Monthly Archives: 3月 2020

手作り感満載

3月13日(金)

今年は大勢が一堂に会するのは具合が悪いということで、卒業式を中止しました。でも、証書はぜひ学生に渡したいので、学生の都合のいい時間帯に学校まで足を運んでもらうことにしました。本当は来週の月曜日からと考えていたのですが、Eさん、Kさん、Fさん、Cさんが、午後、受け取りに来ました。

みんな、東京を離れる学生たちです。Kさんは明日出発だと言っていました。毎年、卒業式の直後に引越しをする学生がいましたから、そんなに珍しい話ではありません。でも、今年は卒業生を一斉に見送ることができず、個別に送り出すことになり、卒業生の個別な事情がより明確になり、それが別れの寂しさを強調しているような気がします。

そして、入学式やオリエンテーションが中止になったと言っていました。授業が予定通りに始まるかも、予断を許さない状況のようです。こればかりはいかんともしがたいものがあります。一抹の不安を抱えての門出となりそうですが、そんなことには負けないぞという強い意志を目の奥に宿らせていました。

ばらばらに卒業生が来るおかげで、教職員が卒業生に直接話し掛けるチャンスはいつもの年よりずっと多くなりました。四谷区民センターの雑踏に紛れてフェードアウトというのではなく、きちんと挨拶できます。Cさんのように、レベル1で入って超級まで上り詰めた学生は、関わった先生も多く、思い出話に花を咲かせていました。

私は例年のような“証書渡しマシーン”に化することなく、一人一人に文面を読み上げて手渡し、記念写真に納まりました。式こそできませんでしたが、それに勝るとも劣らぬ別れの場を設けることができました。災い転じて福となすとまではいかないでしょうが、少しは失点を挽回できたかなと思っています。

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卒業式あいさつ

みなさん、ご卒業、ご修了、おめでとうございます。

1年の終わりは12月31日、大みそかです。暦の上ではそうであり、社会全般にそう認められています。でも、私にとっての1年の終わりは、卒業式の日です。もっと正確に言うと、卒業式で学生たちに証書を渡し終えた瞬間です。最後の学生が証書を受け取り、四谷区民センターの大ホールのステージから降りて行った時、何はともあれ1年が終わったという感慨に浸ります。

そういう意味で、今年は1年の終わりが不完全です。2019年度の残骸を抱えたまま、4月からの2020年度を迎えそうです。何より、みなさんに直接お会いしてご挨拶の言葉を申し上げられないのが、残念でなりません。

さて、本日、こうしてKCPを巣立っていかれるみなさんは、大半が日本で進学なさると思います。KCPに入学した時に思い描いた通りの進路に進めましたか。そういう人はごく限られているでしょう。中には、4月からの進学先は仮のもので、こっそりもう1年勉強して、来日当初の目標を達成しようと考えている方もおいでだと聞いています。

私は、与えられた環境がどうであれ、その中で最善を尽くすように考え、動くべきだと思っています。環境の悪さを嘆くだけでは、進歩も改善もありません。下手をすると、破滅に向かって一直線に落ちていくことにもなりかねません。そうではなく、何がどれだけ足りないのかを把握し、その環境を自分の理想に近づけるためには何をどうすればいいか、建設的に考えていくことこそ大切なのです。

KCPの卒業生の中で、たくましいなと感じさせられる人は、みんなそういう発想をしています。足りない部分を補う努力をすることはもちろん、次善、三善の策を考え出し、1ミリでも望ましい方向に進もうと動いています。その積み重ねが、国にいた時に考えていた姿とは違うかもしれませんが、1人の社会人として尊敬される人物へと、その人を導いてきたのです。

これは、みなさんがどこにゴールを設定しているかにかかってくる問題です。相撲の世界には、「3年先の稽古をしろ」という言葉があります。「今日した稽古(練習)の効果は、明日すぐに現れるわけではない。しばらく時間が経ってから形になるものだ」という意味です。将来の収穫を期待して、種をまき、水をやり続けると言った方がわかりやすいでしょうか。みなさんは、すでにKCPで1年後、2年後に役に立つ勉強として、日本語を学んできました。進学したら、5年後、10年後、20年後にも朽ちることのない頭脳を築いていってください。就職する方も、さらに長期的な視座を持って、自分の今の仕事を位置付けて、歩み始めてください。

みなさんの人生の新しい門出としては実にふさわしくない世界情勢ですが、これもいつの日か笑って思い出話にできることでしょう。そういう話をしに、たまにはKCPへ姿を見せに来てください。

本日は、ご卒業、ご修了、本当におめでとうございます。

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中止

3月11日(火)

明日は年間計画上の卒業式の日でしたが、中止になってしまったため、でも何もしないわけにはいきませんから、校長挨拶を動画で卒業生に見てもらうことにしました。例年なら、証書を渡しながら感じたことや渡し終えた会場の雰囲気を味わいながら、挨拶の言葉を述べるのですが、今年はそういうわけにはいきません。それゆえ原稿を書いたのですが、それを読んでしまうと、なんだか不自然な挨拶になってしまいました。

でも、撮り直してもいつものノリで卒業生に話し掛けられるとは思えないので、若干不満は残りますが、そのまま流してもらうことにしました。撮影してもらっている最中、何となく入学式の挨拶みたいだなあという感覚が消え去りませんでした。卒業生の目には、どう映るのでしょうか。

センバツが中止になってしまいました。戦争の時以来だとのことですから。今回のコロナ騒ぎがいかに大きなものかわかります。全世界で10万人以上の方が罹患して4000人以上が亡くなっているのですから、歴史的な災禍と言っていいでしょう。そこまで考えると、日本はよく踏ん張っている方だとも思います。もちろん、この先はまだまだ予断は許しません。今は、安倍首相が言うような瀬戸際というより土俵際、それも徳俵でどうにか持ちこたえている感じです。

それを思えば、KCPの卒業式が吹っ飛んでも、私が多少不細工な挨拶をサイトにのっけても、良しとしなければなりません。世界の全人民が力を合わせないと、コロナウィルスに席捲されてしまいます。私も、卒業生を送り出した後の今度の土曜日はせいぜいゆっくり休ませてもらい、体をいたわっておこうと思っています。

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どうなっちゃうの

3月10日(火)

報道によると、3月1日から9日までの東海道新幹線の利用者が、前年比56%減だそうです。KCPもとんでもないことになっていますが、日本社会はそれ以上にとんでもないことになっています。

だって、東海道新幹線のお客が半減以下ですよ。東名阪という日本経済の背骨が細り、大動脈に血が流れなくなっているということです。株は少し値を戻したようですが、一時は1万9千円を割り込むなど、市場は弱含みのようです。オリパラが終わったら不景気になると言われていましたが、半年ぐらい前倒しで経済の落ち込みが始まってしまったのでしょうか。目が離せない状況が続きます。

そもそも、オリパラだってどうなるかわかったもんじゃありません。日本が一人コロナ肺炎を抑え込んだとしても、世界的な流行が収束していなかったら、選手団や観客を入国させるわけにはいきません。中国やアメリカが来なかったら、オリパラが国体になってしまいます。それじゃあ開催する意味がありません。

暖かくなったらコロナの勢いが衰えるというのは淡い期待だと言っている専門家もいます。コロナウィルスは風邪のウィルスの一種ですから、そういう考えも成り立ちます。私たちはこれから、肺炎を引き起こすおそれのある種類のコロナウィルスと共存していかなければならないのかもしれません。

マスクやトイレットペーパー・ティッシュペーパーを巡る嫌な話が、毎日のように報じられています。そういう報道に接すると、日本全体が自分たちの美質を発揮する余裕もないくらいに追い詰められてしまったのかと思わされます。不景気とかオリパラの行方とかコロナウィルスとか以前に、日本人がどうなっちゃうのかしっかり見ていかなければなりません。

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騒ぎの陰で

3月9日(月)

来学期の授業料の納付期限が明日なので、授業料を納める学生が多いです。オンライン授業が終わってから家を出たのでしょうか、午後、Jさんも納めに来ました。Jさんは国立大学を2校受けていましたが、どちらもダメだったようです。これからもう1年勉強して再挑戦することになりますが、果たして合格するまで緊張が持続できるでしょうか。学力的な面よりも、そちらの方がずっと心配です。

Jさんはスタートダッシュが遅かったように思います。年が明けてから急に準備を始めた感じがします。他の学生が夏ぐらいから始めていた準備を、1か月半ぐらいでどうにかしようというのです。急ごしらえ感は否めませんでした。日本語力がそこそこ以上あったということが、逆に災いしたのではないでしょうか。面接でしゃべるのくらいどうにかなるという気持ちがあったに違いありません。

しかし、面接練習をすると思っていたことの10分の1も話せず、口頭試問も頭の中にあることを論理的に語ることはできませんでした。ショックを受けてどうにかしようともがいたのですが、遅れを取り戻す前に入試本番になってしまったというのが真相です。

今上級のJさんは、4月になると親しい友達は卒業してみんないなくなってしまいます。これは両極端の効果をもたらすことがあります。その寂しさに耐えられなくなって沈んでいった学生と、一人になってから集中力を発揮し始めた学生の両方がいました。Jさんが後者になってくれることを祈るほかありません。

6月にはこの騒ぎも収まり、EJUも粛々と実施されるのでしょう。コロナにかまけて受験準備をおろそかにしていてはいけません。

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濁流に溺れる

3月7日(土)

結局、卒業式は中止のやむなきに至りました。なんだか、濁流に押し流されていくようで、無力感が漂います。個人的に言わせてもらえば、予定通りに卒業式を執り行っても、誰も発症しないでしょう。あとで振り返って、「いい卒業式だったね」っていうことになるに違いありません。しかし、万に一つ、発症者を出してしまった場合のリスクは計り知れないものがあります。私はもちろんのこと、学校全体としても、そのリスクを背負いきれません。もしかすると、その発症者の人生を左右することになるかもしれませんから。

職員室で来週の授業の準備をしていたら、KさんがE大学に合格したと報告に来てくれました。E大学は受験生をよく観察してくれる大学ですから、Kさんのような明るく前向きな性格で、日本語力もある学生には有利です。過去にもそういう学生が進学しています。勉強に偏った学生は、成績がよくても落とされています。

Kさんは、もちろん、オンライン授業には毎日参加しています。突然指名してもきちんと答えますから、出席確認の時に接続してあとは知らんぷりなどという不届きな輩とは違います。でも、友達の声は聞けても会えないから寂しいのだそうです。SさんやYさんも同じようなことを言っていました。そういう学生たちのために、何とかみんなが集う機会を設けたかったのですが、上述のような仕儀に相成りました。全国の小中学校・高校でも、同じような状況が繰り広げられていると思います。

このブログを読み返してみると、オンライン授業が決まってから、ほぼ毎日、同じような話題です。違う話もしたいのですが、こちらがあまりに大きくて重くて、どうにもなりません。

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本当は…

3月6日(金)

朝、御苑の駅の階段を上って外に出ると、東の空がほんのりとオレンジ色に光っていました。日中は抜けるような青空で、建物の中にいるのがもったいないようなお天気でした。千葉県鴨川市も同じような天気だったようです。最高気温が15度を少し上回り、海の動物を間近で観察するには絶好の日だったでしょう。そうです。本来なら、鴨川シーワールドへバス旅行に行く日だったのです。

今学期が始まって早々に旅行代金を集め、どうにかこうにかほぼ全員から集めたと思ったら、中止の決定を余儀なくされました。その後情勢が厳しくなる一方で、鴨川シーワールド自体、おとといから休館です。今年のバス旅行は、どうあがいても無理筋だったというわけです。

鴨川シーワールドに限らず、休館・休園の施設は全国に広がっています。5月の連休は例によって関西地方への旅行と決めて、足と宿はすでに押さえています。計画も少しずつ立てつつあるのに、なんだか不安になってきました。姫路城の平成の修理が終わってからだいぶ経ちますが、まだ行っていませんから見学しようと思っています。でも、姫路城も閉まっています。こちらは、いよいよとなったら、山の辺の道を再訪してもいいし、近江富士に挑戦してもいいし、いくらでも手があります。

それに対して、中国と韓国からの入国制限が日本語学校に与える影響尾は非常に大きいものがあります。どの学校も、4月からの運営に苦慮していることと思います。まずは在校生の利益を最大限に守ることを考えなければなりません。来年の4月に進学を考えている学生には、6月のEJUの手当てをしていかなければなりません。大学院進学希望の学生は、動き始めなければなりません。そのころまでにこの騒ぎが収まっていることを祈るほかありません。

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チョイ役

3月5日(木)

私が担当しているオンライン授業は、もちろん超級向けですが、2回ほどゲストとして初級の授業に、文字通り、顔を出しました。敬語の授業で、尊敬語や謙譲語の対象となる人物として、画面の隅っこにちょっとだけ映りました。具体例となることで学生が身近に感じてくれれば、時間を割いた甲斐があったというものです。

オンライン授業は学生の様子を直接探ることができないというマイナス面がありますが、このように生きた映像を見せられるのだとしたら、多少なりともそれを補うこともできるでしょう。自室でベッドに寝転がってスマホを見ている学生の気持ちをこちらに向けられるのなら、今後もちょくちょく顔を出しますよ。

ニュースによると、学校が休みになった生徒たちで、カラオケルームが繁盛しているそうです。危機感が薄いというか、趣旨が伝わっていないというか、要するに暇を持て余しているんでしょうね。KCPの学生たちはむしろ敏感すぎるくらいで、カラオケルームにたむろしている図は想像できません。オンラインで宿題をバリバリ送り付けますから、遊んでいる暇はそんなにないはずです。

各気象予報会社が発表した桜の開花予想によると、東京は来週末に咲き始めるようです。“さくらまつり”の類は中止がほとんどで、花見も自粛が求められています。なんだか、3.11の直後より息苦しくなってきました。私はお花見でどんちゃん騒ぎという趣味はありません。騒いでいる人たちを見てアホなやつらだと思いながら、静かに花を愛でるのが毎年のパターンです。今年はそれも崩れそうです。

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呼びかけられる

3月4日(水)

学校の外を歩いていたら、「校長先生」と呼びかけられました。学生は学校へ来ていないはずだけど、手続きか何かあったのかなと思って振り返ると、ゴーグルにマスクで顔を覆った白髪の方が立っていました。ゴーグルの中の目は明らかに私を見ていますが、はて、この方はいったい誰でしょう?

と考え込んでいたら、「先生、今、お昼ですか」とさらに聞かれました。その声を聞いて、「あ、Hさんだ」とわかりました。Hさんは先週まで毎朝職員室のお掃除をしてくださっていました。お掃除のときはゴーグルもマスクも付けていませんでしたから、一瞬誰だかわかりませんでした。朝は人が少ないから目も鼻も口も出していても平気だけど、人が多い時間帯に街なかを歩くときは用心しているとのことでした。

オンライン授業になってからは、職員室に出入りする人数がぐっと減りましたから、朝のお掃除はお休みになっています。おしゃべり好きのHさんとの世間話の時間がなくなってしまいました。Hさんは世間話の話題を見つけるのがとても上手で、定番のお天気から町内会の様子、花園小学校や新宿御苑など付近の公的機関の動き、安倍さんの話やご自身の身の回りのことなど、ありとあらゆることを取り上げます。地元出身の区議会議員さんも〇〇君ですからね。子供の頃を知っていたらそう呼びたくなりますよね。

このネットワークの広さ緻密さや話の面白さは、私なんか見習いたくても到底無理でしょう。誰に対しても気さくに話しかけられるからこそHさんに情報が集まり、その情報を有効活用することで中心人物になり得るのです。私は、せめてそういう方と知り合いになることで、自分にとって有意義な情報を得ていくことにしましょう。

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寂しいひな祭り

3月3日(火)

学生がいないので、ひな人形のいないひな祭りの日でした。今まで、卒業式が比較的早い年は、講堂に立派なひな飾りを出すのはやめて、ロビーに小さなお内裏様とお雛様を置いただけだったことはありました。しかし、まるっきり何もしなかったというのは、私がこの学校にお世話になってからは初めてじゃないでしょうか。この校舎が建設中で、仮校舎の時も事務の窓口に木目込みかなんかのお人形を飾った記憶があります。

学生はいなくてもオンライン授業を送り続けることは、教師側にとってはかなりの負担であり、珍しがったり面白がったり「かわいい」と言ったり話を聞いたり写真を撮りまくったりしてくれる人が誰もいないのなら、飾るのを省略したくもなります。張り合いがないですからね。

授業はオンラインですから自宅で受けられますが、諸手続きや進学相談などで学校を訪れる学生は何人かいます。そういう学生は、特に後者は精神的にあまり余裕がなく、お雛様がさりげなく立っていても気づかないでしょうね。いや、だからこそ、飾っておいて気づかせて心に余裕を持たせてあげた方がよかったでしょうか。

お昼は青空と暖かさに誘われて、近くの公園へ行きました。河津桜が咲き誇るそばで、マスクをした小さい子どもたちが遊んでいました。鬱陶しがる子どもをお母さんが叱っていました。

こういう世の中が、もう少し続きそうな気がします。韓国は3月から新学年ですが、それを大幅にずらすとのことです。日本もそうなってしまうのでしょうか。そこまで長引くとなると、端午の節句も危なくなりかねません。もちろん、そうならないように強く願っています。

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