Category Archives: 授業

次の学期で

12月7日(月)

先月から、入国後の待機期間を終えた新入生が来始めています。レベルテストをしてレベルを決定するのは今までと変わりありませんが、今回は学期の途中から既存のクラスで授業を受け始めるケースがほとんどですから、私たちも手探りの部分があります。もはや期末テストまで2週間ほどですから、今からとなると1月期も同じレベルで勉強するケースも多いです。

大半が初級ですが、私が担当している中級クラスにも数名加わりました。次の学期も同じレベルというと何となく不満なところもあるようですが、聴解の生教材を聞かせると、黙ってしまいます。JLPTの練習問題など、作られた教材を聞き答えを選ぶ訓練はしてきましたが、まとまった話を聞いて内容を把握し、それを表現するとなると、KCPでずっと鍛えられてきた学生にはかなわないようです。全然聞き取れず、自信を失ったという新入生もいました。来学期も同じレベルで実力を蓄えることに納得したようです。

まあ、焦って1つ上のレベルに入ったところで、4月からの学期では同じクラスになってしまうでしょう。現在上級に在籍している学生たちは、みんな卒業しますから、今、中級の学生で、4月以降も残る学生が最上級クラスを構成することになるのです。そういうわけで、長期的に考えたら、基礎部分の穴をしっかり埋めておくことの方が、大きく伸びることにつながり、受験で好結果をもたらすことになるでしょう。

そういう学生たちを見ていると、学生たちがどうして日本で勉強したがるのかも見えてきます。問題集や教科書では培えない力を得たいのです。オンラインなら国でも受けられますが、そういう授業では学べないものに浸りたいのです。それに応えてこそ、学生の求める学校であり、理想的な教師なのです。

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女の人は‥‥

11月28日(土)

EJUでもJLPTでも、聴解問題では「女の人はこれから何をしますか」とか「男の人はどうして会社を休みましたか」とかという問題が多いです。これは、高い声は女性、低い声は男性という暗黙の了解の上に成り立っています。外国人対象の試験でこういう出題をしているのですから、これは国際的な了解事項なのでしょう。私もそれで問題ないと思っていますが、今後もこれでいけるかとなると、どうでしょう。

何でこんなことを言うかというと、例えば、低い声で性自認が女性という人が上述のような聴解問題に取り組んだら、その問題を違和感なく受け止められるだろうかと思うからです。少し前からインターネットのアンケートでは、性別が男性、女性のほかにその他とか答えたくないとかという選択肢が加えられています。「その他」の人たちが、心にモヤモヤを抱くことなく答えられる問題にしなければいけないんじゃないかと思うのです。

ほかの言語の試験はどうなのでしょう。性的マイノリティーに関して日本よりうるさそうな国で使われている言葉の試験だったら、「女の人は…」などと言わなくてもいいように問題を工夫して作っているような気がします。

そもそも私が考えすぎなのかな。みんな心が広くて、「男の人」は低い声の人を指すと割り切って、ないしはそう考えるのが受験のテクニックだとして、淡々と問題に取り組んでいるのかもしれません。案外、ドイツ語やフランス語の名詞の性みたいなものだとして、気にも留めていなかったりして‥‥。

授業で聴解問題を扱うときは、いつもどぎまぎします。どうすれば、心穏やかに聴解の授業ができるんでしょうか。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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道半ば

11月10日(火)

先週の火曜日は休日でしたから、超級の進学クラスに入るのは2週間ぶりです。オンライン授業は担当していましたからそんなに久しぶりという感じではありませんでしたが、顔を合わせると、やはり、オンラインとは違った趣を感じます。

EJUが終わって何か変わっているかなと思いましたが、これから受験本番の学生たちばかりですから、ある種の緊張感が漂っていることは変わりありませんでした。しかし、だからこそ、志望理由書をまだ書いていないとか、出願書類に手を付けていないとか、そもそも志望校に迷っているとか、そういう学生が浮き上がって見えてきました。出願書類の最終点検などというのは、進んでいる方です。

そんな中、授業後にCさんがこっそり合格の報告をしてくれました。面接本番で聞かれたことが私と一緒に面接練習したことと同じだったので、自信を持って答えられたとのことでした。私たち教師は、練習の相手まではできますが、その成果を本番で発揮できるかどうかは学生自身の実力です。Cさんは「先生のおかげです」と言ってくれましたが、Cさんにはその志望校に合格するだけの地力があったのです。直前の練習の様子では落ちてもしかたがないと思っていました。それを合格ライン以上に持って行ったのは、Cさんの底力であり執念です。

Cさんは進学コースの学生で、初級の頃はKCPの進学授業を受けていました。しかし、それが難しかったのか、効率が悪いと思ったのか、中級ぐらいから離れていきました。しかし、最後に頼ったのは私たちでした。行ったきり帰ってこず不合格を重ねる学生が少なくない中、よく戻ってきてくれたと思います。

明日はこのクラスの学生2人の志望理由書を見る約束をしました。どんな展開になるでしょう。

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慣れない話題

10月28日(水)

A先生の代講で、昨日に引き続き大学進学クラスに入りました。ただし、オンライン授業で。このクラスでは、オンラインの日には、大学の講義を想定して、10分のまとまった話を聞き、その内容確認やそれに関しての議論をするという授業をしてきました。今までは社会科学系の話題が中心だったので、私には理科系の話題を取り上げてほしいというA先生からの要望がありました。

理科系と言っても幅広いのですが、間近に迫ったEJUのことを考えると、生物についての話を聞かせるのがよかろうという結論に至りました。EJUの日本語には、聴解も聴読解も読解も、生物系の講義や資料や文章が登場することが多いからです。少しでもそういう方面の、知識とまではいかなくても、語句ぐらいには触れさせようと思いました。

しかし、失敗でしたね。やさしめの教材を選んだつもりでしたが、学生たちにとっては未知の語彙や概念が連続し、Kさんなんかはさじを投げてしまったような顔をしていました。聞かせる前に導入を行いましたが、全然足りなかったようです。

考えてみれば、聴解にせよ聴読解にせよ、1問1分程度の話の長さです。また、読解の文章も、後半の長文問題でも2、3分で読めてしまう長さです。専門用語がバンバン出てくる10分の話は、学生たちには厳しかったのでしょう。

社会科学系なら、若干難しい話でも、どこかで聞いたことがあることが多いです。学生の頭の中には概念のネットワークが多少なりとも出来上がっているものです。しかし、“唾液のアミラーゼ”などという言葉に反応できるのは、少数派の理科系志望の学生だけです。おかげで、いつも居眠りばかりのHさんが大活躍したという副産物は得られましたが。

授業の終わりごろは、学生たちはだいぶ疲れているみたいでしたから、予定を変更して、“体にいいことしてる?”ということで、ブレークアウトセッションをしました。みんな、いくらかは復活したようでした。

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机の上に

10月27日(火)

大学進学クラスは練習問題を配ると何も言わずに取り組みます。問題を解かない限り自分たちに明日はないといった感じで、カリカリと答えを書き始めます。

そんなクラスの中で、Mさんは昨日L大学に合格しました。もう緊張の糸が切れてしまったのか、やる気が全く感じられません。問題を見てもぼ~ッとしているというか、本人的には教師にわからないように居眠りをしています。ゆうべ、祝杯を挙げ過ぎたのでしょうか。朝一番に教室に入ったのは偉いですが、これでは意味がありません。あとで事情聴取をと思っていたら、授業が終わるや否や、脱兎のごとく消え去りました。

その点Hさんは11月のEJUに勝負をかけますから真剣そのものです。力を伸ばそうという意欲がほとばしり出ています。Sさんも同じ立場ですからそうあるべきなのですが、こちらからはそういうオーラが感じられません。

そんな観察をしながらTさんの机の上を見ると、初級クラスで配られるプリントが入ったファイルが置かれていました。授業中にもらったプリント類が几帳面に整理されていることがうかがえました。もらった順番に漫然とプリントをファイルに突っ込むのではなく、よく使うものを厳選して、記憶が怪しいと思ったらすぐさま参照できるようにしているのでしょう。そういう勉強のしかたをしているから、今学期、下のレベルのクラスから選ばれてこのクラスに入れたのです。基礎をおろそかにしないということがいかに大事かよくわかります。オンライン授業のたびに前日もらったプリントや毎日使っているはずの教科書を探しまくる学生どもに、Tさんのファイルを見せてやりたいです。

Yさんは盛んにスマホをいじっています。R大学の合格発表があったはずですが、ダメだったのでしょう。心ここにあらずで、同じ大学を受けた友人たちと情報交換をしているに違いありません。授業後に聞いたら、その通りでした。自分よりも成績の悪い友人が受かったことを憤慨していました。しかし、怒っている暇はありません。YさんはR大学に受かるつもりでいましたから、他校の出願準備は何もしていません。すぐに取り掛からないと行き場がなくなってしまいます。

いろいろな学生をまとめて、クラス全体を盛り上げていかないと、結果につながりません。

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指名してみると

10月26日(月)

オンライン授業の日は、とにかく指名しまくります。油断していると、コンピューターの向こう側で何をしているかわかりませんから。対面授業よりも細かくいろいろなことを学生に聞きます。口を動かすという面もありますが、学生の注意をこちらに向けさせるという意味の方が強いです。居眠り半分で授業を受けさせたら、日本語力が付かないことは言うまでもなく、手抜きに対する罪悪感が薄れてしまうことの方が大きな問題です。

ということで、文法の時間にJさんに例文を読ませようと指名しました。するとJさんは、「学校に教科書を置いていますから、今、教科書がありません」と言います。こいつ、学校に教科書を置きっぱなしにしているのかなと思いました。でも、状況をよく確かめると、先週末、学校に教科書を忘れたようでした。

対面授業日以外は学校へ来てはいけないと指導していますが、教科書を忘れたのなら、事前に電話を1本かけてくれれば、教科書を渡すことぐらいできました。週末受験続きだったらまだしも、Jさんはそうでもなさそうです。勉強する気がないのでしょうか。

Jさんは極端な例ですが、指名しても要領を得ない学生は後を絶ちません。「先生、どこを読みますか」などと聞いたり、全然違うところを読んだりという学生は、集中力がない証拠。何か別のことをしていたのかもしれません。指名後しばらく反応がない学生も、怪しいです。わからないのだとしたら予習不足です。どこをやっているのかわからないのだとしたら、聞く力が足りないのかもしれません。

逆に、こういう学生に合わせてしまうと、まじめに予習して授業に参加している学生たちは、つまらなくなってしまいます。そんないい学生向けに、ちょっと知的好奇心をくすぐる仕組みもちりばめておかなければなりません。

そういう学生たちを引っ張って、どうにかこうにかその日の目標地点までたどり着くのは、けっこうな重労働です。

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明日はリベンジ

10月20日(火)

例文は授業を映す鏡と申しましょうか、学生が提出した例文を見ると、授業の出来がよくわかります。今朝までに、昨日中級レベルで行ったオンライン授業の例文が届きましたが、そこには昨日の授業の抜け落ちが如実に表れています。

もう少しこちらから例文を提示したり学生に練習させたりしたいところだったのですが、時間に追われて学生の「わかりました」という声を信じて次の科目に移ってしまいました。それが敗着だったようで、説明の足りなかったところをわざと突いてくるかのように、学生たちは誤文を作ってくれました。

上級のクラスだったら、教師の説明不足を学生が補ってくれることもよくあります。日本語文法に慣れて勘が働くようになっているため、学生たちは既習の文法との比較を無意識のうちに行い、おそらくこういうことだろうと理解してしまうのです。教師は、学生の理解力の高さに助けられて授業を進めている面もあります。

中級の学生は、そこまで手練れではありません。経験値が十分ではありませんから、上級の学生に対してよりも手厚く説明したり練習したりしなければなりません。その時間がなかったというのは、完全に教師の作戦ミスです。学生の予習が想像以上に足りなかったという言い訳はありますが、それに全面的に責任を押し付けることはできません。

明日は、偶然にも、昨日と同じ学生を相手に、代講でオンライン授業をします。図らずしてリベンジの機会が与えられました。今度は学生の予習不足も織り込んで、抜け落ちがないように授業が進められるよう、準備を進めています。

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わかりましたか

10月16日(金)

月曜日のこの稿に書いた超級向けオンライン講義をしました。講義の内容を聞き取るということが、この授業の主たる目的ですから、前もって原稿を書き、それに沿ったレジュメを作りました。正確に言うと、この授業を企画なさったH先生に原稿をお送りし、H先生の目でご覧になって学生に聞き取らせたいところを中心に、資料を作っていただきました。

原稿をそのまま読むと10分かそこらですが、パワーポイントを見せてその説明を加えると15分くらい、5分ほど無駄話をして、計画通りの20分にしました。大学の先生も無駄話をしますから、また、そんなノイズをのけて話題の中心を聞き逃さないようにするのも、学生たちがこれから必要になる聴解力です。

話が終わってから学生たちに理解度を確認する質問をしてみました。H先生が作ってくださった資料に基づいてあれこれ聞いたのですが、オンラインの向こう側でぼ~っとしているだろうなと思われる学生を指名すると、やはり、要領のいい答えが返ってきませんでした。普段はしっかりしている学生を指名しても、聞き慣れない専門用語が含まれていると、うまく答えられないケースがありました。

聞いた内容を簡潔にまとめることに関しても、課題があるようです。聞き取れてはいるのでしょうが、その趣旨を過不足なく伝えるとなると、まだまだ難しかったみたいです。受け取った情報を加工して発信する力を開発していかなければなりません。

でも、的を射た質問もいくつか出てきましたから、鍛えようによっては大きく伸びていくことでしょう。入試の先も見ていかなきゃね。

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頭脳の再構築

10月13日(火)

先週金曜日から新学期が始まっていますが、私は土曜日の受験講座を担当しただけで、クラス授業をしていません。もっぱら、日本語教師養成講座に携わっています。

10月から私が行ってきた授業は、中上級の文法です。N1の文法項目すべてについて懇切丁寧に解説していくなどということをしていたら、年末までかかっても終わりませんから、文法項目のとらえ方、どこに目を付けるかについて話してきました。特に、教師が例文を通して文法項目の意味を明確に理解することや、言葉による説明ではなく例文によって学習者に文法項目を教えるということに力を入れました。

上級になると、語法と文法が相互乗り入れするような形でその境界があいまいになってきます。また、文章や発話の文脈を捕らえて書き手・聞き手の意味するところを理解することが求められます。そういったことから、文法らしい文法よりも少し外側の事柄にも触れてきました。

そんなことよりも何よりも、受講生のみなさんの頭の中に、文法的な発想を植え付けること、文法理解の回路網を構築することを目指してきました。街なかで使われている敬語の間違いに気づいたり、主語と述語が一致していない、いわゆるねじれ文に違和感を抱いたり、興味深い言葉の使い方を見つけて感心したりさらなる応用例を探したりなどして、常日頃から文法を意識し、頭を訓練していってもらいたいのです。こういう訓練の積み重ねが、いずれは授業に生きてきます。

わずか半月ほどの私の授業でしたが、初回に比べれば受講生のみなさんは文法的な生活が送れるようになってきたように感じます。来週の月曜日は、今期の中上級文法のテストです。少しずつ形作られつつある文法的頭脳を駆使して、合格点を取ってもらいたいです。

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