Category Archives: 学生

初テストの出来栄え

4月21日(月)

レベル1のクラスで、初めての文法テストをしました。入学後2週間ですから、文法と言っても「コーヒーをのみますか。――いいえ、のみません」などという程度です。「ありがとうございます。でも、刺激物は控えておりまして…」なんていう答えは求めていません。

試験時間は20分。早々に解答し終えた学生もいましたが、その答えを覗き見ると、随所に間違いがありました。試験中ですから、学生個人に対しては間違いを指摘するわけにはいきません。「はい、あと5分です。みなさんの答え、本当にいいですか。“てんてん”、小さい“やゆよ”、小さい“つ”、長い音、大丈夫ですか。もう一度よーく見てください」と全体に注意するのが精一杯です。これだって、こういう注意をしなかったクラスに対して不公平だと言われてもしかたありません。

Mさんは、私の注意を聞いて、間違いを見つけて、直しました。しかし、Yさんは見直そうともしませんでした。レベル1だと、見直しても間違いに気づかない学生の方が多いものです。中級になると、こちらの思い通りに直してくれる学生が出てくるものなのですが。

さて、採点です。満点に近い学生からかろうじて0点を免れた学生まで、予想以上に点差が付きました。Sさんは不合格になってしまいました。来日が1週間近く遅れたので、授業で勉強・練習しなかったところがたくさん出たのが痛かったです。でも、この先必死に勉強すれば、まだまだ十分挽回可能です。

そのSさん、授業後に来日前に行われたテストの追試を受けて帰りました。また、授業に入った直後に行われたテストの不合格者への課題も提出しました。どちらも完璧な出来でした。昨日の宿題も、むしろ他の学生より高い内容を書いていました。この調子なら、次のテストは間違いなく合格でしょう。ただ、話す力がまだまだなのが気がかりです。

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伸びたなあ

4月19日(土)

Sさんは去年の10月期から理科系の日本語プラスを取っています。最初の学期は、11月のEJUの直前でしたから、EJU対策が中心でした。しかし、当時レベル3、中級にも達していなかったSさんには、授業の内容も私の日本語も難しく、何が何だか全然わかりませんでした。EJUが終わり、もう一度基礎からの授業になり、ようやく少しずつ話がわかってきました。

先学期は、授業を聞き、練習問題をし、ひたすら力を蓄えました。学期末には、過去問にもだいぶ歯が立つようになりました。

そして迎えた今学期、Sさんが取っている生物の授業は昨日から始まりました。半年前のSさんと同じように、レベル3の新しい学生が加わりました。オリエンテーションで生物の教科書に載っているような図を見せると、何の図かすぐに日本語で答えられました。問題文がやたら長い過去問も、少し時間はかかりましたが、正解でした。よくわからずにポカンとしていた同国人の新しい学生に、国の言葉で説明していました。

日本語でなくても、問題の解説ができるというのは、かなり実力をつけたという証拠です。人は教える間に教えられるといいます。わからない学生に教えるためには、自分自身の頭の中が整理されていなければなりません。Sさんの頭の中には、単に知識が堆積しているだけではなく、それがきちんと体系づけられているようです。もし、本当にそうなら、今度のEJUはかなり期待が持てます。

考えてみれば、Sさんももうすぐ上級のレベルにまで上ってきたのです。これぐらいできて当然かもしれません。毎週見ているとあまり感じられませんが、昨日みたいな姿をみると、成長を感じずにはいられません。

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早口言葉?

4月18日(金)

金曜日の最上級クラスには、「社会を知る」という授業があります。現代の社会問題に関して、動画を見たり新聞記事を読んだりなどして理解を深め、議論もするという内容です。たとえ理科系の学部や大学院に進学するにしても、現代社会に対して無知ではいけません。文科系なら面接や口頭試問、あるいは小論文において問われることだって考えられます。

授業の最初に、米の値段は高いかと聞いたら、全員が高いと感じているようでした。値段を聞くと4000円から5000円くらいで、現時点においては相場です。毎日ではないにせよ、自炊しているとのことですから、そのぐらいの出費はこたえるのでしょう。

その後、動画を見せ、それだけではわからない点を補足説明し、備蓄米放出までの背景や米不足に陥った原因などについて知ってもらいました。減反政策は、不思議な政策に映ったようでした。農家の高齢化も、学生にとっては気づきにくい点でした。

こういうように「社会を知る」ことがこの授業の主たる目標ですが、日本語の授業の一環ですから、普通の日本人と同じレベルの日本語理解力を着けていくこともまた、授業の太い柱です。学生たちに見せた動画の中に、2人の出演者のうちの1人がやたらと早口なのがありました。学生の様子を観察すると、途中からスマホをいじり始める学生が何人かいました。見終わった後で聞くと、やはり、早すぎてわからなかったと言っていました。

このクラスの学生が束になってもわからないとなると、少なからぬ日本人もわからないのではないでしょうか。それでは何かを訴えたことにはならないと思います。その方面では結構なのある方のようでしたが、本当に理解してもらえているのでしょうか。心配になりました。

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返却物を上手に使え

4月17日(木)

今学期は、週1回のクラスが3つあります。先週は初めての授業で、今週は2回目の授業でした。しかし、中6日で登板となると、先週覚えたつもりだった学生の顔と名前が、ものの見事に消え去っていました。非常に特徴のある学生は覚えていましたが、それ以外の学生は顔つきがかすかに記憶に残っている程度でした。

顔と名前をどうやって覚えるかというと、テストの時を利用します。テスト用紙に書かれた名前と外見を一致させます。学生たちは下を向いて問題を解いていますから、顔はよく見えません。そして、テストの時間が終わってテスト用紙を集めたら、それを見ながらどんどん指名し、テスト時間中に覚えた外見と名前と顔を一致させます。金髪短髪で丸顔の緑のジャケットはAさん、長髪小柄で茶色いフレームのメガネをかけているのはBさん、…というふうに記憶していきます。

返却物があると、ラッキーです。名前を読み上げると返事をしてくれます。その学生の席まで足を運んで、しっかり顔を合わせて渡し、記憶を強化します。返却物が複数あると、ラッキーと叫びたくなります。

木曜日のクラスも週1で2回目でした。名簿を見て顔が思い浮かぶのは、せいぜい5人。でも、昨日回収したと思われる例文が返却を待っています。名前を覚えることも練り込んで授業を組み立てていきました。

名簿を見ながらたくさん指名し、返却物は最後の仕上げに使いました。迷わず等の学生の席まで行って手渡せました。これで頭の中に入ったかな。でも、1週間たったら忘れているかもしれません。来週の木曜日が楽しみのような、怖いような…。

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朝の差し入れ

4月16日(水)

昨日は選択授業の小論文の授業があったのですが、会議やら日本語プラスやらで、全く読む時間がありませんでした。ですから、朝一番で、誰もいない職員室で読み始めました。朝は頭もさえているし、余計な仕事が舞い込む心配も少ないし、作文類の添削にはもってこいの時間です。

そういうわけで小論文を読むことに集中していると、6時半ごろでしょうか、職員室のドアを控えめにノックする音が聞こえました。“あ、やっぱり来たか”と思いながらドアを開けると、予想通り、そこにはMさんが立っていました。昨日の晩、事務局のCさんから、Mさんが朝早く学校へ来るかもしれないと言われていました。

Cさんによると、新入生のMさんは満員電車には絶対に乗りたくないので、始業日以来毎朝早く家を出て、学校の近くで時間をつぶしていたそうです。喫茶店もろくに開いていない時間帯なので、バス停のベンチで過ごした日もありました。それを不憫に思ったCさんが、それなら金原がいることだし、校舎内に入れてあげたらどうかということになったのです。

「先生、これどうぞ」と、Mさんは紙袋を差し出しました。お礼のつもりなのでしょうか、スウィーツの差し入れをいただきました。授業が始まる9時近くまで2時間余り、ラウンジで勉強すると言っていました。

Mさんはご両親の元で大切に育てられたらしく、まじめで素直な学生です。大切に育てられすぎたので、満員電車は絶対ダメなのかもしれません。日本人からすると常識外れっぽいところもありますが、日本の生活に慣れてくれば、いつの間にか乗れるようになっているかもしれません。

Mさんからの差し入れをいただきながら小論文を読みましたが、難解なものばかりでした。1つの文が数行にわたり、原稿用紙1枚に段落がないというのが続きました。スウィーツがなかったら、7時半には心が折れていたかもしれません。

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オリエンテーション

4月15日(火)

今学期の日本語プラスが始まりました。いや、全体としては昨日から始まっているのですが、私は、昨日は午後クラスでしたから、1日遅れで始まったという次第です。

まず、大学進学準備と称して、大学進学全般に関するオリエンテーションをしました。学生たちが勘違いするのは、進学するのは1年後ですが、実質的な勝負は6月のEJUすなわちちょうど2か月後だという点です。私立大学の入試は9~11月ぐらいが山場ですが、合格発表が年内となると11月のEJUの成績は使えません。6月のEJUでいい点数を取らない限り、“いい大学”には入れないのです。

毎年口を酸っぱくして言い続けているのですが、入試は早く動いた学生が勝つのです。この4月に進学した卒業生たちも、1年前の4月から「先生、どうしたらいいですか」と騒いでいた学生たちが、第1志望かそれに近いところに進学しています。そういう実例も示しながら学生たちの尻を叩きましたが、今年の学生たちはどうでしょう。

次は化学。化学と物理、化学と生物という組み合わせで受験する学生ばかりですから、理科全般についてのオリエンネーションをしました。化学と物理は、平均点が50点をちょっと超える程度ですが、それで満足していてはいけません。最低でも60点、“いい大学”を目指すなら70点は取らなければなりません。生物は平均点が65点ぐらいですから、“いい大学”に入るには80点は必要でしょう。

さらに、カタカナ語から逃げていては全体に成績は伸ばせません。英語の発音とも微妙に違う不自然な発音かもしれませんが、それが日本語の専門用語なのですから、覚えるほかありません。

化学の受講生も、6月15日のEJUに勝負をかけなければなりません。生易しいことではありませんが、どうにか乗り越えてもらいたいものです。

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間違って登録

4月14日(月)

先週末に日本語プラスの学生登録をし、各学生にメールで時間割を送りました。週が明けると、あちこちから登録訂正の依頼が来ました。こちらの入力ミスかもしれないと思い、学生がこちらに送ってきたデータと照らし合わせてみると、入力ミスはありませんでした。学生の入力ミスか勘違いばかりでした。

入力フォームはそんなに難しく作ったつもりはないんですがねえ。やっぱり、日本語が読み取れていないんだなあと思いました。入力フォームには時間割表までつけておいたのに、同じ曜日・時間帯の科目を2つ登録してしまった学生がいました。文系と理系の数学の両方にチェックを入れた学生もいました。

時間割を見ながら自分に必要な授業を見つけ出して科目登録するというのは、大学に入ったら毎学期必ずすることです。大学の科目登録よりもはるかに単純なKCPの日本語プラスの登録すら満足にできないようだと、先行きは明るくありません。

こういうことも含めて、日本で勉強していくには何が必要か、日本語でこんなことができるようになっていなければ進学先で困ってしまう、などということも実地に示して指導していくのも、日本語学校の役割です。そう考えて、メールを見て違うと訴えてきた学生には、ちゃんと話を聞いて、最終的には修正に応じます。

だから、一番困るのは、何も訴えてこない学生です。日本語プラスの時間割が送られてきているよとクラスの先生から言われているにもかかわらずメールをチェックせず、登録した授業に出ず、結局不本意な進学に甘んじざるを得なかった学生が、毎年必ず出てきます。

いずれにしても、2026年度入試の戦いはもう始まっています。2か月後の6月のEJUが最初の決戦です。

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看板を磨く

4月11日(金)

最上級クラスの授業をしました。先学期上級に在籍していて、3月に卒業しなかった学生たちを集めたクラスです。新入生もいます。先学期からの継続組は全員知っているので、新入生だけ顔と名前を覚えればいいわけです。昨日までとは打って変わって、ずいぶん楽でした。

いちおうこのクラスの担任ですから、担任がましいこともしなければなりません。始業日に今学期の目標、今年度の目標を書いてもらいましたから、比較的多くの学生が取り上げた事柄についてコメントしました。

最上級クラスですから、EJU350点以上とか、N1合格とかといった目標を掲げた学生が多いです。EJU350点はかなりの高得点と言えますし、N1に合格すると言っても、CEFRのC1に相当するとされる142点以上を取ってもらいたいです。このぐらいの成績を挙げるとなると、普通に勉強しただけでは足りません。正解を増やす、点数を上げるという発想ではなく、間違いを減らす、ミスをなくすということを考えていかなければなりません。日本語の実力そのものとは違った次元での戦いが待ち構えています。そんなことを伝えると、学生たちは驚いたような顔をしていました。

遅刻をしない、出席率80%をキープする、などといった目標もあちこちに書かれていました。そのためには夜早く寝るとか、病気にならないようにするとか書いている学生がほとんどでしたが、もう一歩踏み込んで考えなければ、この目標は達成できないでしょう。夜早くするためにはどうするのか、病気にならないための対策は何か、そこをはっきりさせずにただ漫然と目標を掲げるだけでは、いつまで経っても出席状況の改善にhつながりません。

アドバイスというよりは、小言ばかりを並べた感じになってしまいましたが、これが私の偽らざる感想です。このクラスは、今後1年間、KCPの良心であり、看板でもあります。それにふさわしい風格を、一刻も早く身に付けてもらいたいです。

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2人の卒業生

4月10日(木)

「先生、少し前の卒業生なんですが、先生に会いたいって来てます」と声をかけられ、受付まで出て行くと、Aさんがいました。もう少し正確に言うと、すっかり大人になったAさんが立っていました。KCPで勉強していた時は、まだ幼さが残っていましたが、目の前のAさんは、大人の雰囲気をまとっていました。来日したお母様と一緒だったので、孝行娘が親を案内してきた感じがして、しっかり者になったなあと感じ入りました。

Aさんはオンライン授業やイレギュラー入試を体験した時期の学生で、“お互い苦しい時期を乗り切ったね”という連帯感みたいなものも共有しています。日本へ来たはいいけれども、その後“鎖国”になってしまい、何が何でもKCPで勉強を続けるほかなく、さぞかし心細かったことでしょう。Aさんはそれを跳ね返そうとしていたのか、いつもまなじりを釣り上げて気負っているふうに見えました。語気の強い話し方が印象に残っていました。私に向かって話しかけているAさんは穏やかな目元をしていましたが、語気の強さはあのころと変わっていませんでした。あの頃の教室の雰囲気を思い出しました。

AさんはKCP卒業後Y大学に進学しました。そこを卒業し、今はT大学の大学院に通っています。今の研究を活かして起業するかもしれないなど、夢を語ってくれました。「会社が大きくなったら、KCPに寄付してね」なんて軽口をたたいたら、「もちろんそうします」と、かつてのAさんの口調で力強く宣言してくれました。10年後ぐらいかなあ、寄付が実現するのは…。

その後、ちょっと外に出たら、学校の前に車が止まっていました。3月に卒業したOさんが車のそばに立って、「運転してきました」と言うではありませんか。学校の駐輪場に置きっぱなしにしていた自転車を回収に来たそうです。確かに、卒業の直前に、運転免許の試験で学校を休んだこともありました。その車、1850万円だそうです。こちらは、親のすねをかじりまくる道楽息子のオーラが出まくっていました。

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わたしはできる?

4月9日(水)

今学期は、月曜日と水曜日がレベル1のクラスの担当です。レベル1は、言うまでもなく、大半の学生が新入生で、先学期成績が振るわずに進級できなかった学生がぽつりぽつりといる程度です。したがって、顔と名前が一致する学生はいません。プレースメントテストの結果を調べれば、誰ができそうとかあぶないかもしれないとかが、多少は見当が付きます。でも、リーダーシップがあるとか細かいところによく気がつくとか飽きっぽいとかわがままとか、性格的なところは皆目わかりません。“前学期担当の先生”というのがいませんから、引継ぎもありません。予備知識なしで授業に臨むわけです。そういう意味で、最初のうちは授業を組み立てるのに苦労します。

とはいうものの、授業でやり取りを進めていくと、そういったことが自然に見えてきます。まず、こちらは「こんにちは」とあいさつしたのにスマホを見続けているような学生は、要チェックです。出席を取る際に、手をわずかに上げるだけで返事をせず、目も合わせようとしない学生に対しても、警戒信号をともします。こういった見かけ上のアラームは、その後さらに突っ込んで見ていくと解除されることもよくあります。

Kさんは出席を取った時点で要注意リストに名前が載った学生です。連絡事項を伝えてから、昨日の宿題を回収しました。清音、濁音、半濁音のひらがなを書いてくることになっていました。ひとりひとりから用紙を集める時も、Kさんから受け取った用紙に素早く視線を走らせると、ひらがなから若干の違和感がにおいました。その直後、ひらがなのディクテーションをしました。単語を読み上げながら学生の字を見て回ると、なんと、Kさんは半分ぐらいのマスが空欄でした。音声と文字が一致していないのです。宿題は家で時間をかけてやりましたからどうにか乗り切れたものの、聞き取ってすぐに書かなければならないディクテーションとなると、お手上げだったのでしょう。もはや、第一級、いや、超特級の要観察学生です。授業後、事情聴取をしようと思っていたら、あっという間に消え去ってしまいました。警戒レベルは、さらに上がりました。

宿題をチェックしたり日報を書いたりした後、引継ぎを兼ねて担任のN先生に報告すると、Kさんは、昨日、レベル1ではなくレベル2のクラスに入りたいと言ってきたそうです。日本人の友達がいて、すでにアルバイトも始めているとか。日本人の友達とは、雰囲気や勢いでコミュニケーションができてしまうのでしょう。でも、KCPでの勉強は、それではすみません。日本での進学を希望しているのなら、なおさらのことです。

できるだけ早くKさんの発想を変えさせてあげないと、悲惨な運命が待ち受けています。

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