Category Archives: 勉強

終わったけど、課題が山積

3月27日(金)

ようやく、長い学期が終わりました。どうにか期末テストの日までたどり着きました。

1月の始業日、マスクをしている学生が多いのにちょっと違和感を覚えましたが、今から思えば、そんなの序の口でした。バス旅行も卒業式もあっという間に濁流に押し流され、中間テスト後は教室で授業をすることすらできず、オンライン授業となりました。

初級は、別の目的で作っていた資料を転用することでオンライン授業にもかなり対応していたようですが、私が受け持っていた超級は、準備不足が否めませんでした。対面授業を前提とした教材ばかりで、それをオンライン向けにアレンジするのが一苦労でした。でも、著作権などの関係で使うことができない教材も多々あり、そういう心配のない教材を見つけ出すのに骨が折れました。

顔の見えない学生の興味を引き付けることも、大きな課題でした。私の授業のスタイルが、学生との掛け合いが大きな要素になっていますから、顔が見えないと調子が出ないのです。授業が上滑りしているようで、とても不安でした。学生の理解度が推し量れないことも、不安に輪をかけました。慣れてくればオンライン授業の要領もつかめ、授業の進行の計算も立つようになり、少しは穏やかな気持ちで授業ができるようになるのでしょう。

4月期がどういう形で始められるか不透明な面もありますが、オンライン授業開始以降中止の形になっている受験講座もどうにかしなければなりません。今のところ、EJUは予定通り行われるようですから、それに向けて学生た日を鍛えていけねばなりません。来週から、その作戦を練る日々が続きそうです。

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隠れて準備

3月17日(火)

卒業証書を受け取りに来る卒業生たちに証書を渡しながら、来学期のことも考えています。通常授業が始められるものとして態勢を立て直していかなければなりません。EJUもJLPTも予定通りあるとして、在校生に勉強をさせて、しかるべき成績を残せるように指導していくことが私たちの責務です。

受験講座も、4月にすぐ再開できたとしても、予定より1か月以上遅れることになります。去年の10月期から受験講座を取っている学生たちはどうにか試験範囲が終えられるでしょうが、1月から始めた学生は、厳しいものがあります。受験講座は、教材の関係でオンライン授業とするのも難しく、苦労が多いです。

例えば、EJUの過去問を教材として使うにしても、学校の教室で学生に対し直接配布するなら、著作権的にどうにかセーフでしょうが、インターネットを介して送信したとかなると、アウトの危険性が高まります。私が試験問題を打ち直して送っても、著作権上の問題は解決しません。

だから、コロナの状況がよくなり次第、学期休み中にでも、補講を実施しよう考えています。時間数的には全然足りないでしょうが、少しでも遅れを取り戻しておきたいのです。同時に、学校側がそういう姿勢を見せることで、学生側の意識が高まることも期待しています。

一部の学生は、逆に、EJUの問題集ばかりやっていて、日本語のオンライン授業のほうがおろそかになっているとも聞きます。それも困った話です。もしかしたら、今月になってから一度も日本語をしゃべっていないんじゃないかなあ。新学期が予定通り始まったとしても、その学生はちゃんと進級できないというか、進級させられないかもしれません。

学校が何かといびつな形になってしまっていますが、どうにかしなければなりません。

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騒ぎの陰で

3月9日(月)

来学期の授業料の納付期限が明日なので、授業料を納める学生が多いです。オンライン授業が終わってから家を出たのでしょうか、午後、Jさんも納めに来ました。Jさんは国立大学を2校受けていましたが、どちらもダメだったようです。これからもう1年勉強して再挑戦することになりますが、果たして合格するまで緊張が持続できるでしょうか。学力的な面よりも、そちらの方がずっと心配です。

Jさんはスタートダッシュが遅かったように思います。年が明けてから急に準備を始めた感じがします。他の学生が夏ぐらいから始めていた準備を、1か月半ぐらいでどうにかしようというのです。急ごしらえ感は否めませんでした。日本語力がそこそこ以上あったということが、逆に災いしたのではないでしょうか。面接でしゃべるのくらいどうにかなるという気持ちがあったに違いありません。

しかし、面接練習をすると思っていたことの10分の1も話せず、口頭試問も頭の中にあることを論理的に語ることはできませんでした。ショックを受けてどうにかしようともがいたのですが、遅れを取り戻す前に入試本番になってしまったというのが真相です。

今上級のJさんは、4月になると親しい友達は卒業してみんないなくなってしまいます。これは両極端の効果をもたらすことがあります。その寂しさに耐えられなくなって沈んでいった学生と、一人になってから集中力を発揮し始めた学生の両方がいました。Jさんが後者になってくれることを祈るほかありません。

6月にはこの騒ぎも収まり、EJUも粛々と実施されるのでしょう。コロナにかまけて受験準備をおろそかにしていてはいけません。

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両極端

2月8日(土)

学校全体を見渡すと、行き先が決まらず神経が高ぶっている学生と、行き先が決まって気が緩みまくっている学生が目立ちます。もちろん、絶対数は真面目に勉強している学生が圧倒的ですが、ピリピリ組とだらだら組は教師の目に留まりやすいのです。

Cさんはこれから国立大学をいくつか受けます。戦友だったSさんが受かってしまい、取り残されたという感じも抱いているかもしれません。面接練習で私の質問に答えられないとショックを受け、答えられたらこの答え方でいいかと確かめずにはいられず、さっきの答えとこの答えとどちらが面接官に好印象を与えるかなどと聞いてきます。アリの目になりすぎていますから、鳥の目を持ってほしいと思います。面接の全体像をつかまないと、戦略的な答え方ができません。私が口で言ってもなかなか通じませんから、Cさんの気が済むまで寄り添っていくしかありません。月曜日の午後に、また練習します。

糸が切れちゃってる代表はHさんかな。国ではほとんど勉強したことがなく、日本へ来てからの1年余り、死ぬかと思うほど勉強したそうです。おかげで去年のうちに大学には合格しましたが、その反動で、今は魂が抜けたようです。だって、筆記用具すら持たずに教室にいるんですよ。入学してから、また勉強しようという意欲が湧き上がってくるのでしょうか。心配でなりません。

Cさんは、これからの1か月が人生の分かれ目です。プレッシャーに押しつぶされずに力を発揮してもらいたいです。Hさんもこれから気持ちをどう立て直すかで留学が成功するかどうかが決まります。早くそこに気づいてほしいです。

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ハードメニュー

2月7日(金)

Jさんは理系大学への進学を目指す初級の学生です。国でかなりがっちり理科の勉強をしてきたようで、受験講座の時にしてくる質問のレベルが高いです。唯一最大の欠点が、漢字に弱いことです。日本語で書かれている授業用プリントを見てもちんぷんかんぷんです。でも、それをスマホの翻訳システムに通すと、「あーあ」と声を上げてすぐに理解します。そして、国で勉強したことを確認するかのような質問をするというわけです。

おそらく、国の高校でも優秀な生徒だったのだろうと思います。飲み込みも早く、応用力もある実力派だったのではないかと想像しています。有望な学生ではありますが、漢字をどうにかしない限り、優秀さは陰に隠れたままになりそうです。未完の大器では、受験の世界では勝者になれません。

だから、Jさんには特別メニューを与えることにしました。普通の初級の学生のように基礎の部分から授業をしていっても物足りなく感じるでしょうから、問題をやらせながらJさんの弱点を補っていくことにしました。現時点では、EJU1回分の問題のうちJさんの日本語力で解けるのは3問ぐらいです。読めない漢字を読んであげると半分ぐらい解けるようになり、キーワードになりそうな単語を辞書で調べると、かなりのところまで行けます。

6月の本番までに日本語だけで問題文が理解できるようになれば、どこに出しても恥ずかしくないほどの高得点も望めるでしょう。そこまで引っ張り上げてやりたいと思っています。私は覚悟を決めていますが、Jさん、ついてきてくれるかな。

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処置なし

1月21日(火)

久しぶりにKさんに会いました。それだけ派手に学校を休んでいたということでもあるんですが、来て売れただけありがたいと思わなければなりません。

Kさんがなぜ欠席するかと言えば、学校が面白くないからです。日本語の勉強よりも面白いことを学校外で見つけてしまったからです。先学期A大学に受かっていますから、受験の心配もありません。元々勉強が嫌いだったようで、しなくてもいいならしないで済ませたいと思っています。

もちろん、休み続けると進学してからビザが延長できなくなりますから、全然学校へ来ないという危ない橋はわたりません。じゃあ学校へ来たときはどうするかというと、教室でひたすらスマホをいじり、ただただ授業が終わるのを待ちます。予習を前提に授業を進めていますが、予習などしてくるはずがありません。指名されると、隣の学生に答えを教えてもらってどうにか答えます。

教師に注意されたから直そうなどという殊勝な心掛けなど全くありません。注意すればしただけクラスの雰囲気が暗く重くなります。スマホをやめても寝るだけです。マイナスのオーラをまき散らしまくっています。そもそも、筆記用具すら持って来ないのですから、遊びに行くついでに学校に寄ったというのが実情でしょう。

Kさんを振り向かせるために一大奮起をしたとなれば美談になりますが、私はそこまで熱血な教師ではありません。Kさん以外にも情熱を傾けねばならない学生が大勢います。例えば、Kさんよりも先に、昨日この稿に書いたWさんの夢をかなえるためなら時間を割きたいです。

Kさんは、おそらくバス旅行にもいかないんだろうな…。

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思いが空回り

1月20日(月)

今学期から受験講座に参加しているWさんは、理科系の大学を目指しています。しかし、日本語がまだ初級なので、物理や化学の話を聞いて理解するのはかなり難儀なようです。一般に、条件形や受身などを習って間もない時点で受験講座の先生たちの授業についていこうとすると、授業時間中かなりの集中力を要します。終業のチャイムが鳴るや否や学生たちが机に倒れ込むのもよくわかります。全精力を使い果たしたのでしょう。

それに加え、Wさんは数学や物理や化学の基礎が全然入っていません。国の学校であまり深く勉強してこなかったようです。私が担当している物理と化学では、同じ初級クラスの同国人のLさんに母語で教えてもらっていました。それでも理解が進んでいるようには見えませんでした。数学も同様で、S先生がわざわざ私に報告なさるくらいできないようです。

理科の場合、基礎から懇切丁寧にと思っても、相手の日本語力がある程度にまで達していないと、こちらの思いが伝えられません。学生たちの文法レベルに合わせて説明しようと思うと、長ったらしくまだるっこい話になってしまいます。図を描いたり式で示したりすればわかることも多いのですが、そのためには学生たちの国と日本とで図や式の表現方法が同じである必要があります。何らかの共通言語(に代わるもの)がほしいのです。

残念ながら、Wさんは国の学校でそういう勉強をしてこなかったようで、私との間に理科に関する共通言語がありません。おそらく、母語で勉強するにしても、ゼロスタートではないかと思います。となると、理科系の大学に進学したいという思いばかりが募り、実力が伴わないままになりそうです。どこの大学にも入れないという最悪の事態も想像されます。

Wさんのことを思えば、「君には理科系は無理だ」と今すぐ引導を渡すべきでしょう。Wさんの夢をつぶすようで辛い役目ではありますが、ここで理科系に妙にこだわって無為の時を過ごさせてはいけません。

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才能格差

1月11日(土)

Aさんは、アメリカの大学のプログラムで、今学期KCPに入学しました。でも、日本語はぺらぺらというに等しく、他の学生に、頭1つどころか体2つ分ぐらい差をつけています。

Aさんに話を聞くと、勉強のきっかけは日本のアニメだそうですから、これはよくある話です。当然、大学で日本語を専攻したか何かだろうと思っていたら、完全に独学だということで、とてもびっくりしました。そういう人は得てしてJLPTの問題は解けるけど話せないというパターンなのですが、Aさんは全然違います。話し慣れている感じがしました。Aさんの町にいた日本人と話していたそうです。日本は観光旅行で訪れたことがあり、初めてではないと言っていました。それだからなのかどうかわかりませんが、話し方に妙な癖がありません。

いろいろと恵まれた環境にあったのでしょうが、学校のような系統的に勉強する機関に属することなく、ここまで自然な日本語が使えるとは、Aさんは語学にたけていることは疑いようがありません。耳もいいのでしょうし、聞いた音をそのまま再現できる能力も、覚えた文法を応用していく力も、単語を覚えていく力も有り余るほどあるに違いありません。一を聞いて十を知るという頭脳なのでしょう。

このAさんに比べると、一生懸命勉強しているのにさっぱり伸びない学生は気の毒になってきます。こんなことを言ったら教師の敗北なのですが、日本語学習に向いていない学生って、やっぱりいるとおもいます。日本語につぎ込んでいる力を別の方面に向けた方がきっと幸せなのだろうなと思う学生もいます。

さて、新学期が始まります。学生全員がAさんだったら教師は楽なことこの上ありませんが、現実は学生に苦労を強いる側に回ることが多いです。KCPで日本語を深掘りしたいと抱負を語っていたAさんの横顔を見ながら、艱難辛苦に耐えている多くの学生たちの、眉間にしわを寄せた表情を思い浮かべました。

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ある帰国

12月24日(火)

Yさんが退学しました。先学期私のクラスだった学生で、出席率についてさんざん注意したのですが、結局出席率が向上することなく、帰国することになりました。

確かに、Yさんは病弱でした。風邪をひきやすいし、ひくと熱を出し、それも普通の人より高い熱を、そして、なかなか治りませんでした。でも、元気なときでも朝なかなか起きられず遅刻が目立ったのは、どこかに怠け心が巣食っていたからだと思います。

だから、このまま日本で勉強を続けるのは無理だから一刻も早く帰国して再出発した方がいいと私がYさんに言ったのは、先学期の期末テスト後でした。その時は「やめろ」「やめない」の言い合いになり、学校側はYさんを強制的にやめさせるだけの材料はなかったので、勉強の継続を認めました。

今学期に入って、10月は出席率100%でした。私の説教が効いてまじめに出席するようになったのなら、それに越したことはないと思いました。偶然出会った時、「最近、毎日出席してるんだってなあ」と声をかけたら、嬉しそうに少し照れながら「はい」と答えてくれました。担任の先生も、毎日授業に出ているから勉強がわかるようになり、非常に積極的だとほめていました。

しかし、11月に崩れ始め、12月は坂道を転げ落ちるがごとくだったそうです。風邪もその一因です。Yさんはもうすぐビザが切れますが、Yさんの出席率ではビザ更新はほとんど期待できず、帰国を決心するに至りました。私が3か月前にYさんに言った通りの展開となりました。

予想が当たってもうれしくはありません。“Yさんは日本の水に合わなかった”と言ってしまえばそれまでですが、私たちの磁力が足りなかったのかなあとも思います。Yさんが妙な挫折感を抱かぬよう祈るばかりです。

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読めない

12月12日(木)

「Wさんは、漢字さえ読めれば音読が上手なんだけどなあ」。M先生がぼやいていました。Wさん自身もそれには気づいているようで、自分の弱点は漢字だと言っています。

Wさんは選択授業・大学入試過去問も私のクラスです。毎回、漢語が足を引っ張り、どうしても高得点を挙げられません。漢字の読み書きの問題は全滅に近い時もあります。漢語の意味がわからなくて解けない問題も少なくありません。どうにかしてあげたいのですが、妙案がありません。

Wさんに限らず、語彙が少ない学生が多いです。最近増えているように思います。漢字が苦手な学生は昔からいましたが、その度合いがひどくなっている気がします。自分の名前をカタカナで書く中国人の学生が多くなったのと軌を一にしているように感じています。欧米圏の学生と変わらぬ、私などからすれば荒唐無稽な書き方で漢字を書く漢字圏の学生も増えています。漢字を文字としてではなく、絵としてとらえているのでしょう。

そうだとしたら、ちょっとぐらい漢字の授業をやったところで、漢字に強くはなりません。漢字力のなさが読解力の低さにつながっているとすれば、絶望的な空気さえ漂ってきます。Wさんは中級からKCPに入ってきましたから、どんな初級の勉強をしてきたかわかりません。苦手分野から逃げ回り続けてきたのだとしたら、遅まきながら、特別メニューで基礎をやるほかないでしょう。

日本人の高校生の読解力も落ちていると言います。原因をスマホやSNSに求める向きもあります。Wさんもスマホ大好き人間ですが、安易にその方向に流れてはいけません。本質に迫るにはどうすればいいのか、音読が上手だというWさんの美点を生かす方法はないか、教師にとっての課題が山積しています。

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