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濁流に溺れる

3月7日(土)

結局、卒業式は中止のやむなきに至りました。なんだか、濁流に押し流されていくようで、無力感が漂います。個人的に言わせてもらえば、予定通りに卒業式を執り行っても、誰も発症しないでしょう。あとで振り返って、「いい卒業式だったね」っていうことになるに違いありません。しかし、万に一つ、発症者を出してしまった場合のリスクは計り知れないものがあります。私はもちろんのこと、学校全体としても、そのリスクを背負いきれません。もしかすると、その発症者の人生を左右することになるかもしれませんから。

職員室で来週の授業の準備をしていたら、KさんがE大学に合格したと報告に来てくれました。E大学は受験生をよく観察してくれる大学ですから、Kさんのような明るく前向きな性格で、日本語力もある学生には有利です。過去にもそういう学生が進学しています。勉強に偏った学生は、成績がよくても落とされています。

Kさんは、もちろん、オンライン授業には毎日参加しています。突然指名してもきちんと答えますから、出席確認の時に接続してあとは知らんぷりなどという不届きな輩とは違います。でも、友達の声は聞けても会えないから寂しいのだそうです。SさんやYさんも同じようなことを言っていました。そういう学生たちのために、何とかみんなが集う機会を設けたかったのですが、上述のような仕儀に相成りました。全国の小中学校・高校でも、同じような状況が繰り広げられていると思います。

このブログを読み返してみると、オンライン授業が決まってから、ほぼ毎日、同じような話題です。違う話もしたいのですが、こちらがあまりに大きくて重くて、どうにもなりません。

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本当は…

3月6日(金)

朝、御苑の駅の階段を上って外に出ると、東の空がほんのりとオレンジ色に光っていました。日中は抜けるような青空で、建物の中にいるのがもったいないようなお天気でした。千葉県鴨川市も同じような天気だったようです。最高気温が15度を少し上回り、海の動物を間近で観察するには絶好の日だったでしょう。そうです。本来なら、鴨川シーワールドへバス旅行に行く日だったのです。

今学期が始まって早々に旅行代金を集め、どうにかこうにかほぼ全員から集めたと思ったら、中止の決定を余儀なくされました。その後情勢が厳しくなる一方で、鴨川シーワールド自体、おとといから休館です。今年のバス旅行は、どうあがいても無理筋だったというわけです。

鴨川シーワールドに限らず、休館・休園の施設は全国に広がっています。5月の連休は例によって関西地方への旅行と決めて、足と宿はすでに押さえています。計画も少しずつ立てつつあるのに、なんだか不安になってきました。姫路城の平成の修理が終わってからだいぶ経ちますが、まだ行っていませんから見学しようと思っています。でも、姫路城も閉まっています。こちらは、いよいよとなったら、山の辺の道を再訪してもいいし、近江富士に挑戦してもいいし、いくらでも手があります。

それに対して、中国と韓国からの入国制限が日本語学校に与える影響尾は非常に大きいものがあります。どの学校も、4月からの運営に苦慮していることと思います。まずは在校生の利益を最大限に守ることを考えなければなりません。来年の4月に進学を考えている学生には、6月のEJUの手当てをしていかなければなりません。大学院進学希望の学生は、動き始めなければなりません。そのころまでにこの騒ぎが収まっていることを祈るほかありません。

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チョイ役

3月5日(木)

私が担当しているオンライン授業は、もちろん超級向けですが、2回ほどゲストとして初級の授業に、文字通り、顔を出しました。敬語の授業で、尊敬語や謙譲語の対象となる人物として、画面の隅っこにちょっとだけ映りました。具体例となることで学生が身近に感じてくれれば、時間を割いた甲斐があったというものです。

オンライン授業は学生の様子を直接探ることができないというマイナス面がありますが、このように生きた映像を見せられるのだとしたら、多少なりともそれを補うこともできるでしょう。自室でベッドに寝転がってスマホを見ている学生の気持ちをこちらに向けられるのなら、今後もちょくちょく顔を出しますよ。

ニュースによると、学校が休みになった生徒たちで、カラオケルームが繁盛しているそうです。危機感が薄いというか、趣旨が伝わっていないというか、要するに暇を持て余しているんでしょうね。KCPの学生たちはむしろ敏感すぎるくらいで、カラオケルームにたむろしている図は想像できません。オンラインで宿題をバリバリ送り付けますから、遊んでいる暇はそんなにないはずです。

各気象予報会社が発表した桜の開花予想によると、東京は来週末に咲き始めるようです。“さくらまつり”の類は中止がほとんどで、花見も自粛が求められています。なんだか、3.11の直後より息苦しくなってきました。私はお花見でどんちゃん騒ぎという趣味はありません。騒いでいる人たちを見てアホなやつらだと思いながら、静かに花を愛でるのが毎年のパターンです。今年はそれも崩れそうです。

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呼びかけられる

3月4日(水)

学校の外を歩いていたら、「校長先生」と呼びかけられました。学生は学校へ来ていないはずだけど、手続きか何かあったのかなと思って振り返ると、ゴーグルにマスクで顔を覆った白髪の方が立っていました。ゴーグルの中の目は明らかに私を見ていますが、はて、この方はいったい誰でしょう?

と考え込んでいたら、「先生、今、お昼ですか」とさらに聞かれました。その声を聞いて、「あ、Hさんだ」とわかりました。Hさんは先週まで毎朝職員室のお掃除をしてくださっていました。お掃除のときはゴーグルもマスクも付けていませんでしたから、一瞬誰だかわかりませんでした。朝は人が少ないから目も鼻も口も出していても平気だけど、人が多い時間帯に街なかを歩くときは用心しているとのことでした。

オンライン授業になってからは、職員室に出入りする人数がぐっと減りましたから、朝のお掃除はお休みになっています。おしゃべり好きのHさんとの世間話の時間がなくなってしまいました。Hさんは世間話の話題を見つけるのがとても上手で、定番のお天気から町内会の様子、花園小学校や新宿御苑など付近の公的機関の動き、安倍さんの話やご自身の身の回りのことなど、ありとあらゆることを取り上げます。地元出身の区議会議員さんも〇〇君ですからね。子供の頃を知っていたらそう呼びたくなりますよね。

このネットワークの広さ緻密さや話の面白さは、私なんか見習いたくても到底無理でしょう。誰に対しても気さくに話しかけられるからこそHさんに情報が集まり、その情報を有効活用することで中心人物になり得るのです。私は、せめてそういう方と知り合いになることで、自分にとって有意義な情報を得ていくことにしましょう。

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寂しいひな祭り

3月3日(火)

学生がいないので、ひな人形のいないひな祭りの日でした。今まで、卒業式が比較的早い年は、講堂に立派なひな飾りを出すのはやめて、ロビーに小さなお内裏様とお雛様を置いただけだったことはありました。しかし、まるっきり何もしなかったというのは、私がこの学校にお世話になってからは初めてじゃないでしょうか。この校舎が建設中で、仮校舎の時も事務の窓口に木目込みかなんかのお人形を飾った記憶があります。

学生はいなくてもオンライン授業を送り続けることは、教師側にとってはかなりの負担であり、珍しがったり面白がったり「かわいい」と言ったり話を聞いたり写真を撮りまくったりしてくれる人が誰もいないのなら、飾るのを省略したくもなります。張り合いがないですからね。

授業はオンラインですから自宅で受けられますが、諸手続きや進学相談などで学校を訪れる学生は何人かいます。そういう学生は、特に後者は精神的にあまり余裕がなく、お雛様がさりげなく立っていても気づかないでしょうね。いや、だからこそ、飾っておいて気づかせて心に余裕を持たせてあげた方がよかったでしょうか。

お昼は青空と暖かさに誘われて、近くの公園へ行きました。河津桜が咲き誇るそばで、マスクをした小さい子どもたちが遊んでいました。鬱陶しがる子どもをお母さんが叱っていました。

こういう世の中が、もう少し続きそうな気がします。韓国は3月から新学年ですが、それを大幅にずらすとのことです。日本もそうなってしまうのでしょうか。そこまで長引くとなると、端午の節句も危なくなりかねません。もちろん、そうならないように強く願っています。

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初授業

3月2日(月)

朝から何となく落ち着きませんでした。オンライン授業というものを初めて担当することになったからです。若い先生方は、すでにそういう訓練をしてきたようで、金曜日から結構余裕でこなしているようでした。でも、こちらは頭で理解していただけで、実際に自分がその主役となって送信した経験はありませんでしたから、朝からトラブル続きでした。昨今のような事態を想定していなかったのは、危機管理がなっていなかった証拠だと言われれば、返す言葉もありません。

やってみて感じたことは、私は目の前の学生に頼って授業をしてきたのだなということです。たとえ反応の薄い学生たちであっても、目の前にいればいじることができますが、オンラインとなると独り相撲を取っているような気がしてなりません。学生たちがわかっているのかいないのか、どの程度興味を持っているのか、そんなことがつかみづらいなあと思いながら授業を進めました。

それと、脱線がしにくいですね。初級では、脱線してあらぬ方向に授業が進んでしまったら、学生たちのためになりません。しかし、上級では、学生の興味に合わせて予想外の展開になったとしても、それもまた勉強になるものです。というか、私なんかは、むしろ、それを楽しみにすらしていました。それができないとなると、授業が上滑りしているようで、不安さえ感じました。

でも、語学学校は生で顔を合わせて質問に答えたり一緒に声を出したりしなきゃね。キーボードを介して教師とやり取りしても、効果のほどは知れたもののような気がするのですが…。そう考えるのは、私の頭が古いからなのでしょう。次の授業日に向けて、教材を準備しなければ。

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お久しぶり

2月29日(土)

4年に1度のうるう日でしたが、朝から卒業認定試験の採点、月曜日のオンライン授業の準備と、仕事ずくめでした。認定試験の結果が思わしくない学生が数名いたことが、ドライアイと肩こりと腰痛に拍車をかけています。一体何回目薬を差したことか、何回ストレッチを繰り返したことか。

そんな中、気持ちを和ませてくれたのが、卒業生のAさんでした。12年前に日本へ来て、10年前にKCPを卒業したと言います。来日したばかりの頃は本当に子どもだったのに、なんと、フィアンセを連れてきたのです。2人の様子を見ていると、お互いを信頼し合っているのがよくわかり、心が温まりました。

フィアンセは日本語がゼロで、KCPで勉強したいそうです。Aさんも、KCP入学時は日本語が全くわかりませんでした。その後、持ち前の“頑張り屋”をいかんなく発揮し、K大学に進学しました。K大学卒業後はS社に就職しました。そうそう、何年か前に、スピーチコンテストの審査員もしてくれましたっけ。

社会人としてもまれているだけあって、Aさんの日本語は実に自然でした。言葉や文法の選び方も、イントネーションやアクセントも、日本人と変わるところがありません。一般の日本人からすれば、まさしく“変なガイジン”でしょう。私たちは、よくぞここまで上手になってくれたものだと、ただただ感心するばかりです。

Cさんはおとといの卒業認定試験で漢字26点でした。欠席が多かったですから、当然の結果です。欠席理由を聞くと体調不良とかと言っていましたが、それは理由なしという意味でしょう。たとえ休んだにしても、うちできちんと勉強していれば、26点などという点数には絶対になりません。Aさんの頑張り屋魂を少し分けてやりたいです。

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見えない授業

2月28日(金)

おとといから、新型肺炎の全世界新規患者数のうち、中国が占める割合が5割を切ったそうです。武漢市と湖北省を犠牲にして中国全体を守ったようなものだと評しているジャーナリストもいます。日本はウィルス検査も満足にできない状況が続いており、漠然とした不安が上空に漂っています。

この漠然とした不安を取り除くのは、理詰めな説明や解説ではありません。頭では理解しても、心のもやもやが晴れることはないでしょう。安心感を与えるほかはないのですが、具体的にどうすればいいのかとなると、安倍さんもだれも、確たる答えを持ってはいません。

学生たちに安心感を醸し出せるかどうか自信はありませんが、KCPもオンライン授業を開始し、学生たちが満員電車に乗らなくてもいいようにしました。昨日の夜は、その準備で全教職員が大わらわでしたが、そのおかげか、初日は大きなトラブルがないまま切り抜けられました。

学生たちも期待していたのでしょうか、初級から超級までかなりの出席率でした。初日は珍しさも手伝ってという面もありますから、授業内容の真価が問われるのは来週からです。飽きられて昼間で寝ていられたり、形式的に接続しただけで実質的に何もしなかったりなどということが起きては困ります。

そういうことを起こさないように、頭をひねり、腕を振るうのが教師の役割です。月曜日は私がカメラの前に立ちます。目の前にいない大勢の学生に対して授業をすることには慣れていませんが、どうにか引っ張っていかなければなりません。教材を厳選し、教案を立て、いつもの数倍気合を入れて授業に臨みます。

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10校も

2月27日(木)

お掃除のHさんのお孫さんは、10校に受かったそうです。第一志望はM大学だったそうですが、そこを含めて多くの大学に連戦連勝でした。定員厳格化の中、超勝ち組と言っていいでしょう。

お孫さんが何を勉強しようと思っているのか、どんな大学の選び方をしたのか、その辺のことは全然わかりませんが、ぜひともお話を聞いてみたいです。日本人と外国人留学生とでは、入試方法をはじめ条件が違います。それでも、どこかに何か秘訣のようなものがあるような気がします。

今シーズンのKCPの学生たちは、あと一歩が踏み込めず敗れ去った例が目立ったように思います。逆に、ほんのちょっとのアドバイスが功を奏して合格に結び付いた学生もいました。落ちた学生と受かった学生と、私の目には甲乙つけがたく映っても、面接官の目は私とは違う視点視座、別の座標軸価値観から学生を評価し、甲乙をつけているのです。この視点視座座標軸価値観を知ることができれば、百戦危うからずになるんですがね。

Yさんが、N大学に進学することにしたと報告してきてくれました。N大学は今までにも多くの学生が挑戦していますが、なかなか合格させてくれませんでした。Kさんも受かりましたが、YさんやKさんのような向上心も向学心も強い受験生を合格させたということは、N大学は受験生を非常によく見ているという気がします。資質のある学生を、そのレベルにまで引っ張り上げなければならないとなると、こちらとしては荷が重いです。

昨日はSさんがM大学の大学院に合格したと報告してくれました。面接練習で、何回も一番弱い点をぐりぐり突っ込んだ甲斐がありました。同じように面接練習でいじめ倒したWさんが受かってくれれば言うことなしなんですが、果たしてどうでしょう。結果は、来週です。

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何を書いたのかな

2月26日(水)

今学期の超級クラスは読解が選択授業です。小説、論説文、エッセイと分かれて授業をしてきました。明日の卒業認定試験を前に、その読解の認定試験をしました。

私が試験監督をしたのは、エッセイのクラス。今学期は、「“その”が指すのは何ですか」みたいな授業ではなく、文章全体を大づかみにして、筆者独自の視点や主張を読み取るということをしてきました。テストも、当然そういう問題にしました。選択式ではなく、筆答式の問題ばかりにしました。学生たちにとってはきつい問題かもしれないと思いながらも、こういうことをやってきたのだから、その力がどれだけついたのかを測る問題にしようと、初志貫徹しました。

試験問題を配ると、学生たちは一瞬顔を引きつらせましたが、すぐに問題に取り掛かり、黙々と答えを書いていました。解答欄を広めに作ったつもりでしたが、解答欄に書ききれず余白に続きを書く学生が何名もいました。もちろん、ただ本文を引き写しただけでは長い解答でも意味はありません。本文を自分なりに咀嚼できているかどうかを、採点基準にしようと思っています。

時間前に提出したSさんやCさんの答えを見ると、ちょっと期待外れの面もあれば、よくやったとほめてやりたくなる答えもありました。それ以外の学生も、あきらめて端から机に突っ伏してしまうことはありませんでした。少なくとも、最後の問題まできちんと解いていました。

このテストでは、授業で配ったテキストは持ち込んでもいいことにしました。そこにどんなメモが書かれていたとしても、それはその学生が授業を真面目に聞いていた証であり、そのメモが多い学生が有利になるのなら、理にかなっています。Wさんのテキストは特に書き込みが多いようでしたから、うならされる答えが書かれているのではないかと期待しています。

テストが終わって解答用紙を集めると、かなりのボリュームを読まなければならないことがわかってきました。卒業認定がかかっていますから、悠長に構えているわけにもいきません。

明日は文法と文字語彙の試験です。こちらもある期待寄せて問題を作っていますから、採点が楽しみです。

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