Monthly Archives: 6月 2021

インクが減らない

6月14日(月)

今学期は、赤のボールペンのインクがさっぱり減りません。いつもの学期なら、テストの採点をはじめ、例文や作文の添削、宿題のチェック、学生からの質問への回答など、あっという間にインクがなくなっていきます。しかし、オンライン授業ばかりの今学期はそのどれもがなく、今月中にインクを使い切る見込みは全くありません。経済的で何よりです。

初級のクラスで、辞書形のテストがありました。formに書かせる(打たせる)ので、インクは1滴も減りません。採点も、まずはコンピューターがしてくれますから、私は「た べる」などのように不要なスペースがあるために不正解にされてしまったような例を救い上げるだけです。

要するに、うっかりスペースキーに触れてしまったとかという、紙のテストではありえないような間違いはなかったことにしてあげようという趣旨です。しかし、「もちます」の辞書形を「まつ」としてしまったのはどうでしょう。私のような老眼には、問題の字が小さいと「も」と「ま」を混同することもあり得ます。しかし、20歳前後の若い目にはそんなことはないでしょう。学生たちがローマ字入力ではなくひらがな入力をしているとすると、「も」と「ま」のキーは斜め上下の位置関係ですから、ミスタッチの可能性が否定できません。

でも、「た べる」は誤解を与えるおそれが非常に小さいでしょうが、「もつ/まつ」は致命的な誤解を与えかねません。ですから、こういうミスタッチはするなという意味でも、Xにします。

そして、そういう間違いを犯した学生は、試験時間を半分ぐらい余して答案用紙を送信しています。ろくに答えのチェックをせずに提出したのです。それに対して、クラスで最優秀のCさんは、一番あとに提出して満点です。

こういう分析が即座にできるところも、オンラインテストのいいところです。

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Chief cabinet secretary

6月12日(土)

菅さんがイギリスで温かいお言葉をいただいて喜んでいるようです。各国は日本に貧乏くじを引かせて、裏でほくそ笑んでいる――などと考えるのは、私の性格がねじ曲がっているからでしょうか。

オリンピックのために多大な費用と労力をつぎ込んできました。だから、今さら中止などしたくないのでしょうが、その費用と労力はサンクコストだとあきらめたほうが日本のためだと思います。日本側から中止を申し出た場合、IOCにも巨額の違約金を支払わなければならいでしょう。それも、オリンピックという大きなイベントを開催することがわかっていたのに感染症の蔓延を封じ込められなかった代償として、日本国民が分担するべきでしょう。思い切って中止することで、海外からの新たな病原菌の流入が防げ、また、海外から来た人たちに感染させることもないのですから、日本のためにも世界のためにも、それが一番です。

確かに、政府の方針が定まっていなかったことが、こういう現状をもたらした最大の原因です。しかし、そういうリーダーを選んだのは私たちです。一国の宰相としての器ではない人物を平気でトップに据えてしまうような国会議員や政党を選んだのは私たちです。国政選挙で半数近い有権者が棄権していますが、棄権は消極的に当選者に投票したのと同じことです。その当選者がこの災厄をもたらしたのですから、同罪です。

官房長官が主たる経歴という人が2代続けて首相になっています。会社で言えば、秘書室長しか経験したことのない人が社長になるようなものです。やっぱり、経理部長とか営業部長とか製造部長とか、そういう役職を経験した人が社長の座に就いた方が、会社はしっかりした道を進むと思います。経験不足、勉強不足の2人が首相になってしまったという点が、日本や日本国民の不幸です。

オリンピックで感染が広がったら、日本に留学しようと思っている人たちが入国できません。そういう学生に日々接している身としては、1日も早く学生の夢が叶う方向に進んでもらいたいです。それが同時に、日本が国際社会で認められる道だとも思います。

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発想が古い

6月11日(金)

大学にとっては留学生の新入生予備軍とも言える日本語学校の学生数が激減しているからでしょうか、このところ留学生向けの大学説明会の案内がよく届きます。外国人留学生は入国が差し止められていますから、いま日本にいて日本語学校に在籍している学生をめぐって、大学間で争奪戦が始まりそうな雰囲気です。

ということは、当方にとっては売り手市場であり、有利な条件で…などというさもしい考えは待ちたくありません。下駄をはかせてもらった状態で“いい大学”に入っても、それがその学生の幸せにつながるかと言ったら、必ずしもそうではありません。フロックで実力以上のところに合格し進学した学生がその後苦労し、退学にまで至った例も少なくありません。今週月曜日の進学フェア参加校の中でも、面接入試を中止したら日本語でコミュニケーションが取れない留学生が入学してきたという話を、複数校からお聞きしました。

大学などからの案内は、もちろん学生に伝えます。それは、多くの選択肢の中からより自分に適した進学先を見つけ出せというメッセージです。存在そのものが密である東京を離れて、安全安心な留学生活を送ったらどうかという意味も込めています。

レベル1の学生に「わたしのゆめ」という題で作文を書かせました。1/3ぐらいの学生が「いい大学に入りたい」という意味のことを書いていました。私のクラスの学生はみんな海外にいますから、情報不足なのかもしれませんが、存外頭が固いというか古いというか、学生たちの発想を変えていかなければならないと思いました。

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演技を見ながら

6月10日(木)

今週はKCPのアートウィークです。去年はこの手の行事が何もできませんでしたから、おととしの秋以来となります。在籍学生数は2年前に比べるとがたっと減ってしまいましたが、出展作品数はそこまで減っていません。学生たちも自分の能力を発揮する場がほしかったのでしょう。

午前中、アートウィークのパフォーマンス部門の発表会を見学しました。今年は海外でオンライン授業を受けている学生も、歌やドラムの演奏の作品を寄せてくれました。その映像が流れると、会場の空気が心なしか色づきました。学生たちはインターナショナルな香りを感じたのかもしれません。

講堂のステージに上がってくれた学生たちは、感染防止のためマスクをしての熱演でした。ヒートアップしてくると、やっぱりちょっと苦しそうでした。演技が終わるや人のいないところへ行って水分補給する姿も見られました。ダンスも歌もピアノの演奏も、大いに魅了されました。相当練習しただろうなということが感じられ、手拍子にも力が入りました。

そういえば、2年前のこの場で漫才を披露した2人組は、来年大学院修了です。こういう状況下で研究は進んでいるのでしょうか。すばらしい映像作品を見せてくれた学生はその道に進んでいるはずですが、就活はどうなっているでしょうか。今の学生に目をやりながら、前回活躍した面々のその後に思いをはせました。

午後は、オンラインクラスの学生たちをアートウィーク会場に送り込みました。午前中私が講堂の隅っこから見ていたパフォーマンスを、私のクラスの学生たちは海外の自室に居ながらにして見られるのです。終了後感想を聞いてみると、拙い日本語ながらも心が動かされた様子がよくわかりました。

KCPの芸術の夏は、明日までです。

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自分の力

6月9日(水)

昨日から暑くなり、2日連続で真夏日でした。1年でいちばん太陽高度の高いこの時期、お日様が本気で照り付けると、あっという間に気温が上がります。黒いバッグを持った学生たちは、軒並み校舎入口のサーモグラフィーのアラームを鳴らして、荷物を置いてから再チェックを受けさせられていました。

直角に近い角度で日が差し込むということは、紫外線もそれだけ強烈だということです。その紫外線を浴びなくてもよくしてくれたのが、Uさんでした。11時に勉強に来るということで、担任のF先生から問題を預かりました。Uさんが来たらそれを渡して食事に出ようと思っていましたが、11時を過ぎても一向に現れません。12時近くになるとどの店も混みますから、そんなときに入りたくないです。F先生が戻ってきてもまだ姿を見せず、結局来なかったんじゃないのかな。おかげで、私はお昼の時間帯もずっと職員室でした。

私はUさんを詳しくは知りませんが、時間を守れないということは、確たる目標もなく留学生活を送っているのでしょう。苦労して日本に入国したのに、これじゃあ意味がありません。あと3、4か月で受験でしょうが、見通しは明るくないですね。

時間にいい加減な学生は、多少頭がよくても、沈んでいきます。自分で自分がコントロールできないのですから。私たちも可能な限り指導はしますが、24時間学生につきっきりというわけにはいきませんから、自ずと限度があります。公助でも共助でもなく、自助努力が求められます。Uさんにそれができなかったとしたら、無理して日本にいてもいいことは一つもありません。Uさんの国は新規患者もほとんどいなければ、若者にもワクチンをバンバン打っています。日本よりずっと安全です。

東海地方までは梅雨入りがやけに早かったですが、関東甲信地方は平年(6月7日)を過ぎてもまだのようです。今週末までは、太陽の元気さは衰えそうもありません。

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話し言葉と書き言葉

6月8日(火)

6時半ごろ、Bさんが数学の質問があると、受付へ来ました。それまでに何回か来たようですが、私は午後ずっと授業でしたから、会えずじまいだったというわけです。

難しいことを聞かれたら困るなあと思いながらカウンターに出ると、BさんはEJUの過去問を示し、ある問題文の意味がわからないと言います。「…同一直線上にあり、三角形の頂点とならない3点の組み合わせは…」というところです。問題には、3×4に並んだ12個の点の図も付いています。これをお読みのみなさんはいかがでしょうか。

はっきり言って、このくらいはすっと理解できなければ、EJUの数学でしかるべき点を取るのは厳しいでしょう。でも、上の問題文の日本語は、初級の学生にとっては理解しにくいかもしれません。かといって、これ以上易しい表現にするためには、作問者である数学の先生が維持したい格調の高さを犠牲にせざるを得ません。

数学の問題や、それに対する解答には、独特のリズムや格調があります。私のような理系崩れの者ですら、そういったものを守ろうとします。学生向けの模範解答を作る時でも、徹底的にやさしい日本語には、どうしてもできません。格調なんか捨て去って、わかりやすさ第一で答えを書きたいのですが、最後の一歩が踏み出せません。

でも、口で説明するとなると話は別です。Bさんに対しても、問題についていた図を利用して、例を示しながら、Bさんにわかる範囲の日本語で説明しました。もちろん、Bさんには通じました。

そうです。数学にも、書き言葉と話し言葉があるのです。

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やはり話す力

6月7日(月)

進学フェアがありました。毎年このくらいの時期に実施していましたが、昨年はオンライン授業の真っ最中でしたから、時期を遅らせました。今年はEJU前に復活です。

去年、おととしに比べると学生数がだいぶ少ないですから、参加してくださった大学の担当者さんに寂しい思いをさせるのではないかと危惧していましたが、今、KCPに残っている学生たちは本気度が違いました。中級以上の授業が終わると、どの大学のブースも密を気にしなければならないほどの学生が集まりました。

去年は、オンラインで参加の大学には学生があまり寄り付かなかったのですが、今年はごく当たり前にzoomの画面をのぞき込み、どんどん質問をぶつけていました。学生側も、オンラインでの質疑応答にかなり慣れたということでしょう。大学のオンライン授業もこんな調子で、昨年よりも今年の方がこなれてきているのでしょうか。

参加校に事情を聞いてみると、21年度入試は読みが外れた大学さんが多かったようです。受験生が少なかったとか、合格者の歩留まりが悪かったとか、まさしく先の読めない戦いを強いられたようでした。今年は、日本語学校の学生が激減し、新規の入国がいつから認められるのか全く見当がつかない状況下ですから、更に混沌とした状況に陥りそうです。でも、入学者のレベルは落としたくないという意識も強いように感じました。大学側としては、コミュニケーションが取れない学生が入学しても、指導のしようがありません。

やはり、テストで点が取れるだけではなく、進学してから実のある勉強ができる日本語力を付けさせることこそ、私たちの本務だと再認識しました。

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義理堅い?

6月4日(金)

午前の授業が終わった直後、Aさんが受付へ来ました。明日、校外で行われるEJUの模擬テストに申し込んだけど、それをキャンセルしたいと言います。理由は、同じ日に英語の試験を受けるからです。

模擬試験の申し込みは、5月の末、つい先週のことです。自分のスケジュールをよく見て、キャンセルすることのないようにと、各クラスの先生が口を酸っぱくして注意しました。それにもかかわらず、受験番号と受験案内を配ったとたんにキャンセルです。

確かに、英語の試験とEJUの模擬試験を比べたら、英語の試験の方がAさんにとってはるかに重要です。でも、英語の試験の申し込みは、先週ということはないでしょう。模擬試験を申し込むときには、英語の試験の日程は決まっていたはずです。スケジュール管理がいい加減だという非難は免れません。

“近頃の若者”は、何でも気軽にスマホで唾を付けておいて、土壇場で何のためらいもなく切り捨ててしまうそうです。キャンセルボタンをタップするだけ、あるいはそれすらせずに済ませてしまいます。きちんと断りを入れてきたAさんは義理堅いくらいです。だけど、一度交わした約束は、そう簡単に取りやめたり取り消したりするべきではないと思います。

この模擬試験は、学校同士の付き合いの上に成り立っています。たとえKCPから連絡したにせよ、当日欠席者があまりに多かったら、信用問題にかかわりかねません。自分の軽率な申し込みとキャンセルが、自分の思いが及ばないところにも影響を与えるかもしれないということはわかってもらいたいです。

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田植えの季節

6月3日(木)

代講で、久しぶりに日本語がかなり通じるクラスに入りました。通じると言っても初級クラスですから、たかが知れています。しかし、レベル1のクラスに比べたら単語も文法も知っていますから、教師としては楽です。

このクラス、ちょうど「みんなの日本語Ⅱ」が終わるところでした。その復習問題の答え合わせもしたのですが、そうなると、ついつい、学生が忘れていると思われる文法や表現を問い詰めてみたくなります。また、習ったはずの別の表現も使わせてみたくもなります。そんなことをしていると、あっという間に時間が過ぎ去っていきます。そのせいで後半は予定が押してしまいました。

でも、初級の文法がいい加減なまま上級まで来てしまうと、下手さに満ちあふれた日本語を使いまくります。上級を教えていた教師としては、その萌芽をぜひとも摘み取っておきたいのです。発音やアクセントもバシッと指導し、1ミリでも完全に近い形で進級してきてほしいものです。

午後は、そのもっと手前、レベル1のクラスでした。14課が過ぎていますから、新出語の動詞が何グループか聞いてみたら、ボロボロに間違っていました。午前中のクラス以上に“元から断たなきゃダメ”感が湧き上がりました。学生の頭の中には、まだ日本語文法の骨組みが出来上がっていません。動詞のグループを意識させるのは、その第一歩です。これまた、熱弁を振るったり練習させたりしていたら、時間が足りなくなってしまいました。

こういう学生たちが私のホームグラウンドにまで上がってくるのは、来年のことかもしれません。その時のために、種をまき、苗を育てているのです。

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自信過剰

6月2日(水)

初級クラスで月曜日にした漢字テストの答案を改めてじっくり見直しました。明日返却ですから、採点チェックも兼ねて、各学生がどこを間違えたか、クラス全体でどんな傾向があるかを見ました。

Mさんは、文法などはよくできる学生で、発言も多いです。しかし、字はとても雑で、学期の最初のひらがな・カタカナを覚えるところでは大変苦労しました。私も他の先生方も、Mさんの字を徹底的に直しました。その甲斐あってか、今回の漢字テストでは時間をかけて丁寧に書いたことがわかる字でした。この努力は、何らかの形で評価したいです。

JさんとFさんは順当に100点。しかも字がきれいですから、言うことはありません。授業中いちばん積極的なOさんの100点もなるほどというところですが、いつもあまりパッとしないXさんやBさんも100点というのは、失礼ながら、ちょっと意外でした。漢字は自信を持っているのかな。逆に、漢字が苦手そうなのが、HさんとWさんです。何らかの手当をしなければならないかもしれません。

答え方が雑で減点が重なったのが、Lさん、Gさん、Sさんです。送り仮名を書かなかったり、楷書で書かずにXになったり、点画が微妙に違っていたりなどしていました。結果的に空欄が多かったHさんやWさんとあまり変わらない成績になってしまいました。このテスト結果を返されても、本人たちは、この間違いは大した問題ではないと思うでしょう。でも、大した問題なのです。こういういい加減な字を書き続けると、進学の際に困ります。願書や志望理由書など、入試以前の段階で身動きが取れなくなることも考えられます。

こうなると、漢字に自信を持っていない学生の方が、慎重に事を進めるでしょうから、かえって有利かもしれません。不穏な芽は、初級のうちに摘んでおきたいです。

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