朝のご同業

4月26日(月)

最近は私が家を出る時間帯でも東の空が明るくなっています。街灯が消えるほどではありませんが、朝らしさが感じられます。今朝はちょっと冷え込んだようですが、駅までシャカシャカ歩いているうちに寒さは感じなくなりました。私が乗る一番電車は、いつもと変わらぬ顔ぶれが普段と同じ席を占め、何事もないかのような1日の始まりでした。

3度目の緊急事態宣言が発せられましたが、早朝の電車は先週までと変わることがありませんでした。私もごく当たり前に電車に乗っていたのですから、他のみなさんもリモートではどうにもならない仕事を抱えているのでしょう。ネットのニュースなどによると、緊急事態宣言が出た街は、どこも大して人出が減っていないようです。

KCPも去年の4月と今年の年初の緊急事態宣言の際はオンラインにしましたか、今回は、少なくとも今週は、このままいきます。登校しだすと、学生たちの方がオンラインじゃない方がいいという意見が強いのです。それは私たちのオンライン授業が拙いからかもしれませんが、やっぱり言葉の授業はオンラインより対面の方が、実感が伴うのでしょう。

そうは言っても、外出する人を7割減らさないと感染拡大は抑えられないとされています。それに背を向けるようで非常に心苦しいのですが、仕事の性格上やむを得ません。学生たちにしたって、万難を排して日本まで来たのですから、オンラインでは得られない手ごたえをつかみたいことでしょう。

朝の電車で乗り合わせている皆さんも、同様なのでしょうか。

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iPS細胞の次

4月23日(金)

ただいま、中級の読解で使う文章を書いています。中級なら市販の読解の教科書もたくさんあるのですが、あれこれ自由に手を加えるとなると、著作権がこちらにある自作の文章が一番です。自分が書いた原稿だったら、学生の反応を見て手直しもすぐにできます。

文章の中に、それを使うまでに勉強した語彙や文法を練り込むこともできます。もちろん、無理に使おうとして不自然な文章になってしまったら逆効果です、使えるところには積極的に使うという気持ちで書き進めています。また、語彙も、これはぜひ覚えてほしいとか、初級で勉強した単語だけどこういう意味用法もあるんだとか、慣用句やコロケーションとか、そういうことを考えながら選んでいます。

肝心の内容は、理科系の話題でというリクエストがありますから、それに応えています。京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を取って間もないころ、iPS細胞について書きました。論理的な文章を読んで理解できるようになるという目的で、書き進めました。好評なようで、最近はその後のiPS細胞ということで、授業中に講演もしています。大学や大学院に進学したら、文献を読んだり話を聞いたりして理解を深めていくことの連続です。これはその練習です。

今回も、科学技術関係の論理的な文章を書くことになっています。iPS細胞は現在の技術の解説が中心でしたから、今度は技術の発展を時系列で見たお話にしようと思っています。そこに学生が「へー」と思えるような何かを加味して、学生を引き付けるような読解教材に仕上げたいです。

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やりにくい

4月22日(木)

レベル1は、今、「行きます、来ます、帰ります」の、往来動詞とか移動動詞とか呼ばれる一群を扱っています。このうち、「行きます」は「学校へ行きます」「スーパーへ行きます」「沖縄へ行きます」など、いくらでも文も作れますし、オンラインで参加している学生たちも実感を伴う発話ができます。

しかし、オンラインの場合、「来ます」は、「学校へ来ます」「日本へ来ます」など、定番の文が全く役に立ちません。うちで勉強していますから、自分の国にいますから、身近な「来ます」がないのです。仮定の世界を作ってそこで「来ます」を使う練習も考えましたが、学生たちはそれこそやっと移動動詞程度のレベルですから、込み入った設定が理解できないおそれが強いです。

「帰ります」も同様で、国の自分のうちにいますから、「うちへ帰ります」「国へ帰ります」が使えません。zoomの背景をディズニーランドにして…などとも考えましたが、うまくいくかどうか全く自信がありませんでした。学生たちの母語を使ってもいいのならいくらでも手があるでしょうが、KCPは直接法を旨としていますし、何よりクラスは多国籍ですから、授業中に媒介言語は事実上使えません。

日本語の「来ます」「帰ります」の特殊性も関わっています。話者の現在地とか本拠地とかが意味に関わっていますから、オンラインだと商売しづらいのです。逃げと言えば実にその通りなのですが、学生たちが来日し、生の日本語に接した時点で、実地に意味を把握するのが最も確実な方法だと思います。

こういう点からも、早く収まってほしいのですが、「宣言」に向かってまっしぐらですよね。

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3Dを伝える

4月21日(水)

今学期の受験講座理科は、先学期以前に入学した学生は対面、今学期入学で来日できないでいる学生はオンラインと、2方式併用で進めています。先学期は全面オンラインでしたから、ある意味では楽でした。目の前にいる学生と、画面の向こうにいる学生と、差を付けずに教えていくのには、独特の難しさがあります。

まず、アクションで何か説明するときには、zoomの画面内に収まるように動きを抑えなければなりません。画面を見ている学生にもわかる動作が求められます。

「メタンは、炭素原子を中心に、こことこことこことここに水素原子があります」と、左手のこぶしで炭素原子を表し、右手のこぶしで水素原子の位置4か所を次々と示します。私の目の前で見ている学生は、炭素原子と水素原子の立体的な位置関係がこれでわかります。しかし、国でパソコンの中の私を見ている学生はどうなのでしょう。大画面のモニターだったとしても、立体感はどこまで伝わったかなあ。

それから、zoomでパワーポイントを画面共有して話を進めていても、こちらの学生には私の顔つきやらちょっとした体の動きやら、1枚1枚のスライドのプラスされた情報も伝わります。そんなことでオンライン参加の学生に差をつけてしまうことは不本意です。かといって、仏頂面で身じろぎもせずに授業をするのも不可能です。同じ教室に学生がいるのに、私がいすに腰掛けパソコンだけを見つめて授業を進めるというのも不自然です。

今のところ、対面の学生もオンラインの学生も満足そうな顔をしています。細心の注意を払いながら、ためになる授業を作っていきます。

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懐かしい顔

4月20日(火)

午後の授業の準備をしていたら、A先生がいらっしゃいました。A先生は、去年の春先に出された最初の緊急事態宣言直前まで、上級クラスを教えていました。2月末に全面オンライン授業になってから、ずっと休んでいました。お年を召していますから、授業をお願いして無理に外出させてはいけません。そういうわけで、1年余りのご無沙汰でした。

A先生ご自身もあまり家の外には出ず、新宿も本当に久しぶりだとおっしゃっていました。でも、何より、声の張りも1年前とまったく変わらず、お元気そうなご様子でした。感染状況が改善すれば、今すぐにでも教壇に立てそうな雰囲気を放っていました。

東京は711人。先週の火曜日より201人増えたそうです。3度目の緊急事態宣言が現実味を帯びてきつつありますが、オオカミ少年みたいになってきています。まん延防止などという中途半端な規制のおかげで、国民側の緊張感が薄れています。今晩は日中の暖かさが残っていることでしょうから、お酒とおつまみを買って外で盛り上がる人たちが大勢出るんじゃないかと思います。

もはや悠長に聖火リレーなどしている暇ではありません。せっかく走者に選ばれた方々には申し訳ありませんが、オリンピック自体、もう死に体です。選手だって、ワクチン未接種者が大半の国になんか、足を踏み入れたくないんじゃないかな。

A先生は、事態がさらに悪化しないうちにご挨拶したいという義理堅い理由でお越しくださいました。やっぱり、オリンピック中止で、1日も早くA先生に復活していただきたいです。

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捲土重来期待

4月19日(月)

今学期、私が受け持っているクラスは、入国できずに国で勉強している学生たちのオンラインクラスです。ですから、テストもオンラインです。

オンラインのテストは、紙のテストと違って、コンピューターが自動採点してくれます。選択問題の採点は手間がほとんどゼロになりました。しかし、筆答問題はそうはいきません。

初級クラスでは、音と表記を一致させるため、漢字を使わせません。例えば、「何の」と漢字で書いてしまうと、その学生がちゃんと「なんの」と読んでいるかどうかわかりません。「なあの」「なの」などと発音していても、漢字表記だと、それが表面化しません。

紙の試験用紙に手書きだと、学生側も意識しますから、すべてかな書きします。しかし、オンラインだとキーボード入力ですから、そこまで注意が回らないことがよくあります。また、ついうっかり漢字変換してしまったり、コンピューターが気を利かせすぎて自動的に漢字表記になってしまったりなどするため、たとえ注意しても、漢字の答えが多くなってしまいます。

Mさんは、授業中活発に答えるし、反応もいいし、きっと成績もいいだろうと思っていましたが、漢字に引っかかって、大きく沈んでしまいました。XさんやBさんもそのタイプだと思います。提出時刻を見ると、みんな制限時間を大きく余して出しているんですね。「漢字は×」という注意書きも読まず、答案を見返すこともなく提出ボタンをクリックしてしまったのでしょう。

なんだか注意力テストになってしまったようですが、Mさんをはじめ、今回悪かったできうる組の学生たちは、次回のテストではきっと軌道修正してくるでしょう。それ以後が本当の実力が現れるテストでしょう。

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変な人…じゃなかった

4月17日(土)

昨日の夜、見慣れぬ顔の人が学校に入ってきました。花束を手にしてこちらに微笑みかけていますから敵意悪意はなさそうですが、明らかに教職員ではなく、また、学生ではない年恰好でした。H先生が名前を聞くと、「Bです」と言います。さらに聞くと、ちょうど現校舎ができた時に卒業したとのことでした。確かに、以前、Bという学生がいました。

Bさんは今年大学院を修了して就職したそうです。その配属先がKCPの近くなので、会社の仕事が終わってから来てくれたというわけです。Bさんの就職先は一般人には有名じゃありませんが、その業界では知らない人がない会社です。「いいところに入ったじゃん」と、思わず肩をたたいてしまいました。

在学中のBさんは、こんなことを言っては失礼ですが、どこかあか抜けない感じの、線が細く印象の薄い学生でした。でも、今、目の前にいるBさんは、落ち着いた雰囲気を醸し出す優秀な若手会社員です。進学したS大学でがっちり鍛えられたのでしょう。私の心の中で、S大学の株がまた上がりました。

日本で就職するという夢を抱いてKCPに入学する学生もたくさんいます。もちろん、有名会社、大企業にと思っている学生が大半です。しかし、夢破れる学生も大半です。そういう厳しい競争を勝ち抜いて、立派な会社に就職したBさんには、ぜひ、その経験を後輩に語ってもらいたいです。私たちがあれこれアドバイスや注意をするより、実際に成功を手にした先輩からの言葉の方が100倍も効き目があることでしょう。

Bさんはまだ研修中でわからないことばかりだと言っていました。今度来るときには、有能なビジネスマンになっているでしょうか。

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勝負時

4月16日(金)

金曜日は、先学期から受験講座を受けている学生の化学と物理です。先学期の受験講座理科はずっとオンライン授業でしたから、やっと初めて顔を合わせることができました。オンラインでは、お互いにマスクを取って素顔を見せ合っていましたが、同じ教室で空間を共用するとなると、人数が少なくてもマスク着用は必須です。

オンラインだと、1人1人の顔の映像は小さくても顔全体が見えました。しかし、対面となると顔の大半がマスクで覆われています。学生がわかったかどうかつかみにくいのではと危惧していましたが、よくわかりました。全身が見えますから、体全体から発せられる動揺やら納得やらが伝わってきました。

また、目は心の窓という通り、マスクの外に出ている目だけで学生の気持ちがかなりつかめました。その目を見ながら学生の興味の方向を捕らえて説明を補ったり飛ばしたりしましたから、先学期よりメリハリのある授業ができたんじゃないかと思います。もっとも、先学期より脱線が多くなりましたから、進度の方はわかりませんが…。

オンラインよりも学生への問いかけが増えました。しかし、私からの問いに答える学生の日本語がいただけません。理科系は、入試に口頭試問を設けている大学も多いですが、それにたえられるだけの日本語にするには、先が長い旅になりそうです。学生から質問も活発に出てきました。濃厚なやり取りができました。

せっかく順調な船出ができたのに、第4波の波音が近づいています。オンラインになるとしても、対面授業のうちに学生との間に強固な絆を築いておきたいです。来週、再来週ぐらいが勝負でしょうが。

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峠越え

4月15日(木)

先週から始まった日本語教師養成講座の初級文法の授業が、ようやく最終日を迎えました。動詞とか助詞とか日本語文法の基礎となる部分をお話してきました。最終日は、今まで話してきた文法事項が、みんなの日本語の中にどのように反映されているかを見ました。

1課から50課まで、どんな文法項目がどんな順番に並んでいるか、どの課が私の授業のどこに相当するか、そういうのも中心に概観していきました。こういうまとめ方をするには初めてでしたから、私自身も昨日みんなに日本語を読み直し、その組み立てを改めて確認しました。

やっぱり、14課以降、動詞の活用形が次々と現れるところが胸突き八丁だと感じさせられました。また、「て形+補助動詞」が踵を接して登場するあたりも、学習者にとっては辛いだろうなと思いました。教える側はゴリゴリ押し込むだけですからあまり感じませんが、次から次へと微妙に違う文法を覚えて使い分けなければならないとなると、混乱もするでしょうし心が折れそうにもなるでしょう。

そういう切所を乗り越えて50課までマスターすると、ミラーさんじゃありませんが、日本で普通に生活していけそうです。常々、入試の面接の文法はみんなの日本語のレベルで十分だと言ってきましたが、その思いを強くしました。もちろん、語彙は補わなければなりません。

学生たちがうまくしゃべれないというのは、結局、みんなの日本語の山場をきちんと越えていないからです。学生も教師も妥協し、山にトンネルを掘ってしまうのです。そんなことを反省しつつ、偉そうな顔をして解説していました。

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年間計画

4月14日(水)

受験講座の教室に向かおうと職員室を出たところで、Cさんに呼び止められました。Cさんは理系の大学進学を目指し、先学期から受験講座を受けています。「私は6月のEJUの結果を使ってW大学を受けて、11月の結果で国立大学を受けるつもりです。共通テストも受けて、一般入試でも国立大学を受験しようと思っています」と、決意のほどを語ってくれました。

最近、留学生が一般入試を受けて日本の大学に進学する例が増えていると聞いていました。3月に卒業したJさんもそうでした。ただ、Jさんは共通テスト不要の方式を選んだようでしたから、切羽詰まったあげくの選択だったかもしれません。それに対し、Cさんは今から共通テストと言っていますから、Jさんよりずっと計画的です。国にいた時から共通テスト経由の進学を知り、それを目指して動いてきたのかもしれません。外国語を中国語にすればいい点が取れるとまで言っていました。

このように書くと、Cさんは受験の計画をすらすらと話したかのように見えるかもしれませんが、残念ながら日本語教師にしか理解できない日本語でした。発音はまだしも、語彙や文法はお寒い限りでした。面接官にCさんの思いが伝わるとは思えません。EJUで点数を稼いだところで、面接で落とされる可能性大です。そういうことも踏まえて、面接のない一般入試の道を探っているのではないかとも思いました。

もう一つ、実は、Cさんは「共通テスト」ではなく、「センター試験」と言っていました。センター試験から共通テストに変わって、試験の傾向がEJUから遠ざかりました。また、国語もCさんには大問題でしょう。それを今から9か月ぐらいの間になんとかできるのでしょうか。

今学期は、火水は新たに受験講座を受け始めが学生対象の授業です。この中にも共通テストを受ける学生がいるのだろうかと、初めて会う顔をしげしげと見てしまいました。

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