Category Archives: 学生

旧交を温める

3月15日(金)

病欠のO先生に代わって、初級クラスに入りました。名簿を見ると、このクラスには先々学期レベル1で教えた学生が2人います。そういう学生に会って伸びを確かめるのも、代講の楽しみです。

教室に入ると、その1人であるSさんはすでに教室にいて、授業開始直後に行われる漢字テストと文法テストの準備をしていました。いい点取れよと心の中で声を掛けました。

ほどなく始業のチャイムが鳴りましたが、知っている学生のもう1人、Fさんが来ていません。出席を取り終わってもまだ入ってきません。「では、漢字のテストを始めます」と、試験用紙を配り終えた頃にFさんが入ってきました。私と目が合うと、一瞬、しまったという顔をしました。

テストが終わると、週の初めにやった文法テストの返却日に当たっていましたから、学生たちにテストを返しました。Sさんは、なんと、不合格ではありませんか。「レベル1の時はいい学生だったのに」と言いながら返すと、申し訳なさそうに受け取っていました。こういう恥ずかしい思いをしなければならなくなることがありますから、KCPの学生は油断ができません。Fさんは、以前と変わらず優秀な成績でした。

このクラスはアルファベットの国からの学生が優秀なようで、テストの成績でもトップを争っていました。フィードバックのついでに初級とは別の切り口からこのテストで扱っていた文法の話をしました。そういうのを真剣に聞いていたのも、アルファベットの国のみなさんでした。

確かに、JLPTやEJUでは漢字の国の学生の方が好成績を収めますが、KCPのテストはコミュニケーション力を見ようという色彩もありますから、国でそういう訓練を受けてきたアルファベットの国の学生が有利になる面もあります。上述のように、知的好奇心が強いことは、この先大きく伸びていく余地があるということでもあります。

代講は、時間が奪われることは事実ですが、興味深い発見も多いので、結構楽しんでいます。

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拍手拍手

3月14日(木)

昼休みに、6階の講堂で、演劇部の「レ・ミゼラブル」が公演されました。ちょうど1週間前、卒業式の際の発表があまりにもよくできたので、卒業式に参加しなかった在校生にも見てもらおうという意味もありました。レ・ミゼラブルには卒業生も登場していましたが、その卒業生たちもわざわざ演じに来てくれました。

四谷区民センターとKCPの講堂ですからね、舞台装置の差はいかんともしがたいものがあります。ステージそのものも狭いし…。でも、演劇部のみなさんは、それにもめげずに熱演してくれました。1週間前の驚きと感動が、鮮やかによみがえってきました。何といっても、四谷区民センターよりもずっと近くで学生たちの演技が見られたのがいちばんよかったですね。

カーテンコールでは何回も大きな拍手が沸き起こりました。ステージ上の面々も、仕事をやり遂げた自信に満ちた笑顔を見せていました。演劇部のN先生が「演劇部に興味を持った人は、ぜひ4月から一緒に活動しましょう」と挨拶していました。これに応えてくれる学生がどのくらい出てくるかな。次の発表はコトバデーあたりでしょうか。練習期間はたっぷりあります。卒業式に負けない公演に仕上げてもらいたいですね。

さて、この公演、新聞部の学生たちが取材していました。Nさんなんかはインタビューされていました。どんな記事になるんでしょうか。期末テスト前にはラウンジの掲示板に張り出されるのでしょう。今から楽しみです。

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成長

3月13日(水)

初級のCさんはまじめな学生です。毎日の宿題をきちんとしてくることはもちろん、予習もしてくるし、授業も真剣に聞いています。しかし、成績は今一つ伸びていません。テストはどうにか合格点というレベルですし、例文などの提出物にも誤りがいくつもあります。

学期の最初の頃は、指名されると「えっ、私ですか」と言わんばかりにこちらを見返してきました。音声がうまく聞き取れていなかったのかもしれません。また、易しい問題を当てても的外れな答えを言ってしまうこともありました。残念ながら来学期は進級できないだろうなあと思っていました。

「建築家って?」と、漢字の時間に出てきた単語の意味をクラス全体に聞いたところ、「ビルを建設する人です」「家を建築する人です」などという声があちこちから上がりました。すると、教卓の真ん前に座っていたCさんがやおら口を開きました。「建築家はビルをデザインして、絵(設計図)を描いて、みんなにお願いして(関係者に指示を出して?)、ビルを建てる人です」と、つたないながらも立派な説明をしてくれました。

私は驚きました。学期の初めには単語レベルの話しかできなかったCさんが、こんなにまで話せるようになったのです。相撲の世界には「3年先の稽古をしろ」という戒めの言葉がありますが、Cさんは今学期の最初から2か月先の勉強をし、その努力が実を結び、学期末近くになって花開いたのです。そうそう、授業の最初にやった漢字テストも、今学期最高点でした。

1月下旬ぐらいだったでしょうか、新聞部に所属しているCさんが私の所へ取材に来ました。持てる想像力をフルに働かせてCさんの質問の意味を感じ取り、Cさんにわかるようにかみ砕いて答えました。今なら、そんな苦労をすることなく、話が弾むことでしょう。

今学期も多くの学生に触れあってきましたが、日本語力が一番成長したのは、疑いなくCさんです。

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新クラス

3月12日(火)

今学期中級のKさんは、現在6月のEJUに照準を合わせて、日本語プラスにも参加しながら勉強を進めています。卒業式の前までは紛れもない中級のクラスでしたが、今は上級の学生に交じって勉強しています。

上級は卒業していった学生がおおぜいいますから、卒業式後にクラスを編成し直しました。その際、一部の中級の学生を上級クラスに引っ張り上げました。Kさんはその1人に選ばれたのです。

中級クラスでは上位に位置していたKさんですが、上級の学生と机を並べると、やはり引け目を感じざるを得ません。教材も「こんなの楽勝」とは言えなくなり、先生の教え方も上級を基準にしていますから、中級のつもりでいると置いていかれてしまいます。

そういう綱渡り的な面もありますが、Kさんはこの難しさがいい刺激になっていると楽しんでいるようです。そういうことができそうな学生を選んで上級にしているのですから、担任教師の読みの通りだったとも、好ましい方向に反応が進んでいるとも言えます。そういう気持ちで向かって行ったら、これからも日本語力は伸びるでしょうし、4月からはKCPの屋台骨を支えてくれる学生になっていくに違いありません。

でも、そのクラスにSさんやTさんの名前はありませんでした。2人とも直接教えたことはありませんが、入学してから何回か接触する機会があり、ひそかに期待していた学生です。クラスの先生の目には、Kさんほど伸びていないと映ったのでしょう。

もちろん、現時点で卒業までの運命が決まってしまったわけではありません。これからいくらでも逆転のチャンスはあります。とはいえ、漫然と今までと同じ発想と行動を繰り返していたら、伸び悩みのままでしょう。留学の目的が果たせるかどうか、今が正念場ですよ。

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3月の定番2

3月6日(水)

明日に迫った卒業式を前に、卒業証書の受け取り方の練習をしました。KCPの卒業式は、壇上でひとりひとりに証書を手渡します。その証書を受け取る作法を教えるのです。

日本人の教師は、いつどこで教えられたのか、年齢によらず、片手ずつ出して証書の横をつかんで受け取って礼をする作法を、細かいところは多少違っていても、知っています。しかし、それは日本独特のものであり、学生たちは、国籍を問わず、そんな作法は知りません。卒業式のセレモニーとしての格調の高さを維持する上でも、学生たちにはあの作法を覚えてもらわなければなりません。何も教えないと、ステージのまんまん中で校長に正対して、早くよこせと言わんばかりにいきなり両手の手のひらを上に向けて差し出す学生が続出します。

最初に教師が実演しながら受け取り方を説明します。次に、学生たちに実際にやってもらいます。ステージのどこにスタンバイして、証書と記念品を受け取ったら、どこからステージを下りて自席に戻るかという、証書受け取りの前後も含めて予行演習します。

教師が実演したくらいですから、また、こういうことはするなと注意もしていますから、受け取り方はわかっているはずです。でも、毎年のことですが、教えられたとおりにきちんとこなす学生と、何じゃお前はと言いたくなる学生とが出てきます。後者はスマホに集中していたのでしょう。正対した時の目を見れば、前者か後者かだいたい見当がつきます。失敗は今ここでしておいて、明日きちんとやってくれればそれでいいんですがね。

終業のチャイムが鳴ると、予行演習を済ませた学生たちが帰っていきました。明日は会場の四谷区民センター集合ですから、もしかすると、予行演習でさんざん叱られたのが、この校舎の最後の思い出になってしまったかもしれません。

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3月の定番

3月5日(火)

卒業式直前の上級クラスの授業では、よく“お世話になった先生へのお礼状”を書いてもらいます。さすがの上級の中でも上の方、超級の学生でも、いきなりお礼状を書けと言われても書けるものではありません。ですから、私は、よく、10年余り前に中級まで勉強して進学していった学生からもらったお礼状を見本にしています。このお礼状は、文面には拙さが見られるものの文法的な誤りはなく、時候のあいさつ、感謝の言葉、読み手の健康を気遣う言葉と、お礼状の要素はすべて盛り込まれています。しかも「拝啓~敬具」でまとめられていますから、上級の教材としても十分に通用します。それどころか、日本人の大学生だってここまで書ける人って少ないんじゃないかと思われるほどです。

中級の学生が書いた文面ですから、超級の学生なら内容はすぐに理解できます。問題は、それを自分に合わせてカスタマイズできるかです。省エネタイプの学生は、時候の挨拶まできっちり写します。しかし、「専門学校に進みます。いつか先生に私が作ったケーキを食べてもらいたいです」という部分はどうにかしなければなりません。そこで頭を抱えてしまうんですねえ。今年の卒業生たちも、みんな呻吟していました。

「手紙の文章は、チェックはしませんよ」と言ってありますが、これも学生たちにとってはプレッシャーになるようです。せっかくのお礼状に誤用がいっぱいだったら、そりゃあ恥ずかしいでしょうね。でも、見本のお礼状を書いた学生は、誰のチェックも受けていません。しかも、今のようにAIにお願いすれば何でもしてくれるようになるより前の時代です。超級の学生にできないはずがありませんから、私は突き放します。

それぞれ、自分のお世話になった先生の名前を封筒に書き、手紙を入れて封をして出してくれました。「卒業式の前に読まれると恥ずかしい」と言っていますから、宛名の先生には卒業式後にお渡しします。

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少子化対策はやっぱりない

3月4日(月)

朝、出勤すると、ロビーに雛人形が飾ってありました。遅ればせながらですが、今年は2月29日が学校行事でみんな出かけましたから、しかたのないところでしょう。

昔は、「雛飾りを片付けるのが遅れると、お嫁に行くのが遅くなる」と言われたものです。それに従えば、KCPの女子在校生全員の婚期が遅れるということになります。でも、今時、婚期がどうのこうのということ自体、あまり話題にならなくなったような気がします。それだけ晩婚化、非婚化が進んだのです。

金曜日とは別のクラスで、日本の出生数と韓国の出生率の動画を見せて、どんな条件が整えられれば安心して子供を産み育てられそうかというテーマで話し合ってもらいました。数人のグループをいくつか作りましたが、どのグループもメンバーが意見を言い合っていました。

しかし、結論は厳しいものでした。多少は改善されつつあるものの、子どもを産み育てることにおいては女性の負担が大きく、動画で述べられていたように、自分のしたいこととの両立が難しいと訴えた学生もいました。また、親世代と自分たちの世代とで、子育てに対する考え方が違うから、子育てを親に頼れないという意見も出てきました。自分たちが子供の頃はその差が小さかったので、親世代はそのまた親世代(学生たちから見ると祖父母世代)に頼れたけれども、今は違うというわけです。そんな感じで、学生の多くが、積極的に子供を持ちたいとは思っていないようでした。

日本人の若者も同じように考えているんでしょうね。少子化の打開策を考えるよりも、少子化を前提とした社会づくりに力を入れるべきなのかもしれません。

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少子化対策はない?

3月1日(金)

今週は立て続けに2件、少子化の進行を示す統計が発表されました。1つは、昨年の日本の出生数が一昨年比5%減の75万人余りだったという厚生労働省の発表です。もう1つは、韓国の昨年の出生率が一昨年より0.06下がって0.72だったという韓国統計庁の発表です。両国とも少子化の進行が問題になっていましたが、さらに深刻化したというデータが示されました。

これを基に、上級クラスでどんな施策があれば子供を産み育てようという気になるかという話し合いをしました。学生たちはこれから子供を持つ(かもしれない)世代です。そして、クラスの大半が少子化に悩む国から来ています。そういう学生たちがどんな反応を示すか、アイデアを出すかに興味がありました。

「避妊薬などに高額の税金を掛ければいい」などという暴論は出てきたものの、残念ながら、膝を叩くような案は出てきませんでした。つまり、各国の施策は若者の心を子育てに向ける力はなく、かといって若者を子育てに向けされる妙案もないということです。さらに言えば、現代社会は若者が子育てに励むには不向きな構造になっているのです。だとすると、日本も韓国も他の国々も、少子化の進行は止められず、社会を支える層が薄くなることによる国家の崩壊は防ぎようがないということになります。

ほんの20分か30分の議論で素晴らしい政策が思い浮かんだら、どこの国も少子化に頭を抱えることはないでしょう。でも、学生たちが、どんな条件が整えば子供を産む育てる気になるか全然見当がつかないというのは、見過ごすことはできません。この状況を打破するには、コペルニクス的発想の転換が必要なようです。

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過半数確保

2月27日(火)

卒業認定試験翌日の上級の教室は、悲惨なものでした。9時1分前ぐらいに教室に入ると、片手をちょっと上回るほどの学生しかいませんでした。階段を駆け上がった方が早いのにエレベーターを待って乗ってくる学生がいますから、その学生たちに合わせてノロノロとタブレットを立ち上げ、出席を取る準備をしていると、予想通り、数名の学生が駆け込んできました。これでやっと過半数が確保できました。

教室を見渡すと、もともと出席率の高い学生と、出席率が悪いのでビザ更新に備えて0.1%でも数字を上げておこうと学校へ来ている学生と、その中間の学生と、それぞれ1/3ずつぐらいでしょうか。私が学生の立場だったら、やっぱり休んじゃうかなあ…。私はケチですから、支払った授業料分は取り返さねばと、しぶとく通い続けるような気がします。

ゆうべから今朝授業が始まる直前にかけて、昨日の認定試験の採点をしました。私が作問したクラスは、どこも「できるやつはできる、できないやつはできない」という順当な結果に落ち着きました。テストの時の“わからなかった”という記憶を学生たちが鮮明に持っているうちにテストの反省会を開きたかったのですが、過半数をやっと超える程度ではその意味も薄れてしまいます。でも、せっかく来た学生には有意義な授業をしてあげたいですから、予定通りに授業をしました。テスト前の授業では気づかなかった点に目を向けられた学生もいたみたいです。

それから、あさってのディズニーシー行きの説明もあったのですが、こちらも欠席組には伝わっていません。ネット経由でアップしてあるしおりを見てもらうほかありません。でも、行事の時って、説明を聞いていない学生に限って何かしでかすんですよね。一抹の不安が拭い切れません。

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新クラスの前触れ

2月26日(月)

卒業認定試験がありました。と言っても、私は試験監督ではなく、上級で卒業認定試験を受けない学生たちを集めた合同クラスの授業を担当しました。

一口に上級と言っても、今学期上級に進級したばかりの、よくできる中級と言った方がふさわしい学生から、その辺のバカ高校生よりもよっぽど日本語がよくわかる学生までいます。ですから、普通に授業をしたら上か下のどちらかがつまらない思いをすることになります。そういうわけで、上の上から上の下まで組み合わせたグループをいくつか作り、グループ学習をしました。

「下のレベルの人はわからないことを上のレベルの人に聞いてください。上のレベルの人は聞かれたら教えてあげてください」と指示しておいたからでしょうか、上の上組が質問に答えている場面が見られました。Qさん、Bさん、Lさん、Aさん、Cさんなど、自分が引っ張らなければという学生が自然発生的に現れました。

初級の学生の作文から拾ってきた誤用を直す課題では、上級らしい文法や語句などを用いた、私の想定を上回る訂正がいくつも出てきました。単に助詞や単語をいじるだけではなく、文の作りをガラッと変える訂正もあり、学生たちの力を見直しました。

このクラスの学生たちの一部は、4月からの新学期になると机を並べて勉強することになります。今は3月に卒業する学生たちの陰に隠れているところがありますが、来年度の最上級クラスを構成するメンバーであり、KCPをしょって立つ面々です。まっすぐに育っていってもらいものです。

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