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モラトリアム?

1月7日(木)

新入生のオリエンテーションがありました。進学コースの新入生には受験講座の説明もしました。

進学コースのGさんは、レベルテストで中上級に入れる点数を取りました。国で大学を卒業していますから、日本で大学院に入るのかと思いきや、大学進学希望と言います。大学で勉強したいことはアニメ。国の大学で勉強したこととは違うので大学に入りたいというのは正論ですが、なぜアニメなのか聞いたところ、日本で一番就職しやすいのはアニメ業界だからだと言います。

確かにそうかもしれません。でも、アニメ業界は厳しく、数年も経ずして辞めていく人材が多いと聞いています。3年ぐらいで仕事を辞めて帰国するつもりかと聞くと、そうではないと答えます。そして、それならアニメはやめると言い始めました。さらに、「先生、日本で就職しやすい学部はどこですか」と聞いてきました。内心かなるムカついてきたのですが、それをぐっとこらえて、「そうだね、経営とか経済とかじゃないかな」と答えると、「じゃあ、そこにします」とGさん。「日本で就職できれば学部はどこでもいいです」とも。

在校生がこんなことを抜かしたら殴り倒してやるところです。大学を卒業しているのですから、大学の勉強の何たるかぐらいはわかっていると思ったのですが、Gさんにとって勉強は点取りゲームにすぎないようでした。自分は物を覚えるのには自信があると言います。アイウエオから始めて半年でN2の勉強を終え、12月にN1を受けたそうです。受かるかもしれないという手ごたえだったと言っていました。アニメも経済も、その延長線上のようです。

こう書くと、Gさんと私の会話はずんずんすすんだように思えるでしょうが、ここまでたどり着くまで私の日本語が通じなかったり、Gさんの日本語のひどさに愕然としたりと大変でした。Gさんはペーパーテストにはめっぽう強いものの、コミュニケーション力はいたって低いのです。

それよりも心配なことは、Gさんには時間の感覚がないということです。おそらくご実家は裕福なのだと思います。だから、大学を出た上に日本語を勉強し、日本留学もさせてもらえるのです。また、アニメをやめて経済にするだけにとどまらず、大学院まで行きたいと言いますから、根は勉強好きなのでしょう。でも、大学院まで行っていたら、Gさんが就職するのは30過ぎです。いくら勉強熱心で日本語に加えて外国語が自由に操れたとしても、就職するには年齢の壁があります。その辺の感覚が欠如しているように思えました。

今学期もまた、新たな戦いが始まろうとしています。

どうしてこんなに違うんですか

12月1日(火)

Cさんは、最近授業に出ていません。学校へ来ていないわけではありません。何をしているのかというと、家で受験勉強をし、何か困ったことがあると学校に顔を出すという生活をしているのです。ずいぶん虫のいい話です。もちろん、留学のビザでこんなことが許されるわけがありません。しかし、受験のことしか頭にないCさんには、そんなことをいくら言っても右から左へと抜けていくだけです。糠に釘どころではない手ごたえのなさです。

だいたい、この期に及んで最後の追い込みとか言って引きこもりをするようじゃ、先は見えています。その余裕のなさは、効率の悪さにつながっているのです。私の目には、Cさんが一人で勉強を続けられるほどしっかりした精神の持ち主には見えません。学生たちの年代では、励ましあう友人の存在が大きいのです。

それよりも何よりも、現状のCさんの日本語力では、よしんば志望校に受かったとしても、そこできちんとした勉強ができるのか、はなはだ心もとないのです。「書く」「話す」という情報を発信する技能に不安を感じさせられます。引きこもり状態で、母国語で物事を考えていたら、日本語力は伸びるどころか衰えてしまいます。

同じクラスのUさんは、すでに滑り止めには受かっているもののあまり行く気はなく、年明けに本命校を狙う段階です。Cさん同様プレッシャーがかかるはずなのですが、毎日学校に通い、授業にも積極的に参加しています。初級の時の先生に、「遠い将来のことを考えて悩むより、今できることを確実にしなさい」と言われて以来、これを肝に銘じてきたといいます。私があれこれ言うまでもなく、KCPで少しでも日本語の力をつけてから進学したいと言っています。同じ時期に同じ国から来たのに、どうしてこんなに違うんでしょうか。

風邪、腹痛

11月18日(水)

中間テスト・期末テストというと、不思議と風邪を引いたりおなかが痛くなったりする学生がいます。Oさん、Pさんなどは、今日も早々に学校に連絡を入れてきてお休み。先生たちは誰も彼らのことばを信じていませんが、試験当日の忙しい時に、アホなやつのたわごとには付き合っていられませんから、そのまま聞き流します。

今日、中間テストを受けなくても、追試は明日ですから、メリットってほとんどありません。テストから逃げ回っているようなやつが、今晩一夜漬けをしたところで成績が見違えるようによくなるわけがありません。しょせん、みんながテストを受けている時、スマホでもいじって暇をつぶしているのが関の山なんですから。

それにしても、受けないでは済ませられないことがわかってて、どうして1日ポッキリ受ける日を遅らせようとするのでしょう。嫌なことはとっとと済ませたほうが、精神衛生上もいいと思うんですけど。Oさんなんかは、平常テストも決められた試験日に受けることがまれで、中間テストや期末テストの直前にまとめて受ける羽目に陥ります。そうやって受けたテストは、試験日当日に受けた場合と比べて低い評価にしかならず、成績的にも大損なんです。そういう痛い目に何度もあっているのに、なおかつ逃げようとする思考回路がどうしても理解できません。

先憂後楽ということばがあります。本来は為政者の心得ですが、先に心配事や苦労を片付けると後から楽ができるというレベルにまでかみくだくと、私たちの生活にも当てはまることばになります。今日、気安くサボった学生たちの耳には、このことばがどのように響くでしょうか。

捨てる

11月7日(土)

Pさんは明日のEJUで350点を狙っています。Pさんの実力なら不可能な成績ではありません。でも、Pさんは不安でたまらず、EJU対策講座に出てきた顔は、心なしか白く見えました。もう、この期に及んで勉強によって点数を引き上げることは不可能です。だから、Pさんの不安を少しでも和らげられるように、ちょっとした秘策を授けました。

それは、「捨てる」ことです。最近のEJU日本語は、最高点が370点前後です。350点を狙うPさんは、ノーミスである必要はありません。うまくすると、ミス3つぐらいまでなら350点を超えられます。そうなんです。3つ間違えられます。わからない問題は捨てられるのです。何が何でも解かなければならないってわけじゃありません。もちろん、全部で52問ぐらいの中で、捨てられるのはせいぜい3問ですから、多くはありません。でも、切り札を手にしていることは確かです。この切り札を上手に使えば、志望校をたぐり寄せることができます。

こんなふうに、“ここまでなら失敗できる”って考えるようになったのは、研究の仕事をしていた時です。目標収率90%という数字はかなり高く思えたのですが、10%もロスできると考え直したら、すぐにも手が届きそうな目標に見えてきたのです。実際には、90%は結構歯ごたえがあったんですけどね。

日本語教育能力検定試験だって、私が受験した頃は合格率が5~6人に1人でしたが、とりあえず自分の周りの4人か5人に勝てばいいと思い、その4人か5人を探してるうちに、受かってしまいました。

明日の本番に関しては、もう私には祈ることしかできません。帰り際に見せてくれたPさんの笑顔を信じましょう。

どこで勉強?

10月28日(水)

Sさんが飛ばしています。先学期、初級クラスで受け持った学生ですが、文法と作文の成績が不合格でしたから、進級させませんでした。そのSさん、傍若無人の振る舞いが見られると、今学期の先生がおっしゃっていました。

Sさんは大学進学を目指していて、毎日塾に通っています。勉強熱心なのはいいのですが、塾が生活の中心になり、学校の勉強にまじめに取り組もうとしません。どんなに注意しても、EJUの問題を解く受験のテクニックを覚えることに一生懸命で、日本語を基礎からきちんと身に付けていこうとはしません。KCPはビザをもらうための隠れ蓑で、KCPで勉強する気はないのです。

塾とKCPとでは求めているものが違い、SさんにとってはKCPの勉強は生ぬるく、塾の勉強こそ自分の目標に合致しているのでしょう。そう思うのはSさんの勝手であり、塾で留学ビザが取れるなら、SさんはKCPに入学することなく塾で勉強したに違いありません。そういうことをしたい学生は、Sさんだけに留まるとは思えません。

日本の大学もなめられたものです。テクニックだけで入れるって思われちゃってるんですからね。実際、テクニックだけで入ったとしか思えない留学生がいるって、有名大学に進学したKCPの卒業生が言っています。そんなことをしているようじゃ、日本の大学の国際競争力は下がる一方でしょう。

今週、Sさんは第二志望校への出願を済ませました。第一志望校は来週です。どちらも留学生誰もが行きたいと思う大学です。Sさんが受かったら、KCPは、当然、合格者実績としてカウントすることでしょう。それを次の学生募集につなげていくことでしょう。でも、私の本心は、Sさんはカウントしたくないですね。

明日、試験

10月24日(土)

今週から受験講座や選択授業が始まり、また、クラブ活動も再開し、今学期も定常運転に入りつつあります。10月期はEJUとJLPTがあり、大学・専門学校の受験シーズンでもあり、上級ほど落ち着かない雰囲気があります。私のパソコンにも志望理由書を直してくれとか、面接の受け答えはこれでいいかとかという学生からのメールが連日入ってきます。今学期のうちに行き先が決まってしまえば、最後の学期は日本語の勉強が楽しめることでしょう。

夏の入り口ぐらいに始まった日本語教師養成講座は、今日が私の担当講義の最終回。そして、明日が日本語教育能力検定試験です。それに向けての対策をびしびしやったわけではありませんから、合格の見込みがどのくらいかは見当がつきません。でも、受講初期に比べると、確実に日本語教師の発想ができるようになっていると思います。講義の中での私の質問に対して、最初のころは見当はずれな答えばかりでしたが、最近はかなりレベルの高い答えが出てくるようになりました。文法や語彙などで議論ができるようになりました。

それに比べると、私のところに入ってくる志望理由書などは、もう少し歯ごたえがほしいところです。進歩してないわけじゃありませんが、もっと大またで歩いてもらいたいところです。1段飛ばしで階段を駆け上がるくらいの勢いが感じられないところがじれったいです。受験講座で理科の過去問も解説を聞いている学生たちも、うなずくポイントがちょいと基礎側に寄ってるんじゃないかな。

世間では学問の秋と言いつつも、日本語学校にとっては受験の秋です。受験生の頭の中を熟成する時間がほしいですが、戦場に送り出さなければなりません。まずは、明日ですね。

ノートを取らせる

10月21日(水)

選択授業が始まりました。今学期は、また、身近な科学を担当します。水曜日は聴解関係の選択授業ということなので、単に私がしゃべるのではなく、ノートを取らせてそのノートを提出してもらうことにしました。大学や大学院に進学したら、教授の講義を聴いて、要点をノートしなければならないのですから、その練習です。

授業が終わって、そのノートを集め、点検してみると、まず、90分ノートを取り続けるのは大変らしく、中だるみが見られる学生が数名。パワーポイントをそのまま写そうとして失敗していたり、要点じゃないところを写していたりというのも数名。本人にはわかるのかもしれませんが、私には判読不能な地の学生が1名、初めから全くノートを取らなかったのが1名。その一方で、実にポイントを押さえたノートを取っている学生、絵入りで見た目もわかりやすくしている学生、明らかに読みやすさを意識しながらまとめている学生など、進学先でも十分にやっていけそうなノートの学生もいました。日本語力は同じぐらいなんだけど、ずいぶん差がつくものだと思いました。

きれいなノートの代表はOさん。美術系の大学進学が決まっているくらいですから、ノートにもデザイン性が感じられます。ノートの落書きも芸術的で、感心させられました。要点をとらえたノートの代表はLさん。私自身が自分の話の要点を再確認させられるくらいでした。でも、Lさんは自分の考えを作文にすることが苦手です。情報を受信する力だけでなく、発信する力もつけていってもらいたいです。

今学期の身近な科学はこんな調子でやっていきます。学生に、つまらなすぎてノートを取る気も起きなかった、なんて言われないような授業を心がけます。

また始まりました

10月19日(月)

受験講座が始まりました。今学期は受講者のレベルなどの関係から、私の担当する物理と化学2クラス体制です。今日は物理がありました。

まず、この11月に勝負をかける学生たちのクラス。こちらはEJUまでひたすら過去問です。今年から出題傾向が少し変わりましたから、そちらの話も少し。でも、根幹は変わっていませんから、少しだけ。

その後、今学期から勉強を始める学生たちのクラス。こちらは、物理の基礎から説き起こします。大学で教える事項でも、大学入試に役立ちそうなことは教えていきます。EJUは時間との勝負ですから、答えを出すまでの時間短縮につながるのなら、大学の知識だってどんどん応用させます。

前半のクラスは1年近く付き合ってきた学生ですから、気心も知れています。後半の学生は初めて顔を合わせる学生ばかりですから、これから関係を築いていきます。今学期は初級ですが、1年後は上級で、私のクラスにいるかもしれません。その時に、「おっ、やっと上がってきたな」って言いながら、肩でもたたける仲になっていたいです。

何年か前は理科系の学生に個別面接をしていたのですが、最近は日本語の授業が忙しくて、そういう時間がなかなか取れません。先週、今学期から理科を取る学生たちを集めてオリエンテーションをしました。その時に、この受験講座のポリシーから進路選択の基本的な考え方まで話しましたが、こういうことは1回こっきりでは真意が伝わるものではありません。個別面接があると個々の学生に強く訴えかけられるんですがね。

今日の授業で、先週末に届いたEJUの受験票を各学生に渡しました。理科について言えば、EJUまで各科目とも3回です。新しい学生にばかり力を入れるのではなく、11月勝負クラスも土俵際で1問拾う力をつけさせていきたいです。

もう一度KCPに入りたい

10月17日(土)

夕方、去年の夏にKCPをやめて帰国したJさんが来ました。国で勉強して、再来日し、専門学校に進学しようか大学に入ろうか迷っているとのことで、その相談が目的でした。

在籍中のJさんは早起きが苦手で、遅刻・欠席が多かったです。学校へ来れば授業に積極的に参加するし、日本語に対するカンも鋭いし、クラスメートに刺激を与える学生でした。でも、いかんせん朝が弱すぎて、退学を決意したのです。

実は、先週、Jさんからメールをもらっていたのですが、文面に誤字脱字がなく、とても驚きました。この調子なら、もしかすると大学にも手が届くかなって思えるほどでした。実際に顔を合わせて話をしてみても、1年余りのブランクは感じられませんでした。

Jさんの今の心配事は、KCP在学中の出席率が低いことです。これがビザを取るときに悪影響を及ぼさないかと悩んでいます。悩んでみても出席率の数字が変わるわけではありません。だから、もう一度KCPに入り直して、今度はまじめに学校に通って、出席率を少しでも上げたいと言いますが、これは無理な相談。なまじKCPに多少在籍したがために、入学してもすぐに出て行かなければならないのです。

去年KCPにいたときに出席率が悪かったのは、Jさん自身の目標がはっきりしていなかったという面もあると思っています。今はそれが明確になったのに、前回の出席率が足を引っ張りかねない状況です。Jさんは日本へ来るのがちょっと早すぎたんじゃないかな。後悔先に立たずといいますが、自分の将来像を固めてからでも遅くなかったと思います。今、KCPに在籍している学生の中にも、なんとなく来ちゃった組がいます。そういう学生を早く何とかしなくちゃって思いながら、Jさんの話を聞いていました。

今日で最後と、もう1年半

9月16日(水)

Lさんは参加しているプログラムの都合で、今日が授業を受ける最終日でした。昨日の宿題をチェックすると、きちんとやってきていました。友達のを写したと思われる学生もいたのに、Lさんは自分のオリジナルの文を考えてきて、それが正しいかどうか私に確かめようとしていました。最後まで衰えぬ向学心は、他の学生にも是非見習ってもらいたいです。来学期もKCPにいて、同級生にいい影響を与えてもらいたいです。

その一方でUさんは全くやる気が感じられません。ぎりぎりの成績で進級してきたこともあり、Uさんにとっては、今学期は最初から難しい勉強内容でした。それだったらそれを乗り越えるべく、人の2倍も3倍も勉強すべきところ、勉強時間はゼロに近いのが実情です。本人から話を聞いた先生によると、勉強も嫌いだし、日本も嫌いだし、日本にはいたくないそうです。

じゃあ、何で日本にい続けるのかというと、親の意思です。入学時に借りたアパートは、親が1年分の家賃を払ったそうです。親としては、子供に少しでもいい教育を受けさせようと、高い費用をかけて留学させたわけですが、Uさんの現状をご覧になったら、Uさんの真情をお聞きになったら、このままでいいとは思わないでしょう。

Uさんとご両親がどの程度意思疎通を図っているかはわかりませんが、卒業まであと1年半これが続いたら、Uさんの人生に大きな影を落とす結果となるに違いありません。

日本から逃れたくてたまらないUさんと、向学心に燃え未練を残しつつ帰国するLさん。どうして逆にならないんでしょうね。理不尽なものだと思います。Lさんが明日の期末テストですばらしい成績を取ることを祈っております。まあ、私なんかが祈らなくても、Lさんなら好成績を取るでしょうけどね。