Category Archives: 進学

日本語強化の威力

7月4日(木)

Cさんは先学期レベル1の新入生でした。すばらしい成績を挙げ、期末テスト後にジャンプテストを受けて合格し、今学期はレベル3に上がります。レベル3からは進学に備えた日本語プラスの授業が受けられますから、午後、その説明を聞きに学校へ来ました。

ジャンプを希望する学生は、ジャンプ先のレベルのクラスで中位から上位に食い込めるぐらいの実力がないと、ジャンプは認められません。レベル1の勉強をしながら、レベル2の勉強も自分でこなさなければなりません。そして、レベル2の学生は70点が合格点のテストで満点に近い点を取らないと、レベル3には上がれません。かなりの努力を要します。

Cさんは、先学期、レベル2の学生向けのも含め、日本語強化の読解や聴解などを6科目も受けました。このくらいいろいろな先生に鍛えてもらったことが、ジャンプ成功の一因でしょう。レベル3ともなれば結構な長さの文章を読みますから、普通にレベル1の授業を受けるだけでは太刀打ちできません。そう考えると、Cさんはこれだけの日本語強化を受けてきたということは、入学の時点からジャンプを狙っていたのかもしれません。

日本語プラスの説明はあっという間に終わってしまいました。Cさんは聴解力も鍛えられていますから、同じような話を繰り返す必要もなく、すっと理解してくれました。これだったら、レベル3でも十分やっていけるでしょう。それと並行して、進学の準備も始めなければなりません。Cさんが考えている“いい大学”となると、それでも間に合うかどうかわかりません。26年進学になってもいいですから、安易に妥協しないと言っています。頼もしい限りです。

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低空飛行の果てに

6月25日(火)

今学期の出欠状況を見てみると、まだ6月なのに出席率が崩れてしまった学生がいます。本人はあれこれ理由を並べ立てますが、多くは私を含め第三者が納得できるものではありません。

進学のための塾に通っているから、疲れてKCPには出て来られないと言い訳する学生が少なくありません。塾に100%出席しても、KCPを休んだら出席率は下がります。出席率が下がると、最悪の場合、ビザが出ません。ビザが出なかったら、日本で勉強を続けることはできません。

確かに、音楽大学に進学したいという学生に対し、KCPは音楽の専門的な授業はしていません。美術の指導ができる先生はいらっしゃいますが、音楽の指導ができる先生はいらっしゃいません。私も理科系出身ではありますが、大学院入試の物理や化学や数学は全くできません。EJUの試験科目にしても、週末も含めて毎日ビシバシ鍛えるほうが、学生の目には効果的に映るのでしょう。だから、塾に通うななどとは言いませんが、本末転倒はいけません。

出席率だけではありません。学校に出て来なくなると、日本語力が如実に落ちます。日本語に対する反応が鈍くなるのです。こちらが何か問いかけても、ぽかんとしていたり的外れな応答をしたりして、コミュニケーションが進展しなくなります。となると、留学生入試に付き物の面接試験で落とされてしまいます。書類審査だけの所に合格しても、入学してから苦労することは明らかです。2年生に上がれずに退学を余儀なくされた学生もいます。

進学してから驚くほど会話力をつけた卒業生もいます。しかし、そういう学生はKCPでその素地を身に付けていたのです。机に向かって勉強することしかしなかったら、そうなる可能性は0と言っていいでしょう。

ところが、少子化にともなって日本人の志願者が減ってしまい、海外で直接募集する大学が増えてきました。しかるべき選抜が行われていれば、日本で勉強したい学生のためになります。しかし、そうでもなさそうなケースも見られます。選抜らしい選抜をせずに連れて来た留学生にどんな教育をするのでしょう。日本に留学したばかりに人生を捻じ曲げられた、などと思う人を量産されたら、日本の国益にも悪影響が及びます。

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初面接練習

6月13日(木)

初級の学生対象の進学準備授業が最終回だったので、思い切って模擬面接をしてみました。先週自己紹介文を考えさせていますから、それを入試の面接の場という想定で発表してもらおうと考えました。学生にとっては初めてのことですから、いきなりうまくいくとは思っていませんでした。

Kさんは左手で右手の手首をつかみ、放そうとしません。Jさんはしゃべり出すたびに右手をひらひらさせます。緊張していることが丸見えでした。模擬面接が終わった後で見ていた学生に「どうでしたか」と聞くと、「Kさんは緊張でした」という感想が即座に返ってきました。でも、そういう感想を漏らした当の本人が、同じように異常な行動を示しました。みんな緊張するものなんだと悟ってくれれば、次回以降、多少はリラックスして話せるのではないかと期待しています。

それから、初級ですから語彙がないのでやむを得ないのですが、自己紹介の内容が浅いですね。自分をアピールする、面接官の印象に残る言葉がありませんでした。「趣味は○○です」で終わりにするのではなく、一言何か付け加えてほしいところです。今回は私から質問を繰り返すことでその“一言”を引き出しましたが、これは次学期の課題です。上級にも「趣味は○○です」でお茶を濁してしまう省エネ学生がいますが、そんなふうに成長しないように鍛えていかねばなりません。

来学期は本番の面接を迎えるかもしれません。その面接練習の時に、この面接練習を思い出してもらえれば、何にもなしの学生よりは上手にできるでしょう。

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背中を押す

6月10日(月)

開場の12時少し前に私が挨拶をしていると、学生が入口からちらっと顔をのぞかせました。ほどなく挨拶が終わり、会場の外で待っていたその学生に中に入るようにと言いました。さらにもう3名ほど、続いて入場しました。今年の大学・大学院進学フェアは、こうして始まりました。

12時は、中上級クラスはまだ授業中ですから、1番に入った学生たちはみんな初級の学生です。でも、果敢に志望校のブースに向かい、拙いながらも日本語で質問していました。大学や大学院の話を聞くというよりも、自分の日本語がKCPの先生以外の日本人に通じたことを喜んでいるようにも見えました。

12:15、午前の授業が終わると、中上級クラスの学生がやって来ました。こちらは今年が勝負ですから真剣です。でも、その真剣さがあだとなり、きちんとした日本語で質問しなければと思ってしまった学生が少なくなかったようです。Sさんもその1人で、どこのブースにも行こうとしませんから、たまたま席が空いたA大学のブースに座らせようとしたら、「先生、ちょっと緊張しています」と言って動こうとしませんでした。でも、勇気を振り絞ってA大学の先生と話をしてみると案外通じたのか、C大学、H大学、F大学などを回っていました。教師の役割は、学生に大学・大学院で勉強したいことを聞いて、それにふさわしい大学のブースに学生を送り込むことです。Sさんのように、背中を押せば前進できる学生が多いのです。

今年の進学フェアは、国立大学のT大学とY大学が参加してくださいました。どちらのブースも、多くの学生でにぎわっていました。この中から何人でもいいですから、本当にT大学やY大学に進学する学生が現れたら、企画した側としてはうれしい限りです。

フェアの終了間際に、何校かの先生に直接お話を伺いました。「いい学生さんが多いですね」と、半分ヨイショでしょうが、そう言ってくださいました。本当にいい学生だったかどうかは、半年前後先の入試の結果でわかります。気を引き締めて指導してゆかねばなりません。

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医学部に挑戦?

5月30日(木)

Sさんは非常に優秀であり、努力家でもあります。成績がよくてもそれに慢心することなく、“もっと上を”という気持ちを決して忘れません。出席率も100%です。授業中は自分から積極的に手を挙げることは少ないですが、教師に話は一言たりとも聞き漏らすことはなく、ここぞという時にクラスのみんなを感心させる発言をします。

そんなSさんは、医学部を目指しています。いくら優秀だとは言っても、医学部はそうやすやすと入れるところではありません。しかも、多くの大学の医学部は、留学生を進んで入学させようは考えていないように見受けられます。面接をしてみて“これはいける”と思った留学生がいたら合格にするけれども、そうでなかったら留学生の合格者はゼロでもいいといった考えではないかと思います。

確かに、日本人の入学生と同等以上にできないと勉強についていけないでしょう。また、将来医者になった時、患者の訴えを確実に受け止められるコミュニケーション力が必要とされます。そうなると、並の日本語力では合格できないのもうなずけます。

しかし、これから先は日本も外国人が増えていきます。患者は日本人だけとは限りません。Sさんの国の人も、数多く日本で生活しています。そんな人たちを診るのは、日本人の医者よりもSさんが向いているかもしれません。また、医学を勉強した人が全員医者になって患者を診るとは限りません。iPS細胞でノーベル賞を受賞した京大の山中先生がいい例です。Sさんなら、ノーベル賞は取らないまでも、医学研究者として足跡を残すことは十分にあり得ます。ですから、医学部はもう少し外国人留学生を入れてくれてもいいのではないでしょうか。

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書類作成

5月23日(木)

木曜日は初級の学生対象の大学進学授業があります。日本の大学の特徴、大学入学までのロードマップ、EJUの中身、留学生入試には付き物の面接試験の概要などを話してきました。先週は、具体的にどんな大学があるか、画像も交えて紹介しました。

今週は、思い切って出願書類を書いてもらいました。と言っても、まだ具体的な志望校が決まっていませんから、昨年以前の入試の書類を練習用として使いました。予想通り、失敗だらけになりました。

まず、何を書いていいかわかりません。名前だって、漢字で書くのかアルファベットで書くのかカタカナで書くのか、初級の学生にはわかりません。「本国の住所」を「日本国の住所」だと思った学生もいました。履歴書の学歴では、“上段に学校名、下段に所在地”と明記してあるのに、逆に書いてしまいました。所在地にしても、国名しか書ない学生から、番地まで書こうとしたけど番地がわからなくて困っていた学生まで、いろいろでした。職歴にアルバイトを含めるかというのは、上級の学生でも聞いてきます。また、ない場合「なし」と書くというのも、上級の学生もできない人が多いですね。

さらに苦労したのは経費支弁書です。初級の学生には無理なことはわかっていましたが、すぐには書けないこと、親元に送って署名してもらわなければならないので時間がかかることなどを実感してほしかったのです。学生たちは十二分に実感したようです。

志望理由書は、初級の学生の日本語力ではまだまだ書けません。用紙を使わせてもらった大学は1000字を要求していましたが、A4の両面に普通の原稿用紙よりもずっと小さいマス目が印刷されているのを見ただけで、大変さが伝わったようでした。

単に日本語が上手になるのとは別な側面のするべきことが学生たちに見えてきたら、この授業は成功です。毎年、書類不備で書き直させられたり門前払いを食らったりする学生がいますから。

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発掘

5月22日(水)

来月、校内で大学大学院進学フェアが開かれます。それに参加してくださる大学の紹介資料を作っています。学生が知っている大学と言ったら東大と早稲田ぐらいですからね。その東大と早稲田も、名前を知っているという程度で、どれだけ“すごい”大学なのかは、誰も知らないでしょうね。そんな程度の情報しか持ち合わせずに志望校を決めたら、間違いなく後悔します。そうならないように、学生の選択肢を少しでも広げようと、進学フェアを開催するのです。

さて、その紹介資料を作るには、まず、それぞれの大学のページを参考にします。キャンパスの所在地、学部・研究科の構成、学部と大学院の学生数、学部卒業生の大学院進学率など、大学の基礎データを集めます。授業中に毎日1校ずつ各クラスでその日の先生に紹介していただくので、詳しいことまでは載せません。詳細はフェア当日に担当の方に聞いたり、もらったパンフレットで調べたりしてもらいます。

ところが、この基礎データがサイトのわかりやすいところに置いてある大学と、なかなかたどり着けない大学とがあります。A大学は学部と大学院研究科の全体像がつかめず、B大学は大学院進学者数を見つけるのに一苦労どころではなく、C大学はキャンパス所在地を示すわかりやすい地図がなく、…という調子で、思ったより仕事がはかどりませんでした。

ここで精根を使い果たしてしまうと、その大学を学生に印象付けるネタを探してこようという気が湧いてきません。D大学もそんな大学でした。こちらは多少付き合いがありましたからいくらか情報があり、それを基に学生が食いつきそうな画像を見つけ出しました。

私がこんなに苦戦するのですから、学生がある大学について知ろうと思っても、入試日程やせいぜい奨学金ぐらいしか情報が得られないかもしれません。そうすると、その大学は、学生にとってその他大勢の1つに過ぎません。これでは受験生の確保も危ういのではないでしょうか。

私だって、調べた結果興味が深まった大学には、フェアの当日さらにもっと話を聞いてみようと思うでしょうし、学生にも薦めてみようとするでしょう。そうすると、私の口車に乗って、1人ぐらい出願し受験し合格し、入学するかもしれません。

大学のみなさん、お忙しいこととは存じますが、使いやすいホームページを作ってくださいね。

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EJUのもっと先

5月21日(火)

毎週火曜日は、日本語プラスで大学進学のガイダンスのような授業をしています。このところ大学の留学生入試の仕組みを説明してきました。先々週は志望理由書、先週は面接、そして今週は各大学の独自試験の日本語について話しました。

留学入試の日本語試験は各大学でまちまちです。JLPTの言語知識(文法と文字語彙)のような問題を出すところ、日本人の高校生でもハードに感じるだろうと思われる読解をさせるところ、聴解までやるところなど、千差万別です。超級では来学期あたりからこういう問題を授業に取り入れていくというのが例年のパターンですが、私が担当している日本語プラスの学生たちは中級が主力です。そういう問題に触れるのも初めてだったかもしれませんし、予告なしだったこともあり、面食らっているようでした。

小論文のパターンも紹介しました。長文を読んで意見をまとめるのは手に負えないでしょうから、軽めの過去問を紹介しました。それでもすぐに書ける代物ではないと感じているようでした。社会問題について意見を書く問題でしたから、その社会問題についてある程度の知識がないと書きようがありません。そして、今年の入試で取り上げられそうなテーマもいくつか挙げました。能登半島地震は知っていると言っていましたが、どこまで深く知っているのでしょう。そこから防災とか過疎化とか、更なる問題と関連付けて文章が書けるでしょうか。

少なくとも、日本や世界の動きに敏感であってほしいものです。円安だと仕送りを円にした時増えるからうれしいなんていう程度では、どこの大学も拾ってくれないでしょう。これをきっかけに、今から目を外に向けてもらえれば、学生たちの将来は明るくなるでしょう。

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座りっぱなし

5月18日(土)

昨日は川越課外授業でしたが、今学期の次の学校行事は、6月10日の大学・大学院進学フェアです。参加校がほぼ決定しましたから、来週あたりから学生たちに進学フェアがあることを伝え、進学するつもりが少しでもあるのなら必ず出るようにと指導していきます。

教師が口で出ろといくら繰り返しても、学生はそう簡単には動きません。ですから、パワーポイントで視覚に訴える資料を作ることにしました。参加校には、学生誰もが知っている大学もあれば、日本人には有名でも留学生には無名な大学もあります。また、学生たちが知っていると言っても、名前と偏差値レベル程度でしょう。ですから、パワーポイントで各大学のそれ以外の特徴を紹介して、学生たちに具体的なイメージを明確に持ってもらおうと思っています。

そう思って資料作りを始めると、私自身も各大学について特別詳しいわけではないことを痛感しました。例えば各大学の学部卒業生の大学院進学率を調べてみると、意外と高かったり低かったりしました。各大学のウリは何かとなると、かなり気合を入れて調べなければなりませんでした。まず、私がその大学に入りたくならなければならないんですよね。

試行錯誤を繰り返しながらでしたから、参加予定校の3分の1ほどで終わってしまいました。でも、資料作成の要領はつかめましたから、月曜日以降ははかどることでしょう。

昨日は朝から1日中川越の街を歩きつづけましたから、スマホの歩数計が3万4千歩余りを記録しました。しかし、今、歩数計を見てみたら、わずかに3729歩。そうだよね。お昼にちょっと外に出ただけで、ずっとパソコンの前だったもんね。そのぐらい根を詰めて作ったんですから、学生のみなさん、来週の大学紹介、見てね。見なくても10日は必ず出てね。

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聞く力

5月14日(火)

留学生の大学入試には、必ずと言っていいほど面接があります。受験生の日本語力を確かめることはもちろん、勉学に対する意欲や、4年あるいはそれ以上に及ぶ留学生活に耐えられるかどうかも見ていることでしょう。そして、各大学のアドミッションポリシーに合致した留学生を選抜していることと思われます。

いろいろな大学の先生方の話を総合すると、面接試験はコミュニケーション能力の試験でもあるようです。日本語でコミュニケーションが取れない学生は、指導のしようがないので入学させないという考えの大学もあります。志望理由や将来の計画など王道的な質問だけでは、暗記してきた模範解答でかわされてしまいます。それ以外に、受験生の人となりや社会性を見る質問もなされます。

さて、コミュニケーションとは何でしょうか。自分の気持ちや考えを相手に伝えられればコミュニケーションは完了でしょうか。いいえ、相手の気持ちや考えを理解することも含まれます。受験生はとかく前者に力を入れがちですが、後者がなければそれは自分の思いの押し付けに過ぎません。

そうならないためには、相手の話をきちんと聞いて受け止める力が重要です。しかし、この力は上級になれば身に付くといったものではありません。日頃からスマホではなく人間に向き合わなければ、この力は伸びません。翻訳ソフトの助けを借りてばかりでは、うわべだけの理解しかできません。その言葉に込められた重層的な意味など、想像の埒外でしょう。

日本語プラスの進学授業で、面接試験の大学側にとっての意義を訴えました。今のうちからそういう意識で準備していってもらえば、文字通り実りの秋が迎えられるはずです。天皇陛下も田植えをされたとのことです。今から秋を楽しみにしていましょう。

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