Category Archives: 進学

いい教師とは

2月4日(火)

最近元気がなかったCさん、第一・第二志望校のA大学とU大学に落ちていたことがわかりました。これから受けられるところをねらうと言っていますが、どこも2期・3期の募集ですから、Cさんがいかに優秀でもかなり厳しい戦いになりそうです。

Cさんが挙げた学校は、Cさんの実力をもってすれば、どこも年内試験の1期なら楽勝で合格できそうなところばかりです。しかし、これから募集で一部3月試験の学校となると、かなりの競争率になることは火を見るより明らかで、必然的に合格ラインも大幅に上がります。去年の夏ごろに、ある大学の先生が「B日程では、今まで私共など振り向いてももらえなかった優秀な方たちに入学していただきました」とおっしゃっていたのを思い出しました。Cさんがその“優秀な方たち”に加えてもらえるかどうかは、なんともわかりません。

CさんがA大学とU大学にこだわったのは、東京の大学だからだそうです。でも、勉強する場所が東京でなければならない理由は、特にありません。漠然と東京にあこがれていただけと言っていいです。A大学もC大学も受けてよかったのですが、同時に他の大学の1期とかA日程とかも受けておくべきだったのです。最悪の場合の行き先を確保した上で、難関校に挑戦してもらいたかったです。

私たちもCさんに何の指導もしてこなかったわけではありません。でも、監禁拘束してまで書類を書かせ、受験料を払わせ、出願させることは、もちろんできません。Cさんは、この期に及んで、自分は甘かったと反省しています。同じような言葉を、年末にKさんからも聞きました。他にもこのような反省していると思しき学生が数名います。こうなると、監禁拘束も冗談とばかり言っていられなくなります。

おそらく、来年度はさらにもっと状況が厳しくなるでしょう。学生の主体性を尊重する、物わかりのいい教師でいてはいけないようです。

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処置なし

1月21日(火)

久しぶりにKさんに会いました。それだけ派手に学校を休んでいたということでもあるんですが、来て売れただけありがたいと思わなければなりません。

Kさんがなぜ欠席するかと言えば、学校が面白くないからです。日本語の勉強よりも面白いことを学校外で見つけてしまったからです。先学期A大学に受かっていますから、受験の心配もありません。元々勉強が嫌いだったようで、しなくてもいいならしないで済ませたいと思っています。

もちろん、休み続けると進学してからビザが延長できなくなりますから、全然学校へ来ないという危ない橋はわたりません。じゃあ学校へ来たときはどうするかというと、教室でひたすらスマホをいじり、ただただ授業が終わるのを待ちます。予習を前提に授業を進めていますが、予習などしてくるはずがありません。指名されると、隣の学生に答えを教えてもらってどうにか答えます。

教師に注意されたから直そうなどという殊勝な心掛けなど全くありません。注意すればしただけクラスの雰囲気が暗く重くなります。スマホをやめても寝るだけです。マイナスのオーラをまき散らしまくっています。そもそも、筆記用具すら持って来ないのですから、遊びに行くついでに学校に寄ったというのが実情でしょう。

Kさんを振り向かせるために一大奮起をしたとなれば美談になりますが、私はそこまで熱血な教師ではありません。Kさん以外にも情熱を傾けねばならない学生が大勢います。例えば、Kさんよりも先に、昨日この稿に書いたWさんの夢をかなえるためなら時間を割きたいです。

Kさんは、おそらくバス旅行にもいかないんだろうな…。

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思いが空回り

1月20日(月)

今学期から受験講座に参加しているWさんは、理科系の大学を目指しています。しかし、日本語がまだ初級なので、物理や化学の話を聞いて理解するのはかなり難儀なようです。一般に、条件形や受身などを習って間もない時点で受験講座の先生たちの授業についていこうとすると、授業時間中かなりの集中力を要します。終業のチャイムが鳴るや否や学生たちが机に倒れ込むのもよくわかります。全精力を使い果たしたのでしょう。

それに加え、Wさんは数学や物理や化学の基礎が全然入っていません。国の学校であまり深く勉強してこなかったようです。私が担当している物理と化学では、同じ初級クラスの同国人のLさんに母語で教えてもらっていました。それでも理解が進んでいるようには見えませんでした。数学も同様で、S先生がわざわざ私に報告なさるくらいできないようです。

理科の場合、基礎から懇切丁寧にと思っても、相手の日本語力がある程度にまで達していないと、こちらの思いが伝えられません。学生たちの文法レベルに合わせて説明しようと思うと、長ったらしくまだるっこい話になってしまいます。図を描いたり式で示したりすればわかることも多いのですが、そのためには学生たちの国と日本とで図や式の表現方法が同じである必要があります。何らかの共通言語(に代わるもの)がほしいのです。

残念ながら、Wさんは国の学校でそういう勉強をしてこなかったようで、私との間に理科に関する共通言語がありません。おそらく、母語で勉強するにしても、ゼロスタートではないかと思います。となると、理科系の大学に進学したいという思いばかりが募り、実力が伴わないままになりそうです。どこの大学にも入れないという最悪の事態も想像されます。

Wさんのことを思えば、「君には理科系は無理だ」と今すぐ引導を渡すべきでしょう。Wさんの夢をつぶすようで辛い役目ではありますが、ここで理科系に妙にこだわって無為の時を過ごさせてはいけません。

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短く

1月16日(木)

授業後、もうすぐ入試のNさんが面接の受け方を聞きに来ました。“いまさら”なのですが、中級のNさんはもう1年KCPで勉強するつもりでいますから、今回は練習だと言います。まあ、それでもいいですが、受かると信じて受けなければ、本当に受かりませんよ。

それはともかく、練習というだけあって、Nさんの面接の受け答えは、とにかく要領が悪いです。一生懸命しゃべっているのですが、一生懸命すぎて話がやたらに長いのです。放っておくと、3分ぐらいだらだらと平気に話し続けます。中級ぐらいの実力でそんなに長い時間しゃべっていると、話の筋がどんどんずれていきます。そのため、いつの間にか質問の主旨が忘れ去られ、あさっての答えになってしまうものです。Nさんはその典型と言っていいでしょう。

こちらもまた面接初心者によくあるパターンですが、「雰囲気がいいですからこの大学にしました」的な、漠然とした抽象的な、私でも答えられちゃうような答えを連発していました。しかもしまりなく長々とですから、面接官は絶対に途中で答えを切るでしょうね。答えを切られたら、Nさんは焦ってしまい、さらにもっと答えが長くなり、負のスパイラルを描きながらドツボに陥っていくでしょう。

Nさんには、答えは30秒以内と厳命しました。本当は15秒と言いたいところですが、そんなことを言ったら、Nさんは気絶してしまうでしょう。それから、面接はコミュニケーションだとも言い聞かせました。論文発表会じゃありませんから、一方的に何分もしゃべり続けてはいけません。また、自己アピールの場でもありますから、寸鉄人を刺すような表現が理想です。

次に会う時、Nさんはどんな顔つきをしているでしょうか。

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入学式挨拶

みなさん、本日はご入学おめでとうございます。このように多くの若い方々が世界中からこのKCPに集まってきてくれたことをうれしく思います。

今、日本は大学入試を大きく変えようとしています。大学に進学しようと考えている日本の高校生の大半が受けるテストで、一部をマークシート方式から記述式にしようというものです。なぜこのような変更が行われようとしているかというと、受験生の考える力を測定したいからです。マークシート方式は、客観的な採点ができて公平であり、また、機械で採点できますから省力化も図れます。しかし、暗記で答えられたり、受験のテクニックが通用したりしますから、受験生の本当の力は見られないという批判がありました。こういった批判に応えるため、記述式を導入しようとしているのです。

日本人の高校生が受けるテストなので、留学生のみなさんには一見無関係のように感じられますが、日本の大学が求めている人材が変わりつつあるという点においては、みなさんにも大いに影響があるのです。つまり、目の前の課題に対して自分で考えて結論を導き出し、それを他人にわかるように表現する力が求められるようになるのです。出題者から与えられた答えを選ぶのではなく、自分で答えを導き出せる人物こそが、これからの日本や世界を支える人材だという認識に立って、大学は受験生の能力を吟味します。

“グローバル”という言葉が世の中に出てからかなりの時間が経ちます。その間、世界に横たわる問題は複雑化する一方で、超大国のリーダーが額を寄せ合っても問題の解決には至らないことが多くなりました。そこまで大きな問題ではなくても、多様化した人々の心を満たすのは、マークシート的な発想では無理でしょう。もちろん、迫りくるAIの影を振り払うには、人間の頭脳にしかできない複合的な思考力が必須です。

みなさんは国でどういう勉強をしてきましたか。考える訓練をしてきましたか。それとも、受験のテクニックを身に付ける練習をしてきましたか。確かに、EJUはマークシート方式です。受験のテクニックで解けてしまう問題もあります。マークシート方式のテストの特性に合わせた勉強だけで結構な点数を取って進学していった学生も実際にいます。しかし、そういう学生たちは、考えに考えて自分なりの答えにたどり着き、それを関係する人々に示し、議論し、より高い次元の問題解決へと登っていく人材を育成する教育に耐えられるでしょうか。

大学院に進もうと考えているみなさんには、大学進学希望者以上にこういう頭脳が要求されます。真の研究には模範解答などないのですから。道なき道を歩むことが、道を切り開きながら前進することが、大学院における研究です。研究の結果、ネガティブな結論に達することもあるでしょう。しかし、それもまた、立派な研究成果なのです。それを乗り越えて新たな地平に光明を見出すには、マークシート的思考では力不足です。

KCPでは、みなさんにこうした普遍的な力をつけてもらうべく、日本語での思考力を鍛える授業に取り組んでいます。時には何かを暗記させることもありますが、それはその彼方にある思考力を得るための一里塚なのです。

みなさん、真の思考力を身に付けて、私たちと日本語で議論しませんか。みなさんがそういう力をつけてもらうためとあれば、我々教職員一同は努力や支援を惜しみません。そして、みなさんと実際に議論できる日を、首を長くして待っております。

本日は、ご入学本当におめでとうございました。

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にぎわう

12月26日(木)

学期休み中だというのに、学生の姿が途切れません。月曜日は期末テストの追試の学生が多かったですが、それ以後は、これから出願の学生が相談に来たり、年明けに入試の学生が面接練習に訪れたりしています。すでに進学が決まった学生の中には、年末年始を国で過ごすべく一時帰国している人もいます。天国と地獄と言っては言いすぎですが、今、職員室で頭をひねっている学生たちは、ここが踏ん張りどころです。

「後期」とか「2期」とか呼ばれる入試は、だいたいどこでも競争が激しいものです。この2、3年は、特にその傾向が強いです。そのため、合格ラインも必然的に上がります。そういう試験に挑まねばならないというプレッシャーに加え、落ちたら帰国という、いわば背水の陣だという緊張感も加わり、学生たちの表情はどこか引きつっています。こちらとしても、このように追い込まれる前に決めてほしかったのですが、現状は現状として向き合わなければなりません。

Xさんは日本の大学をなめていたと反省の弁を述べていました。何人もの教師から滑り止めを考えろと言われ続けていたのに、いわゆる有名大学を受け続けて落ち続け、この期に及んでようやくY大学に出願しました。年明けに行われるY大学の入試は、Xさんが夏から秋にかけて挑んだ大学と、難易度的には大差ないでしょう。でも、ろくな面接練習もせずに本番を迎えた今までの入試とは違い、次はがっちり準備をして臨むと言っていますから、期待していいかもしれません。

もうすぐ「新春」ですが、私たちの春は、春節も越えて、花芽が膨らむころまで待たなければなりません。

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意欲

12月11日(水)

Cさんは昨日に引き続き欠席です。先週あたりから体調を崩しているようです。でも、それ以上に、今学期一杯で退学・帰国を決めていますから、モチベーションが下がっているのではないかと思っています。いろいろな事情で日本での進学をあきらめざるを得なくなったというのが、Cさんにとって一番悔しく残念なことでしょう。

夏の暑い盛りのころのある日、朝早く、学校にまだ私しかいない時間帯に、Cさんから電話がかかってきました。住んでいるアパートで警察沙汰に巻き込まれ、一睡もしていないので学校を休みたいが、これも欠席になってしまうのかという内容でした。欠席になると答えると、とても残念そうにしていました。もしかすると、これが入学後初めての欠席だったのかもしれません。

それがどうでしょう。最近のCさんは無断欠席です。欠席慣れしてしまった感じです。せめてもの救いが、欠席後に出てきた日に自分から教師に申し出て欠席中の授業資料をもらうことです。欠席を残念がったころのCさんの片鱗がわずかに残っています。

A大学に受かったKさんも、緩みまくっています。N先生の話によると、教室に存在しているだけで、まったく勉強していないとのことです。大学合格という来日の最大の目標を達成してしまったKさんにとって、日本語学校の授業はもはや消化試合でしかありません。もちろん、消化試合でいいはずがありません。今のKさんの読解力では、大学の授業にはついていけないでしょう。そういうことを、口を酸っぱくして言い続けても、こうなってしまった学生は聞く耳を持ちません。

この時期、もっと勉強しようという気持ちを失ってしまう学生がそこかしこにいます。このような学生にどう対処すればいいのでしょうか。毎年、頭を悩ませます。

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流れるように

12月4日(水)

Yさんは今週末が入試の初めての面接です。今まで何校か出願しましたが、どこも書類選考ではねられ、面接まで進めなかったのです。

だから授業後に面接練習となったわけですが、入試の面接については今まで耳学問しかしてこなかったので、部屋の入り方からしてめちゃくちゃでした。やはり、動作は聞くだけでは身に付かないのです。

どうにか着席までこぎつけたので、「Yさんですね。簡単に自己紹介してください」と最初の質問を発すると、いきなり「???」となってしまいました。私も黙っていると、「Yです。〇〇国の××から来ました」。これはちょっと簡単すぎますね。初級じゃないんだから、もう一言何かアピールしたほうがいいです。

「どうして本学を志望したのですか」と聞くと、ここからは立て板に水なんてもんじゃありませんでした。急に早口になり、一方的にまくしたてます。暗記してきたことがもろ見えです。後で聞いたら、志望理由書を丸暗記したとか。それじゃ意味がありません。だって、面接官は志望理由書を見ながら質問するんですから。

約15分将来の計画などを聞き、練習を終えました。感想を聞くと思ったより優しかったと言います。しかし、私に言わせると、Yさんの特徴が感じられる答えがほとんどありませんでした。基本的な質問に対する答えはそれなりに準備されていることはわかりました。でも、Yさんじゃなくても答えられる内容の答えばかり目立ち、私が面接官だったら×ですね。Yさんにフィードバックすると、驚きながらも納得してくれました。

面接は自分を面接官に売り込む場です。セールスポイントのないセールストークじゃ意味がありません。面接はうまくいったと言いながらも落ちてしまった学生は、きっとこれなんでしょう。学生たちに上滑りさせないように指導していかなければなりません。

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4年間の進歩

12月3日(火)

午前中の授業で、クラスの学生の現時点における進路を確かめたからでしょうか、受験講座から戻ってきたらSさんが大学院の研究計画書を見てほしいと、職員室で待っていました。Sさんの専門は社会科学ですから、学問的な部分は手直しできません。Sさんもそこには期待しておらず、文法を見てほしいとのことでした。

読んでみると、さすが超級の学生だけあって、皆目意味不明という文はありませんでした。でも、門外漢の私でも、論理的に見て明らかにおかしいとわかる文はいくつかありました。ただ、その直し方がいくつか考えられ、Sさんの研究内容を詳しくは知らない私には、1つに絞り込むことはできませんでした。訂正案を2つぐらい書いておけば、Sさんなら自分の考えを的確に表しているのを選べるでしょう。

先月はCさんの研究計画書に手を入れました。こちらは化学でしたからある程度以上わかりましたが、Cさんが研究しようとしている最先端分野の事柄となると、やはりついていけませんでした。まあ、私のような40年も昔の専門教育を受けた者がすんなりわかってしまうような内容なら、研究の必要がないのかもしれませんが。

こういう大学院の研究計画書を読むと、大学出願書類の学習計画書など、児戯に類する内容に思えてきます。私でもわかっちゃって、いくらでも作文できちゃうんですからね。逆に言うと、SさんもCさんも、国の大学の4年間でかなりがっちり訓練されてきたのだと思います。それを土台にして、日本で花を咲かせようとしているのです。そういうことがひしひしとわかりますから、赤ペンを持つ手に力が入ります。

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手のひら返し

12月2日(月)

Wさんが大変なことになっています。先学期までは典型的な優等生で、入学以来9月の台風の日に休むまで、無遅刻無欠席でした。それが、今学期に入ってから、ボロボロの状態です。私は毎週月曜日にWさんのクラスに入りますが、ほとんど姿を見かけません。

担任の先生は、もちろん何度となく注意しています。しかし、一向に効き目がありません。原因として考えられるのは、「合格」です。第一志望校に進学が決まり、緩みまくっているとしか考えられません。受かった日にどんちゃん騒ぎをして翌日休んじゃったというのなら、それもいいことではありませんが、まだ理解の範囲内です。しかし、2か月も合格祝いが続くわけがなく、たまに出てきたときは元気そうだと言いますから、何をどう考えていることやらわかりません。

今までにも、合格したら来なくなったという学生はいました。しかし、そういう学生はもともと危ないにおいを放っていましたから、何となく見当がつきました。Wさんのように出席に関しての模範生から真っ逆さまの転落という例は、非常に珍しいです。入学以来1年以上にわたって出席率100%という学生は、それなり以上に志操堅固ですから、合格したとしても大崩れすることはありませんでした。10月・11月と札付きの問題児になってしまったWさんにいったい何があったのでしょう。話を聞こうにも、そもそも学校へ来ないのですから、聞きようがありません。

優等生というWさんの仮面を見抜けなかった私たちに、人を見る目がなかったのでしょうか。だとしても、消え去ることのない裏切られた気持ちで、出席簿のWさんの欄に「欠席」を記録しました。

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