Category Archives: 進学

久しぶりの面接

2月8日(火)

Sさんは、先学期と先々学期、私のクラスでした。若干頭の固いところはありますが、真面目な学生です。字が汚いのが最大の欠点で、Sさんの例文やテストの解答用紙や作文を読むのに苦労させられたものです。

そのSさんが、T大学の指定校推薦に応募しました。昨年秋からいくつかの大学を受験しましたが、EJUの点数や英語の成績など、何かどこかで引っかかり続けて、どれもうまくいきませんでした。そして、志望学部が合うT大学の指定校推薦に応募するに至ったのです。その推薦者決定の面接を、授業が終わった午後に行いました。

授業はオンラインなのに、指定校推薦の面接のためだけに学校まで出て来いというわけにもいかず、オンラインでの面接になりました。ZOOMに入ってきたSさんは、スーツ姿でした。人は見かけで判断してはいけないと言うものの、やっぱり印象はよくなっちゃいますよね。この指定校推薦にかける意気込みは感じられました。

T大学の志望理由など、お決まりの質問への回答は難なくこなしました。しかし、ちょっとひねった質問をすると、言葉が滑らかでなくなります。ただ、こちらの問いかけに真摯に答えようとしていることは十分に伝わってきました。コミュニケーションは取れていますが、やはり話す練習は必要です。この辺がオンライン授業の課題ですね。

結論として、SさんをT大学に推薦することにしました。夏ごろのSさんにとって、T大学は第1志望でも第2志望でもなかったに違いありません。しかし、今、Sさんは、T大学の中で、自分で道を切り開こうとしています。この気持ちさえあれば、今までに受験した大学に劣らぬ、Sさんの人生において価値のある学問ができることでしょう。

面接が終わった後、さえわたった青空を見上げながらお昼を食べに出かけました。

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そうまでして

1月26日(水)

大学入学共通テストでカンニングが行われたようです。問題を写真に撮って家庭教師紹介サイトを通じて知り合った東大生に送ったと言います。その東大生は採用試験みたいなものだと思って、その問題を解いて送り返しました。何も知らないうちにカンニングの手伝いをさせられたわけです。これが事実だとしたら、その東大生にとってはとんだ災難というほかありません。

これが明るみに出たのは、当日の試験監督官による摘発ではなく、当の東大生の申し出からです。試験監督官は気が付かなかったのでしょうか。写真撮影、メール送信、そして返信の受信となれば、まさかコナンみたいな装備はしていないでしょうから、怪しげなしぐさが数回あったはずです。それをすべて見逃してこのような事態の発生を許したとなると、当然ほかにも同様の不正行為があったのではないかと疑わしくなります。

問題を外部に流出させた受験生がどんな人かはわかりません。偽計業務妨害罪で捕まったとしても、そのプロフィールが公になることはないでしょう。でも、どんな気持ちでこのような行為に及んだかは知りたいです。イチかバチかの勝負だったのでしょうか。ゲーム感覚のお遊びだったのでしょうか。追い詰められて精神に異常をきたしていたのでしょうか。

この稿でも何回か取り上げていますが、EJUでも、試験のたびに、カンニングの噂がささやかれます。やらなきゃ損と思っている受験生もいるとか。“いい大学”に入りたい気持ちはわかりますが、そんな無理をして入った大学で自分のためになる勉強ができるのでしょうか。日本人受験生にしても留学生にしても、先の長い人生なのですから、若いからこそ、ロングスパンで物事を考えてほしいなあ。

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後がない

1月20日(木)

1月期の受験講座は、6月のEJUを目指す学生たち向けの授業が始まります。化学は周期表、物理は等速直線運動と、基礎に戻ります。その一方で、先学期まで受験講座を受けていた学生たちの受験シーズンでもあり、面接練習などを依頼されることもよくあります。

受験講座から戻ると、Lさんが待っていました。親がどうしても国立大学と言うので、P大学、D大学、E大学に出願します。同じような学部学科に出願したならともかく、EJUの持ち点を基準に、興味の向かうままに学科を選んだので、生物やら機械やら、ベクトルが全くそろっていません。そういった学科で何が勉強できるかよくわからないから教えてくれという相談でした。

出願前ならそもそも論に立ち返って出願先の再考を促すところですが、今週末に面接という大学もあるくらいですから、そんな悠長なことは言っていられません。各大学のサイトを見せながら、見ておくべきポイントを教えていきました。こんなことは夏ぐらいにやっておくべきなのですが、その頃のLさんは私たちを全然頼りにしていませんでした。ぎりぎりになってから来られても、可能な指導は限られています。

Lさんの次はMさん。来週早々S大学の面接があるので、集中的に面接練習をしたいとのことでした。落ちたら帰国という背水の陣を敷いているのですが、Mさんの出願した学科はS大学の中でも屈指の競争率の学科です。それに加え、Sさんは11月のEJUで何かやらかしたらしく、実力よりもはるかに低い成績に終わっています。正直に言って、勝ち目の薄い勝負です。そういうことは承知の上で、やれるだけのことはやり、悔いが残らないようにしておこうというのがSさんの考えです。決意が固いようなので、引き受けることにしました。

Sさんと同じく、全滅だったら帰国すると言っていたWさんがT大学に合格したという知らせが聞こえてきました。Wさんも国立をいくつか受けると言っていましたから、面接練習が回ってくるかもしれません。なんだか忙しくなってきました。

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%の争い

1月18日(火)

今学期は、大部分の学生が3月で卒業していきます。進路が決まっている学生はそのまま4月から進学先に通えばいいのですが、現時点では未定の学生も少なくありません。その中の一部の学生は、入管が打ち出した特例により、4月以降もKCPで勉強します。入国が大幅に遅れたために計画通りの日本語学習ができなかった留学生への救済措置です。これにより、日本語学校の在籍期間が2年を超えても勉強が続けられるようになりました。

しかし、この救済措置は誰でも受けられるわけではありません。出席率が低かったら、進学先が決まらなかったのは、日本語力が足りなかったからではなく、日本語習得に対する熱心さが足りなかったからでしょとされてしまいます。日本語学校の世界は出席率がすべてを取り仕切っていますから、当然のことです。

午後、Qさんが職員室で先生方と話していたのはその件です。これから受験する大学もありますが、本人的にはもう1年勉強して“いい大学”に進もうと思っているようです。しかし、お手軽に休んだツケが回ってきました。救済してもらえないおそれもある数字になっていました。

国費留学生87名の入国が認められるそうです。日本に入国できないまま卒業修了の時期が迫ってきた留学生たちが対象です。私費留学生、それも日本語学校への留学生の入国が認められるのはいつのことでしょう。そういう人たちのことを考えたら、Qさんは今日本にいるのですから、とても恵まれています。その好条件をみすみす逃しちゃうのかなあ。そういう危機的状況だということがわかっているのでしょうか。

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久しぶりの超級クラス

1月12日(水)

今学期から、午前クラスの始業時刻を30分遅らせました。9時だとラッシュのピークにかかりますが、9:30始まりなら山場を越えていますから、多少なりとも密が避けられます。午後のクラスは、逆に、始業を30分早めました。そうすると、学生の帰宅時間帯が夕方のラッシュの直前になります。学生の安全を考えての変更ですが、学生たちは、「朝寝坊できていいや」とか「早く帰れてラッキー」とかって思っているだけかもしれません。

最上級クラスに代講が生じたので、そこに入りました。さすが最上級クラスだけあって、先学期の中級クラスとは日本語の通じぐあいが全然違います。ビザや日本語学校の在籍期間に関する複雑な話も、1回説明しただけで理解してくれました。

学生資料を見ると、このクラスの学生はみんな“いい学校”に進学することを目標に勉強してきました。すでに目標を達成した学生も、この3か月に勝負をかける学生もいます。いずれにしても、日本人の大学生や大学院生の中でも優秀な人たちに伍して勉強や研究をしていくことになります。とすると、進学したらおちおち日本語など勉強している暇などありません。

学問は議論です。議論とは相手の意見を正確に理解し、自分の主張を明確に相手に伝えることです。その繰り返しでお互いの考えが深まり、アウフヘーベンが生まれ、高みに達することができるのです。一方的にまくしたてたり、相手の言い分に聞き耳を立てたりしているだけでは、高い授業料を支払って高等教育の場に身を置く意味がありません。

だから、卒業式までにそういうことができるだけの日本語力を付けていってもらいたいのです。

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暗黙の指定席

12月13日(月)

いつものように教室で授業の準備をしていると、いつものように出席率100%のBさんが入ってきました。時々欠席しますが来るときは早いQさん、教室にかばんを置いてよく廊下で朝ご飯を食べるSさんなどは来ましたが、始業の9:30になってもLさん、Kさん、Cさんなどが来ませんでした。いつもより幾分スカスカの教室で授業を始めました。

教室は指定席ではないのですが、面白いことに、一番出席率のいいLさんがいつも座っている席は空席のままでした。他の学生が比較的よく座る席はなんとなく埋まりましたから、Lさんがみんなから一目置かれていることが、図らずも見える化されたかっこうでした。

担任のH先生のところには、LさんやKさんから体調不良で休むという連絡が入っていました。胃の調子が悪いとのことだそうですから、どうやら受験ストレスのようです。この2人に限らず、今シーズンはぎりぎりの日本語力で勝負を挑まざるを得ない学生が多いです。Lさんは先日のJLPTでN1に受かったら第1志望の大学院に出願すると言っていました。Kさんはすでに受験していますが、面接練習でかなり厳しい指導を受けました。これからもまだ受験が続きますから、胃が痛くなってもおかしくはありません。

Mさんは最近休みが増えました。大学院への出願書類を作成するので手いっぱいだと聞いています。Mさんもきわどいところで合否が決まりそうですから、気が気ではないのでしょう。でも、Mさんの場合は休み癖がついてしまったような気がします。出席率の落ち込みが激しいと、ビザの問題が出てきます。

Mさんの“指定席”は、ごく普通に埋まっていました。早く教室に戻らないと、取り戻せませんよ。

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ご専門は?

12月7日(火)

午後、職員室で仕事をしていたら、上級担当のA先生に呼び出されました。クラスのEさんの話を聞いてくれと言います。Eさんは、国立大学の理科系学部を狙っています。どこに出願するかの最終段階なのですが、Eさんの勉強したいことがA先生に伝わりません。それで、私にお呼びがかかったというわけです。

Eさんは、自分がやりたいことを国の言葉で表し、それをネットで翻訳し、その日本語訳をA先生に言いました。しかし、その単語は、A先生がご自身の辞書で調べても全く引っ掛かってきませんでした。つまり、日本語訳と言いつつもさっぱり日本語になっていませんでした。そこで私がEさんから事情聴取し、本物の日本語でA先生にお伝えすることになったのです。

Eさんがやろうとしていることは、確かに世界でまだ誰も成功していないことです。しかし、それを全然日本語で説明できないというのはどうでしょう。上級の学生としては物足りないものがあります。そんなことより、この程度のことが日本語で説明できないとなると、面接が危ないです。Eさんの志望校は難関校ですから、こんな大きな弱点を抱えていては、望み薄と言わざるを得ません。

今シーズンは、Eさんのように説明力、表現力が落ちる学生が多いように思えます。オンライン授業のせいにしたくはありませんが、一番の鍛えどころの夏に、手元に置けなかったことが響いているように思えてなりません。

Eさんの後で相談を受けたCさんは、自分のEJUの持ち点からすると、夢のような志望校を挙げています。がっちり進路指導できていたらなあと思いました。

受験シーズンは、待ってはくれません。

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縁がなかったのに

12月2日(木)

理科系の世界では、ギリシア文字がよく使われます。α線、β線、γ線は放射線としてつとに有名ですし、α、β、γは数学の公式にもよく出てきます。Δは微小変化を表し、δ+といえば、電気的にわずかにプラスという意味です。εは誘電率の記号で、θは角度、λは波長、ωは1の3乗根、ρは密度、χといえばχ2乗分布、円周率πもギリシア文字です。φは何もないという意味で使われることもあります。今回順番を飛ばされたνは光の振動数です。しかし、オミクロンはお世話になっていませんね。

日本国中がオミクロン株に右往左往しています。日本語学校はその最たるものかもしれません。年末に入国できそうだということで受け入れ準備を始めた矢先に、再度扉が閉ざされてしまいました。第1陣で来日する手はずになっていたYさんの喜びも、ほんの束の間のことでした。気丈に授業を受けていますが、その心中は、推し量るに余りあるものがあります。Kさんがzoomの画面の中で、両手の指を2本ずつ立てて22日に来日だと嬉しそうにしていたのを思い出すと、大いに心が痛みます。

大学や専門学校の方がいらっしゃっても、景気のいい話にはなりません。入管の特例を利用して、本来なら来年3月で卒業の学生が、もう1年KCPで勉強を続けると言い始める例も少なくありません。だから何人ぐらいが実際に卒業するのか、そのうち専門学校に進学しそうな学生が何人かなどということがいまだによく見えません。それゆえ、「いい学生さんがいらっしゃいましたら…」などと言われても、返事のしようがありません。

このように、入国禁止令は本当に困ったことです。しかし、もし、私がこういう仕事をしていなかったら、「岸田さん、よくぞ水際対策を打ってくれた」などと、感心しているかもしれません。苦痛は当事者にしかわからないものです。いろいろなマスコミが入国できないでいる日本留学予定者の苦衷を伝えていますが、関心を持ってもらうには至っていないようです。

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望まれて

12月1日(水)

午前中は、初級の学生向けに数学の受験講座をしました。全員オンラインの学生で、来年6月のEJUを目指しています。

授業が終わったところで、ZさんがY大学に合格したと報告してくれました。海外での直接募集に応募し、見事に試験に通ったのです。「おめでとうございます」なんですが、そうすると、来年の4月にはY大学に行ってしまいますから、もしかすると生のZさんには会えずじまいになってしまうかもしれません。

岸田首相の決断で、昨日から外国人の新規入国が全面的に認められなくなりました。Zさんもうまくすると来年2月ごろに入って来られることになっていたのですが、全外国人の入国が最低1か月差し止めで、しかも長期間待っている順番に入国ですから、Zさんが日本へ来るのは早くて来年3月ではないでしょうか。すると、進学先の決まっているZさんは、KCPで対面授業をほとんど受けることなく卒業してしまいます。何かの事情で予定が送れたら、オンライン授業だけで卒業ということになるかもしれません。

Zさんは、大学進学後にもらえる奨学金について質問してきました。Zさんのような場合どうなるかよくわかりませんでしたから、調べてから答えることにしました。職員室に戻ってからすぐ調べてメールを送ると、私からのメールを待っていたのか、すぐに返信が来ました。Zさんにとっては色よい回答ではなかったのに、きちんとお礼の言葉が書かれていました。それも、正しい日本語で。

こういうちょっとしたやり取りをおろそかにしないあたりに、Zさんの人間性を垣間見ました。こんなちょっとしたことがさらっとできるなら、ZさんはY大学で将来の財産になる人脈を築いていけるでしょう。それは、Zさんの周りの日本人学生に大いに刺激を与えるに違いありません。Y大学が欲しがるわけです。合格は、当然の結果です。

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来訪者

11月26日(金)

専門学校の方が2人お見えになりました。11月も末となると、学生募集のはかどり具合が心配なようです。こちらも、「どんどん学生を送りますよ」と申し上げたいところですが、そもそも進学予定の学生がいません。先様のお話はお聞きしますが、景気のいい返事はできません。

肝心の学生たちはどうかと言えば、動きの活発な学生とそうでもない学生と、差がついています。大学院を中心にすでに合格を決めた学生がいる一方で、「進学」と言っているだけで何もしていないに等しい学生もいます。原因の1つは、入管の特例措置です。来年3月で日本語学校在籍期間が2年になる学生のうち、少なからぬ数の学生が、所定の時期から大幅に遅れて入国したため日本語能力が十分に伸ばせないうちに卒業期を迎えてしまいます。期間満了としてそのまま卒業させたら日本語力が足りないまま高等教育機関に放り出すことになります。これでは、学生自身にも、一緒に勉強する日本人学生にも悪影響が生じかねません。ですから、日本語学習に集中できる期間を1年延ばしてもいいことにしようと考えたようです。

それはありがたいのですが、学生の中には志望校に落ちたらもう1年KCPで勉強しようと考えている人もいます。また、一刻も早く出たいと思っている人もいます。これから、そのあたりの駆け引きが強まるんじゃないでしょうか。そうなると、進路指導も一筋縄ではいきません。

もうすぐ入学試験という学生もいます。Zさんもその1人で、あさって、オンライン面接が待ち受けています。授業後、最終の面接練習をオンラインでしました。本人は心配でならないらしく、自分の持っているスーツの布の材質があまりよくないのだが、今から買い直す必要があるだろうかなんていうことまで聞かれました。Zさんには、延長などということなく進学してほしいです。

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