Category Archives: 進学

目標

8月7日(土)

今週の作文の採点をしました。中級クラスの作文は、論理的な文章が書けるようになることが目標です。EJUの記述や入試の小論文を念頭に置いた目標設定です。私のクラスのみなさんは、ある程度そういうことが意識できるようです。どうしようもない学生もいましたが、大半の学生は論理が破綻することなく結論まで至っていました。

しかし、これだけで「よかったね」というわけにはいきません。中級の作文の本筋からはいくぶん外れますが、何人かの学生が書いていた「(進学するために)知識を覚える」という意味の表現です。

入試に通るためには、確かに知識が必要です。私だって、受験講座で「これはそのまま覚えてください」と学生に向かって言うこともあります。“元素記号Cは炭素である”というのは、知識と言えばまさにその通りです。

しかし、それを作文に堂々と書いてしまうのはどうなのでしょう。「知識を覚える」のは、コンピューターの仕事です。覚えるだけなら、AIよりも1世代か2世代古いコンピューターが得意としたことです。ですから、「知識を覚える」と書いた学生には、たとえ文章全体の評価は高かったとしても、「キミは20世紀のコンピューターと競い合いたいのかね」と言ってやりたいです。

出願書類の志望理由書や学習計画書にこれを書く学生が、毎年何人かいます。大学・大学院などの高等教育機関・研究機関は、知識を覚える場ではなく、発想力を鍛える場です。知識は果実ではなく、種か苗です。知識を学ぶために進学するのだとしたら、将来はAIの僕です。AIを使い倒す仕事をしたかったら、そこからなにがしかの発展がなければなりません。

今から知識を覚えることにとらわれているようでは、先が見えています。この作文を返すときには、そういう点にも触れておこうと思っています。夏の盛りが過ぎたら受験シーズンですからね。

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最大の問題は

8月5日(木)

9月になると、大学の指定校推薦の出願が始まります。学生が出願に必要な書類をそろえるのに必要な時間を考えると、今すぐ募集して、夏休み前ぐらいに校内面接をした上で、9月出願の大学に推薦する学生を決めなければなりません、そういうわけで、今週から指定校推薦の案内をしています。

Cさんが、S大学の指定校推薦に興味があると言ってきました。出席率やEJUの成績など、S大学が提示している推薦条件は満たしています。もちろん、S大学はCさんが勉強したいと思っていることが勉強できます。

このまま指定校推薦入学の校内審査に応募するかと思いきや、S大学の前にR大学を受けると言います。そして、R大学に受かったらそちらに進みたいとのこと。合否発表が10月下旬で、「否」だったらS大学の指定校推薦に応募するというのがCさんの本当の希望のようです。S大学は第2志望で、その大学がたまたま指定校推薦をしているので、一丁やってやるかというのが本音なのでしょう。

それも困ったものなのですが、さらに大きな問題があります。Cさんの日本語です。EJUの日本語みたいな4択問題なら点が取れるのですが、話したり書いたりとなると、発音や文法がボロボロで意味不明になります。上述のやり取りも、相手が私ですからどうにか通じたのであり、S大学やR大学の先生だったらCさんの考えは全く通じないに違いありません。昨日の作文は、その私ですらさじを投げてしまいました。「何を言っているかわかりません」と書いて、Fを付けました。

Cさんには、大学に入りたかったら話し方の特訓が絶対必要だと言っておきました。志望理由書は教師の添削で何とかできても、面接の受け答えはごまかしようがありません。Cさんはどんな結論を出すのでしょうか。

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千仭の谷

7月29日(木)

午前の授業が終わると、Cさんが1階に下りてきました。昨日発表された6月のEJUの成績をもとに、どこに出願するかの相談です。

日本語は私の予想を上回る成績でした。でも、「いい大学」をねらうには物足りない数字です。理科はいい成績と言っていいでしょう。しかし、数学はどこかで失敗した形跡がある点数でした。全体として、ぜいたくを言わなければどこかのまあまあレベルの大学に入れそうな成績でした。

しかし、Cさんの最大の弱点は、話せないことです。本人は上手なつもりで話しているのですが、それがさっぱりわからないのです。授業で発言してくれるのはありがたいのですが、非常に聞き取りにくく、3回ぐらい聞き返さないと趣旨がつかめません。教師はそうやってCさんの言わんとするところを理解するために努力しますが、入試の面接官は違うでしょう。わからなかったらそれで終わりです。

Cさんの場合、マスク越しであることを差し引いても発音が悪いです。おそらく、口をあまり動かさずに話しているのでしょう。それに加えて、語彙や文法の間違いもあります。「リーミクをでます。いいですか」って、どういう意味だと思いますか。私が翻訳して差し上げましょう。「立命館大学に出願したいのですが、私の成績で合格できそうですか」。

これがわかってしまう自分が怖いですが、立命館大学の先生は絶対に理解してくださらないでしょうね。もうそろそろ、Cさんをボコボコにして鍛え直さなければなりません。それがCさんの未来を切り開く道なのですから。

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肝心なものが

7月16日(金)

先日この稿で取り上げたCさん、今度は数学の問題を持って来ました。やはり、鉛筆と計算用紙を添えて。しかし、その問題は、最近のEJUの理系数学にはほとんど出ない範囲のものでした。そういう範囲も余さず勉強しようというのは、殊勝な心掛けですが、大学での理系の勉強には必須の積分を国の高校で勉強してこなかったと言っています。EJUがどうのこうのじゃなくても、積分を知らなかったら、何かの拍子に間違って進学できたとしても、進級は無理でしょうね。留年が度重なると、退学だってさせられかねません。

だから、そんな問題にから割り合っている暇があったら、今すぐ積分の勉強をはじめろと命じました。でも、私の言葉が通じなかったのでしょうか、Cさんは、しばらく経ってから、同じような系統の問題を聞きに来ました。やはり、前回の物理同様、問題文の読解ができていませんでした。私の説明だって、かなりかみ砕いてもなかなか通じませんでした。

Cさんに頭を痛める直前、文系の受験講座数学にBさんが出席していました。Bさんの志望校は美大で、数学は不要です。いわば、趣味で勉強しているようなものです。でも、Bさんは筋がいいです。計算力勝負の問題も、論理性を問う問題も、すらすら解いてしまいます。EJUの文系数学なら、おそらくCさんよりBさんの方が、いい点が取れるでしょう。その数学の才能を生かして…と思いますが、万里の波濤を乗り越え、ウィルスをものともせず留学に来ているのですから、好きなことを勉強してもらいましょう。すでに、第一志望校のオープンキャンパスにも参加したそうです。

週間予報に晴れマークが並んだかと思っていたら、梅雨明けです。Cさん、受験シーズン本番は、すぐそこですよ。

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不幸な合格者

7月3日(土)

昨日、K先生がM大学へ行って、先生と話をしてきました。その中で、今年M大学に進学したWさんが話題になりました。Wさんは留学生が少ない学部に進学しました。その学部に、Wさんと同じ国から直接募集でこの春に入学した学生がいるそうです。その学生は、入試の成績はWさんよりよかったのですが、M大学の先生とのコミュニケーションがほとんどとれず、Wさんを介してやり取りを行っているとか。

Wさんは入試フルコースを受けて合格しました。ペーパーテストの成績はさほどでもなかったのですが、面接で点を稼ぎました。Wさんと同じ国から来た新入生は、面接試験がなかったようです。だから、生の日本人の発話が聞き取れなかったり、生の日本人に自分の意思を伝える発話ができなかったりしているのでしょう。

Wさんは私たちと普通に話をしていました。わからないことをわかるまで聞き続けるなど、JLPTやEJUの聴解問題をやるだけでは絶対に身に付かないコミュニケーション力を、知らず知らずのうちに鍛えていたのです。それが、進学してから物を言っているのであり、そういう訓練をしてこなかった同級生との差になって表れているのです。

KCPの学生の中にも、せっかく日本で勉強しているのに、自分の国のコミュニティーから抜け出ようとせず、いつまでたっても話せない聞けない学生がいます。そういう学生は、授業で指名された時が、日本人と話す唯一のチャンスなのです。でも、こういう学生に限って、テストの点が高かったりするんですよね。そして、進学してからコミュニケーションが取れないことで大きな苦労を味わい、こんなはずじゃ…と絶望するのです。

7月期後半は、入試が始まります。不幸な合格者を出さないようにしていかなければなりません。

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心配事

7月2日(金)

大学や専門学校の留学生担当の方が時々いらっしゃいます。しかし、今年は学生がいません。オリパラが終わるまでは留学生の入国は難しいでしょうから、今、海外にいてKCPに入学を希望している人たちの入学は、早くて10月になりそうです。毎年、4月に入学して1年で進学していく学生もいますが、来日が遅れるとその分だけその数は少なくなるでしょう。

そして、11月のEJUの出願は7月ですが、11月に日本で受験できる確証がないと、出願する意欲も鈍って当然です。去年も、出願はしたものの、試験日までに待機明けの自由の身になれず、受験できなかった学生がいました。多くの大学がEJUを必須としているので、22年4月に大学に送り込める学生の数となると、本当に限られてしまいます。

大学院にしたって、状況は大きく変わりません。海外から日本の大学院の先生に接触する手はありますが、順調に来日し、試験を受け、進学の運びとなる学生が19年までと同等になるとは考えにくいです。

21年度入試で面接試験を省いたところは、日本語でコミュニケーションが取れない学生が入学してしまって困っているという話を聞きます。そうすると、現時点で日本にいて、面接試験が受けられる学生が有利だとも考えられます。もちろん、面接でコミュニケーション力が発揮でき売ればという仮定の下ですが。

大学や専門学校は学生数を確保したいでしょうが、学生の質も落としたくないに違いありません。学生の質は教育の質に直結していますから。そう考えると、今の学生たち、ちょっと心配だなあ…。

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変容

6月25日(金)

学期休み中は、教師の勉強会がよく開かれます。特に昨今は学校のあり方が大きく変わりましたから、それに関して外部の講演会や研修会に参加した先生の報告会が行われます。

F先生も、そういう形で学校外から得てきた考え方を発表してくださいました。その中で、学校における教育が、知識や技能を伝達する様式から学習者の変容を促す様式へを変化しつつあると述べていました。確かにその通りだと思います。社会が求める教育は、答えを与える教育から、答えにたどり着く力を与える教育へと変わってきました。私もそういう方向性に沿って、自分が担当している授業の内容を作り上げています。

しかし、学生がそれについてきていないと感じることもよくあります。典型的なのが受験講座です。EJUの過去問を解かせると、多くの学生の関心事は答えが合っているかどうかです。それだけと言っていいかもしれません。なぜその答えになるのかというところには、さして興味を示しません。2問間違えたとか、この問題は3番か5番か迷って5番にしたら当たったとか、そんな感想ばかりです。

どうしてその問題を間違えたのか、また、自信なく選んだ選択肢が正解だったらなぜそれが正解だったのか、その点を追求しない限り実力は伸びません。そういう点に目が向くように日ごろから指導しているつもりなのですが、実を結んだとは言い難いのが現状です。進学してからのことも考えて勉強するようにと、特に上級の学生には訴えていますが、まだまだ進学するための勉強にとどまっています。大学院進学希望の学生なんか、まさしくそうだと思うんですがね。

次の学期には出願シーズンが始まります。視野狭窄のまま出願することのないように、学生たちを指導していきたいものです。

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明日は本番

6月19日(土)

明日はEJUの本番です。去年は6月分が中止となり、留学生入試が大混乱に陥りましたが、今年は、国内に関しては、会場の変更が若干ある程度です。また、大学側もEJUが中止になっても対応できるように募集要項を変更したところもあります。去年は突然のことでうろたえるばかりでしたが、今年は2年目になって、多少は余裕が出てきました。明日の東京地方はあまり天気が良くないようですが、受験に支障はありません。

こわいのは、学生自身の行動です、寝坊したとか電車を乗り間違えたとか違うキャンパスへ行ったとかケータイのアラームを鳴らしたとか昼食を忘れてどこでも食べられなくて午後は頭が回らなかったとか、KCPの先輩たちはありとあらゆる失敗をやらかしてきました。でも、去年は、EJUがなくなって留学の計画を狂わせられた学生がいましたから、今年のみなさんには、受けられるチャンスは確実にものにしておいてもらいたいです。

EJUが終わったら、来週の火曜日が期末テストで、その後学期休みに入ります。休み中もぼんやり過ごすのではなく、志望校についての研究を進めてもらいたいです。そういうイベントをいくつか学生に紹介しています。新学期に入ったら、私立の出願が始まります。今年は留学生の数が少なくなりましたが、各大学は合格者のレベルを落とすつもりはないと言っています。コミュニケーション力を重視するとも言っています。

そういう目で見ると、私の身の回りの学生は、頼りなさげな感じがします。学生数が減った分だけ、濃密に見ていかねばと思っています。

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発想が古い

6月11日(金)

大学にとっては留学生の新入生予備軍とも言える日本語学校の学生数が激減しているからでしょうか、このところ留学生向けの大学説明会の案内がよく届きます。外国人留学生は入国が差し止められていますから、いま日本にいて日本語学校に在籍している学生をめぐって、大学間で争奪戦が始まりそうな雰囲気です。

ということは、当方にとっては売り手市場であり、有利な条件で…などというさもしい考えは待ちたくありません。下駄をはかせてもらった状態で“いい大学”に入っても、それがその学生の幸せにつながるかと言ったら、必ずしもそうではありません。フロックで実力以上のところに合格し進学した学生がその後苦労し、退学にまで至った例も少なくありません。今週月曜日の進学フェア参加校の中でも、面接入試を中止したら日本語でコミュニケーションが取れない留学生が入学してきたという話を、複数校からお聞きしました。

大学などからの案内は、もちろん学生に伝えます。それは、多くの選択肢の中からより自分に適した進学先を見つけ出せというメッセージです。存在そのものが密である東京を離れて、安全安心な留学生活を送ったらどうかという意味も込めています。

レベル1の学生に「わたしのゆめ」という題で作文を書かせました。1/3ぐらいの学生が「いい大学に入りたい」という意味のことを書いていました。私のクラスの学生はみんな海外にいますから、情報不足なのかもしれませんが、存外頭が固いというか古いというか、学生たちの発想を変えていかなければならないと思いました。

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やはり話す力

6月7日(月)

進学フェアがありました。毎年このくらいの時期に実施していましたが、昨年はオンライン授業の真っ最中でしたから、時期を遅らせました。今年はEJU前に復活です。

去年、おととしに比べると学生数がだいぶ少ないですから、参加してくださった大学の担当者さんに寂しい思いをさせるのではないかと危惧していましたが、今、KCPに残っている学生たちは本気度が違いました。中級以上の授業が終わると、どの大学のブースも密を気にしなければならないほどの学生が集まりました。

去年は、オンラインで参加の大学には学生があまり寄り付かなかったのですが、今年はごく当たり前にzoomの画面をのぞき込み、どんどん質問をぶつけていました。学生側も、オンラインでの質疑応答にかなり慣れたということでしょう。大学のオンライン授業もこんな調子で、昨年よりも今年の方がこなれてきているのでしょうか。

参加校に事情を聞いてみると、21年度入試は読みが外れた大学さんが多かったようです。受験生が少なかったとか、合格者の歩留まりが悪かったとか、まさしく先の読めない戦いを強いられたようでした。今年は、日本語学校の学生が激減し、新規の入国がいつから認められるのか全く見当がつかない状況下ですから、更に混沌とした状況に陥りそうです。でも、入学者のレベルは落としたくないという意識も強いように感じました。大学側としては、コミュニケーションが取れない学生が入学しても、指導のしようがありません。

やはり、テストで点が取れるだけではなく、進学してから実のある勉強ができる日本語力を付けさせることこそ、私たちの本務だと再認識しました。

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