-1.6度にめげず

1月12日(金)

今朝の東京の最低気温はー1.6度で、7:32に記録されています。もちろん今季最低で、“1月下旬並み”とかという言い方はできず、“最も寒い時期を下回る”という寒さの表し方になっていました。ちょうどその頃、駐輪場のシャッターを開けに外に出ましたが、ズボンの裾から入り込んでくる寒気に身を震わせました。風が弱く、底冷えという言葉がぴったりの寒さでした。

その底冷えの新宿を抜けて登校し、ロビーに入ってきた学生たちは、みんな人心地付いたように、氷点下の寒さに突っ張った顔の筋肉を緩めていました。つりあがった眉が下がるんですよね、こういうときは。

その緩んだ顔で、久しぶりに会う友達とおしゃべりしたり、新しいクラスで初めて見るクラスメートに恐る恐る声をかけたりしている学生が、校内のそこここにいました。他の学期の始業日よりも、心を暖めあっているようにも見受けられました。

今年はこれから本命校の受験を迎える学生が多いためか、授業後に進路相談に来る学生や、来週の面接練習の予約を入れる学生が続々とやってきました。来週火曜日からは受験講座も始まりますから、席を暖める暇もない日々が押し寄せてきます。

午後は、早速、指定校推薦入学の希望者の面接をしました。「どうしてA大学に入りたいんですか」「実際に見学に行ったら、A大学はとてもきれいでしたから、A大学で勉強したくなりました」と言われたときにはどうなることかと思いました。でも、大学で学んだことを将来どう生かすかということについては、きっとあれこれ考えて準備してきたのでしょうが、“素晴らしい”の一言に尽きる答えでした。その答えに免じて推薦することにしました。

夕方は、図書室でEJUの勉強をしていたCさんの悩みを聞き、これから出願するYさんの書類チェックをし、興に乗って数学談義に及びました。始業日からフル回転しました。

芽を摘む奴等

1月11日(木)

M先生の話によると、留学生の受験生を狙った振り込め詐欺が発生しているそうです。手口は以下のようなものです。

留学生にも日本人学生にも人気のあるX大学を受験したAさんのところに、こんな電話がかかってきました。「X大学のY学部Z学科に出願したAさんですね。おめでとうございます。合格が決まりましたから、すぐに学費を振り込んで、入学手続きをしてください」。

確かに、AさんはX大学Y学部Z学科を受験しました。でも、X大学の合格発表は来週です。変だとは思いましたが、国では奨学金受給者などは事前に合格が知らされることもあるので、もしかするとそういう例かもしれないとも考えました。しかし、インターネットで調べてみると詐欺集団の仕業だということがわかり、お金を振り込むのはやめにしました。

Aさんは、この詐欺集団が、自分がX大学Y学部Z学科を受験したという情報をどのような経路で手に入れたかわからないと、非常に不気味がっていました。また、問い合わせ先として教えられた電話番号は、X大学の正規の電話番号に非常に類似したものでしたから、実際にだまされた受験生がいたとしても不思議はないとも言っていたそうです。

最近の留学生はお金持ちになったとはいえ、数十万円にも及ぶ入学金や授業料をだまし取られたとしたら、そのショックはいかばかりでしょう。1人の若者の人生を真っ黒に塗りつぶす行為です。留学生の大志をくじいて自分の懐を肥やしても、全く心に痛痒を感じないのでしょうね、こういうことをする人たちは。

それにしても、Aさんの受験情報は、どういう流路を伝わって魔の手に渡ってしまったのでしょう。KCP側から漏れる要素は思い当たらないし、天下のX大学が流出源になるとも考えにくいです。それゆえ、再発防止策が立てられず、受験生本人の注意力に頼らなければならないというところがもどかしい限りです。

明日から新学期です。こういうつまらぬ挫折をさせないようにも力を注いでいきます。

入学式挨拶

入学式挨拶(2018年1月10日)

皆さん、本日はご入学おめでとうございます。このように多くの学生が世界の各地からKCPに集まってきてくださったことを大変うれしく思います。

さて、一昨年ごろからAIの実力が目に見える形でわれわれの前で発揮されるようになり、人間の仕事をどんどん奪っていくのではないかと危惧する声が強まってきています。昨年あたりは、AIに取って代わられる仕事は単純労働よりも頭脳労働だということが声高に叫ばれるようになりました。皆さんが幸せな未来を切り開いていくには、人間のライバルのほかに、AIにも競り勝っていくことが求められているのです。

AIに勝つには、勝たなくてもいいですから、せめて、共存していくためには、どうしたらいいでしょうか。ただ単に知識を増やすだけではAIにかなうはずがありません。知識の蓄積こそ、AIの最も得意とするところなのですから。皆さんにとっての外国語である日本語ができるだけでも、AIによる翻訳通訳技術は日進月歩ですから、皆さんに安寧をもたらすことにはなりません。

現在のところ、この答えを知る人は、世界中に誰もいないでしょう。七十数億の全世界の人々が、この答えを求めて右往左往しているのが今日であり、これからしばらくの世界のありようです。そういう中で、皆さんは日本へ留学に来ました。皆さん自身の中で留学の意義が明確でないと、この留学自体が皆さんの人生において無意味なものになり、青春の無駄遣いになってしまいかねません。

皆さんが持っている時間は、私などに比べればはるかに長いです。今まではそれをうらやましく思うだけですんでいましたが、AIという強力な競争相手と戦い続けなければならないとなると、同情を禁じえない面もあります。もちろん、同情しているだけでは私たちは役目を果たしたとは言えません。少しでも皆さんの未来を切り開く力になろうと思っています。これこそが、私たちの責務だとも思っています。

新年早々非常に厳しい話になってしまいましたが、AIを使いこなし次世代を築いていけるのは、皆さんのような優秀な若者だけです。その力を養い、どの方向に進めば明るい未来が見えてくるのかを、このKCPで探してください。そのためなら、私たち教職員一同、喜んで力をお貸しします。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

遠回り

1月9日(火)

JさんがK大学の志望理由書を持って来ました。週末・連休に必死に書いたことはわかりますが、この内容は、夏ごろに初めて書いた志望理由書のレベルです。突っ込みどころ満載の中身が薄い志望理由でした。明日が出願締め切りですから、Jさんに内容を考えさせているゆとりはありません。ですから、こちらからかなり入れ知恵をして、なんとか体裁を整えました。

Jさんは、私が言ったことは理解できたようですが、それを自分のものにできたかどうかは疑問が残ります。私のアドバイスで志望理由が急に厚みが増すとは思えません。これからガンガン鍛えて、私が何を言わんとしていたのかはっきりつかませていかないといけません。

私はJさんが入学した学期に初級で受け持ちました。Jさんは、自分自身では中級に入るつもりだったようで、初級というKCPのレベル判定には不満を持っていました。ですから、KCPよりも塾での勉強を中心に、今まで過ごしてきました。でも、もう後がない時期に及んでも、KCPの進学指導なら数か月前に済んでいる「低度」の志望理由書しか書けていないのです。

塾で伸びる学生もいますから、塾での勉強を一概に否定するつもりは毛頭ありません。でも、Jさんについて言えば、Jさんは塾を上手に使いこなしてきませんでした。塾とKCPとのバランスが取れていなかったために、こんな現状に甘んじなければならないのです。

JさんのEJUの成績と志望校を比べると、どこかに合格できるはずです。入学以来ずっと私の手元にいてくれたら、自信を持ってそう言えますが、なにせ1年以上のブランクがあります。これから卒業までの間に、そのブランクを取り戻さなければなりません。

無計画

1月6日(土)

新入生のプレースメントテストの採点をしていると、Zさんが来ました。「この大学、10日が出願締め切りなんです。今、申し込めば月曜日に出席証明書がもらえますか」「書類の申し込みは時間に余裕を持ってって、何回も注意したよねえ。聞いてなかったんですか。あ、そうか。Zさんは欠席が多かったから、休んでてこの話、聞いてなかったんだ」「すみません。でも、どうしても必要なんです」…と、皮肉も交えて油を絞ってから、結局、書類を作ることにしました。

しばらく経って、昼ごはんを食べに行こうとしていると、今度はLさんが来ました。「この大学、9日が出願締め切りなんです。今からすぐ書類を作っていただけませんか」「大学に提出する書類はKCPの正式書類ですから、わたしがちょこちょこっと書いて、はい、できあがりってわけにはいかないんです。事務的な手続きが必要ですから、今すぐというのは無理です。しかも、もう新入生が来ていますから、事務の先生たちはとっても忙しいんです。あなた一人の都合に合わせることはできません。そもそも、どうして提出書類の申し込みが出願締め切りの直前なんですか。募集要項を見れば何が必要かわかるでしょ」「前に出願した大学はKCPの書類が要らなかったから…」「大学によって必要書類が違うって話、したよねえ」…。Zさんよりさらにねちこちと説教を垂れてから、私も事務のKさんに頭を下げて、何とか作ってもらうことに。

私以外の先生も、連休明け早々が締め切りの大学に出す書類を申し込まれて怒りを爆発させていました。どうして学生たちはこうも計画性がないんでしょうかねえ。最終的には書類を作ってくれると、甘く見られているんでしょうかね。社会の厳しさを教えるのも日本語学校の役目だとしたら、ZさんやLさんの書類は受け付けるべきではなかったのかもしれません。

新学期が始まったら、しばらくはこういう日々の連続です。連休が、嵐の前の静けさです。

1月5日(金)

初授業をしました。養成講座が、今年最初の授業でした。正月休みは、完全に打ち破られました。日本語学校の始業日は来週の金曜日ですから、他の先生方より1週間早い“教え初め”です。今年は誰を相手にどんな授業をどれくらいすることになるでしょうか。

夕方はDさんに数学を教えました。Dさんは技術系の専門学校への進学を考えていますが、数学が弱いことが現在のところの最大の問題点となっています。いや、数学というよりは計算問題が苦手なのです。勉強したい技術は明確ですが、その技術を教えてくれる専門学校に入るためには数学(算数?)のテストがあります。でも、今のDさんを見ていると、Dさんには数字に対する感覚が欠けているように思えてなりません。

昔気質の職人に弟子入りするなら数学のテストなど不要です。非常に厳しい修行が待ち受けているでしょうが、その技術を身に付けたい一心のDさんには耐えられるかもしれません。しかし、弟子入りではビザは出ません。それゆえ専門学校に進まざるをえないのですが、そこにはDさんにとっては鬼より怖い数学のテストという、関門があるのです。Dさんはそれを乗り越えるべく昨年末から果敢に挑戦を続けています。その成果が少しずつ現れつつあるとはいえ、数的感覚のなさは覆うべくもなく、心安らかならぬ日々がしばらく続きそうです。

職員室では新学期の準備が着々と進められています。養成の授業とDさんの数学以外の時間は、私が担当する超級クラスの教材作りに励みました。超級の学生たちには、市販の教材では歯ごたえがありません。“まだまだ勉強すべきことがあるんだぞ”ということを示すには、独自の教材を作り上げるしかないのです。

そうそう、受験講座の準備もしなければね。

雪国

1月4日(木)

年末年始は例年通り名古屋に。「先生は毎年名古屋へ行きますが、名古屋ってそんなに面白いですか」と、ある先生から聞かれました。名古屋は毎年行っていますが、年末年始ですから博物館や公共施設などは多くがお休みで、行っているわりには有名なところを見ていないのです。徳川美術館も東山動物園も行っていません。名古屋城に登城したのは日本語教師になる前のことです。

行き場が限られていますが、今回はミッドランドスクエアの一番上まで上ってきました。私が行った大晦日は、朝は雨で、午後は上がりましたが遠見は利きませんでした。でも、名古屋市内とそのもう一回り外側までは何とか見渡せました。そして、次回の割引券をいただきました。

その前に熱田神宮へ行きました。数年前にも一度お参りしたことがありますが、昨年から日本全国の「神宮」を訪ねようと思い立ちましたので、改めて詣でた次第です。私は初詣はせずに、12月30日か31日にその年が無事過ごせたことへの御礼のお参りをしています。そういう名目で祭神である熱田大神に手を合わせました。

その熱田神宮の1900年の歴史を述べ連ねたパネルが参道にあったので熟読していくと、何と、私でもわかる誤記があるではありませんか。“1909年(明治39年)”とありましたが、1900年が明治33年なので、明らかな間違い。これを社務所に知らせたら、いたく感謝されました。

元日は、名古屋から金沢を回って帰京しました。太平洋側と日本海側の天候の違いを1日に2度も体験できるのは、気象マニアとしてはたまらない魅力です。

名古屋は快晴。岐阜も快晴ですが、行く手に雲が。大垣は曇り、あっという間に地面が白くなり、関ヶ原では雪が舞っていました。北陸線沿いの山間部はかなりの積雪でした。金沢は曇り、道路脇には除雪された雪が。糸魚川の海はまさに冬の日本海。大火の後が片付いているようで、復興し始めたのでしょうか。長野は街が白かったですが、トンネルを抜けた上田は快晴。善光寺平と佐久平(上田を佐久平と言ってしまうのは、無理がありますが…)でこんなにも気候が違うものかと、改めて感心させられました。金沢や糸魚川の湿った風景が趣があっていいなどと言えるのは、私が冬晴れ地方の人間だからでしょう。

北陸よりももっと北国から、Sさんが来ました。吹雪になると大変だとか、寒くて起きられずに午前の授業は休みがちだとか、車を買ったとか、近況を伝えてくれました。どうやら北国の地に根付きつつあるようです。卒業する頃には今よりずっと骨太になっていることでしょう。

大掃除の最中に

12月28日(木)

2017年最後の営業日なので、校舎内外の大掃除をしました。私は外回りを担当しました。枯葉がたくさん舞い込んでいるのは先刻承知でしたが、砂ぼこりも結構たまっていました。また、植え込みの陰や隣の敷地とのすき間に空き缶やポリ袋が落ちていました。いや、見えないだろうと思って誰かが意図的に捨てたのでしょう。電車など乗り物のシートも全く同じで、クッションの隙間のような目立たないところに小さなごみが無理やり突っ込まれていることが多いのだそうです。でも、それは、掃除する人に手間をかけさせるに過ぎません。空き缶(正確には、そこに何か月分もの雨水がたまっていたので七分どおり入っていましたが)を取り出すのも大変だったんですよ。

そんなことをしていたら、京都の大学に進学したGさんがやって来ました。「やせた?」「はい。キャンパスが山の上なんで、よく歩くんですよ」。去年の今頃は受験の真っ最中で、運動不足もあったのでしょうか、まん丸でしたが、今はお腹が一回りか二回りへこんだような気がします。単位も順調に取っているようですから、脳で消費するエネルギーが増えた分だけやせたのかもしれません。

そうなんですよね、Gさんは、KCP史上おそらく最多の大学を受験し、おそらく最多の大学に合格しました。年末年始は面接練習やら何やかやで、毎日大騒ぎでした。期末テスト後も始業日眼も特訓でしたものね。あれから1年、早いものです。

そのあと、在校生のDさんが、大学出願にKCPの書類が必要だけど、1月6日必着だからどうしようと、青い顔をして飛び込んできました。来年の年末は、遠くに進学したDさんがひょっこり現れて、こんなことを思い出させてくれるのでしょうか。

よい新年を迎えたいものです。

まだ何も

12月27日(水)

今年はまだ、年賀はがきを買ってもいません。去年までは、発売開始早々に全国各地の地方版年賀はがきを買い求め、各地方独特のお正月風景の点描を楽しんでから、それぞれの人が気に入ってくれそうな絵柄を選んで、一筆したためたものです。ところが、今年は勢い込んで地方版セットを買いに行ったところ、なんと、今年から地方版が廃止になったと言われてしまい、がっくり肩を落として何も買わずに家へ帰り、そのまま元日まであと5日に至ったという次第です。日曜日にウチの近くのスーパーの店先で郵便局の人がサンタに扮して年賀はがきを売っていたのですが、なんとなく通り過ぎてしまったのもいけなかったかもしれません。明日どうにか年賀はがきを手に入れて、年末を過ごす名古屋のホテルの一室で書くことになるのかなあ…。

私が年賀状を出すみなさんは、10年以上も会っていない方々ばかりです。本当に必要最低限の人数にしか出しませんから、手書きでも十分間に合うのです。また、一人ひとりに図柄を選ぶ過程を通して、その方に思いを馳せる時間も確保していました。でも、あて先の住所はその年のお正月にもらった年賀状を見て書きますから、その年賀状を読みながら思い出すことにしましょう。

実は、来年の年賀状を早くも1枚もらっています。先日、写真が趣味というCさんが、来年の干支である戌と遠縁関係にあるレッサーパンダ(どちらも食肉目イヌ亜目に属する)の年賀状をくれました。大学院は写真とは全然関係ない専門に進むのですが、まさにプロはだしの写真です。私はこういう方面にはとんと疎いもので、とてもまねできません。写真の持つ勢いに素直に感心し、愛でるのみです。

修羅場を迎える

12月26日(火)

期末テストの成績が出揃うと、各学生の進級をどうするかを決めなければなりません。各科目の学期を通じた成績で合格点を取った学生は「進級」で問題ありません。しかし、1科目でも不合格点があると、こちらが頭を悩まさなければならなくなります。全科目不合格なら、胸を張って「もう一度同じレベル」と言えますから考えるまでもないのですが、中途半端に不合格の科目があると、情けをかけるべきかどうか多面的に考えていくことになります。

初級で文法の点が基準に達していないというのなら、情けをかけて進級させても次のレベルでつまずくだけで、情けが仇となるだけです。本人にとっては厳しい宣告でしょうが、「もう一度」が最善の指導です。学生はいろいろと抵抗を試みますが、教師はそれに負けてはいけません。鬼に徹しなければなりません。いかに学生自身に納得させるかが、教師としての責務だとも言えます。

10月期の上級となると、大学も大学院も入学試験たけなわで、それへの対応のために学校の勉強がおろそかになったと言い訳する学生が出てきます。確かにそういう事情もありますが、同じ状況にもかかわらずちゃんと合格点を取っている学生がいるのですから、教師としてすんなりと受け取れる言い訳ではありません。また、それだけ入試の勉強に力を注いで、それなりの結果を残してくれたら情状酌量の余地も出てきますが、そういう学生に限ってどうにもなっていないものです。

午前中、養成講座の修了式がありました。座学も教壇実習もこなして修了しているのですが、学期後の修羅場の実習なんていうのがあってもよかったかな。いや、こんな実習があったら、KCP日本語教師養成講座の最大のウリになるかも…。