スター

5月29日(水)

学校中で、競技進行の最終チェックや応援フォーメーション練習や各種小道具づくりなど、明後日の運動会の準備がピークを迎えています。昼休み、私が担当する競技で学生たちが使う小道具を、使う本人たちに作らせました。ちょっとした絵(?)を描いてもらったのですが、美大志望のMさんはスイッチが入ってしまいました。

まず、驚かされたのは、何の道具も使わずにゆがみのない円が描けることです。それも、サインペンでスーッと描いちゃうんです。私も受験講座の理科で、説明のための図に円を描くことが多いのですが、いつも楕円にもならないような不細工な円になってしまいます。原子の電子殻などで同心円を描く必要があるのですが、外側のはおにぎりみたいな形になってしまうこともしばしばです。それはともかく、その真円を朝日にするのですが、まったく同じ大きさ・形になります。画才のない私は、ただただその手際に感心するばかりでした。

もちろん、その小道具はすばらしい出来栄えで、運動会当日、学生や教職員の目を引くことでしょう。才能が発揮できるチャンスがあると、抑えようにも抑えられないのかもしれません。こういうのを「才能がほとばしり出る」と言うんですね。まさに腕が鳴っているのだと思います。

クラスでも学生たちに応援グッズを作らせました。やはり、凝る学生はいるもので、誰でもできる単純作業にでも、いや、単純作業だからこそ、他の学生とはひと味違うところを見せつけたいのでしょう。やはり、雑に作ったものと比べると、目を奪う力が全然違います。

もちろん、リレーをはじめ、ガチンコ系の競技に命を懸ける学生も大勢いるでしょう。優勝チームにはヒーローが出るものです。それが普段は目立たない学生だと、驚くと同時になんだかうれしくなります。運動会は、運動神経だけでなく、才能の輝きを競い合う場でもあります。

試験結果

5月28日(火)

今までの学期なら中間テスト後の面接がたけなわの時期ですが、今学期は面接方式を変えようと考えていますから、まだ始まっていません。すると、学生たちは、中間テストの点数を気にし始めます。先週末あたりから、その問い合わせのメールが届くようになりました。

メールをもらえば、もちろん結果を教えます。場合によっては励ましの言葉を添えたりアドバイスを付け加えたりもします。メールで聞くにとどまらず、Gさんに至っては、職員室まで答案用紙を見に来て、間違えたところを直したり、どうしてもわからない問題を質問したりしていきました。Lさん、Yさんも、答案用紙を見て、あれこれつぶやいて帰りました。

今のところ、成績を聞いてきたのは、成績に余裕のある学生たちばかりです。Lさんなんかは全科目90点以上で、点数よりもどこをどのように間違えたかを知りたかったようです。成績を気にして、直ちに猛勉強をしてもらいたい学生たちは、誰一人聞いてきません。そういう学生たちは、成績を聞くのが怖いという面もあるでしょうが、概して成績に無頓着です。そのくせ、進級できなかったら大いに文句を言うのです。

つまり、経過は無視して、結果だけ見ようとするのです。努力の先に結果があるのに、努力という過程を省略して自分の望む結果を欲しがっています。Iさんなんかは、日本にいればどこかの大学に進学できる、潜り込めると思っているのではないでしょうか。確かに、数年前まではそういう傾向がないこともありませんでした。しかし、今はそんな甘っちょろいところはありません。

学生たちの卒業まで10か月ほどですが、早くも手を焼きそうな学生が浮かび上がってきました。

大差

5月27日(月)

先週の水曜日に回収した文法の宿題の出来があまりに悪かったので、金曜日にもう一度説明して、文を作ってくる宿題を出しました。週末によーく考える時間がたっぷりあったはずの学生たちの宿題を集めましたが、チェックしてみると、出題の意図を理解してきちんと文を作ってきた学生と、私の説明を全く聞いていなかったのではないかという学生と、両極端になりました。

Xさんは自分がどこで間違えたかを明確に理解し、2つでいいのに4つも例文を考えてきました。こういう学生には、もう一段階上を狙ってもらうための添削をします。ただ漫然と〇をつけるだけでは、学生の意欲に応えたことにはなりません。

Yさんも、一ひねり加えた例文を書いてきました。自分で難しい課題を設定し、それに向かって進もうという向上心が感じられます。

SさんとJさんは全く同じ例文を書きました。いつも離れた席に座っているので、また、その例文はその文法を使う典型的なものなので、写しあったとは思えませんから、とりあえず〇にしておきます。もしかすると、どこかのサイトの例文を丸写ししたのかもしれませんが、証拠不十分で無罪です。

CさんやZさんは、改善が見られませんでした。文法を理解していないようです。期末テストに向けて、非常に心配な学生たちです。どこが間違っているかを明示し、再々提出させるつもりです。

最悪なのは、宿題をやってこなかった者どもです。わざわざメールを入れたのにやってこなかったとは、やる気なしと判定されても文句は言えません。この中には、中間テストの時点で進級が危ぶまれているKさんもいます。というか、もはや私の心の中では、完全にもう一度同じレベルですね。現レベル以前の間違いも多いし、進級させたら上のレベルの先生方に申し訳ありません。同じクラスになった学生も、できない学生のせいで進度が遅れたりしたら迷惑でしょう。

XさんとKさんとでは、天地ほどの差ができてしまいました。

質問

5月25日(土)

東京は昨日に続いて連日の今年最高気温更新となりました。でも、昼に外に出ましたが、真夏の肌にまつわりつくような暑さではありませんでした。気象庁のデータによると、日中の湿度は20%台で、乾燥注意報すら出ています。5月らしいさわやかな暑さと言っていいでしょう。

私の持っているクラスは尊敬語の勉強が終わったので、その尊敬語を使って先生に聞いてみたいことを書いてくるという宿題を出しました。習ったばかりですから、尊敬語で大失敗した学生はいませんでしたが、同じような質問が多かったこともまた確かです。安全運転をしたのかもしれませんが、答えを書く身にとっては面白みのない仕事になりました。

先生はお酒を召し上がりますか。――いいえ。昔はたくさん飲みましたが、飲みすぎて病気になったので、今は全然飲みません。

先生は朝何時に学校へいらっしゃいますか。――6時ごろ来ます。そして、校舎の鍵を開けます。

先生は暇なとき何をなさいますか。――最近は夏休みにどこで何をするか考えています。

先生はゴルフをなさいますか。――昔はよくしましたが、練習しても全然上手になりませんでしたから、やめました。

…などというやり取りを何回書いたことか。でも、こういうことが学生の興味の対象なのだなとわかったので、今後の授業のネタを考える際に参考になりそうです。

初夏の快晴のもと、花園神社のお祭りが行われています。学校の周りの路地も、お神輿が行き来していました。明日は、学生がお神輿を担がせてもらう日です。

あなたにこそ

5月24日(金)

朝一番で文法のテストを配ると、用紙が2枚余りました。欠席者が2名いるということです。誰だろうと思って学生の顔を順番に見ていると、ドアが開いてYさんが入ってきました。さて、もう1人は…と思って探してみると、どうやらHさんがいないようです。昨日もおとといも授業の後半、15分の休憩時間の後から来ました。またかと思っていたら、7分遅刻ぐらいで遅延証明書を手に入ってきました。これで全員出席。私は決断しました。

実は、おととい、全校学生に出席の大切さを訴えるビデオを作りました。各クラスで見せるつもりなのですが、こういうことを企画すると、最も訴えかけたい学生に伝わらないことがよくあります。最も訴えかけたい学生とは出席率の低い学生ですから、下手に日時を決めると、その学生だけがおらず、出席状況に何の問題もない学生たちだけに出席率の話をするというとんちんかんなことになりかねません。Hさんはこのクラスで一番出席率が悪い学生です。その他問題学生が全員顔をそろえるなんて、今後二度とないかもしれませんから、このチャンスは絶対に逃すわけにはいきません。

テスト後、全員にビデオを見せました。ビデオが始まると、画面と私を見比べて一瞬だけざわつきましたが、話が始まると水を打ったように静まり返りました。Hさんも下を向かずに画面を見つめていました。数分のビデオに、勢い余ってさらに30分ほどビデオに盛り込めなかった話をしてしまいました。その後、お通夜のような雰囲気で授業が淡々と進んでいきました。

私のクラスでは一番聞いてほしい人に聞かせることができました。他のクラスでは出席率的に問題がある学生に休まれて、思うに任せなかった例もあったようです。週末に噂でじわんと伝わってもいいと思います。来週、各クラスの出席状況が改善するのを祈るばかりです。

別解

5月23日(木)

あと1か月足らずで6月のEJU本番ですから、受験講座理科は過去問中心に進めています。EJUの試験時間である80分で問題を解いて、そのあと模範解答を配り、解説をします。去年から受験講座を受けている学生たちにとっては、80分で2科目の問題を解くのはさほど難しいことではないようです。

Sさんも去年からの学生の1人です。私の模範解答を見て、「先生、この解き方のほうが簡単だと思います」と指摘するようになりました。Sさんの解き方も思いついたけれども、それを学生に説明するために使う模範解答に書き表すのが難しくてあきらめたこともあります。日本語の文章ばかりの答案になるより数式が並んでいるほうが、学生にとってはわかりやすいだろうと思ったからです。でも、Sさんの説明を聞いているうちに、うまくすれば学生にもよくわかる解答が作れるかなと思うようになりました。また、Sさんの説明の方がビジュアルに訴えるので、学生にはわかりやすいだろうと思えてくることもあります。

そういうSさんの説明を聞いていると、実力がついたなあと思います。理科の問題に対する勘が働くようにもなり、理科的な発想が身に付いてきたとも思います。この勘とか発想法とかという漠然としたものが、研究者やエンジニアの頭脳へと成長していくのです。EJUにとどまらず、筆記試験や口頭試問にもたえられる力がついてきたんじゃないでしょうか。今年の入試は期待してもいいかもしれません。

私たち教師は、学生に追い越されるためにいるようなものです。EさんやTさんやYさんやKさんなども、1日も早くSさんと同じように鋭い指摘ができるようになってもらいたいです。

峠道

5月22日(水)

中間テストの後からは、来学期中級に上がる予定のクラスでは、漢字の教科書が中級で使うものに変わります。これを機に、授業の進め方を予習前提の中級的なものにしていきます。

昨日の授業でそういう話をしておいたのに、教科書ノートをチェックしてみると、全然予習してこなかった学生が何人かいました。予習してきた学生も、今までの初級的なやり方から抜けられず、教科書に出てくる語句を徹底的に調べてくるというこちらの要求には程遠いものでした。

毎学期、中級の教科書を使った初日の授業は、こんなものです。そして、学生たちは私に激しく突っ込みを入れられ、全く答えられず血まみれになって授業を終えるのです。期末テストまでボコボコにされ続け、少しずつ鍛えられ、漢字以外の科目でも中級の授業についていける力をつけていくのです。

中級以上は、日本語で思考回路を構築しておかなければ、得るものが非常に少ない日々を送ることになります。授業の進むペースがぐっと早くなりますから、母国語に頼っていては理解が追いつきません。日本語で何かをする、日本語を通して誰かとつながる、日本語によってコミュニケーションを図る、そういったことを本格的に学んでいくのです。その第一歩が漢字の授業という位置づけです。

Kさん、Tさん、Sさんあたりは、自分の予習のどこが足りなかったかをつかんだようです。次の漢字の授業までには軌道修正をして、自分で得るところの多い授業を作り出せるようになっているでしょう。でも、何となくぼんやりしていたYさん、Cさん、Iさんはどうでしょう。初級と中級の境目にある峠を越えられるでしょうか。どうにか越えさせなければなりません。

どうしたんですか

5月21日(火)

留学生が日本で進学するのに一番必要な力は、一昔前までは学力でした。しかし、現在はコミュニケーション能力が強く求められています。自分の気持ちや考えを相手に伝え、相手の気持ちや考えをくみ取る力こそ、留学でより多くの成果を得るのになくてはならないものなのです。

ですから、KCPでもコミュニケーション能力を養うために、初級のうちからあれこれ手を尽くしています。その1つが、会話テストです。課題を与え、ペアでそれに取り組みます。習った文法や単語を使っているかもさることながら、自然な会話になっているかどうか、きれいな発音かどうか、きちんとまとまりのある会話になっているかどうかも重要な評価ポイントです。

Fさんは習った文法を使おうとしている点も問題解決能力も評価できますが、いかんせん発音が不明瞭で、街なかの日本人に通じるかどうか、大いに疑問です。志望校の面接が始まる前にどうにかしなければなりません。

Lさんは初級の文法がすぐに出てきません。このままだと中級に上がってほしくないですね。

SさんやKさんは日本語を話し慣れている感じがします。Sさんは趣味の世界で日本人と話すチャンスがあるようです。Kさんはアルバイトの成果のようです。

そのSさんやKさんですらうまく使いこなせなかった文法があります。それは“んです”です。先学期習っているはずなのに、まだ使うべきところで使えません。“んです”に関しては、上級の学生だってかなり怪しいですから、初級の学生に多くを求めてはいけないのかもしれません。でも、“んです”を鍛えれば他の学生よりも自然な日本語になり、受験の面接の際に差別化が図れるかもしれません。

さて、一番問題なのは、欠席してこの会話テストを受けなかった学生です。Hさんにはぜひ受けてもらいたかったです。受けて、自分の会話力がいかに未熟か思い知ってもらいたかったのですが、今朝3時過ぎに欠席メールが届いていました。ズル休みだと断定したわけではありませんが、メールを読む限り学校へ来ようと思えば来られる程度の「体調不良」です。一度痛い目に遭わなければ尻に火がつかないのかな…。

採点泣き笑い

5月20日(月)

テストが終わると、教師は採点です。中間テスト当日、作文を3人分読んで頭が痛くなり、週末は何もせず、今朝は新規まき直しで読解の採点に取り組みました。

こちらは、問題が易しかったのか、温情をかけるまでもなく、どの学生も合格点を取っていました。文章の内容が理解できていないというよりは、理解した内容を表現するところでつまずいて、失点につながったという学生がほとんどでした。新入生のSさんなどがその典型です。

「よくやった」と言ってやりたいところですが、欠席がちの学生まで合格点が取れているので、そいつらが休んでもどうにかなると変な自信を持つようにならないか心配です。休んだら進級できないんだぞと痛い目に遭わせなければならないのです。こちらはSさんとは逆に、答えるコツを身に付けてしまっているので、勉強不足でもどうにかなっているのかもしれません。

私の採点担当は初級ですが、上級のEさんは、中間テストの直前に、上級の読解はテキストが難しくて、時間をかけて勉強しないと点数が取れないとこぼしていました。上級は、読解に限らずどの科目も、日本人と伍して勉強したり(アルバイトではない)仕事をしたりする際に困らないだけの日本語力をつけることを目標としています。Eさんだって、来年の今頃は、日本語で大学の講義を聞き、日本語の専門書を読み、日本語でプレゼンテーションし、日本語でレポートを書かなければならないのです。たかだかKCPの上級の読解テキストが難しいなどと嘆いている暇はありません。

採点したテストは、明日もう一度見てみます。採点ミスがないかどうかはもちろんのこと、採点基準がぶれていないか、減点幅が妥当かも見直します。そして、成績表に記入します。その時点で、学生の運命が決まるのです。

静かに退室

5月17日(金)

いろいろな意見があるでしょうが、最近の学生は行儀がよくなったと思います。

中間テスト、期末テストのときは、最後の試験科目は答案用紙を提出したら帰ってもいいことになっています。毎日、授業後は椅子を机の上に載せて帰るルールになっていますから、中間・期末の日もそうします。

数年前までは、クラスの他の学生がまだ試験問題に取り組んでいるのに、ガラガラガッシャーンと大きな音を立てて椅子を載せ、ドアも自然に閉まるに任せてバッターンという音をさせていました。しかし、近ごろの学生は、音を出さないように椅子を両手で持って静かに載せるようになりました。教師がそうするように厳しく指導した形跡はないのですが、どのクラスに試験監督に入っても、例外なく椅子を丁寧に載せるようになりました。

先日、外階段を降りるとき、何気なく校庭を見下ろしていたら、テーブルの周りの椅子を動かして6、7人で談笑していたグループが、椅子をもとの位置にきちんと戻してから帰って行くのが見えました。時間的に見て中級か上級の学生と思われますが、心の中で「えらい!」と叫んでいました。昔の学生だったら、1つのテーブルに7つぐらいの椅子をほったらかしにして帰ってしまったでしょう。

でも、机の中に鼻をかんだティッシュを突っ込んだままにして帰ってしまう学生は後を絶ちません。教室内は飲食禁止だと口を酸っぱくして注意しても、こっそりお菓子やパンを食べている学生がいることは明らかです。もう一歩だなあと思います。教師が目を光らせていなくても、陰日向なく周りを考えた行動ができるように持っていければいいですね。