Category Archives: 進学

いい大学

8月25日(木)

午後、F大学の留学生担当の方がいらっしゃいました。指定校推薦の枠をいただき、それに関する説明を聞きました。KCP卒業生の動向も、教えてくださいました。

F大学は、首都圏では“いい大学”として名が通っていますが、海外での知名度は高いとは言えません。KCPから進学した学生たちも、私たちに薦められてF大学への進学を考え始めました。なぜ私たちがF大学を薦めるのかというと、F大学に進学した学生が異口同音に“いい大学”だと言っているからです。これほど確かな情報はありません。その大学で暮らしている学生たちが真正面から私の目を見て語るのです。その言葉に嘘偽りがあるとは思えません。そういう信頼関係を築いて送り出した学生たちです。

それから、学生がごく当たり前に話している学園生活の中に、大学が学生を大切にしてくれているということがぽつぽつと出てきます。「あんたが第一志望と言っていた大学に進学していたら、絶対そんないい思いなんてできなかったよ」と心の中でつぶやきながら聞いています。こんな感じで、F大学のホームページやパンフレットには載っていない、貴重な現地情報が入ってきて、それをもとに在校生の適当な学生に薦めるのです。

去年は日本語学校の学生そのものが大幅に減ってしまいましたから、F大学も留学生を集めるのには苦労したようです。今年はどうでしょうか。F大学の回し者になったつもりはありませんが、私の頭の中にはF大学に入れたい学生が何人かいます。その学生たちは、おそらくF大学を知らないでしょう。これからどうやって目を向けさせていきましょうかね。

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講演を聞く

8月9日(火)

毎学期恒例というほどでもありませんが、iPS細胞についての講演をしました。レベル5の読解の教科書にiPS細胞の解説を書いた関係で、授業時間の都合がつく限り、教科書の内容をもう少し深めた話をします。最新の研究動向も取り入れています。

KCPの学生にこういった分野に進む学生が多いわけではありませんが、ある程度まとまった長さの話を、メモを取りながら聞いて理解して、できれば講演終了後に質問するというのが、この授業の目標です。こういうことができなかったら、大学院や大学などに進学しても、授業の内容が理解できません。それは、すなわち、勉強や研究が進展しないということを意味します。

今学期の学生は、質問が多かったです。今までは2、3人のごく限られた学生からしか質問が出なかったのですが、今回は屁理屈をこねくり回すわけでもなく、聞いているみんなのためになる質問ばかりでした。この点は高く評価できます。教室の後ろの方に座っていた学生も、目を凝らしてのパワーポイント画面を見ていましたから、全体的に集中して聞いていたとも思います。

教室にいる学生の態度は非常に良かったのですが、オンラインの学生たちから1つも質問が出なかったのが気がかりです。数名のオンライン参加者がみんな居眠りしていたとは思えませんが、質疑応答となると対面の学生に押されてしまうのでしょうか。私の方から「Aさん、どうですか」などと水を向けるべきだったかもしれません。とはいえ、対面で手を挙げている学生がいたら、そちらを指名したくなるのが人情です。

質問もされましたが、iPS細胞は世界的に競争が激しくなってきています。私のスライドがどんどん陳腐化するような研究成果を、日本勢に出してもらいたいところです。

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茄子の花

8月8日(月)

「親の意見と茄子の花は千に一つも仇はない」といいます。親の意見はいつか必ず役に立つから聞いておくものだという意味です。私が子の立場だった時代ぐらいまではそうだったでしょうかねえ。それから1.5世代くらい隔たった今はどうでしょう。世の中の変転が激しく、価値観も行動様式も、平成中盤と比べてすら、大きく違ってきています。私の若い頃から今まで、時間的には1.5世代かもしれませんが、変化の大きさを軸としたら、3世代ぐらい進んでしまったと言っても過言ではありません。

これは、学生の親にとっても同じはずです。学生の親と学生とは、時間的にはまさしく1世代です。しかし、上述の比例計算で行くと、2世代差ということになります。そして、多くの親にとっては実地体験のない異国・日本で、子は暮らしているのです。戦っていると言ってもいいでしょう。

そういう親の意見が、果たして茄子の花だろうかと思うと、大きな疑問を感じざるを得ません。「親が心配しているので、オンライン授業にしたいです」と申し出る学生が増えてきました。親御さんの気持ちはわかりますが、「日本はあなたの国とは感染症への対処法が違うんだよ」とも言いたくなります。この稿ですでに何回も述べたように、現状では対面授業の方が、学習効果が上がります。

進路に関してもそうです。確かに、親はスポンサーです。だから、子の進路に口出しする権利はあります。子が日本の悪しき風潮に流されそうになったら、それを押しとどめるのも親の果たすべき役割です。しかし、子が冷静かつ真剣に考えて出した結論には、いたずらに反対しないでもらいたいと思います。その結論が国を発つ時の考えとは違っていたとしても、それは子の成長の証です。むしろ喜ぶべきことです。

Aさん、Cさん、、Eさん…、親に振り回されている、あるいは親と戦っている学生が何人かいます。でも、自分の意見を通し、険しい道の果てに成功をつかんだ暁には、親を越えた存在となるのです。その姿を親に見せることは、子にできる最大の親孝行でもあります。

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どこに向かう

8月5日(金)

午前の授業が終わった後、担任のM先生と一緒に、Cさんの進学相談に乗りました。Cさんのお母様がいろいろ心配なさって、学校に電話が掛かってくることもあります。しかし、Cさんは漠然と大学に行くと決めているだけで、その先の方向性が定まりません。その辺をはっきりさせようという趣旨です。

Cさんは理科系の大学に進学しようと思っていますが、国では文科系の勉強をしてきたとのことです。日本に留学するなら理科系をというのが、お母様のご希望のようです。でも、ガリガリの理科系ではないCさんは、お母様が指し示すのとはいくらか違った方に向かおうとしています。文理融合、学際的分野に目が向いています。

誰かに言われて、自分自身の頭で深く考えずに進路を選ぶと、4年間もちません。それが学生自身にとって一番不幸です。Cさんがそうなってしまっては困りますから、Cさんの考えを確かめました。

Cさんは、自分で考えた方向性を示してくれました。しかし、それはまさに方向性に過ぎず、志望校という段階で非常にあやふやになってしまいました。最近掲示板に張り出された指定校推薦がある大学のリストから志望校を選んでいました。Cさんなら指定校推薦の基準は満たしますが、そんないい加減な考えでは、推薦とはいえ、いや、指定校だからこそ、大学の面接試験で落とされるでしょう。

結局、ヒントとして、Cさんの考えている勉強ができそうな大学を選び、Cさんに教えてあげることにしました。手取り足取りとは言わないまでも、まわりに何本も支柱を立てないと、今のCさんは天に向かって行けなさそうです。こういう学生がまだまだいそうで、少々怖いです。

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いまだに

7月28日(木)

昨日のこの稿で取り上げたEさんが、授業後に進学相談に来ました。志望校のリストを送ってもらっていたので、朝のうちに、Eさんの成績でそれらの大学に合格できる可能性をはじいておきました。

Eさんが第1志望だと言った大学は、かなり厳しいです。面接でよほど上手に自分自身を売り込まない限り、逆転はできないでしょう。Eさんは、自分と同じくらいの学力の友人が合格したと言っていますが、あてにはなりません。合格した人の実力を低く見積もって、この程度なら自分も…と思おうとするのは、受験生に共通した心理です。そこを目標に努力し続けるなら有益ですが、“あいつさえ合格したのだから、私は楽勝”という心理になってしまったら、百害あって一利なしです。

その大学の独自試験には、口頭試問があります。これは、発話力に自信のない発話力に自信のないEさんにとっては悩みの種です。私が例題を出すと、Eさんはもどかしそうな顔をしました。母語では答えられますが、日本語は一言も出てきません。このもどかしさをどうにかするために、明日から授業の会話の課題に真剣に取り組んでもらいたいものです。

第2志望の大学は、出願時に1200字の志望理由書を提出します。EさんはEJUの記述問題ぐらいの長さまでの文章しか書いたことがありません。1200字と言えばその2倍以上ですから、とても心配しています。何から手を付けていいかわからないと言いますから、搾理由書のネタのありかを教えてあげました。

もう1校、Eさんは日本大学工学部を志望校にしていました。Eさんは、純粋に自分の勉強したいことが勉強できそうなので選んだのですが、日本大学工学部が東京や千葉ではなく、福島県にあることには全く気付いていませんでした。私がそれを指摘すると、「福島? この大学は原発のそばにありますか。そこに住んでも病気になりませんか」と聞いてきました。日本大学工学部がある町は、原発から60キロほど離れていて、原発のそばに住んでいた人たちが避難してきたところだから放射線に関する心配はないと教えてやりました。志望校リストから抹殺しなかったところを見ると、多少は安心したようです。

Eさんを笑うことはたやすいですが、Eさんの発想の方が世界標準に近いのです。原発再開派のみなさん、この点を忘れないでくださいね。

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理系志望増殖中

7月21日(木)

Jさんは理科系の受験講座を受けています。しかし、どうも成績が伸びません。数学のS先生も、Jさんの数学の力を心配しています。学生が理科系を志してくれることは、理系人間としてはうれしい限りです。しかし、無理をして理科系学部に進学しても、良いことは1つもありません。

ここ数年、国では文系の勉強をしてきたけれども、日本では理科系への進学を目指す学生が増えてきたような気がします。以前は、理科系を志望していたものの、理系科目の成績が伸びず、文科系に進路変更するというパターンがほとんどでした。今でもそういう“文転”の学生もいますが、“理転”的な学生が出てきています。

これには、学生たちの国の就職状況が影響しているようです。聞くところによると、文科系の学部学科の場合、大卒に見合う職業に就けないようです。東大並みの大学を出ても、名のある企業に入れるのはごくわずかで、零細企業に入る(本人的には「甘んじる」でしょうね)学生も少なくないとか。こういう状況から逃れるために日本へ来て、多少なりとも就職のいい理科系学部を狙おうという考えなのです。

しかし、数学ができなかったら、理科系学部ではろくな勉強ができません。間違って入試に通って進学できたとしても、進級はできません。留年を繰り返せば、いずれは退学させられます。貴重な若い時期の数年を浪費することになります。

そもそも、好きでもない勉強は続けられません。これからは一生勉強し続けないと、AIにこき使われるようになってしまいます。ですから、“文転”にせよ“理転”にせよ、安易な進路の決定は考えものです。

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思わぬ落とし穴

7月19日(火)

Nさんは大学院進学を目指している学生です。昨年度は中級で受験だったこともあり、志望校には手が届きませんでした。入管の特例措置で、来年3月までKCPで勉強することになっています。ただ、Nさんの志望校はかなりレベルが高いですから、上級で挑んだとしても楽な戦いにはなりません。

そんなNさんの進学準備の進み方が、実に危うい状況に陥っているということがわかりました。最大の問題が、日本語で書いた論文を提出しなければならないのですが、その進捗状況がほぼゼロだという点です。Nさんの専門で、日本語での論文が不要な大学院も多数ありますが、今のところ、Nさんは妥協するつもりはなさそうです。じゃあ、論文がすらすら書けそうかというと、これまた違います。題材を決めて、材料を探して、論文として組み立てて、日本語としておかしくないかチェックして、…という段階を1歩も進んでいますん。Nさん自身、それは痛いほどわかっています。

入試は11月と言います。すると、遅くとも10月には出願でしょうから、現時点で1行も書いていないというのはかなり厳しい状況です。でも、論文提出が不必要な大学院については、何も調べていないに等しいです。本命校だけがあって、滑り止めが全く考慮されていません。危ういことこの上もありません。

こんなことがわかったのは、別件でNさんを呼び出してあれこれ話を聞きだしたのがきっかけでした。その別件なんか枝葉末節に思えてしまうくらい、Nさんはとんでもない状況にあります。“いい学生”の部類に入る学生でしたから、今までずっと、Nさんの「大丈夫です」を信じてきました。しかし、これからは第一級の要注意学生です。Nさんみたいな表面上“いい学生”がいないかどうか、再点検しなければなりません。

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たくさんわかりませんでした

7月12日(火)

理科系の受験講座は、多くの場合、学生にとっては国の高校で勉強したことの復習です。文系の総合科目は日本の地理歴史政治経済も含みますから初めて聞く話もありますが、理科系は用語が日本語に置き換わるだけで、内容は同じです。日本ではNaClだけど、私の国ではSoClだなどという話は聞いたことがありません。

Jさんは今学期レベル3で、受験講座が受けられるようになりました。初日は、90分にわたって私の化学の授業を聞きました。その前に、S先生の数学も聞いています。授業後、「日本語、難しかった?」と聞いてみたら、「はい。たくさんわかりませんでした。でも、だいたい大丈夫です」と、どうとらえていいのか迷ってしまう答えが返ってきました。

受験講座は、日本語の授業と違って、図表や数式などを見ながら、その意味するところを理解していきます。進出語彙や文法の導入のあとで反復練習、応用練習とかというパターンがありません。講義を通して原子なら原子という物の概念をつかみ、それを応用して理解を深めたり広げたりしていくのです。Jさんの「わかりませんでした」は、“応用して理解を深めたり広げたり”という段階には至らなかったという意味でしょう。「大丈夫です」は、概念はどうにかつかめたと言いたかったのではないでしょうか。その証拠に、ここがポイントだというところは、事前に配っておいたレジュメになにがしか書き込んでいました。

Jさんには、今は苦しいと思いますが、ここであきらめずに食らいついていってほしいです。それが、進学後に役に立つ日本語力になるのです。

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進学先では

7月11日(月)

先週のこの稿に書きましたが、今週は学生の進学先となりそうな学校の方がおいでになります。週明け早々、2校の方とお会いしました。

その2校のお話、非常に似通っていました。まず、留学生の数は、受験者、在校生ともに減っているけれども、合格ラインは変えないという点です。合格ラインを下げて入学させても、甘い基準で入った学生は授業についていけないし、就職や進学となった時に厳しい目に遭うので、結局その学生のためにならないと言っていました。私もそう思います。進学はできたけれども留学にはならず、ついには退学というのでは、青春の無駄遣いです。もちろん、経済的損失も小さくはないでしょう。さらには、「どうせ自分は」とかという形で精神的に歪んでしまったら、一生を台無しにしかねません。

次に、入学試験ではコミュニケーション能力を重視するという点です。オンライン授業は、知識を身につけるなど、学業そのものに遜色を感じることはないけれども、教職員との間の微妙なコミュニケーションがうまくいかないことがあるようです。メールでお知らせを流すと、学生は受信するや翻訳アプリに持って行って、母国語で理解するそうです。そのため、教職員が日本語で強調したつもりの事柄が、留学生にだけ伝わらないことがあると嘆いていました。

授業はzoom、買い物や食事は無言で、ニュースは母国語で、アルバイトはしないとなると、学生は自分の日本語を試すチャンスがなく、したがって自分の日本語力に自信が持てないのではないでしょうか。だから、日本語で書かれたお知らせはすぐ翻訳してしまうし、レポートなども母国語で書いて翻訳となってしまうのです。学生たちだってそれがベストだとは思っていないでしょうが、そうしないと安心できないに違いありません。

今、KCPで学んでいる学生たちにはそんな思いをさせたくありません。そうならないためのプログラムを用意していますから、ぜひついてきてもらいたいです。

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約束

7月6日(水)

昼食から戻ると、いきなり電話。「N大学ですが、ご挨拶にお邪魔したいと思っております。今週か来週、お時間を頂戴できませんか」という、訪問の予約の電話でした。このところ、こういう電話がよくかかってきます。学生の進路を確保するのも私たちの仕事ですから、時間の許す限りお会いすることにしています。

やっぱり、大学は留学生を確保するのがかなり難しくなっているのではないかと思います。KCPもそうですが、どこの日本語学校も、3年前には遠く及ばない在籍学生数でしょう。各大学の留学生入試の募集人員は、多くが“若干名”という曖昧模糊とした表現ですから、日本語学校の在籍学生数に比例して減っているとは到底考えられません。海外での直接募集と言っても、日本語学校からの進学者数の減り具合を補うには至らないでしょう。

先月までにも何校かの留学生担当の先生にお会いしましたが、いちばん気にされていたのは来年3月の卒業予定者数でした。景気のいい話をしたいのはやまやまですが、嘘や大風呂敷はいけません。実態をお話しすると、「この学校もか」というような色が浮かびます。

今シーズンの入試は、留学生の取り合いになることが予想されます。しかし、それは、合格ラインが下がることは意味しません。入学させた学生の退学率や留年率がやたら高いと、いったいどういう教育をしているのだということになります。ですから、どこの大学も、質を確保することは言うまでもありません。

すでに月曜日から11月のEJUの受付が始まっており、もうすぐ6月のEJUの結果が発表されます。受験生のみなさんには、心して戦いに臨んでもらいたいと思います。

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