Monthly Archives: 6月 2022

新しい食生活

6月15日(水)

学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムで来ている学生への発話力テストがあります。それぞれの学生のレベルに合わせて質問に答えさせたりまとまった話をさせたりしながら、文法や語彙の定着具合や発音などをチェックします。テストと言いつつも、雑談の中からそういった力を測っていきます。

Jさんは自炊をしています。日本料理が作れるというので何が作れるか聞いたら、カツ丼という答えが返ってきました。カツ丼が日本料理かなあと思いながらも、ハンバーグやスパゲティを食べてきた人から見たら、ご飯粒の上にしょうゆ味のたれがかかった料理は、十二分に日本料理何だろうと納得することにしました。

Rさんは全く料理をしません。毎日、コンビニ弁当でお腹を満たしています。国にいた時は、仕事をしながらお菓子を食べるのが食事代わりでした。不健康なにおいがプンプンしますが、目の前のRさんは顔色もよく、私の質問に積極的に答え、弱々しい感じはしませんでした。

さて、この2人、食生活が正反対でした。Jさんは朝ごはんと昼ごはんをしっかりとり、晩ごはんは食べないことが多いと言っていました。宿題をしたら、そのまま寝てしまうそうです。一方、Rさんは、朝はコーヒーだけで、昼は抜き、晩ごはんをたっぷり食べます。その晩ごはんが、コンビニ弁当なのです。夜食も少々とのことでした。

2人とも、お金がないわけではありません。Rさんなんか、ゴールデンウィークにしまなみ海道でサイクリングをしたくらいですから。最近の若者は、1日3食じゃなくても平気なのでしょうか。食事は集約して、自分のしたいことに時間を振り向けようとしているのかもしれません。すると、料理をしないRさんなんか、口が寂しくなったらサプリなんて方に進むんでしょうかねえ。

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未納

6月14日(火)

急激に進んだ円安やらロシアのウクライナ侵攻やらの影響で、中小規模の100円ショップが閉店に追い込まれているそうです。取扱商品全般の仕入れ値が上がって、100円で売っていては商売が成り立たなくなってしまったそうです。飲食店も原材料費高騰で、値上げに踏み切るところが増えています。

そんな中、Kさんが来学期の学費をまだ納めていません。KCPは学費の値上げはしていませんが、アルバイトをしているKさんには、諸物価の上昇は相当痛いようです。もしかすると、Kさんのアルバイト自体も危うい状況かもしれません。時給が下がるということはあまり考えられませんが(というか、最低賃金付近でしょうから、下がりようがないとも考えられます)、時間数を削られることはあり得ます。そうすると、ぎりぎりのところで生活しているKさんにとっては辛いでしょう。さらに、病弱なKさんはアルバイトを休んでいるかもしれません。担任の先生によると、成績も思わしくないようです。Kさん、八方ふさがりの感すらあります。

Kさんは挫折してしまうかどうかの瀬戸際に立たされています。せっかく嵐のような2021年を乗り切ったのに、思いもよらぬ経済情勢、世界情勢の余波をかぶって沈没してしまっては、泣くに泣けません。根がまじめなKさんですから、私たちも何とか助けてあげたいです。しかし、私たちにできることは限られています。

毎月100万円ものお小遣いを国からもらっている議員さんたちには、こういった留学の苦労などわからないでしょうね。票につながらない留学生のために汗をかこうなど、微塵も思っていませんよね。

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来学期に向けて

6月13日(月)

来学期から受験講座を受けたいという学生が、授業後に相談に来ました。こういう学生に対しては、厳しいことも言うようにしています。単に志望校へのあこがれだけで勉強を始めても、合格できるものではありません。何でも勉強しようという意欲は認めますが、意欲だけで入れてくれる大学はありません。また、歯を食いしばって勉強しても、成績が伸びないことだってあります。私には「絶対合格させます」などと言い切る自信も度胸もありません。結果が伴わないことだってあり得るのです。

しかし、受験講座に申し込んだ学生には、懇切丁寧に指導し、親身になって相談にも乗ります。今までのデータを駆使し、勝てる勝負の場を示して、その学生の希望に最も近い道を選ぶお手伝いをします。出願校が決まったら、出願書類の書き方から面接試験の受け方まで、きっちり面倒を見ます。授業よりもむしろこちらのほうを十二分に利用活用してもらいたいとさえ思います。

いちばん困るのが、何もかも自分の独断でやってきて、失敗を重ねたあげく身動きが取れなくなり、最後に泣きついてくるパターンです。時期も遅いし、これまでの経過も詳しくはわからないし、条件的に非常に厳しいです。尾羽打ち枯らした様子を見ると、助けてあげたいのはやまやまですが、すでにこちらの手駒もない頃だと、学生自身にとって不本意な進学を勧めざるを得ないこともあります。今からこちらに相談を持ち掛けて来てくれれば、このような事態に陥ることはないでしょう。

相談に来た学生は、申込書を持って帰りました。こちらも、そろそろ、来学期以降の構想を、学生の動向に基づいて、具体化していかねばなりません。

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a+b

6月10日(金)

Dさんは理科系の受験講座を受けています。今学期はEJU直前ですから、授業の中心は過去問を解くこととその解説です。そのDさんから、今週の数学の時間に扱った過去問について聞かれました。

「先生、この問題、式の変形のしかたはわかりました。でも、どうしてここでa+bを求めるんですか」

寅さんじゃありませんが、「そいつを聞いちゃあおしめえよ」という感じの質問です。はっきり言って、その問題でa+bを求める必然性は全くありません。単に、受験生が正確に計算できるかどうか、基本的な式の誘導法を知っているかどうかを見るための問題です。それ以上の意味があるとは思えません。確かに、あるロジックに従って式を変形していく力は数学の勉強を進めていくのに必要不可欠です。しかし、それをあからさまに試験問題にするのは、いかがなものかと思います。

a+bを求めると、その計算をした受験生に何か得るものがあるかというと、せいぜい正解だった時の得点だけでしょう。Dさんは、問題を解くことで新しい事実が浮かび上がってきたり、結果を見て感心したり感動したりしたかったのでしょう。「へーぇ」がほしかったのだと思います。

しかし、この問題のa+bにはそんなストーリー性はなく、そういう点では教科書の練習問題と何ら変わるところがありません。Dさんはその無味乾燥さに疑問を抱いたのかもしれません。

私はDさんの感覚を評価します。解いていて楽しい問題、答えではなく結論を知りたくなる問題、苦労して解いた後に達成感や充実感が味わえる問題、そういった問題が若者の勉強意欲に火をつけ、その若者を成長させるのです。これこそが学問の原動力です。Dさんは、そんな高みに立ちたかったのでしょう。残念ながら、このa+bを解いたところで、Dさんの求める満足感は得られません。

「何でa+bを計算しなきゃなんないんだろう」などと考えていたら、EJUで点は取れません。でも、Dさんの頭には、EJUの点数では代替しえないすばらしい発想が宿っています。それを大切に育てて磨いて、いつかは発現させてもらいたいです。

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伝わってほしいけど

6月9日(木)

木曜日の夕方は、初級の学生への進学授業です。日本の大学に進学するにはどんな準備が必要か、いくらぐらいお金が必要か、どんな勉強をしておかなければならないか、そんなことを中心に話しています。私の話す日本語と日本語で書かれたパワーポイントでは、初級の学生には通じませんから、通訳にも入ってもらっています。

話しながら教室を見渡してみると、私の話を聞こうとしている学生とそうでない学生と、如実に分かれます。聞く気のある学生は、私の日本語を聞き取ろうとし、少しでもわかればうなずき、最後に通訳で内容を確認しているようです。日本語を聞こうとしない学生は、通訳の先生の言葉にだけ耳を傾け、内容を理解しようとしています。

私の話から直接でなくても、私の伝えようとしたことが伝われば、この授業の目的は一応達せられたことになります。しかし、それは形の上だけ、機能面の話に過ぎません。日本語のまとまった話を聞いて理解する訓練を、初級のうちから始めておいてもらいたいのです。初級の先生が話す、語彙コントロールの十分利いた日本語ではなく、難しい単語がふんだんに織り込まれた話から、自分に関わりのある事柄を、初めのうちは断片的でもいいですから、つかみ取る訓練をしてもらうのも、隠れた目的です。

こちらも、学生たちにどうしても知っておいてほしいですから通訳を付けていますが、通訳の話す学生自身の母語に頼り切られてしまうのは、面白くないです。せっかく日本で対面授業を受けているのですから、そのメリットを最大限享受してもらいたいです。

気が付いたら、今学期の木曜日は、あと来週だけです。学生たちは、多少は私の日本語が聞き取れるようになったのでしょうか。

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不正発覚?

6月8日(水)

一橋大学の留学生入試で不正があったと報じられています。SNSを利用して外部に送って解答を依頼したのですが、依頼された方が怪しいと思って大学に連絡したとのことです。

つまり、大学側は不正を発見できなかったのです。ということは、同様の不正が一橋大学以外で発生していても全く不思議ではないということです。いや、発生していたと見る方が自然でしょう。その不正がうまくいったかどうかというよりも、不正を試みる、不正に頼る留学生受験生が地下に潜んでいそうだということの方が、重大であり、嘆かわしいことです。

せっかく岸田首相が「留学生は日本の宝だ」と言ってくれたのに、こんなことをしていたら「日本のごみ」と言われかねません。すでにネットではその類の発言が載っています。留学生への風当たりが強くなったり、そういう世論に合わせて留学生支援策が後退したり…ということになったら、留学生が生きにくくなってしまいます。

こういう不正を予期したかのように、6月のEJUの注意事項が、かなり気合の入ったものになっています。初めて読んだ時は、ここまで事細かに指示するかと思いましたが、こういう不正の横行を防止するには、そのぐらい厳しい規制を設ける必要があります。EJUも不正のうわさが絶えませんからね。

でも、不正をしてまで一橋大学に入ったとして、その留学生は幸せなのでしょうか。学力的に高下駄を履いたままで、周囲の優秀な学生に伍して一橋クラスのハイレベルな授業についていけるとは思えません。入学後も不正を働きまくって卒業する気だったのでしょうか。

取りあえず、試験会場に入れてもらえないとか、途中でつまみ出されたとかという学生を出さないよう、しっかり指導していきます。

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健康の源

6月7日(火)

午後3時ごろでしょうか、Xさんの姿を見かけました。「体調、良くなった?」「はい、どうにか」。実は、昨日の朝、Xさんから学校に電話が掛かってきました。

「はい、KCP地球市民日本語学校でございます」「おはようございます。もしかすると、金原先生ですか」「はい、そうですが、あなたはだれですか」「Xです。すみませんが、M先生はいらっしゃいますか」「はい、少々お待ちください」「はい。M先生を呼んでくださってありがとうございます」

その後のM先生とXさんのやり取りを聞いていると、どうやらXさんは体調がイマイチですが学校に出てこようとしているようでした。M先生に説得され、結局休むことに。きっと、進学フェアで志望校の話を聞きたかったのでしょうね。でも、こういう時期ですから、少しでも体調が悪かったら休んでもらっています。

「はい、どうにか」と答えたXさんの顔色はよく、声もしっかりしていました。100%ではないにせよ、体調も回復したのでしょう。それに比べて、昨日の進学フェアの会場にいたHさんはなんだかむくんでいました。前から大きかった体がさらに一回り膨らんだ感じがしました。ジャージがはちきれそうでした。聞くところによると、Hさんは何かというとすぐ休んでいるとか。骨と皮になっているよりはましかもしれませんが、見たところ締まりがなく、不健康な感じがしましたねえ。あの体をスーツに包んだとしても、面接官に与える印象は芳しくないでしょう。

Xさんは校舎の掃除のアルバイトをしています。夕方、ぱきぱき働いてゴミ捨てなどをしてくれました。体を動かすことをいとわないところが、Xさんの長所であり、少しの病気ぐらい跳ね返してしまう原動力になっているのです。Hさんにも見習ってほしいですね。

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梅雨の初日に

6月6日(月)

朝から雨で、週間天気予報も傘マークが続くなあと思っていたら、関東甲信地方の梅雨入りが発表されました。沖縄と奄美地方に続き、九州南部から東海地方を差し置いての梅雨入りです。それでも平年より1日早いだけですから、今年は全国的には梅雨入りが遅れているのです。気温も朝から低めで、日中も上がる見込みがなさそうでしたから、長袖のカーディガンを羽織って出勤しました。

そんな中、進学フェアが開かれました。肌寒い雨の中、お越しくださった各大学のみなさん、本当にありがとうございました。一方の学生は、受付が始まっても出足が悪く、少々焦りましたが、だんだん集まってきて、胸をなでおろしました。でも、会場に入っただけで、各校のブースに進もうとしません。「ちょっと考えています」「気持ちが落ち着くまで待っています」「A大学は難しすぎますから」「B大学とC大学と、迷っています」などとのたまう学生が多く、今までに比べて積極性に欠ける印象を受けました。私の役目は、そういう学生たちの尻たたきでした。

尻をたたかれて1校目の担当者と話をした学生は、2校目、3校目に進んでいきました。つまるところ、自分の日本語の発話力に自信がなかったのでしょう。ある程度通じるとわかったら、大学を知りたい、進学情報を得たいという気持ちに方が強くなり、次々と聞きに行ったのです。

学生が引いてから各校の方にお話を伺いました。「学生のみなさん、日本語がお上手ですね」と言ってくださいました。半分はヨイショでしょうが、学生たちの熱意は伝わったのではないでしょうか。「気持ちが落ち着くまで待っています」と言っていたDさんも、4校ほど回ったようで、資料でかばんが膨らんでいました。

逆に、自分の日本語が通じなかった学生は、話す力を磨くべく、授業での練習に身を入れてほしいです。大学院なんか、すぐに入試シーズンですからね。

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修士でも

6月4日(土)

最近は、就活に忙しくて、大学院生が研究できないそうです。修士課程2年間のうち、かなりの時間を就活に奪われ、研究に打ち込む期間は短くなる一方だということです。さらに、博士課程まで進んでしまうとかえって就職が難しくなるので、学生としてはどうしても修士で就職したいのです。

大学院は、教育機関というよりは研究機関です。研究ができなかったら存在意義がありません。また、進学した学生にとっても、時間とお金の無駄遣いになりかねません。日本の研究力は、こういうところからも低下しているのです。博士が活躍できない日本は低学歴国だと言われていますが、修士の学位すら実質を伴っていないのだとしたら、諸外国に勝てるわけがありません。

私の頃は、みんな、研究の合間にちょこちょこっと面接に行って、いつの間にか就職先を確保していました。インターネットがない時代でしたから、就活の資料と言えば広辞苑くらい分厚い企業資料集しかありませんでした。エントリーシートを書いた記憶はなく、インターンシップもしていません。「そんないい加減な決め方をしたから、そこの会社を辞めて日本語教師なんて仕事をしているんだろう」と言われてしまうかもしれませんが、前の会社でも十二分に楽しませてもらいましたから、就活が退職に影響を及ぼしてはいません。

40年近く前とは、日本を取り巻く環境も修士の位置づけも変わっていますが、だから修士の研究はおろそかでもいいというわけにはいきません。学部の就活だってどこか間違っている気がします。ここを正さない限り、留学生も安心して日本で勉強できないでしょう。そうなると、ますます日本の国際的地位が下がっていきます。

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難問?

6月3日(金)

午前の授業後、Cさんが数学の質問に来ました。ある式の誘導がわからないというものでした。別の仕事をしている最中でしたから、問題を書き写し、後で答えることにしました。その仕事が終わり、時間に余裕ができたのでその問題に取り組むと、あっという間に答えが出てしまいました。

問題が簡単に解けたのはいいのですが、今度が逆に、Cさんはどこまで真剣にこの問題に取り組んだのだろうという疑念が浮かんできました。式の変形の際に、ほんのひと工夫しただけで結論の式が得られました。私に聞く前にどのくらい時間をかけてこの問題に取り組んだかわかりませんが、Cさんならできて当然のレベルの問題だと思いました。

根を詰めて一つのことを考えていると、問題のとらえ方が固定されてしまうことがあります。もしかすると、Cさんもそんな無限ループみたいな状況に陥っていたのかもしれません。そういう時はしばらく時間を空けて再挑戦してみると、あっさり解決することがよくあります。Cさんはそれができなかったのかな。

と考えた時、大きな疑惑が湧き上がってきました。Cさんが来たのは、授業の直後でした。ということは、もしかすると、Cさんは授業中ずっとこの数学の問題を考えていたのでしょうか。問題の数式がスマホの中だったことも、教師の目を盗んでやっていたことを表しているのかもしれません。学生が信じられないとは情ない限りですが、Cさんは去年の受験シーズンにそういうことをやらかした“実績”がありますから、疑いを完全にぬぐい去ることはできません。

Cさんには、式の誘導のしかたをメールで送りました。疑心を抱いたことはおくびにも出さずに…。

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