Category Archives: 進学

机の上に

10月27日(火)

大学進学クラスは練習問題を配ると何も言わずに取り組みます。問題を解かない限り自分たちに明日はないといった感じで、カリカリと答えを書き始めます。

そんなクラスの中で、Mさんは昨日L大学に合格しました。もう緊張の糸が切れてしまったのか、やる気が全く感じられません。問題を見てもぼ~ッとしているというか、本人的には教師にわからないように居眠りをしています。ゆうべ、祝杯を挙げ過ぎたのでしょうか。朝一番に教室に入ったのは偉いですが、これでは意味がありません。あとで事情聴取をと思っていたら、授業が終わるや否や、脱兎のごとく消え去りました。

その点Hさんは11月のEJUに勝負をかけますから真剣そのものです。力を伸ばそうという意欲がほとばしり出ています。Sさんも同じ立場ですからそうあるべきなのですが、こちらからはそういうオーラが感じられません。

そんな観察をしながらTさんの机の上を見ると、初級クラスで配られるプリントが入ったファイルが置かれていました。授業中にもらったプリント類が几帳面に整理されていることがうかがえました。もらった順番に漫然とプリントをファイルに突っ込むのではなく、よく使うものを厳選して、記憶が怪しいと思ったらすぐさま参照できるようにしているのでしょう。そういう勉強のしかたをしているから、今学期、下のレベルのクラスから選ばれてこのクラスに入れたのです。基礎をおろそかにしないということがいかに大事かよくわかります。オンライン授業のたびに前日もらったプリントや毎日使っているはずの教科書を探しまくる学生どもに、Tさんのファイルを見せてやりたいです。

Yさんは盛んにスマホをいじっています。R大学の合格発表があったはずですが、ダメだったのでしょう。心ここにあらずで、同じ大学を受けた友人たちと情報交換をしているに違いありません。授業後に聞いたら、その通りでした。自分よりも成績の悪い友人が受かったことを憤慨していました。しかし、怒っている暇はありません。YさんはR大学に受かるつもりでいましたから、他校の出願準備は何もしていません。すぐに取り掛からないと行き場がなくなってしまいます。

いろいろな学生をまとめて、クラス全体を盛り上げていかないと、結果につながりません。

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万有引力を聞き取る

10月23日(金)

「万有引力の法則って何ですか」「…すみません。わかりません」うつむいたWさんの口から、弱々しい声が漏れました。理科系の学部に進学するつもりなのですが、これではお先真っ暗です。万有引力の法則を知らないという意味でお先真っ暗なのではありません。“バンユウインリョクノホウソク”という音が、Wさんの頭の中の“万有引力の法則”(厳密にいうとWさんの母語で表現しなければなりませんが…)と結びついていない点が、闇夜なのです。

それじゃあということで、他の法則の名前を出しましたが、Wさんはいずれも首をかしげるばかりでした。数式で示せばきっとわかるでしょうが、それではWさんの勉強にならないと思い、私が聞いた法則名をリストにして、Wさん自身に調べてもらうことにしました。試験日が迫る中でこんな基礎的なことをしなければならないのはもどかしい限りなのですが、Wさんの志望校にはそういう試験がありますから、どうにかしてもらわなければなりません。

その後、京都の大学の合同オンライン説明会に参加しました。京都の街の紹介から始まり、留学生支援制度の説明、そして各大学の説明と続きました。限られた時間内に目一杯情報を詰め込もうとしていますから、みなさん留学生向けというのをお忘れなのではないかというほど、ナチュラルスピード以上でした。日本人の私ですらたっぷり疲れたのですから、留学生はフルに聞いていたらへとへとだったでしょう。でも、私が大学側の立場だったら、やっぱり情報をぎゅう詰めにしちゃうだろうな。

そうは言っても、大学に進学したら留学生はこのスピードで毎日いくつもの講義を聞かなければなりません。最近は、キャンパスに足を運ばなくてもいいように、オンデマンドの授業が増えたかもしれませんが、繰り返し聞けたとしても聞き取る難易度はさして変わらないでしょう。KCPの学生も大勢参加しましたが、どのくらい理解できたでしょうか。Wさんのような学生は、音を聞き取ることに加えて、その音と自分の頭の中の母語での表現を照合しなければなりません。Wさんだって、私の受験講座を聞いていてくれたら、万有引力ぐらい軽くこなせたのに…。

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次から次へと

10月22日(木)

秋の深まりとともに、受験シーズンもたけなわとなっています。

まず、授業が終わるや否や私を捕まえたZさんは、先日S大学に合格しました。初級の時に受けたEJUのスコアしかありませんから、それで勝ち目がありそうな大学ということでS大学を受けました。しかし、できればもう少し上のランクの大学ということで、T大学を狙っています。S大学の入学手続き締切がもうすぐだが、入学金などを払い込んだ方がいいかという相談でした。

もちろん、S大学の権利は確保しておかねばなりません。その上で、T大学でも他の大学でも受験すればいいのです。確かに、T大学に受かったらS大学に支払った入学金は戻ってきません。しかし、S大学の権利を放棄して受けた他大学が全滅だったら、来年4月以降の居場所がありません。日本人ならともかく、ビザの切れ目が日本との縁の切れ目になりかねない外国人留学生は、受験における背水の陣は避けるべきです。

1階に下りてくると、Nさんが声をかけてきました。R大学に合格したと報告してきてくれました。第一志望校ですから、大喜びです。Nさんは、担任教師でも言っていることがわからなくなることがあるくらい、日本語力に問題があります。R大学は日本語力よりも専門分野への興味の強さを評価してくれたのでしょう。その点だったら、Nさんは誰にも負けません。いい大学を選んだものです。

次はKさん。以前私が与えた課題について書いてきた小論文へのコメントを聞きに来ました。Kさんの文章は、前置きが長いのです。本論に入るまでに規定字数の1/4ぐらい使っています。それから、自分ならこうするという意見が足りません。書かれていることは間違っていませんが、それに対する考察や展望があまり見られません。これだと読み手に訴える力が弱いです。そういう点を指摘しました。

Kさんが終わったら、受験講座。11月8日を控えて、真剣勝負の最中です。先週よりもはるかに真剣なまなざしで、模擬テスト代わりに解かせた過去問の解説を食い入るように読んでいました。

明日も、進学行事が満載です。

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わかりましたか

10月16日(金)

月曜日のこの稿に書いた超級向けオンライン講義をしました。講義の内容を聞き取るということが、この授業の主たる目的ですから、前もって原稿を書き、それに沿ったレジュメを作りました。正確に言うと、この授業を企画なさったH先生に原稿をお送りし、H先生の目でご覧になって学生に聞き取らせたいところを中心に、資料を作っていただきました。

原稿をそのまま読むと10分かそこらですが、パワーポイントを見せてその説明を加えると15分くらい、5分ほど無駄話をして、計画通りの20分にしました。大学の先生も無駄話をしますから、また、そんなノイズをのけて話題の中心を聞き逃さないようにするのも、学生たちがこれから必要になる聴解力です。

話が終わってから学生たちに理解度を確認する質問をしてみました。H先生が作ってくださった資料に基づいてあれこれ聞いたのですが、オンラインの向こう側でぼ~っとしているだろうなと思われる学生を指名すると、やはり、要領のいい答えが返ってきませんでした。普段はしっかりしている学生を指名しても、聞き慣れない専門用語が含まれていると、うまく答えられないケースがありました。

聞いた内容を簡潔にまとめることに関しても、課題があるようです。聞き取れてはいるのでしょうが、その趣旨を過不足なく伝えるとなると、まだまだ難しかったみたいです。受け取った情報を加工して発信する力を開発していかなければなりません。

でも、的を射た質問もいくつか出てきましたから、鍛えようによっては大きく伸びていくことでしょう。入試の先も見ていかなきゃね。

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今の授業は

10月14日(水)

昼休みに、Xさんが来ました。Xさんは2年前にR大学に進学しました。しかし、1年でやめて、W大学に入り直し、今は2年生です。

Xさんが進んだ学科は、後期になってもオンライン授業が続いています。キャンパスへ行くのは試験の日だけだそうです。確かに、その学科は実験や実習はなさそうですから、その気になれば全面オンライン化も難しくはないのでしょう。でも、Xさんは、言葉には出しませんでしたが、ちょっと寂しそうな顔をしていました。

R大学だって十分以上に伝統があり、有名であり、教育力の高さには定評があるのに、そこを捨ててW大学に入ったのです。それにもかかわらず、家で自習に近い勉強しかできないというのは、さぞかし辛いことでしょう。W大学がいい加減なオンライン授業をしているとは思えませんが、学生の立場からすると、どんなに素晴らしいオンライン授業でも満たされないものがあるのではないかと思います。

今後は、大学の授業において、一定の割合のオンライン授業が定着すると言われています。オンライン授業は、現時点では緊急事態に対処する体制の1つですが、ごく近い将来、恒久的な大学教育の手法になるのかもしれません。そうなると、高等教育とは何ぞやという議論も湧き上がってくることでしょう。

私たちは、学生が大学や大学院に入るのをお手伝いするという立場です。高等教育のあり方が大きく変わるとなると、私たちの進路指導の方向性も変わってきますし、そもそも国境を越えて学生が移動するだろうかというところまで考えを及ぼさなければならなくなります。

Xさんは、また来ますと言って去っていきました。マスクを外して撮った写真のXさんは、笑顔だったでしょうか。

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あれは3年前

10月7日(水)

昨日の夕方、3年前にO大学に進学したGさんが来ました。Gさんは、私をロビーに呼びスト、私がGさんをすっかり忘れているものと思って自己紹介を始めました。でも、Gさんは粘りに粘って卒業式後にO大学の合格を決めた学生で、私にとっては印象深い学生でした。

Gさんは夏ぐらいからいろいろな大学を受け続けました。そのたびに面接練習をたっぷりしました。自分の思いの丈をすべて語ろうとするので、1つの質問への答えが長くなり、そのうち自分でも何を言っているのかわからなくなるというパターンに陥るのが常でした。私だけではなく、K先生やH先生など、他の先生を捕まえて面接s練習していました。

しかし、なかなか芽が出ませんでした。卒業式でKCPとお別れするはずができず、残されたのは最難関のO大学だけとなり、本人も教師ももう1年頑張ることになりそうだと覚悟を決めた時、O大学合格の報が届きました。それをGさんの口から直接聞いた時、私はGさんに向かって深々と頭を下げました。「よくやった」「本当におめでとう」「お疲れさまでした」…、いくつもの感情が入り混じった最敬礼でした。

そのGさんも4年生です。大学院に進学することにしました。大学の勉強だけではなく、学外でも自分の好きな道を追求していると言って、Gさんが発行人になっている同人誌を1冊くれました。編集の大変さを身に染みて知ったと感想を一言。自分の思いを面接官役の私にぶつけることしかできなかったGさんが、多くの同人の思いを受け止めて同人誌を編んだのです。大きな成長を感じずにはいられませんでした。

今シーズンも何人かの学生の面接練習に付き合っていますが、Gさんほど思いを受け止めるのに覚悟のいる学生はいません。Gさんに面接官役をやってもらいたいなと思いました。

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志望校に向けて

10月6日(火)

理科系の大学を目指すGさんに小論文の課題と口頭試問で聞かれそうな理科の質問を伝えたのは先週のことでした。午前中、私が養成講座の講義をしている最中に答えを持ってきたようです。

小論文も口頭試問もたくさん出題したのですが、Gさんはそのすべてに答えていました。その点は立派だし、努力も認めますが、その代わり志望理由書を書くのが遅れているそうですから、優先順位を考えて取り組んでもらいたかったですね。出願がうまくいかなかったら、小論文も口頭試問もないのですから。

さて、まず、口頭試問の回答を読んでみました。悪くはありません。ポイントは捕らえています。しかし、それは文章としてであり、面接官の前でこれをそのまま話せるかと言ったら、おそらく無理です。いかにもインターネットで調べたという感じのこまごまとした専門的事柄は、実際には口から出てこないでしょう。今度会ったら、その点を指摘しなければなりません。いや、実際に面接練習をして同じ質問をしてみれば、「書く」と「話す」の差に愕然とするに違いありません。

次は小論文です。Gさんが一番自信を持っているという課題を読みました。原稿用紙2枚に書いてきましたが、無駄な部分が多く、それを省くとせいぜい1枚半です。本気で削ったら1枚に満たなくなるかもしれません。闘志が空回りしています。文章を膨らませる方向がちょっと違っているのです。好きだとか得意だとかというだけで文章を綴っていくと、小論文の肝になる部分が抜けてしまいかねません。自分の専門を踏まえた分野に話を広げていくよう指導しましょう。

でも、かなり高度な課題に食らいついてきたGさんは見込みがあります。上手に育てていきたいです。

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合格と出願不能

10月3日(土)

昨日の帰宅間際にメールをチェックしたところ、CさんからW大学に受かったという報告が入っていました。Cさんの実力なら受かったとしても不思議はありません。何はともあれ、「おめでとう」の返信メールを送りました。

Cさんは好奇心の強い学生です。なんにでもちょっかいを出してみようという精神にあふれています。私宛に時々質問メールが来ましたが、受験勉強に関する事柄だけでなく、日本語そのものや日本社会・文化に関する日ごろの疑問をつづったものもありました。昨日の合格報告のメールでも、三島由紀夫のこんなことが書かれている小説は何かと聞かれました。私が知っている範囲でそういう内容のものはありませんでしたから、わかりませんと答えるほかありませんでした。

その対極にいるのがRさんです。RさんはF大学を目指しています。その提出書類に学業以外の活動を書き表すものがあるのですが、これが書けなくて困っています。部活動、生徒会活動、ボランティア活動、そういった経験が全くなく、書きようがないのです。でっちあげるという手もありますが、そんなことをしたところで、面接などで簡単に見破られてしまいます。

Cさんなら学校公認の活動ではなくても、その手のネタには事欠かないでしょう。また、それを読み手であるF大学の先生方の興味を引くように表現する術も持っています。うまくすると、そこで面接が盛り上がって、合格してしまうかもしれません。

悲しいかな、Rさんは国にいた時から勉強しかしてきませんでした。それを責めるつもりはありませんが、少なくともF大学の求める学生像とは違うようです。無理してF大学に進んでも、4年間苦しむだけのような気がします。今のRさんをそのまま受け入れてくれる大学に進むのが、結局Rさんの幸せにつながるのではないでしょうか。

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朝寝坊

9月25日(金)

朝からA先生が怒っていました。9時半にT大学の志望理由書と学習計画書を書いて持って来ると約束したHさんが、一向に現れないからです。会議の時間が迫ってきたのに、Hさんからは連絡すらありません。怒るなという方が無理な相談です。「こってり油を絞ってくださいね」と私に後事を託して、A先生は会議に行ってしまいました。

私は進学資料作りやデータ処理など、パソコンの前でする仕事をしながらHさんを待ちました。予定していた進学資料ができあがっても、まだ来ません。それに関連した調べ物をたっぷりしましたが、待ち人来たらず。そろそろお昼に行こうかなあと思い始めた1時半になって、やっとHさんが職員室に。

「遅刻しちゃいけないと思ってスマホのアラームをセットしたんですが、月曜日の8時にセットしてしまったんです」と言い訳されましたが、スマホのアラームは曜日ごとに設定できるのかと妙なとことに感心してしまいました。私はそういうのに頼らなくても目が覚めちゃうたちなので…。

「で、昨夜は何時に寝たの?」「2時です」「目が覚めたのは?」「11時でした」

2時と言えば、私はそろそろ起きようかという時間です。受験生ですから、2時まで一生懸命勉強していたのでしょう。でも、睡眠時間9時間はいかがなものでしょう。

本題の志望理由書と学習計画書はというと、朱の入れようがないほど内容ゼロでした。すでにA先生から1度指導を受けて書き直したはずなのですが、自己主張がまるでありません。文法的な誤りはありませんでしたが、読んでも何も頭に残りませんでした。A先生と同じことを言ったかもしれませんが、志望理由書や学習計画書を書く時のポイントをレクチャーしました。

出願は来週末だそうです。まだ少し時間がありますから、T大学の先生方の胸を打つような文章に仕上げてもらいたいです。いや、それよりも、早寝早起きの習慣を身に付けてもらうことの方が先でしょうね。

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入ってくるかも

9月23日(水)

今朝の朝日新聞の記事によると、1日1000人のオーダーで長期ビザを持っている外国人の入国が緩和されるそうです。その後、日経でもNHKでも同様の報道がなされましたから、おそらく、近い将来、そういう方向に国の方針が動くのでしょう。

留学生も例外ではないと言いますが、日本語学校の学生にまで順番が回ってくるには時間を要するでしょう。1日1000人ですからね。ビジネスが最初でしょうから、私たち下々がその恩恵にあずかるのは、だいぶ先のような気がします。アベノミクスでは実現しなかったトリクルダウンがいつになるか、すぐには見通しが立ちません。

そうは言っても、準備をまるっきりしないわけにはいきません。一斉に入国するのではなく、ぱらぱらと来日し、2週間の待機期間が終わり次第ぽつぽつと入学するのでしょう。入るレベルもばらばらでしょうから、今までにない対応が求められます。

何よりも、日本語学校には最長で2年までしか在籍できないというルールがそのまま適用されるとすると、進学の準備を急がなければならないという問題が持ち上がります。10月期の半ば以降に入学となると、実質的に5学期でKCPを卒業し、大学や大学院に進学しなければなりません。9月入学がいつの間にかどこかへ消えた今となっては、2022年4月に進学というのが現実的なラインなのです。入試はその半年ほど前ですから、それまでにしかるべき日本語力を付けなければなりません。

経営的にはもちろんのこと、日本語を教え、日本での進学を指導していく上でも難しい運営をしていかなければなりません。在校生の進学指導もこれから佳境ですし…。

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