Monthly Archives: 2月 2018

志望校

2月28日(水)

昨日から中間テストの結果を踏まえての面接を始めていますが、私が面接した学生の半分以上がK大学を志望校に挙げています。K大学は、伝統もあるし学部学科も充実しているしブランド力も強いし、誰もがあこがれる大学です。しかし、話を聞いた学生の過半数がK大学を受けるというのは多すぎます。

数年前までは、留学生の間では、W大学が圧倒的な人気を誇っていましたが、今のところ、W大学の名前を出したのはK大学の半分ほどです。しかもその全員が「K大学、W大学」と、K大学を先に挙げました。

W大学は留学生の受け入れに熱心です。留学生数は常にトップクラスです。しかし、それが裏目に出ているのかもしれません。去年は、W大学では希少価値が感じられず、K大学を志望したという学生もいました。今、K大学に入りたいと言っている学生たちが何を考えて志望するに至ったかはわかりません。単にブームに乗ってその名前を出しているだけだとしたら、間違いなく合格できません。

私は真にK大学で学問を究めようと思っている学生だけに出願してもらおうと思って、名前を出した学生全員に、オープンキャンパスでも何でもない日にK大学を見に行くように勧めました。飾り気のないK大学の姿と、そこで学ぶ学生たちのキャンパスライフを探ってくるのです。KCPの授業後にK大学に向かえば、学食で少し遅いお昼を食べながら、現役学生の声を聞いてくることもできるでしょう。

留学生は、6月のEJUから受験本番が始まります。そう考えると、憧ればかりでK大学の名前を出している暇などありません。次の学期が始まったら、戦闘モードですからね。

声に出して読む

2月27日(火)

今学期の火曜日の選択授業は、「声に出して読む日本語」という科目で、ニュースの原稿を読んだりエッセイを朗読したりしました。卒業生中心のクラスなので、今回が最終回で、期末テストをしました。学期の最初から読んできたエッセイの最後の部分を声に出して読んでもらいました。

採点するつもりできちんと聞いてみると、学生ごとの読み方の癖が浮かび上がってきました。それは同時に、留学生全体の日本語の発音やイントネーションの弱点でもあります。

一番多かったのが、清音を濁音に近い音で読むパターンです。例えば、「見て」が「見で」となってしまうのです。濁音というくらいですから、きれいには聞こえません。文全体のイントネーションがよくても、気持ちを込めてセリフを読んでも、濁音がみんな帳消しにしてしまいます。

それと同じぐらい目立ったのが、促音の脱落です。「そんなことがあったっけ」みたいに、促音が続くとうまく発音しきれない学生がかなりいました。テストを早く終わらせようと急いで読むと、「そんなことがあたけ」と聞こえてきてしまいます。超級の学生でも、促音のリズムを正確に刻むのは難しいようです。

これらに対して、長音はみんなわりときちんと音を伸ばしていました。毎回かなりしつこくしてきた甲斐が、いくらかはあったようです。もう1学期続けて授業ができるなら、促音の不正確な発音をしつこく指摘し、早口でも促音を落とすことなく読めるようにできたかもしれません。

でも、このクラスの学生たちはもうすぐ卒業です。ここから先は、進学先で日本語を使いながら鍛えてもらうことに期待をかけましょう。

勉強好き

2月26日(月)

受験講座から戻ってくると、YさんがT先生に叱られていました。どうやら、授業中にEJUの勉強をしていたようです。現在初級のYさんが6月のEJUで高得点を挙げるとなると、やはり相当な勉強が必要となります。塾にも通っているYさんは、きっと授業中に塾の教科書を開いていたのを先生に見咎められたのでしょう。

そういうふうに焦りたくなる気持ちはわかりますが、焦ってもいいことは1つもありません。まず、日本語の勉強がおろそかになります。今、Yさんたちのクラスが勉強していることは、初級と中級をつなぐ文法で、これがいい加減だと中級以上の文法だけにとどまらず、作文も書けないし、長文の読み取りもできないし、聴解で話の流れもつかめないしということで、日本語力が伸びなくなります。

日本語以外のEJUの各科目も、問題を理解するには日本語力です。よしんばそこは受験のテクニックを駆使しまくって切り抜けたとしても、面接の受け答えで苦労します。そこもある程度はテクニックでカバーできますが、進学してからはごまかしが利きません。大学に入るのが留学の目的ではなく、入ってから自分の人生に資する勉強をすることこそが目的のはずです。

そう考えると、たかだか3か月半ほどのスパンの勉強のために、日本で暮らしていく間はずっと必要になる日本語の基盤の勉強を怠ることが、いかに愚かなことか見えてくると思います。1日3時間ぐらい、必死に日本語を鍛えることすらできずに、どうして他の勉強の力が伸ばせましょう。日本語学校で日本語を勉強しないのなら、日本語学校に在籍する意味がありません。ビザのためだけに籍を置く学生は要りません。

日本語教師の文法

2月24日(土)

今学期は、土曜日は日本語教師養成講座の文法の講義をしています。3月までは初級文法のお話で、みんなの日本語初級版に出てくる文法を中心に解説しています。しかし、初級の範囲だけを抽出して教えていくというのは非効率的ですから、共通の土台に立つ中級上級の文法もいくらか触れていきます。

例えば、使役なら「先生は生徒を立たせました」みたいな典型的な用法はもちろん、「肉を腐らせてしまいました」みたいなちょっとひねった表現についても考えてもらいます。日本人はこの2つをわざわざ「使役」などと意識して使うことはありません。また、日本語学習者の母語ではこれらを同じ形で表現していないかもしれません。でも、日本語教師は2つの文では同じ文法項目が使われているけれども、その意味は違うことを明確に認識していなければなりません。

受身だと、「あべのハルカスが建てられました」と「あべのハルカスを建てられました」の違いなんていうことも取り上げます。この違いは、学習者に教えることはまずないでしょうが、受身の根本にかかわることですから、日本語教師を目指す方々には是非理解しておいてもらいたいです。授業を支える文法力を裏打ちする知識や発想もまた、日本語協視力の一端だと信じています。

一のことを教えるには十知っておかなければならないと、20年以上前の養成講座時代に教えられました。その後日本語教師を経験してきて、確かにその通りだと思いますから、私も自分の講座の受講生に対してその精神で向かっています。

演技力

2月23日(金)

講堂の照明が全て消え、次の瞬間、再び明かりが点るとステージ上にはAさんが。観客席からは完成と拍手が湧き起こりました。物語の背景をよく通る声で説明すると、いよいよ演劇部のミュージカル公演が始まりました。

私も、B先生とチョイ役で出演させてもらいました。そりゃあ、セリフ回しでは負けなかったけど、学生たちは体全体の演技で私たちの上を行っていました。また、主役のCさんとDさんは、腹の底から声を出して語り歌っていました。半年間の練習のたまものです。

実は、昨日の夜、演劇部の面々と直前練習をしました。台本はもらっていたのですが、ミュージカル全体を通してどうなっているのかは見当がついておらず、練習に参加して初めて全体像がつかめました。そのとき、セリフをこわごわ言っている私は、講堂中に響く声でのびのびと演じている学生たちに圧倒されっぱなしでした。

そして本番。舞台袖ではみんなが見ているから緊張していると言っていたくせに、EさんもFさんもステージでは落ち着き払っていました。その反対に、私はタイミングを逸してセリフを1つ落としてしまいました。そんなことお構いなしにステージを進めてくれた学生たちには、感謝と謝罪しかありません。

あっという間にエンディングが来ちゃったと思いきや、時計を見ると20分近くも経っていました。それだけ密度が高かったのでしょう。出演者全員の記念写真にも、ちゃっかり入ってしまいました。ステージ前に並ぶと、観客だった学生も何人もスマホをこちらに向けていました。

卒業式にも公演があります。今度は、セリフを落とさないようにしなきゃ…。

センサー

2月22日(木)

卒業認定試験が来週の月曜日にありますから、超級クラスでそれに向けた練習問題をしました。今学期勉強した文法項目に関する問題ですが、出来はあまりよくありませんでした。学生たちに実力がないからではなく、問題が難しかったからです。

どうすれば問題を難しくできるかというと、動詞の形を変える問題にすればいいのです。超級ですからて形とかた形とかは、さすがにめったに間違えません。弱点は受身、使役、使役受身です。さらに、「~て/おく/しまう/みる/もらう/くれる」などの補助動詞を使うパターンも、思ったとおりに引っかかってくれます。そんな文法は初級で勉強するじゃないかと思うかもしれませんが、

隣にビルを「建てて」からというもの、日が全く当たらなくなった。

なんていう答えになってしまうんですねえ。

初級文法が臨機応変に使えるようになるには、長い時間がかかります。卒業間近になっても、上述の文法を理想的に使ってくれる学生などめったにいません。特に、“暗記の日本語”に頼っている学生は、「読んでわかる」止まりで、話すときは“ガイジンの日本語”を使い続けることでしょう。

この壁を突破するには、日本人の日本語から栄養を摂取することが必要です。“なるほど、「~てしまう」ってこういうときに使うんだ”“ここで使役が出てくるなんてシブイなあ”とかって感じ取れるだけの触覚がどうしてもほしいところです。それには、まず手始めに、教師の日本語に耳を傾けることです。

今週末が国公立大学入試の最後の山場です。それが過ぎたら心にゆとりもできるでしょうから、こんなことにも是非挑戦してもらいたいです。

明るい町

2月21日(水)

今週になってから、御苑の駅から学校までの道が明るくなったような気がしていました。街灯がなんだかおしゃれになりました。毎朝職員室内をお掃除してくださる、地元にお住まいのHさんに事情をお聞きしたところ、新宿区と商店街と町内会がお金を出して街灯を新しくしたそうです。電球をLEDにしたので、明るさも増したとのことです。

最近引ったくりが増えており、それへの対策でもあるようです。防犯には町を明るくすることが何よりも肝心で、街灯を明るくした路地は犯罪がなくなったとHさん。「ここの前も明るくなると思いますよ。でも、まずは商店街ですよ。なんたってお金持ってるから」ということで、商店街だったのかな。

防犯効果もあるでしょうが、街灯が明るくなると、私のように人通りが少ない時間帯に歩くことが多い人間は、交通事故の心配も減ります。濃色のコートを着ていると、夜は闇に溶け込んで忍者状態になってしまいます。でも、今の商店街の明るさだと、運転する人たちに人影としてはっきり認知してもらえそうです。

また、視線も上を向きます。新しい街灯は支柱に商店街の名前が行灯で入り、それに目が引き付けられるので、首が持ち上がるのです。そうなると、姿勢も良くなります。疲れていても、元気が出てきます。

でも、これは夜道を歩くから気がつくのであって、朝、明るくなってから、夕方暗くなる前に商店街を歩く学生たちは、あんまり気付いていないんじゃないかな。いや、学生たちは夜道だってスマホを見ながらですから、どんなにこじゃれた街灯を設置しても、全く関心を示さないかもね。

自信を持つ

2月20日(火)

今週末に受験を控えるGさんが初めての面接練習に臨みました。「どうして本学で勉強しようと思ったのですか」「日本へ来た前、先輩に薦められました。生物工学科は日本初に設立しましたから、有名です」「はあ、そうですか。では、本学で何を勉強しようと思っていますか」「生物の基礎の勉強をして、大学院で分子生物学を勉強をして、将来は研究員になりたいです」「どうして分子生物学を勉強しようと思ったのですか」「ノーベル賞をもらったトウヨウヨウさんは植物からある物質を分離して薬にしました。それはすばらしいです」「そういう勉強なら薬学部のほうがいいんじゃないですか」「薬学部は薬を作りますが、私は物理を分子生物学に応用します」…

なんとなく話がかみ合わないまま、話が終わってしまいました。予想外の質問に出くわすと白目をむいてしまうので、心の動きが手に取るようにわかりました。最大級のダメ出しをして、受験日直前に再度練習することにしました。

Gさん自身も答えの内容には自信が持てなかったようでした。どんな考え方で答えをまとめたらいいか、どういう話の進め方をすればいいカなど、自分の答えを改善していこうと言う姿勢が見られました。一方、発音や話し方は完璧のつもりだったようです。しかし、どうひいき目に見ても、日本語教師ならわかるけれども、大学の先生はついていけないだろうなという話しっぷりでした。どうしてここまで自信が持てるのか、不思議でした。

はっきりいって、Gさんの答えや話し方には、半年前にはクリアしていなければならない課題が手付かずで残っていました。今まで何をしていたのかと説教したくなりました。あと数日で半年分の遅れを取り戻すのは絶望的ですが、これだけは押さえてほしいというポイントを伝えて、次回までの宿題としました。

要するに、自分の頭の中でシミュレーションすると面接がうまく進むのですが、生身の人間を相手に練習すると思ったとおりに答えられないのです。本番5日前でそれに気づいたGさんは、どのように軌道修正するのでしょう。

実力あり?

2月19日(月)

私が受け持っている卒業クラスの文法は、このクラスの学生にしたらどこかで勉強したことがあるものばかりです。言ってみれば、日本語学校での文法の総復習です。だから、選択問題はほぼ問題なくできます。しかし、取り上げた文法を用いて短文を書かせてみると、不自然な文章が出てきます。

ホワイトボードには学生が書いた例文が6つ。どこか変なところはないかとクラス全体に聞くと、何人かがそれぞれ指摘しました。でも、一番気づいてほしいところには気づいてくれませんでした。

小学生にしては、このテストで80点を取るのはすごいと思う。

――この例文はいかがでしょう。もちろん、言いたいことはわかります。でも、それを「~にしては」を用いて表すとしたら、この例文は直すところがないほど素晴らしいものでしょうか。

違和感を持っていた学生もいたと思います。しかし、じゃあ、どう直せばいいかと問われると、答えようがなかったのではないかと思います。

このテストで80点も取るなんて、小学生にしてはすごい。

――文の前後を入れ換えて、これぐらいまで直してほしかったのですが、無理だったようです。優秀なクラスだとは思いますが、誤文訂正は単語レベルまでのようです。

さて、来週の月曜日は卒業認定試験です。このクラスの学生たちにも卒業証書をもらってほしいですが、実力のない学生、勉強していないには卒業証書を与えたくはありません。それを見分けるのが卒業認定試験ですから、今週いっぱい、どうすれば卒業に値しない学生をふるい落とす問題が作れるか、授業時間意外は頭を悩ますことになります。

テストの教室で掃除

2月16日(金)

中間テストがありました。午前中は上級の卒業しない学生たちを集めたクラスの監督でした。来学期以降もKCPで勉強を続ける学生が主力ですから、いつもと違う顔ぶれに少し緊張気味でしたが、しっかり試験問題と取り組んでいました。

午後は諸般の都合で2クラスをまとめたクラスの監督でした。40名近い見慣れぬ学生を監督するとなると、こちらも緊張します。試験場として充てられた教室の時計は、教壇に立つ教師の真正面にあります。つまり、教壇を向いている学生から見ると背後になります。こういう教室の場合、学生は時間を確認する時後ろを振り向きます。これは試験監督をする教師にとっては実にいやなものです。カンニングをする学生などそういるものではありませんが、カンニングと同じ行為が堂々とできるのです。

腕時計をしてくればいいではないかと思うかもしれませんが、近頃の学生は腕時計を持っていません。スマホが時計の役割もしますから。テスト中はもちろんスマホ禁止ですから、教室の時計で時刻確認するしかないのです。

最後の科目は答案用紙を提出したら帰っていいことになっています。帰ることで頭がいっぱいになっている学生は一刻も早く提出しようと問題に取り組みます。そうすると、テスト用紙の裏側をやらずに提出する学生がよくいます。ですから、私は学生の答案を受け取るとき、名前と用紙の裏側を確認します。裏側が白紙だったら、すぐに用紙を突き返し、裏側の問題をさせます。この合同クラスにはそういう学生が3人いました。2人はすまなそうな顔をして裏側の問題を解き、数分後に再度提出しました。残りの1人は「大丈夫です」と言って、そのまま帰ってしまいました。君の成績は、全然大丈夫じゃないよね。

ところが、問題は早々に終わっているようなのですが、いっこうに提出しない学生が1人。答案を見直すわけでもありません。制限時間が来て答案を提出すると、その学生は机の上の消しゴムのかすを集め、机を几帳面にまっすぐに並べ直し、忘れ物のチェックまでしてくれました。「テストの日に日直をしてくれる学生は珍しいなあ」と言うと、「私は校舎のお掃除のアルバイトをしていますから」とその学生。なんとなく見慣れた顔だと思っていたら、毎晩見ていたんですね。ここまできれい好きだからこそ、お掃除のアルバイトが勤まるのです。頼もしいかぎりです。