Category Archives: 進学

動き始める

3月23日(水)

学期が終わりに近づいたこの時期は、新学期から受験講座を受けたいという学生への説明会をする時期でもあります。先週から、学生のレベルやコースに応じて、何回か説明してきました。

Sさんも4月から受験講座を始めようと思っている学生です。大学で何を勉強したいかと聞くと、経営学か社会学とすぐに答えが返ってきました。これでも結構幅が広いのですが、漠然と数学はできないから文系に進みたいなどというのよりはずっとしっかりしています。即答に近かったということは、ある程度大学や学部について研究もしているということでしょう。具体的な志望校は挙がってきませんでしたが、現在上級ということは、名の通った大学を狙っているに違いありません。数学は苦手だとのことですから、私立大学です。とすると、範囲はかなり絞られてきます。そうそう、TOEFLの相場も聞いてきましたから、あのあたりの大学でしょうね。

去年のEJUの点数を聞くと、そういう大学を狙うには、日本語で60点ぐらい、総合科目は40点ほど、点数の上積みが必要です。これは、同時に、Sさんの6月のEJUにおける目標点でもあります。この目標がクリアできたら、受験講座の次の段階、出願準備に進むことになります。募集要項を取り寄せ、願書を作成したり、出願校によっては志望理由書を書いたりしていきます。

Sさんは半年前に受け持ちました。半分オンラインでしたから明確な印象はないのですが、真面目な学生だったという記憶はあります。今学期の担当の先生方も、Sさんは真面目な学生だから力になってあげたいと言っています。どうやら、鍛えがいのある学生を1人発掘したようです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

2つのリスト

3月8日(火)

在校生の進路決定状況がだいたいまとまってきました。まだ抜け落ちがあるとは思いますが、大きな傾向はつかめます。

まず、学生の絶対数が昨年やそれ以前に比べてガクンと減っていますから、合格者の延べ人数も減っています。しかし、第1志望と思われるところに合格し進学することになっている学生の割合は、下がっているとは思えません。多くの学生が出願校を絞ったようにも思えます。その証拠に、関西を中心とする遠征組が減っています。

また、日本語学校の在籍期間の1年延長が認められている影響もあるように思われます。何が何でもこの3月中に行き先を決めなければという原動力が弱くなっているために、無理して受験をしなかったという面もあるようです。そのツケがこの夏・秋以降の受験に回って来なければいいのですが…。

もうすぐ来日する予定の学生のリストも届いていますから、見てみました。その中には現在オンライン授業を受けている学生も含まれています。去年の4月期にレベル1で教えたCさんやMさんやKさんたちの名前も見えます。生身のCさん、Mさん、Kさんたちに会って、上手になった日本語を聞いてみたいものです。先学期レベル5で教えたYさんやLさんの名前もあります。受験講座に欠かさず出ているDさんもしっかりリストに載っています。

次のシーズンには、こういう優秀な学生たちも受験戦線に参戦します。だから、日本にいて今シーズン進学しなかった学生たちは油断ができないのです。その辺のこと、どこまで理解しているのかな。延長した在籍期間を有意義に活用して、目標に到達してもらいたいと願っています。

4月の新入生も含めて、新たな競争が始まります。みんなを上昇気流に乗せたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

意見を聴く

3月7日(月)

「去年の卒業生のKさんがT大学に受かったって」と、M先生が報告してくれました。去年、Kさんはいくつもの大学を受けましたが、結局どこにも合格せず、専門学校で浪人生活を送ることになりました。そのKさんが、卒業時の担任だったM先生にメールで合格を知らせてくれたのです。

Kさんの場合、情報過多で失敗した面がありました。あちこちから情報が来るのですが、どれが意味のある情報で、どれを信じたらいいのか、自分では全く判断できませんでした。そのため、はたで見ていると手当たり次第に受けているようにも、その情報や周囲の人々に振り回されているようにも見えました。

どうやら、今シーズンも、たくさん受験した中で受かったのがT大学だけだったようです。Kさんは、いろいろな人に謙虚に意見を求めるのはいいのですが、最後に進路を決めるのは自分だという認識が甘いのではないかと思います。去年も、M先生や私がすすめた大学を受けると決めた翌日に、違う大学を受けると前言を翻したこともありました。今シーズンもそういうことを繰り返し、どうにか滑り込めたのがT大学だったのでしょう。

入管の特例措置であからさまに目立ってはいませんが、今年もあっちへふらふら、こっちへふらふらという学生がいました。本人はいいとこ取りしているつもりなのでしょうが、実はその逆である場合がほとんどです。情報を持ちすぎて頭でっかちになっていたCさんに対して、半強制的に受験校を絞らせたら、記念受験的な1校を除いて、狙ったところはみんな受かりました。

海外でオンライン授業を受けている学生、4月の新入生の入国準備が進みつつあります。この学生たちにも気を強く持って進路指導をしていきます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

最後まで気を抜かず

3月4日(金)

Tさんは先学期受け持った学生です。今年の4月に進学しようとあちこち受けていましたが、全て落ちたら入管の特例を利用して、もう1年KCPで勉強しようと考えていました。在籍期間延長の申請書もぬかりなく提出していました。出席率も学業に対する態度も全く問題ありませんから、延長は認められました。

そのTさん、ここまで来て志望校の1つに合格しました。Tさんが努力している姿を目にしていた者として、喜ばしい限りです。Tさんは合格がわかったらすぐに、延長申請の取り下げ手続きをしました。延長申請をした後で合格が決まった学生はTさんだけではありませんが、申請取り下げを自ら訴えてくる学生は多くありません。こちらが情報をつかみ、本人に取り下げを確認するというパターンが大半です。

日本語学校は日本留学のゲートウェイと言われていますから、それぐらいのお世話はします。在留資格上で進学先の留学生になるためにはKCPの側でも手続きが必要ですから、そこでチェックすることも可能です。しかし、そういうなし崩し的な変更はしてほしくないですね。KCPを出たら、そんなことは許されない場合の方が多いのではないでしょうか。そこをきちんと始末してから出ていこうとしているあたりは、さすがTさんです。

その上、Tさんは卒業式以降も3月いっぱいKCPに通って日本語を勉強したいと言います。3月31日までは法律的にKCPの学生ですから、もちろんその権利はあります。自分の日本語力を少しでも上げておきたい、日本語に対する不安を多少なりとも解消したいという気持ちです。そういう学生は、毎年ごくわずかですがいます。しかし、多くが挫折します。一緒に勉強してきた友達が教室から、学校からいなくなるからです。でも、Tさんなら最後までやり通すような気がします。私が受け持った時も意志が強かったですから。

Tさん、あなたならきっと、日本で実り多い勉強ができますよ。自信を持って進んでください。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

無視

3月1日(火)

Oさんは4月から大学進学が決まっています。入学した時に言っていた東大ではありませんが、国立大学の合否発表がこれからあります。その大学の募集要項をちょっと見てみたら、Oさんが狙っている学科は、EJUの成績は合否判定に関係ないことがわかりました。出願資格として基準点を示していますが、合否は日本人受験生と同一試験の学力検査と面接によって決定するとのことです。

この大学のこの学科の先生方は、EJUは選抜試験としてたのむにあたらないと考えているのでしょうか。自分たちが作った問題で、自分たちの理想の教育を受けるに適した学生を選ぼうとしているのでしょうか。EJUの問題を見ていると、その気持ちもわかりますね。マークシートの数学や理科の問題で、未知の課題に挑む力がわかるのかと言えば、非常に大きな疑問符を付けざるを得ません。今年は留学生の受験生数は大きく減ったでしょうから、なおさら自分たちの目と耳と手でこれはという金の卵を選びたくなったのではないかとも思います。

他の国立大学でも、EJUはほんに形だけと言わんばかりの配点のところも何校かあります。また、留学生全体の合否データを見ると、EJUの成績はあまり関係なさそうな大学学部学科も容易に見つけ出せます。さらに、日本人の受験生と同じく共通テストを受けて大学の個別試験を受ける留学生も増えているようです。EJUの求心力、信頼度が低下しているような気がしてなりません。

今年はEJUが実施され始めてちょうど20年です。制度疲労が起きてもおかしくない時間が経っています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

リストを見ながら

2月17日(木)

学生は、大学や大学院、専門学校などに合格すると、担任の先生に報告します。こちらも、入学させた学生がどうなったか役所に報告することになっていますから、そういうルールにしています。中には、隠密行動で受験してこっそり受かっている学生もいますが、最後まで秘密を隠し通した学生はごくわずかなはずです。

学生が学校へ来ていると、自分のクラスではない学生からも、「先生、○○大学に合格しました」などと、直接報告を受けることがあります。廊下や階段、ロビー、ラウンジ、そんなところでばったり会ったついでに、そんなふうに声を掛けられることも少なくありません。

ところが今は全面オンラインですから、生身の学生に会うということがめったにありません。そのため、毎年恒例のうれしいお知らせに接することもほとんどありません。職員室で先生方の会話に聞き耳を立てて、学生の進学状況を把握しているというありさまです。

入管の特例で、2020年入学生に関しては在留期間の延長が認められています。この特例を利用するか否かの調査結果での一覧表に、各学生の合否状況が載っています。今年はこれを頼りにするほかないようです。

それを見ていると、今年は面接で落とされるのではと心配していた学生がわりと受かっているような気がします。頭脳明晰で話すのだけが苦手なWさんがあちこち受かっているのはともかくとして、コミュニケーション能力がゼロに近いCさんまで名の通ったところに合格しています。進学先で授業にもついていけないし、友だちもできないしなどということになったら、学生にとっても大学にとっても不幸です。

入学時に大言壮語していたZさんは、竜頭蛇尾の状態です。特例を利用しないみたいですが、あと1か月半ほどで大逆転があるのでしょうか。Tさんがもう1年と言っているのは、モラトリアムかな。その気になればCさん以上に合格を重ねてもおかしくないのに。

明日は早くも中間テスト。受験シーズンの終わりが近づいてきています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

奨学金がもらえない

2月15日(火)

まだ試験を受けている学生がいる一方で、すでに合格を決めた学生もいます。そんな学生たちを対象に、JASSOが奨学金受給者の募集をしています。何名かが応募しましたが、応募者全員が奨学金をもらえるわけではありません。まず、EJUで決められた科目を受けているか、そして、出席率もそうですが、KCPでの成績も基準を上回っていなければなりません。

調べてみると、Yさんだけが基準に届きませんでした。Yさんは先々学期受け持ちました。悪い学生ではないのですが、でも、それ以上でもありません。授業に集中していないのか、指名するととんちんかんな答えをすることが時たまありました。どうやら、自分はできると思っていたようです。学校の勉強なんか、試験の直前にまとめてやれば合格点ぐらいは取れる――と思っていた節も感じられました。

ところが、実際はそうではなく、平常テストでは不合格点も取ったし、作文も日本語教師だからどうにか読み取れるという程度だったし、結局はお情け進級組の1人でした。それでも志望校に合格したのは立派ですが、合格した後、ねじが緩みまくっているという報告を、先学期の担当の先生から聞いています。

JASSOの成績基準はそんなに厳しくはありませんが、それにすら引っ掛からなかったという点に心配が募ります。今学期はオンライン授業のため全然顔を見ていませんが、ちゃんと勉強しているのでしょうか。緩みっぱなしだと、「進学はしたけれど…」ということにもなりかねません。

もう間もなく、奨学金は受けられないという通知がYさんの元に届くでしょう。これを単にお金の問題ではなく、進学後にどれだけ実のある勉強ができるかという問題に置き換えて考えてもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

次の段階

2月9日(水)

昨日面接をしたSさんが、指定校推薦の手続きをしに学校へ来ました。私はT大学に進学する意志の最終確認と、仮にも学校が推薦するのですから、それにふさわしい学生であり続けることなどをはじめとする、その他もろもろの注意事項の伝達をしました。Sさんは緊張気味に耳を傾けていました。

ここ何年か、指定校推薦で進学を決めた学生が、合格後にそれにふさわしくない行動に走る例が出ています。この制度は単なるすべり止めや他大学に落ちた場合の保険などではありません。また、ある特定の学生個人を利するために存在しているのでもありません。大学側が学生確保を図り、こちらがそれに乗っかっているわけでもありません。真に勉強する意志と能力のある学生を、その意志と能力を受け止めてくれる大学に送り込むための精度です。大学とKCPとの間の信頼関係に基づいて成り立っているのです。

この信頼関係にひびを入れるような振る舞いをしないようにと何本も釘を刺しておくというのが、指定校推薦における私の役どころです。指定校推薦の誓約書に書かれていることをすべて守ってくれたら、全教職員が心から応援したくなること疑いありません。いや、周囲の学生だって、“SさんにはT大学でいい勉強をしてほしい”と思うことでしょう。

指定校推薦の出願書類などを受け取り、作成方法の説明を受け、Sさんは帰って行きました。出願を済ませたら、今度はT大学での入試面接の練習も始めなければなりません。Sさんの思いがT大学の先生方に伝わるように、先生方の心をつかめるように、指導していきます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

久しぶりの面接

2月8日(火)

Sさんは、先学期と先々学期、私のクラスでした。若干頭の固いところはありますが、真面目な学生です。字が汚いのが最大の欠点で、Sさんの例文やテストの解答用紙や作文を読むのに苦労させられたものです。

そのSさんが、T大学の指定校推薦に応募しました。昨年秋からいくつかの大学を受験しましたが、EJUの点数や英語の成績など、何かどこかで引っかかり続けて、どれもうまくいきませんでした。そして、志望学部が合うT大学の指定校推薦に応募するに至ったのです。その推薦者決定の面接を、授業が終わった午後に行いました。

授業はオンラインなのに、指定校推薦の面接のためだけに学校まで出て来いというわけにもいかず、オンラインでの面接になりました。ZOOMに入ってきたSさんは、スーツ姿でした。人は見かけで判断してはいけないと言うものの、やっぱり印象はよくなっちゃいますよね。この指定校推薦にかける意気込みは感じられました。

T大学の志望理由など、お決まりの質問への回答は難なくこなしました。しかし、ちょっとひねった質問をすると、言葉が滑らかでなくなります。ただ、こちらの問いかけに真摯に答えようとしていることは十分に伝わってきました。コミュニケーションは取れていますが、やはり話す練習は必要です。この辺がオンライン授業の課題ですね。

結論として、SさんをT大学に推薦することにしました。夏ごろのSさんにとって、T大学は第1志望でも第2志望でもなかったに違いありません。しかし、今、Sさんは、T大学の中で、自分で道を切り開こうとしています。この気持ちさえあれば、今までに受験した大学に劣らぬ、Sさんの人生において価値のある学問ができることでしょう。

面接が終わった後、さえわたった青空を見上げながらお昼を食べに出かけました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

そうまでして

1月26日(水)

大学入学共通テストでカンニングが行われたようです。問題を写真に撮って家庭教師紹介サイトを通じて知り合った東大生に送ったと言います。その東大生は採用試験みたいなものだと思って、その問題を解いて送り返しました。何も知らないうちにカンニングの手伝いをさせられたわけです。これが事実だとしたら、その東大生にとってはとんだ災難というほかありません。

これが明るみに出たのは、当日の試験監督官による摘発ではなく、当の東大生の申し出からです。試験監督官は気が付かなかったのでしょうか。写真撮影、メール送信、そして返信の受信となれば、まさかコナンみたいな装備はしていないでしょうから、怪しげなしぐさが数回あったはずです。それをすべて見逃してこのような事態の発生を許したとなると、当然ほかにも同様の不正行為があったのではないかと疑わしくなります。

問題を外部に流出させた受験生がどんな人かはわかりません。偽計業務妨害罪で捕まったとしても、そのプロフィールが公になることはないでしょう。でも、どんな気持ちでこのような行為に及んだかは知りたいです。イチかバチかの勝負だったのでしょうか。ゲーム感覚のお遊びだったのでしょうか。追い詰められて精神に異常をきたしていたのでしょうか。

この稿でも何回か取り上げていますが、EJUでも、試験のたびに、カンニングの噂がささやかれます。やらなきゃ損と思っている受験生もいるとか。“いい大学”に入りたい気持ちはわかりますが、そんな無理をして入った大学で自分のためになる勉強ができるのでしょうか。日本人受験生にしても留学生にしても、先の長い人生なのですから、若いからこそ、ロングスパンで物事を考えてほしいなあ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ