激励メッセージ

7月26日(金)

今週、KCPでは、京アニへの激励メッセージを募集しました。18日に発生した放火事件は世界中に衝撃を与えていると報じられていますが、それを裏付けるかのように、多くの学生から絵や言葉のメッセージが寄せられました。私のクラスでも、普段はめったに口を開かないKさんが、職員室へ向かおうとする私をわざわざ捕まえて、「先生、メッセージカードはまだありますか」と聞いてきました。WさんとSさんも、授業後教室に残ってメッセージを書いて(描いて)くれました。

日本のアニメは、世界中で高く評価されて、多くの若者に日本に興味を持つきっかけを与えています。しかし、アニメの制作会社がアニメの作品と同様に名前が知られている、尊敬されているというのは、意外でした。日本人は昔から裏方に関心を示し、敬意を払ってきましたから、日本国内で京アニの名が通っていることには何の不思議もありません。でも、こういうのにわりと淡白だと思っていた外国人が、今回のように涙を流し花束をささげるのは、正直に言って、驚きでした。それゆえ、少なからぬKCPの学生が、やっとチャンスが巡ってきたとばかりに、激励メッセージを送ろうとしていることに目を見張りました。

いい傾向だと思います。どこからでも見える表面しか見ていないのではなく、それを支える人々にも視線を向けることで、日本人の心根がわかってくると思います。「京アニ、ありがとう」と叫ぶことで、学生たちは殻を1枚脱いだのではないでしょうか。

WさんとSさんは京アニへの思いを熱く語ってくれました。この思いが激励メッセージに載っていれば、京アニの方々もしっかり受け止めて、再建に向かってくれるでしょう。

夏はいつから?

7月25日(木)

早起きの人間は、日の長さを朝の早さで感じます。目が覚めてからどのくらいで明るくなるか、駅までの道の街灯がついているかいないか、一番電車の車窓から見える太陽の高さがどのビルぐらいかなどといったことで、夏になったとか秋が近いとか思うものです。

ところが、今年は、夏至のちょっと後から曇りや雨の日ばかりで、日の出から間もない太陽を目にすることがずっとありませんでした。今朝、本当に久しぶりに、東の空の真っ赤な太陽が見られたのですが、だいぶ低い位置になっていました。なんだか、知らないうちに夏の盛りが過ぎ去ってしまったようで、いくばくかの寂しさに襲われました。

もちろん、本物の夏はこれからです。真夏日熱帯夜はしんどいですが、冷房の効いたビルや電車に滑り込んだ時の快感や、寝苦しいとき開け放った窓から履いてきた風などに夏のさわやかさを見出します。でも、昨日梅雨明けの機会を逸してしまった関東地方は、週末も雨だそうですから、夏の訪れは来週にずれ込みそうです。

梅雨が明けても、夏らしい強烈な日差しが来るのか、少々不安です。梅雨の湿度を保ったまま、気温だけがじわっと上がり、蒸し暑さに拍車がかかった、過ごしにくいこと極まりない夏になりそうな気がします。梅雨が明けた地方も、今一つスカッとしない夏のようですから。

朝のお掃除をしてくださるHさんは、小学生とラジオ体操をしてからこちらへいらっしゃいます。本気でラジオ体操をすると結構暑くなるようで、汗をふきながら事務室に入ってきます。こんなことをすれば夏らしさを感じられるんだろうかと、曇り空とHさんとを見比べながら思っています。

希望の星になってくれるかな

7月24日(水)

今学期の受験講座が始まって、もうすぐ2週間になります。私が担当している理科を今学期から受け始めた学生たちは、まだどうにかこうにかついてきています。その中に2人ほど、理科ができそうな学生がいます。

2人に共通するのは、国できちんと理科を勉強してきたらしいところです。物理や化学や生物に関する知識が豊富です。しかも、頭の中に乱雑に知識が詰め込まれているのではなく、系統立てて整理されている気がします。上手に育てれば、KCPの進学実績に大きく貢献してくれることが期待できます。

ただ、こわいのは、天狗になることです。2人とも、自分は他の学生たちよりもできると感じているようなところがあります。これが程よい自信とプライドにつながれば、大きく伸びていくことでしょう。しかし、過信やうぬぼれになったり、他の学生たちを見下したりするようになったら、伸びは期待できません。知識をひけらかすような場面が時たま見られますから、ちょっと気になっています。

こちらとしては、適当なところで天狗の鼻をへし折ってやらねばなりません。へし折られて再び立ち上がった学生は、いわゆる“いい大学”に進学しています。しかし、へし折られたのに気づかず、いつまでも自分は一番と思い込んでいる学生は、気が付いたら進学先がなくなっていたということにもなります。

そういう学生に共通していることは、日本語力をバカにしている点です。理系の進学は理科さえできれば心配無用などと考えている節があります。だから、クラス授業中に理科の問題を解いてみたり、会話練習を軽視したり、汚い字の殴り書きで提出物を書いたりということを繰り返します。教師にどんなに注意されても、改めようとしません。

もうすぐ6月のEJUの結果が学生の手元に届きます。ホープ君たちはどんな成績なのでしょう。

読む

7月23日(火)

今秋から、火曜日の後半は選択授業です。私の担当は、大学入試過去問で、読解を中心に、有名大学の留学生入試を解いていきます。初回は、4年前のK大学の問題。クラスの学生の力がわかりませんでしたから、少しやさしめの問題で様子見をしました。

最上級クラスの学生は、設定した制限時間をだいぶ余して解き終わってしまいました。上級になりたてぐらいの学生だと、制限時間をフルに使っても解けない問題があったようです。やはり、長文を読むスピードが違います。問題を解くテクニックというよりは、読み進むパワーの差を感じました。

問題を解いている学生を見てみると、本文や問題文を目で追っていき、答えだけさらさらとメモするのが、最上級クラスの学生です。下の方(と言っても上級には変わりありませんが)の学生は、シャープペンシルの先で単語を追いながら、時には単語ごとに区切りを入れながら読んでいます。初級のころからわからない単語で立ち止まってはいけないと指導されていますから、シャープペンシルの先が完全に止まってしまうことはありませんが、行きつ戻りつしている学生は少なくありませんでした。

答え合わせをしてみても、最上級クラスの学生は貫録勝ちです。読み取るべきところを読み取って、正解につなげていました。今回はあまり難しい問題ではありませんから、これが解けたから合格疑いなしなどとは到底言えません。でも、K大学クラスの大学なら、どこに受かってもおかしくないという感じはしました。

来週はもう少し骨のある問題に挑戦してもらいましょう。でも、骨のある問題は、模範解答を作るのに骨が折れるんですよね…。

いつもと違うぞ

7月22日(月)

四谷警察の方が来て、防犯の話をしてくださいました。話の内容そのものは、入学時のオリエンテーションで学生の母語で書かれた冊子で確認していることでも、日頃私たち教職員が伝えていることでもあります。でも、警察の方の口からじかに聞かされるとなると、学生たちの心に響くものがより強かったようです。

Gさんはこの学期休み中に引越ししました。しかし、在留カードはそのままにしていました。これは20万円以下の罰金に相当すると聞かされ、顔色を変えて区役所へ。この例も、私たちは何度となく注意してきました。しかし、教師の言葉だと軽く聞き流されてしまうのです。日々接しているものが口を酸っぱく注意したところで、効き目は高が知れています。ところが警察が言ったとなると、同じことでも重みが100倍ぐらい違います。おそらく、Gさん以外にも授業後に区役所に駆け込んだ学生が何名かいたのではないでしょうか。

校長などという職に就いていると、時々「叱ってやってください」と先生方に頼まれることがあります。クラスの先生が持て余している学生を連れてきて、私の口から説教してくれというのです。実情を聞いて、学生の言い分にも耳を傾け(と言っても多くの場合、聞くに値しない言い訳にすぐませんが…)、学生としてあるべき姿を説いていきます。すると、いったんは持ち直す場合がほとんどですが、いつの間にか元の木阿弥という例もよく見られます。

学生に、多くの目で見られているんだという意識を持たせることが肝心だと思います。クラスの教師だけでなく校長も見ている、学校の教職員だけでなく警察も見ている、そういう環境の中、日本で生活しているんだと実感してもらいたいのです。監視社会という面もありますが、本当の悪の道にまで転落しないような救いの手がいつでも差し伸べられるんだということも、ぜひともわかってもらいたいところです。

学生たちには有意義な留学生活を送ってもらいたいですから、これからもこういう機会を設けていきたいものです。

弱い立場

7月19日(金)

朝、パソコンを立ち上げて受信トレイを見てみると、N先生からメールが届いていました。小田急も京王も止まっているから出勤するのに時間がかかりそうだというではありませんか。今学期、私は金曜日は午後授業ですから、N先生の代講に入ることも考えておかなければなりません。でも、何をどうすればいいかわかりませんから、担当のM先生が来るまで待つほかありません。

ネットで調べてみると、変電所事故が発生し、小田急も京王も復旧の見通しが立っていないと出ていました。小田急・京王沿線には教師も学生も結構住んでいますから、どのくらい影響が出るか見当がつきませんでした。

気をもんでも始まらないので自分の仕事をしていると、7:20ごろにEさんから電話が入りました。京王線が止まっているから遅刻しそうだということでした。Eさんは入学以来出席率100%で、皆勤賞も狙っています。3月に卒業した同じ国のBさんも皆勤賞でしたから、自分もと思う方が当然です。遅延証明をもらってくるように指示を出しました。

その10分後ぐらいに、初級のQさんからメールが入りました。京王線が止まっているから身動きが取れないという内容で、駅の掲示の写真が証拠物件として添付されていました。

N先生はいつもより1時間近く遅れましたが、十分授業に間に合いました。Eさんは、自分で情報を集めて、どうにかこうにか授業の後半には来たようですが、Qさんは京王線の開通を駅でじっと待っていたようで、KCPに着いたのは授業後でした。初級のQさんには駅の掲示から代替経路を見つけ出し、その慣れない経路で学校まで来るなど、不可能でした。

電車が止まっただけなら命にかかわることはありませんが、震災のような場合はどうでしょう。Qさんは情報弱者になり、安全が脅かされることにもなりかねません。そう考えると、ちょっと背筋が寒くなりました。

鋭い着想

7月18日(木)

私が大学生のころは、物理や数学のテストでどうしても解けない問題があったら、自分の最も得意とする問題について論述し、その内容が素晴らしければ単位はもらえると言われていました。私はそこまでする度胸がなく、いや、そもそもそんなすばらしい論述ができる問題もなかったので、解けなくても部分点狙いでちまちまと答えを書いては、超低空飛行を続けたものです。だから、これが事実かどうかは確かめていませんが、要するに、きらりと光る何かを持っている学生は拾い上げようということだったのだろうと思います。

たとえこの話が本当だったとしても、今はこんないい加減な試験など、しているところはないでしょう。学生の習熟度や能力をきちんと評価できるテストが行われていることと思います。あるいは、こんなことをしてくれる、度量の広い教師がいてくれたらなあという、夢の世界の話がまことしやかに流れただけかもしれません。

Sさんは理系の受験講座を受けていますが、実にユニークな問題の解き方をすることがあります。私など、学生に説明することを前提に、オーソドックスな、安全確実な解法を採ることが身にしみついています。作問者が思い描いた通りの解き方をたどっているんだろうなと思うとちょっと悔しく思うときもありますが、すでに発想が凝り固まっていて、新しい方法など浮かんできません。

その点、Sさんは盤石の理系の知識に加えて、教科書とは違った視点から問題を捕らえ、新たな着想を得る境地に至っています。10点満点の問題でも20点あげたくなるような、鮮やかな解答を示すことがあります。Sさんの志望校の先生がSさんの答案を見たら、どんな点数をつけるでしょう。やっぱり10点は10点なんでしょうかね。採点官が思いもよらなかった解き方をしていたら一発合格……やっぱり無理な夢です。

どうしたらいいんだろう

7月17日(水)

今学期から受験講座を受け始めた学生は、今が一番不安なときだと思います。クラスの日本語の授業では絶対に出てこない単語が次々と襲い掛かり、習ったばかりの文法や教科書の後ろの方にあった文法が連発され、教師の言葉を追いかけるだけで精一杯かもしれません。確かに国の高校で習った覚えのある内容なのですが、それを日本語で改めて勉強するとなると、また違った難しさを感じるでしょう。

私は初級を教えた経験もありますから、目の前の学生が知っているはずの文法を組み合わせて説明を組み立てることもできますが、そうでない先生方は言葉の加減が難しいと思います。でも、進学したら、進学先の先生方が留学生に合わせたやさしい日本語を使ってくれることは、まずないでしょう。日本語「を」勉強するのではなく、日本語「で」勉強する訓練を、受験講座を通してしてもらいたいと思っています。

先学期以前から勉強している学生たちも、試練の時です。大学の独自試験に照準を合わせた問題に取り組むとなると、EJUよりずっと大量の日本語を読まなければなりません。また、筆答式となると、自分の考えを簡潔にまとめることも求められます。日本人の受験生よりは甘く採点してもらえるとしても、限度というものがあります。採点官にとって意味不明の文だったら、点数はもらえません。採点官は、KCPの先生方のように広い心で留学生の書いた文の意味を受け取ってはくれないでしょう。口頭試問となったら、論理的に話を進めていく必要があります。これまた特訓あるのみです。

EJUで少しぐらい点が取れただけでは、考えている大学には手が届きません。苦しくてもここで力を伸ばすのです。夏に鍛える――今年はまだ夏らしい日がありませんが…。

関心事

7月16日(火)

先学期から、最上級クラスでは、週明けは前の週の気になるニュースについて話してもらうということで、学生たちに聞いてみました。

まず挙がったのが、「ジャニーズの社長さんがなくなった」というニュースでした。私たちの世代にとってジャニーズは憧れというか雲の上の存在で、田原俊彦とか近藤真彦とかは、確かにその前の“スター”に比べれば身近な存在でしたが、我々下々とは違うという感覚がありました。学生たちにとってのジャニーズは、亀梨和也あたりのようでした。木村拓哉という声もありましたが、やはり、亀梨の方にずっと親近感を覚えるようでした。

そんなことよりも盛り上がったのが、未明(だから厳密には「先週」のニュースではありませんが)に埼玉で起きた殺人未遂事件でした。高校生が自宅の部屋で侵入者に首を刺されたというもので、現時点で犯人はまだ捕まっておらず、高校生は命に別状ないとのことです。学生たちは、事件の背景とか関係者とかについて好き勝手なことを言って、想像力をたくましくしていました。

それが一段落したところで、日経の社説を読ませました。日本の人口減少を扱った記事です。こちらは記事の内容について、常識問題も加えて、いくつか問を設けました。記事を読ませ始めた瞬間はおとなしくなってしまいましたが、設問をみんなで考える段になると、また元気が出てきました。

残念ながら、問の答えははずれが多かったです。「三大都市圏は東京、大阪、京都」など、江戸時代じゃないんだぞと突っ込みを入れたくなる場面もありました。ただ、日本の現状に対して強い関心を持っていることはよくわかりました。この関心をさらに伸ばしていけるような授業を、今後もしていきたいと思いました。

天候不順

7月13日(土)

去年の関東地方の梅雨明けは6月29日でした。私は梅雨の中休みと判定し、もうひと山来ると踏んだのですが、気象庁に完敗でした。6月から夏本番となり、去年の今頃は外に出るたびに大汗をかいたものでした。それに引き換え、今年はどうでしょう。6月28日を最後に、真夏日がありません。それどころか、最高気温ですら20度をかろうじて上回るにすぎません。

長袖のシャツをすべてしまい込んでしまった私は、部屋の隅っこに丸まっていたカーディガンのようなものでどうにか寒さをしのいでいます。今週は、結局、毎日お世話になってしまいました。校舎の中にいる時はともかく、朝晩は本当に助かっています。明日はうちの前のユニクロをのぞいて、もう少ししゃきっとしたのを手に入れようかな。

週間予報を見ると、来週もパッとしないお天気が続きそうです。このままでは、梅雨明けが発表されなかった1993年並みになりそうです。あの年は、7月なのに外で中継していたアナウンサーの息が白く映りましたからねえ。眠りから覚めたセミがあまりの寒さに飛び上がれず、道端で死んでいました。日照時間を比べたら、今年はその1993年すら下回っています。

こうまでなると、熱帯夜が恋しくなってきますから、勝手なものです。この時期、私の通勤時間帯には、バス停のベンチで気持ちよさそうに眠っているオジサンがいて、羨望の念を覚えるものですが、今年は全く見かけません。たとえ見かけても、気の毒に思ってしまうでしょう。

去年は、毎学期恒例のバザーが、あまりの暑さのために中止になりました。今年は、雨で中止になりそうな雰囲気です。地球温暖化が、巡り巡って、こういう妙に涼しい夏や、やたら雪の多い冬をもたらしているそうです。毎年日本のどこかを襲ってくる“〇十年に一度の大雨”にも関係していると言われています。地盤が緩んだところに地震が発生したら…。文字通り“日本沈没”になりかねません。

外を歩いている人たちが傘をさしています。また雨が降り出したようです。