大きすぎる

7月6日(火)

エンゼルスの大谷が、31号ホームランを打ちました。松井の記録と並び、日本人大リーガー最多となりました。米国時間昨日の試合で“久しぶりに”単打を打ちました。この調子なら、単独トップに立つことは間違いありません。また、投打でMBLのオールスターに選ばれるという快挙も成し遂げました。

この大谷選手は、岩手県の水沢出身です。地元の中学を出て、菊池雄星が輝いていた花巻東高校に進学しました。甲子園では勝ち星に恵まれませんでしたが、プロに進んでからの活躍は多くの人が知るところです。

大谷選手が生まれ育った水沢は、高野長英、後藤新平、齋藤實といった、歴史ファンには見落とせない人たちの出身地でもあります。地学ファンなら、Z項発祥地であることも忘れてはなりません。

現在、この水沢は奥州市の一部となっています。2006年に付近の市町村と合併し、新しい市をつくりました。市域には、前沢牛で有名な旧前沢町も含まれています。

奥州市は、当然、岩手県に含まれますが、でも、奥州といえば岩手県が含まれます。地名「奥州」は岩手県の一部であると同時に、岩手県を包摂しているのです。言ってみれば、富山県あたりに北陸市ができたり、合併して栃木県東国市などと名乗ったりするようなものです。

大きすぎる地名を一地域の地名にしてしまったと思います。市域に旧江刺市があります。江刺は、岩手県南部の北上川東岸を指す地名で、水沢など西岸は胆沢(いさわ)と呼ばれていました。この両地方を合わせた胆江(たんこう)という地域名があります。これをいただいて、胆江市とするのが分相応だったと思います。

でも、胆江市では、“キモエシ”とか読まれかねません。だから、奥州市へと飛躍してしまったのでしょう。この際、大谷にホームラン50本、ノーヒットノーランでも成し遂げてもらいましょう。そういうビッグな選手が生まれ育った土地ならということで、大きな市名を認めてもらうのが、日本国民にとっても一番喜ばしい形です。

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身近なところに

7月5日(月)

土曜日の夜、駅の近くの小さなスーパーがやけに混んでいました。お惣菜の棚なんか、ほとんどすっからかんでした。よほどの目玉商品があったのだろうと思いながら家の近くまで来ると、何となく暗いのです。ショッピングモールの中核をなすスーパーが臨時休業でした。金曜日の夜は、ごく普通に営業していたんですけどね。

入口の張り紙を読むと、スーパー内の魚屋で陽性者が出たため、急遽休むことにしたとのことでした。今まで、私の親戚縁者、職場、友人など、親しい人に感染者はいませんでした。よく行く店がこういう形で臨時休業になるのも初めてでした(去年、最初の緊急事態宣言が出た時は、紀伊国屋書店が休業になり、大迷惑でしたが…)。ですから、私にとって、この魚屋さんが、一番身近な感染者となりました。

このスーパーに最後に入ったのは、確か先週の水曜日で、その時間にはもう魚屋は閉まっていました。ですから、私が濃厚接触者となる可能性はゼロです。でも、こういう心配をしなければならなくなったというあたりに、東京での感染の広がりを実感しました。

ここのところ、前の週に比べて1.2倍のペースで新規感染者が増えています。何としても有観客でオリンピックを開こうとしている菅首相を嘲笑うかのごとき増えようです。菅さんの夢を打ち砕くために苦しい思いをする新型肺炎にかかる人はいませんが、あたかもそうであるかのようにさえ見えます。都議選だって、前回が負けすぎですから多少は議席が増えましたが、到底勝ったとは言えません。

今週末から新学期ですが、学生たちも安全安心とは思っていないでしょう。

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不幸な合格者

7月3日(土)

昨日、K先生がM大学へ行って、先生と話をしてきました。その中で、今年M大学に進学したWさんが話題になりました。Wさんは留学生が少ない学部に進学しました。その学部に、Wさんと同じ国から直接募集でこの春に入学した学生がいるそうです。その学生は、入試の成績はWさんよりよかったのですが、M大学の先生とのコミュニケーションがほとんどとれず、Wさんを介してやり取りを行っているとか。

Wさんは入試フルコースを受けて合格しました。ペーパーテストの成績はさほどでもなかったのですが、面接で点を稼ぎました。Wさんと同じ国から来た新入生は、面接試験がなかったようです。だから、生の日本人の発話が聞き取れなかったり、生の日本人に自分の意思を伝える発話ができなかったりしているのでしょう。

Wさんは私たちと普通に話をしていました。わからないことをわかるまで聞き続けるなど、JLPTやEJUの聴解問題をやるだけでは絶対に身に付かないコミュニケーション力を、知らず知らずのうちに鍛えていたのです。それが、進学してから物を言っているのであり、そういう訓練をしてこなかった同級生との差になって表れているのです。

KCPの学生の中にも、せっかく日本で勉強しているのに、自分の国のコミュニティーから抜け出ようとせず、いつまでたっても話せない聞けない学生がいます。そういう学生は、授業で指名された時が、日本人と話す唯一のチャンスなのです。でも、こういう学生に限って、テストの点が高かったりするんですよね。そして、進学してからコミュニケーションが取れないことで大きな苦労を味わい、こんなはずじゃ…と絶望するのです。

7月期後半は、入試が始まります。不幸な合格者を出さないようにしていかなければなりません。

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心配事

7月2日(金)

大学や専門学校の留学生担当の方が時々いらっしゃいます。しかし、今年は学生がいません。オリパラが終わるまでは留学生の入国は難しいでしょうから、今、海外にいてKCPに入学を希望している人たちの入学は、早くて10月になりそうです。毎年、4月に入学して1年で進学していく学生もいますが、来日が遅れるとその分だけその数は少なくなるでしょう。

そして、11月のEJUの出願は7月ですが、11月に日本で受験できる確証がないと、出願する意欲も鈍って当然です。去年も、出願はしたものの、試験日までに待機明けの自由の身になれず、受験できなかった学生がいました。多くの大学がEJUを必須としているので、22年4月に大学に送り込める学生の数となると、本当に限られてしまいます。

大学院にしたって、状況は大きく変わりません。海外から日本の大学院の先生に接触する手はありますが、順調に来日し、試験を受け、進学の運びとなる学生が19年までと同等になるとは考えにくいです。

21年度入試で面接試験を省いたところは、日本語でコミュニケーションが取れない学生が入学してしまって困っているという話を聞きます。そうすると、現時点で日本にいて、面接試験が受けられる学生が有利だとも考えられます。もちろん、面接でコミュニケーション力が発揮でき売ればという仮定の下ですが。

大学や専門学校は学生数を確保したいでしょうが、学生の質も落としたくないに違いありません。学生の質は教育の質に直結していますから。そう考えると、今の学生たち、ちょっと心配だなあ…。

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文法を教える

7月1日(木)

月が替わりました。私は養成講座の授業が始まりました。中上級の文法です。でも、日本語の骨格を成す“文法”は、初級で勉強してしまいます。動詞の活用、助詞のはたらき、日本語の文構造、そういった事柄は、みんなの日本語の赤い本と青い本でほぼ勉強し尽くします。厳密に言うと、中級や上級の文法の時間に勉強することは、句法や語法です。

実は、中級や上級は、文法以外の時間に文法を勉強していることが多いのです。初級で勉強した文字通りの文法をどのように応用していくか、字面の裏側に隠された話者の真意をいかに探り当てるかなどを追求していきます。また、日本の文化や日本人の伝統的な考え方に基づいた言葉の使い方や表現の方法といったことも、機会あるごとに触れていきます。

これらは、日本人にとって当たり前すぎることなので、授業などで見過ごされがちです。また、受験のテクニックとも違いますから、問題集などで扱われることもあまり多くありません。しかし、学習者が日本人と意思疎通を図りながら日本で暮らしていく上は、どうしても必要なことです。JLPTや大学入試の点数につながらなくても、日本を生活の舞台とするなら、身につけておかねばなりません。その役目を担うべきは、日本語教師です。

日本語は、英語とは違って国際共通語ではありません。英語は、ノンネイティブ同士のコミュニケーションにも活発に使われています。しかし、日本語の場合、ノンネイティブはネイティブとのコミュニケーションの場面に使うのがほとんどでしょう。だから、上述のような日本語の使い方ができるようになっておく必要があるのです。

学習者が日本語を生かしていく際に不可欠なことは何か、それを受講生に伝えていきたいです。

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活用法

6月30日(水)

「○○さん、アベノマスク、まだ持っていますか」「あったかなあ…」「こういう状況ですから、検査の最中もマスクをしてもらうことになっているんです。でも、鼻のところにワイヤが入っているマスクだと検査ができないんですよ。ですから、アベノマスクみたいな布のマスクが一番いいんです」

病院で、看護師さんが次回の来院時にMRIか何かの検査を受けることになった患者さんに話し掛けていました。久しぶりに「アベノマスク」という単語を耳にしました。こういうふうに使えば有効なんだと思いましたが、このような場面はめったに迎えることはありませんから、やっぱりアベノマスクは“引き出しの肥やし”に甘んじるほかないようです。私も、どこにしまい込んだやら、さっぱり思い出せません。

でも、この看護師さん、よどむことなく、布マスクの例として「アベノマスク」を出していました。この病院では、1年ぐらいからずっとこういう案内をしてきたのでしょう。そうです。去年の今頃はアベノマスクが来たとか来ないとか騒いでいました。今は、ワクチンを打ったとか打たないとか、接種の予約ができたとかできないとかが話題の中心です。利用価値のないマスクをどうするかという議論をしていたのに比べれば、感染の広がりを抑える方向に歩み出しているのですから、大きな進歩です。しかし、日々の感染者は1年目に比べたら3倍ぐらい多いですから、そういう面では退歩しているとも考えられます。

検査を受けなければならない○○さんも、基礎疾患をお持ちだということですから、感染が心配なことでしょう。うちの中を探して、アベノマスクを見つけ出したでしょうか。

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変容

6月25日(金)

学期休み中は、教師の勉強会がよく開かれます。特に昨今は学校のあり方が大きく変わりましたから、それに関して外部の講演会や研修会に参加した先生の報告会が行われます。

F先生も、そういう形で学校外から得てきた考え方を発表してくださいました。その中で、学校における教育が、知識や技能を伝達する様式から学習者の変容を促す様式へを変化しつつあると述べていました。確かにその通りだと思います。社会が求める教育は、答えを与える教育から、答えにたどり着く力を与える教育へと変わってきました。私もそういう方向性に沿って、自分が担当している授業の内容を作り上げています。

しかし、学生がそれについてきていないと感じることもよくあります。典型的なのが受験講座です。EJUの過去問を解かせると、多くの学生の関心事は答えが合っているかどうかです。それだけと言っていいかもしれません。なぜその答えになるのかというところには、さして興味を示しません。2問間違えたとか、この問題は3番か5番か迷って5番にしたら当たったとか、そんな感想ばかりです。

どうしてその問題を間違えたのか、また、自信なく選んだ選択肢が正解だったらなぜそれが正解だったのか、その点を追求しない限り実力は伸びません。そういう点に目が向くように日ごろから指導しているつもりなのですが、実を結んだとは言い難いのが現状です。進学してからのことも考えて勉強するようにと、特に上級の学生には訴えていますが、まだまだ進学するための勉強にとどまっています。大学院進学希望の学生なんか、まさしくそうだと思うんですがね。

次の学期には出願シーズンが始まります。視野狭窄のまま出願することのないように、学生たちを指導していきたいものです。

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文化の違い?

6月24日(木)

レベル1のオンラインクラスの期末テストに、「テストです。消しゴムを借りてもいいですか」という問題を出しました。模範解答は、「いいえ、(借りては)いけません」を想定していました。

今までに何回も、この問題を出してきました。ただし、対面クラスで。ほぼ全員が、模範解答に近い答えを書いてきました。しかし、今回は様相が全く違いました。「はい、いいです」「はい、どうぞ」「すみません、ちょっと…」「すみません。今、使っていますから…」といった答えが続出しました。

対面授業では、テストの際に消しゴムの貸し借りは絶対してはいけないと、学期の最初に厳しく注意します。それでも貸し借りをした学生に対しては、教師は烈火のごとく怒ります。入試やJLPTなどで試験中に周囲の受験生に話し掛けようものなら、一発アウトです。そうならないようにしつけるのも、日本語学校の教師の役割です。

しかし、これは日本での常識に過ぎず、学生たちの国では必ずしもそうでもないのかもしれません。試験の最中であっても困っている人を助けるのが美徳だという考え方もあるでしょう。また、オンラインクラスの場合、試験中に消しゴムの貸し借りということ自体、ありえません。各学生が自室で受けるのですから。

ということで、この問題は、オンラインクラスにはふさわしくなかったのです。「はい、どうぞ」などの答えは、自分が話し掛けられたと考えての応答でしょう。作問者も、私を含め問題をチェックした教師も、こういった点に全く気付かずスルーしていました。意外な落とし穴にはまってしまいました。

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6月23日

6月22日(火)

先週末、区役所から封書が届きました。一瞬、これが噂のワクチン接種券かと思いましたが、表書きには赤字で「選挙」。都議選の告示まで間があるのに、早々と投票所の入場券が来たのです。私の区では、一般庶民のワクチン接種受け付けは、来週になってからだとか。

ワクチンを打っても感染を完全には防げないとか、でも感染率は大幅に下がるとか、しかし、ある変異種には効きが弱いとか、いろいろ言われています。現時点では打たないより打った方がよさそうだし、私は副反応を起こしやすい基礎疾患も持っていませんから、接種券が来たらできるだけ早く打ってもらおうと思っています。

昨日、去年までKCPにいらっしゃったO先生が、新たな職場・沖縄に向かわれました。沖縄は、唯一、緊急事態宣言が発せられたままの県です。O先生がワクチン接種済みかどうかわかりませんが、職場が感染者の多い本島ではないので、多少は安心できるかもしれません。

O先生がこの時期に沖縄へ行くと聞いて、うらやましいことが2つあります。1つは、沖縄の夏至が体験できることです。晴れれば、南中高度ほぼ90度の直射日光を浴び、影のない昼が味わえます。もう1つは、明日6月23日を沖縄で迎えられることです。6月23日は何の日か知っていますか。慰霊の日です。沖縄戦が実質的に終了した日です。今年も大規模な式典は行われないでしょうが、沖縄の人の心に触れる絶好の機会です。13日に自決した大田實司令官は「沖縄県民斯く戦えり 県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを」と書き残しました。“特別の御高配”が米軍基地だとしたら、本土は沖縄をあまりに知らなさすぎます。本土のものが6月23日を沖縄で過ごすのは、このギャップを少しでも埋める意味もあるのです。

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最後の1つ前のテスト

6月21日(月)

期末テストの前日、授業の最終日。私のレベル1のオンラインクラスは、会話テストをしました。レベル1で勉強した文法や単語を使って、こちらが与えた場面での会話を作り発表するというタスクです。レベル1では毎学期やっていますから、対面授業では私も経験があります。でも、オンラインでの会話テストは初めてでした。

ごく短い会話の発表なら、授業中にもしてきましたが、ある程度まとまった会話の発表となると、果たしてうまくいくのだろうかという不安もありました。学生たちだって、ZOOMの画面越しに話し合って会話を作るのです。母語が同じなら私の目を盗んでこっそり相談することもできるでしょう。しかし、母語が違ったら、共通言語はお互いに自信が持てない日本語ですから、隔靴搔痒などというものでは済まないでしょう。

会話作成中のブレークアウトルームをのぞきに行くと、どのグループも日本語で話し合っていました。教室だと、私が見ていない隙に母語で話を進めようとするグループが必ずあるのですが、このクラスは不意打ちで訪れても日本語以外を使っているところはありませんでした。

その点は褒められるのですが、会話の発表となると、顔と顔を突き合わせていない弱点があらわになってしまいました。セリフが平板というか、感情がこもらないんですね。教室で教卓の前に仮ステージを作って発表させると、授業で習ったイントネーションをそのまま応用するグループが必ずいくつか現れるものですが、それがなかったのです。これは、オンラインの限界なのでしょうか。

それから、学生に定着した文法とまだまだの文法が、如実にわかりました。こちらはちょっと怖いなと思いました。学生の印象に残った文法とそうでない文法との差が、対面授業より激しいようです。思わぬところで反省材料を突きつけられました。

何はともあれ、明日は期末テスト。みんな、いい点とれよ。

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