Monthly Archives: 7月 2023

入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。世界中の国々の、このように多くのみなさんが、KCPを留学の場として選んでくださったことをうれしく思います。

今学期、KCPはコトバデーを開催します。この後すぐに紹介しますが、コトバデーとは、簡単に言うと、全ての学生が日本語を「話す」いろいろなタイプの発表に携わるイベントです。

言語には音声言語と文字言語がありますが、人類が最初に得たのは音声言語です。コンピューターのプログラム言語のような人工的な言語は別として、日本語も英語も韓国語も中国語もフランス語もスペイン語も、自然言語は音声言語あっての文字言語なのです。コトバデーは、KCPで学ぶ学生も、教える教師も、言語の原点、「話す」ことに立ち帰る、全校挙げての活動です。

このコトバデー、実は昨年が第1回でした。3年前から全世界を襲ったパンデミックによって、KCPも授業形態を大きく変えることを余儀なくされました。当時の学生も教師も全力を尽くしましたが、一番大きな影響を受けたのが、学生の話す力でした。教師は、オンライン授業で学生の話す力を伸ばすことの難しさを痛感させられました。学生の日本語を話す力を取り戻すにはどうすればよいか、そのための第1歩が、コトバデーでした。

これから始まるコトバデーに向けた活動を通して、みなさんに何よりも味わってもらいたいのは、日本語を話す、日本語で心の内を語る、考えを述べる、コミュニケーションを取ってお互いを知り合う、そういったことの楽しさです。日本語というみなさんにとっての外国語によって、相手に理解してもらえた、相手のことが理解できた、その瞬間の喜びです。その喜びをさらに深めるために勉強を続けていけば、自ずとみなさんの日本留学の目的も達せられることでしょう。

今ここにいらっしゃるみなさんのKCPで日本語を勉強する目的は何ですか。大学の単位を取るため、日本で進学するため、日本で暮らすためなど、各人各様でしょう。もちろん、みなさんそれぞれの目的に向かって進んでいってください。ですが、もう一つ、1人の日本人としては、日本語を学ぶことによって日本や日本人を知るということも、2番目か3番目の目的に付け加えてほしいところです。日本で生活し、日本語で日本人とコミュニケーションを取ることで、日本とはこんな国なんだ、日本人ってこんな考え方をするんだなどということを、実感を持って理解していってもらいたいのです。そして、親日家にはならずとも、知日家にはなってほしいと思っています。

単に日本語を勉強するだけなら、わざわざ日本へ来る必要などありません。日本で、生身の日本人教師から直接日本語を習う意義を再認識し、この留学をより一層有意義なものへと作り上げていってください。みなさんは、非常にラッキーなことに、入学してすぐ、コトバデーという、日本語を掘り下げるチャンスがあります。これも有効に活用してください。そのためなら、私たち教職員一同、喜んでみなさんのお力になります。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

AIと教師

7月4日(火)

文部科学省が、小中高校の作文などの創作活動で生成AIを使用するのは不適切だという指針を発表しました。使いこなすことの重要性にも触れつつ、小中高校では自分の頭で考えることを優先する姿勢を示しています。同時に、情報モラル教育を推し進める必要性も訴えています。

当然ですね。AIに考えてもらって原稿用紙に書くのだけ自分でするなんて、剽窃と言われてもしかたがありません。それが高じると、読みもしないのに「東野圭吾の『放課後』の感想文」などと入力して、感想文だけ“書いて”しまうなどということすらやる子供が現れてくるかもしれません。

しかし、よく考えたら、今までも夏休みの宿題に親が手を入れることがありましたよね。親の代わりにAIが手助けをしたと考えれば、AIに頼るのだけ禁じるのは不公平だと言えないこともありません。宿題には、親も絶対に手出しをしてはいけないということになっていくのでしょうか。

そこまで言うのなら、私たちだって危ないです。今まで何人の学生の志望理由書を書き換えてきたでしょう。志望校と志望学部学科、日本留学に至るまでの学生の生い立ち・心の動き、進学してから、そして卒業してからの構想、そういったことを聞き取って、根本的に書き直したこともありました。それほどではなくても、志望理由書のサンプルを示してこういう書き方をしろという指導は、今年もすでにしています。

こういうのって、AIが作文を書くのと大して変わりませんよね。ということは、この仕事はAIに代替可能だということでしょう。各大学に合わせた志望理由書が書けるレベルまでAIを鍛えるのに時間と労力を要するかもしれませんが、できない話ではなさそうです。

いや、それよりも先に、志願者本人が書いた文章かどうか判定するAIの方が先に開発されるような気もします。狐と狸の化かし合いみたいなことは、したくないものです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

残り半年

7月3日(月)

昨日の「どうする家康」で、瀬名と信康が自害しました。それは史実であり当然の流れなのですが、そこに至るまでの流れ、この2人の描き方が今までのドラマや小説などと大きく違いました。瀬名役が有村架純だと発表された時点から、過去の大河ドラマとは異なる瀬名になるのではないかと思っていましたが、その通りでした。

そもそも、役名が「築山殿」という住まいの名前ではなく「瀬名」という本人の名前になっているあたりから、瀬名個人にスポットを当てたストーリーが期待できました。ドラマ内では、常に自分で考えて行動する人物であり、個性が際立つ存在でした。武田氏に通じていたというのも、受け身ではなく瀬名の側から動いてのこととして描かれていました。もっとも、瀬名というのが築山殿の本名かどうかは、史料的には裏付けられていないそうですが。

この瀬名の描き方に対しは、おそらく批判も出てくるでしょう(もう出ているかもしれません)。でも、私にはこれまでの瀬名があまりに悪人過ぎたと思えます。山岡荘八から「おんな城主 直虎」まで、姉さん女房の悪女ばかりでした。そこから大きく脱し、なおかつ史実とされていることには従い、新たな瀬名を視聴者に示した脚本家・古沢良太の力量には恐れ入るばかりです。

瀬名が自害したのは、1579年。ドラマの始まりは桶狭間の戦いですから、1560年。ドラマ開始から半年で、まだ19年しか進んでいません。家康は1616年没ですから、この後37年生きます。今までの倍近い時間を同じ半年で描けるのでしょうか。少々心配です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ルーチンワークがなくなって

7月1日(土)

昨日の朝まで、KCPの教職員は出勤したらまず体温を測り、それを所定の用紙に記録していました。しかし、今朝からはそれがなくなりました。3年前に測り始めようとした時は、そのさらに数年前のSARSの際に買った体温計を倉庫から発掘してきて使おうとしました。しかし、長年湿っぽいところに放置しておいたのがいけなかったのか、34.2度などという数字を平気で連発してくる代物で使い物にならず、結局新しいのを買いました。

その後、毎朝几帳面に体温計をおでこにあててピッとやって示された体温を記録し続けました。私の場合、冬は35度台後半、夏は36度台前半という日が多かったです。先週は毎日36.2度でした。恒温動物であることを存分に証明した3年間だったとも言えます。そうそう、朝起きた時に体温を測ることにもなっていました。こちらも日々の変動はほとんどなく、実に安定していました。

そういった毎朝の体温測定から、7月1日をもって解放されたというわけです。最初の頃は、それまでめったに体温など測らなかったこともあり、ピッとやるたびに臨戦態勢という感じで気が引き締まりました。でも、去年あたりからは、「36.3、勝負!」なんて心の中でつぶやきながら表示窓をのぞいていました。そういった臨戦態勢もお遊びもなくなったことが、私にとっての解放でしょうか。

とはいえ、全国的に見ると、感染者がまた増えてきました。沖縄は最高記録を更新し、本物の臨戦態勢のようです。「第9波」という声が高まりつつあります。油断はできません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ