現実は厳しい

11月25日(月)

月曜日の選択授業は大学入試過去問ですが、学生たちは漢字の読み書きが本当にできません。読解パートが100%の学生も、漢字読み書きは、選択問題でない限り、正答率5割を超えるのがやっとという惨状です。

日本語の独自試験を行う大学は、漢字の読み書きの問題を入れることが多いです。したがって、それができないということは、ライバルに差を付けられてしまうということを意味します。でも、漢字はどのレベルでも通常授業で扱っていますから、私の授業ではそれ以外に力を入れることにしました。

日本語の筆記試験に苦手意識を持たれては困りますから、選択問題もある比較的易しい問題を用意しました。その代わり。「完璧を期するように」と発破をかけました。みな黙々と問題に取り組み、こちらが与えた時間を10分以上余らせて解き終えた学生もいました。

答え合わせの時はもっともらしい顔をしていましたが、授業後、集めた解答用紙を採点してみると、ろくに点数が取れていないではありませんか。本文中から抜き出す問題では、見当違いのところを引っ張り出してきた学生多数、本文を要約して答える問題は、推して知るべしです。漢字の読み書きなしですからみんな8~9割ぐらい取れるだろうと思ったら、大間違いでした。これでは、いったいどこで点数を稼ぐのでしょう。超級・上級クラスの学生たちばかりですから、今年の進学実績が危うくなってきました。

入試シーズンも、中盤から終盤に移ろうとしています。留学生入試は年々厳しくなってきていますが、KCPの学生にはそれだけの厳しさが伴っていないような気がしてなりません。どうにかしなければ…。

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成果

11月22日(金)

授業後、Yさんの面接練習をしました。明日、第一志望校のJ大学の面接試験があります。面接前日だというのに、面接室の入り方からやってくれと言います。Yさんにはそういう野生児っぽいところがあります。これを上手にアピールすると、J大学はそういう学生が好きですから、うれしい結果につながる芽も見えてきそうです。

Yさんは、授業でもかなりしっかりした話し方をしていますから、語る内容さえあれば、話すことそのものは心配していませんでした。予想通り、考えがきちんと伝わる受け答えをしてくれました。もちろん、文法や語彙のミスが皆無とまでは言えません。でも、面接官に誤解を与えたり、日本語が下手に聞こえたりするような間違え方ではありませんから、直しませんでした。角を矯めて牛を殺したのでは、意味がありませんからね。

どうやら余裕がありそうなので、ちょっぴり高等戦術を教えました。これをうまく使ってくれると、面接官の気持ちを引き付けられるのですが、果たしてどうでしょう。Yさんが出願した学科は、J大学の中でも競争率の激しいところのようですから、普通に答えていては面接官にアピールできないかもしれません。

1時間ほどで面接練習を終えましたが、一番気になったのは、Yさんの姿勢です。やや前かがみで、一見すると自信なさそうな印象です。しかも足をしょっちゅう組み替えますから、落ち着きのないこと甚だしいです。言っていることは威勢がいいので、面接官はそのギャップに違和感を抱くんじゃないかな。

面接練習終了後、受験講座をして教室の後片付けをしていると、Tさんが教室に顔を出し、N大学に受かったと報告してくれました。今学期が始まったばかりのころ、面接練習を繰り返した甲斐がありました。

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丸ノ内線が止まると

11月21日(木)

今朝は丸ノ内線が一時止まったため、午前クラスの先生方の中には授業開始時刻に間に合うかどうかわからないと連絡をくださった方もいらっしゃいました。緊急に代講の手配をしましたが、四ツ谷から歩いて息を弾ませながら5分前ぐらいに職員室に入ってこられたH先生はじめ、みなさんどうにか授業には間に合いました。

9時2分前ぐらいに教室のドアを開けると、学生は5人ほどしかいませんでした。Sさんが自宅最寄り駅で撮った丸ノ内線運転見合わせの写真を送ってきていましたから、不吉な予感はしていましたが、これほどまでとは…。駆け込みが何人かいましたが、出席を取った時点でそろったのがクラスの半数ほど。丸ノ内線は利用する学生が多いですから、止まると影響が大きいのです。

あんまり張り切って授業をどんどん進めちゃうと、単なる寝坊とは違って不可抗力で授業開始に間に合わなかった学生たちに気の毒ですから、いつもよりゆっくり目にやっていきました。こういう時は、脱線のネタがたくさんあると重宝しますね。そんなこんなをしているうちに、30分ほどでクラスの8割方がそろいました。みんな、遅延証明書を持っていました。

問題は、残りの2割です。Gさんは後半の選択授業も私のクラスで、その時にはいました。「すみません。寝坊して、目が覚めたら9時半でした」と正直に申告。Yさんは選択授業の直前に1階で見かけましたが、こそこそっと隠れてしまいました。怪しいこと極まりありません。でも、曲がりなりにも学校へ来たのですから、よしとしましょう。

MさんとJさんは無断欠席。ことにJさんは今学期に入ってから3回ぐらい出席状況について注意しているのに、丸ノ内線とは関係ないのに、選択授業も欠席でした。どうも私を避けているような気がしてなりません。それでもいいですけど、最終的に自分で責任を取ってもらうほかありません。

授業が終わって職員室に戻ると、AさんとCさんから進路相談と面接練習の予約が。暖簾に腕押しみたいなJさんに関わっている暇などありません。

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それでもやめる?

11月20日(水)

授業後、Lさんが「先生、私、学校をやめます」と言ってきました。「M大学に合格して、入学手続きも済んだので、来週末に帰国するつもりです」とのことです。

よくよく話を聞いてみると、まず、Lさんが済ませた入学手続きというのは、入学金を振り込むなど、M大学入学の権利を確保するために最低限必要な手続きだけです。ビザに関わる手続きは何も含まれていません。おそらく、今後、それにかかわる書類などが送られてくるのでしょう。

これに関連して、M大学からもらった書類を読むと、2月に新入生を集めてオリエンテーションが開かれることになっています。帰国したら、当然、出席できません。無断で欠席したら、不利な扱いを受けるでしょう。ビザに関する話だったら、不利な扱いどころか、法律的に進学が不可能になるおそれすらあります。Lさんにはその辺の認識が全くありませんでした。

M大学に帰国するつもりだという話をしたかと聞いたら、していないと言います。そんなことだろうと思いました。ただただ、もう日本語の勉強はもうたくさんだ、帰国してしばらくのんびりしたいという気持ちばかりが先走り、大学進学もKCP内での進級と大して変わらないぐらいにしか考えていなかったのでしょう。

そもそも、M大学の合格にしたって、“日本語学校卒業まで日本語をみっちり勉強すれば、大学の授業についていけるだけの日本語力が身に付くだろう”という非常に大きな仮定の上での話です。この仮定をぶち壊すようなことはM大学だって認めたくないでしょう。今月いっぱいで帰国して、12月から来年3月まで日本語を使わない生活をしたら、疑いなくLさんの日本語力は落ちます。国でも日本語を勉強すると、口で言うのは簡単ですが、4か月間それを続けられるかと言ったら、絶対に無理ですね。3月末に再来日し、M大学に入学したとしても、日本語の勘が戻るまでは、授業中謎だらけでしょう。

KCPに居続けると、出席率を落としちゃいけないから毎朝早起きしなきゃいけないし、KCPの厳しいルールにも縛られるし、宿題やテストも多いし、ろくなことがありません。でも、これが嫌だからって退学すると、進学してからろくな目に遭わないこと請け合いです。

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日本語教師養成講座でお待ちしています。

11月19日(火)

初級で動詞と言えば、「食べます」とか「勉強します」など、自分も毎日するような、具体的でジェスチャーでも表現できるような語彙が中心です。中級では「改善する」とか「責める」など、抽象概念を表わす動詞が出てきます。上級や超級となると、複合動詞で微妙なニュアンスを表すことを覚えていきます。

複合動詞とは、動詞のます形(国文法では連用形)に別の動詞がついてできた動詞です。「読み終わる」「駆け上がる」「結び付ける」「はぎ取る」など、私たちの身の回りにいくらでもあります。超級ともなれば、これら複合動詞の意味するところを正確に理解し、自分自身でも使えるようになってほしいものです。

「冷え込む」と「冷え切る」、「飲み切る」と「飲み尽くす」これらはどのように違うでしょう。また、「逃げ込む」「考え込む」「疲れ切る」といった複合動詞の“込む”“切る”は、「冷え込む」「冷え切る」「飲み切る」の“込む”“切る”と同じ意味でしょうか。こういったことも超級のクラスでは考えていきます。

学生たちはこちらの提示した例文やヒントをもとに、「~込む」「~切る」「~尽くす」の感覚をつかんでいきます。そして、穴埋め方式の練習問題なら解けるようになります。次は例文を作ってみて、使う感覚を養います。その後は実戦で鍛えていき、真の意味での定着を図ります。私のクラスの学生たちは、今晩例文を考えて、明朝提出することになっています。

これと同じようなことを、実は、日本語教師養成講座でもしています。日本語教師以外の日本人は、複合動詞なんて日々の生活で意識しません。だから、その意味用法は、感覚的には理解していても、言語化して誰かに伝えることは非常に難しいでしょう。それをできるようにするのが養成講座であり、そういった能力を身に付けた方々が日本語教師として歩み始めるのです。

「冷え込む」と「冷え切る」の違い、知りたくありませんか。

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期待

11月18日(月)

最近、Rさんが進学に燃えています。去年、私が初級で受け持った時は、日本へ来て間もないのに生活に疲れたような顔をしていて、何事に対しても覇気が感じられませんでした。案の定、順調に進級することはできず、あっちこっちでつまずきながらどうにか中級まで上がってきました。

勉強への意欲が見られなかったのは、Rさんのせいだけではありません。親から過剰な期待をかけられ、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた点も見逃せません。親が言ってくる超一流大学は無理なので、Rさんがこんな大学はどうかと提案したこともありました。でも、「そんな大学はダメ」と一蹴されてしまいました。

日本という国は好きだけど、だから1日でも長くいたいけど、親が進める大学は入れそうもなく、自分が手が届きそうな大学は親が認めてくれず、Rさんは八方ふさがりの日々が続いていました。しかし、最近、この期に及んでようやく親が折れてくれたそうです。そのため、がぜんやる気が出てきたというわけです。

やる気が湧いてくるのが、1年遅かったと思います。初級のうちから実現可能な目標を設定し、それに向かって努力していける環境が整っていれば、Rさんはもっともっと力を伸ばせたと思います。親が子供に期待を寄せるのは当然の心情です。厄介払いで留学させられて日本に流れ着いたと言わんばかりの、親に全く期待されない学生も困りものですが、何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如しです。期待のし過ぎも子供の芽を摘んでしまいます。

ここまでくれば、私たちも指導のし甲斐があります。あとは、Rさんのやる気を志望校の先生方に伝わる形で表現することに力を貸すだけです。

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上級話者が身につけるべき文法「授受表現」

11月15日(金)

ちょっと悲しい出来事がありました。情けないとも憤りを感じるともいうことができます。

中間テストで、私が担当している上級レベルの文法の問題として、「傘を借りたいときの言い方を、授受表現を用いて書け」というのを出しました。文法の時間にもうちょっと複雑な授受表現を扱っていますから、これは学生たちに点数を与える、いわばラッキー問題として出題しました。

「すみませんが、傘を貸していただけませんか」とかって、初級文法で十分答えられる言い方をしてくれれば十分だったのですが、ほとんどでいていないんですねえ。間違える学生もいるとは思っていましたよ。でも、一握りにも及ばない学生しか正解しなかったのです。「傘を借りていただけませんか」「私に傘を貸してあげてください」「傘を借りてもらいますか」などなど、最初の2人ぐらいは笑っていましたが、次々とこのような答えが出てくると、顔が引きつってきました。

このクラスの学生たちは、もちろん、日本語でコミュニケーションが取れます。日本語教師ではない一般の日本人が聞いても確実に理解できる日本語を話します。だけど、細かく追及していくとこうなっちゃうんですね。傘を借りたいときも、「この傘、いいですか」「傘、ありますか」など、授受表現を使わなくても気持ちが伝えられちゃいます。

だから、授受表現は使えなくてもいい、とうことにはなりません。授受表現は日本語の特徴であり、その点で日本文化の一翼を担っていると、私は思います。そこに宿る発想は、より洗練された日本語へとつながるのです。これぞ、上級話者が身に付けるべき文法です。だからこそ、上級の文法の時間に取り上げているわけです。

来週早々、復習ですね。

 

 

 

 

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暗闇

11月14日(木)

今朝の新聞によると、10日(日)に行われたEJUの大阪会場で、試験問題の冊数が足りなくて試験が中止されたそうです。その人たちの試験は、23日(土)に行われるとのことです。EJUの実施機関・日本学生支援機構は、印刷所に発注する際に数を間違えたと言っていますが、間抜けた話だと思います。

機構は、23日の試験を受ける受験生の交通費や宿泊費を出すと言っていますが、そういう問題じゃありません。まず、それまで緊張を保ち続けるのは、受験生にとってとても辛いことです。特に、来年4月に進学するつもりで勉強してきた、高得点を狙っている受験生はたまったものじゃないでしょう。海外から大阪まで受験に来て、むなしく帰国した受験生もいるとのことです。そういった受験生は、10日と同じコンディションで23日の試験を受けられるでしょうか。まさか、準備期間が2週間伸びたから有利なはずだなどと考えていないでしょうね、機構さん。

それから、23日が大学独自試験日だったらどうするんですか。その大学への進学をあきらめろとでも言うのでしょうか。EJUを捨てて、今までの努力をどぶに捨てろということでしょうか。

そもそも、こうした不祥事を3日も隠してきたというのは、どういう根性なのでしょう。私は別ルートで11日にこの事実を知りましたが、その後一向に公になる気配学、不思議に思っていました。そして、昨日、責任者の記者会見もせず、HPに事務的なお知らせを載せただけで済ませてしまったのです。そのお知らせも、14日19時現在、見られません。闇の葬ろうという姿勢が見え見えです。これが共通テストだったら上層部は切腹物です。試験のやり直しと交通費支払いでお茶を濁されてしまうなんて、やっぱり留学生は日本の大学において添え物にすぎないんですね。

 

 

 

 

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不明確な日本語

11月13日(水)

10日にEJUが終わり、今週から受験講座の授業時間数が少し減ったかと思ったら、面接練習がバンバン入ってきました。午前の授業が終わり、お昼を食べる間もあらばこそ、Sさんの面接練習でした。

Sさんは、進学後に勉強しようと思っていることも将来就きたい仕事も明確なのですが、日本語が不明確です。単語レベルで日本語を重ねていくので、助詞や、動詞・形容詞の活用がいい加減です。普通、パンフレットやネットに書いてあることを丸暗記したら、そこの部分だけは間違えないものなのですが、Sさんの場合、誤用の海の中に立派な単語が浮かんでいるような状態です。

「あなたが言いたいことはこのように言います」と、模範解答を口移しで教えても、「じゃあ、もう1回」とやり直すと、数分も経っていないのに、さっきよりちょっとましかなというレベルに落ちてしまいます。ここまで単語以外の部分に無頓着でいられるのも珍しいです。

でも、上級クラスに在籍しているということは、中間テストや期末テストでは合格点を取っているということです。それはすなわち、読んだり書いたりする時には、完璧とはいえないまでも、正しい文法が意識できるのです。どうして話す時は文法が壊滅してしまうのでしょう。私にはわかりません。いや、話の内容の高さと、その話を聞いた時の下手さ加減がこれほど開いている学生は、前代未聞に近いんじゃないかな。

日本人の英会話って、ネイティブが聞いたらきっとSさんの日本語みたいなのでしょう。日本人の英語力は世界で53位、「低い」にランク付けされているそうです。だとしたら…。

 

 

 

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大車輪の活躍

11月12日(火)

毎朝職員室を掃除してくれているHさんは、長年地元にお住まいの方です。毎日「老人会の仕事が忙しくて困っちゃう」と言っては笑っています。昨日は、新宿御苑で菊見の会があったそうです。なんでも、新宿御苑では今年から菊のライトアップを始めたとかで、幻想的な菊の写真を見せてもらいました。闇夜に浮かぶ菊人形は、中途半端にリアルで、ちょっと気味が悪かったですけど。

そのほかにも、カラオケ教室とか輪投げ大会とか交通安全週間の活動とかバス旅行とか、いったいこの地区のお年寄りはいつのんびりするんだろうというくらい、活発に動き回っています。しかもHさんは、国の基準で言う“後期高齢者”であるにもかかわらず、どの活動にも中心になって動いています。「あたしよりもっと年寄りがいっぱいいるからね」と、笑い飛ばしています。

ここ新宿1丁目は、長年住みついている人が多いようです。もちろん、マンションの住民なんかはしょっちゅう入れ替わっているでしょうが、そうでないところの人たちは、長年住みついていて、Hさんのお友達というわけです。みんなが顔見知りで、家族構成もわかっていて、区議会議員ですら生まれた時から知っていますから、“〇〇ちゃん”です。

KCPもここに居ついて30年ほどになりますから、Hさんにも地元の学校と見てもらっているようです。だからこそ、お掃除に来てくれるのであり、地元のお祭りにも誘ってくれるのであり、それがKCPが地元ともに生きていく礎となっています。KCPも、バザーにお誘いしたり先学期のアートウィークの際にも声をおかけしたりしています。

明日はどんな活躍の話が聞けるのかな。

 

 

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