Category Archives: 学生

返信をいただきました

12月25日(木)

期末テストの採点が終わると、残念な結果だった学生に連絡します。「もう一度同じレベルで勉強してください」というメールを書くのは、やはり気が重いものです。でも、進級してもそのレベルの授業が全然わからなかったら、その人にとって授業料と時間の無駄遣い以外の何物でもありません。進級できたらうれしいでしょうが、その先には苦難しか待っていません。

昨日、Sさんに“もう一度”のメールを送りました。期末テストで合格点の半分ぐらいの点しか取れませんでしたから、進級しても授業中はお客さんになるだけです。今朝、メールをチェックすると、そのメールに対する返信が届いていました。中を見てみると、立派な日本語でどうしても進級したいと訴えていました。

主張はすぐにわかりましたが、そこにはSさんの肉声はありませんでした。レベル1の、しかも期末テストに合格できなかった学生ですから、自分の気持ちを日本語で表現するには翻訳ソフトの助けが必要でしょう。しかし、Sさん自身の言葉が1つもないのには、冷たいというか、自分の要求をゴリ押ししてくるような強引さを感じました。メールの末尾に添えられた、“拝啓”のない“敬具”が、何もわからずに翻訳ソフトの文をそのままコピペしたことを表していました。

それに対して返信したら、夕方、また返信が来ました。朝よりもずっと長い文面で、進級したい気持ちが述べられていました。この10分の1の長さでいいから、Sさんが作った文で心情を語ってほしいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

12月24日(水)

Hさんが期末テストの追試を受けに来ました。先週金曜日の期末テスト当日は、体調不良というメールがあり、欠席しました。メールが届いた時間からすると、単なる寝坊かもしれないなと思いました。

期末テストの追試は月曜日に行われましたが、これまた体調不良で欠席。昨日も、だいぶ良くなったものの、まだ完全復活ではないとのことで、「明日受けます」というメールが届きました。

今朝も席に着いてからたびたびメールチェックをしましたが、Hさんからのメールはありませんでした。しかし、9時になっても10時になってもHさんは姿を現しませんでした。お昼の買い出しにちょっと外に出て戻ってきたら、Hさんが来たというではありませんか。ラウンジに行くと、Hさんがいました。乱れた髪が病み上がりの風情を醸し出していました。空咳ではない咳をしていて、S先生から職員室に置いてあるマスクを手渡されるほどでした。

早速テストを始めました。時折机に伏せるなど、本調子ではない様子がうかがえました。それでもどうにか最後までテストを全科目受けました。帰り際に出席率を気にするあたり、Hさんらしかったです。こういうことができるということは、最悪の状況は脱しているようです。

さて、採点です。はっきり言って、悪かったです。勉強した形跡が見られませんでした。先週末から今週前半にかけて、教科書も開けないほど具合が悪かったのでしょう。勝手に寝坊と邪推し、申し訳ありませんでした。この成績の悪さは、大目に見てあげることにしましょう。

Hさんは、年明けにも受験があるはずです。そこではこんな温情はかけてもらえません。年末年始は体調を整えることを第一に過ごしてもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

実力者

12月23日(火)

期末テストの前日に行った実力テストの採点をしました。実力テストは期末テストとは違って、試験範囲があるわけではなく、どんな系統の問題が出るか、学生たちには全くわかりません。ですから、成績の良し悪しは定期テストとは異なった傾向になり、授業中のパフォーマンスとも違う様相を示します。

Hさんは、授業中に発言したのを聞いたことがありません。指名してもマスク越しに蚊の鳴くような声で答えるだけですから、声がよく聞き取れませんでした。自信がないからそんな声なのかと思っていたら、実力テストではすばらしい成績でした。期末テストもそれなりの成績でしたが、それ以上でした。Yさんも同じようなタイプです。能ある鷹は爪を隠すタイプなのでしょうか。

Sさんは全神経を授業に集中するタイプです。克明にノートを取っている感じで、私のくだらない脱線も記録されているのかと思うと、気恥ずかしくなるほどです。でも、実力テストはあまり点数が伸びませんでした。しかし、自分の意見を書く問いには、授業中のSさんらしい答えが書かれていました。Jさんもこのタイプです。読解問題そのものよりも、ミニ小論文的な問題で点数を稼いでいました。

どちらのタイプの学生がいいとか悪いとかいう問題ではありません。どちらの学生も力はあります。初見ですぐに理解するか、何回も読んでじっくり理解を深めるか、その違いです。ただ、授業をする教師の立場からすると、SさんやJさんの方が、授業中頼りになり、その分、印象も強いです。

こういった学生の特徴も組み合わせて、新学期のクラス編成をしていきます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

初めよければすべてよし?

12月22日(月)

期末テストの採点をしました。今回は“やっぱりね”という感じの成績ばかりでした。授業にまじめに参加している学生が高得点を挙げ、よく休む学生が赤点に沈みました。順当な結果だったということは、テスト問題も妥当だったということでしょう。

上級クラスは自分が受け持っているクラスの読解を採点しました。毎回真剣に話を聞いているAさんやHさん、教科書が真っ黒になるくらい書き込みをしているXさん、授業中に発言の多いJさんなどが、それにふさわしい好成績を取ってくれました。その一方で、授業中ボーっとしている学生たちが、見当違いの答えを並べて不合格となりました。

初級は、名前も知らない、顔を見ても全然わからない学生たちの答案の採点でした。情け容赦なくどんどん×をつけていきました…と言いたいところですが、きれいな字には甘くなってしまったような気もします。読もうという努力をしないと読めない字は、部分点ぐらいならあげられる答えも書かれていたかもしれませんが、バサッと斬り捨ててしまいました。どのクラスでも“字は丁寧に”と指導していますから、汚い字が不利な扱いを受けたとしても、しかたないですね。

その成績をクラス成績表に入力してみると、概ね中間テストや平常点と似たような数字でした。初級は下克上がいっぱいあってもよさそうなのですが、もう定位置が決まってしまったのでしょうか。それは何だか悲しい気がします。今は低空飛行の学生も、いつかは高高度で空中戦を繰り広げてもらいたいものです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

流血

12月19日(金)

私は、朝、新宿御苑駅から外に出た時から仕事モードに入ります。そこから学校までの数分間で、その日の仕事の流れを考え、いつどこで何をするか決めます。予定外のことが入ってきたり、やり始めたら意外と難事業だったりすることもあるので、その通りにいかない日の方が多いくらいです。でも、大外れにはなりません。基本ラインを決めることで、効率的に動けるような気がします。

今朝も、期末テストの前にあれしてこれして、午前の試験監督をしながらあれしてこれして、昼の時間にあれしてこれして…と予定を組み立てながら歩いていたら、突然、思いっきりこけてしまいました。一瞬何が起こったかわかりませんでした。車道と歩道の境目に立っている、腰の高さほどのポールに衝突して、でんぐり返しをしてしまったのです。私の出勤時間帯は日の出のはるか前ですから、考え事をしていた私の目は、ポールをとらえられなかったのです。

目尻を道路にぶつけ、どうやら血が出ているようでした。学校のすぐそばですから、そのまま学校まで行き、荷物を置いてトイレの鏡を見てみると、傷口から血が流れ出ていました。除菌シートで血をふき取り、ある程度血が止まってからコンビニで絆創膏を買い、傷口に貼りました。

そんな姿で試験監督の教室に入ったら、選択授業の小論文クラスで毎週顔を合わせているSさんが「先生、どうしたんですか」と気の毒そうな顔をして声をかけてくれました。午後の試験監督はレベル1でしたから、私の顔が変だと気づいてはいたものの、どう声をかけていいのかわからなかったのでしょう。見て見ぬふりをしているような視線を感じました。夕方、歯医者を予約していましたから歯医者に行くと、先生から「どうしたんですか」と聞かれました。どうやら、各方面にご心配をおかけしたようです。

私は歩きスマホはしませんが、考え事は歩きスマホと同じくらい危ないと、身をもって知らされました。これから、気をつけます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

しばしの別れ

12月17日(水)

「えーっ、これ、便利!」 教科書巻末の文型一覧表を発見したSさんが叫ぶと、学生全員がその一覧表のページを開いて、ああだこうだ言い始めました。期末テスト2日前にしてやっと気がつくというのは遅すぎる感じがしますが、その表を使って2日間集中的に勉強すれば、今学期その教科書で勉強したことがしっかり身に付くでしょう。それが来学期以降の土台になります。

一番下のレベルと言っても侮ることはできません。その気になれば既習事項を組み合わせてかなり複雑なことも表現できます。こちらも、そういうことを念頭に、意識的に長い文を作らせたり、時事ネタをちょっと扱って社会性を持たせたりと、難しいことができるようになったんだよというメッセージを送っています。

レベル1はこれから先の日本語学習の基礎作りですが、同時に高い到達点も指し示してあげたいです。上も見るんだよと訴え続けてきました。伸びる素養にある学生をしっかり伸ばしてあげることも、教師の大きな役割です。私のように上級にも顔を突っ込んでいる教師なら、なおのことそういう仕事をしていけなければなりません。

初級クラスの最後の日には、「次は、レベル1のクラスじゃなくて、中級か上級の教室で会いたいですね」とあいさつします。実際に中級上級のクラスで再びまみえるケースはそんなに多くはありませんが、でも、絶対にゼロではありません。来年の夏ぐらいに、目の前にいる学生のうちの数名が、成長した姿でまた一緒に勉強するのです。今から、楽しみです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

熱く語る

12月16日(火)

期末テストが近づき、毎学期おなじみ、アメリカの大学プログラムで留学している学生へのオーラルテストが昨日から始まっています。私がインタビューした学生が中級以上だからでしょうか、みんな日本での就職を希望しています。就活中だとか、1年後に就職したいとか、それぞれ自分の計画を話してくれます。ずいぶん長い間このインタビューをしていますが、こんなにまで日本で就職したい学生が集まったのは初めてです。

「日本経済は、今、全然だめじゃないですか」「あなたの国で働いたほうが、いい給料がもらえますよ」などと冷や水を浴びせても、意気消沈するどころか、それ以上に熱くどんな仕事がしたいか語ってくれます。すでに頭の中で何回もシミュレーションしているのでしょうか、熱弁は続きます。そして、不思議なことに、話している言葉に誤りが少ないんです。だから、全員、オーラルテストの成績は素晴らしかったです。

やっぱり、語るものを持っていると強いんですよね。漠然と漫然と「進学」などと言っている学生に比べ、意気込み真剣みが違うのでしょう。「進学」の学生に、この熱量の高さ、語るものの豊富さを聞かせてやりたいです。数年の人生経験の差が、夢への熱意の違いとなって表に出てきているのです。私のような年寄りからすれば“わずか”数年ですが、学生たちにとっての数年は天地ほどの差に感じられたとしても不思議ありません。

逆に言うと、その数年の間に、若者は鍛えられ、大いに成長するのです。私は学生にあまり浪人を勧めませんが、その理由の1つが、これです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

押し詰まってきました

12月15日(月)

今週末が期末テストですが、そこへ向けてレベル1は厳しい戦いが続いています。中間テスト付近から“○○形”が続々と登場してきましたが、遂にラスボス・条件形が現れました。

作り方の説明の日本語は、みんなすぐに理解します。しかし、それに従って条件形が作れるようになるかというと、全くそんなことはありません。クラス全体に聞くと、できる学生につられてみんななんとなく言えたような気になります。しかし、ひとりひとりに聞くと、“あるきます―あるければ”“さがします―さがすれば”などというのが至る所から芽を出します。今のうちにこの芽を摘み取らねばと思いますが、なかなかうまくいきません。

こういうのは、1日で決着がつかなければ、長期戦に持ち込んでじわじわ浸透させていくのがいいのですが、なにせすぐ期末テストですから、悠長に構えているわけにはいきません。あの手この手で言わせてみようとしますが、そうたやすくうまくいくものではありません。結局、ほかにもやることがありますから、うちでも練習しろという方向に逃げてしまいました。

今使っている教科書は、会話が中心です。会話だと、勢いで目標としている文法項目が使えているように聞こえてしまうことがよくあります。しかし、筆記試験ではそうはいきません。正確さが要求されます。口頭では視覚的に何も残りませんが、筆記では厳然たる証拠が、学生にも教師にも突きつけられます。両者、それを見て青くなるという次第です。

このクラスに入るのは、あと水曜日だけです。その日に何とか仕上げなければ…と思っています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

歓声に包まれて

12月12日(金)

8時過ぎに私が新百合ヶ丘の駅に着くと、すでに数名の学生がいました。その後も三々五々、学生が集まってきました。外は寒いと言って、駅のコンビニに逃げ込む学生もいました。8時半ごろ、第一陣の学生がK先生に率いられて出発しました。私はコンビニの中の学生に声をかけて、第二陣として、国際交流授業の行われる神奈川県立麻生高校に向かいました。

控室に充てられた部屋は進路相談室みたいな教室で、大学の資料や赤本がたくさん並べられていました。それ以外のスペースは生徒が1人きりで集中できるブースになっていました。大机が並んでいるKCPの図書室とはだいぶ雰囲気が違いました。欠席者がいたので人数調整をし、高校の各クラスから迎えに来てくれた代表の生徒に連れられて、KCPの学生たちは教室へ。

麻生高校の校長先生をはじめ、幹部の方にご挨拶を済ませた後は、引率の教師は暇を持て余すことになります。授業の様子をチラ見するのも兼ねて、校舎内を見学させてもらいました。クラスごとに趣向を凝らしたイベントを企画してくださったようで、どの教室からも歓声が上がり、笑顔がうかがえました。また、社会科教室には付近で見つかった土器などが展示されていたり、理科室からは動物の骨格標本が顔をのぞかせていたりなど、随所に高校らしさを感じました。職員室前の掲示板には指定校推薦の一覧が張り出されていました。これはKCPと同じですね。

残念ながら、私は午後から学校で用事があるため、中座せざるを得ませんでした。でも、あの様子だったら、参加した学生は十分満足できたのではないでしょうか。楽しかった話をうんとして、欠席した学生をうらやましがらせてやろうではありませんか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ちょっと足りない

12月11日(木)

Kさんが欠席しました。昨日、志望校出願のためには出席率90%が必要だけど、現状では少し足りないという話をしたばかりなのに、出願がさらに遠のくことをしてしまいました。電話をかけて欠席理由を聞くと、お腹の調子が悪かったと言います。KCPの学生は、実に頻繁にお腹が痛くなります。性別、国籍、レベル、住所、あらゆる要素に関係なく、すぐにお腹の調子が悪くなって学校を休みます。私なんか、KCPに勤め始めてから、お腹が痛くなったことなんてないんじゃないかなあ。

入学から今まで、こんなふうに気安く休んだ結果が“志望校に出願できなかった”なのに、まだ休もうというのです。Kさんは日本で進学して日本で就職したいはずなのに、このままでは帰国街道まっしぐらです。志望校に合格して楽隠居みたいな学生もいる一方で、出願すらできずにいるのです。来年の3月までしかKCPにいられないのに、4月以降のことが何一つ決まっていません。非常に心配な状況です。

毎年、卒業式を迎えても無所属新人という学生が必ずいます。とにかく日本に残りたいので、形だけの不本意な進学をする学生もいます。そういう学生は、卒業後、消息を絶つことが多いですから、笑顔のある留学生活を送ってるのかどうかは、なかなかわかりません。たまに、仮面浪人の末に志望校に手が届いたと報告に来てくれる学生がいるくらいです。

Kさんは今後どうするつもりなのでしょう。救いの手を差し伸べたいのはやまやまですが、これ以上ひどくなってしまうと、私たちにはどうすることもできなくなってしまいます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ