Monthly Archives: 2月 2023

苦すぎるチョコレート

2月14日(火)

世の中はバレンタインデーでしたが、KCPは中間テストでした。私が担当している上級クラスには漢字が弱い学生が多いですから、漢字を直接読んだり書いたりする問題は出さないことにしました。その代わり、漢語や漢字を使った慣用表現の意味を問う問題を出しました。例えば、「非常においしい」だったら「とてもおいしい」、「手を貸す」ときたら「手伝う」と答えるという具合です。上級ですから、もう少し難しくしました。こういう出題形式なら漢字が苦手でもどうにかしてくれるだろうと思いました。しかも、昨日の授業で、ダメ押しのつもりで、こういう問題を出すと、答え方まで説明しておきました。

午後、さっそく採点してみると、惨敗でした。部分点まであげたのに、大半の学生が半分以下の点数でした。これが足を引っ張り、赤点続出となってしまいました。出題者としては大失敗でした。

同時に、「漢字」という授業名にすると、学生は漢字しか見ないんだと痛感させられました。「語彙を増やす」というのはレベルの目標として挙げていたのですが、学生たちには伝わっていなかったんですね。意味を問うた語句は日常生活でも使われており、奇をてらったものではありません。学生たちが進学先で机を並べる日本人の学生はみんな知っていそうなものばかりです。

さて、明日からこの落とし前をつけなければなりません。教科書の新しいページに進むのではなく、今学期歩んできた道を振り返ることが先決のようです。文法テストも同様の傾向が見られますから。

学生から、特別苦いチョコレートを贈られた気分です。

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就職面接

2月13日(月)

KCPの卒業生のPさんは、現在ある団体の非常勤職員をしています。このたび、正職員への登用試験を受けることになり、その面接練習に付き合いました。Pさんは在学中からも、何事に対しても熱心で全力に取り組み、アルファベットの国出身ですが最上級クラスまで上り詰めました。Pさんがいることにより、そのクラスは非常に活気を帯びていました。

そんなPさんですから、就職先でも頭角を現すことは十分想像できました。周囲で働いている人たちからも、強い信頼感を得ているようです。それゆえ、こういうチャンスが巡ってくるのは当然のことであり、このチャンスを生かしてぜひワンランク上を目指してもらいたいと思っています。

大学入試の面接練習は数えきれないほどしてきましたが、就職の面接はとんと記憶にありません。以前の会社は、そういう面接をするほど偉くなる前に辞めてしまいましたから、各方面の面接に関するうわさからどんな質問がなされるのか想像してみました。私が面接官なら、私が経営者なら、こんなことを聞いてみたい、こんなことで評価したいという質問を、Pさんにぶつけてみました。

Pさんは、さすがに社会経験があるだけあって、大学受験の若造とはだいぶ違いました。落ち着いてもいましたし、何かを丸暗記というのではなく、自分の言葉で語ってもいました。私が指摘したのは、自分を売り込む力が弱いという、その一点でした。Pさんはいつの間にか日本人っぽく自己主張が穏やかになりすぎていました。

その点を指摘し、明日の面接に送り出しました。

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雪が降りました

2月10日(金)

「東京地方は大雪」と言われ、大雪警報まで出された割には、何事もなくという感じでした、新宿近辺は。ネットに出ている画像によると、練馬あたりでも真っ白ですね。O先生のご自宅のあたりは、雪だるまが作れそうなくらいです。羽田発着便に数十便の欠航が出ましたから、それなりに大雪だったのでしょう。

今朝は遅刻が多かったですね。私のクラスは、9時3分前の時点で学生が3人しかいませんでした。始業チャイムと同時に駆け込んできたのが数名で、そのあと堂々の遅刻が駆け込みと同数ぐらい。他のクラスも似たり寄ったりだったようです。電車の遅延証明を持ってきた学生はいませんでしたから、外の寒さに打ち震えて歩みが遅くなってしまったのでしょうか。私の出勤時間帯には3度程度あった気温が、学生たちが登校してきたころには0度台を上下していました。雪がちらつき始めるとともに、気温はガタッと下がったのです。

授業後に面接練習をする予定だったCさんは、寒さで体がおかしくなったと断って、帰ってしまいました。Cさんに限らず、学生たちはどうも虚弱体質でいけません。ラウンジでおしくらまんじゅうもどきをして体を温めているグループもありました。去年の今頃なら「密!」と言って解散命令例を出したことでしょう。でも、もうすぐマスク規制も緩和されるとのことです。大目に見てあげました。

あした京都で受験のTさんは、無事現地に着いたでしょうか。東海道新幹線は定刻で動いていたようです。あさって茨城遠征予定のLさんは、冬晴れの中の移動ですね。吉報をお待ちしております。

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壁からグラデーションへ

2月9日(木)

Mさんは今学期から理科系の受験講座を受けています。しかし、最近休みがちです。そんなMさんを、授業後に呼び出して、事情を聴きました。

一言でまとめてしまうと、受験講座の内容が難しいということでした。Mさんは国の高校で理科系の勉強をしてきましたが、受験講座では国で習ったことのない内容を扱っているので、ついていけないと言っていました。

数学のS先生に聞いてみると、国によって教育課程に違いがあるのに加えて、学校によっても、同じ学校でもクラスによって、どこまで教えるかばらつきがあるそうです。理科系の場合、日本で言う数Ⅲまでがっちり勉強してきた学生から、数Ⅱ・Bをお義理で勉強したにとどまる学生まで、かなり幅広く分布しているとおっしゃっていました。Mさんは日本の数Ⅰ・Aよりも多少深く勉強しただけなのではないかという見立てでした。

日本には、私が受験生だった頃よりも前から、“文転”という言葉があります。理科系進学を目指していたけれども、数学が伸びずに文科系へと進路変更する例は、今も昔も少なくないようです。学部学科の設定も受験方式も多様化したとはいえ、文科系と理科系の間の壁は、厳然と存在しています。留学生入試では、日本人の入試に比べて、その壁がいくらか厚く高いような気がします。Mさんの国ではどうなのでしょう。

Mさんが目指している分野は、確かに理科系の範疇ですが、がりがりの理科系ではありません。理科系と文科系の境界が壁ではなくグラデーションになっていたら、Mさんはゆとりのある留学ができるに違いありません。日本の大学がそこまで変わるには、まだまだ時間がかかりそうです。

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テスト問題作成

2月8日(水)

来週の火曜日が中間テストですから、そろそろ問題作りに頭を痛めねばなりません。頭を痛めて作ったテストでいい点を取ってくれれば、作ったかいも授業をしてきたかいもあるというものです。しかし、赤点続出となると、気落ちした上にその後処理もしなければならず、骨身にこたえます。

そこで、今回は、読解の問題を学生に作ってもらいました。「はい、作ってください」と声をかけただけでは作れるわけがありませんから、まず、問題作りのポイントを説明しました。

「T先生や私が読解の授業でみなさんにした質問を思い出してください」「指示詞が何を指すかは、よく使う手ですよ」「空欄に言葉を入れる問題は、前後を読めばわかる問題にしてください。知識を聞くクイズじゃありませんよ」「漢字の読み書きは、読解の問題じゃありません」「選択肢は、微妙すぎるのはやめてください」…

こちらの手の内を明かすようなことも入っていますが、このクラスの学生は多くが今学期までですから、まあ、いいでしょう。それに、学生に教えても使いこなせないだろうなという大技は、しまったままです。

問題作りのポイントがわかるということは、読解のポイントが見えてくるということでもあります。これを通して読解力が上がることも期待しています。また、問題を作るためには、テキストをじっくり読まなければなりませんから、内容の理解が深まるはずです。学生たちは声も出さずに真剣に取り組んでいました。優秀作品は、テスト問題に採用します。来週のテストは期待が持てそうです。

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怪行動

2月7日(火)

火曜日は、前半は通常クラスで授業し、後半は選択授業です。そのため、クラスの学生がバラバラになります。すると、怪しい動きを見せる学生が現れます。

Eさんは選択授業での発表が嫌で逃げているようにしか見えません。前半はしっかり授業を受けていたのに、その後帰ってしまいました。担任のT先生には机にぶつけたところが痛むので早退したとかいうメールが届いたそうですが、教室を出るときは、「先生、さようなら」と言いながら元気そうでした。

Jさんは、その点少しだけ良心的です。授業の終わりに、「用事がありますから帰らなければなりません」と言ってきましたから、「選択授業の先生に言ってから帰ってください」と突き放しました。少しでも言い出しにくい状況を作り出そうと抵抗しましたが、どうやらきちんと断って帰ったようです。そもそも、留学生には学校の授業より大事な用事はないはずなのですが、正直に言ってきたことに免じて深くは追及しないことにしました。

先週選択授業を無断欠席したSさんにはきつく𠮟っておきました。しかし、また選択授業だけ休みました。担当のA先生にメールを入れただけましかもしれませんが、腰痛という疑問符をつけたくなる理由でした。

Bさんは、前半の授業にはいませんでした。選択授業も私のクラスなのですが、教室に入るといるじゃありませんか。授業が始まる前に前半を欠席したわけを言ってくるかなと思いましたが、出席を取るために名前を呼ぶと、素知らぬ顔で「はい」と応じました。授業が終わるとそのまま帰ろうとしたので、直ちに捕まえて「Bさん、あんた、朝の授業はどうしたの!」と聞くと、「寝坊しました」の一言。反省の色が薄そうでした。でも、消える学生よりはましかな。

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手間がかかります

2月6日(月)

授業が終わると、まず欠席者への連絡をします。メールを確認すると、朝の時点で連絡がなく欠席したLさんとSさんからメールが入っていました。2人とも欠席の理由は寝坊だそうです。目覚ましが鳴らなかったとか聞こえなかったとか言っていますが、単なる怠け病でしょう。Lさんは今年の進学をあきらめ、Sさんは進学が決まり、両名とも緊張感がどん底の状況です。本当は出席率が危ないのですが、何度注意しても糠に釘です。それでも、返信メールで一言文句を垂れておきます。

Wさんからは何の連絡もありませんから、電話をかけました。しかし、出ないし留守電にもならないしで、連絡が付きませんでした。すぐにメールを送りました。こちらもしばらくは何のイベントもない学生で、中だるみ状態です。すでに24年度入学の戦いは始まっているんですがね。

これら連絡の前に、教室で先月派手に休んだKさんとGさんに説教をしています。Zさんは用事があるからとすり抜けていきました。

こうしたことに、30分ぐらいの時間を費やしました。学生の欠席は、遠慮会釈なく教師の時間を奪っていきます。こうした後ろ向きのことに時間を使いたくはないんですがね。

そうしているうちに、Cさんが進学相談に来ました。先週、数学はできないけれども、情報系の学部に進みたいと言っていました。検索のヒントを与えておいたところ、自分である程度調べて、私の意見を聞きに来たというわけです。Cさんが挙げた大学は有名校ばかりではなく、滑り止めも考えられていて、バランスが取れていました。もういくつかの大学を紹介して、Cさん自身に調べて考えてもらうことにしました。

こちらも30分ぐらいの時間を使いましたが、後味がさわやかでした。

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心の鬼

2月3日(金)

節分の日は、かつては赤坂の日枝神社の豆まきを見に行ったものですが、日枝神社は今年も豆まき中止です。手近なところで午前中に豆まきをしている神社仏閣は少なく、今年は節分の翌日は立春ということで、春を探しに新宿御苑巡りをすることにしていました。しかし、日中も日が照らず、気温も上がらず、受験生に風邪をひかせては取り返しがつきませんから、教室で過ごすことにしました。

私のクラスでは、各人の心の鬼を発表してもらうことにしました。怠け心、傲慢さ、ゲームで派手に課金してしまうことなどといういかにも心の鬼といった回答が多かったです。その中で、Nさんは「自信がありすぎること」と答えました。

授業中のNさんは几帳面にノートを取っており、指名するとやや小さめの声で答えます。とても自信があるような答え方には見えません。でも、本人としては自信過剰なんですよね。確かに、Nさんの志望校はK大学をはじめ、超一流校ばかりです。冷静に見て、今のNさんでは、K大学には手が届かないでしょう。それでも受かると思っているとしたら自信過剰でしょうが、そういう自分自身を自信過剰だと評価しているのなら、謙虚なものではありませんか。一体、どちらなのでしょう。

受験生の心は不安定なものです。ある日自信過剰でも、翌日はそのすべてを失っていることだってあります。教室では表情を変えないNさんですが、私たちのうかがい知らないところで大きな波にもてあそばれているのかもしれません。

こういうことがわかったのも、福の神のお力でしょうか。

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手がかからない作文

2月2日(木)

昨日のクラスの作文を採点しました。このクラスはさすが上級だけあって、初級・中級クラスのように、文字は日本語だけど文は日本語じゃないというような作文はありません。頭をかち割って中をのぞいてみたいというような、超ユニークな発想をする(論理が三段跳びしているような)学生もいません。そういう意味で、楽をさせてもらっています。

でも、逆に、こういう考え方もあるのかと感心させられる作文にも出会えません。昨日の作文も、評価Bがやたら多くて、評価基準を変えようかとも思っています。受験勉強で飼いならされて、無難な文章を書くようになってしまったのでしょうか。だとしたら、悲しすぎます。

確かに、作文を書く前に、テーマについてグループに分かれて話し合わせました。友達の考えに刺激を受けて、弁証法的に議論の質が上がればと思ったのですが、アウフヘーベンには至らなかったようです。逆に、みんながどんぐりレベルで均質化してしまった感があります。

普段の授業での議論が足りないのかなとも思います。議論に乗ってくるのは限られた学生で、Cさんに至っては何を聞いても首を振るばかりです。そういう学生に無理やりしゃべらせるのはよろしくないというムードが社会的に強まってきていますから、こちらも引いてしまうんですよね。

とりあえず、B評価はB評価として、しばらく寝かすことにします。来週の月曜あたりに見たら、別の姿が見えてくるかもしれません。語彙や文法の間違いが少なかったからBは取れているという面もあります。直す手間が少なく、わりと早く採点が終わったという点も、学生たちに感謝しなければなりませんね。

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また休みました

2月1日(水)

Yさんがまた休みました。授業後電話をかけましたが、出ませんでした。おとといの私の授業も休みましたが、その時は電話には出ました。精神的に参っているようでした。

Yさんは有名大学に進学すると言って、去年の4月に入学しました。最初のつまずきは数学でした。文系志望ですが国立を狙うということで数学も勉強し始めましたが、だんだん手が回らなくなり、夏までに撤退しました。数学よりも総合科目に注力し、私立のいいところに入るという手は、多くの先輩がやってきました。

夏を過ぎたあたりから、授業中の内職が激しくなりました。机の上に堂々と総合科目の参考書を出し、教師と衝突することも目立ってきました。焦りが募ってきたのでしょう。でも、このあたりからYさんの日本語力は、読解力に偏りだしました。話す力がある点が、Yさんが同じレベルの学生より勝っている点でしたが、それがだんだんそうでもなくなってきました。内職のおかげ(?)で読む力は伸びているようでしたが、授業中に教師の話を聞かず、教師からも相手にされなくなってきましたから、話す力は伸び悩んでしまったのです。

受験した大学に落ち、精神的に追い詰められていきました。そうすると内にこもってしまって、負のスパイラルに陥ってしまったようです。教師とつながっていたいような、放っておいてもらいたいような、微妙な心境なのだと思います。もはや有名校もへったくれもなく、入れるところに入るという考えになっています。どこか1校でも合格すれば気分が大きく変わるのでしょうが、それができないからこそつらいのですよね。

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