さよなら、日本

4月3日(月)

お昼過ぎに、だいぶ昔の卒業生Yさんが来ました。残念ながら、“Y”という名前はすぐには思い出せませんでした。マスクの外に出ている眼もとと声に覚えがあり、別の先生がYさんと呼び掛けているのを耳にして、「ああそうだった」となった次第です。

Yさんは関西の大学に進学し、その大学の大学院に進み、大学院を修了して、あさって帰国します。話を聞くと、日本の国の、もしかすると日本人の心の狭さが感じられ、考えさせられることが多かったです。

Yさんの研究内容にも関連があるのでしょうが、就職の際に国籍が問題にされたそうです。日本に帰化していたり、永住権を持っていたりすれば、その会社の研究の核となる仕事に携われたのですが、そのどちらでもないYさんは、修士の学位を持っていても周辺的な仕事しかさせてもらえそうもなく、就職はあきらめざるを得なかったそうです。国へ帰ったほうが、明るい未来が開けそうだということで、帰国を決意しました。日本は、有望な人材を1人失ったのではないでしょうか。

大学院は京大に進学したかったのですが、入試と感染拡大期が重なり、入試がめちゃくちゃになってしまい、やはりあきらめざるを得なかったとか。京大なら、どこの会社でも入り放題だったのではと言っていました。

でも、関西での留学生活は充実していたようです。東京では味わえなかった経験を、あれこれ語ってくれました。そういった経験が、Yさんの留学生活に花を添えたようです。

Yさんで一番印象深いのは、大学を14校受けたことです。1校か2校でお茶を濁そうという学生が多い中、私の知る限り最多記録です。今の学生たちには、その根性を見習ってほしいものです。できれば進学授業でその体験を訴えてほしいところですが、あさって帰国じゃしょうがないですね。

それじゃあ、Yさん、お元気で。

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落ち着いた雰囲気

4月1日(土)

午前中、電気設備の定期点検のため停電でした。停電でもできる仕事、パソコンやコピー機などを使わない仕事ということで、昨年11月のEJU理科の模範解答を作りました。これなら紙と鉛筆でできます。

学期中は授業が最優先ですし、1月期はギリギリのところでの進路指導もあります。ですから、EJUの問題を解くための時間はなかなか作れませんでした。学期が終わったらすぐに新学期の準備ですから、やっぱり時間が取れません。停電でパソコン仕事ができないとなるで、出勤する教職員も少なく、だから鍵もありません。というわけで、停電のおかげで、やっとまとまった時間が取れたというわけなのです。

解いてみると、いくつかオヤッという感じの問題がありました。今までとは傾向の違う問題で、ちょっとした頭の体操になりました。聞いている事柄は同じなのですが、角度を変えて問うているので、新鮮に感じられました。毎回こういう問題がバンバン出てくると、解くにしても教えるにしても、甲斐が出てきます。

残念ながら、“問題のための問題”みたいな問題もありました。毎度のことですが、知識の有無を調べてどうするのだろうと思ってしまいます。また、厳密には成り立たないんじゃないかなという問題もありました。日本人の高校生が受ける共通テストで同じ問題が出たら、騒ぎになったかもしれません。

人が少ないので仕事がはかどりました。新学期は、6月18日のEJU本番に向けての理科の授業をしていきます。Hさん、Jさん、Pさん、バリバリ鍛えていきますよ。覚悟していてください。

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隣の女性

3月31日(金)

昨日の夜、退勤時に乗った銀座線で私の隣に座った20歳代と思われる日本人女性は、堂々とマスクをしていませんでした。電車の中では、外国人観光客らしき人たちがマスクをせずにおしゃべりしているのは何回か見かけましたが、日本語があふれたスマホの画面とにらめっこしているマスクなしは初めてでした。

まわりの乗客も、私と同様に一瞬ぐらいはその人に目をやったかもしれませんが、何事もなかったかのように自分の仕事に没頭していました。ずっとあたりを見張っていたわけではありませんが、眉を顰めたりなどという人もいなかったと思います。少しずつ、社会が復旧しつつあるんですね。

現時点では、半袖で歩くよりマスクを取って電車に乗る方が勇気がいります。私は大勢順応派ですから、ごく当たり前にマスクを着けて電車に乗ります。昨日の女性がどんな考えの持ち主かわかりませんが、そういう行動ができることに対して、うらやましさを感じました。

5月の連休明けに5類に指定替えになったら、マスクなしの顔がぐっと増えることでしょう。マスクを着けたままの人がかなり残るんじゃないかとも言われていますが、梅雨が近づいて蒸し暑くもなるし、マスクなしが思ったより早く広まるんじゃないかな。

KCPでは、新学期から学生教職員に対して、校舎内でもマスク着用を求めないことにします。教室の机の配置も、以前のようにみんなの顔が見えるコの字型に戻します。どのくらいの学生がマスクを外すでしょうか。教室にかつてのにぎわいが復活するでしょうか。始業日は、来週の金曜日です。

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優秀な学生

3月30日(木)

Rさんは新学期から最上級クラスに進級します。こう書くと素晴らしい学生のように思えるかもしれませんが、本当は3月にKCPを卒業して、4月から大学院に進学するつもりでした。受験に失敗したのかというとそういうわけでもなく、出願しそびれてもう1年になってしまったというのが実情です。

Rさんは、のんびりした性格のようです。まず、毎朝のように遅刻します。「もう1本早い電車に乗れ」と何回注意したでしょう。私だけじゃありません。歴代の担任の先生全員からです。大学院への出願も、研究計画書の執筆が思うようにはかどらず、結局あきらめざるを得ませんでした。

先日面接したときには、研究計画書は書き直そうと思っていると言っていました。予定より1年遅れになってしまったのですから、より完成度の高いものを追い求めるのは当然かもしれませんが、今すぐにでも着手しないと、また志望校の出願に間に合わないということになりかねません。6月のEJUが終わったら動き始めるつもりだなどと時間感覚のかけらもないような計画を語っていましたから、ねじを巻きました。

最上級クラスに入るくらいですから、優秀ではあります。しかし、このままではその優秀さを発揮するチャンスが訪れないかもしれません。シャカシャカ動いてチャンスをつかんでほしいところですが、教師が何も言わなかったら、6月のEJUどころか夏休みが過ぎても何もしていないと思います。

こういう学生が一番もどかしいです。焦っているのは周りの教師ばかりで、Rさんの頭の中には何の計画も立っていないんじゃないかな。新学期になっても遅刻ばかりしているようだと、相当危ないです。一体、どうやったらRさんの心に火がつくのでしょう。

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ビッグデータの活用

3月29日(水)

読解の授業でビッグデータに関する文章を読んだので、期末テストの作文はビッグデータに関するテーマにしました。ビッグデータなどに関しては私なんかより学生たちのほうが詳しいだろうと思っていたら、作文を読む限り、そうでもなさそうでした。もちろん、大学院でその方面の研究をしようと考えている学生は、採点に困るような“論文”を書いてきました。しかし、読解の授業をさぼっていたのではないかと思いたくなるような作文もありました。

ビッグデータから個人データの収集を強く連想しすぎ、個人データの盗用・悪用に話題が傾いてしまって、ビッグデータを活用した世界、活用されすぎた社会というところに思いが至らない学生が目立ちました。

私はK書店のポイントカードを持っています。本を買うたびにポイントをためています。ある時、私にお勧めの本のメールが届きました。その中に、紹介文を読んでぜひ欲しくなった本がありました。しかし、私はその本をK書店では買いませんでした。これ以上私の好みをK書店に把握されたくなかったからです。K書店は、悪意がないどころか善意の塊で、ビッグデータに基づいて私にその本を紹介したのでしょう。その情報は、私にとって有意義でした。でも、私は自分の心の中をのぞき見されたような薄気味悪さというか、不快感を禁じえませんでした。結局、K書店はビッグデータでお客を1人失いました。私が自分でK書店に足を運び、その本を見つけたら、疑いなくK書店で買いました。ポイントもたまるし。

こんな話を書いた作文に出合ったら、私はどんな採点をしたでしょう。

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すっきりさわやか

3月24日(金)

学期が終わると、机の周りの掃除をします。3か月間にたまった、授業用のプリントやいろいろなところからもらったパンフレットや参考資料として使った図書などを、捨てたり元の場所に戻したりします。しかも3月は年度末ですから、1年分のそういったものが加わります。中にはシュレダーにかけなければならないものもありますから、結構な時間がかかります。年末にも大掃除をしていますからだいぶ整理したはずなのに、その時に捨てきれなかったものを思い切って捨てるとなると、思いのほかの分量になります。

こういう時は、余計なことを考えてはいけません。直感的に要らないと思ったものはすぐに捨てます。情け心が湧かないうちに処分するところがポイントです。温情はゴミ屋敷ならぬゴミ机に直結します。興味を持ってもいけません。3か月間顧みなかったということは、今後もその書類のお世話になることなど、まずないでしょう。懐かしんでもいけません。せいぜい、シュレッダーに飲み込まれていくとき「さよなら」と手を振るくらいで十分です。

たまりにたまった垢を落としているときに、まれに探していた物が見つかることがあります。でも、私はそんな淡い期待はかけません。それを見つけようと紙を1枚ずつチェックするなんてことはしません。そうです。余計なことは考えないのです。

そういう冷血人間になったおかげで、机の上にそびえていた書類の山も、本棚の本の上にのっかっていた受験講座のプリントの余りも、みんな消えてなくなりました。私の四囲が軽快な装いになりました。

さて、次はパソコンの中です。こちらは“実物”がない分だけ難敵です。来週、腰を据えて整理に取り掛かりましょう。

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別れの日

3月23日(木)

3月は、卒業式が終わっても別れの季節です。期末テストの日をもって退学という学生が、毎年まとまっています。卒業式の後で進学が決まったとか、1月期いっぱいで帰国するとか、そんな学生たちです。

Gさんは帰国組の学生です。A大学には合格しましたが、そこは第1志望からほど遠い大学なので、帰国を決意しました。もう少し力になってあげられたかなと、私自身悔いの残る学生です。そのGさん、私が期末テストの担当クラスの教室で準備をしていたほんの数分の時間に、「明日帰国するので期末テストは受けられません」という電話をくれたそうです。最後に一言、ことばを交わしたかったな。昨日も会っていたのですが、「明日、また会えるから…」と、ごく当たり前に「さよなら」と言って教室から送り出してしまいました。

YさんとZさんは進学組です。この2人は来ないんじゃないかなと思っていたら、案の定でした。次の行き先が決まると、モチベーションを維持するのは難しいのでしょう。Gさんも含めて3人分の空席が、やけに目立ちました。この3人に再び会う日が来るのかな…などということを考えながら、試験監督をしました。

テストが終わり、教室の整備をして、ゴミを捨てに廊下に出ると、Wさんが立っていました。こちらを見てぴょこんとお辞儀をしました。私も軽く会釈を返して教室に戻り、答案用紙などの荷物を持ってまた廊下に出ると、まだ立っていました。明らかに私を待っていた顔つきでしたから、「Wさんにも、もう会えないんだね」と声を掛けました。Wさんは京都の大学に進学します。「これからが、Wさんが本当に勉強したいことが勉強できる時間なんだから、体に気を付けてね」「はい、ありがとうございます。先生に一言挨拶をしたくて…」

うれしいじゃありませんか。先々学期と、おととし、オンライン授業をやっていたころに教えただけの学生が、わざわざお礼を言いに来てくれたなんて。Wさんは、この稿に何回か登場しています(そのたびに仮名が違いますから、これをお読みのみなさんが、Wさんの登場した稿を見つけるのはほぼ不可能でしょうが)。担当じゃないときも、秘かに応援していました。こういう学生だからこそ、応援したくなるのです。この気持ちを忘れなかったら、京都の大学でも、そこを卒業してからも、きっと素晴らしい人間関係が築けることでしょう。

何だか、とても気持ちのいい日になりました。

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前途多難

3月22日(水)

上級クラスは、実力テストを行いました。今学期、主力メンバーが卒業で抜けてしまったので、来学期のクラス編成の参考資料にします。

問題は、来学期上級クラスに新たに加わる予定の学生も受験しますから、やさしめのものから上級の中でも上位の学生の実力が判定できそうな問題まで、難易度の幅を広く取りました。また、文章力を見るために、簡単な作文問題も入れておきました。

Sさんは早々に問題を解き終え、スマホをいじり始めたので、スマホを指さして注意。すると、かばんの中から授業には全く無関係の本を取り出して読もうとしたので、「あなたはテストの受け方を知らないんですか」と小声で注意。本はしまったものの、どこからか買い物のレシートを出して広げようとしたので、さらに注意。すると、「もう終わりました」と言うので、明らかに問題の指示とは違う答え方をしているところを「これはどうなんだ」と指すと、渋々答えを見直し始めました。

授業後、そのSさんの答案を採点すると、私が指したところは、結局問題の指示通りには答えられていませんでした。他の問題も、“できない学生ではない”という程度の出来でした。でも、Sさん自身は、おそらく、あんなのちょろいと思っているのでしょう。こんなあたりに、Sさんが今シーズンの受験が全滅だった原因があるように思えました。そこを改めない限り、Sさんが心の底から笑える日は来ないでしょう。

やはり結果が思わしくなかったKさんは、作文問題がまるっきりでした。Nさんは実力不足。受験を何となく先延ばしにしたJさんは、その気持ちがわかるような成績でした。

こうした学生たちをどう指導していけばいいのでしょうかね、これから1年…。

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新たな出発

3月20日(月)

卒業式後に私が受け持っている上級クラスの学生は、その多くが、今シーズンの受験が残念な結果に終わっています。私たちの指導が甘かった、学生が高望みしすぎた、受験を甘く見ていた、…いろいろな原因が考えられますが、何はともあれ、2024年度入試に向けて新たなスタートを切ったところです。

Kさんは、入学時から24年4月進学というつもりでいます。今までは気楽な留学生活だったかもしれませんが、もうそんなわけにはいきません。Kさんの志望校は、6月のEJUで高得点が必要です。できる学生ですが、もう少し目の色が変わってほしいところです。

Hさんは受験の結果に満足できず、もう1年勉強することにしました。卒業式前に比べていくらか前向きの姿勢になりましたが、こちらもさらなる奮起をしないと、来年の今頃は妥協に妥協を重ねた進学となっているかもしれません。教師として、要注意です。

Gさんはクラスを明るくしてくれるのはありがたいのですが、日本語がいい加減なのはいただけません。質問や課題に対する答えが雑です。マークシートはどうにかなっても、筆答問題や面接は乗り切れないでしょう。本人がどれだけ自覚しているか、これからどれくらい勉強に身を入れられるかにかかっています。

Lさんはほぼ毎日学校へ来るのですが、ほぼ毎日遅刻です。今朝は珍しく9時前に教室にいましたが、これを毎日続けられるように生活習慣を改めるところが、Lさんのスタートラインです。

Eさんは、初級の先生方からは「いい学生」と言われていますが、上級で見ている私の目には、そうは映りませんでした。今学期このクラスに入ったO先生に「Eさんはいい学生だったのに…」とさんざん言われ、4月の入学式には先輩として参加することになり、若干自覚が芽生えてきたようです。顔つきが変わり、発言が増えてきました。

Rさんは、このクラスでは一番下ではないでしょうか。授業に対しては積極性が出てきましたが、提出物を見るとまだまだです。6月のEJUに間に合うかなあという感じさえします。自覚を促すとともに、よほど強力に引っ張らないと、志望校には手が届かないでしょう。

なんとなく、4月以降の骨格が見えてきました。

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マネパ追求

3月18日(土)

タイパという言葉に出合い、その意味するところを知ったとき、ずいぶんシビアな世の中になったものだと思いました。確かに私もそういう発想で動くことがあります。しかし、それに名前を付けて常に意識するというレベルには到底至っていません。せいぜい「時間を大切に」「時間の無駄遣いはやめましょう」という程度です。タイパで動く人たちから見ると、かなり牧歌的に映るでしょう。

ところが、最近は、マネパというのがあるそうです。マネーパフォーマンスの略です。欲しいと思ってから支払い完了までの効率の良さを指すのだそうです。タイパとも密接に関連しているようです。

マネパ追求の人たちは、ECサイトでの支払いをより簡潔にと考えています。クレジットカードの番号入力がうざったいので、BNPLに向かうというわけです。こうなると、そもそもECサイトをほとんど使わない私は蚊帳の外です。たとえそこで買い物したとしても、クレジットカードの番号ぐらい入力するでしょう。少なくとも、入力するためのわずかな時間を目の敵にすることはしませんね。

時間もお金も可能な限り自分のために使いたい、自分の心が燃え立つ物事(だけ)に時間もお金も注入したいという意識の表れだとしたら、理解できないわけではありません。でも、それだと何だか生き急ぎすぎている感じがします。否定や批判はしませんが、私はそこまでする気はありませんね。

私のマネパは、クレジットカードやICカードで止まっています。スマホの“〇〇pay”も使っていません。腕時計でピッとかっていうのも、あんまり魅力を感じませんね。20代から40代くらいで身についた文化が私にとって分相応の文化のようです。とすると、マネパ最前線の若者たちも、21世紀半ばになっても時代遅れのQRコード決済にしがみついてる、なんてことになるのでしょうか。

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