推薦一丁

2月5日(水)

「先生、B大学に推薦してください」「えっ、Oさん、Y大学に出したよねえ」「はい。10日が発表ですが、たぶんダメですから…」「でも、受かったらY大学に行くんだよねえ」「はい…」「それじゃあ推薦できないな」「でも、B大学の締め切りが13日必着なんです」「だけど、推薦というのは受かったら必ずその大学に行くということだから、ほかの大学に行く可能性が残っている時点ではできないな」「じゃあ、10日にダメだってわかったらすぐ申し込みますから、推薦してください」「私1人で推薦する人を決めるんじゃないんだ。ほかの先生といっしょに面接して、その先生もいいとおっしゃったら推薦することになる。それに、推薦してもらいたい学生は、申込用紙に志望理由を書くことになっているんだけど、それはすぐかける?」「ええっ、そんなに面倒くさいんですか」「当り前じゃないか。4年間その大学で真剣に勉強していける人を見極めるんだから、それぐらいのことはしますよ」

Oさんは浮足立っています。お決まりのように高いところを狙い続けて滑り続けているうちに、あとひと月ほどで卒業式となり、不安が高まっているのです。秋口にB大学を進めあときには見向きもしなかったのに、今はわらをもつかむ心境なのでしょう。でも、Oさんのような考えなら、ちょっと推薦するわけにはいきません。

Oさん同様、後がなくなりつつある時期に来て、焦りが頂点に達している学生が何名かいます。「塾で勉強していますから大丈夫です」と豪語していた学生が尾羽打ち枯らした姿で相談に来たり、2月になってやっと自己流の面接の受け方が通用しないと気が付いた学生が基礎からやり直し始めたりなど、これから一体どうなるのでしょうか。どうにかするのが私たちの仕事ですが…。

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いい教師とは

2月4日(火)

最近元気がなかったCさん、第一・第二志望校のA大学とU大学に落ちていたことがわかりました。これから受けられるところをねらうと言っていますが、どこも2期・3期の募集ですから、Cさんがいかに優秀でもかなり厳しい戦いになりそうです。

Cさんが挙げた学校は、Cさんの実力をもってすれば、どこも年内試験の1期なら楽勝で合格できそうなところばかりです。しかし、これから募集で一部3月試験の学校となると、かなりの競争率になることは火を見るより明らかで、必然的に合格ラインも大幅に上がります。去年の夏ごろに、ある大学の先生が「B日程では、今まで私共など振り向いてももらえなかった優秀な方たちに入学していただきました」とおっしゃっていたのを思い出しました。Cさんがその“優秀な方たち”に加えてもらえるかどうかは、なんともわかりません。

CさんがA大学とU大学にこだわったのは、東京の大学だからだそうです。でも、勉強する場所が東京でなければならない理由は、特にありません。漠然と東京にあこがれていただけと言っていいです。A大学もC大学も受けてよかったのですが、同時に他の大学の1期とかA日程とかも受けておくべきだったのです。最悪の場合の行き先を確保した上で、難関校に挑戦してもらいたかったです。

私たちもCさんに何の指導もしてこなかったわけではありません。でも、監禁拘束してまで書類を書かせ、受験料を払わせ、出願させることは、もちろんできません。Cさんは、この期に及んで、自分は甘かったと反省しています。同じような言葉を、年末にKさんからも聞きました。他にもこのような反省していると思しき学生が数名います。こうなると、監禁拘束も冗談とばかり言っていられなくなります。

おそらく、来年度はさらにもっと状況が厳しくなるでしょう。学生の主体性を尊重する、物わかりのいい教師でいてはいけないようです。

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鬼は外はしないけど

2月3日(月)

節分ということで、いつもなら豆まきを見学にどこかの神社まで出るのですが、今年は好んで人ごみに出ていくのもいかがなものかということで、教室で節分特別メニューをすることにしました。私が受け持っている超級の学生なら、本当に節分の豆まきを味わいたかったら、自分で調べて自分で行けますから。

節分の意味や鬼や豆まきのいわれを一通り勉強した後、明日は暦の上では春ですから、何に春の訪れを感じるかについて話してもらいました。暖冬とはいえ春は名のみであり、そういう雰囲気ではないでしょうが、季節の変化をどんなことで感じ取るのか聞いてみました。

いちばん多い答えは、花粉症関連でした。花粉症の人がマスクをしたりゴーグルをかけたりするというものです。花粉症グッズがドラッグストアに現れるという答えもありました。確かに、花粉症は早春の風物詩になってしまったといっていいでしょう。だけど、なんだか味気ないですね。

その次が花関係でした。サクラ、レンギョウなどとともに、柳絮を挙げた学生がいました。柳絮は中国の春を彩る美しい景色です。国の春を思い出しながら答えたのでしょう。ウメ、モモが出ないあたりが、日本人の感覚と違うなと思いました。菜の花は出てもいいかと思っていましたが、そういう声はありませんでした。

私は、空の色です。春霞の空といいましょうか、秋から冬にかけての刃のような青空が、水蒸気を多分に含んだ柔らかい色に変わるのが、春の第一歩だと思います。同時に、東京では観察するのが難しいですが、地面がわずかずつ青くなり始めます。土の中から草の新芽がわずかに顔を出しているのでしょう。

お昼を食べに出たら、とても暖かでした。コンビニでパンを買って公園で食べようかと思ったほどでした。最高気温15.2度、南寄りの風の穏やかな1日でした。

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説明力

1月31日(金)

今学期の受験講座生物は、EJUを離れて記述問題やグラフなど図で示す問題に挑戦しています。文章や口頭で説明する力をつけてもらうことを目的としています。2021年4月入学を目指す中級の学生にとっては、現時点では荷が重い問題ですが、今から鍛えていけば各大学の独自試験や口頭試問の際に効果を発揮するはずです。また、選択肢がありませんから、正確に覚えておかないと正解にはつながりません。知識をあやふやな形ではなく、きちんと身に付けることも狙っています。

今のところ、学生たちは頭の中の知識を日本語化するところで壁に当たっています。国の言葉で知っている専門用語を日本語でどういうかわからないといった段階です。例えば、「光合成」という概念を国の言葉では持っていますが、その概念と日本語の「光合成」が結び付かないのです。

図示問題では、図やグラフが描けても、なぜそういう図やグラフになるかについては、頭が空回りしてしまいます。専門用語を知っていれば一言で表現できる事柄を、三角形の二辺どころか四角形の三辺を回ってくるような説明をしています。考えをうまく言葉にできないもどかしさを十二分に味わっていることと思います。

「〇字以内で答えよ」系の問題は、日本語レベルが中級ということもあり、まだまだ上手にまとめることはできません。答えの解説が、文法の授業になってしまうこともあります。これから先、上級へと進級していくにつれて、だんだん書けるようになっていくだろうと期待できます。

学生たちは歯を食いしばってついてきています。学生たちの希望に沿えるように伸ばしていきたいです。

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新店舗開店か

1月30日(木)

全国的にはわずかではありますが減ったのに、学校の近くにまたコンビニができるようです。店員募集の張り紙がありました。新宿1丁目って、そんなに魅力ある地域なんでしょうか。大きな事務所や工場があるわけでもなく、新しい集客施設ができたわけでもなく、東京医大も富久クロスも新宿御苑も大きい通りの向こう側ですからねえ。コンビニが増えてもゼロサムゲームだと思います。

それから、店員やアルバイトが集まるのでしょうか。最近の日本語学校の学生は、KCPに限らず、あまりアルバイトをしません。付近にこれだけお店(=アルバイト先)が多いと、店の近辺で普通に募集しただけでは効果がないんじゃないでしょうか。安倍さんじゃないけど、広く募らなきゃ。

今週は、ある財団に奨学金受給者として推薦する学生を決める面接をしました。面接をした学生は1人を除いてアルバイトをしていませんでした。住んでいるところの家賃も10万円近いのが普通で、かつてのように勉強とアルバイトの両立に頭を悩ませることもありません。奨学金は、生活費を支えるというより、名誉のためにもらうためになりつつあります。

最近、バスや電車が、運転士がいなくて減便されるという話をよく聞きます。電車はゆりかもめみたいに無人運転の方向に進んでいくのでしょうか。丸ノ内線がワンマン運転を始めた時はびっくりしましたが、そうしていなかったら、今頃朝のラッシュ時の運転本数が減って遅延が慢性化して、KCPの学生の遅刻が激増していたとも考えられます。また、コンビニも、中国でやっているような無人店舗が広まっていくこともあり得るでしょう。そうなれば、新しいコンビニも生まれやすくなるかもしれません。

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まずいぞ

1月29日(水)

私が受け持っている超級クラスでは、初級から今までに習った文法の復習をしています。助詞に始まって、授受表現、意向形はじめ意志の表現などを扱ってきました。一度は勉強したことがある事柄ばかりなのですが、学生たちは間違いまくっています。この表現はなぜダメなのか、こういう言い方もあるのではないかなどなど、議論百出で意外な方向で授業が盛り上がっています。

私のクラスの学生たちはほぼ全員が3月で卒業です。進学したら日本人の学生に囲まれて、日本語で行われる講義を聞き、日本語でレポートを書き、議論をし、コミュニケーションも日本語で取ります。その際に、日本語の未熟さゆえに相手に誤解を与えたり、相手の真意がつかめなかったりしたら、日本語学校として責任を果たしたことになりません。それゆえ、卒業直前のわずか2か月ほどですが、基礎をもう一度振り返り、そんな失敗を撲滅することは無理でも、1つでも減らせたらと思ってこういう授業を企画しました。

前日に教材を配ると、学生たちはきちんと予習してきます。中には学校へ来てから教室で大急ぎで答えを書きこんでいる学生もいますが、それでも授業を受ける準備はきちんとしておこうとしているわけです。学生たちにも、授業を受けているうちに、危機感が湧いてきているのではないかという気がします。

現時点において、進学が決まったからと言ってちゃらんぽらんしているのはKさんぐらいでしょう。Kさんは消化試合のつもりで、出席率確保のためだけに登校してきているようですが、Kさんの文章や話し方では、進学してからが心配です。諸先生方が厳しく訓練してくださったおかげで入試の面接試験は通りましたが、本番はこれからだということを忘れているように見えてなりません。

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光っていますか

1月28日(火)

今週末に面接試験を控えたSさんとTさんが面接練習に来ました。いや、面接練習というよりは面接相談でしたね。2人とも去年のうちに何校か受けていますから、面接試験の経験がないわけではありません。しかし、自己流で受けて痛い目に遭ったり言いたいことが言えずにもどかしい思いをしたりしてきました。

SさんもTさんも、セールスポイント、アピールポイントは持っています。しかし、それは私が根掘り葉掘り聞かないと姿を現しません。逆に言うと、面接官が志望動機や将来の計画など型通りに聞くだけだったら、何の変哲もない、特徴が見えない、だから面接官の記憶に残らない面接になってしまいます。そうなったら、疑いなく落ちるでしょう。

面接は、10分か15分の面接官とのやり取りの間に、いかに自分を売り込むか、面接官の心に訴えかけるかが勝負です。そういうことを繰り返し繰り返し言ってきたつもりですが、直前の面接練習でもそれができていないというのが実情です。私たちの方も、面接の受け答えのしかたを、学生の心に響くように伝えられなかったのです。

何年か前は、授業時間の中で、入試の模擬面接をし、印象に残る面接というのがいかに難しいか実体験させたものです。しかし、最近は、そういう形で血まみれになるのを嫌う学生が増え、SさんやTさんのように、この期に及んで迷える子羊状態の学生が増えました。

東京およびその近郊の大学の留学生入試が厳しさを増している中、合格を勝ち取るには要領のよさも必要です。純朴なだけでは自分の望む道には進めません。磨けば光る素材を拾い上げるゆとりが、大学側から失われつつあるような気がします。ですから、自分で磨くか先生に磨いてもらうかして、きらりと光る部分を面接官に見せつけなければなりません。SさんとTさんは、そこが足りないのです。

明日は、私は1日中忙しいので、明後日最終チェックをすることにしました。

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マスクだらけ

1月27日(月)

今朝の電車――私が乗るのは1番電車ですからそんなに込んでいるわけではありませんが――で、私が座ったシートの人たちは、全員マスクをしていました。マスクをするとメガネが曇るので、私は可能な限りマスクをしませんが、世の中はそんな甘っちょろいことを言ってはいられなくなりつつあるようです。

昨日、うちの周りを歩いていたら、ドラッグストアをはじめ、どこへ行ってもマスクは10枚までとか最大5箱とか数量制限がついていました。それでも買い物かごいっぱいにマスクを積み上げてレジに向かう人が大勢いました。

先週のこの稿で武漢の肺炎が下火になることを祈っているなどと書きましたが、状況は日々刻々悪化しており、患者も死者も積み上がってきています。それゆえの全員マスクであり、マスクの販売制限です。流行っているのは日本ではなく、海を隔てた中国ですが、昨年は1千万、すなわち日本の人口の8%に近い人が中国から来ているのですから、油断は禁物です。

問題となっているコロナウィルスは、普通の風邪のばい菌です。肺炎だとか死ぬとかと言う物騒な話とは無縁のはずです。でも、おそらくどこかで(人類にとって)悪い方向の変異を受け、こうなってしまったのでしょう。さらに、人から人への感染力も強くなったとかで、もはや単なる風邪の病原菌などと軽く見るわけにはいきません。

現時点では感染が疑われる学生は出ていませんが、先週末の春節で大騒ぎした影響がいつ現れるかわかったもんではありません。今晩から明朝にかけて雪かもしれないという予報が出ていますが、そんなことよりこっちの方に気をもまなければなりません。早く春が来ないかなあ…。

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伝わっていますか

1月25日(土)

電車の車内アナウンスに、録音の音声による英語アナウンスが加わったのは、もうだいぶ昔のことと思います。ところが、最近、特に去年あたりから、車掌さんの肉声による英語アナウンスをよく耳にするようになりました。私が通勤に使っている東京メトロは、その日の車掌さんによってしたりしなかったりというのが現状です。

しかし、この肉声英語アナウンス、果たして通じているんだろうかと思うことがよくあります。年末に行った名古屋では、“アライビングアットカナヤマ。ドアーズオブライトサイドウイルオープン”とカタカナで書きたくなるようなアナウンスでした。“あらいびんぐあっと…”と、ひらがなの方がぴったりしそうな車掌さんもいました。東京のも似たり寄ったりです。

若い車掌さんなら、大学でかなりがっちり英語を鍛えられているはずですから、“Arriving at …”とやってほしいところですが、そういうアナウンスはなかなか聞けません。私が気持ちよく聞き取れるということは、その発音はネイティブのものからほど遠く、いかにも日本的発音だということです。悪い意味の横並び意識が現れ、わざと下手にしゃべっているのでしょうか。

私のクラスのアメリカから来ている留学生・Aさんに、自動音声アナウンスと肉声アナウンスとどちらがよくわかるか聞いてみたいと思っているのですが、授業の後はいつも忙しくて、そのチャンスがありません。非難の声が強かったらとっくの昔にやめているはずですから、それなりに支持されているのかな。日本人は手作り感に弱いですが、英語を頼りに来日している外国人の皆さんはどうなのでしょうか。

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気になるニュース

1月24日(金)

今学期は、毎週金曜日に学生の気になるニュースについてまとめて発表してもらうことにしています。先週の学生は自分の趣味に関するアニメの話題を10分ぐらい熱く語ってくれました。今週は、4人のうち2人が武漢の新型肺炎を取り上げました。2人とも、武漢ではありませんが中国の学生でしたから、やはり心配なのでしょう。

中国が震源地となり、世界中に広がりつつあるという恐ろしい話も出てきました。確かに日本でも患者が出ていますからねえ。じっとしていても、ウィルスの方からじわじわと近寄ってきそうなイメージがあります。患者のくしゃみのしぶきで感染するそうですから、油断はできません。

幸いにも、今のところ、KCPにはこの前の年末年始の休みに武漢に帰省したり遊びに行ったりした学生はいないようです。でも、ウィルスに感染していたけれども潜伏期間中だったため元気そうに見えた友人と会っていたなどというパターンもあるかもしれません。そうだとしても、週明けぐらいまでに発症しなければ、最長の潜伏期間を仮定しても、無事だったと言えそうです。

この学校には世界中から学生が集まってきますから、世界中のいろんな影響も凝縮されます。時には今回のような伝染病であり、経済状況の激変の場合もあり、自然災害に気をもむこともあります。そういうニュースを知っていると、心配そうな顔をしている学生が特に目についてきます。私たちが力になれることってたかが知れていますが、それでも何かしてあげたいと思うものです。

私が目にした記事によると、武漢のウィルスは感染力がそれほど強くないとのことでしたから、中国政府の武漢封鎖作戦が成功して、どうにか下火になることを願っています。

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