幅に遅れてしまったせいで、6月のEJUでは思うように点が取れず、結局来年4月の進学はあきらめました。入管の特別措置の恩恵にあずかり、もう1年KCPで勉強してから進学することにしました。

今学期のCさんは欠席が多かったです。出席率がガタッと下がってしまいました。原因ははっきりしています。ワクチン接種の副反応です。暑い盛りの頃に2回の接種を済ませたのですが、それからというもの、なかなか本調子が戻りません。これもまた、進学を遅らせた理由の1つになっているようです。

私はCさんのクラスは担当していませんが、Cさんは理科系志望ですから、受験講座で接点があります。やはり、学期の後半は精彩を欠いていました。欠席もしましたから、各科目どこかしらに抜けがあります。この調子で11月のEJUを受けても、結果はあまり期待できません。漢字の国出身ではありませんから、読解、聴解・聴読解でも苦労していると、EJU対策担当の先生がおっしゃっていました。

Cさんの進学は、おそらく23年4月になるでしょう。つまり、ここで3年間足踏みすることになります。若い時の3年を受験勉強に費やすというのが、Cさんの今後の長い人生にどんな影響を及ぼすでしょう。全国の日本語学校にCさんのような学生が大勢いるに違いありません。海外留学を目指している日本人学生の中にも同じような思いをしている人が少なくないと思います。

新しい首相は岸田さんになりそうです。何となくパッとしませんが、勉強しようと思っている若者が思う存分勉強できる環境を整えてください。

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見返す

9月9日(金)

「先生、私、去年の11月のEJUで日本語335点だったんですが、どの辺の大学に入れますか」「うーん、偏差値でいうと65ぐらいだから、A大学あたりかな、Zさんの勉強したい学部がある大学だと」「そうですか。実は、去年、B大学を受けたんですよ。不合格でした」「335でB大学なら十分行けるはずだけど…」「面接で志望理由書に書いたこととちょっと違うことを言ったからだと思うんです」「ああ、それはしょうがないかも。提出書類と面接の答えが違ったら、落とされても文句は言えないな」「ちょっとでも違ったらだめですか」「違ってたら面接官が『志望理由書にはこう書いてありますよ』とかって指摘するところもあれば、何も言わずに×を付けるところもあるね。B大学は違ってたらダメっていう大学だったのかもしれないね」「だから、私、今年はA大学か国立に受かって、『お前たち、こんな優秀な学生を落としたんだぞ』ってB大学に言いたいです」「ああ、そういうときは『見返してやる』って言うんだよ」「はい、B大学を見返してやりたいです」

受験講座の授業が終わった後、雑談をしていたら、こんな話になりました。少々穏やかでない話ですが、Zさんの意気込みは大したものです。「捲土重来」なんて言葉も教えてあげればよかったかなあ。まあ、動機はどうであれ、Zさんは勉強に燃えています。予習もしてきます。質問も活発にします。受験講座の担当教師としては、非常に張り合いのある学生です。何とかZさんのリベンジに手を貸してあげたいです。

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目の前じゃないから

8月30日(月)

理科系の数学の受験講座は、微分と積分を扱っています。7月、対面授業をしている頃は、微分積分の前段階をやり、さあこれからが山場だというところでオンラインになってしまいました。オンラインだと、受講生に問題を送ることはできても、その問題をどのように解いているか、答えが出るまできちんと計算しているか、解けない場合はどこでつまずいているか、そういうことが見えません。解いている手元を映せというのも難しいですし、答案用紙を送ってもらって添削というのでは、効果半減です。今、目の前で解かせて、悪いやり方を現行犯で見つけて直させたいのです。

理科系の学部学科は、数学がわからなかったら勉強ができません。入試はうまいことする抜けたとしても、入学してから進級できません。数学の単位が取れないのみならず、物理や化学も不合格となるでしょう。その数学の根幹をなすのが、微分積分です。物理など、教科書が微積語で書かれていると言っても過言ではありませんから、微分積分ができなかったら専門の勉強に進めません。受験講座理科系数学は、その基礎部分を築く授業なのです。だから、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、間違いの芽を確実に摘み取りたいのです。

それから、KCPの学生は、問題を最後まで解ききらないきらいがあります。途中まで解いて答えまでの道筋が見えたらそこでやめてしまう学生が目立ちます。EJUの成績を見ると、詰めが甘くて失点につながったんじゃないだろうかという点数が随所にありました。今年K大学に進学したWさんには、答案用紙に指差してそういうところを徹底的に指導しました。

数学を受けている皆さんに、私の声と危機感はどこまで響いているでしょうか。

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悲喜こもごも

8月28日(土)

私のクラスのBさんは、7月のJLPTの結果がオンラインで見られると知るや、すぐに聞いてきました。KCPで団体申し込みをした学生の合否結果と成績は、学校に届くのです。

調べてみると、N2に合格でした。すばらしい成績とは言いかねますが、各科目満遍なく点を取って、合格点を上回っていました。Bさんは、多少おっちょこちょいのところがありますが、オンライン授業でもいい加減なことはせず、宿題も確実に出し、着実に進歩しています。KCP入学以来ずっとこういう勉強を積み重ねてきたとしたら、それが実を結んでの合格です。

Bさんから私に言えば結果を教えてもらえると聞いたのか、Jさんからも結果が知りたいというメールが届きました。調べてみると、同じN2が不合格でした。総得点は合格基準を上回っていますが、科目ごとの合格に必要な最低点に届かなかった科目があったため、不合格となったのです。Jさんも、いくらか軽いところはありますが、コミュニケーションは問題なく取れます。対面授業の頃は、日本語力がない学生の代弁すらしてくれました。どこで失敗したのかよく見極めて、12月には合格してほしいところです。

成績一覧表をよく見てみると、N1もN2も、受かっている人はそれなりの人が多いです。そりゃ無理だよねっていう学生は、だいたい落ちています。KCPのJLPT受験者数なんて、特に今年は、たかが知れています。でも、合格者も不合格者も“やっぱり”感満載だとしたら、JLPTは妥当な評価になっているということです。

オンラインが続き、自室にこもることが多いとなると、勉強のペースも乱れがちです。そこを引き締めていかないと、JLPTも大学も大学院も、合格には結びつきません。

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不安な日々

8月27日(金)

夏休み明けの月曜日から、Vさんが受験講座を休んでいます。日本語の授業も出席したのは1日だけです。ワクチンの副反応がひどいようです。オンライン授業にも参加できない状態が1週間も続いているとなると、体力の衰えが心配です。もうすぐ9月だというのに、この前までの天候不順を挽回しなければと思っているかのごとき暑さです。平熱に戻った程度で耐えられるでしょうか。

Vさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでしたから、この時期にガンガン鍛えたいところです。夏休み前までは、本人もそのつもりでいたようです。しかし、こうなってしまっては、無理は禁物です。去年の秋、ほんの一瞬、鎖国が解かれたすきに入国したはいいですが、思わぬ落とし穴にはまってしまいました。でも、ワクチンを接種しなかったら、それもそれで心配が募るでしょう。

Hさんは、まだ入国できず、自国からオンライン授業に参加しています。受験講座の時間が終わって、私がサヨナラと言いながら画面に向かって手を振ったら、「先生、質問があります」と呼び止めました。授業内容についての質問かと思ったら、「先生、私はいつ日本に入れますか」と聞いてきました。

正直に言って、一番してほしくない質問ですね。わからないというのが事実であり、本音でもあります。でも、それではHさんの気持ちは晴れないでしょう。ですから、今年も同じようになるか全くわからないけれども、去年はこうだったという話をしました。希望を持たせすぎるわけにはいきませんが、希望の灯を消してしまってもいけません。

多くの学生が、それぞれの不安を抱えたまま、受験シーズンに踏み出そうとしています。

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