Category Archives: 学生

ありがたさ

4月6日(火)

先週の入学式に続き、進学コースのオリエンテーションをオンラインで行いました。学生のいる場所を選ばずに話し掛けられるのは結構なことですが、やっぱり手ごたえが頼りないです。生身の学生を目の前にすると、良くも悪くも感情が湧き上がってきます。オンラインは、それが弱いのです。

昔、東海道新幹線が開通した時、東京・大阪間が日帰りできるようになり、仕事がはかどると期待されました。しかし、実際はそれほどでもなかったそうです。「遠いところ、わざわざおいでくださった」という無言の推進力が亡くなってしまったからではないかと、作家の宮脇俊三氏は分析していました。

私は新入社員の時、山口県の工場に配属されました。たびたび東京まで出張し、社外の人に会いました。「山口県…」と所在地が書かれた名刺を渡すと、ほぼ一様に「遠いところわざわざ…」という感謝と恐縮が入り混じったような反応を示されました。私がいたところは航空便が使いにくく、また、当時はのぞみ号が運転される前でしたから、東京までひかり号で約6時間かかりました。

千葉に転勤になってから同じように東京で名刺を渡しても、山口の名刺の神通力はありませんでした。気安く呼び出されることも多くなったような気がしました。

オンラインは海を越えてつながることができます。でも、万里の波濤を乗り越えてKCPまで来てくれたという、学生への畏敬の念が、私の心の中で薄まってしまったような気がします。日本へ来られなくて気の毒にという同情心もありますから、それでプラスマイナスゼロかな。

出張の代わりに激増したと言われているオンラインでの商談は、どのくらいうまく進んでいるのでしょう。今の若い人たちは、生身で会うのと同じように仕事ができると信じたいです。

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リクルートスーツ

4月2日(金)

リクルートスーツそのままといったいでたちの若者が、学校の周りにも出現しています。マスク越しに笑い声も聞こえましたが、新入社員に皆さんには、もうしばらく緊張の日々が続きます。去年も同じ光景を目にしていたはずなのに、よく覚えていません。患者数は今の方がずっと多いのに、慣れなのでしょうか、余裕なのでしょうか。

KCPでも、入学式を行いました。去年の1月期以来、1年3か月ぶりです。現時点で新入生は入国できませんから、KCP史上初のオンラインでの入学式です。

挨拶をする立場としては、授業でだいぶ鍛えられたとはいえ、画面やカメラに向かってしゃべるのは、やりにくいですね。やっぱり、私の話を聞いてうなずいてくれる人が目の前にいてほしいです。それに、入学式は事前に原稿を書いてその翻訳が画面に出ますから、あんまり脱線するわけにはいきません。日本語がわからない人たちばかりだから日本語と翻訳に違いがあってもわからないという考えもありますが、それは不誠実な感じがして、やりたくはありません。そうすると、なおのこと、いつものペースに乗れなくなってしまうのです。

新入生はオリエンテーションやプレースメントテストを受けた後、オンラインで授業です。日本が開国したら一刻も早く入国して教室での授業に加わってもらいたいです。日本で進学するつもりなら、国にいるうちから周到な準備を始めておいてほしいです。そして、来日したら、リクルートスーツの新入社員よりずっと打ち解けた表情で学校の周りを歩いてください。

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春ですね

3月31日(水)

「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」とはよく言ったもので、今年も3か月が過ぎてしまいました。世の中は、緊急事態宣言が出され、解除され、でもまた感染が広がりつつあるという、振出しに戻るみたいな感じでした。KCPはというと、泣く人も笑う人もいましたが、学生の進路がバタバタと決まり、卒業していきました。

進学実績を全体的に見ると、例年並みではないでしょうか。今シーズンは、昨シーズンまでとは大きく違う特殊な条件下での戦いでしたが、それがKCPの学生たちにとって有利に働いたとも不利益を被ったとも言えない状況です。もちろん、個々の学生レベルで見れば、望外の喜びを得たりまさかの結果に愕然としたり、文字通り人それぞれでした。見方を変えると、この状況を追い風にすることができなかったとも言えます。向かい風に吹き飛ばされてしまった学生も少なくなかったです。

じゃあ、どういう学生にとって追い風だったかというと、早くから動き始めた学生や、失敗に懲りて素早く軌道修正した学生や、志望校や学問に対する思いの強い学生や、焦らず腐らず努力を続けた学生です。結局、今までも成功したタイプの学生が勝者となったという、当たり前すぎる結論になりました。

この3か月の気象データも見てみました。今冬の一番寒かった時期は、1月の10日前後でした。最低気温が氷点下の冬日が続きました。しかし、今朝はコートなしでも全く寒さを感じませんでした。学校の中では、新入生を迎える準備が始まっています。3か月後は、汗をふいているんですよね…。

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手を離れる

3月26日(金)

今学期の進学データを整理しています。これから合否発表という所もありますが、それによる変動は“修正”程度でしょう。誰がどこを受けて結果はどうだったか、EJU、JLPT、英語試験の成績は何の科目が何点だったか、そういったデータをまとめています。

入学時に比べて大きく伸びた学生もいれば、伸び悩んでしまった学生もいます。同じような成績なのに結果は明暗が分かれてしまった例もあります。このデータに、授業中の態度や入試の準備の進め具合など、その学生を担当した教職員からの情報を付け加えると、その学生がKCP在籍中にどのように歩んできたかが見えてきて、同時に、私たちの指導の良し悪しも浮かび上がってきます。

そんなことをしていたら、Cさんが進学先や入管に提出する書類を受け取りに来ました。Cさんは、卒業式当日が試験日だったので、卒業証書をもらっていません。ついでと言っては何ですが、それも受け取っていきました。

そのCさん、11時に来ると約束したのに、姿を現したのは11時45分でした。大幅に遅刻するという連絡は、ありませんでした。入学以来、こういうだらしなさがあり、改まることはありませんでした。何校受験しても、出願書類が出来上がるのは消印有効日の夕方でした。間に合わなかったこともありました。受験日に向けて試験準備をすることもなく、不合格を繰り返しました。

Cさんは、入学直後に受けたEJUですばらしい成績を挙げました。しかし、そこから全く進歩がありませんでした。希望の星が、いつの間にかお荷物になっていました。Cさんのクラスの教師が総がかりでどうにかこうにかつかんだ進学先です。精神的にも大人になっていくでしょうから、就活か院試の時には、持てる力を存分に発揮してもらいたいです。KCPの教職員は、もうお世話をすることができませんが…。

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信頼

3月25日(木)

職員室で打合せをしていたら、W大学から電話だと呼び出されました。話を聞くと、Kさんが受かったというお知らせでした。Kさんは私も入っているクラスの学生で、進路がまだ決定していませんでした。1週間後は4月だという段階に及んで、ようやくこのクラスの学生は全員進学先が決まりました。

それはよかったのですが、なぜこんなぎりぎりまで無所属状態だったのかというと、日本語力不足と情報に惑わされ続けたからです。日本語力不足も、だれかから日本の大学なんか簡単に入れると聞いて、それを信じ込み、勉強に身を入れなかった面が見逃せません。オンライン授業では、いつの間にか消えていることもよくありました。教師の目が届かないのをいいことに、怠惰な生活を送っていたようです。

進学に関しても、どこかから仕入れた素性の定かではない情報に基づいて動いては、失敗を繰り返していました。私たちもあれこれ指導を試みましたが、Kさんの心をこちらに向けることはできませんでした。

オンライン授業では学生とのつながりをいかに築き上げるかが大切だと言われていますが、それはほんとうに難事業です。最初からあさっての方を向いている学生に対して、どのように指導すればその心をとらえることができるでしょうか。正解もマニュアルもありません。過去のある学生に有効だった方法が、今目の前にいる学生にも効果を示す保証などありません。まさにケースバイケースで対処法を編み出していくほかありません。

残念ながら、Kさんとはそういう関係になれませんでした。今、在籍している学生から“Kさん”を出さないように、気を引き締めていかなければなりません。

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こちらの課題

3月23日(火)

レベル1の会話の期末タスクを担当しました。習った文法と語彙を駆使して、こちらから与えたキーワードをもとに自分たちで考えた場面で、会話を構成していくのです。会話を作り上げるだけなら、グループのメンバーに構成力のある学生がいれば何とかなります。しかし、それをみんなの前で披露するとなると、実際に話す力も要求されます。毎学期、頭でっかちの学生は、このタスクで落ちていきます。

今学期は先週までずっとオンライン授業でしたから、発話の訓練がどれだけできたか心配でした。もちろん、可能な限り口頭練習をしてきました。でも、目の前に教師がいませんから、学生にしてみれば、指名されたとき以外口を開けずに授業を終えることだってできました。そういう環境がどの程度影響を及ぼしているか、おっかなびっくりでタスクに臨みました。

学生たちは大健闘でした。ストーリーもきちんと作れていたし、発音もアクセントもイントネーションも、普通の日本人にも通じるレベルでした。文法も、日本語教師的には指摘したくなる点が多々ありましたが、街の日本人からは「日本語の勉強を始めたばかりなのに、上手ですね」と言ってもらえそうなレベルにはなっていました。採点は日本語教師の目でしましたから、発音は満点の学生が何人かいましたが、文法は満点をつけることはできませんでした。

こうしてみると、オンライン授業でも、発音は思った以上にどうにかなるようです。しかし、発話時の文法の正確性を追求するのは、なかなか難しいようです。これは学生の課題というより、教える側の改善すべき点です。来学期の授業に生かしていきたいです。

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やっとご対面

3月22日(月)

あさってが期末テストという日に至って、ようやく対面授業が実現しました。この稿でさんざんオンラインはやりにくいと言ってきたくせに、クラスの全学生が初対面となるとビビっている私がいました。

でもそれは授業が始まるまでで、教室に入って出席を取っているうちに“スイッチが入った”状態になりました。最初に文法のテストがあったのもラッキーでした。テストをしている20分のうちに、答案用紙の名前と学生の顔や服装の特徴とを結びつけ、どうにかクラス全員の顔と名前を覚えました。正確にはマスクをした顔ですが、授業を進める上では支障がありません。

おかげで、その後はポンポンと指名でき、オンラインでは到底実現不可能なペースで授業を進められました。何より、クラス全員でコーラスさせられるのが大きいです。学生も最初の1、2回は遠慮がちに声を出していましたが、いつの間にか換気のために開けてある窓から入ってくる街の音にも負けなくなっていました。

オンラインの時にはいい学生に見えたNさんは、実はノートもろくにとらず、こちらが油断するとすぐ母国語でしゃべりだすという悪い学生でした。その逆に、オンラインの時に目を付けていたSさんは、一生懸命日本語で考えて表現しようとする学生でした。こういう例を見せつけられると、オンラインの入試面接って、どこまで受験生の本当の力や意欲を見極められるのだろうかと、心配になってきました。記念受験に近い学生が受かったり、当確と思っていた学生が落ちたりしたのは、このあたりにも原因があったんじゃないかと思えてきました。

せっかく顔と名前を覚えた学生たちですが、これが最初で最後の対面授業でした。来学期、1つ上のレベルで会えることを願って、授業を終えました。

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大辛

3月19日(金)

久しぶりに漢字の書き取りテストの採点をしました。オンラインですから、学生が書いた答案用紙そのものを採点するわけにはいきません。学生に答えをノートに書き取らせ、それを写真に撮って送ってもらい、その写真をチェックするという、若干もどかしいやり方をしました。

写真は送られてきたのですが、写真の向きがまちまちで、1名だけですが逆さまなのもあり、採点するのに一苦労しました。う~ん、学生たちはそこまで気を使ってくれないのかな。

点数はそんなに悪くありませんでした。最低でも合格点の60点は超えていましたから。でも、学生自身が思ったよりは悪いのではないかと思います。一画一画がはっきりしない達筆すぎる字は×にしました。画と画のつながりが教科書と違っているのも×にしました。そういったあたりで減点された学生が多かったです。几帳面な楷書の字を書いたアメリカ人の学生が満点でした。中国の学生は、ちょっと悔しいでしょうね。

このクラスは一番下のレベルですから、基本に忠実ということを重視します。また、出願時に提出することが多い志望理由書は、手書きがほとんどです。それには流麗な文字は歓迎されません。下手でもいいですから、楷書で丁寧に書くことが求められます。達筆すぎて減点された学生たちは、半年もすれば志望理由書を書くことになるでしょう。だから、今から訓練なのです。

写真で答案を送ってもらうこの方式、1つだけいいことがありました。それは、学生が書いた文字を自由に拡大できることです。生の答案だと、老眼の私には読めない字もあります。そういう字も、パソコンの画面上なら拡大し放題です。だから、調子に乗って、ガンガン×を付けてしまったところもありますが…。学生のみなさん、辛い採点になってしまい、申し訳ありませんでした。

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結果は明らか

3月17日(水)

ある地域の大学の受験者・合格者を調べました。当たり前の話ですが、高いレベルほど多くの学生が受かっています。初級で受けた学生はボロボロ落ちていますが、超級はほぼ合格です。これは、文系も理系も美術系も共通の傾向で、“美術系は腕がよければ日本語ができなくても合格できる”という、学生が信じている(信じようとしている?)俗信を、ものの見事に打ち砕く結果が出ています。

やっぱり、日本語力がないと留学生入試は勝ち抜けないのです。その日本語力は、一般には面接で確かめられます。面接で自己表現できなかったら、コミュニケーションが取れなかったら、見通しは暗くなります。そうなると、学生がKCPに在学している間に何を鍛えるべきかも明らかです。私たちがすべきことも見えてきます。

一番難しいのは、学生を動かすことです。単に「受験の時に必要ですから…」では、こちらの危機感は学生には伝わりません。学生は、選択肢の問題ができれば、その文法や単語を使って上手に話せると思いがちです。そんなこと、絶対にありません。特に、今シーズンは話す訓練が足りていません。上級で星を落としたグループには、オンライン授業で話すのをサボっていた学生が名を連ねていました。

夕方、来学期の受験講座の説明会を開きました。KCPの受験講座は、日本語で総合科目や理科や数学を学び、日本語で進学指導を受ける点に意味があります。最初は苦しいでしょうが、そこを乗り切って本当の力をつけてもらいたいと思っています。1年前は日本語的にどうしようもなかったLさんも、受験講座にずっと出続けたことで、入試を勝ち抜く力が付きました。

学生にも言いましたが、入学するのは1年後ですが、入試は3、4か月後から始まります。オンライン授業で顔を隠している暇などありません。

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なぜか決まらない

3月15日(月)

「先生、10時半から空いてます?」「はい、11時までなら」「じゃ、Tさんが進学の相談に来るって言ってますから、話を聞いてやってください」「はい、わかりました」…というのが、今朝8時半ごろのM先生との会話でした。

Tさんはちょうど1週間前に卒業した学生ですが、まだ進学先が決まっていません。先学期から面倒を見ている学生ですが、悪戦苦闘が続いています。さっそく、これから受けられそうなところを何校か見繕って、リストにしておきました。

しかし、10時半になってもTさんは現れませんでした。11時から別の仕事が入っていたため、あんまりゆっくり来られても困ります。11時になり、別の仕事を済ませ、職員室に戻ってきても、Tさんが来た様子はありませんでした。1時半からは授業でしたから、それ以後になったらどうしようもありません。

1時を回ってもTさんは来ず、午後の授業に向かいました。4時45分に授業が終わってすぐに職員室に戻りましたが、Tさんは来なかったようです。私がTさんのために使った時間は資料をまとめるための10分ほどですから、影響はごくわずかです。しかし、M先生も言っていましたが、自分から言い出した約束も守れないことが、Tさんにとっては大問題です。いまだに行き先が決まらないのは、こういうだらしなさがその大きな原因であるような気がします。やることがみんな後手に回っちゃってるんですよね。

Tさんには、M先生も私も、今まであれこれ世話を焼いてきましたが、それが有効に働いていません。Tさんは決して無能な学生ではありません。しかし、Tさんよりできの悪い学生も多くが志望校に合格しているのに、Tさんだけ取り残されてしまいました。明日かあさってかTさんが学校へ来たら、その辺のところをどう考えているか、確かめてみたいです。来年進学予定の学生を指導するためにも。

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