Category Archives: 日本語

コミュニケーション

6月18日(金)

「Tさんは大学で何を勉強しますか」「私は国では理科系の勉強をしましたが、日本では文科系を勉強しようと思っています。Cさんは何を勉強しますか」「私は日本で理科系の勉強をしようと思っています」「じゃあ、受験講座で何を勉強する予定ですか」「化学と生物を勉強したいです。Tさんは何を勉強するつもりですか」「文科系の大学に行きたいですから、総合科目を勉強します。数学はわかりますから、受験講座で勉強しなくてもいいです」

レベル2の学生に受験講座の説明をしようと思ってZOOMを開いたら、CさんとTさんがこんな会話をしていました。多少不細工なところはありますが、授業で習った文法を使って、十分会話が成立しています。お互いに情報を与えたり受け取ったりして、コミュニケーションを取っていました。会話のテストだったら、満点をあげてもいいでしょう。

今学期、私が教えてきたクラスは、レベル1です。学期の初めのころに比べたら、ずっといろいろなことが話せるようになりました。でも、3か月後にCさんやTさん並みになっているだろうかというと、心もとないものがあります。CさんもTさんも特別高度な文法を使っているわけではありません。ただ、習った文法がよどみなく出てきています。つまり、勉強したことがきちんと定着しているのです。これが難しいのです。それができているから、満点をあげたくなってしまうわけです。

私のクラスは、来週の月曜日、期末の前日に、会話のテストがあります。私たちが精魂込めて教えた文法や語彙が、自然な形で使えるようになっているでしょうか。

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質問しにくい

6月17日(木)

初級のオンラインクラスで、先日行った文法テストのフィードバックをしました。来週の火曜日が期末テストですから、また、動詞の活用形があれこれ出てきてちょうど脱落者が増えるところですから、学生たちのテコ入れを図ろうと思いました。

テコ入れは、できたと思います。でも、想定の倍以上も時間がかかりました。サクサク進むかと思ったら、テストで間違えたことに関連して、各自が疑問点をぶつけてきましたから、話が広がる一方でした。どうにか収拾がついたと思ったら、休憩時間がすぐそこでした。

学生の疑問点を解消できたのはよかったですが。今までそれだけの疑問点を抱えさせていたのかと思うと、胸が痛みました。日本語がまだまだの学生たちですから、オンラインで質問となると、尻込みしてしまうのでしょう。偶然にも質問しやすい空気になったので、ここぞとばかりに聞いてきたのでしょう。

教室で質問するとクラスメートの目が気になるのではないかと思うのですが、学生たちにとってはそれよりもマイクを通して自分の質問意図を伝えることのほうが重荷を感じるのかもしれません。大学の講義では質問が出やすくなったという話をよく聞きますが、それは日本語に不自由しないからなのです。KCPでも、上級ではチャットが頻繁に使われます。

次の私の授業は、期末テスト前日です。学生たちがモヤモヤをなくし、すっきりした気持ちで期末テストを受け、すばらしい成績を取り、堂々と進級できるような手助けをしたいものです。

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話し言葉と書き言葉

6月8日(火)

6時半ごろ、Bさんが数学の質問があると、受付へ来ました。それまでに何回か来たようですが、私は午後ずっと授業でしたから、会えずじまいだったというわけです。

難しいことを聞かれたら困るなあと思いながらカウンターに出ると、BさんはEJUの過去問を示し、ある問題文の意味がわからないと言います。「…同一直線上にあり、三角形の頂点とならない3点の組み合わせは…」というところです。問題には、3×4に並んだ12個の点の図も付いています。これをお読みのみなさんはいかがでしょうか。

はっきり言って、このくらいはすっと理解できなければ、EJUの数学でしかるべき点を取るのは厳しいでしょう。でも、上の問題文の日本語は、初級の学生にとっては理解しにくいかもしれません。かといって、これ以上易しい表現にするためには、作問者である数学の先生が維持したい格調の高さを犠牲にせざるを得ません。

数学の問題や、それに対する解答には、独特のリズムや格調があります。私のような理系崩れの者ですら、そういったものを守ろうとします。学生向けの模範解答を作る時でも、徹底的にやさしい日本語には、どうしてもできません。格調なんか捨て去って、わかりやすさ第一で答えを書きたいのですが、最後の一歩が踏み出せません。

でも、口で説明するとなると話は別です。Bさんに対しても、問題についていた図を利用して、例を示しながら、Bさんにわかる範囲の日本語で説明しました。もちろん、Bさんには通じました。

そうです。数学にも、書き言葉と話し言葉があるのです。

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田植えの季節

6月3日(木)

代講で、久しぶりに日本語がかなり通じるクラスに入りました。通じると言っても初級クラスですから、たかが知れています。しかし、レベル1のクラスに比べたら単語も文法も知っていますから、教師としては楽です。

このクラス、ちょうど「みんなの日本語Ⅱ」が終わるところでした。その復習問題の答え合わせもしたのですが、そうなると、ついつい、学生が忘れていると思われる文法や表現を問い詰めてみたくなります。また、習ったはずの別の表現も使わせてみたくもなります。そんなことをしていると、あっという間に時間が過ぎ去っていきます。そのせいで後半は予定が押してしまいました。

でも、初級の文法がいい加減なまま上級まで来てしまうと、下手さに満ちあふれた日本語を使いまくります。上級を教えていた教師としては、その萌芽をぜひとも摘み取っておきたいのです。発音やアクセントもバシッと指導し、1ミリでも完全に近い形で進級してきてほしいものです。

午後は、そのもっと手前、レベル1のクラスでした。14課が過ぎていますから、新出語の動詞が何グループか聞いてみたら、ボロボロに間違っていました。午前中のクラス以上に“元から断たなきゃダメ”感が湧き上がりました。学生の頭の中には、まだ日本語文法の骨組みが出来上がっていません。動詞のグループを意識させるのは、その第一歩です。これまた、熱弁を振るったり練習させたりしていたら、時間が足りなくなってしまいました。

こういう学生たちが私のホームグラウンドにまで上がってくるのは、来年のことかもしれません。その時のために、種をまき、苗を育てているのです。

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旅行に行きたいです

5月28日(金)

昨日、レベル1のクラスで出した宿題に、「日本でどこへ旅行に行きたいですか」という自由回答の問題がありました。多くの学生が、「京都へ旅行に行きたいです」とか「北海道へ行きたいです」とか、〇をあげられる答えを書いてきました。

その中で、Cさんは「新宿へ旅行に行きたいです」と答えました。このクラスは全員が海外にいますから、「東京へ旅行に行きたいです」という答えはあるだろうと予想していましたし、それは〇にするつもりでした。しかし、「新宿」とされると違和感たっぷりです。

私が東京にいるからそう感じるのかと思って、いろいろな地名を入れてみました。「名古屋へ旅行に行きたいです」「軽井沢へ旅行に行きたいです」などは〇でしょう。「山科へ旅行に行きたいです」「難波へ旅行に行きたいです」は、新宿同様苦しいです。都市名レベルなら人口の大小によらず〇で、都市内の地名となるとXなのでしょうか。でも、「門真へ旅行に行きたいです」「習志野へ旅行に行きたいです」など、旅行のイメージが湧かないと都市名でもXに近い気がします。「草津温泉へ旅行に行きます」「石鎚山へ旅行に行きます」はXだけど、「三陸海岸へ旅行に行きます」は〇かな。温泉とか山とか具体的過ぎると、「湯治に行きます」「登山に行きます」など目的も具体的にしたくなります。

Fさんは「大学へ旅行に行きます」という答えでした。尋ねてみると、Fさんの出身大学には桜並木があり、その並木道が観光名所になっているとのことでした。だから、日本のいろいろな大学を見て回りたいようです。うーん、どう表現したらいいでしょう。「旅行に行きたいです」は使いにくいですね。「日本でいろいろな大学のキャンパスを見に行きたいです」ぐらいでしょうか。

例文に学生の気持ちを極力反映させてあげたいですが、なかなか難しいものです。

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山を越えて

5月27日(木)

レベル1最大の山場であり見せ場である14課・て形をやりました。ここまで動詞はすべてます形で、過去や否定を表すのもすべて「ます」の活用に集約されていました。しかし、14課に至って「ます」じゃない部分、動詞の本体が変化します。“はたらきますーはたらいて”など、語幹が長い動詞はまだ原形をとどめていますが、“あいますーあって”などとなると、原形が無残に崩れ去っています。しかも、“あります”も“あって”だし…。

学生にとっては“えーっ”の連続かもしれませんが、教師は強引にでも進めるのみです。条件反射的に“あいます、あって”と出てくるまで訓練することが、結局は学生のためになるのです。話したり書いたりする時に、て形を使おうとするたびに考え込んだり文法書を見たりするわけにはいきません。今すぐにではなくても、て形がよどみなく出てくるようにならなければなりません。

さて、私のクラスの学生たちはというと、授業の初めの頃はテンポが間延びしていましたが、練習しているうちにどうにか許せる範囲に落ち着いてきました。私もオンラインでて形の導入・練習をするのは初めてでしたが、何とか大役を果たせたのではないかと、勝手に自己評価しています。もっとも、明日のて形テストの結果がひどかったら、私の授業は教師のひとり相撲だったということにもなりかねません。

て形は「ています」「ておきます」「てあります」「てしまいます」「てもらいます」「てくれます」など、日本語を日本語たらしめている文法の基礎です。今晩必死にて形を覚えて、すばらしい日本語の使い手に育っていってほしいです(これもて形の応用表現ですね)。

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あ、いない

5月13日(木)

私が担当している初級クラスも、ようやく存在の「あります/います」までたどり着きました。オンラインですから、カメラを持って教室の中を駆け回り、「カレンダーがあります」とか、「時計があります」とか言わせました。学校の中を回ってもよかったのですが、他のクラスの授業の邪魔をしてはいけないし、wifiがどうにかなったら元も子もなくなってしまいますから、教室の外には出ずにおとなしくしていました。「学校の前にホテルがあります」は、窓の外の景色がうまく伝わらなかったようで…。KCPから見える側は、あんまりホテルっぽくないですからね。

次は学生たちの自身の部屋や住んでいる街について語り合うという、定番のタスクです。「机の上にパソコンがあります」「うちのとかという、パッとしない文が並びました。ぬいぐるみをたくさん持っているXさんが休みだったのが、何より残念でした。そのぬいぐるみの多様性で、形容詞の復習もできると踏んでいたのですが、当てが外れてしまいました。

存在の動詞を勉強するときには、セットで上とか前とか右とかの、いわゆる位置詞も勉強します。位置詞は、最終的には使えるようになるものの、初級前半には荷が重い面もあります。力の差が表面化する文法項目でもあります。YさんやOさん、Bさんなど、クラスの下位グループの学生は、ここを乗り切っておかないと、進級が危うくなります。この先、アイガー北壁をよじ登るような難関が待ち受けていますから。この難関を攻略するのは、学生と教師の共同作業です。

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目指せ花丸

4月28日(水)

私が担当している初級クラスは、「いっしょにテニスをしませんか」「ええ、しましょう」などという、「~ませんか」「~ましょう」がようやく終わったところです。そこで、これを使った会話スクリプトを作る宿題を出しました。この文法項目の理解確認もそうですですが、表記の正確さや会話を広げる力も見ようと思いました。

提出された作品を見ると、学期が始まって3週間足らずなのに、ずいぶん差がついています。国で勉強した貯金が利いている人もいるでしょうが、このモダリティー表現あたりで底を尽く例もよくあります。ですから、この会話スクリプトの出来は、学生の地力を表しているとも言えます。

Bさんは、私が板書した見本の会話をほぼそのまま書いてきました。呼びかけの名前を変えたのが、Bさんの良心でしょう。表記も不正確で、これからが心配です。また、消しゴムを使わずにぐしゃぐしゃと間違いを消してあるのも、いやな予感をさせられます。落ちていかないように引っ張らなければなりません。

Gさんは辞書で調べた難しい言葉を使おうとして自滅しました。場面を工夫しているのは褒めてあげてもいいですが、工夫することにばかり気持ちが向かってしまい、かえってわかりにくくなってしまいました。

一方、Jさんは、今までに習った文法と単語を上手に組み合わせてスクリプトを作り上げました。私の見本会話の要点をつかみ、それを応用してJさんのオリジナリティーを出しています。しかも、字がきれいです。花丸をあげてしまいました。Lさんも、無理なく「~ませんか」「~ましょう」を使っていました。

ここで浮かび上がった各学生の勉強の進み具合を参考にして、来週からの授業を考えていきます。

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これから

4月27日(火)

午前中は、初級の進学コースの授業をしました。本来の担当のO先生が日本語教師養成講座の講義をするため、代講のお鉢が回ってきたという次第です。ここのメンバーは、ごく一部が先学期2、3回入ったクラスの学生だったというだけで、ほとんどが初顔合わせです。でも、この学生たちが今年度来年度のKCPの屋台骨を支えるのかと思うと、じっくり観察したくもなります。

観察した結果は、う~ん、まだまだですねえ。鍛えがいがある、伸びしろがあると言えばその通りですが、先が長いこともまた事実です。読解も聴解も、問題作成者がにんまりしてしまうような引っ掛かり方をしてくれます。素直な一本道の問題しか理解できないとなると、大学入試もそうですが、日本で社会生活が送れるのか心配になってきます。だって、簡単にだまされちゃうんですよ。

それが終わって一息ついていたら、Zさんが物理の問題を持って来ました。先週の受験講座で配った問題がわからないと言います。Zさんの志望校を考えると、こちらもこれからバリバリ鍛えていかねばなりません。

その受験講座、来日できずに国で受講している学生がいます。そういう学生にも力を付けさせるべく、あれこれ工夫しています。孤独な戦いにならないようにというのもその一つです。私の目の前で聞いている学生たちを紹介したり、常に気にかけているという姿勢を示したりしています。

受験講座のあとは、新入生への大学進学のガイダンス授業。今までの学生の失敗談を語っているような気がしてきました。でも、同じ失敗は繰り返してほしくないですから、熱を込めてしまいます。

感染者数が増え続けています。まさか、今年も中止などということにはならないでしょうね。

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iPS細胞の次

4月23日(金)

ただいま、中級の読解で使う文章を書いています。中級なら市販の読解の教科書もたくさんあるのですが、あれこれ自由に手を加えるとなると、著作権がこちらにある自作の文章が一番です。自分が書いた原稿だったら、学生の反応を見て手直しもすぐにできます。

文章の中に、それを使うまでに勉強した語彙や文法を練り込むこともできます。もちろん、無理に使おうとして不自然な文章になってしまったら逆効果です、使えるところには積極的に使うという気持ちで書き進めています。また、語彙も、これはぜひ覚えてほしいとか、初級で勉強した単語だけどこういう意味用法もあるんだとか、慣用句やコロケーションとか、そういうことを考えながら選んでいます。

肝心の内容は、理科系の話題でというリクエストがありますから、それに応えています。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を取って間もないころ、iPS細胞について書きました。論理的な文章を読んで理解できるようになるという目的で、書き進めました。好評なようで、最近はその後のiPS細胞ということで、授業中に講演もしています。大学や大学院に進学したら、文献を読んだり話を聞いたりして理解を深めていくことの連続です。これはその練習です。

今回も、科学技術関係の論理的な文章を書くことになっています。iPS細胞は現在の技術の解説が中心でしたから、今度は技術の発展を時系列で見たお話にしようと思っています。そこに学生が「へー」と思えるような何かを加味して、学生を引き付けるような読解教材に仕上げたいです。

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