天候不順

7月13日(土)

去年の関東地方の梅雨明けは6月29日でした。私は梅雨の中休みと判定し、もうひと山来ると踏んだのですが、気象庁に完敗でした。6月から夏本番となり、去年の今頃は外に出るたびに大汗をかいたものでした。それに引き換え、今年はどうでしょう。6月28日を最後に、真夏日がありません。それどころか、最高気温ですら20度をかろうじて上回るにすぎません。

長袖のシャツをすべてしまい込んでしまった私は、部屋の隅っこに丸まっていたカーディガンのようなものでどうにか寒さをしのいでいます。今週は、結局、毎日お世話になってしまいました。校舎の中にいる時はともかく、朝晩は本当に助かっています。明日はうちの前のユニクロをのぞいて、もう少ししゃきっとしたのを手に入れようかな。

週間予報を見ると、来週もパッとしないお天気が続きそうです。このままでは、梅雨明けが発表されなかった1993年並みになりそうです。あの年は、7月なのに外で中継していたアナウンサーの息が白く映りましたからねえ。眠りから覚めたセミがあまりの寒さに飛び上がれず、道端で死んでいました。日照時間を比べたら、今年はその1993年すら下回っています。

こうまでなると、熱帯夜が恋しくなってきますから、勝手なものです。この時期、私の通勤時間帯には、バス停のベンチで気持ちよさそうに眠っているオジサンがいて、羨望の念を覚えるものですが、今年は全く見かけません。たとえ見かけても、気の毒に思ってしまうでしょう。

去年は、毎学期恒例のバザーが、あまりの暑さのために中止になりました。今年は、雨で中止になりそうな雰囲気です。地球温暖化が、巡り巡って、こういう妙に涼しい夏や、やたら雪の多い冬をもたらしているそうです。毎年日本のどこかを襲ってくる“〇十年に一度の大雨”にも関係していると言われています。地盤が緩んだところに地震が発生したら…。文字通り“日本沈没”になりかねません。

外を歩いている人たちが傘をさしています。また雨が降り出したようです。

忘れたころに

7月12日(金)

授業の最後に、前の学期に勉強した文法を使った会話をするという活動をしました。いきなり先学期の文法などと言われても学生たちは何のことやらわからないでしょうから、学生たちに先学期どんな文法を勉強したか挙げてもらいました。「てしまいます」「ておきます」「意向形と思います」など、次々と挙がってきました。クラスによっては、これをするとシーンとなってしまうのですが、今学期の金曜日のクラスは、誰もが臆することなく発言できる雰囲気があるようです。また、列挙された項目も、前のレベルの文法項目がまんべんなく含まれており、ある程度は定着していることがうかがわれました。

実際に会話をさせてみると、多少不自然だったり強引だったりもしますが、使おうという意識が沸き上がっていたことは評価しなければなりません。とかく教師は文法を教えっぱなしにしてしまうきらいがありますが、学生が忘れかけたころに思い出させる、無理やりにでも使わせることを重ねていく必要があります。そうしないと、上のレベルで使うべき時に使うべき文法が出てこなくて、不細工な発話や文章を披露し続ける羽目に陥ります。披露の場が入試の面接だったら、その学生の一生を左右しかねません。

学生たちにとっては、わりと最近習った文法でしたから、使いやすかったかもしれません。しかし、これから今学期の文法を勉強していくと、今、頭に入っている文法も忘れていくものなんですよね。そうならないように、使うべき時を繰り返し指摘し、自然に出てくるようにしていかなければなりません。教師の意識も高くないと続けられません。

光と影

7月11日(木)

午後、E大学の留学生担当の方2名がが、今シーズンの入試制度の説明にいらっしゃいました。1名は先日お電話でお話しした方で、もう1名は、KCPの卒業生でSさんでした。顔を見た瞬間、思わず指を差して「あーっ」と言ってしまいました。

Sさんは、8年前にKCPを卒業してE大学の大学院に進学して、その後、E大学の留学生担当の職員になったとか。そんなに前になるかなあ。KCPにいたころと全く変わらない顔だけど(だから、指差しちゃったんですが)。話し方は、さすがに仕事をしているだけあって、かなり鍛えられていました。最近KCPからE大学に進学した学生の状況の説明なんか、堂に入ったものでした。

国にいたころや来日当初は、こういう将来など、予想だにしなかったでしょう。日本で働くつもりではあったでしょうが、一般企業に就職するかそこで経験を積んで起業するかなどということを、漠然と考えていたに違いありません。いろんな偶然が重なってE大学に職を得ることになったのですが、E大学在学中、学業面でも学業外でも光る存在だったからこそ、お声もかかったのです。

Sさんの話は喜ばしい限りですが、ショッキングな話も。E大学も日本の高校の夏休みに合わせてオープンキャンパスを開きますが、そのオープンキャンパスが予約制になったのです。以前からオープンキャンパスに予約制を取り入れている大学はありましたが、最近はどこの大学でもと言いたくなるほど広がりました。当日フラッと行って見られるオープンキャンパスが少なくなりました。

E大学の方のお話によると。不特定多数を相手にするのではなく、E大学に進学を希望する気持ちの強い人たちに手厚く対応したいので、予約制にしたそうです。定員厳格化の影響かもしれないとも思いました。でも、予約制にした大学のインターネットでの予約申込書が、同じひな形から作られているのを見て、言いようのない恐ろしいものを感じました。こういう形で個人のデータを採取し、そこから何かを得ようとしている巨大な影がぼんやり見えました。何となく、息苦しくなりました。

施政方針

7月10日(水)

新学期は、クラスの雰囲気作りが教師の重要な仕事です。どんなクラスにしていくか、担任教師を中心に方向性を定めていきます。今学期、私が担任をする初級クラスは、できるだけ長い文で話させるという方針で進めていこうと考えています。

さて、その初日。ともすれば単語で答えようとする学生を相手に、まずは単文でいいですから、きちんと「です/ます」で答えさせていきました。私が担当しているレベルは初級の最後の段階ですから、単に口数が多ければいいという問題ではありません。中級に上がることを前提に、まとまった話、微妙なニュアンスも伝えられるようになってもらわなければなりません。今すぐじゃなくてもいいですが、会話の期末テストのころには、「みんなの日本語」の文法を駆使して、複文で意味のあることを話せるように成長していてもらいたいです。授業でのやり取りを通して、私の考え方を浸透させていくつもりです。

これは私1人が騒ぎ立ててもできる話ではなく、一緒にクラスを受け持つ先生方のご協力が必要不可欠です。クラスの教師全員が口うるさく注意して初めて、効果が上がるのです。今学期はH先生とK先生という経験豊富な方々と組んでいますから、その点は大船に乗った気分です。

授業は楽しいことが第一ですが、初級の総まとめをするという観点からは、苦しんでもらわなければならないこともあります。私がボコボコにして、H先生とK先生にフォローしていただくのがいいのかな。授業後に、昨日出された宿題のチェックをしました。早速どの学生のプリントも真っ赤にしてしまいました。

暗いムード

7月9日(火)

7月期の初日は最上級クラスでした。半分ぐらいがどこかで教えたことのある学生でした。大半が進学するので、オリエンテーションの後、東京や東京近郊の大学には容易に進学できないという話をしました。どうしても東京というのなら、思い切って志望校のレベルを落とし、滑り止めを確保すること、さもなければ首都圏以外の大学を志望校に加えることと、半分命令口調で訴えました。

初日からいきなり暗い話題で、学生たちは沈んでしまいましたが、今から言い続けないと、3月の卒業式のころに泣きを見るのは学生たち自身です。KCPの先生方が手分けしていろいろな大学の留学生担当者に話を聞いた結果、どこもかしこも難化しているので、学生たちに考え方を変えさせなければならないという結論に至りました。

さらに、進学後にビザをもらうとき、入管が日本語学校の出席率を重視するようになったという話もしました。心当たりのある学生は、いくらか顔が引きつってきました。こちらもまた、多くの大学の方が異口同音におっしゃっていたことです。上級ともなると在籍期間の長い学生もいて、それで入学以来の出席率が悪いとなると、挽回不可能かもしれません。たとえそうだったとしても、今までに何度となく注意されたのに行いが改まらなかった自分自身が悪いのです。目の前の快楽を追求したために将来の夢が消えたとしたら、帰国後同じ過ちを繰り返さないようにすることで、留学の成果につなげていくほかはありません。

2月や3月になってから、教師の言葉は真実だったと気が付いても、もはや手遅れです。今から毎日学校へ来れば、受かる大学を確実にものにしていけば、にっこり笑って卒業できるでしょう。私の話が、その第一歩につながってくれればと思っています。

日本時間

7月8日(月)

Xさんは、先学期の期末テストで、文法の点数が合格点にちょっと足りませんでした。だから、期末テストの範囲の文法を使った例文を書いてくるという宿題を出されました。午後、その宿題を持って来ました。

例文を読んでみると、確かに勉強の跡は見られました。しかし、「てんきよほ」だったり、「また」と「まだ」が区別できなかったり、「泥棒が入って台所でケーキを食べられました」だったりなど、看過できない間違いも少なからずありました。

自動詞と他動詞が入れ替わっているのは、指摘したらすぐわかります。しかし、これは“AでなければB”という論理に従って答えただけで、本当にその動詞が定着したかと言えば、怪しい限りです。助詞の間違いもそうです。「を」が違うと言われたから「に」と答えておくとかという発想は、その場しのぎに過ぎません。

このまま進級させるのは忍びないのですが、進学のことを考えると同じレベルで足踏みさせておくわけにもいきません。「普通の勉強のしかたじゃ、すぐに勉強がわからなくなりますよ」としつこく注意したものの、上がってしまったら“普通の勉強”しかしないでしょうね。

Xさんは、入学以来、そうやって上がってきたのでしょう。でも、“何となくわかる”では、これ以上日本語力が伸びることはないでしょう。発想を変えなきゃいけないよとは、私以外の先生にも言われているはずですが、身に染みていないんですね。

それよりも何よりも、Xさんの腕時計は、Xさんの国の時刻を示していました。これじゃあ、いくら年月が経っても、日本の生活になじむわけありません。常に国のことを考えていたら、日本語が定着することはないでしょう。Xさんの先が見えたような気がします。

入学式挨拶(2019年7月6日)

皆さん、ご入学おめでとうございます。このように大勢の学生が、世界各地からこのKCPに集ってきてくださったことをうれしく思います。

新しい元号「令和」の起源となった福岡県大宰府のすぐそばに、水城(みずき)という、7世紀に築かれた土塁があります。当時、日本は大陸の諸国から攻められるおそれがありましたから、国の役所である大宰府を守るため、東西の山と山をつなぐ防壁を設けたのです。

水城は、10m近い高さがあり、上部でも車が走れるほどの幅がある本格的な防御施設です。これだけのものを今から1400年近く前に造り上げたのです。水城がある場所は地盤が軟弱ですから、今、同じような堤防を造ろうとしても、かなりの日時と資金が必要でしょう。ですから、水城は当時の技術の粋をかき集めて造られたと言っても過言ではありません。

幸いにも、大陸から攻撃軍が来ることはありませんでした。今はこの防塁を突き抜けて、JR鹿児島本線、西鉄大牟田線、九州自動車道、国道3号線など九州の交通の大動脈が走っています。防塁そのものには木々が生い茂り、自然に還りつつあります。

皆さんがどういうきっかけで日本に興味を持ち、日本語を勉強しようと思ったか、私は詳しくは存じませんが、皆さんの知らない世界を発見してほしいのです。先ほど申し上げた水城は九州ですから、そうたやすく行って見て来ることはできません。見に行ったところで、何の変哲もない土手があるだけです。でも、それを築こうとした原動力に思いをはせれば、現地に行った人だけが味わえる感動に浸れます。実際、水城を見に行った私は、その場から立ち去りがたいものを感じました。

九州まで遠征しなくても、東京でだって皆さんならではの日本が見つけられます。もちろん、何もせずに漫然と家と学校を往復しているだけでは、新たな日本の発見など望むべくもありません。街を歩くときは、スマホから目と耳を解放し、自分の周囲に注意を向けてください。そして、周囲が発している信号を感じ取ってください。

皆さんの中には、将来起業しようと考えている方もいらっしゃるでしょう。そういう方なら、なおのこと、こういった空気の流れをつかむ感覚が必要とされます。みんなと同じこと、あるいは誰かの後追いをしているだけでは、大きな成功は望めないでしょう。そこに皆さん独自の何かを加えることによって、それまでのものとの差別化が図られ、新たな市場を確保することもできるのです。

今はビッグデータの時代だと言われています。しかし、ビッグデータを解析し結論を導き出すのは、AIがどんなに進化しても人間の判断によるところが大きいです。だからこそ、今のうちから感性を磨いて、マスに埋没しない自分自身を作り上げる訓練をしていくべきなのです。そして、今回の日本留学は、皆さんにとってその絶好の機会になりうるのです。

外国人観光客が1人もいない隠れた名所を訪れるもよし、自分しか知らない絶景スポットを見つけるもよし、将来の起業のネタにつながる金鉱脈を探り当てるもよし、皆さんの留学が実り多いもとなるようお手伝いすることが、わたくしたち教職員一同の最大の責務だと心得ております。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

思い出

7月5日(金)

先学期のクラスの個人成績表にコメントを書いています。担任だった2クラスのうち、1クラス分をようやく書き終えました。担任としての最後の責務です。

SさんみたいにオールAのすばらしい成績の学生は、授業中にも活躍した場面が多く、コメントのネタには事欠きません。賛辞とともに、一言だけ課題を付け加えます。

逆に、Hさんみたいな問題児は、出席率が悪いとか文法がわかっていないとか、だから生活の立て直しが必要だとか、これまた書くべき材料が山ほどあります。現に、Hさんへのコメントはこのクラスで一番長くなってしまいました。

Cさんも何となくふらふらしていて、教師を不安にさせる存在でした。でも、どの科目もきっちり合格点を取っていますから、根っこのところは、私が感じていたよりずっとしっかりしているのでしょう。そういったほめ言葉を書いて、少しでも自信を持たせたいです。

また、Mさんみたいなクラスのムードメーカーには、まず、クラスを盛り上げてくれたことのお礼を述べます。みんなを笑わせてくれたり、私のいじりに対してボケたり笑われ役になってくれたりといった、3か月間の思い出が次々とよみがえってきました。

何はともあれ、来学期につながるコメントを書こうと心を砕いています。目立たない学生でも、何か1つエピソードを思い出し、そこを起点に話を広げていきます。だから、担任になったら最後にコメントを書くことを想定して、学生たち1人1人に目を光らせていなければなりません。

明日は、もう1つのクラスのコメントを書きます。今晩、ベッドの中で学生たちとの3か月を思い出しましょう。

選挙シーズン

7月4日(木)

遅いお昼を食べに外に出ると、遠くから選挙カーの声が聞こえました。そうです。参議院選挙が始まったのです。そういえば、昨夜、帰宅したら選挙の入場券が届いていたっけ。

先月、国会で日本語教育推進法が成立しましたが、これを取り上げて「日本語学校にお金を回しましょう」などと訴える政党なんかあるはずもありません。票につながりませんからね。日本語教育が充実すると、外国人の日本語レベルが上がり、街で働く外国人とのコミュニケーションが容易になり、気持ちよく買いもできたり一緒に働いたりできるようになります。コミュニケーションが取れるようになれば日本人側の“ガイジン”意識も弱まり、外国人にとってはさらに住みよい環境が形成されていくでしょう。また、日本語教育を通じて日本そのものを深く知るようになれば、知日家、親日家が増えていことでしょう。

以上は、日本語教育推進法によって変化すると考えられる、あまりにも楽観的な将来の日本社会像ですが、これぐらいの夢を語る候補者が1人か2人いても、日本語教育業界は罰は当たらないんじゃないでしょうか。参議院の比例区は、こういう全国規模の大所高所に立って物事を考え政策を打ち出すことができる人たちが選ばれるべきなのに、いつの間にか、合区によって議員がいなくなる県の候補を優先的に当選させる枠を設けると法改正がなされていました。国会議員が小粒になり、そこから選ばれる大臣や、その長である首相も小粒になったと言われます。日本の国全体が、大粒を許さない方向に動いているような気もします。

こういったことが、私の勘違いであることを祈ってやみません。

宿題提出

7月3日(水)

Sさんは、先学期の期末テストの文法が、合格点にほんの少し足りませんでした。先々学期も期末テストで成績が落ちたため、進級できませんでした。このレベルは初級の最後なので、後半は中級へのつなぎの文法を練習します。Sさんは2学期ともここでつまずいたようです。

先週、Sさんには、学期の後半で勉強した文法を使って例文を書いて提出するという宿題を課しました。その宿題が、昼食から戻ってくると、メールで届いていました。

Sさんの例文を読んでいくと、最初のうちは習った文法を使いこなした例文が多かったですが、6月になってから勉強した項目あたりから、消化不良の文法が目立ってきました。例えば、助詞の「を」でも通過の意味の「を」を勉強したのに、「カレーを食べます」などと、初級の入り口で勉強する例文を書いていました。

例文を上から下まで眺めまわしてみると、Sさんの理解がどこで止まったかが実によくわかります。学期中でも宿題で例文を書かせていますが、その添削がSさんの心に届いていなかったのです。もちろん、教師はそれぞれの学生の理解度に合わせて文を直します。時には教科書の何ページを見ろと指示することさえあります。そこまでやっても、届かないときには届かないものなのです。

Sさんの宿題をこのまま受け取るわけにはいきませんから、書き直してもらいたい例文に印をつけて、その例文は書き直して再提出せよと送り返しました。Sさんのほかに、Jさんにも同じ宿題を出しています。明日あたり、その回答が届くのでしょうか。おちおちせき込んでいる暇などありません。