Category Archives: 社会

どんでん返し

10月8日(金)

昨夜はひどい目に遭いました。EJUの数学の模範解答を作っていたらすっかり遅くなってしまいました。戸締りをして学校を出て御苑から丸ノ内線に。平時に戻ったとはいえ、夜遅い時間帯の電車は2年前に比べたらずいぶん空いています。私も腰掛けて本を読んでいました。

四谷三丁目を出て程なく、急ブレーキがかかりました。ほぼ同時に、かばんの中のマナモードになっているスマホが精いっぱいのうなり声をあげました。強い地震が発生したので緊急停止したと車内アナウンスがありましたが、揺れは全く感じませんでした。だから、すぐに運転再開するだろうと思っていましたが、結局20分ほど待たされました。でも、おかげで本のページがどんどん進みました。

赤坂見附で乗り換えた銀座線は、運転再開直後だったからでしょうか、けっこう混んでいました。車内で日比谷線は人形町・北千住間で運転見合わせという気になるアナウンスが。上野で降りて日比谷線の改札まで行ってみましたが、入口が閉鎖され、ホームに入れませんでした。まあ、上野まで来ればうちまで3キロちょっと。JRも全線止まっているとのことでしたから、タクシーは遠距離の人に譲って、歩いて帰ることにしました。暑すぎず、寒すぎず、歩くのにはちょうどよかったです。本気で歩いて30分少々。

南千住駅はメトロもJRもTXも止まっているみたいで、いつもは事務所に引っ込んでいる駅員さんが改札口に出ていました。さらに数分歩いてマンションのエントランスに着くと、“地震のためエレベーターは運転停止中”という張り紙が。こんなことなら、四谷から引き返して学校の近くの東横インにでも泊まればよかったと思いました。

自分の足で29階まで上がるほかありません。夏休みに、暇に飽かして1往復だけしましたが、こんな形で必要に迫られるとは…。涼風に吹かれて心地よい夜空の下のお散歩が、ゴール直前で滝のような大汗をかく羽目に陥ってしまいました。階段室って蒸し暑いんですよね。

結局、学校から家まで、普段の倍の時間がかかりました。玄関を入るや風呂場に直行し、シャワーを浴びました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

去る人

9月27日(月)

白鵬がついに引退するようです。36歳で、膝をはじめ体中いたるところにけがを抱えています。体力的にもう限界なのでしょう。今場所は白鵬の部屋で感染者が出たため出場停止になりましたが、内心ほっとしていたのではないかと思います。

白鵬が強い横綱だったことは疑いようがありません。優勝回数、幕内勝利数、横綱勝利数など、多くの記録を塗り替えました。1位になれなかったのは、連勝記録ぐらいではないでしょうか。しかし、高く評価する声ばかりではありません。取り口が汚いとか、相撲の伝統を知らないとか、批判的な評価も多いです。そういう者が親方になって弟子を育てられるのかという疑問すら上がっています。

でも、私は白鵬の功績を大いに認めます。朝青龍が暴行事件を起こして去った後の相撲界を支えたのは、明らかに白鵬です。その間、相撲界そのものが本場所も開けないほどの危急存亡のときを迎えました。白鵬がいなかったら、その危機を乗り越えられたかわかりません。

問題は、今後です。土俵上は、ちょうどうまい具合に照ノ富士が横綱になりました。しかし、2人の大関は8勝7敗だし、それ以下に照ノ富士を脅かしそうな力士も見当たりません。中心となるべき照ノ富士は29歳、いつまでもつかわかりません。また、白鵬自身、相撲界においてどういう地位を築いていくのでしょう。毀誉褒貶が激しいですから、組織の中で生き抜いていけるのか心配です。貴乃花が結局やめてしまったという例もあります。

白鵬はいろいろありましたが、大きな足跡を残しました。心から「お疲れさまでした」と声をかけようと思っている方も多いでしょう。しかし、同じくもうすぐやめる菅さん、あんたはどうなんですか。「お疲れさまでした」と言ってもらえるほどのことを成し遂げましたか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

我が道を行く

9月21日(火)

人間、与えられたチャンスを生かそうとするタイプと、自分の殻に閉じこもって出てこようとしないタイプとがあります。後者は自分のやり方・考え方が最高で、それ以外は認めないとするものです。自分というものをしっかり持っていると言えば聞こえはいいですが、単に頭が固すぎてチャンスをみすみす逃していることが往々にしてあります。私のクラスならSさんがその最たるものでしょうか。自分の意に染まないことは、全くやろうとしません。学校だって、休み続けると日本にいられなくなるから、やむを得ずオンライン授業に参加しているというのが本音だと思います。

そういう気持ちの差が如実に表れているのが、先週から取り掛かっている期末タスクです。担任のH先生の絶妙な人事配置で、Sさんタイプの学生が集まらないように振り分けられていますが、そうするとグループ内でタスクに対する温度差が生じて、これもまた厄介な問題です。

DさんとXさんに至っては無断欠席です。対面授業なら学生間の交流関係もある程度はつかめますから、どうにかして連絡を取れなどと言い切ってしまうこともできます。しかし、オンラインとなると、学生同士のつながりがさほど育っておらず、連絡の取りようがない場合も十分考えられます。欠員がいるグループは、タスクがうまくいくかどうか心配な様子で、いない学生の分はどうしたらいいかと聞いてきました。自分の担当分をきちんと完成させるようにと指示しておきました。

ここに登場した人たち、人の迷惑というのを考えたことがあるのでしょうか。チャンスを生かそうとしている学生のチャンスをつぶすようなことだけは、しないでもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

初対戦

9月17日(金)

画面には、いつになく緊張した表情のGさんが映っていました。10月早々に面接試験を控えているので、その面接練習をしました。Gさんはこれが初めての面接練習で、入試の面接とはどういうものかということも知りません。本番は対面ですが、手始めはオンラインで。

「簡単でけっこうですから、自己紹介をしてください」というと、名前と出身地だけという、本当に簡単極まる答えが返ってきました。自分を印象付ける言葉を、ほんの一言でいいですから、付け加えてほしいところです。

Gさんが予想していると思われる順番とは違う順番、違う言葉で質問すると、もうあたふたしてしまいます。その様子が、画面越しに手に取るようにわかりました。私のような根性にねじ曲がった面接官は、そういう受験生を見ると、ちょっといじめてやりたくなります。Gさんの答えの矛盾点を衝いて、窮地に追い込んでしまいました。

そういう影響があったせいでしょうか、Gさんは致命的なミスを犯してしまいました。大学でヒューマノイドロボットについて勉強したいというので、どんなヒューマノイドを作りたいか聞きました。すると、危険な場所で作業するヒューマノイドだと言います。さらに、なぜそういうヒューマノイドを作りたいのかと聞くと、「危険な場所で事故が起きて人間が死んだら、命は1つですから大変なことです。しかし、ロボットは事故で壊れても大丈夫です。代わりがいますから」。前半はともかく、後半は1発アウトでしょう。ロボとの使い捨て、ましてやヒューマノイドが壊れても“大丈夫”という発想は、大学の先生には受け入れがたいでしょう。

Gさんは本番までもう1回か2回面接練習をするチャンスがありますから、これから鍛えていこうと思います。暑い頃に出願した学生たちの勝負の時期が近づいてきました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

潮時?

9月15日(水)

Lさんが今学期いっぱいで退学します。Lさんは4月にKCPに入学したものの、来日できずにオンラインで授業を受けています。まじめで積極的で好感の持てる学生です。来日したら、ぜひ実際に会って話をしたいと思っていた学生です。

理由は明快です。来日できる見通しが立たないからです。来年4月の大学進学を目指していましたが、この分では本当に進学できるかどうか全然見えませんから、国で進学することにしたとのことです。Lさんほどの学生が熟慮の末に至った結論なら、残念ですが、受け入れるしかありません。

国で進学するにしても、Lさんは大学での勉強開始が1年遅れてしまいました。日本語力は確実に伸びましたから、この半年間がまるっきり無駄だとは思いません。Lさん自身、大学は国だけど、大学院は日本でと考えているようですから、先行投資だと思えないことはありません。でも、本当のところ、どうなんでしょうね。

去年のように11月ごろに入国可能になるかもしれません。ですが、それは希望的観測に過ぎず、それを根拠にLさんを強く引き留めることはできません。Lさんも、そういうことも勘案して、ぎりぎりの判断をしたに違いありません。だからこそ、その決定を尊重したいです。

Lさんのように、人生設計を立て直さなければならない留学生が大勢いることでしょう。日本の政府は何をしてきたのだろうと思わずにはいられません。未必の故意とまでは言いませんが、ベストかそれに近い手を選んできたのだろうかと、疑いの目を向けたくなります。

その政府の頂点に立つことになる人を、選挙の顔という、個人の都合のレベルで選ぼうとしている人たちが暗躍しています。Lさん、日本へ来るのは4年後ぐらいがちょうどいいかもしれませんよ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

お呼びがかかる

9月9日(木)

今年度になってから、いくつかの地方自治体から留学生向けの進学説明会の案内が届いています。何年か前からお付き合いしているところもありますが、今年初めてというところがほとんどです。何とかして留学生を呼び込みたいのでしょう。

地方の大学は学生を集めにくいという面はあると思います。ただし、最近の報道によると、減ったとはいえ感染者数が桁違いに多い東京に出るのが不安で、地元での進学を希望する高校生が増えているとも言います。18歳人口が減り続けることを見越して先手を打とうとしているのかもしれません。

多様性という観点から留学生の募集に力を入れているとも考えられます。少し前になりますが、ある地方都市を旅行で訪れた時、「大学を誘致することで毎年XX名の学生が入ってきて、留学生も何名か住むようになる」というポスターが街の一番にぎやかなところに貼られていました。わざわざ留学生のことが書かれているという点に期待の大きさを感じました。

さて、当の留学生たちですが、あまり関心を持っていません。大学だとランキングが気になるでしょうが、大学院は研究内容優先ですから、少しは目を向けてもいいと思います。しかし、そういう学生の話は私の耳に届いていません。地方の大学に進学した卒業生に聞くと、特に国立大学の学生は、地元の人から尊敬されるそうです。留学生なら、それに輪がかかります。また、稀有な経験をしたいのなら、東京じゃなくて地方でしょう。日本らしさを感じたいのなら、やはり地方です。東京は、国際的すぎます。

地方のお話を聞いていると、私が行きたくなります。その地方ならではの研究をしてみたです。私の代わりに行ってくれる学生を探しています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

理系の時事問題

9月6日(月)

KCPの先生方もだいぶワクチン接種が進みました。でも、大半の先生が何らかの副反応に見舞われています。出勤しても早退したり、週末に寝込んだり、あるいは先月の夏休みを半分ぐらい棒に振ったりなど、大変な思いをしているようです。

副反応が出るということは、免疫機能がしっかり働いているということです。若い人ほど副反応が強く出るというのも、体にとって異物であるワクチンに対して生体防御反応が活発に行われたということで、若さの証明なのです。2回目の接種後に強い副反応が出るというのは、免疫の二次応答と呼ばれるものです。全然出ないとなると、むしろ免疫細胞がきちんと働いているのかと心配すべきかもしれません。

現在接種されているワクチンは、mRNAワクチンという種類で、ウィルスの表面に存在する特徴的な物質をつくるmRNAを体内に送り込むというものです。ワクチン中のmRNAは体内で細胞の中に入り込み、細胞内でそのウィルスの表面に存在する物質をつくります。しかし、それは私たちの体に最初からあったものではありませんから、免疫細胞は異物と判定し、排除にかかります。このとき、こういう異物を退治したという記憶が残ります。この記憶のおかげで、次に同じ異物が侵入してきたら直ちにそれを攻撃できるのです。

この副反応の出方とか、mRNAワクチンの作用機序とかは、生物の教科書に書かれている免疫の働きの応用です。ですから、今シーズンの入試の口頭試問なんかに出るんじゃないかと思っています。昨シーズンはPCRのしくみが聞かれたとかという噂も耳にしています。

時事問題は、小論文や社会科学系の学部学科に限りません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

最後の御奉公を

9月4日(土)

お昼に入ったお店のテレビで、パラリンピックが放送されていました。私はオリもパラも興味を失っていましたから、7月のオリ開会式はじめ、今まで全然見ていません。だから、料理が来るまで、中継には目もくれずに本を読んでいました(小野不由美は読み始めると止められません)。

そのオリパラを強引に開催した菅さん、辞めちゃうんですね。Go to トラブルと言いたくなるような政策を出し続けたあげく、1年でクビという図式です。この稿でも何回か登場していただきましたが、優しい言葉をおかけした記憶はありません。

登場の時点からして怪しかったですからね。なんだか知らないけど、一番なってほしくない人が首相になっちゃったというのが、1年前の印象でした。6割とか7割とかという支持率を不思議な思いで見ていました。でもというか、やはりというか、竜頭蛇尾でした。日本語学校に関わりのあるところで言えば、去年の秋に一瞬だけ鎖国が解かれて新入生が入国してきましたが、その後は今に至るまでさっぱりです。現在、11月のEJUや12月のJLPTを日本で受けるつもりの学生が大勢海外で待っています。菅さん、最後のひと花で何とかしてくれませんか。

菅さんが首相に就任した日、全国の新規感染者数は541人、累積感染者数は約7万7千人でした。それが、今や、新規は日々2万人近く、累積は150万人以上となっています。感染の抑制は完全に失敗ですね。ワクチン接種はだいぶ進みましたが、予定通りとは言い難いのではないでしょうか。「経済優先のつけが…」などとも言われていますが、優先したわりには景況は思わしくありません。一見プラス成長ですが、去年の指標が悪すぎただけで、「ましだ」というに過ぎません。

菅さんは今年の誕生日で73歳です。あと数年したら、首相経験者ですから、旭日大綬章をもらっちゃうんですよね、きっと。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

450mから

8月23日(月)

お正月の時点では、夏休みは九州へ行く予定を立て、宿も足も全て押さえました。王塚古墳、秋月城址、大牟田と荒尾の炭鉱跡、バルーンミュージアム、善導寺、うきはのかっぱ、志賀島一周、香椎宮、余裕があれば平尾台か英彦山…どうです、絶対に一緒に行きたくないでしょう。すべて知っている人は、相当な九州オタクですね。

しかし、そんなものは緊急事態宣言の前に雲散霧消しました。たとえ強行したとしても(私が預託していた飛行機は、定刻で飛んだようです)、先週前半の九州は大雨でしたから、福岡空港と、そこから地下鉄で通じている博多・天神から一歩も出られなかったでしょう。そうなると毎日博多駅か福岡空港のマッサージ屋さんに入り浸って、大散財を繰り返したに違いありません。

結局、休み中に「出かけた」と言えるのは、東京スカイツリーだけでした。私のうちからスカイツリーまで、直線距離で3キロ、道のりで4キロですから、「不要不急」ではあったかもしれませんが、「遠出」ではありません。電車で行くと四角形の3辺を回ることになるので、電車賃のわりには乗換えばかり多くて時間短縮にはなりません。そこで、九州へ持って行くはずだった水筒に冷たい麦茶を仕込んで熱中症に備え、徒歩45分の旅に出ました。

遠見が聞きそうな晴れた日を選びましたから、スカイツリーに着いた頃には汗びっしょり。麦茶がおいしかったです。350mの天望デッキからでも十分東京やその近郊まで見渡せましたが、450mの天望回廊まで上がると、見え方が全然違いました。羽田空港が、その差が一番大きかったと思います。見下ろす角度の差なんでしょうね。御苑がずいぶん広々しているのに驚きました。その御苑をはじめ、東京には案外緑が多いんだなとも思いました。私のマンションも、とてもよく見えました。たった3キロ先なのですから。

帰りに、スカイツリーから徒歩数分のたばこと塩の博物館に寄りました。こちらは、製塩の子供向けの解説と、喫煙や喫煙具の文化的展示が中心で、理系人間には若干物足りない内容でした。それでも隅から隅まで2時間近く見学しましたかねえ。

夏休みは、穏やかに過ぎ去っていきました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

声の主

8月12日(木)

お昼を食べに出かけようとしたら、「先生、こんにちは」と声をかけられました。3月に卒業したKさんが書類の申請に来ていました。Kさんは卒業の学期に受け持った学生で、正直に言って成績はあまりよくなかったですが、クラスを盛り上げてくれました。堂々と言った答えが間違っていて、自然にクラス全体を和ませるというタイプの学生でした。そう、Kさんの方から声をかけてくるなんて、いかにもKさんらしいです。

Kさんは、日本で働くことを目指しています。だから「成績はあまりよくなかった」ではいけないのですが、テストでは測りにくいコミュニケーション力を持っています。日本語は下手なんだけど、なぜか通じちゃうという学生が時々いますが、Kさんもそういう学生でした。そのためなのかもしれませんが、手を差し伸べたくなる学生でもありました。たぶん、進学先でもそういうキャラを発揮しているんじゃないかな。

また、Kさんはクラスの日直の仕事をまじめにやり遂げる学生でした。指名されると机といすを几帳面に並べ、消毒のアルコールをふりかけ、机の中に忘れ物がないかしっかり調べてくれました。適当に済ませてさっさと帰ろうとする学生も多い中、Kさんのこういう愚直さは好ましく映りました。

Kさんの場合、エントリーシートがどうのこうのという就職戦線を勝ち抜くというよりも、人柄が武器となって、人づてに就職先が決まるんじゃないかって気がします。その方がKさん自身にとっても幸せなのではないでしょうか。時間もなかったし、こういう時期でもありますからゆっくり話せませんでしたが、Kさんの顔つきには自信が感じられました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ