Category Archives: 社会

30歳と47歳

12月14日(土)

明日は、NHK大河ドラマ「いだてん」の最終回です。先週の時点で、1964年(昭和39年)10月9日まで話が進みました。この時には、私はもう生まれていました。まさか、自分が生きていた時代のことが大河ドラマで取り上げられ、見ることがあるとは思っていませんでした。来年の東京オリンピックの余慶にあずかったかたちです。

多少の演出や誇張はあるとは思いますが、ドラマの中の昭和30年代は、とんでもなく昔のように描かれています。街の様子もそうですが、出てくる日本人がみんなエネルギッシュなのに驚かされます。令和の今、「いだてん」の登場人物が周りにいたら、鬱陶しくてたまらないだろうなと思います。

いろいろと調べてみると、現在の日本人の平均年齢は47歳だそうです。ドラマの時代では30歳のちょっと前だったようです。この50年余りの間に20歳近く上がったことになります。平均寿命の延びは15歳ぐらいですから、それをいくらか上回っています。それだけ少子化が進んだとも受け取れます。

30歳前というと、スポーツ選手が一番力を発揮するころです。一方、40代半ば過ぎというと、老眼が始まり、老いを自覚し始めることです。これが、ドラマで感じたパワーの差なのだと思います。

50年後、今の時代はどのように描かれるのでしょう。平均年齢は今までの50年ほどには高まらないでしょうかが、人口がかなり減っているという予測が出されていますから、平成や令和のころは人が多かったんだなあってことになるのでしょうか。スマホを操る人々を見た50年後の人々はどんな感想を持つのでしょうか。

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世界が狭い

12月13日(金)

今学期は、毎週金曜日に、その週のニュースを新聞の見出し風にまとめてディクテーションをしてきました。今週は、神奈川県庁の廃棄HDD転売事件、セブンイレブンの残業代未払い、フィンランドの34歳の新首相を取り上げました。聞き取れなかったことも問題ですが、それ以上に、これらのニュースを知らなかったということに頭を抱えてしまいました。

学生たちがニュースを知らないというのは今週に限った話ではありません。こういうディクテーションを続けていけば、そのうち少しは関心を示すようになるかと思っていましたが、とうとう最後まで無関心のままでした。HDD転売事件は私が解説を加えて、ようやくとんでもない事件だと気づく始末でした。「セブンイレブンでアルバイトしたことがある人」と手をあげさせて、ようやく、残業代未払いが自分にも関係があるかもしれないとわかり、こりゃあ大変だとなりました。フィンランドの新首相は、写真を見せるとどこからともなく「若い」という声が湧き上がってきました。「34歳ということは、君たち、10年後だよ。10年後に一国の首相になれる?」と追い込んで、やっと「この若い女の人、すごい」と、改めて驚いた次第です。

昔から学生は世間を知らないものでしたが、最近その傾向がとみに強まったような気がします。面接練習で最近の気になるニュースを聞いても、言葉に詰まってしまう学生が多いです。自分のごくごく近くのことしか関心がないのか、非常に狭いコミュニティーで暮らしているのか、いずれにしても、自分の世界を広げるために留学しているはずなのに、実生活はそこからほど遠いものになってしまっています。

スマホという文明の利器を持っているのに、それを使いこなすほど目が内向きになってきているのではないでしょうか。

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調子がいいだけでは

12月6日(金)

おととい集めた文法のプリントを返しました。このクラスは上級の勉強を2学期続けているレベルで、日本語を普通に理解できる学生たちです。しかし、例文を集めて愕然としました。

鍵をかけて出かけたはずなのに、家に帰ったら(        )。

の空欄を埋める問題が悲惨でした。半分ぐらいの学生が、“ドアが開けていました”と答えていました。

“開(あ)きます/開(あ)けます”の自他動詞のペアは初級で勉強し、今までに何度も書いたり話したりしてきたはずです。しかし、こういう問題になると間違えてしまうのです。もはや、学生の出来が悪いと判断するのではなく、自他動詞は定着が悪いと結論付けるべきかもしれません。

今まで何度も書いたり話したりしてきたはずなのですが、正確に使ってきたかというと、きっと違うでしょう。特に話すとなると、聞き手も話の流れを中断してまでも間違いを訂正したりはしません。言わんとすることがわかれば、“開けています”でも“開いています”でもとがめられることはないと思います。日本語教師も、スルーしてしまうことが多いんじゃないかなあ。

コミュニケーションが取れれば多少の文法の間違いは見逃してもいいというのも、一面の真理です。文法を気にしすぎて何も話せなくなってしまったら、本末転倒のような気がします。しかし、だからと言って、文法は軽く見てよいというわけではありません。文法がおかしかったら、コミュニケーションは取れても、日本語が下手だと思われるかもしれません。それは、この人に難しいことを言ってもわかってもらえるだろうかという心理につながっていくのではないでしょうか。

日本人だって、誤字脱字だらけの文章を書いていたら、信用されなくなります。外国人の場合、日本語力が低いと判定されたら、大事な話が回ってこなくなるおそれが出てきます。勢いで話しているだけじゃ、付き合いは深まりません。

たかが文法で、この人間味豊かな学生たちが不当に低く見られるとしたら、私は残念でなりません。

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講演会開催?

11月27日(水)

「金原先生のことを覚えているっていう卒業生が来ているんですが…」と声をかけられ、窓越しにロビーに目をやると、確かに見覚えのある顔がにこやかにこちらを向いていました。

名前を思い出せないまま本人のところに向かうと、「先生、覚えていらっしゃいますか。Mです」と自己紹介してくれました。そうであう、Mさんでした。

聞けば、Mさんが卒業したのは10年以上も昔のこと。K大学に進学し、そのまま修士、博士と進み、博士号を取って就職して3年目だそうです。文科系で博士まで進んですんなり就職できたなんて、日本人の学生だってめったにいないのではないでしょうか。しかも、自分の専門が十二分に生かせる仕事に就いているのです。「教授が推薦してくれたので…」と言っていましたが、教授が推薦したくなるほど優秀だったのです。

Mさんは、KCPにいた時は、まじめな学生でしたが、特別に優秀な学生ではありませんでした。K大学と言っても、みなさんが真っ先に思い描くあのK大学ではありません。でも、目の前のMさんの日本語は、外国人っぽいアクセントもなく、実にこなれていました。K大学進学後も、まじめに自分を鍛え続けたことがよくわかりました。あのK大学に進んだ学生でも、今のMさんほど自然な日本語が使えるようになる人はほとんどいないんじゃないかな。Mさんは、KCPよりもK大学で日本語力を伸ばしました。それも、日本語教師が驚くほど。

Mさんは、博士としての学識経験を仕事の上で存分に発揮しています。その気になれば今後ずっと日本にいられる就職先です。確かに、K大学はいわゆる有名大学ではありませんが、日本で働き続けることを日本留学のゴールと考えたら、MさんはK大学に進学することでその夢をかなえています。

私たちは、学生たちに“いい大学”に進学してほしいと思っていますが、それよりも、もっとずっと先の、“いい就職”とか社会人としての成功とかのほうを望んでいます。ですから、学生たちには大学の名前だけに振り回されるような近視眼的な行動は取ってほしくないです。進学先でどれだけ有意義な勉強をするかこそ、日本留学の成否を決めるのです。

「今度、学生たちに講演してもらおうかな」とMさんに冗談半分に言いましたが、本気で考えてもいいかもしれません。

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丸ノ内線が止まると

11月21日(木)

今朝は丸ノ内線が一時止まったため、午前クラスの先生方の中には授業開始時刻に間に合うかどうかわからないと連絡をくださった方もいらっしゃいました。緊急に代講の手配をしましたが、四ツ谷から歩いて息を弾ませながら5分前ぐらいに職員室に入ってこられたH先生はじめ、みなさんどうにか授業には間に合いました。

9時2分前ぐらいに教室のドアを開けると、学生は5人ほどしかいませんでした。Sさんが自宅最寄り駅で撮った丸ノ内線運転見合わせの写真を送ってきていましたから、不吉な予感はしていましたが、これほどまでとは…。駆け込みが何人かいましたが、出席を取った時点でそろったのがクラスの半数ほど。丸ノ内線は利用する学生が多いですから、止まると影響が大きいのです。

あんまり張り切って授業をどんどん進めちゃうと、単なる寝坊とは違って不可抗力で授業開始に間に合わなかった学生たちに気の毒ですから、いつもよりゆっくり目にやっていきました。こういう時は、脱線のネタがたくさんあると重宝しますね。そんなこんなをしているうちに、30分ほどでクラスの8割方がそろいました。みんな、遅延証明書を持っていました。

問題は、残りの2割です。Gさんは後半の選択授業も私のクラスで、その時にはいました。「すみません。寝坊して、目が覚めたら9時半でした」と正直に申告。Yさんは選択授業の直前に1階で見かけましたが、こそこそっと隠れてしまいました。怪しいこと極まりありません。でも、曲がりなりにも学校へ来たのですから、よしとしましょう。

MさんとJさんは無断欠席。ことにJさんは今学期に入ってから3回ぐらい出席状況について注意しているのに、丸ノ内線とは関係ないのに、選択授業も欠席でした。どうも私を避けているような気がしてなりません。それでもいいですけど、最終的に自分で責任を取ってもらうほかありません。

授業が終わって職員室に戻ると、AさんとCさんから進路相談と面接練習の予約が。暖簾に腕押しみたいなJさんに関わっている暇などありません。

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期待

11月18日(月)

最近、Rさんが進学に燃えています。去年、私が初級で受け持った時は、日本へ来て間もないのに生活に疲れたような顔をしていて、何事に対しても覇気が感じられませんでした。案の定、順調に進級することはできず、あっちこっちでつまずきながらどうにか中級まで上がってきました。

勉強への意欲が見られなかったのは、Rさんのせいだけではありません。親から過剰な期待をかけられ、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた点も見逃せません。親が言ってくる超一流大学は無理なので、Rさんがこんな大学はどうかと提案したこともありました。でも、「そんな大学はダメ」と一蹴されてしまいました。

日本という国は好きだけど、だから1日でも長くいたいけど、親が進める大学は入れそうもなく、自分が手が届きそうな大学は親が認めてくれず、Rさんは八方ふさがりの日々が続いていました。しかし、最近、この期に及んでようやく親が折れてくれたそうです。そのため、がぜんやる気が出てきたというわけです。

やる気が湧いてくるのが、1年遅かったと思います。初級のうちから実現可能な目標を設定し、それに向かって努力していける環境が整っていれば、Rさんはもっともっと力を伸ばせたと思います。親が子供に期待を寄せるのは当然の心情です。厄介払いで留学させられて日本に流れ着いたと言わんばかりの、親に全く期待されない学生も困りものですが、何事も、過ぎたるは猶及ばざるが如しです。期待のし過ぎも子供の芽を摘んでしまいます。

ここまでくれば、私たちも指導のし甲斐があります。あとは、Rさんのやる気を志望校の先生方に伝わる形で表現することに力を貸すだけです。

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暗闇

11月14日(木)

今朝の新聞によると、10日(日)に行われたEJUの大阪会場で、試験問題の冊数が足りなくて試験が中止されたそうです。その人たちの試験は、23日(土)に行われるとのことです。EJUの実施機関・日本学生支援機構は、印刷所に発注する際に数を間違えたと言っていますが、間抜けた話だと思います。

機構は、23日の試験を受ける受験生の交通費や宿泊費を出すと言っていますが、そういう問題じゃありません。まず、それまで緊張を保ち続けるのは、受験生にとってとても辛いことです。特に、来年4月に進学するつもりで勉強してきた、高得点を狙っている受験生はたまったものじゃないでしょう。海外から大阪まで受験に来て、むなしく帰国した受験生もいるとのことです。そういった受験生は、10日と同じコンディションで23日の試験を受けられるでしょうか。まさか、準備期間が2週間伸びたから有利なはずだなどと考えていないでしょうね、機構さん。

それから、23日が大学独自試験日だったらどうするんですか。その大学への進学をあきらめろとでも言うのでしょうか。EJUを捨てて、今までの努力をどぶに捨てろということでしょうか。

そもそも、こうした不祥事を3日も隠してきたというのは、どういう根性なのでしょう。私は別ルートで11日にこの事実を知りましたが、その後一向に公になる気配学、不思議に思っていました。そして、昨日、責任者の記者会見もせず、HPに事務的なお知らせを載せただけで済ませてしまったのです。そのお知らせも、14日19時現在、見られません。闇の葬ろうという姿勢が見え見えです。これが共通テストだったら上層部は切腹物です。試験のやり直しと交通費支払いでお茶を濁されてしまうなんて、やっぱり留学生は日本の大学において添え物にすぎないんですね。

 

 

 

 

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大車輪の活躍

11月12日(火)

毎朝職員室を掃除してくれているHさんは、長年地元にお住まいの方です。毎日「老人会の仕事が忙しくて困っちゃう」と言っては笑っています。昨日は、新宿御苑で菊見の会があったそうです。なんでも、新宿御苑では今年から菊のライトアップを始めたとかで、幻想的な菊の写真を見せてもらいました。闇夜に浮かぶ菊人形は、中途半端にリアルで、ちょっと気味が悪かったですけど。

そのほかにも、カラオケ教室とか輪投げ大会とか交通安全週間の活動とかバス旅行とか、いったいこの地区のお年寄りはいつのんびりするんだろうというくらい、活発に動き回っています。しかもHさんは、国の基準で言う“後期高齢者”であるにもかかわらず、どの活動にも中心になって動いています。「あたしよりもっと年寄りがいっぱいいるからね」と、笑い飛ばしています。

ここ新宿1丁目は、長年住みついている人が多いようです。もちろん、マンションの住民なんかはしょっちゅう入れ替わっているでしょうが、そうでないところの人たちは、長年住みついていて、Hさんのお友達というわけです。みんなが顔見知りで、家族構成もわかっていて、区議会議員ですら生まれた時から知っていますから、“〇〇ちゃん”です。

KCPもここに居ついて30年ほどになりますから、Hさんにも地元の学校と見てもらっているようです。だからこそ、お掃除に来てくれるのであり、地元のお祭りにも誘ってくれるのであり、それがKCPが地元ともに生きていく礎となっています。KCPも、バザーにお誘いしたり先学期のアートウィークの際にも声をおかけしたりしています。

明日はどんな活躍の話が聞けるのかな。

 

 

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上級レベルの聞かせる発表

11月11日(月)

毎週月曜日に最上級レベルを一緒に担当しているY先生がお休みだったため、2クラス合同の授業をしました。普通の授業はやりにくいので、流行語大賞にノミネートされた言葉を1つ選んで、それを調べてみんなにわかるように発表してもらいました。1人1つだと時間の問題もありますから、2人で1つを調べ、2人で分担して発表するということにしました。

だから、スマホで調べてもいいのですが、サイトに載っている説明文をそのまま読み上げてはいけません。それを自分なりに理解して、かみ砕いて、聞き手である他の学生たちに伝えるのです。教室の都合でパワーポイントが使えないという制約も加わりました。作業が始まると、2人組ですから、黙々とというよりはお互い意見を出し合って内容をまとめているようでした。

制限時間が来て、発表です。いつもより広い教室でしたが、どの学生も、教室の一番後ろに構えた私まで声が届きました。私が知らなかったノミネート語を取り上げたグループもありましたが、発表を聞いたら言葉の意味も背景もよくわかりました。何より、棒読み禁止というルールをきちんと守り、調べた内容を再構成して発表してくれたことに感心しました。さすが最上級レベルの面々ですね。

私は、今学期、この1つ下のレベルも、もう1つ下のレベルも教えていますが、そのクラスの学生たちは、これだけの発表は無理でしょうね。うちで調べた内容をまとめる時間が必要です。その時間を与えても、難解な言葉をそのまま口走っちゃう学生が続出するような気がします。

最上級レベルともなれば、毎日文法だ読解だという授業じゃもちません。こういうちょっとひねったことをする日も、たまには設けるべきですね。

 

 

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改革になる?

11月2日(土)

文部科学省が、来年度から実施する予定だった大学入試への英語の民間試験の導入を延期しました。はたで見ていて当然だろうなと思いました。もし、英語の民間試験利用がそのまま進められていたら、大勢の日本人高校生が受験するため、留学生のTOEFLなどの受験が今までよりずっと難しくなったかもしれません。これにどのように対処すべきか考え始めていましたが、こちらもしばらく考えなくてもよさそうです。

でも、同時に、留学生入試においてはすでに同じようなことが行われているのになあとも思いました。

導入延期の理由=導入反対意見の1つに、複数の英語試験を公平に評価できるのかというものがあります。留学生入試は、ずっと前からTOEFL、TOEIC、IELTSなどどれでもいいからスコアを提出しろという大学がたくさんあります。これらの大学は、果たして今まで英語試験のスコアを公平に評価していたのでしょうか。それとも、単に足切りに使っていただけなのでしょうか。他の評価が同等だったら英語試験で合否を決めるという発想だったのでしょうか。

住んでいる地域により受験しやすかったりしにくかったりするというのは、日本語学校の大部分が大都市に偏在していますから、留学生入試にはあまり当てはまらないでしょう。それでも、大都市以外の日本語学校の学生は、こうしたテストを受けるために遠征していたと思われます。また、母国から直接受験する場合、その学生がそういった試験を受けやすいかどうかなんて、考慮していなかったでしょうね。留学生の身の丈なんか、考慮の外に違いありません。

留学生入試を受ける留学生の数は、大学入学共通テストを受ける日本人高校生の数よりはるかに少ないです。また、それこそ日本語力が不十分なこともあり、不満の声も上げにくいでしょう。だから、多少の無理や不公平は押し通してしまえという考えだったとしたら、大学や文部科学省は、留学生に来てほしいとか言いながら、ずいぶんとひどい仕打ちをしていたものです。

KCPの学生たちとともに鍛えあう存在になる日本人高校生が余計なことで頭をなませる必要のない制度を作り上げてほしいと思っています。

 

 

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