Category Archives: 学校

次の段階

2月9日(水)

昨日面接をしたSさんが、指定校推薦の手続きをしに学校へ来ました。私はT大学に進学する意志の最終確認と、仮にも学校が推薦するのですから、それにふさわしい学生であり続けることなどをはじめとする、その他もろもろの注意事項の伝達をしました。Sさんは緊張気味に耳を傾けていました。

ここ何年か、指定校推薦で進学を決めた学生が、合格後にそれにふさわしくない行動に走る例が出ています。この制度は単なるすべり止めや他大学に落ちた場合の保険などではありません。また、ある特定の学生個人を利するために存在しているのでもありません。大学側が学生確保を図り、こちらがそれに乗っかっているわけでもありません。真に勉強する意志と能力のある学生を、その意志と能力を受け止めてくれる大学に送り込むための精度です。大学とKCPとの間の信頼関係に基づいて成り立っているのです。

この信頼関係にひびを入れるような振る舞いをしないようにと何本も釘を刺しておくというのが、指定校推薦における私の役どころです。指定校推薦の誓約書に書かれていることをすべて守ってくれたら、全教職員が心から応援したくなること疑いありません。いや、周囲の学生だって、“SさんにはT大学でいい勉強をしてほしい”と思うことでしょう。

指定校推薦の出願書類などを受け取り、作成方法の説明を受け、Sさんは帰って行きました。出願を済ませたら、今度はT大学での入試面接の練習も始めなければなりません。Sさんの思いがT大学の先生方に伝わるように、先生方の心をつかめるように、指導していきます。

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ひたひたと

2月3日(木)

学校に通っているお子さんをお持ちの先生方が、その学校が休校になったためお子さんの世話をしなければならず、KCPに出勤できなくなったという例が出てきました。その他、数日前に陽性判明者と一緒に食事したとか、濃厚接触者に濃厚接触したとか、家族が陽性になったけど自分はずっと陰性だとか、昨年の第5波までには見られなかったケースが出てきました。この第6波は新規感染数が桁違いに多く、今までのように安泰ではいられなくなったようです。

自宅からオンライン授業といっても、私のうちはそういう対応になっていません。そもそも、授業データが学校のコンピューターに格納されており、簡単にはアクセスできません。授業以外の仕事も、学生の個人情報や部外秘のデータなど、外に持ち出したくないものを扱うことが多いので、気安く在宅勤務というわけにはいきません。何より、私は家に仕事を持ち込みたくない人間ですからね。

今まで通り、人ごみは避ける、むやみにマスクを外さない、余計なものにさわらない、手洗い励行、体力温存など、予防を心がけるだけです。私の周りの先生方も、私とやり方は違いますが、各方面に注意を払って生活なさっている様子がうかがえます。みんな、変なものを拾わないように、必死なんですよね。

そんな中、明日から北京オリンピックです。去年の東京オリンピックも興味が持てませんでしたが、今回はそれに輪をかけて関心がありません。競技の中継でブラタモリがお休みになり、邪魔くさいなあと思う程度でしょうか。11月に始まるワールドカップは、心おきなく日本代表を応援できるといいですね。

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更新

1月21日(金)

日本語教師養成講座の講義資料を再構成しています。最初に資料を作ってから軽く10年以上経っていますし、その間にあれこれ継ぎ足してきましたから、かなり不細工になっています。目にしたり耳にしたりした日本語の用法をもとに調べたことを付け加えたり、専門書を読んで得た情報や知識から新しい文法のとらえ方を編み出してみたりということをしてきた結果、真に重要な事柄が埋もれがちになっています。そういう点を修正し、伝えるべきことがきちんと伝わるように教材を作り直しているのです。

文法をはじめ、いろいろな科目を担当していますから、科目間で内容が重複しているところや、有機的に連携した方がいいところも見えてきました。最近買い込んだ専門書も研究して、どこかに組み込みたいとも思っています。これらの事柄を整理整頓して、すっきりまとめたいところです。

日々、日本人は日本語を使っていますが、助詞の「に」の用法を10以上に細分して考えるなどということはしていません。そんな必要もありません。しかし、日本語教師は、日本語とは言語体系の違う言葉を操ってきた人たちに、日本語という新たなシステムを導入するのですから、日本人の気が付かない日本語の裏面まで知りつくしておかなければなりません。そのお手伝いをするのが、養成講座です。

半年ごとぐらいにこの講義資料を使って講義をしてきたのですが、作り直すつもりで講義資料を読み返してみると、今まで気づかなかった発見もあります。私もパワーアップしなきゃね。

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EJU実施要項

1月17日(月)

EJUの実施要項が届きました。今年は6月19日と11月13日です。これは予定通りと言えましょう。その他の日程も受験料なども特段の変更はありません。いつもと同じかと思ったら、同封の書面には「2022年度より、団体申し込みをした受験生の成績を、受験者本人だけでなく、団体担当者も見られるようにいたします」と書かれていました。

JLPTではだいぶ前からこれができました。学校で団体申し込みすると、出願した学生の成績がコンピューター上で見られますから、学校としてのデータもまとめやすいですし、個々の学生の指導にも持って行きやすいです。しかし、EJUはそうなっておらず、進学指導の資料として使おうにも、学生からいちいち成績を聞き出さなければなりません。以前は成績通知書が学校に送られてきましたから、それを渡す時に学生に成績を申告させることができました。しかし、最近は成績通知書が廃止になったので、学生の成績を知るのが難しくなりました。

それなのに、EJUの成績は、日本語学校の学生管理の一環として、入管への報告事項の1つとなっています。これではどうしようもないですから、学校側で学生のEJUの成績が把握できるようにしてほしいと要望し続けてきましたが、やっとそれが実現しました。

そういったうれしいニュースの数行下に、「悪質なカンニングに対し、本機構では引き続き厳正に対応してまいります」と書いてありました。こういうことを書かなければならないほど、EJUでカンニングが横行しているという噂は毎回ささやかれています。昨日までの共通テストでは、スマホを股に挟んでいた受験生が摘発されたそうです。しかし、11月のEJUでは、問題を塾に送って解いてもらってそれをマークしたなどの不正行為がスルー状態だったと学生が言っていました。

このままの半鎖国状態が続けば、EJUの受験生は昨年よりさらに減りそうです。その少ない受験生に公正な試験を実施し、努力した受験生が報われる試験にしてもらいたいです。

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チャイムがない日々

1月14日(金)

おととし、オンライン授業が始まって以来、校舎内のチャイムを止めています。学生がいなかったらチャイムは無意味だし、対面授業の時でも密を避けるためにレベルごとに授業時間をずらしていますから、全校が統一的に動くことがありません。それゆえ、学生が来ていてもチャイムは鳴らしません。

午前中、用事があって学校の中をうろちょろしていたら、外階段の踊り場でおしゃべりしている学生たちに会いました。時計を見ると、中級レベルの休憩時間に差し掛かっていました。私が通りかかると、わざわざおしゃべりを中断して「先生、こんにちは」とあいさつしてくれました。私も「こんにちは」とあいさつを返すと、その学生たちは安心したかのようにおしゃべりを再開しました。

校舎内に入ると、廊下のベンチで黙食している学生やエレベーターホールで立ち話している学生がちらほら程度。密回避にはなっているようでした。私が前を通ると、黙食の学生はぴょこんと頭を下げました。食べながらスマホに熱中している学生は、もちろんそのまま。立ち話の学生は「こんにちは」と言ってくれました。KCPの学生は義理堅いですね。担当の先生が教室に入ると、それにくっついて学生たちも教室に収まっていきました。

授業を担当している時は、チャイムが鳴らないのにすっかり慣れてしまいました。授業をしていない傍観者の立場だと、いつの間にか学生が湧きだしたり、潮が引くように消えていったり、その波が何回か押し寄せたりというのが、まだ不思議な感じがします。

新規感染者数が順調に力強く増えていますね。チャイムに合わせて全校一斉にという日が、ぐんぐん遠ざかっていくようです。

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雪国?

1月6日(木)

お昼ごろから降り始めた雪は、学校の前の道路を真っ白にしています。外に止めてある車は、ボンネットも窓も屋根もすっかり雪で覆われて、大きな雪玉と化しています。人通りも少なく、たまに歩いている人はおっかなびっくりという感じで足を進めています。

昨シーズンは雪がほとんど降らなかったと思いますから、積雪はかなり久しぶりのはずです。そうすると、交通機関の備えが心配になってきます。すでに道路は通行止めのところが出ているようです。帰宅時間帯の電車はどうなるのでしょう。遠距離通勤のT先生は、無事帰れるでしょうか。

学校の中では、ハイフレックス授業の勉強会が行われました。対面とオンラインと、両方の学生を満足させ、学習意欲を損なうことなく効果的に実力を伸ばしていくにはどうしたらいいのか、みんなで考えました。この両刀づかいは、もはやできて当然、教師の標準装備となっています。

その一方で、職員室には学生の姿も。学期休み中に学校へ来ている学生は、前の学期の成績が振るわなかったとみて間違いありません。進級できないという連絡を受けて、何とかしてもらいたくて足を運んだのでしょう。雪の中、ご苦労様なことですが、その決定が覆ることは、まずないでしょう。

明日の朝は、Sさんの面接練習をすることになっています。天気図を見ると、この雪を降らせている低気圧は今晩中に東の海上に抜けることになっていますが、路面が凍結すると、雪が降りしきる中以上に足元が危なくなります。南国出身のSさん、ちゃんと来られるでしょうか。

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この差は何?

12月22日(水)

今学期もどうにか期末テストの日を迎えました。私が試験監督をしたクラスには、今学期でKCPをやめる学生が2人いました。Sさんは帰国して進学し、Bさんは就職するとか。2人にとっては、1年余りのKCPでの生活の最後の日です。そして、締めくくり、総決算のテストのはずでした。

Sさんは朝一番の作文からお昼を少し回った聴解まで、問題用紙に線を引き、解答用紙や原稿用紙にカリカリとシャープペンシルを走らせていました。試験監督官としてそばを通る時も、私の影が机の上にかからないように気を使いたくなるほどでした。最後まで全力を振り絞っている様子が手に取るようにわかりました。

一方のBさんは、教室に存在するだけでした。解答用紙に名前を書くと、すぐに机に伏せてしまいました。寝心地が悪いらしく、すぐに起き上がっては体勢を立て直すのですが、ペンを手にする気配すらありませんでした。出席率を稼ぐために来たことは明らかでした。どういうところに就職するか知りませんが、こっそり写真を撮って社長さんに送ってあげたくなりました。

でも、Bさんは形の上だけでも期末テストを受けたのですから、まだ偉いです。別のクラスには、昨日行われた期末タスクをすっぽかすかのように退学届けを出した学生がいたと聞いています。期末タスクはグループワークですから、発表当日にメンバーがいなくなると、同じグループの他の学生は大きな迷惑を被ります。後は野となれ山となれと言わんばかりに敵前逃亡するなんて、たやすく許せることではありません。

そんな学生どもには、この先不幸あれと呪わずにはいられません。そして、Sさんには、学業成就を陰ながらお祈りしております。

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日本語力+感性

12月17日(金)

最上級のクラスに呼ばれました。学生たちがKCPのキャッチコピーを考え、その発表会が行われました。審査員というか、コメンテーターというか、要するに、授業担当ではない教師に講評してもらいたいということで、私が入ったというわけです。

キャッチコピーは、印象に残る短い言葉で対象物を端的に表現することが求められます。作り手には、単なる語彙力ではなく、感性も必要です。対象物を知っていればいいというわけではなく、ありきたりではない観点から見据える頭脳的機動力を発揮しなければなりません。今回の例で言えば、KCPで過ごした日々を振り返ってそれを一言にまとめるだけではなく、それをフレッシュな切り口でとらえ直さなければなりません。

どんな作品が出てくるかとワクワクしながら教室に入ると、程なく発表が始まりました。期待以上の作品が続きました。寸鉄人を刺すようなコピーが次々と出てきて、感心するやら驚くやら、パワーポイントを見ながらうなずくばかりでした。

学生たちは学校のことをよく観察してもいますし、それを効果的な言葉に落とし込むだけの力も持ち合わせていました。欲を言えば、プレゼンテーションをもう少し堂々とやってほしかったですね。マスクをしているせいか、消え入るような声の発表が多かったのが惜しかったなあ。

さて、私がこの学校のキャッチコピーを頼まれたら、どんなのを作ったでしょう。20年余りも同じところにいると、外の人に訴える価値のある物が、かえって見えなくなってしまいます。学生たちの発表をまぶしい思いで聞いていました。

そして、何より、今私が受け持っている中級クラスの学生との実力差を強く感じました。最上級クラスですから、中級クラスとなんか比較してはいけないのですが、私のクラスの学生が半年後にこの高みまで登れるだろうかと思ってしまいました。この学生たちが卒業していったら、誰がKCPの屋台骨を支えるのでしょう。作品が素晴らしかっただけに、危機感も深まりました。

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Doppler効果

11月8日(月)

理科系の大学の口頭試問では、大学で勉強する専門に関連した理科や数学の事柄が聞かれたり、優しい問題を解かせられたりします。もちろん、出題も日本語だし、回答も日本語です。

中級のCさんは、そんな入試がある大学を狙っています。受験講座の後で、その口頭試問の練習をしました。残念ながら、合格には程遠い回答内容でした。正確に言うと、専門知識はしかるべきレベルのものを持っています。しかし、それを日本語で表現できないのです。

“エチレン”という私の言葉に反応して、膝の上に置いた手の指を2本立てて何事か表そうとしています。しかし、Cさんの口から“二重結合”という、有機化学のごく基礎的な用語は発せられませんでした。“ドップラー効果”と聞いても全然わかりませんでした。「“ドップラー”は英語ですか」と聞いてきました。「はい」と答えると、「英語で言ってください」ときました。“Doppler”と英語の発音をすると、「ああ、わかりました」と腑に落ちた様子でした。でも、口頭試問では、日本語の“ドップラー”がわからないと、どうしようもありません。

Cさんは、日本へ来てからも、ずっと国の言葉で理科や数学を勉強してきました。EJUでは目標としていた点数が取れましたが、口頭試問の練習でこのざまですから、先は決して明るくありません。口頭試問がない大学に合格し進学したとしても、こんな程度の専門日本語力では、授業についていけないでしょう。少なくとも、1年生の最初の学期は大いに苦労するに違いありません。

だから、受験講座を受けてほしいのです。中級では、まだ、日本語で物理や化学や数学を勉強するのはかなりの負担です。しかし、それに耐える訓練をしておけば、口頭試問にも進学後の授業にも対応できるようになります。受験講座は、EJUの先を見越した勉強をしているのです。

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カッコつけない

10月26日(火)

私が火曜と金曜に受け持っているクラスに、今週から大学の日本語学科の実習生が2名入っています。授業を見てもらうのですが、果たして私の授業の進め方が役に立つのやら。

大学や養成講座の方に授業をお見せするのは今までに何回もあり、特別なことではありません。初めの頃は多少なりともお手本にある授業をしようなどと思ってもいましたが、今はそんなことは全く意識しません。反面教師も教師のうちと、開き直っています。

でも、見てもらいたい、気付いてほしいポイントはあります。“ここだよ”と心の中で叫びながら授業をすることもまれではありません。実習生の書いた実習ノートにこちらの伝えたかった思いが記されていると、思わずニンマリしてしまいます。それについて何も書かれていないと少し寂しくなりますが、だからと言ってその方の評価を落とすわけでもありません。教師だって十人十色です。私のカラーに近い人もいれば、対照的な人もいます。

さて、今回の実習生は大学生。若いうえに、理論を学んだばかりですから、教科書をいかに教え切るかが発想の中心ではないでしょうか。私のスタイルは、特に中級以上では、教科書をガイドブック代わりにそぞろ歩くように授業を進めていきます。授業が終わった時に帳尻が合っていればいいという発想です。実習ノートを見ると、戸惑っていた様子が感じられました。学生に文法の例文を読ませた後に、突然発音指導が始まっちゃうんだもんね。漢字の時間に「ワシントン条約って何?」とか聞いちゃうんだもんね。

実習は来週まで続きます。今度、このクラスに入るときは、この2名、どのくらい成長しているでしょうか。目の付け所を観察したいです。

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