Category Archives: 進学

研究方針

6月2日(木)

朝、昨日に引き続きEJUの問題を解いていると、M先生から「先生、午後、お時間ありますか」と聞かれました。「はい。5時から進学授業ですが…」「じゃあ、午前の授業が終わったら、Kさんを送り込みますから、相談に乗ってやってください。大学院の出願がもうすぐなんですが、言ってることがわからないんですよ」

…ということで、M先生からKさんが書いた提出書類のコピーをもらいました。読みましたが、理解するには想像力を目一杯たくましくしなければなりませんでした。“データをブザーに輸出する”ってどういうことだよ! などと文句をたれながら下読みをしました。

昼休みに職員室で待ち構えていたら、Kさんは12時半過ぎにやって来ました。そこから事情聴取が始まります。私がKさんの文章から読み取った(理解した)ことを伝え、それがどこまで合っているか、Kさんに確認しました。理科系の研究内容ですから、大筋では予想通りでしたが、Kさんの文章が言葉足らずで誤解していた部分もありました。Kさんにしてみると、思ったことを日本語で表現できなかったから、書こうにも書けなかったようです。

そういうやり取りの中で、「はい、そうです。そういうことを大学院で研究したいんです」と、Kさんは何回か言いましたが、それじゃあ困りますね。今回はこうして私が手を貸してあげられましたが、ここから先は頼れるのは自分だけです。自分で自分の頭や心の中身を表現できなかったら、アイデアも発想も持っていないのと同じです。Kさんの研究内容は面白そうですが、それが実現できるかは、Kさんの日本語力にかかっています。

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続・あるgive up

5月31日(火)

昨日の続き。

SさんにはEJUの数学は受験しなくてもいいと言いました。数学が苦手で、数学の勉強に苦痛を感じるような人が無理して数学の教科書を開いたところで、我慢しながら数学の講義を聞いても、本人のためになる勉強はできません。私にはそういう学生に数学のすばらしさ、面白さを伝えられるだけの力量がありませんし、週に90分の受験講座だけでは結果につなげられません。

しかし、たとえ文学部に進むのであっても、数学を勉強する必要がないとは思いません。サイン、コサイン、タンジェントや、2次方程式ばかりが数学ではありません。数学とは論理学であり、論理学はすべての学問に共通してその基礎をなす学問です。重なりや抜け落ちがないように場合の数を求めたり、公理や定理を組み合わせて図形問題を解いたり、数学的帰納法を用いて式を証明したりということを通して、自分の研究の進め方をより確かなものへとしていくのです。

AIを理解するにも、論理の組み立て方がその基礎となります。Sさんのような若い人たちは、世に出ようと思ったらAIを使いこなすことが必要不可欠です。AIの開発は専門家に任せておけばいいですが、ユーザーとしてAIに接する際に、AIそのものの知識ではなく、その作動原理、思考回路が思い描けるだけの理解力は必要です。その理解力を培うのが、数学の勉強なのです。

今は、大学に入る、いわば方便として、数学を捨てます。でも、大学に入ったら、将来を見据えて、受験勉強ではない数学を勉強してもらいたいです。

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EJUじゃなくて

5月19日(木)

理科系のGさんは、6月のEJUも受けますが、現時点で第一志望の大学の入試は、EJUが不要です。日本人の受験生と同じ試験を受けて、同じ合否基準で判定されます。共通テストは不要で、独自試験で合否が決まるようですが、外国人留学生にとってはかなり難関です。

理科系ですから、独自試験は数学や理科です。筆記試験ですから、マークシート方式のEJUとは問題の作りが違います。一問一答とか、誘導に従っていけば答えにたどり着くとかいった問題ではなく、自分で論理を作り上げていかないと答えに到達しません。そうすると、EJU対策だけでは不十分です。数式を変形したり、化学反応式を書いたり、日本語で書かれた長い問題文を読み解いたりしなければなりません。

最近、留学生入試ではない入試を通って大学に入る留学生が増えています。Gさんのように、志望校の志望学部学科に留学生入試が設定されていない場合もあれば、留学生入試にはつきものの面接試験を避けるために一般入試を選んでいることもあると聞いています。しかし、Gさんは日本語を話す力は十分にありますから、それを活用しない手はありません。

ですから、志望校の入試方式を詳しく調べるように指示を出しました。私が受験生だったころとは違って、今は大学1年生の半分かそれ以上が一般入試以外の方式で入っています。Gさんの特色が生かせる入試方式がないとも限りません。少しでも有利な戦場で戦うことも、受験に勝ち抜くには必要なことです。

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早いですね

5月10日(火)

各クラスで中間テストの範囲が発表されました。来週の火曜日・17日は中間テストです。始業日以降も毎日のように新たに来日した学生が登校してきました。そういう学生たちの面倒を見ているうちに、学期の半分が過ぎようとしています。気が付いたら、レベル1の教室から「あります」とか「います」とかの声が聞こえてきました。教科書のその辺まで進めば、多少はまとまったことが話せるようになります。もう、学期も半ばなんだなあと感じさせられています。

今までオンライン授業を受けてきた学生たちも、日本へ来て学校に通い、教室で大勢のクラスメートと顔を合わせて授業を受けるとなると、勝手が違うようです。オンラインでは元気だった学生がおとなしくなってしまったという報告も聞いています。日本での生活や教室での授業に慣れていけば、また元気に発言するようになるのでしょう。後半戦に期待しています。

去年から日本にいる学生たちは、その多くが受験リベンジ組です。入管の特例を活用してKCPの在籍期間を1年延長して、自分の目指していた大学・大学院に改めて挑戦します。今度こそは成功するぞ、失敗は許されないぞという意識が強く、早め早めに動こうとしています。この気持ちを忘れないでいてほしいです。もちろん、気持ちだけでは合格しませんから、実のある努力を続けることが肝心です。

気になる情報もあります。Cさんが燃え尽きてしまったのではないかという声もあります。志望校に落ちた3月の時点では気持ちを切り替えて前に進もうとしていましたが、今学期に入ってから失速気味だと言います。早くも中だるみじゃ困るんですけどね。

中間テストが終わると、EJUまで1か月です。

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いい大学とは

5月6日(金)

午前中、F大学の留学生担当の方がいらっしゃいました。この大学は、卒業するまでそれぞれの学生がどんな学生生活を送っているか知らせてくれます。送り込んだ学生を一人一人きちんと見てくれているんだろうなと思います。こういう大学は、安心して学生に薦められます。

それと、F大学は進学した学生が、異口同音にいい大学だと言っています。これは大きいです。大学の教職員があれこれ言うよりも、そこで学ぶ学生の一言の方が重みがあります。レストランや観光地などと同列に並べてはいけないかもしれませんが、その場に身を置いた人からの口コミは無視できません。まして、顔も人となりもよくわかる卒業生の言葉は、単なるうわさとは信頼度が桁違いです。

そういう点では、H大学も“いい大学”です。東京から見ると僻遠の地と言ってもいい所にありますが、進学した学生は充実した学生生活を送り、卒業後もH大学での勉強や経験や人脈を生かして、各方面で活躍しています。H大学に入ると決まった時には都落ちという風情を醸し出している学生もいましたが、次に顔を合わせたときは生き生きとしていました。学生のほうも、自分の大学生活を誇らしく思っていますから、私たちに知らせたくてたまらないのです。

留学生の場合、便りがないのは元気な証拠とはなりません。せっかく進学した大学や大学院をやめて帰国している例もまれではありません。そういう情報が、だいぶ経ってから元同級生などを経由して伝わってくると、その学生の顔を思い出してはどんな進路指導をすればよかったのだろうかと、心が少し重くなります。

F大学は、この春入学の留学生は少なかったようです。すると、来年春はチャンスかな…。

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数字の陰に

4月28日(木)

この3月に卒業した学生たちの進学データをまとめました。卒業生の絶対数が大きく減っていますから、前年度やその前の年度と数量的な比較をしてもあまり意味がありません。むしろ、各卒業生の戦績と戦跡を見た方が今後のためになるデータが得られそうです。

Cさんは、3月になってからやっとの思いでF大学の大学院に合格し、そこに進学しました。KCP入学当初は、志望校として超一流大学ばかりを挙げていました。しかし、そのためにきちんと準備を始めたかというと、大学名を唱えるだけで何もしませんでした。教師の忠告も無視し、面倒くさいことや嫌なことは後回しにし続けてきました。出願し、入試が近づくと急に不安になってきて、押っ取り刀で面接練習などの準備を始めました。しかし、オンライン授業なのをいいことにろくに日本語を使ってこなかったので急に上達するはずがなく、O大学やJ大学など、志望校としていたところに次々と落ちました。慌てて出願先を探し、また落ちて、を繰り返しているうちに年が明けました。それでも行き先が決まらず、藁をもつかむ思いでF大学にすがったのです。Cさんの受験校を並べると、大学院のランキングそのものになります。

Wさんは一流大学に合格しなかったら帰国すると言っていました。こちらは教師の目が届かないところでも努力を続けました。もともと口数が多くなかったのですが、受験の直前になって日本語力も大きく伸びて、ノーベル賞受賞者を輩出している、どこから見ても超一流校に合格しました。

Qさんは、最初はパッとしませんでした。滑り止めのつもりで受けた大学に落ちて、自信を失いかけたこともあります。同じクラスのYさんが合格を連発するのと対照的でした。しかし、努力を重ねているうちに、年末が近づくにつれて調子が上がってきて、合格できるようになりました。そして、CさんがF大学大学院に、最初に言っていたのとはまるっきり違う研究分野で合格したころ、Qさんは一番入りたいと思っていた最難関の国立大学に合格しました。

進路指導をする側にも反省事項は多々あります。それを踏まえて、Cさんみたいな学生にも喜びを味わわせてあげたいです。

進学して東京を離れたQさんから、ビザ更新についての問い合わせの電話がありました。

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発見?

4月20日(水)

今学期の新入生・Mさんは、今週から受験講座を受け始めました。ITを勉強して日本で就職したいと思っています。勇んで理系数学の授業を受けたのですが、微分の壁に跳ね返されました。授業中、話は聞いていましたが、手は動いていませんでした。Mさんにとっては、かなり高度な内容だったようです。

ですから、授業後、少し話をしました。国の高校で微分積分はあまり勉強してこなかったので、EJUレベルとはいえ、私の話はあまり理解できなかったそうです。でも、24年度の進学を目指していますから、今すぐ、何が何でも高得点がほしいとは思っていません。長期戦に臨む心構えで来ているようです。

そもそも、日本で就職というのが最終目標なら、大学進学が最善の道とは限りません。専門学校から就職のほうが、早く社会に出られます。また、ITという分野が今後どのように動くかも、注視しなければなりません。Mさんの意識にはAIというものが入っていないように感じられましたが、AI抜きのITというのは、もはやあり得ないでしょう。2年計画なら、その辺もじっくり考えて、より就職しやすい進路を見出すということだってできます。

話してみて、Mさんは好感が持てる学生でした。私の話を聞いての受け答えもしっかりしていましたから、理解力、コミュニケーション力は高いのかもしれません。中上級のひねくれた学生など、あっという間に追い越されてしまうのはないでしょうか。今は苦しいでしょうが、逸材かもしれません。

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ネットワークづくり

4月19日(火)

受験勉強も含めて学問は何でもそうだと思いますが、頭の中にネットワークができたら、その方面の勉強は飛躍的に進みます。知識と知識が、知識と経験が、様々な、時には意外なつながり方をして、面白さと探求心が尽きることなく湧き上がってきます。

Cさんの場合、本人の話を聞く限り、生物はその域に達しているようです。しかし、化学はそのだいぶ手前で止まってしまっていて、勉強の面白みを感じるまでに至りません。ですから、ついつい生物の勉強の方に傾いてしまい、化学はより一層遅れてしまうという悪循環に陥っています。

生物はあるインターネットのサイトがCさんのフィーリングにフィットし、それを見ることで知らず知らずのうちに勉強が進みます。化学はそういうサイトに巡り会えず、苦しい戦いに陥っています。今学期はKCPの受験講座を取っていますが、基礎部分の抜け落ちをどう補ったらいいかという相談を受けました。

本番までちょうど2か月ですから、少々乱暴な手を採ることにしました。Cさんは知識を頭に詰め込むことには自信があるようですから、元素名から始まって、ある程度の所まで暗記で突き進んでもらうことにしました。頭の中に放り込んだ知識の断片をネットワーク化する作業は、私もお手伝いします。

こういう勉強法は邪道だと思います。でも、大学に入ってから本当の学問をするための準備段階だと割り切って、知識の堆積を図ることにしました。今はつまらないでしょうが、これを乗り越えたら明るい天地が広がっています。1日でも早くそこに出て、今度はのびのびと勉強を楽しんでもらいたいです。

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新しい顔も加えて

4月13日(水)

室内にいても汗ばむ陽気でした。教室との行き来で外階段を使うと、スーツの上着が鬱陶しくなりました。最高気温26.4度の夏日ですから、当然ですね。

理科系の受験講座が始まりました。今学期は新しいメンバーが加わりました。先学期までのメンバーでも、Kさんはずっとオンラインでしたから、対面では新メンバーです。対面授業での初めての質問は「今学期はオンラインの学生はいないんですか」でした。Kさん自身も苦労が多かったんでしょうね。今学期初めての学生も、6月19日のEJUには申し込んでいますから、それまでは本番に向けての特別メニューでいきます。基礎部分は省略で、数学は微分積分を中心に進めていきます。

対面だと、問題をさせた時にどのくらい手が動いているか一目瞭然ですから、学生の理解度を見積もりやすいです。前半手が止まっていたPさん、後半はプリントの余白やノートにせかせかと計算式を書いていました。表情にも余裕が出てきて、どうやら理解が進んだようです。Gさんはコンスタントに手を動かしていました。高校卒業間もないですから、私の話が高校の授業にすぐつながったのでしょう。

一方、Yさんは欠席でした。先学期、いくつかの大学を受験しましたが、桜は咲きませんでした。日本語学校在籍期間1年延長の特例を使って4月以降も残ったものの、この調子では見通しは明るくなさそうです。去年のEJUの成績だって、胸を張れたものではありません。6月に気合を入れてすばらしい成績を取れば、早々に合格を決められるんですがね。そういうポジションにいることを自覚していないのでしょうか。

欠席者もいましたが、教室には外とは違った熱気がこもっていました。

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今ごろどうしてるかな

4月4日(月)

東京の日本語学校に入学する留学生の多くは、漠然と東京で進学することを考えています。東京大学とか早稲田大学とかの憧れレベルから始まり、そこが無理ならMARCH、そこも難しかったら、それでも都内にというように志望校を選んでいく人が大半と言っていいでしょう。マンガ・アニメ関係なら京都精華大学をはじめ、京都の大学も有力な進学先になりますが、それ以外は、何はともあれ東京です。

Sさんもそんな学生の1人でした。横浜まで出るのが精一杯でした。しかし、自分の本当の実力を知ろうとしたのか、最後の最後に東北大学を受けました。受験直後は受かる可能性はないと言って、すでに権利を確保してあった都内の大学に進学する準備を始めていました。ところが、合格してしまいました。多少悩んで、結局、仙台へ行くことにしました。日本人の目からすれば悩むまでもなく東北大学なのですが、やはり東京に未練があったようです。仙台は小さな町だと言っていました。

でも、仙台で4年間暮らしたら、絶対仙台を離れたくなくなります。学問的にもそうでしょうし、町の魅力に取りつかれることは疑いありません。仙台が小さな町なのではなく、東京が肥大しすぎているのです。世界の潮流に取り残されることなく、ほどほどに田舎で心身ともにくつろげる町と言ったら、仙台や福岡、あるいは札幌か広島あたりではないでしょうか。名古屋はぎりぎりこのグループかな、それともちょっと大きすぎちゃってるかな…。

そのSさん、先週末に仙台へ旅立つ前にあいさつに来てくれました。名残惜しそうに、会う先生ごとに「ありがとうございました」「お世話になりました」と言っていました。

仙台は、これから花の季節です。満開の桜に迎えられての入学式かもしれません。それを見ただけで、東京よりいい所だと思うんじゃないかな。

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