Category Archives: 勉強

まだ復活せず

3月24日(木)

Kさんは理科系の受験講座を受けています。数学は、私の説明に対して質問したり、私の計算間違いを指摘したりできるくらいまで力が伸びてきました。時々ひっかけ問題にはまってしまいますが、ヒントを与えると自分ではい出してきます。6月のEJUも、ある程度は計算できそうです。

問題は、理科です。数学は数式を追っていけばかなりの所まで理解できますが、物理や化学はそういうわけにはいきません。私の授業はすべて日本語ですから、物理の法則や化合物の性質など、私の日本語がわからなかったらどうしようもありません。練習問題をさせてみると、私の話がちゃんと届いているか不安な状況です。

クラスの先生に聞いてみると、Kさんの日本語力は、順調に伸びているとは言い難いようです。先学期は進級できず、今学期も同じレベルをやっていますが、今学期も進級が危ういとのことです。この調子だと、EJUの日本語も期待薄なのが現状です。

Kさんは昨年夏、ワクチンを打った後に体調を崩し、学校もずいぶん休みました。それから半年以上たちましたが、まだ完全に健康を取り戻してはいないようです。これが日本語の習得に悪影響を及ぼしているのです。

いちばんもどかしい思いをしているのは、Kさん自身でしょう。あれだけ数学ができるのですから、理科系のセンスはあります。EJUが国の言葉で出題されれば、平均点は軽く超える成績が挙げられるでしょう。しかし、現在のKさんは…。こういう時期でなければ、健康な状態で勉強でき、今ごろ6月に向けて自信を持って歩んでいけたに違いありません。

来学期の受験講座は対面で行う予定です。どうにかKさんの力になりたいです。

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何を鍛える?

3月16日(水)

"塩少々“と言ったら、どれぐらいの量を想像しますか。もちろん、どんな料理か、何人前作るか、口にする人の好みなどによって左右されます。しかし、そういう条件が決まれば、このぐらいという勘が働くのではないでしょうか。そんな感覚が全然わいてこないという人は、料理をし慣れていない人です。

料理に限らず、私たちは日々の活動すべてに、ほとんど無意識のうちに、勘を働かせているものです。雨が降っているから少し早めにうちを出ようとか、車の運転ならブレーキの踏み方とか、日本語教師だったらどんな練習にどのくらいの時間が必要かなどというのも、このうちでしょう。

こういった勘が働かないと、うまくいかないとまでは言いませんが、スムーズに事が運ばないことが多いです。誰でもそこそこできるようにと、この勘の部分にAIを導入しようとしているのが昨今の社会の流れだと言ってもいいでしょう。数年後には多くの勘がAIに代替されているかもしれません。

しかし、AIには代替されない勘もあります。それは受験における勘です。例えば、数学の問題を解くときに、こういう道筋で考えれば答えが得られるという勘、得られた答えが合っているかどうかという勘、そういった勘は受験生が地道に養っていくほかないものです。これは、ある程度までは口伝も可能ですが、それ以上は受験生自身の努力と訓練によってのみ育てられるのです。

そういう点、理科系の受験講座の学生たちは、まだまだですね。これから相当鍛えていかないと、6月のEJUに間に合いません。あと3か月と3日です。

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1年延ばしたら

3月2日(水)

入管が認めた日本語学校への在籍期間特別延長措置を利用する学生の申請書が回ってきます。学生本人がもう1年KCPで勉強したいと言っても、本当に勉強するかどうか疑わしい場合は、入管が「うん」とは言いません。例えば今までの出席率の低い学生です。そういう学生をはじくために、学校側でもチェックを入れているというわけです。

現在KCPに在籍している学生は、受けた授業の半分以上がオンラインかもしれません。孤独に耐えながら、周囲の雑音やよからぬ誘惑に心を乱されながら、パソコンに向かっているのでしょう。そういう悪条件をものともせずに実力をつけ、志望校に合格した学生もいます。その一方で、そういう環境に流され埋没していった学生もいます。期間延長を申し出ている学生たちが全員埋没組だとは思いません。しかし、教師のコントロールが弱いのをいいことに、気ままに暮らしてどこにも行けなくなっている学生もいます。

Yさんは、どこまで本気で勉強したかなあと思えてしまう学生です。もう1年を希望していますが、よほど奮起しない限り、1年後も状況は変わっていないでしょう。1人ではろくに勉強できないことが証明されたのですから、進んで教師のコントロール下に入るべきです。受験講座だって自然消滅を繰り返しています。入管に認めてもらえなくても文句の言えない出席率をどこまで深刻に考えているでしょうか。

Gさんは、出席率は問題ありませんが、自己中をどうにかしないと、人間関係でつまずくかもしれません。オンラインが多かったためにさほど目立ちませんでしたが、対面中心になったらクラスメートととの間に摩擦が生じるのではないかと心配しています。1年以上悪い意味でのびのびと暮らしてきましたから、今さら矯正が利くのでしょうか。

新規来日者を受け入れる準備も進めています。そういう学生たちが、YさんやGさんたちに、上向きかつ前向きの刺激を与えてくれればと期待しています。

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覚える

2月24日(木)

入試問題を解くのは知識か知恵かと聞かれたら、どうお答えになりますか。

知識の範囲をどこまでにするかにもよりますが、知識がゼロではないでしょう。最近はマークシートの問題でも工夫が加えられてきて、知識の有無だけを問うような問題は少なくなりました。知恵を意識しすぎると、今年の大学入学共通テストのように、全受験生が団栗の背比べになってしまって、テストの用をなさなくなることもあります。

知恵といったって、その基礎をなす部分は、知識と無縁ではないでしょう。知恵は知識を組み合わせたところに生ずるものでもあります。そこには創造力や想像力も関与します。単に知識を堆積させただけでは、知恵は湧き上がってきません。知識と知識を結ぶネットワークを張り巡らすことが肝要です。

Dさんは真面目な学生です。6月のEJUに向けての勉強をしています。私もDさんの力になってあげたいと思っています。しかし、Dさんから来る質問に、「これは覚えなければなりませんか」という意味のものがあることに引っ掛かっています。暗記かそれに類する覚え方では、知識の有無を競う問題にしか答えられません。そうじゃなくて、知識を組み合わせるとかひとひねりしてから使うとか、応用力を問う出題にも対応できるようになってこそ、高得点に結びつくのです。それは同時に、進学してからの勉強にもつながります。

Dさんにそういうところまで見えているのか、気がかりです。知識は布石みたいなところもあり、入試には不要でも、将来、何かの拍子に、それがあることですべてがつながり、理解や興味が深まることだってあるのです。

昨日のうちに届いていたDさんからのメールを読みながら、そんなことを考えました。

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午前と午後の差

2月2日(水)

今学期は、水曜日は朝から夕方まで受験講座数学です。日本語の授業時間の関係上、午前中が中級の学生、午後からが上級の学生を、それぞれ対象にしています。

中級クラス、上級クラスとも、同じ教材を使っています。進度も変えていません。しかし、授業のペースが全然違います。中級クラスは話すスピードを落としたり、指示が通らないので同じ話を繰り返したりなど、遅れる要素が次々と出てきます。それに対して、上級はサクサク進みます。しかし、質問も多く出てくるし、それに合わせて応用的な話もしますから、結局、中級クラスと同じぐらいの進み具合になります。

数学は数式やグラフを追いかけていけば、ある程度は内容が理解できるはずです。中級クラスの受講生が上級クラスに比べて数学的センスが劣るとは思えません。それなのに授業のペースが違う、中級クラスは内容が深まらないとなると、日本語で教わることが学生たちのネックになっていると考えざるを得ません。

美大の先生が、絵を描く技術や素養があっても、日本語力がなかったら指導のしようがないので、日本語のできない学生は合格させないとおっしゃっていました。確かに、中級でも大学などに合格した学生は進学していきます。しかし、進学先でどれだけ有意義な勉強をしているでしょう。私の数学でも、進度は同じでも伝えている情報量には差があります。数学ですらこうなのですから、読解力や表現力などが要求される科目だったら、あっという間に置いていかれてしまうでしょう。

これは、教師の側こそが存分に理解していないと、学生をそういう方向に引っ張れません。学生に日本語「で」勉強させる経験が必要です。

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おおみそか

1月31日(月)

早いもので、1月も末日になってしまいました。この調子で行ったら、あっという間に1つ年を取り、年末を迎えるのでしょう。

今年は1月末日が旧暦の大晦日です。そして、明日が旧正月です。KCPには旧正月を祝うところから来ている学生が多いですから、私も先日お祝いの動画を撮りました。その動画、もう見られるようになっているのかなあ。旧正月を祝う勢力の次に強いのは、お正月よりクリスマスというグループです。新暦の正月に騒ぐのは、結局教職員だけかもしれません。

朝、Cさんから電話が掛かってきました。「明日、お正月ですから、休みたいです」ときました。対面だとにらみを利かせてそんなことは思わせもしませんが、オンラインだと甘くなりがちです。ちゃんと電話連絡してきただけ立派なのかもしれません。大晦日のうちから浮かれて、下手をすると今週いっぱい、何もしない学生もいるかもしれません。受験生でそんな学生はいないと信じたいですが。

でも、国の自宅でオンライン授業を受けている学生たちは辛いでしょうね。自分以外の家族はみんなお正月気分なのに、1人だけテストを受けたり大きな声で本を読んだり漢字の練習をしたり、その他さまざまなことをさせられるのです。日本に入国できる見込みは希望的観測だけ、志望校の受験は秋以降とはいえ、不安や心配がないわけがありません。

日本にいる学生だって、家族や友人に会えない期間がかなり長期に及んでいます。お正月ぐらい羽を伸ばさせてあげたいです。しかし、他人がしていないときに努力をして初めて差が付くのです。今が苦しいのは万人に共通です。そして、Cさん、あなた、最近出席率が落ちていますね。気が緩んでいますよ。

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体育会的数学

1月19日(水)

今まで、理科系の数学の受験講座は、90分の授業を週に2日行っていました。それを、今学期は、180分で1日にしてみました。日本語のクラス授業同様、前半と後半の間に15分の休憩をはさみます。この方式の方が、練習問題をする時間が取れるのではないかと思って始めてみたというわけです。

やってみると、確かにそういう感じがしました。週当たりの授業時間は変わらないのに、なんだか余裕があるように感じられるのです。初回は一応予定したところまで到達しましたから、練習問題をやった分だけ進度が遅くなったというわけではありません。

その点はよかったのですが、練習問題をさせてみると、計算力が足りないという問題が浮かび上がってきました。前々から薄々感じていたことですが、KCPの学生は計算問題をおろそかにするきらいがあります。やれと言ってもそんなのちょろいとばかりに無視します。そのくせ、EJU本番で何かやらかして、思ったように点数を伸ばせないのです。EJUの数学は計算力が命なのに、それを直視しようとしません。

練習問題、計算問題をすることによって、数学的な勘が養われます。反射神経が鋭くなると言ってもいいでしょう。式を見ただけでこんな感じに因数分解にできるんじゃないかとかグラフの概形が見えてきたりとか、図形問題で補助線が浮かび上がってきたりとか、そういう域にまで達してもらいたいものです。

6月までの受験講座はこの計算力を重視して、体育会的に体で覚える数学にしていきたいです。

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背伸びのさせ方

11月27日(土)

来週の日曜日が12月のJLPTです。土曜日は、それを受けようという学生たちに向けての受験講座が開かれています。私もN2クラスの教師に駆り出されました。

このクラスは初級の学生ばかりですが、練習問題で取り組む文法は、私が通常授業で教えている中級クラス並みかそれ以上です。すでに何名か脱落していますが、ここまで食らいついて残っている学生は、みんな授業を受ける態度も真剣です。

一般に、中級や上級で習う文法は、ピンポイントで使うと効果的なものが多く、それゆえ適用範囲が狭いです。そういう用法を、初級の学生にもわかる日本語で説明したり、初級の学生もピンとくるような例文を提示したりというのが、こういう授業の難しさです。抽象概念を扱うときに威力を発揮する文法に初級の語彙を当てはめてみても、学生に覚えてもらいたいような例文はできません。文法には習うべき時期があるのだと痛感させられます。

こういう時には、中級以降でもう一度勉強し直してもらうことを前提に、大胆に割り切って教えます。中級上級を担当する教師としては一言も二言も付け加えたくなる説明でも、心の中で「半年待って」とかってつぶやきながら、それを押し通してしまいます。

国でN1を取ったという新入生が、時々KCPのプレースメントテストで初級に判定されます。クレームをつけて無理やり中級に入り込んでも、結局伸びません。N1やN2の文法は、国の言葉で説明してもらい理解しても、その文法が漂わせているニュアンスまでは嗅ぎ取れません。

さて、このクラスの学生たちは、どこまで理解が進んだでしょう。いくつかあった「ほど」や「によって」の違いがわかったかな。

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もうすぐなのに

11月17日(水)

国全体が外国人の入国に向けて少しずつ動いています。留学生もその例外ではなく、簡単に言えば長い間待たされた順番に入国できることになりました。その第一陣にXさんの名前がありました。国で仕事をしているXさん、午後のオンライン授業に遅刻することもたまにはありましたが、宿題や予習は忘れたことがなく、どんな課題にも果敢に全力で取り組んでいました。Xさんが入学した学期に教えましたが、優秀であるだけでなく、こういう勉強のしかたをしていればどんどん伸びていくだろうなと感じました。その希望の星のXさんがもうすぐ入国してくるとわかり、生のXさんに会って、上手になった日本語で話をするのを楽しみにしていました。

しかし、Xさんは第一陣で来られなくなりました。ご家庭の事情で、今学期いっぱいで一旦KCPをやめざるを得なくなったのです。私も残念ですが、Xさんの心中を察すると、慰める言葉も浮かびません。4月に再入学すると言っていますが、現時点では4月にすんなり入国できるか何とも言えません。

もちろん、Xさんの最終目標はKCPではありません。その先には大学院進学があります。もっと先には日本で働くという夢もあります。しかし、その夢が瀬戸際に来ています。日本への入国があまりにも遅れるようなら、日本留学をあきらめるという選択も現実味を帯びてきます。Xさんはイギリスの大学院を出ていますから、何が何でも日本に留学しなければならないという必然性、切迫感のようなものはありません。ただ、Xさんのような優秀な学生がわざわざ日本へ来てくれそうなのに、そのチャンスがつぶされるかもしれないというのがやりきれません。

ご家庭の事情はしかたありません。しかし、日本側の事情でXさんが日本留学を断念するなどということがないように、日本政府には動いてもらいたいです。すでに、日本留学をあきらめた若者が世界中にいるそうです。Xさんもその1人になってしまったら、とても悲しいです。

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授業後の質問

11月4日(木)

「何か質問、ありますか」受験講座・数学の授業の最後に聞いたら、国からオンラインで参加しているHさんから、「日本は来週の月曜日から入国できると聞きましたが、KCPの学生はいつ入国できますか」と聞かれました。選挙が終わってすぐに留学生などの入国を進めるという話が持ち上がりましたが、私たちにもまだそれ以上の情報は届いていません。Hさんのような学生たちがいつ来ても受け入れられるように、態勢だけは整えておきます。しかし、具体的な日程はまだ全然です。

Hさんの心配は、それだけにとどまりません。隔離がどのくらいの期間になるのか、どの程度厳重な隔離なのか、その間の授業はどうなるのか、不安の種は尽きないようです。こちらもそういった質問にきちんと答えてあげたいのですが、手持ちのデータがちょうど1年前の事例だけですから、Hさんの心を安んじるには程遠いようです。

Hさんに限らず、すべてのオンラインの学生たちが、同じような期待と不安を両脇に抱えていることでしょう。来日が現実味を帯びてきただけに、学生たちはより明確な情報を求めています。単に夢を抱くのではなく、来日後の留学生活をきちんと頭の中に描きたいのです。淡々と受験講座を受けているDさんも、心の奥底では同じように考えているに違いありません。

ただ、先日もこの稿に書きましたが、11月のEJU受験が絶望的だというのが何とも悲しいです。HさんもDさんも、うまくすると来年4月に進学できたかもしれませんが、この分だともう1年余計に時間がかかってしまうでしょう。でも、これを逆手に取るくらいの気持ちで、こちらで勉学に励んでもらいたいです。

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