Monthly Archives: 7月 2018

アイコンタクト

7月5日(木)

久しぶりに、新入生のプレースメントテストの監督をしました。誰も知った顔のいない、水を打ったように話し声どころか物音一つしない静かな教室に入っていくのは、冷たいプールに足を突っ込むようなピリッとした感覚があります。「おはようございます」と挨拶してみても、新入生は私以上に緊張していて、わずかに頭を下げる学生が2、3名いただけでした。

最初の科目が始まると、問題を見たとたんに早くも苦笑いを浮かべる学生がいました。まじめな顔で取り組んでいても、解答用紙を見ると右から左へ文字を写しているだけだったりしていることも、毎度のことです。全然わからなくて、制限時間が来るまで退屈そうにしている学生も数名いましたが、机に突っ伏して寝てしまわないあたりが、新入生らしいところでしょうか。良くも悪くもお互いの距離感がわかりませんから、安全サイドに走っているのでしょう。

学生が机の上から消しゴムなどの小物を落としてしまったとき、それを拾って机の上に載せてあげると、国籍性別年齢を問わず、みんなニコッとします。距離がちょっと縮まったかなと思いますが、試験中ということもあり、それ以上接近することはありません。

最後の科目は、問題用紙と解答用紙を提出したら帰ってもいいことになっています。これは学期中の中間テストや期末テストと同じですが、プレースメントテストでは大きく違うことがあります。

中間・期末テストでは、提出した学生は教室を出るとき、私のほうに顔を向けて「さようなら」とささやきかけるか、会釈するかするものですが、プレースメントテストではそれがありません。この違いが1学期間の教育の成果なのかなと思っています。

私の教室にいた学生たちも、9月の期末テストではさようならと目で挨拶して帰っていくんでしょうね。

お茶にしびれた?

7月4日(水)

久しぶりにお茶会に参加しました。アメリカの大学のプログラムで来ている学生たちの文化体験の一環としてお茶の授業があり、クラスの学生たちの引率をしたというわけです。

毎学期行われている茶道クラブのお茶会は、受験講座の時間と重なるため、ここ数年全然参加していません。ですから、作法を覚えているだろうかと危惧していましたが、残念ながらそれが杞憂とはなりませんでした。先週、担当のO先生からレクチャーを受けていたのですが、それを本番で生かせず、小声でさんざん注意されてしまいました。やっぱり継続的に練習しないと、作法は身につかないのですね。うまくできたのは、蹲で手と口を清めるところだけでした。このしぐさは、寺社にお参りするときにしていますから、実は継続的に練習しているのです。

私のクラスは日本語がほとんど通じない学生たちばかりですから、蹲での所作も私のを見てまねします。もうこの時点で緊張気味なのがよくわかりました。でも、みんなであれこれ指示を出し合って、全員がお茶を飲み終わるまで無作法にならないように協力していたのは見事でした。先週初めて顔を合わせたばかりなのに、全員で立派なお茶会を作り上げようという雰囲気が盛り上がっていました。

茶碗を回したり最後にズズッと音を立てて飲み干したり、学生たちにとっては異文化そのもののお茶会だっただけに、最後まで興味を失わず、真剣に取り組んでいました。ただし、足はすぐしびれてしまったようで、O先生に認められた横ずわりをしていました。また、お茶を点てる体験では、Cさんがとても上手だとO先生にほめられました。茶筅を動かす時の音が違いましたから、私が見ても手際がいいことがよくわかりました。

この学生たちがもう少し日本語が上手になったときに、もう一度、今度は日本語で文化を語りながら、一緒にお茶を飲みたいと思いました。

進学先

7月3日(火)

昨日休んだら、机の上に書類が山のように積みあがっていました。多くが専門学校や大学から送られてきた学校案内や募集要項、オープンキャンパスのポスターなどで、何となく去年より出足が早いような気がします。日本人の18歳人口が減り続けているにもかかわらず、高等教育機関は増え続け、各校は留学生の確保に走っているというのがもっぱらの噂です。

私は、日本人学生がいないからといって、その代わりを安易に留学生に求めるのは間違っていると思います。サポートの体制が整わないうちに留学生を受け入れると、留学生の人生をつぶしてしまいかねません。いわゆる出口の問題を大学・専門学校と国が力を合わせてどうにかしなければなりません。現状では高等教育機関が留学生につけさせた実力を日本の国が全体として有効に活用しているかといえば、決してそうとはいえません。サブカルを楽しむにはいい国だけど、自分の一生を捧げるには疑問を覚える国なんじゃないでしょうか、留学生にとって日本は。

そんな中、M大学の方が入試の説明に来てくださいました。M大学には何年か前にGさんが入学しました。その後しばらく経って、悩んだ顔をしてKCPへ来ました。みんなでよってたかって励まして、どうやら大学を続け、もうすぐ卒業というところまでたどり着きました。M大学の方の話によると、Gさんが悩んでいたことは前向きな形で解決し、着実に専門性をつけているようです。

そして、M大学は入学のときから出口も考えて指導していることがわかりました。誰もが、華々しい一流有名企業に就職できるわけではありませんが、本人の希望に沿ってやりたいことができる会社に送ってくれているようです。M大学では総合的な人間力を養うとおっしゃっていましたが、これは学生にとって一生の財産です。