Category Archives: 勉強

連休前なのに

4月27日(水)

M先生は、出勤するなり、仕事をしていた私に、「先生、Hさん、明日出発するんですよ。待機期間が終わるのが来月の6日か7日で、そうしたら学校へ来るんですよ」と声をかけてきました。Hさんは、去年の4月からオンラインでずっと勉強を続け、昨年末、来日できそうになったとたん再度の鎖国でそれが流れ、そして、ようやく、もう間もなく、KCPに姿を現します。

Hさんはまじめな努力家で、毎日の授業に全力で取り組んできました。だから、所属したどのクラスの先生も、高く評価しています。私も、クラスに入ってHさんに教えるのが楽しみでした。これはHさんに質問してみようなんて、Hさんを中心に授業を組み立てることもよくありました。

先月から留学生の入国が再開されましたが、いつまで待ってもHさんの順番が来ませんでした。Hさんにこそまっ先に入国して学校へ来てもらいたかったのに、Hさんの渡航日程はなかなか決まりませんでした。オンラインでやる気があるのかないのかわからないような学生が、お前なんか日本で勉強する意味があるのかと言いたくなるような輩に限って、さっさと入国してきたんですよね。

そのHさん、今学期は数学の受験講座を受けています。午後、数学の問題が届いていませんなんていうメールがHさんから来ました。おとといの講座で宿題を出したつもりだったのですが、メールに添付されていなかったのです。日本行きの準備で忙しいので今週は期日までに提出できないと添えられていました。こういう、勉強を第一に考える姿勢が、教師の心をくすぐるんですね。

5月7日に行われる歓迎イベントで、Hさんに会えそうです。終わるのが楽しみな連休なんて、初めてです。

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ま゛行

4月22日(金)

中級のH先生が頭を抱えていました。よくできるYさんが、「む」に「゛」を付けるといいます。確かに、テストの答案の文字に「む゛」がありました。どんな発音をするのでしょう。唇を引き結んで、のどに力を入れて振るわせて、母音を発するのでしょうか。Yさんに音を出してもらいたいです。

Yさん1人ならまだしも、数名の学生が「ま行」を濁らせて「ま゛」行を創出していました。この学生たちの受けてきた教育に何かあったのでしょうか。オンライン授業でも、手書きで例文を提出させてきましたし、テストだって手書きだったはずです。

考えられるのは、教師のチェックの甘さです。手書きとはいえ、例文などを書いたノートを写真に撮って、それを送らせていますから、提出物のチェックも画面上です。このチェックをすると、私が老眼だからかもしれませんが、目が非常に疲れます。酷使すると言ってもいいでしょう。ですから、細かいミスを見落としているおそれはあります。その見落とされたミスに「ま゛」行が含まれていて、いつの間にか学生に「ま゛」行が定着してしまったのかもしれません。

もう1つは、学生側のチェックの甘さです。上述のように、オンラインで提出されたものに対する添削はオンラインで行います。したがって、提出物が返却された時点で、学生の手元には、オンラインで添削された提出物と、その元となった、教師の朱が入っていないノートなどがあります。学生が添削された返却物に気が付かなかったら、間違ったままの例文などしか残らないのと同じです。でも、Yさんほどの学生が、返却物に目を通さないなんて、あるかなあ。

真の原因はよくわかりませんが、せっかく対面になったのですから、提出物は厳しくチェックして、禍根は断ちたいところです。今なら、まだ間に合います。

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発見?

4月20日(水)

今学期の新入生・Mさんは、今週から受験講座を受け始めました。ITを勉強して日本で就職したいと思っています。勇んで理系数学の授業を受けたのですが、微分の壁に跳ね返されました。授業中、話は聞いていましたが、手は動いていませんでした。Mさんにとっては、かなり高度な内容だったようです。

ですから、授業後、少し話をしました。国の高校で微分積分はあまり勉強してこなかったので、EJUレベルとはいえ、私の話はあまり理解できなかったそうです。でも、24年度の進学を目指していますから、今すぐ、何が何でも高得点がほしいとは思っていません。長期戦に臨む心構えで来ているようです。

そもそも、日本で就職というのが最終目標なら、大学進学が最善の道とは限りません。専門学校から就職のほうが、早く社会に出られます。また、ITという分野が今後どのように動くかも、注視しなければなりません。Mさんの意識にはAIというものが入っていないように感じられましたが、AI抜きのITというのは、もはやあり得ないでしょう。2年計画なら、その辺もじっくり考えて、より就職しやすい進路を見出すということだってできます。

話してみて、Mさんは好感が持てる学生でした。私の話を聞いての受け答えもしっかりしていましたから、理解力、コミュニケーション力は高いのかもしれません。中上級のひねくれた学生など、あっという間に追い越されてしまうのはないでしょうか。今は苦しいでしょうが、逸材かもしれません。

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ネットワークづくり

4月19日(火)

受験勉強も含めて学問は何でもそうだと思いますが、頭の中にネットワークができたら、その方面の勉強は飛躍的に進みます。知識と知識が、知識と経験が、様々な、時には意外なつながり方をして、面白さと探求心が尽きることなく湧き上がってきます。

Cさんの場合、本人の話を聞く限り、生物はその域に達しているようです。しかし、化学はそのだいぶ手前で止まってしまっていて、勉強の面白みを感じるまでに至りません。ですから、ついつい生物の勉強の方に傾いてしまい、化学はより一層遅れてしまうという悪循環に陥っています。

生物はあるインターネットのサイトがCさんのフィーリングにフィットし、それを見ることで知らず知らずのうちに勉強が進みます。化学はそういうサイトに巡り会えず、苦しい戦いに陥っています。今学期はKCPの受験講座を取っていますが、基礎部分の抜け落ちをどう補ったらいいかという相談を受けました。

本番までちょうど2か月ですから、少々乱暴な手を採ることにしました。Cさんは知識を頭に詰め込むことには自信があるようですから、元素名から始まって、ある程度の所まで暗記で突き進んでもらうことにしました。頭の中に放り込んだ知識の断片をネットワーク化する作業は、私もお手伝いします。

こういう勉強法は邪道だと思います。でも、大学に入ってから本当の学問をするための準備段階だと割り切って、知識の堆積を図ることにしました。今はつまらないでしょうが、これを乗り越えたら明るい天地が広がっています。1日でも早くそこに出て、今度はのびのびと勉強を楽しんでもらいたいです。

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末端の戦い

4月12日(火)

今学期はぱらぱらと新入生や先学期までのオンライン学生が新たに学校へやって来ています。以前のような統一的なオリエンテーションができなかったからでしょうか、毎日事務の受付が混雑しています。ちょっと密かなと思える時間帯もあるほどです。

その中の何名かは、受験講座を受けたいと言っています。本当は昨日から始まっていますが、今すぐ受講を始めるなら傷は浅いです。十分挽回可能です。6月19日が今年第1回のEJUですから、それに間に合わそうという意識が強いのだと思います。

そういう学生が多いことは、学校としては好ましいことです。しかし、今までにどれだけの勉強をしてきたかわからないまま教えるのは、教師としては恐ろしいものがあります。数学や理科の場合、ゼロから始めたら、2か月ではEJUのレベルには届きません。受験したというアリバイは作れても、その成績を生かして各大学の独自試験に挑むというレベルには及びません。

だから、国でどのくらい勉強したか、勉強したことがどのくらい頭に残っているかを学生本人に聞いています。Gさんは去年のEJUを国で受けたと言います。成績を聞くと、数学も理科も平均点をいくらか上回るぐらいは取っています。それなら、直前対策タイプの授業でもついてこられるでしょう。数学は勉強したけれども、すっかり忘れてしまったと言っているJさんには、今学期は総合科目に注力してもらうことにしました。総合科目で箸か棒に引っ掛かりそうな点数が取れたら、11月に向けて数学の勉強を考えてもらうことにします。

2023年度入試は、日本語学校の在籍期間を延長した学生が少なからずいますから、上位校ほど厳しいことが予想されます。その戦いの末端が、KCPの事務の受付で行われているのです。

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信じます

4月11日(月)

受験講座が始まりました。私の初日は、文系の数学です。全員が今学期からの学生ですが、みんな6月のEJUを受けます。ですから、因数分解や展開からやっている時間はありません。学生たちに問題を解かせて弱点をあぶりだし、そこを集中的に講義するという形で間に合わせることにしました。強引なやり方ですが、ある程度の基礎はあると信じてこうすることにしました。

受講生にHさんがいました。Hさんは去年の4月以来オンラインで勉強を続け、ずっと来日できる日を待ち続けていました。私も2学期にわたって教えました。昨年末に入国できそうになったのですが、オミクロン株に対する水際対策でお流れとなり、今も国にいます。6月のEJUを日本で受験するということで申し込みましたが、日本へ来る日程はまだ確定していません。Hさんは淡々と授業を受けていましたが、内心はどうなのでしょう。

日本よりはるかに厳しいロックダウンをしている上海にしたって、感染者は増え続けています。結局、ウィルスの侵入を阻止する手立てなどないのでしょう。だから、感染拡大の初期から言われてきたように、ウィルスと共存するしかないのです。変異株が次々と発生し、それが続々と日本へ入り込むことを前提に、個人の生活も社会も組み立てていかねばなりません。

昨年末に「今年の漢字」を聞いた時、「待」と答えてみんなの涙を誘ったHさん。「待」に希望が伴っているでしょうか。日本政府が入国制限を強める気配は、今のところ感じられません。ほかの学生はともかく、Hさんだけは無事入国できるようにと切に願っています。

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まだ復活せず

3月24日(木)

Kさんは理科系の受験講座を受けています。数学は、私の説明に対して質問したり、私の計算間違いを指摘したりできるくらいまで力が伸びてきました。時々ひっかけ問題にはまってしまいますが、ヒントを与えると自分ではい出してきます。6月のEJUも、ある程度は計算できそうです。

問題は、理科です。数学は数式を追っていけばかなりの所まで理解できますが、物理や化学はそういうわけにはいきません。私の授業はすべて日本語ですから、物理の法則や化合物の性質など、私の日本語がわからなかったらどうしようもありません。練習問題をさせてみると、私の話がちゃんと届いているか不安な状況です。

クラスの先生に聞いてみると、Kさんの日本語力は、順調に伸びているとは言い難いようです。先学期は進級できず、今学期も同じレベルをやっていますが、今学期も進級が危ういとのことです。この調子だと、EJUの日本語も期待薄なのが現状です。

Kさんは昨年夏、ワクチンを打った後に体調を崩し、学校もずいぶん休みました。それから半年以上たちましたが、まだ完全に健康を取り戻してはいないようです。これが日本語の習得に悪影響を及ぼしているのです。

いちばんもどかしい思いをしているのは、Kさん自身でしょう。あれだけ数学ができるのですから、理科系のセンスはあります。EJUが国の言葉で出題されれば、平均点は軽く超える成績が挙げられるでしょう。しかし、現在のKさんは…。こういう時期でなければ、健康な状態で勉強でき、今ごろ6月に向けて自信を持って歩んでいけたに違いありません。

来学期の受験講座は対面で行う予定です。どうにかKさんの力になりたいです。

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何を鍛える?

3月16日(水)

"塩少々“と言ったら、どれぐらいの量を想像しますか。もちろん、どんな料理か、何人前作るか、口にする人の好みなどによって左右されます。しかし、そういう条件が決まれば、このぐらいという勘が働くのではないでしょうか。そんな感覚が全然わいてこないという人は、料理をし慣れていない人です。

料理に限らず、私たちは日々の活動すべてに、ほとんど無意識のうちに、勘を働かせているものです。雨が降っているから少し早めにうちを出ようとか、車の運転ならブレーキの踏み方とか、日本語教師だったらどんな練習にどのくらいの時間が必要かなどというのも、このうちでしょう。

こういった勘が働かないと、うまくいかないとまでは言いませんが、スムーズに事が運ばないことが多いです。誰でもそこそこできるようにと、この勘の部分にAIを導入しようとしているのが昨今の社会の流れだと言ってもいいでしょう。数年後には多くの勘がAIに代替されているかもしれません。

しかし、AIには代替されない勘もあります。それは受験における勘です。例えば、数学の問題を解くときに、こういう道筋で考えれば答えが得られるという勘、得られた答えが合っているかどうかという勘、そういった勘は受験生が地道に養っていくほかないものです。これは、ある程度までは口伝も可能ですが、それ以上は受験生自身の努力と訓練によってのみ育てられるのです。

そういう点、理科系の受験講座の学生たちは、まだまだですね。これから相当鍛えていかないと、6月のEJUに間に合いません。あと3か月と3日です。

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1年延ばしたら

3月2日(水)

入管が認めた日本語学校への在籍期間特別延長措置を利用する学生の申請書が回ってきます。学生本人がもう1年KCPで勉強したいと言っても、本当に勉強するかどうか疑わしい場合は、入管が「うん」とは言いません。例えば今までの出席率の低い学生です。そういう学生をはじくために、学校側でもチェックを入れているというわけです。

現在KCPに在籍している学生は、受けた授業の半分以上がオンラインかもしれません。孤独に耐えながら、周囲の雑音やよからぬ誘惑に心を乱されながら、パソコンに向かっているのでしょう。そういう悪条件をものともせずに実力をつけ、志望校に合格した学生もいます。その一方で、そういう環境に流され埋没していった学生もいます。期間延長を申し出ている学生たちが全員埋没組だとは思いません。しかし、教師のコントロールが弱いのをいいことに、気ままに暮らしてどこにも行けなくなっている学生もいます。

Yさんは、どこまで本気で勉強したかなあと思えてしまう学生です。もう1年を希望していますが、よほど奮起しない限り、1年後も状況は変わっていないでしょう。1人ではろくに勉強できないことが証明されたのですから、進んで教師のコントロール下に入るべきです。受験講座だって自然消滅を繰り返しています。入管に認めてもらえなくても文句の言えない出席率をどこまで深刻に考えているでしょうか。

Gさんは、出席率は問題ありませんが、自己中をどうにかしないと、人間関係でつまずくかもしれません。オンラインが多かったためにさほど目立ちませんでしたが、対面中心になったらクラスメートととの間に摩擦が生じるのではないかと心配しています。1年以上悪い意味でのびのびと暮らしてきましたから、今さら矯正が利くのでしょうか。

新規来日者を受け入れる準備も進めています。そういう学生たちが、YさんやGさんたちに、上向きかつ前向きの刺激を与えてくれればと期待しています。

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覚える

2月24日(木)

入試問題を解くのは知識か知恵かと聞かれたら、どうお答えになりますか。

知識の範囲をどこまでにするかにもよりますが、知識がゼロではないでしょう。最近はマークシートの問題でも工夫が加えられてきて、知識の有無だけを問うような問題は少なくなりました。知恵を意識しすぎると、今年の大学入学共通テストのように、全受験生が団栗の背比べになってしまって、テストの用をなさなくなることもあります。

知恵といったって、その基礎をなす部分は、知識と無縁ではないでしょう。知恵は知識を組み合わせたところに生ずるものでもあります。そこには創造力や想像力も関与します。単に知識を堆積させただけでは、知恵は湧き上がってきません。知識と知識を結ぶネットワークを張り巡らすことが肝要です。

Dさんは真面目な学生です。6月のEJUに向けての勉強をしています。私もDさんの力になってあげたいと思っています。しかし、Dさんから来る質問に、「これは覚えなければなりませんか」という意味のものがあることに引っ掛かっています。暗記かそれに類する覚え方では、知識の有無を競う問題にしか答えられません。そうじゃなくて、知識を組み合わせるとかひとひねりしてから使うとか、応用力を問う出題にも対応できるようになってこそ、高得点に結びつくのです。それは同時に、進学してからの勉強にもつながります。

Dさんにそういうところまで見えているのか、気がかりです。知識は布石みたいなところもあり、入試には不要でも、将来、何かの拍子に、それがあることですべてがつながり、理解や興味が深まることだってあるのです。

昨日のうちに届いていたDさんからのメールを読みながら、そんなことを考えました。

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